説明

ウインチの制御装置及び移動式クレーン

【課題】荷重と操作量の両方を考慮してウインチを制御することで、安全性と操作性を調和させたウインチの制御装置を提供する。
【解決手段】ウインチ48の回転速度を制御するウインチの制御装置2である。
そして、このウインチの制御装置2は、吊荷の荷重を検出する荷重検出手段5と、ウインチ48を低速モード又は高速モードで回転駆動する可変容量型ウインチモータ44と、可変容量型ウインチモータ44を操作するウインチ操作手段49と、吊荷の荷重及びウインチ操作手段49の操作量に基づいて可変容量型ウインチモータ44を低速モード又は高速モードに切換える制御部3と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウインチの制御装置及び移動式クレーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、1回転当りの容量の大小を切換えることで、供給油量に対する回転数を低速モード又は高速モードに切換えることのできる可変容量型ウインチモータを用いたウインチの制御装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、過負荷防止装置と操作検出手段とモード選択手段とモータ容量切換手段とを備えており、巻下開始直前の荷重を記憶して高速モードへの切換条件の判定に用いることで、巻下途中に荷重値の変動によって生じるハンチングを防止する制御装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、操作量検出手段と容量切換規制手段とを備えており、操作量が所定量以下であれば小容量側(高速モード)への切換えを不能にすることで、駆動トルク不足による起動不能を回避する制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−68667号公報
【特許文献2】特開2002−87762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献の制御装置は、荷重又は操作量のいずれかに基づいてウインチを制御するものであり、荷重と操作量の両方に基づいてウインチを制御するものではなかった。
【0007】
そこで、本発明は、荷重と操作量の両方を考慮してウインチを制御することで安全性と操作性を調和させたウインチの制御装置と、このウインチの制御装置を備える移動式クレーンと、を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明のウインチの制御装置は、ウインチの回転速度を制御するウインチの制御装置であって、吊荷の荷重を検出する荷重検出手段と、前記ウインチを低速モード又は高速モードで回転駆動する可変容量型ウインチモータと、前記可変容量型ウインチモータを操作するウインチ操作手段と、前記吊荷の荷重及び前記ウインチ操作手段の操作量に基づいて前記可変容量型ウインチモータを低速モード又は高速モードに切換える制御部と、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
このように、本発明のウインチの制御装置は、荷重検出手段と、可変容量型ウインチモータと、ウインチ操作手段と、吊荷の荷重及びウインチ操作手段の操作量に基づいて可変容量型ウインチモータを低速モード又は高速モードに切換える制御部と、を備えている。
【0010】
このため、荷重検出手段によって検出された吊荷の荷重、及び、オペレータの意思に基づくウインチ操作手段の操作量の両方を考慮することで、荷重が大きい場合の安全性と操作量が少ない場合の微動操作性を調和させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】カーゴクレーン全体の構成を説明する側面図である。
【図2】油圧系の構成を説明する油圧回路図である。
【図3】実施例1の制御部の構成を説明するブロック図である。
【図4】実施例1の制御内容を説明する説明図である。
【図5】実施例1の作用を説明するグラフである。
