説明

ウィンドファーム制御システム、ウィンドファーム制御装置および制御方法

【課題】 ウィンドファームから電力系統へ出力される電力の変動を抑制し、一定の出力を維持することのできる技術を提供する。
【解決手段】 ウィンドファーム制御システム1は、回転数が可変な複数の風力発電装置11、12、13と、前記風力発電装置に併設され、風向および風力を観測する気象計21、22、23と、風力発電装置の回転数を制御する個別制御装置31、32、33と、を備えるウィンドファーム100と、前記ウィンドファームの出力が、所定の期間、一定に維持される制御レベルを算出して、前記各風力発電装置の回転数を制御レベルに合わせて制御するよう各個別制御装置に指示する集中制御装置40と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィンドファーム制御システム、ウィンドファーム制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策の一つとして、風力発電の導入が盛んである。風力発電の導入にあたっては、費用対効果の観点から、一定の地域に複数台の風力発電装置を設置して一括管理するウィンドファームとしての運用が多くなってきている。
【0003】
ところで、電気は貯蔵できないため、生産量と消費量が常に同じであることが必要である。このバランスが崩れると周波数が変動してしまうからである。この点、風力発電では、気象の状況により出力に変動が生じてしまうため、ウィンドファームが接続される電力系統内の火力発電所等の発電機の発電力を需要変動の変化速度に対応して追随させることで、その周波数を維持している。具体的には、数分以内の短周期成分には発電機の調速機(ガバナ)フリー制御、数分から十数分の中周期成分には自動周波数制御(LFC)、十数分以上の長周期成分には運転基準出力制御(EDC)等の各方式を組み合わせることで、需要変動に対応している。
【0004】
しかしながら、発電装置の数が多くなるにつれて、電力系統の電圧および周波数の調整は難しくなる。例えば、自動周波数制御(LFC)方式では、軽負荷時ほどLFCの容量が不足してしまうという問題がある。すなわち、電力品質を維持しつつ、風力発電の導入量を増加させるためには、電力系統側の調整能力をさらに増強するか、風力の出力変動を抑制する必要がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、発電機に向かってくる風の風向風速を観測し、その結果に基づいて風力発電システムの高効率化運転制御をする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−301116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように、蓄電池等の電力貯蔵装置を用いて出力変動を抑制する方法では、蓄電池の設置にかかる風力発電事業者のコスト負担が大きくなってしまう。
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、ウィンドファームから出力される電力の変動を抑制し、一定の出力を維持することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明のウィンドファーム制御システムは、ウィンドファームから出力される電力の変動を抑制し、一定の出力を維持する技術を提供する。
【0010】
例えば、回転数が可変な複数の風力発電装置と、前記風力発電装置に併設され、風向および風力を観測する複数の気象計と、前記風力発電装置に併設され、風力発電装置の出力値を回転数により制御する複数の個別制御装置と、を備えるウィンドファームと、
各気象計の観測した風向および風力を取得して、最も風上に位置する風力発電装置を検出する処理と、前記最も風上に位置する風力発電装置の風向および風力と、当該風力発電装置に対する他の風力発電装置の距離および方角とから、所定の期間における各風力発電装置の風速変動を予測する処理と、前記各風力発電装置の風速変動から、所定の期間におけるウィンドファームの出力変動を予測する処理と、前記出力変動から、前記所定の期間、維持が補償される出力値である制御レベルを算出する処理と、各風力発電装置の出力値を取得する処理と、ウィンドファームの出力値が、前記制御レベルと等しくなるような前記各風力発電装置の出力値と、該出力値が得られる回転数と、を算出する処理と、算出した前記各風力発電装置の前記出力値および前記回転数を、各風力発電装置に対応する前記個別制御装置に出力する処理と、を実行するウィンドファーム制御装置と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ウィンドファームから出力される電力の変動を抑制し、一定の出力を維持することのできる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ウィンドファーム制御システム1のブロック図である。
