説明

インホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置

【課題】軽量化と車輪用軸受装置の剛性を確保しつつ軸方向スペースを短縮することができるインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】ハブ輪13と軸受ケース14がアルミ合金からダイキャストによって形成されると共に、減速機3を構成する出力部材6が、外周にハブ輪13にセレーションを介して嵌挿される結合軸部35と、このインナー側に大径に形成された環状基部37と、これから径方向外方に突設されて軸方向に対向配置され、ピニオンギヤ32が収容される一対のフランジ38、39、およびこれら相互を軸方向に連結するブリッジ40からなる保持部54とを備え、出力部材6の保持部54の側面54aが内輪21の大端面21aに直接突き合わせ状態で当接され、結合軸部35の端部に螺着された固定ナット36によって出力部材6がハブ輪13にトルク伝達可能に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を回転自在に支承する車輪用軸受装置およびこの車輪用軸受装置と減速機とモータとを組み合わせた電気自動車におけるインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車は、環境負荷低減への対応として、従来のエンジンを用いた駆動形態のものからモータによる駆動形態のものへと移行が検討されている。このような状況の中で、電気自動車用の車輪用軸受装置として、車輪用軸受と減速機とモータとを組み合わせたインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置が注目されている。インホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置を電気自動車の駆動輪に用いると、各車輪を個別に回転駆動させることができるため、従来のプロペラシャフトやデファレンシャル等の大がかりな動力伝達機構が不要となり、車両の軽量・コンパクト化を図ることができる。
【0003】
このインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置の一例として、図9に示すようなものが知られている。このインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置は、車輪(図示せず)を回転自在に支持する車輪用軸受装置101と、回転駆動源としてのモータ102と、このモータ102の回転を減速してハブに伝達する減速機103とを、車輪の中心軸O上に配置されている。
【0004】
モータ102は、筒状のモータケーシング104に固定されたステータ105と出力軸106に取り付けられたロータ107との間にラジアルギャップを設けたラジアルギャップ型のモータで構成されている。出力軸106は、モータケーシング104に対して一対の深溝玉軸受からなる転がり軸受108、108で回転自在に支持されている。モータケーシング104のインナー側の開口部はキャップ109で閉塞されている。
【0005】
減速機103はサイクロイド減速機からなり、偏心軸110を備えた入力軸111と、減速機ケーシング112とモータケーシング104との間に差し渡された複数の外ピン113と、駆動軸(出力部材)114に取り付けられた複数の内ピン115と、各ピン113、115に円筒ころ軸受からなる転がり軸受116、117を介して回転自在に支持された2枚の曲線板118、119とを備えている。これら曲線板118、119は、外形がなだらかな波状のトロコイド曲線に形成され、偏心軸110に装着されている。外ピン113は、一対の針状ころ軸受からなる転がり軸受120、120によって回転自在に支持され、この外ピン113で各曲線板118、119の偏心運動が外周側で案内されている。
【0006】
入力軸111は、モータ102の出力軸106にスプライン111aを介して結合されて一体に回転駆動される。そして、モータ102の出力軸106が回転すると、これと一体回転する入力軸111に取り付けられた偏心軸110が回転し、この偏心軸110に係合する各曲線板118、119が偏心運動を行い、ロータ107の回転が駆動軸114の回転運動として、大きな減速比で、滑らかで効率良く伝達される。
【0007】
2枚の曲線板118、119は、互いに偏心運動が打ち消されるように180°位相をずらして入力軸111の偏心軸110に装着され、この偏心軸110の両側には、各曲線板118、119の偏心運動による振動を打ち消すように、偏心軸110の偏心方向と逆方向へ偏心させたカウンターウェイト121、121が装着されている。入力軸111は後述する駆動軸114に対して深溝玉軸受からなる転がり軸受122によって回転自在に支持されている。
【0008】
車輪用軸受装置101は、ハブ輪123と、このハブ輪123に圧入された内輪124とからなる内方部材125と、この内方部材125に複列のボール126、126を介して外挿された外方部材127とを備えている。
【0009】
ハブ輪123は、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジ128を一体に有し、外周に一方の内側転走面123aと、この内側転走面123aから軸方向に延びる小径段部123bが形成され、内周にトルク伝達用のセレーション123cが形成されている。内輪124は、外周に他方の内側転走面124aが形成され、ハブ輪123の小径段部123bに所定のシメシロを介して圧入されている。
【0010】
外方部材127は、外周に減速機ケーシング112に固定ボルト112aを介して取り付けられる車体取付フランジ127bを一体に有し、内周に内方部材125の内側転走面123a、124aに対向する複列の外側転走面127a、127aが一体に形成されている。これら両転走面127a、123aおよび127a、124a間には保持器129に等配保持された複列のボール126、126が転動自在に収容されている。
【0011】
減速機103を構成する駆動軸114は、内ピン115が装着されるフランジ部130と、このフランジ部130から軸方向に延びる円筒状の肩部131と、この肩部131から軸方向に延びる軸部132とが一体に形成されている。軸部132の外周にはハブ輪123のセレーション123cに噛合するセレーション132aと、この端部に雄ねじが形成され、肩部131が内輪124の端面に衝合するまで駆動軸114がハブ輪123に内嵌され、雄ねじに螺着された固定ナット133によって所定の締付トルクで緊締され、駆動軸114とハブ輪123がトルク伝達可能に軸方向に結合されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2011−117529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