【図6】実施例2の制御系の構成を説明するブロック図である。
【図7】実施例2の制御内容を吊荷の荷重が切換荷重より大きい場合について説明する説明図である。
【図8】実施例2の制御内容を吊荷の荷重が切換荷重より小さい場合について説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0013】
(機械系の構成)
まず、本実施例のウインチの制御装置2(図2参照)を備える移動式クレーンとしてのカーゴクレーン1の機械系の全体構成について、図1を用いて説明する。
【0014】
本実施例のカーゴクレーン1は、走行機能を有する車体10と、車体10の転倒を防止するアウトリガ11と、車体10に旋回自在に立設されたポスト12と、ポスト12に起伏自在に支持されたブーム13と、ブーム13を起伏させる起伏シリンダ14と、ワイヤ15を介してブーム13先端から吊り下げられるフック16と、荷物を積載する荷台17と、運転用のキャビン18と、を備えている。
【0015】
このポスト12の内部には、ウインチ48及び減速機47が配置されており、可変容量型ウインチモータ44の回転によってワイヤ15を巻取り又は繰り出すことができる(図2参照)。
【0016】
また、ブーム13は、基端部がポスト12に起伏自在に支持される第1ブーム131、第1ブーム131に挿入される第2ブーム132、第2ブーム132に挿入される第3ブーム133、によって入れ子状に構成されている。
【0017】
(油圧系の構成)
次に、本実施例のウインチの制御装置2を含む油圧回路の構成について、図2を用いて説明する。
【0018】
本実施例のウインチの制御装置2を含む油圧回路は、油圧ポンプ41と、リリーフ弁42と、方向流量制御弁43と、可変容量型ウインチモータ44と、切換弁45と、傾転角制御シリンダ46と、減速機47と、ウインチ48と、によって構成されている。
【0019】
この方向流量制御弁43は、6ポート手動切換弁であり、作業者がウインチ操作手段としての操作レバー49を手動で操作することで、操作量に比例して作動油の方向及び流量が調整されて可変容量型ウインチモータ44に供給される。加えて、方向流量制御弁43には、スプール位置を検出する操作量検出器としての差動トランス54が取り付けられている。
【0020】
また、可変容量型ウインチモータ44は、斜板式又は斜軸式のアキシャルピストンモータであり、コントローラ3の指示によって低速モード又は高速モードで回転する。具体的には、コントローラ3の指示を受けた切換弁45がオフ位置に切換えられた場合には、傾転角制御シリンダ46の圧油が開放されて内蔵スプリングによって大容量位置(低速モード)となる。一方、切換弁45がオン位置に切換えられた場合には、可変容量型ウインチモータ44の駆動圧がシャトル弁を介して傾転角制御シリンダ46に供給されて小容量位置(高速モード)となる。
【0021】
さらに、本実施例の第1ブーム131には、ブーム13の全長を検出するブーム長さ検出器51と、ブーム13の角度を検出するブーム角度検出器52と、が取り付けられている。加えて、起伏シリンダ14には、ロッド側及びシリンダ側の圧力差を計測することでモーメント荷重を検出するモーメント検出器53が取り付けられている。
【0022】
そして、荷重検出手段5としてのブーム長さ検出器51、ブーム角度検出器52及びモーメント検出器53それぞれの検出値と、操作量検出器としての差動トランス54で検出された操作量と、を受信したコントローラ3は、低速モード又は高速モードのいずれかを判定したうえで切換弁45に対してオフ又はオンを指示する。
【0023】
(制御部の構成)
次に、本実施例のウインチの制御装置2の制御部としてのコントローラ3の構成について、図3,4を用いて説明する。
【0024】
本実施例の制御部としてのコントローラ3は、汎用のマイクロコンピュータであり、荷重演算部31と、荷重判定部32と、切換荷重記憶部33と、位置判定部34と、切換位置記憶部35と、モード判定部36と、出力部37と、を備えている。
【0025】