【図2】各風力発電装置への風力変動の到達時間の遅れを表す概念図である。
【図3】風力発電装置の配置と風向風力の関係を示す説明図である
【図4】(a)(b)(c)各風力発電装置の風速変動の予測結果を表すグラフである。
【図5】風力発電装置のパワーカーブを表す特性図である。
【図6】(a)(b)各風力発電装置の出力とウィンドファーム合計出力の予測結果を表すグラフである。
【図7】風力発電装置のパワーカーブを出力制限により変更する方式を表す模式図である。
【図8】各風力発電装置への出力制限制御を表す模式図である。
【図9】風力発電装置の回転数と出力特性との関係を示す相関図である。
【図10】各風力発電装置への出力制限制御を表す模式図である。
【図11】本実施形態に係る集中制御装置40の実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】ウィンドファーム制御システム2のブロック図である。
【図13】気圧と風速の時間変化の実測値を示すグラフである。
【図14】(a)(b)(c)(d)に、気圧計測値の時間変化から、出力予測データを補正する手順を示した説明図である。
【図15】補正後予測値から制御レベルを設定する手順を示した説明図である。
【図16】ウィンドファーム制御システム3のブロック図である。
【図17】電力の予測需要と、制御レベルの変更を示す説明図である。
【図18】集中制御装置40の電気的な構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第一の実施形態>
以下、本発明の第一の実施形態を、図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、本発明に係るウィンドファーム制御システム1の構成を示すブロック図である。
【0015】
ウィンドファーム制御システム1は、複数の風力発電装置を擁するウィンドファーム100と、ウィンドファーム100を集中的に管理する集中制御装置40と、からなる。
【0016】
ウィンドファーム100は、風力発電装置11、12、13と、各風力発電装置に併設・接続され、少なくとも風向風速と気圧を測ることのできる気象計21、22、23と、個別制御装置31、32、33と、各個別制御装置と集中制御装置40とを相互に接続する通信ネットワーク5と、から構成されている。
【0017】
風力発電装置11、12、13は、回転数及びピッチが可変、かつ、制御可能な風力発電装置であり、送電線9により電力系統7に接続されており、需要家8に対して電力を供給する。
【0018】
気象計21、22、23は、対応する風力発電装置に併設され、その位置における風向、風速、および、気圧を観測する。
【0019】
個別制御装置31、32、33は、所定のタイミング毎に、対応する気象計の観測した風向、風速および気圧等を含む気象データを、ネットワーク5を介して集中制御装置40に送信する。さらに、集中制御装置40からの回転数制御指示に従って、対応する風力発電装置の回転数を制御すると共に、対応する風力発電装置の出力値を検出し、要求に応じて集中制御装置40に送信する。
【0020】
集中制御装置40は、制御部41と、記憶部42と、入出力インターフェース部(以下、I/F部と称する)43と、を有している。
【0021】
制御部41は、個別制御装置31、32、33から取得した気象データから、各風力発電装置の所定の期間における風速変動を予測する変動予測部51と、予測された風速変動からウィンドファーム100全体の出力変動を予測する出力予測部52と、制御レベルを決定するレベル決定部54と、動的エネルギー調整部55と、を備えている。
【0022】
記憶部42は、各風力発電装置に対する他の風力発電装置までの距離Lと、方角θと、を示す情報を含む装置位置データを予め記憶する装置位置データ記憶領域61と、ウィンドファーム100に含まれる各風力発電装置の出力特性に関する情報である出力特性データを予め記憶する出力特性データ記憶領域62と、を備えている。
【0023】
I/F部43は、集中制御装置40を、他の装置及びネットワーク5と、データの送受信可能に接続する。
【0024】
集中制御装置40の実行する処理について、以下、詳細に説明する。
【0025】
変動予測部51は、I/F部43を介して各個別制御装置から所定のタイミングで送信される気象データを受信すると、ウィンドファーム100内で最も風上に位置する風力発電装置を割り出す。これは、例えば、各気象データを監視し、新たな風力変動のあった気象データを観測した気象計が併設されている風力発電装置を、最も風上に位置するものと判断することで実現可能である。
【0026】
具体的に、例えば矢印6の方向へ風向の風が吹いている場合、ウィンドファーム100の中で新たな風速変動が最初に現れるのは風力発電装置11である。よって、変動予測部51は、風力発電装置11が最も風上に位置していると判断する。