こうした従来の構造では、車輪用軸受装置101の外方部材127と駆動軸114の肩部131との間に形成される環状空間にオイルシール134が装着され、減速機103内に封入されたギア油が軸受内部に漏洩しないように密封されている。然しながら、このオイルシール134を装着するため、軸方向に装着スペースが必要となる。このため、装置全体が大型化して重量が増加する。また、これを回避するため、車輪用軸受装置101をコンパクト化することも考えられるが、これでは、軸受剛性が減少してモーメント荷重が負荷された時、減速機103を構成する曲線板118、119の変位が大きくなり、曲線板118、119と外ピン113との接触状態が不良になる恐れがある。
【0014】
また、路面から車輪への荷重の負荷により、減速機103の駆動軸114を支持する車輪用軸受装置101が弾性変形するため、転がり軸受122は入力軸111および出力軸106の本来の軸心に対して変位するが、モータケーシング104は車輪からの荷重の影響を受け難く、2つの転がり軸受108、122の同軸度の悪化や傾きが生じる。このため、これらの転がり軸受108、122に偏荷重が作用し易く、転がり軸受108、122の耐久性の低下や騒音の発生となるだけでなく、入力軸111や出力軸106の回転精度が低下する等の問題があった。
【0015】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたもので、軽量化と車輪用軸受装置の剛性を確保しつつ軸方向スペースを短縮することができるインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、車輪を回転自在に支承する車輪用軸受装置と、前記車輪の中心軸に対して同軸上に配置されるモータと、このモータの出力によって駆動される入力軸を備えた減速機と、円筒部と、そのアウター側の端部にその中心部が開放された前端部を有し、前記減速機とモータが収容されるハウジングとを備え、このハウジングの前端部の開口部に軸受ケースが嵌合され、固定ボルトによって前記前端部に締結されると共に、前記入力軸が前記減速機の軸方向両側に一対の転がり軸受によって支持されたインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置であって、前記車輪用軸受装置が、一端部に前記車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪と、このハブ輪と前記軸受ケースに嵌合された車輪用軸受とからなり、この車輪用軸受が、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外輪と、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪と、これら内輪と前記外輪の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外輪と内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備えたインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置において、前記ハブ輪と軸受ケースがアルミ合金から形成されると共に、前記減速機を構成する出力部材が、外周に前記ハブ輪にセレーションを介して嵌挿される結合軸部と、この結合軸部のインナー側に大径に形成された環状基部と、この環状基部から径方向外方に突設されて減速ギヤを保持する保持部とを備え、この保持部の側面が前記内輪の大端面に直接突き合わせ状態で当接され、前記結合軸部の端部に螺着された固定ナットによって当該出力部材が前記ハブ輪にトルク伝達可能に固定されている。
【0017】
このように、車輪を回転自在に支承する車輪用軸受装置と、車輪の中心軸に対して同軸上に配置されるモータと、このモータの出力によって駆動される入力軸を備えた減速機と、円筒部と、そのアウター側の端部にその中心部が開放された前端部を有し、減速機とモータが収容されるハウジングとを備え、このハウジングの前端部の開口部に軸受ケースが嵌合され、固定ボルトによって前端部に締結されると共に、入力軸が減速機の軸方向両側に一対の転がり軸受によって支持されたインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置であって、車輪用軸受装置が、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪と、このハブ輪と軸受ケースに嵌合された車輪用軸受とからなり、この車輪用軸受が、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外輪と、外周に複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪と、これら内輪と外輪の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、外輪と内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備えたインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置において、ハブ輪と軸受ケースがアルミ合金から形成されると共に、減速機を構成する出力部材が、外周にハブ輪にセレーションを介して嵌挿される結合軸部と、この結合軸部のインナー側に大径に形成された環状基部と、この環状基部から径方向外方に突設されて減速ギヤを保持する保持部とを備え、この保持部の側面が内輪の大端面に直接突き合わせ状態で当接され、結合軸部の端部に螺着された固定ナットによって当該出力部材がハブ輪にトルク伝達可能に固定されているので、従来の装置に比べ、内輪の径を大きくして一段大径の位置で出力部材に突き当てることができ、軽量化と車輪用軸受装置の剛性を確保しつつ軸方向スペースを短縮することができるインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置を提供することができる。
【0018】
好ましくは、請求項2に記載の発明のように、前記ハブ輪と軸受ケースが熱処理によって硬化させる析出硬化処理が施されていれば、強度を高めてアルミ使用量を削減し、軽量化を達成することができる。
【0019】
また、請求項3に記載の発明のように、前記減速機が、前記入力軸の外周に設けられたサンギヤと、前記ハウジングに固定され、前記サンギヤと同軸状に配設されたリングギヤと、これらリングギヤと前記サンギヤの間に周方向に等間隔をおいて複数箇所に等配置され、前記保持部に回転自在に支持されたピニオンギヤとからなる遊星ギヤで構成され、前記保持部が、所定の間隔をおいて軸方向に対向配置され、前記ピニオンギヤが収容される一対のフランジと、これら一対のフランジの相互を軸方向に連結するブリッジからなると共に、前記一対のフランジにピニオンピンの両端部が固定され、このピニオンピンに対して前記ピニオンギヤが針状ころ軸受を介して回転自在に支持されていれば、出力部材の回転が円滑となり、入力軸およびこれに嵌合固定されたモータロータの回転精度が向上する。
【0020】