荷重演算部31は、ブーム長さ検出器51で検出されたブーム長さLと、ブーム角度検出器52で検出されたブーム角度θと、モーメント検出器53で検出されたモーメントMと、記憶しているフック16等の重量と、に基づいて、逆算的に吊荷の荷重Wを演算する。
【0026】
荷重判定部32は、切換荷重記憶部33に記憶した切換荷重WXと、演算した吊荷の荷重Wと、の大小関係を判定する。ここにおいて切換荷重WXは、吊上能力(トルク)を考慮し、高速モードでも十分なトルクが得られるように決定される。具体的には、最大クレーン容量が2.93(t)×4.0(m)の場合には、切換荷重WXは1.7(t)に設定される。
【0027】
位置判定部34は、差動トランス54で検出された方向流量制御弁43のスプール位置Pによって、操作レバー49の操作量Sを間接的に判定する。つまり、位置判定部34は、切換位置記憶部35に記憶した切換位置PXと、検出されたスプール位置Pと、の大小関係を判定する。ここにおいて切換位置PXは、高速モードと低速モードの切換時の速度差による衝撃と、微動操作領域の広さと、を考慮し、衝撃を抑えつつ微動領域を確保できるように決められる。具体的には、スプールの全ストロークが6.3(mm)の場合には、切換位置PXは4.0(mm)に設定される。
【0028】
モード判定部36は、吊荷の荷重Wの判定結果と、スプール位置Pの判定結果と、に基づいて、判定マップ(図4)への当てはめを行い、低速モード又は高速モードのいずれを指示するか判定する。
【0029】
すなわち、図4に示すように、縦軸(y軸)を吊荷の荷重Wとし、横軸(x軸)をスプール位置Pとし、切換荷重WX及び切換位置PXを境界として全体を4つの領域に区分した判定マップにおいて、判定時の状態(P,W)がどの領域に属するかを判定する。
【0030】
要するに、モード判定部36は、スプール位置Pが切換位置PX未満の場合には、微動操作したいという意思があると考えられるため、吊荷の荷重Wと切換荷重WXの大小に関係なく、低速モードと判定する。
【0031】
一方、モード判定部36は、スプール位置Pが切換位置PX以上の場合には、高速移動させたいという意思があると考えられるため、吊荷の荷重Wと切換荷重WXの大小関係によって適用すべきモードを変える。つまり、吊荷の荷重Wが切換荷重WX未満であれば、高速移動の意図を優先して高速モードと判定し、吊荷の荷重Wが切換荷重WX以上であれば、安全性を優先して低速モードと判定する。
【0032】
(作用)
次に、本実施例のウインチの制御装置2の作用について、図4,5を用いて説明する。ここで、図5の操作量S0〜S1は図4のスプール位置0に、図5の操作量S3は図4の全ストローク6.3(mm)に、図5の切換操作量SXは図4の切換位置PX(=4.0(mm))に、それぞれ対応する。
【0033】
(操作量が少ない場合の操作性向上)
まず、吊荷の荷重Wによらず、ウインチ操作手段としての操作レバー49の操作量Sが切換操作量SX未満の場合について説明する。
【0034】
この場合、作業者は微動操作したいという意思があると推定されるため、この意思を優先し、低速モードを維持する。
【0035】
具体的には、吊荷の荷重Wが切換荷重WX以上であれば、図4においてa−b−e−gと状態が変化する。すなわち、吊荷の接地前はa−bと変化し、接地後は見かけ上は吊荷の荷重Wが軽くなってb−e−gと変化する。判定時の状態(P,W)は、いずれの状態も低速モードなので、常に低速モードとなる。
【0036】
この状態を図5で説明すると、A−Y間で状態が変化していることに相当し、常に低速モードとなる。
【0037】
同様に、吊荷の荷重Wが切換荷重WX未満であれば、図4においてd−e−gと状態が変化する。すなわち、吊荷の接地前はd−eと変化し、接地後は見かけ上は吊荷の荷重Wが軽くなってe−gと変化する。判定時の状態(P,W)は、いずれの状態も低速モードなので、常に低速モードとなる。
【0038】
この状態を図5で説明すると、A−Y間で状態が変化していることに相当し、常に低速モードとなる。
【0039】
(操作量が多く荷重が小さい場合の移動高速化)