【0027】
次に、変動予測部51は、最も風上に位置する風力発電装置に併設されている気象計が観測した気象データに含まれる風速データから、所定の評価時間における各風力発電装置の風速変動を予測する。変動予測部51は、まず、観測された新たな風力変動が、他の風力発電装置12、13に到達するタイミングを算出する。
【0028】
図2は、各風力発電装置への風速変動の到達時間の遅れを表す概念図、図3は、風力発電装置の配置と風向および風力との関係を示す説明図である。
【0029】
図2に示すように、風力発電装置11で新たな風速変動があったタイミングをT11、当該風速変動が風力発電装置12に到達するタイミングをT12、風力発電装置13に到達するタイミングをT13とすると、変動予測部51は、T11からT12までの到達時間遅れT_delay2と、T11からT13までの到達時間遅れT_delay3と、を算出する。
【0030】
具体的に、変動予測部51は、装置位置データ記憶領域61から風力発電装置11を基点とした風力発電装置12(または13)までの距離Lおよび方角θ(図3参照)を読み出す。そして、T11における個別制御装置31からの気象データに含まれる風速データVを用いて、以下のような数式1により到達時間遅れT_delay2およびT_delay3を算出する。
【0031】
<数式1>

図4(a)〜(c)は、上記手法により予測された所定の風速変動評価時間(600秒)の、風力発電装置における風速変動予測データを示すグラフである。図4(a)は、風力発電装置11において観測された風速変動の実測値を示す。また、図4(b)は、風力発電装置12の風速変動の予測値、図4(c)は、風力発電装置13の風速変動の予測値である。
【0032】
図4(a)〜(c)に示すように、風速変動は、風力発電装置12にはT_delay2経過後に、風力発電装置13にはT_delay3経過後に、風力発電装置11で観測された風速変動が到達するものとして予測される。
【0033】
変動予測部51は、このような風速変動予測データを算出すると、出力予測部52へ出力予測要求を出力する。
【0034】
出力予測部52は、出力予測要求を受けると、算出された風速変動予測データと、記憶領域62に予め格納される出力特性データと、を用いて、所定の出力変動評価時間Teにおける各風力発電装置と、ウィンドファーム100全体と、の出力変動を予測する。
【0035】
図5は、出力特性データに含まれる風速と風力発電装置の出力との関係(パワーカーブ)を表す特性図である。出力予測部52は、このパワーカーブに基づいて、風速変動予測データから各風力発電装置の出力値を算出する。なお、パワーカーブは風力発電装置の機種等により異なるため、各風力発電装置に対応するものをそれぞれ用いるものとする。
【0036】
図6(a)および図6(b)は、上記手法により予測された所定の出力変動評価時間Te(20分)のウィンドファーム100における出力変動予測データを示すグラフである。
【0037】
図6(a)に、各風力発電装置の出力変動予測データを示す。P1は風力発電装置11の出力、P2は風力発電装置12の出力、P3は風力発電装置13の出力の予測結果である。
【0038】
図6(b)には、ウィンドファーム100全体の出力変動予測データを示す。以下、P1、P2、P3を合計したものをウィンドファームの合計出力の予測値Psum、出力変動評価時間TeにおけるPsumの最低値をPsum_min、平均値をPsum_avrとして示す。
【0039】
出力予測部52は、上記のような出力変動予測データを算出すると、レベル決定部54にレベル決定要求を出力する。
【0040】
レベル決定部54は、レベル決定要求を受けると、ウィンドファーム100で、出力変動評価時間Teの間、一定に維持が補償される出力である制御レベルを設定する。ここでは、出力変動評価時間Te内での最小値であるPsum_minが、制御レベルP_levelとして設定される。
【0041】
レベル決定部54は、制御レベルP_levelを設定すると、動的エネルギー調整部55へエネルギー調整要求を出力する。
【0042】
動的エネルギー調整部55は、エネルギー調整要求を受け付けると、各風力発電装置に併設される個別制御装置に回転数制御指示を出力して、当該風力発電装置の出力を調整する。
【0043】
図7は、風力発電装置に対し出力制限を行った場合のパワーカーブを表すグラフである。動的エネルギー調整部55は、定格よりも低い値であるP_level(ここでは、Psum_min)に合計出力が制限されるように、各風力発電装置の出力値および当該出力値が得られる回転数を算出する。回転数と出力の関係については、後述する。
【0044】
図8は、動的エネルギー調整部55による出力制限を受けていない状態の各風力発電装置の出力P1〜P3と、出力制限を受けている状態の各風力発電装置の出力P1’〜P3 ’と、を表すグラフである。
【0045】