また、請求項4に記載の発明のように、前記保持部のインナー側の端面に、前記結合軸部と同軸状の軸孔が形成され、この軸孔が前記環状基部に達する深さを有すると共に、前記軸孔に前記入力軸が内挿され、一対の転がり軸受よって支持されていれば、入力軸が出力部材によって片持ち支持されるので、支持構造を簡素化することができると共に、車輪から出力部材に伝達された振動や衝撃は、両方の転がり軸受に同時に同様の態様で負荷されるため、どちらの転がり軸受にも偏荷重が作用するのを防止することができる。
【0021】
また、請求項5に記載の発明のように、前記減速機が前記モータの内径側に配設され、これら減速機と前記モータの収容部が前記ハウジングに設けた隔壁によって区画されると共に、この隔壁が前記ハウジングの前端部の内側に、前記開口部と同軸状に形成された隔壁基部と、この隔壁基部に固定されたカップ状の隔壁部材とで構成されていても良い。
【0022】
また、請求項6に記載の発明のように、前記隔壁基部と隔壁部材が前記ハウジングに一体形成されていれば、部品点数を削減して組立工程が簡易化でき、低コスト化を図ることができる。
【0023】
また、請求項7に記載の発明のように、前記出力部材の環状基部が前記ハブ輪の小径段部に弾性部材からなるシールリングを介して嵌挿されていれば、減速機内の潤滑油の外部への漏洩を防止でき、周辺環境を汚染されるのを防止することができる。
【0024】
また、請求項8に記載の発明のように、前記軸受ケースが前記ハウジングの前端部に弾性部材からなるシールリングを介して嵌挿されていれば、外部から雨水等の浸入を防止することができる。
【0025】
また、請求項9に記載の発明のように、前記内輪の大端面と出力部材および前記ハブ輪と固定ナットとの間の少なくとも一方に軽合金からなるワッシャが介装されていれば、アルミ合金製の軸受ケースが鋼製の外輪、内輪および出力部材よりも線膨張係数が大きいため、車両の走行中に温度が上昇した場合、軸受ケースの膨張量が大きくなって車輪用軸受の内部すきまが増加する恐れがあるが、軽合金製のワッシャによって内部すきまが増大するのを抑制することができる。
【0026】
また、請求項10に記載の発明のように、前記ハウジングの前端部と前記内輪との間に形成される環状空間の開口部にオイルシールが装着されていれば、車輪用軸受装置の外方部材と出力部材の肩部との間にオイルシールが装着されていた従来の装置と異なり、軸方向のスペースを一層短縮することができると共に、単一のシールによって軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、減速機側から潤滑油やコンタミ等が軸受内部に侵入するのを防止することができるので、シール摺接による回転トルクを低減することができる
【0027】
また、請求項11に記載の発明のように、前記複列の転動体のうち一方の転動体の直径が他方の転動体の直径よりも大径に設定されていれば、軸受剛性を増大させることができる。
【0028】
また、請求項12に記載の発明のように、前記他方の転動体の個数が一方の転動体の個数よりも多く設定されていれば、軸受剛性を増大させることができる。
【0029】
また、請求項13に記載の発明のように、前記ハブ輪の車輪取付フランジの周方向等配位置にボルト孔が形成され、このボルト孔に螺着されるホイールボルトによって前記車輪取付フランジに前記車輪が固定されていれば、ホイールボルトのねじ部に打ち傷等の不具合が発生した場合、市場にて容易に交換することが可能となるばかりでなく、従来のように、市場でのボルト交換のために、車輪取付フランジのインナー側のスペースを確保する必要がなくなり、補修性が向上すると共に、その分軸方向スペースを削減することができ、剛性を確保しつつ軽量・コンパクト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係るインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置は、車輪を回転自在に支承する車輪用軸受装置と、前記車輪の中心軸に対して同軸上に配置されるモータと、このモータの出力によって駆動される入力軸を備えた減速機と、円筒部と、そのアウター側の端部にその中心部が開放された前端部を有し、前記減速機とモータが収容されるハウジングとを備え、このハウジングの前端部の開口部に軸受ケースが嵌合され、固定ボルトによって前記前端部に締結されると共に、前記入力軸が前記減速機の軸方向両側に一対の転がり軸受によって支持されたインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置であって、前記車輪用軸受装置が、一端部に前記車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪と、このハブ輪と前記軸受ケースに嵌合された車輪用軸受とからなり、この車輪用軸受が、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外輪と、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪と、これら内輪と前記外輪の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外輪と内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備えたインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置において、前記ハブ輪と軸受ケースがアルミ合金から形成されると共に、前記減速機を構成する出力部材が、外周に前記ハブ輪にセレーションを介して嵌挿される結合軸部と、この結合軸部のインナー側に大径に形成された環状基部と、この環状基部から径方向外方に突設されて減速ギヤを保持する保持部とを備え、この保持部の側面が前記内輪の大端面に直接突き合わせ状態で当接され、前記結合軸部の端部に螺着された固定ナットによって当該出力部材が前記ハブ輪にトルク伝達可能に固定されているので、従来の装置に比べ、内輪の径を大きくして一段大径の位置で出力部材に突き当てることができ、軽量化と車輪用軸受装置の剛性を確保しつつ軸方向スペースを短縮することができるインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】(a)は、図1の車輪用軸受装置と減速機を示す要部拡大図、(b)は、(a)の一方のシール部を示す要部拡大図、(c)は、(a)の他方のシール部を示す要部拡大図である。
【図3】(a)は、図1のモータ部を示す要部拡大図、(b)は、(a)のシール部を示す要部拡大図である。
【図4】図2の車輪用軸受装置と出力部材を示す要部拡大図である。
【図5】図4の変形例を示す要部拡大図である。
【図6】図1の車輪用軸受装置の変形例を示す要部拡大図である。
【図7】図6の車輪用軸受装置の変形例を示す要部拡大図である。
【図8】図6の車輪用軸受装置の他の変形例を示す要部拡大図である。
【図9】従来のインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