次に、ウインチ操作手段としての操作レバー49の操作量Sが切換操作量SX以上になる場合で、かつ、吊荷の荷重Wが切換荷重WXより小さい場合について説明する。
【0040】
この場合、作業者は微動操作する意思はなく、高速移動させたいという意思があると推定されるため、この意思を優先し、高速モードとする。
【0041】
具体的には、吊荷の荷重Wが切換荷重WX未満であれば、図4においてd−e−f−hと状態が変化する。すなわち、吊荷の接地前はd−e−fと変化し、接地後は見かけ上は吊荷の荷重Wが軽くなってf−hと変化する。スプール位置がPX以上となるe−fの状態で、低速モードから高速モードへと切り換わる。
【0042】
この状態を図5で説明すると、例えば、A−Y−Z−Dと状態が変化していることに相当し、操作量Sが切換操作量SXに達した時点で、低速モードから高速モードへと切り換わり(Y−Z)、高速モードで巻下げて吊荷を接地させ、接地後も高速モードが維持される。
【0043】
(操作量が多く荷重が大きい場合の安全性向上)
次に、ウインチ操作手段としての操作レバー49の操作量Sが切換操作量SX以上の場合で、かつ、吊荷の荷重Wが切換荷重WXより大きい場合について説明する。
【0044】
この場合、作業者は微動操作する意思はなく、高速移動させたいという意思があると推定されるものの、吊荷の荷重Wが大きいため安全を優先し、原則として低速モードとする。
【0045】
具体的には、吊荷の荷重Wが切換荷重WX以上であれば、図4においてa−b−c−f−hと状態が変化する。すなわち、吊荷の接地前はa−b−cと変化し、接地後は見かけ上は吊荷の荷重Wが軽くなってc−f−hと変化するため、低速モードから高速モードへと切り換わる。つまり、吊荷の接地後に低速モードから高速モードに切り換わる。
【0046】
この状態を図5で説明すると、例えば、A−Y−B−Dと状態が変化していることに相当し、ストローク途中では低速モードを維持するものの(A−Y−B)、低速モードで巻下げて吊荷が接地した後に低速モードから高速モードへと切り換わる(B−D)。
【0047】
このように、接地の際に低速モードから高速モードへと切り換わると(図4のc−f)、安全性を損なうおそれがあるものの、作業者が操作レバー49を戻して操作量Sを小さくすることで(図4のf−e,f−g)、高速モードから低速モードに戻すことができる。なお、ここでの安全性に対する対策を第二実施例として後述する。
【0048】
(効果)
次に、本実施例のウインチの制御装置2の効果を列挙して説明する。
【0049】
(1)このように、本実施例のウインチの制御装置2は、ウインチ48の回転速度を制御するウインチの制御装置2であって、吊荷の荷重Wを検出する荷重検出手段としてのブーム長さ検出器51、ブーム角度検出器52及びモーメント検出器53と、ウインチ48を低速モード又は高速モードで回転駆動する可変容量型ウインチモータ44と、可変容量型ウインチモータ44を操作するウインチ操作手段としての操作レバー49と、吊荷の荷重W及び操作レバー49の操作量Sに基づいて可変容量型ウインチモータ44を低速モード又は高速モードに切換える制御部としてのコントローラ3と、を備えている。
【0050】
このため、ブーム長さ検出器51、ブーム角度検出器52及びモーメント検出器53によって検出された吊荷の荷重W、及び、オペレータの意思に基づく操作レバー49の操作量Sに比例するスプール位置Pの両方を考慮してモード判定することで、安全性と操作性を調和させることができる。
【0051】
すなわち、安全性を優先して吊荷の荷重Wのみに基づいてモード判定すると、吊荷の荷重Wが小さいときに操作量Sを小さくしても低速モードによる微動操作ができなくなるため、操作性が悪くなる。
【0052】
一方、操作性を優先して操作量Sのみに基づいてモード判定すると、吊荷の荷重Wが大きくても操作量Sが大きければ高速モードによる高速移動が可能となり安全性を損なう可能性がある。
【0053】
そこで、吊荷の荷重Wと操作量Sの両方に基づいた判定マップを用意し、この判定マップへの当てはめによってモード判定することで、操作性と安全性を調和させることができる。
【0054】