動的エネルギー調整部55は、各個別制御装置から、各風力発電装置11、12、13の出力値P1、P2、P3を取得する。そして、P1、P2、P3の和、すなわちPsumが、P_levelと等しくなるように、各風力発電装置の出力割合を調整して発電出力を平滑化する。
【0046】
例えば、各風力発電装置の出力割合が、Psum>P_level、かつ、P1+P2<P_levelの場合(例えば、周期Tc1、5、7、8)、動的エネルギー調整部55は、Psum=P_level、かつ、P1=P2=P3となるよう、各風力発電装置の出力値および当該出力値が得られる回転数を算出する。
【0047】
なお、P1’>P1、P2’>P2、P3’>P3となる場合は、余力のある風力発電装置が不足分を負担するようにする。
【0048】
また、各風力発電装置の出力割合が、P1+P2>P_levelである場合(周期Tc2〜4)も同様に、動的エネルギー調整部55は、Psum=P_level、かつ、P1=P2=P3となるよう、各風力発電装置の出力値および当該出力値が得られる回転数を算出する。
【0049】
さらに、各風力発電装置の出力割合が、Psum=P_levelである場合(周期Tc3)、動的エネルギー調整部55は処理を行わず、そのままの出力を維持させる。
【0050】
なお、例えば周期Tc2では、エネルギー的にはP3=0としてもPsum=P_levelの関係式を満たすことが可能である。しかしながら、風力発電装置13の1台だけ停止せずに、全ての装置を同等に運転させた方が風力発電装置の劣化が均一化してメンテナンスコストの点で都合がよいため、ここでは、P1=P2=P3とした。
【0051】
従って、上述の出力割合についても、Psum=P_levelでさえあればよく、必ずしもP1=P2=P3である必要はない。各風力発電装置の出力に一定以上の偏りが出ない程度に、差が所定の範囲内に抑えられていればよい(図8参照)。
【0052】
次に、風力発電装置の回転数と出力の関係について、図9を参照しながら説明する。
【0053】
図9は、風力発電装置の回転数と出力特性との関係を示す相関図である。
【0054】
図9に示すように、風力発電装置は、点線で示すように各風速域において最大の出力が得られる最大出力回転数が予め決まっている。なお、このような出力−回転数の相関図は、出力特性データ記憶領域62に予め記憶されている。
【0055】
動的エネルギー調整部55は、出力−回転数の相関図から、各風力発電装置の出力値がPsum=P_level、かつ、P1=P2=P3となる回転数の値を算出することができる。
【0056】
そして、動的エネルギー調整部55は、上記の様に算出した出力値および当該出力値が得られる回転数を、回転数制御指示として各個別制御装置に送信する。各個別制御装置は、対応する風力発電装置の回転数を、受信した値まで増加または減少させ、その出力を抑制する。なお、個別制御装置は、当該回転数で実際に上記の出力値が得られない場合には、当該出力値が得られるまで回転数を調整してもよい。
【0057】
このような処理によれば、各風力発電装置の合計出力値を、予測された出力変動において、最低限補償されると考えられる値であるPsum_minと等しくなるように抑制することで、ウィンドファームにおける出力を常時一定に保つことが可能である。
【0058】
しかしながら、このような方法では、出力を最低値に平滑化することにより、変動は抑制できてもPsum_min以上の出力が全て抑制されてしまうため、エネルギーロスが大きい。そこで、次のような処理を行うことにより、集中制御装置40は、エネルギーロスを抑制する。
【0059】
レベル決定部54は、レベル決定要求を受け付けると、予測値Psumの出力変動評価時間Te内の平均値Psum_avrを、制御レベルP_levelとして設定する。そして、レベル決定部54は、動的エネルギー調整部55へエネルギー調整要求を出力する。
【0060】
動的エネルギー調整部55は、エネルギー調整要求を受け付けると、P_levelに合計出力が制限されるように、各風力発電装置の出力値および当該出力値が得られる回転数を算出する。
【0061】
図10は、動的エネルギー調整部55による出力制限を受けていない状態の各風力発電装置の出力P1〜P3と、出力制限を受けている状態の各風力発電装置の出力P1’’〜P3’’と、を表すグラフである。
【0062】
例えば、周期Tc1〜Tc4、および、Tc8のように、Psum>P_level(Psum_avr)の場合、動的エネルギー調整部55は、Psum=P_level、かつ、P1=P2=P3となる、各風力発電装置の出力値、および、当該出力値が得られる最大出力回転数よりも高い各風力発電装置の回転数を算出し、回転数制御指示として各個別制御装置に送信する。各個別制御装置は、最大出力回転数よりも高い回転数で出力制限を行うことにより、風力によるエネルギーは、回転速度の上昇として機械的エネルギー(回転エネルギー)の形で蓄えられる。
【0063】