車輪を回転自在に支承する車輪用軸受装置と、前記車輪の中心軸に対して同軸上に配置されるモータと、このモータの出力によって駆動される入力軸を備えた減速機と、円筒部と、そのアウター側の端部にその中心部が開放された前端部を有し、前記減速機とモータが収容されるハウジングとを備え、このハウジングの前端部の開口部に軸受ケースが嵌合され、固定ボルトによって前記前端部に締結されると共に、前記入力軸が前記減速機の軸方向両側に一対の転がり軸受によって支持されたインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置であって、前記車輪用軸受装置が、一端部に前記車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪と、このハブ輪と前記軸受ケースに嵌合された車輪用軸受とからなり、この車輪用軸受が、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外輪と、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪と、これら内輪と前記外輪の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外輪と内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備えたインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置において、前記ハブ輪と軸受ケースがアルミ合金からダイキャストによって形成されると共に、前記減速機が遊星ギヤで構成され、この減速機を構成する出力部材が、外周に前記ハブ輪にセレーションを介して嵌挿される結合軸部と、この結合軸部のインナー側に大径に形成された環状基部と、この環状基部から径方向外方に突設されて所定の間隔をおいて軸方向に対向配置され、前記ピニオンギヤが収容される一対のフランジ、およびこれら一対のフランジの相互を軸方向に連結するブリッジからなる保持部とを備え、前記出力部材の保持部の側面が前記内輪の大端面に直接突き合わせ状態で当接され、前記結合軸部の端部に螺着された固定ナットによって当該出力部材が前記ハブ輪にトルク伝達可能に固定されている。
【実施例1】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係るインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図、図2(a)は、図1の車輪用軸受装置と減速機を示す要部拡大図、(b)は、(a)の一方のシール部を示す要部拡大図、(c)は、(a)の他方のシール部を示す要部拡大図、図3(a)は、図1のモータ部を示す要部拡大図、(b)は、(a)のシール部を示す要部拡大図、図4は、図2の車輪用軸受装置と出力部材を示す要部拡大図、図5は、図4の変形例を示す要部拡大図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図1の左側)、中央寄り側をインナー側(図1の右側)という。
【0034】
このインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置は、車輪(図示せず)を回転自在に支持する車輪用軸受装置1と、回転駆動源としてのモータ2と、このモータ2の回転を減速して後述するハブ輪13に伝達する減速機3と、この減速機3とモータ2を収容するハウジング4を主要な構成要素とし、車輪の中心軸O上に配置されている。車輪用軸受装置1のハブ輪13は、減速機3の入力軸5と同軸の出力部材6によって回転される。
【0035】
ハウジング4は、A6063TEやADC12等のアルミ合金からなり、円筒部7と、そのアウター側の端部に前端部8を備え、中心部が開放されると共に、この開口部9に車輪用軸受装置1の軸受ケース14が嵌合され、車体取付フランジ14bが固定ボルト17によって前端部8に締結されている。
【0036】
ハウジング4の前端部8の内側に、開口部9と同軸状にこれより大径の隔壁基部8aが形成され、この隔壁基部8aにカップ状の隔壁部材10がボルト(図示せず)によって固定されている。隔壁部材10の中心部にはセンター孔11が形成され、このセンター孔11が後述するロータ支持部材45の外径面に環状空間を介して臨んでいる。隔壁基部8aと、この隔壁基部8aに連結された隔壁部材10によって隔壁12が構成されている。隔壁12は、ハウジング4の内部を外径側のモータ2の収容空間と、内径側の減速機3の収容空間を区画する機能を備えている。なお、隔壁基部8aと隔壁部材10がハウジングに一体に形成されていれば、部品点数を削減して組立工程が簡易化でき、低コスト化を図ることができる。
【0037】
車輪用軸受装置1は駆動輪用の第1世代と称され、図2(a)に拡大して示すように、ハブ輪13と軸受ケース(例えば、ナックルケース)14、およびこれらの間に嵌合された車輪用軸受15とを備えている。
【0038】
ハブ輪13は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ16を一体に有し、肩部13aを介して軸方向に延びる小径段部13bが形成され、内周にトルク伝達用のセレーション(またはスプライン)13cが形成されている。また、車輪取付フランジ16の周方向等配位置にはハブボルト16aが植設されている。
【0039】
ハブ輪13はA6061やADC12等のアルミ合金からダイキャストによって形成され、高温に加熱して固溶体を形成させる溶体化処理、それを水中で急速冷却する焼き入れ処理、続いて室温に保持あるいは低温(100〜200℃)に加熱して析出させる時効硬化処理(焼きもどし処理)で構成される熱処理によって、析出相に大きな格子ひずみを生じさせ硬化させる方法、所謂析出硬化処理が施されている。これにより、量産性が良くなり、低コスト化を図ることができる共に、強度を高めてアルミ使用量を削減し、軽量化を達成することができる。
【0040】
軸受ケース14はA6061やADC12等のアルミ合金からダイキャストによって形成され、外周にハウジング4の前端部8に固定ボルト17を介して取り付けられる車体取付フランジ14bと、アウター側の端部に鍔部14aを一体に有し、内周のインナー側の端部に環状溝14cが形成されている。そして、後述する車輪用軸受15の外輪19が鍔部14aに衝合するまで内嵌されると共に、環状溝14cに装着される止め輪18によって軸方向に位置決め固定されている。この軸受ケース14は、ハブ輪13と同様、A6061やADC12等のアルミ合金からダイキャストによって形成され、析出硬化処理が施されている。
【0041】
車輪用軸受15は、内周に複列の外側転走面19a、19aが一体に形成された外輪19と、外周に複列の外側転走面19a、19aに対向する内側転走面20a、20aが形成された一対の内輪20、21と、これら両転走面19a、20a間に保持器22に転動自在に収容された複列の転動体(ボール)23、23とを備えている。外輪19、内輪20、21および転動体23はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0042】
また、外輪19とアウター側の内輪20との間、およびハウジング4の前端部8とインナー側の内輪21との間にそれぞれ形成される環状空間の開口部にシール24、25が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、減速機3側から潤滑油やコンタミ等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0043】