(2)また、制御部としてのコントローラ3は、操作量Sが所定の切換操作量SX未満の場合には、吊荷の荷重Wによらず、可変容量型ウインチモータ44を低速モードに維持する。
【0055】
このように、操作量Sが小さい場合には、慎重に作業したいという作業者の意思を優先し、可変容量型ウインチモータ44を低速モードに維持することで、微動操作が可能となる。
【0056】
(3)さらに、制御部としてのコントローラ3は、操作量Sが所定の切換操作量SX以上の場合には、吊荷の荷重Wが所定の切換荷重WX未満であれば可変容量型ウインチモータ44を高速モードとし、吊荷の荷重Wが切換荷重WX以上であれば可変容量型ウインチモータ44を低速モードとする。
【0057】
このように、操作量Sが大きい場合には、高速移動させたいという作業者の意思を優先しつつ、吊荷の荷重Wに応じて低速モード又は高速モードを判定することで安全性を向上できる。
【0058】
(4)そして、本実施例の移動式クレーンとしてのカーゴクレーン1は、上記したいずれかのウインチの制御装置2を備えることで、安全性と操作性を調和させたクレーンとなる。
【実施例2】
【0059】
以下、図6,7,8を用いて、前記実施例と別のウインチの制御装置2Aについて説明する。なお、前記実施例で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0060】
(構成)
本実施例のウインチの制御装置2Aの機械系の構成及び油圧系の構成については、実施例1と同様であるから説明を省略する。
【0061】
(制御部の構成)
次に、本実施例のウインチの制御装置2Aの制御部としてのコントローラ3Aの構成について、図6を用いて説明する。
【0062】
本実施例の制御部としてのコントローラ3Aは、荷重演算部31と、荷重判定部32と、切換荷重記憶部33と、位置判定部34と、切換位置記憶部35と、モード判定部36と、出力部37と、に加えて、巻下判定部61と、中立判定部62と、モード記憶部63と、をさらに備えている。
【0063】
この巻下判定部61は、操作レバー49の操作量Sに対応するスプール位置Pの時間変化に基づいて巻下開始を判定する。具体的には、スプール位置Pが巻上側からゼロを超えて、巻下側へと位置が換わった時点を巻下開始時と判定する。
【0064】
同様に、中立判定部62は、操作レバー49の操作量Sに対応するスプール位置Pの時間変化に基づいて中立を判定する。具体的には、スプール位置Pが巻下側の位置からゼロとなった時点を中立時と判定する。
【0065】
また、モード記憶部63は、巻下判定部61が巻下開始時と判定した時点における、モード判定部36のモード判定結果を記憶する。要するに、巻下開始時に低速モード又は高速モードのいずれであったかを記憶する。
【0066】
そして、本実施例のモード判定部36は、巻下開始時において判定マップを選択し、選択した判定マップへの当てはめを行うことで低速モード又は高速モードを判定し、中立時まで同じ判定マップを適用する。
【0067】
すなわち、モード判定部36は、はじめに、巻下開始時の吊荷の荷重Wに応じて、用意した2枚の判定マップのいずれの判定マップを適用すべきかを選択する。具体的には、吊荷の荷重Wが切換荷重WX以上であれば図7の判定マップを適用し、吊荷の荷重Wが切換荷重WX未満であれば図8の判定マップを適用する。
【0068】
次に、モード判定部36は、吊荷の荷重Wの判定結果と、スプール位置Pの判定結果と、に基づいて、選択した判定マップ(図7又は図8)への当てはめを行い、低速モード又は高速モードのいずれを指示するか判定する。
【0069】
その後、モード判定部36は、中立時まで選択した判定マップを適用しつづけ、中立時になれば再び適用すべき判定マップを選択し、判定マップへの当てはめも再度行う。
【0070】
(作用)
次に、本実施例のウインチの制御装置2Aの作用について説明する。
【0071】
(巻下開始時の荷重が大きい場合の操作性向上)
まず、巻下開始時の吊荷の荷重Wが切換荷重WX以上の場合について説明する。
【0072】
この場合、操作量Sの多少に関係なく、安全性を優先し、操作レバー49が中立にされるまで低速モードに維持する。