逆に、例えば、周期Tc5〜Tc7のように、Psum<P_levelである場合には、Psum=P_level、かつ、P1=P2=P3となる、各風力発電装置の出力値、および、当該出力値が得られるまで各風力発電装置の回転数を徐々に下げるよう指示する内容を含む回転数制御指示を、各個別制御装置に出力する。
【0064】
個別制御装置は、このような回転数制御指示を受け付けると、上述の出力値が得られるまで所定の値ずつ回転数を下げて、蓄積された回転エネルギーを放出させる。なお、回転数の減少により得られる出力が下がる場合には、個別制御装置は、回転数を最大出力回転数に調整するような構成としてもよい。
【0065】
なお、Psum=P_levelであった場合は、動的エネルギー調整部55は、そのままの出力を維持させる。
【0066】
もちろん、ここでの出力割合も、必ずしもP1=P2=P3である必要はなく、各風力発電装置の出力に一定以上の偏りが出ない程度に、差が所定の範囲内に抑えられていればよい(図10参照)。
【0067】
以上説明したように、P_levelをPsumの平均値であるPsum_avrに設定したとしても、風力エネルギーを回転エネルギーの形で蓄積および放出することにより、一定の出力を維持することが可能である。
【0068】
次に、このような集中制御装置40のハードウエア構成について説明する。図18は、集中制御装置40の電気的な構成を示すブロック図である。
【0069】
図18に示すように、集中制御装置40は、各部を集中的に制御するCPU(Central Processing Unit)901と、各種データを書換え可能に記憶するメモリ902と、各種のプログラム、プログラムの生成するデータ等を格納する外部記憶装置903と、入力装置904と、出力装置905と、これらを接続するバス906と、を備える。
【0070】
集中制御装置40は、例えば、外部記憶装置903に記憶されている所定のプログラムを、メモリ902に読み込み、CPU901で実行することにより実現可能である。
【0071】
なお、上記した各構成要素は、集中制御装置40の構成を理解容易にするために、主な処理内容に応じて分類したものである。処理ステップの分類の仕方やその名称によって、本願発明が制限されることはない。集中制御装置40が行う処理は、処理内容に応じて、さらに多くの構成要素に分類することもできる。さらに、1つの構成要素がさらに多くの処理を実行するように分類することもできる。
【0072】
また、各機能部は、ハードウエア(ASICなど)により構築されてもよく、各機能部の処理が一つのハードウエアで実行されてもよいし、複数のハードウエアで実行されてもよい。
【0073】
以上のように構成される本実施形態にかかる集中制御装置40での処理を、図11に示すフローチャートを用いて説明する。図11は、本実施形態に係る集中制御装置40の実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【0074】
変動予測部51は、各個別制御装置から所定のタイミング毎に気象データを受信すると(ステップS10)、最も風上に位置する風力発電装置を割り出す(ステップS11)。
【0075】
次に、変動予測部51は、最も風上に位置する風力発電装置の気象データに含まれる風速データから、各風力発電装置における風速変動を予測する(ステップS12)。
【0076】
具体的に、変動予測部51は、風上に位置する風力発電装置から他の装置までの距離Lおよび方角θの値と、風上に位置する風力発電装置の気象データに含まれる風速データVとから、到達時間の遅れを算出し、各風力発電装置における風速変動を予測する。そして、変動予測部51は、出力予測部52へ出力予測要求を出力する。
【0077】
出力予測部52は、出力予測要求を受けると、算出された風速変動予測データと、記憶領域62に予め格納される出力特性データと、を用いて、所定の出力変動評価時間Teにおけるウィンドファーム100全体の合計出力Psumの変動を予測する(ステップS13)。そして、出力予測部52は、レベル決定部54にレベル決定要求を出力する。
【0078】
レベル決定部54は、レベル決定要求を受け付けると、ステップ13で算出された合計出力Psumの予測値のうち、出力変動評価時間Te内での平均値Psum_avrを、一定値での安定制御が可能な出力である制御レベルP_levelとして設定する(ステップS14)。そして、レベル決定部54は、動的エネルギー調整部55へエネルギー調整要求を出力する。
【0079】
動的エネルギー調整部55は、エネルギー調整要求を受け付けると、まず、各風力発電装置の出力値を取得して、その和(Psum)が、P_levelと等しいか否かを判断する(ステップS15)。
【0080】
動的エネルギー調整部55は、Psumの値がP_levelと等しい場合には(S15でYES)、処理を終了する。Psumの値がP_levelと等しくない場合には(S15でNO)、Psumの値がP_levelよりも大きいか否かを検出する(ステップS16)。
【0081】