アウター側のシール24は、図2(b)に拡大して示すように、外輪19に内嵌された芯金26と、この芯金26に接合されたシール部材27とからなる一体型のシールで構成されている。芯金26は、オーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系)や冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系)等、鋼板からプレス加工にて形成され、外輪19のアウター側の端部内周に所定のシメシロを介して圧入されている。
【0044】
一方、シール部材27はNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなり、加硫接着によって芯金26に一体に接合されている。このシール部材27は、二股状に形成され、内輪20の外径面に所定の径方向シメシロを介して摺接される主リップ27aとグリースリップ27bを一体に有している。
【0045】
なお、シール部材23の材質としては、NBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0046】
インナー側のシール25は、図2(c)に拡大して示すように、ハウジング4の前端部8に内嵌された芯金28と、この芯金28に接合されたシール部材29とからなる一体型のシールで構成されている。芯金28は、オーステナイト系ステンレス鋼板や冷間圧延鋼板等、鋼板からプレス加工にて形成され、前端部8の内周に所定のシメシロを介して圧入されている。
【0047】
一方、シール部材29はACM等の合成ゴムからなり、加硫接着によって芯金28に一体に接合されている。このシール部材29は、内輪21の外径面に摺接される主リップ29aと、軸受内方側(アウター側)に傾斜して延びるグリースリップ29bを一体に有し、主リップ29aには、所定のリップ緊迫力を確保するためにガータースプリング29cが外嵌されている。ここでは、シール部材29に耐熱性、耐薬品性に優れたACM等の合成ゴムが使用されているので、潤滑油との相性が良く、長期間に亘ってオイル漏れを防止することができる。シール部材29の材質としては、ACM以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR、EPDM等をはじめ、FKM、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0048】
なお、ここでは、転動体23にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受で構成された車輪用軸受15を例示したが、これに限らず、円錐ころを使用した複列円錐ころ軸受で構成されたものであっても良い。
【0049】
減速機3は遊星ギヤ形式のものであり、図2(a)に示すように、入力軸5と出力部材6、入力軸5の外径面に一体に形成されたサンギヤ30、このサンギヤ30の外周において、隔壁基部8aと隔壁部材10との境界部分の内径面に沿って配置され、ノックピン31aを介して固定されたリングギヤ31、これらリングギヤ31とサンギヤ30の間に周方向に等間隔をおいて3箇所に配置されたピニオンギヤ32とによって構成されている。ピニオンギヤ32は、針状ころ軸受33を介してピニオンピン34によって支持されている。
【0050】
出力部材6は、アウター側の端部に結合軸部35を一体に備えている。この結合軸部35は、外周にハブ輪13のセレーション13cに係合されるセレーション(またはスプライン)35aと、このセレーション35aの端部に雄ねじ35bが形成され、固定ナット36によって締結されている。
【0051】
結合軸部35のインナー側に、これより一段大径に形成された環状基部37が形成され、この環状基部37から径方向外方に一対のフランジ38、39が突設されている。これら一対のフランジ38、39は、ピニオンギヤ32の幅寸法よりも僅かに大きい間隔をおいて軸方向に対向配置され、一対のフランジ38、39の相互を軸方向に連結するためのブリッジ40が周方向等配位置の3箇所に設けられている。これら一対のフランジ38、39は遊星ギヤ形式の減速機3におけるキャリヤの機能を備えている。
【0052】
ブリッジ40を周方向等配位置に設けることにより、出力部材6の回転は円滑に行われ、ひいては、出力部材6、入力軸5を通じて後述するモータ2のロータ46の回転精度を向上させることができる。
【0053】
一対のフランジ38、39のうちインナー側のフランジ39の端面には、結合軸部35と同軸状の軸孔41が形成されている。この軸孔41は環状基部37に達する深さを有している。そして、この軸孔41に入力軸5が内挿され、深溝玉軸受からなる一対の転がり軸受42、42によって支持されている。
【0054】
一対のフランジ38、39と、周方向3箇所のブリッジ40によって、周方向に区画されたピニオンギヤ収容部が設けられ、これら収容部にピニオンギヤ32が収容されると共に、ピニオンピン34を介して一対のフランジ38、39に一体結合されている。ピニオンピン34の端部には、径方向に貫通する係止孔34aが形成され、インナー側のフランジ39に形成されたねじ孔39aに螺着される止めねじ(図示せず)によって固定されている。
【0055】
各ピニオンギヤ32の両側面と一対のフランジ38、39との間に、ピニオンギヤ32の円滑な回転を確保するためにスラスト板43、43が介装されている。また、一対のフランジ38、39の内径面と、それぞれの内径面に対向する入力軸5の外径面との間に形成される環状空間には一対の転がり軸受42、42が装着され、出力部材6によって支持されている。このように、入力軸5が出力部材6によって片持ち支持されているので、支持構造を簡素化することができると共に、車輪から出力部材6に伝達された振動や衝撃は、両方の転がり軸受42、42に同時に同様の態様で負荷されるため、どちらの転がり軸受42、42にも偏荷重が作用するのを防止することができ、回転精度、耐久性の向上を図ることができる。また、回転音の騒音発生も抑制することができる。
【0056】
モータ2は、図3(a)に示すように、ハウジング4の円筒部7に固定されたステータ44と、ロータ支持部材45によって取り付けられたロータ46との間にラジアルギャップを設けたラジアルギャップ型のブラシレスDCモータで構成されている。
【0057】
ロータ支持部材45は、ロータ44の内径部に嵌合された円筒支持部45aと、この円筒支持部45aから隔壁12に沿って径方向内方に延びる円板部45bと、この円板部45bの内端部に形成された円筒固定部45cを備えている。ロータ支持部材45は、円筒固定部45cに係止されたキー45dを介して入力軸5に固定されている。
【0058】
隔壁部材10のセンター孔11とロータ支持部材45の円筒固定部45cとの間に形成される環状空間にはオイルシール47が装着されている。このオイルシール47は、図3(b)に拡大して示すように、芯金48と、この芯金48に接合されたシール部材49とからなる一体型のオイルシールで構成されている。芯金48は、オーステナイト系ステンレス鋼板や冷間圧延鋼板等、鋼板からプレス加工にて形成されている。