【0073】
具体的には、モード判定部36は、巻下開始時の吊荷の荷重Wが切換荷重WX以上であれば、図7の判定マップを適用したうえで当てはめを行う。
【0074】
そして、操作量Sが多ければ、図7において例えばa−b−c−f−hと状態が変化する。すなわち、吊荷の接地前はa−b−cと変化し、接地後は見かけ上は吊荷の荷重Wが軽くなってc−f−hと変化する。図7の判定マップでは全ての領域で低速モードになるため、低速モードが維持される。
【0075】
一方、操作量Sが少なければ、図7において例えばa−b−e−gと状態が変化する。すなわち、吊荷の接地前はa−bと変化し、接地後は見かけ上は吊荷の荷重Wが軽くなってb−e−gと変化する。図7の判定マップでは全ての領域で低速モードになるため、低速モードが維持される。
【0076】
この状態を図5で説明すると、A−Y−B(−C)間で状態が変化していることに相当し、常に低速モードとなる。
【0077】
(巻下開始時の荷重が小さい場合の移動高速化)
次に、巻下開始時の吊荷の荷重Wが切換荷重WX未満の場合について説明する。
【0078】
この場合、操作レバー49が中立にされるまで、操作量Sが多ければ高速モードとし、操作量Sが少なければ低速モードとする。
【0079】
具体的には、モード判定部36は、巻下開始時の吊荷の荷重Wが切換荷重WX未満であれば、図8の判定マップを適用したうえで当てはめを行う。
【0080】
そして、操作量Sが多ければ、図8において例えばd−e−f−hと状態が変化する。すなわち、吊荷の接地前はd−e−fと変化し、接地後は見かけ上は吊荷の荷重Wが軽くなってf−hと変化する。e−fではスプール位置がPXを超えて高速モードになるため、低速モードから高速モードへと切り換わる。
【0081】
一方、操作量Sが少なければ、図8において例えばd−e−gと状態が変化する。すなわち、吊荷の接地前はd−eと変化し、接地後は見かけ上は吊荷の荷重Wが軽くなってe−gと変化する。d−e−gは低速モードなので、低速モードが維持される。
【0082】
この状態を図5で説明すると、A−Y−Z−D(−E)間で状態が変化していることに相当し、操作量Sが切換操作量SXに達した時点で低速モードから高速モードへと切り換わる(Y−Z)。
【0083】
(効果)
次に、本実施例のウインチの制御装置2Aの効果を列挙して説明する。
【0084】
(1)このように、本実施例のウインチの制御装置2Aの制御部としてのコントローラ3Aは、巻下げが開始される時点での吊荷の荷重Wが所定の切換荷重WX以上の場合には、ウインチ操作手段としての操作レバー49が中立にされるまで、可変容量型ウインチモータ44を低速モードに維持する。
【0085】
このため、吊荷の荷重Wが大きい場合は低速モードに維持することで、接地後に見かけの荷重が軽くなっても、高速モードに切り換わることを防止できるため、安全性が向上する。
【0086】
(2)また、制御部としてのコントローラ3Aは、巻下げが開始される時点での吊荷の荷重Wが所定の切換荷重WX未満の場合には、ウインチ操作手段としての操作レバー49が中立にされるまで、操作量Sが所定の切換操作量SX未満であれば可変容量型ウインチモータ44を低速モードにし、操作量Sが切換操作量SX以上であれば可変容量型ウインチモータ44を高速モードにする。
【0087】
このため、吊荷の荷重Wが小さい場合には、操作量Sに反映された作業者の意思を優先し、操作量Sが小さい場合には低速モードとし、操作量Sが大きい場合には高速モードとすることで、操作性を向上できる。
【0088】
なお、この他の構成および作用効果については、前記実施例と略同様であるため説明を省略する。
【0089】
以上、図面を参照して、本発明の実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0090】
例えば、前記実施例1,2では、移動式クレーンとしてカーゴクレーン1にウインチの制御装置2,2Aを適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、トラッククレーン、ラフテレーンクレーン、オールテレーンクレーン、などの移動式クレーンにも適用できる。