Psumの値がP_levelよりも大きい場合には(S16でYES)、回転数を最大出力回転数よりも上げて、Psum=P_level、かつ、P1=P2=P3となるように出力を抑制するよう、各個別制御装置に回転数制御指示を出力して(ステップS17)、処理を終了する。
【0082】
Psumの値がP_levelよりも大きくない場合には(S16でNO)、Psum=P_level、かつ、P1=P2=P3となるまで回転数を下げるよう、各風力発電装置に回転数制御指示を出力して(ステップS18)、処理を終了する。
【0083】
以上、本発明の第一の実施形態について説明した。
【0084】
以上のような構成により、本実施形態にかかるウィンドファーム制御システム1によれば、各風力発電装置の合計出力値が、風速変動から予測されたP_levelと等しくなるように出力制限を行うことで、ウィンドファームにおける出力を平滑化することが可能である。
【0085】
また、合計出力値が余剰の場合には回転数を増加させて風力を回転エネルギーとして蓄積させ、不足の場合には回転数を減少させて回転エネルギーを放出することで、より高い出力値を一定に維持することができる。
<第二の実施形態>
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。本実施形態にかかるウィンドファーム制御システム2は、ウィンドファーム100の出力予測について気圧データを用いた補正を施す点で、第一の実施形態とは異なる。以下、異なる点に関連する事項について、主に説明する。
【0086】
図12は、ウィンドファーム制御システム2の構成を示すブロック図である。
【0087】
ウィンドファーム制御システム2は、ウィンドファーム100と、集中制御装置80と、を備えている。
【0088】
集中制御装置80の制御部81が備える出力補正部83は、出力予測部52が算出した出力予測データを補正する。
【0089】
まず、気圧と風速との関係について説明する。図13は、気圧と風速の時間毎の実測値の一例である。図13に示すように、気圧の時間変化と風速の変化には概ね相関がある。すなわち、気圧が下降または上昇傾向にあるとき、風速は上昇傾向となり、気圧が一定のとき、風速も一定となる傾向を示す。さらに、気圧の時間変化は風速に比べて短時間の変動が小さく、上昇・下降の傾向が判別しやすい。この特性を利用し、出力補正部83は、図6に示す出力予測データを補正して予測精度を向上させる。以下、その方法について具体的に記す。
【0090】
図14(a)〜図14(d)に、気圧計測値の時間変化から、出力予測データを補正する手順を示す。
【0091】
出力補正部83は、出力予測部52が出力予測データを算出すると、以下のような補正処理を開始する。
【0092】
まず、出力補正部83は、図14(a)に示すように、ウィンドファーム100内の気象計21、22、23で計測された気象データに含まれる気圧データを平均化して、ウィンドファーム100の平均気圧変化を求める。これにより、各気象計での短時間の気圧変化が平滑化され、気圧変化の上昇・下降傾向をより判別しやすくする。
【0093】
次に、出力補正部83は、図14(b)に示すように、上記求めたウィンドファーム100の平均気圧の変化から、ウィンドファーム一定出力制御の対象となる近未来の気圧変化を予測する。具体的に、出力補正部83は、ウィンドファーム100の平均気圧の計測値を線形近似し、その直線を未来時間まで延長することによって、気圧トレンドの予測カーブを求める。
【0094】
そして、出力補正部83は、図14(c)に示すように、気圧トレンドの予測カーブを用いてウィンドファームの合計出力の予測値Psumを補正する。具体的に、出力補正部53は、予測値Psumを線形近似した直線を引き、それに対して気圧トレンドの予測カーブの傾きに対応する補正量を乗じて、直線の傾きを補正する。そして、予測値Psumを直線の上下に再配置することによって補正し、補正後予測値Psum’を算出する。なお、気圧トレンドの予測カーブの傾きに対する補正量は、事前に気圧及びウィンドファーム出力の実測値から統計処理によって求めておくものとする。
【0095】
最後に出力補正部83は、図14(d)に示すように、補正後予測値Psum’に対して、予測逸脱リスクを考慮した予測出力の変動幅を決定する。
【0096】
具体的に、出力補正部53は、予め過去の補正後予測値Psum’と、実測値と、の乖離を継続的に記録して、実測値が補正後予測値Psum’よりも所定の値以上に高出力側に逸脱する場合、及び、実測値が補正後予測値Psum’よりも所定の値以下の低出力側に逸脱する場合の、それぞれの確率を算出して記憶部42に記憶させておく。そして、出力補正部83は、例えば補正後予測値Psum’が、低出力側および高出力側に逸脱しない確率が90%となる場合の変動幅の最大値Psum’_maxおよび最小値Psum’_mimを算出する。なお、このレベルは、逸脱しない確率の値を図示しない入力装置から利用者が設定することで、自由に変更が可能である。