【0059】
一方、シール部材49はACM等の合成ゴムからなり、加硫接着によって芯金48に一体に接合されている。このシール部材49は、円筒固定部45cの外径面に摺接される主リップ49aと、インナー側に傾斜して延びる副リップ49bを一体に有し、主リップ49aには、所定のリップ緊迫力を確保するためにガータースプリング49cが外嵌されている。このオイルシール47によって、減速機3側の潤滑油がモータ2側に移動することが防止され、モータ2側はドライ状態に保持されるので、潤滑油がロータ46の回転の妨げとなることが回避される。なお、シール部材49の材質としては、ACM以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR、EPDM等をはじめ、FKM、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0060】
モータ2および減速機3は、図3(a)に示すように、入力軸5の後端部(インナー側の端部)を除き、ハウジング4の円筒部7の軸方向長さの範囲内に収まるので、その円筒部7の後端部にOリング等からなるシールリング50を介して装着されるカバー51によって閉塞されている。このシールリング50はACM等の合成ゴムからなる。
【0061】
カバー51の中心部には回転センサー52が配設されている。この回転センサー52はレゾルバであり、そのセンサーステータ52aがカバー51に固定され、センサーロータ52bが入力軸5に取り付けられている。
【0062】
このセンサーステータ52aのリード線(図示せず)が、外部に設けられたコネクタ差込部(図示せず)に接続される。回転センサー52としては、レゾルバの他に、ホール素子等を用いることができる。この回転センサー52によって検出された入力軸5の回転角度は、図示しない信号線ケーブルを経て制御回路に入力され、モータ2の回転制御に用いられる。
【0063】
ここで、本実施形態では、図2(a)に示すように、出力部材6は、アウター側の端部に形成された結合軸部35と、この結合軸部35のインナー側に大径に形成された環状基部37と、この環状基部37から径方向外方に突設された一対のフランジ38、39を備え、図4に拡大して示すように、出力部材6の環状基部37がACM等の合成ゴムからなるシールリング53を介してハブ輪13の小径段部13bに嵌挿されている。そして、一対のフランジ38、39と、これら一対のフランジ38、39の相互を軸方向に連結するブリッジ40からなる保持部54の側面54aがインナー側の内輪21の大端面21aに直接突き合わせ状態で当接されている。詳細には、車輪用軸受15のインナー側の大端面21aが、ピニオンピン34が挿入される孔と重合するように、保持部54の側面54aに突き当てられている。これにより、従来の装置に比べ、インナー側の内輪21の径を大きくして一段大径の位置で出力部材6に突き当てることができ、車輪用軸受装置1の剛性を確保しつつ軸方向スペースを短縮することができると共に、入力軸5の回転精度およびこの入力軸5を支持する軸受の耐久性の向上を図ったインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置を提供することができる。
【0064】
なお、ピニオンギヤ32を支持するピニオンピン34がフランジ38の端面から突出しないように嵌挿されている。これにより、内輪21と大端面21aと保持部54の側面54aとの当接を妨げることがなく、適正な突き合わせ状態を維持することができる。
【0065】
また、車輪用軸受装置の外方部材と駆動軸(出力部材)の肩部との間にオイルシールが装着されていた従来の装置と異なり、シール25が内輪21の外径で摺動しているため、軸方向のスペースを一層短縮することができると共に、単一のシール25によって軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、減速機3側から潤滑油やコンタミ等が軸受内部に侵入するのを防止することができるので、シール摺接による回転トルクを低減することができる。
【0066】
さらに、出力部材6の環状基部37がシールリング53を介してハブ輪13の小径段部13bに嵌挿されていると共に、軸受ケース14がシールリング55を介してハウジング4の前端部8に嵌挿されているので、外部から雨水等の浸入を防止すると共に、減速機3内の潤滑油の外部への漏洩を防止でき、周辺環境を汚染されるのを防止することができる。これらのシールリング53、55はACM等の合成ゴムからなるOリング等で構成されている。
【0067】
なお、図5に示すように、出力部材6の環状基部37の角部とハブ輪13の小径段部13bの端部との間にシールリング53を介装しても良い。これにより、環状基部37の外周面にシールリング53を装着するための環状溝の加工を省略することができ、加工工程の簡略化と共に、組立を簡便化することができ、低コスト化を図ることができる。
【0068】
本発明に係るインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置は以上のように構成され、次に、図1を用いて、その作用について説明する。
【0069】
運転席のアクセルが作動されることによってモータ2が駆動されると、そのロータ46の回転と一体に入力軸5が回転され、減速機3にモータ出力が入力される。減速機3は、サンギヤ30が入力軸5と一体に回転すると、ピニオンギヤ32が自転しつつ公転する。この公転速度でピニオンギヤ32が減速回転することにより、出力部材6を所定の減速比からなる減速出力で回転させる。すると、出力部材6の結合軸部35と一体に車輪用軸受装置1のハブ輪13が回転され、このハブ輪13の車輪取付フランジ16に取り付けられた車輪が駆動される。
【0070】
入力軸5は、ピニオンギヤ32の両側において、それぞれ一対の転がり軸受42、42によって支持されて回転する。これらの転がり軸受42、42は、いずれも出力部材6と一体のフランジ38、39に取り付けられているので、前述したように、車輪から車輪用軸受装置1を経て出力部材6に伝達されるラジアル方向の振動や衝撃は、両方の転がり軸受42、42に同時に同様の態様で負荷され、いずれの転がり軸受42、42も偏荷重が作用するのを回避できる。
【0071】
また、ピニオンギヤ32のピニオンピン34は、その両端部が一対のフランジ38、39によって支持されているので、支持剛性が高くなり、ピニオンギヤ32とリングギヤ31およびサンギヤ30との良好な噛合を得ることができ、耐久性を向上させることができる。
【0072】
図6は、前述した車輪用軸受装置(図1)の変形例である。なお、この実施形態は、前述した実施形態と基本的には車輪用軸受装置の構成が一部異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0073】
本実施形態では、車輪用軸受装置1を構成するハブ輪13に出力部材6がセレーション35aを介して嵌挿されている。ここで、出力部材6の保持部54はワッシャ56を介してインナー側の内輪21の大端面21aに当接されている。そして、出力部材6の結合軸部35のねじ部35bに固定ナット36がワッシャ57を介して所定のトルクで螺着されている。