【0097】
そして、出力補正部83は、レベル決定部84へレベル決定要求を出力する。
【0098】
レベル決定部84は、レベル決定要求を受けると、図15に示すように、補正後予測値Psum’の変動範囲の最小値であるPsum’_minに、各風力発電装置において回転エネルギーとして蓄積可能な出力を上乗せした値を、制御レベルP_levelとして設定する。
【0099】
なお、回転エネルギーとして蓄積可能な出力は、予め出力特性データ記憶領域62に記憶させておけばよい。
【0100】
以上のような構成により、本発明の第二の実施形態にかかるウィンドファーム制御システム2によれば、予測値Psumを、気圧データを用いて補正することにより、維持される最低出力により適した値の制御レベルを設定することが可能である。
【0101】
また、本発明の適用は、上記のような実施形態には制限されない。上記の実施形態は、本発明の技術的思想の範囲内で様々な変形が可能である。
【0102】
例えば、図16に示すような、補助的に蓄電装置30を併設したウィンドファーム300に、本発明を適用することも可能である。
【0103】
動的エネルギー調整部55は、各個別制御装置が回転数の制御処理を終えてもなお、ウィンドファーム全体の出力値がP_levelから逸脱している場合に、蓄電装置30へ充電または放電を指示する。蓄電装置30は、図示しない蓄電池を用いて、ウィンドファーム300から電力系統7への電力の入出力量を調整する。
【0104】
このようなウィンドファーム制御システム3では、近未来の風速(出力)予測、機械エネルギーによる出力の平滑化に加え、蓄電装置30による充放電により、ウィンドファーム300からの出力変動をさらに厳密に調整することが可能である。
【0105】
なお、ウィンドファーム制御システム3では、風速(出力)予測、および、機械エネルギーによる出力の平滑化によって、予めほとんどの出力変動が抑制されている。従って、蓄電装置30は、予測の誤差等による僅かなずれを補償するものとして予備的に使用できるものであればよい。つまり、従来に比べて小さな容量の蓄電装置で出力変動を抑制できるため、その設置コストも削減できる。
【0106】
また例えば、制御レベルP_levelを、その時間帯や、時期等により変更する構成としても良い。図17は、電力の需要予測に基づいて、P_levelの値を変更する場合のグラフである。
【0107】
レベル決定部は、図17に示すように、予め電力会社等から電力の需要予測を取得しておくことで、時間帯によってP_levelの値を変更し、電力の供給量を調整する。例えば、需要家8の電力需要が低い夜間では、ウィンドファームからの出力が過剰となり、電力系統7の運用の安定性に支障をきたす恐れがある。そこで、需要予測に基づいて、タイマー等を用いて夜間のP_levelを昼間よりも下げておくことで、ウィンドファームからの電力供給量を減らすことができる。
【0108】
なお、上記の実施形態は、本発明の要旨を例示することを意図し、本発明を限定するものではない。多くの代替物、修正、変形例は当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0109】
1:ウィンドファーム制御システム、5:ネットワーク、6:風向、7:電力系統、8:需要家、9:送電線、11、12、13:風力発電装置、21、22、23:気象計、31、32、33:個別制御装置、40:集中制御装置、41:制御部、42:記憶部、43:入出力インターフェース部、50:蓄電装置、100:ウィンドファーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転数が可変な複数の風力発電装置と、
前記風力発電装置に併設され、風向および風力を観測する複数の気象計と、
前記風力発電装置に併設され、風力発電装置の出力値を回転数により制御する複数の個別制御装置と、
を備えるウィンドファームと、
各気象計の観測した風向および風力を取得して、最も風上に位置する風力発電装置を検出する処理と、
前記最も風上に位置する風力発電装置の風向および風力と、当該風力発電装置に対する他の風力発電装置の距離および方角とから、所定の期間における各風力発電装置の風速変動を予測する処理と、
前記各風力発電装置の風速変動から、所定の期間におけるウィンドファームの出力変動を予測する処理と、
前記出力変動から、前記所定の期間、維持が補償される出力値である制御レベルを算出する処理と、
各風力発電装置の出力値を取得する処理と、
ウィンドファームの出力値が、前記制御レベルと等しくなるような前記各風力発電装置の出力値と、該出力値が得られる回転数と、を算出する処理と、
算出した前記各風力発電装置の前記出力値および前記回転数を、各風力発電装置に対応する前記個別制御装置に出力する処理と、を実行するウィンドファーム制御装置と、を備えること