【0074】
ワッシャ56、57はアルミ合金等の軽合金で形成されている。アルミ合金製の軸受ケース14が鋼製の外輪19、内輪20、21および出力部材6よりも線膨張係数が大きいため、車両の走行中に温度が上昇した場合、軸受ケース14の膨張量が大きくなって車輪用軸受15の内部すきま(軸方向すきま)が増加する恐れがあるが、これらのワッシャ56、57によって内部すきまが増大するのを抑制することができる。
【0075】
図7に、図6の車輪用軸受装置1の変形例を示す。なお、この実施形態は、前述した実施形態と基本的には車輪用軸受の左右の転動体の仕様が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0076】
車輪用軸受装置58は駆動輪用の第1世代と称され、ハブ輪13と軸受ケース14、およびこれらの間に嵌合された車輪用軸受59とを備えている。この車輪用軸受59は、内周に複列の外側転走面60a、19aが一体に形成された外輪60と、外周に複列の外側転走面60a、19aに対向する内側転走面61a、20aが形成された一対の内輪61、21と、これら両転走面60a、61aおよび19a、20a間に保持器22a、22に転動自在に収容された複列の転動体23a、23とを備えている。外輪60、内輪61、21および転動体23a、23はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0077】
また、外輪60とアウター側の内輪61との間、およびハウジング4の前端部8とインナー側の内輪21との間にそれぞれ形成される環状空間の開口部にシール24、25が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、減速機3側から潤滑油やコンタミ等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0078】
ここで、本実施形態では、複列の転動体23a、23のピッチ円直径は同じであるが、アウター側の転動体23aの直径doがインナー側の転動体23の直径diよりも大径に設定(do>di)されると共に、インナー側の転動体23の個数Ziがアウター側の転動体23aの個数Zoよりも多く設定(Zi>Zo)されている。
【0079】
こうした構成の車輪用軸受装置58では、複列の転動体23a、23のピッチ円直径は同じであるが、アウター側の転動体23aの直径doがインナー側の転動体23の直径diよりも大径に設定されると共に、インナー側の転動体23の個数Ziがアウター側の転動体23aの個数Zoよりも多く設定されているので、有効に軸受スペースを活用してアウター側の軸受列の寿命が向上すると共に、アウター側に比べインナー側部分の軸受剛性を増大させることができる。
【0080】
図8は、図6の車輪用軸受装置1の他の変形例である。車輪用軸受装置62は駆動輪用の第1世代と称され、ハブ輪63と軸受ケース14、およびこれらの間に嵌合された車輪用軸受15とを備えている。ハブ輪63は、アウター側の端部に車輪取付フランジ16を一体に有し、肩部13aを介して軸方向に延びる小径段部13bが形成され、内周にトルク伝達用のセレーション13cが形成されている。このハブ輪63はA6061やADC12等のアルミ合金からダイキャストによって形成され、析出硬化処理が施されている。
【0081】
ここで、本実施形態では、車輪取付フランジ16の周方向等配位置にホイールボルト64が締結されるボルト孔64aが形成されている。そして、ハブ輪63の車輪取付フランジ16にブレーキロータ65およびホイール66を装着した後にホイールボルト64によって固定されている。これにより、ホイールボルト64のねじ部に打ち傷等の不具合が発生した場合、市場にて容易に交換することが可能となるばかりでなく、従来のように、市場でのボルト交換のために、車輪取付フランジ16のインナー側のスペースを確保する必要がなくなり、補修性が向上すると共に、その分軸方向スペースを削減することができ、剛性を確保しつつ軽量・コンパクト化を図ることができる。
【0082】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。本実施の形態においては、軸受ケースとしてナックルの例を示したが、これに限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明に係るインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置は、車輪用軸受装置と減速機とモータとが組み合わされ、車輪用軸受装置が、ハブ輪と軸受ケース間に嵌合された車輪用軸受を備えた第1世代構造に適用できる。
【符号の説明】
【0084】
1、58、62 車輪用軸受装置
2 モータ
3 減速機
4 ハウジング
5 入力軸
6 出力部材
7 円筒部
8 ハウジングの前端部
8a 隔壁基部
9 ハウジングの開口部
10 隔壁部材
11 隔壁部材のセンター孔
12 隔壁
13、63 ハブ輪
13a 肩部
13b 小径段部
13c、35a セレーション
14 軸受ケース
14a 鍔部
14b 車体取付フランジ
14c 環状溝
15、59 車輪用軸受
16 車輪取付フランジ
16a ハブボルト
17 固定ボルト
18 止め輪
19、60 外輪
19a、60a 外側転走面
20、21、61 内輪
20a、61a 内側転走面
21a 大端面
22、22a 保持器
23、23a 転動体
24 アウター側のシール
25 インナー側のシール
26、28、48 芯金
27、29、49 シール部材
27a、29a、49a 主リップ
27b、29b グリースリップ
29c、49c ガータースプリング
30 サンギヤ
31 リングギヤ
31a ノックピン
32 ピニオンギヤ
33 針状ころ軸受
34 ピニオンピン
34a 係止孔
35 結合軸部
35b 雄ねじ
36 固定ナット
37 環状基部
38、39 フランジ
39a ねじ孔
40 ブリッジ
41 軸孔
42 転がり軸受
43 スラスト板
44 ステータ
45 ロータ支持部材
45a 円筒支持部
45b 円板部
45c 円筒固定部
45d キー
46 ロータ
47 オイルシール
49b 副リップ
50、53、55 シールリング
51 カバー
52 回転センサー
52a センサーステータ
52b センサーロータ
54 保持部
54a 保持部の側面
56、57 ワッシャ
64 ホイールボルト
64a ボルト孔
65 ブレーキロータ
66 ホイール
101 車輪用軸受装置
102 モータ
103 減速機
104 モータケーシング
105 ステータ
106 出力軸
107 ロータ
108 転がり軸受
109 キャップ
110 偏心軸
111 入力軸
111a スプライン
112 減速機ケーシング
112a 固定ボルト
113 外ピン
114 駆動軸
115 内ピン
116、117、120、122 転がり軸受
118、119 曲線板
121 カウンターウェイト
123 ハブ輪
123a、124a 内側転走面
123b 小径段部
123c、132a セレーション
124 内輪
125 内方部材
126 ボール
127 外方部材
127a 外側転走面
127b 車体取付フランジ
128 車輪取付フランジ
129 保持器
130 フランジ部
131 肩部
132 軸部
133 固定ナット
134 オイルシール
di インナー側の転動体の直径
do アウター側の転動体の直径
O 駆動輪の中心軸
Zi インナー側の転動体の個数
Zo アウター側の転動体の個数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を回転自在に支承する車輪用軸受装置と、
前記車輪の中心軸に対して同軸上に配置されるモータと、
このモータの出力によって駆動される入力軸を備えた減速機と、
円筒部と、そのアウター側の端部にその中心部が開放された前端部を有し、前記減速機とモータが収容されるハウジングとを備え、
このハウジングの前端部の開口部に軸受ケースが嵌合され、固定ボルトによって前記前端部に締結されると共に、
前記入力軸が前記減速機の軸方向両側に一対の転がり軸受によって支持されたインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置であって、
前記車輪用軸受装置が、一端部に前記車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪と、このハブ輪と前記軸受ケースに嵌合された車輪用軸受とからなり、
この車輪用軸受が、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外輪と、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪と、これら内輪と前記外輪の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外輪と内輪との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールとを備えたインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置において、
前記ハブ輪と軸受ケースがアルミ合金から形成されると共に、前記減速機を構成する出力部材が、外周に前記ハブ輪にセレーションを介して嵌挿される結合軸部と、この結合軸部のインナー側に大径に形成された環状基部と、この環状基部から径方向外方に突設されて減速ギヤを保持する保持部とを備え、この保持部の側面が前記内輪の大端面に直接突き合わせ状態で当接され、前記結合軸部の端部に螺着された固定ナットによって当該出力部材が前記ハブ輪にトルク伝達可能に固定されていることを特徴とするインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記ハブ輪と軸受ケースが熱処理によって硬化させる析出硬化処理が施されている請求項1に記載のインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記減速機が、前記入力軸の外周に設けられたサンギヤと、前記ハウジングに固定され、前記サンギヤと同軸状に配設されたリングギヤと、これらリングギヤと前記サンギヤの間に周方向に等間隔をおいて複数箇所に等配置され、前記保持部に回転自在に支持されたピニオンギヤとからなる遊星ギヤで構成され、前記保持部が、所定の間隔をおいて軸方向に対向配置され、前記ピニオンギヤが収容される一対のフランジと、これら一対のフランジの相互を軸方向に連結するブリッジからなると共に、前記一対のフランジにピニオンピンの両端部が固定され、このピニオンピンに対して前記ピニオンギヤが針状ころ軸受を介して回転自在に支持されている請求項1に記載のインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記保持部のインナー側の端面に、前記結合軸部と同軸状の軸孔が形成され、この軸孔が前記環状基部に達する深さを有すると共に、前記軸孔に前記入力軸が内挿され、一対の転がり軸受よって支持されている請求項1または3に記載のインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記減速機が前記モータの内径側に配設され、これら減速機と前記モータの収容部が前記ハウジングに設けた隔壁によって区画されると共に、この隔壁が前記ハウジングの前端部の内側に、前記開口部と同軸状に形成された隔壁基部と、この隔壁基部に固定されたカップ状の隔壁部材とで構成されている請求項1に記載されたインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記隔壁基部と隔壁部材が前記ハウジングに一体形成されている請求項5に記載のインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記出力部材の環状基部が前記ハブ輪の小径段部に弾性部材からなるシールリングを介して嵌挿されている請求項1に記載のインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置。
【請求項8】
前記軸受ケースが前記ハウジングの前端部に弾性部材からなるシールリングを介して嵌挿されている請求項1に記載のインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置。
【請求項9】
前記内輪の大端面と出力部材および前記ハブ輪と固定ナットとの間の少なくとも一方に軽合金からなるワッシャが介装されている請求項1に記載のインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置。
【請求項10】
前記ハウジングの前端部と前記内輪との間に形成される環状空間の開口部にオイルシールが装着されている請求項1に記載されたインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置。
【請求項11】
前記複列の転動体のうち一方の転動体の直径が他方の転動体の直径よりも大径に設定されている請求項1に記載のインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置。
【請求項12】
前記他方の転動体の個数が一方の転動体の個数よりも多く設定されている請求項11に記載のインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置。
【請求項13】
前記ハブ輪の車輪取付フランジの周方向等配位置にボルト孔が形成され、このボルト孔に螺着されるホイールボルトによって前記車輪取付フランジに前記車輪が固定されている請求項1に記載されたインホイール型モータ内蔵車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−71599(P2013−71599A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212161(P2011−212161)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】