を特徴とするウィンドファーム制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載のウィンドファーム制御システムであって、
前記ウィンドファーム制御装置は、前記出力変動の最低値を、制御レベルに定めること
を特徴とするウィンドファーム制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載のウィンドファーム制御システムであって、
前記ウィンドファーム制御装置は、
前記出力変動の平均値を、制御レベルに定める処理と、
ウィンドファームの出力値が前記制御レベルよりも大きい場合には、前記ウィンドファームの出力値が前記制御レベルと等しくなるような前記各風力発電装置の出力値と、該出力値が得られる最大出力回転数よりも大きな回転数と、を算出して、各風力発電装置に対応する前記個別制御装置に出力する処理と、
ウィンドファームの出力値が前記制御レベルよりも小さい場合には、前記ウィンドファームの出力値が前記制御レベルと等しくなるような、前記各風力発電装置の出力値と、該出力値が得られるまで回転数を減少させる指示と、を各風力発電装置に対応する前記個別制御装置に出力する処理と、を実行すること
を特徴とするウィンドファーム制御システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のウィンドファーム制御システムであって、
前記ウィンドファーム制御装置は、さらに、前記各風力発電装置の出力値が、前記各風力発電装置でそれぞれ等しくなるように算出すること
を特徴とするウィンドファーム制御システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のウィンドファーム制御システムであって、
前記気象計は、気圧をさらに観測し、
前記ウィンドファーム制御装置は、所定の期間における気圧の変化に基づいて、前記出力変動を補正する処理を、さらに行うこと
を特徴とするウィンドファーム制御システム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のウィンドファーム制御システムであって、
前記ウィンドファーム制御装置は、時間帯によって、前記制御レベルを変化させること
を特徴とするウィンドファーム制御システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のウィンドファーム制御システムであって、
蓄電装置を、さらに備え、
前記ウィンドファーム制御装置は、
各個別制御装置が、対応する風力発電装置の回転数を制御後に、各風力発電装置の出力値を取得して、前記ウィンドファームの出力値を算出する処理と、
前記前記ウィンドファームの出力値が、前記制御レベルと等しくなるように、前記蓄電装置に充放電を指示すること
を特徴とするウィンドファーム制御システム。
【請求項8】
回転数が可変な複数の風力発電装置を備えるウィンドファームを制御するウィンドファーム制御装置であって、
各気象計の観測した風向および風力を取得して、最も風上に位置する風力発電装置を検出する処理と、
前記最も風上に位置する風力発電装置の風向および風力と、当該風力発電装置に対する他の風力発電装置の距離および方角とから、所定の期間における各風力発電装置の風速変動を予測する処理と、
前記各風力発電装置の風速変動から、所定の期間におけるウィンドファームの出力変動を予測する処理と、
前記出力変動から、前記所定の期間、維持が補償される出力値である制御レベルを算出する処理と、
各風力発電装置の出力値を取得する処理と、
ウィンドファームの出力値が、前記制御レベルと等しくなるような前記各風力発電装置の出力値と、該出力値を得られる回転数と、を算出する処理と、を実行すること
を特徴とするウィンドファーム制御装置。
【請求項9】
回転数が可変な複数の風力発電装置を備えるウィンドファームの制御方法であって、
各風力発電装置における風向および風力を観測するステップと、
前記風向および風力から、最も風上に位置する風力発電装置を検出するステップと、
前記最も風上に位置する風力発電装置の風向および風力と、当該風力発電装置に対する他の風力発電装置の距離および方角とから、所定の期間における各風力発電装置の風速変動を予測するステップと、
前記各風力発電装置の風速変動から、所定の期間におけるウィンドファームの出力変動を予測するステップと、
前記出力変動から、前記所定の期間、維持が補償される出力値である制御レベルを算出するステップと、
各風力発電装置の出力値を取得するステップと、
ウィンドファームの出力値が、前記制御レベルと等しくなるような前記各風力発電装置の出力値と、該出力値を得られる回転数と、を算出し、前記各風力発電装置の回転数を制御するステップと、を実行すること
を特徴とするウィンドファームの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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