【0091】
また、前記実施例1,2では、操作量Sを間接的に検出するためにスプール位置Pを検出する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ウインチ操作手段としてラジコン操作機(送受信機)を用いた場合には、スプール位置Pを検出しなくても直接的に操作量Sを検出することができる。
【0092】
さらに、前記実施例1は、巻下げを例として説明したが、これに限定されるものではなく、図4の判定マップは巻き下げだけでなく、巻上げにも適用することができる。
【0093】
そして、前記実施例1,2では、切換荷重WX及び切換位置PXは、あらかじめ切換荷重記憶部33及び切換位置記憶部35に記憶しておくものとして説明したが、これに限定されるものではなく、ユーザの好みに応じて適当な値に調整することもできる。
【0094】
また、前記実施例2は、実施例1とは別のコントローラ3Aを有するとして説明したが、これに限定されるものではなく、実施例2のコントローラ3Aは実施例1のコントローラ3と同一のものでもよく、実施例1を原則としたうえで例外的に実施例2を実施することもできる。
【0095】
さらに、前記実施例では、荷重演算部31は、ブーム長さL、ブーム角度θ、モーメントM等に基づいて、吊荷の荷重Wを演算する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、吊荷の荷重Wを可変容量型ウインチモータ44へ供給する圧力により判定して可変容量型ウインチモータ44の速度制御を行ってもよい。
【0096】
その場合の構成として、ウインチ制御装置は、方向流量制御弁43と可変容量型ウインチモータ44の油圧経路に圧力スイッチを備える。この圧力スイッチは、クレーンが切換荷重WXに相当する吊荷の荷重Wを吊上げた時に信号を出力する。この信号をコントローラ3に入力すれば、前記実施例と同様のウインチ制御を行うことができる。
【0097】
すなわち、圧力スイッチからの信号をコントローラ3が受けて、コントローラ3内部で信号の変換処理を行い、吊荷モード判定部32に信号を出力すればよい。
【0098】
なお、吊荷の荷重Wを吊り上げた時に圧力スイッチが検出する圧力は、可変容量型ウインチモータ44の容量によって変化する。この変化に対応するためには、容量の大小に応じた圧力スイッチを2種類備え、可変容量型ウインチモータ44の現在の容量に応じて、どちらの圧力スイッチの出力を利用するかを選定すればよい。この選定は、可変容量型ウインチモータ44の現在の容量をコントローラ3が記憶していることにより、コントローラ3内部の処理によって行うことができるので、2つの圧力スイッチの出力から選定した適切な方の出力を吊荷モード判定部に出力すればよい。
【0099】
これにより、ブーム長さL、ブーム角度θ、モーメントMを検出するセンサを備えることなく、可変容量型ウインチモータ44の速度制御を行うことができ、構成の簡素化を図ることができる。
【符号の説明】
【0100】
P スプール位置
PX 切換位置
S 操作量
SX 切換操作量
W 吊荷の荷重
WX 切換荷重
1 カーゴクレーン(移動式クレーン)
2,2A ウインチの制御装置
3,3A コントローラ(制御部)
31 荷重演算部
32 荷重判定部
33 切換荷重記憶部
34 位置判定部
35 切換位置記憶部
36 モード判定部
37 出力部
43 方向流量制御弁
44 可変容量型ウインチモータ
51 ブーム長さ検出器(荷重検出手段)
52 ブーム角度検出器(荷重検出手段)
53 モーメント検出器(荷重検出手段)
54 差動トランス(操作量検出器)
61 巻下判定部
62 中立判定部
63 モード記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウインチの回転速度を制御するウインチの制御装置であって、
吊荷の荷重を検出する荷重検出手段と、
前記ウインチを低速モード又は高速モードで回転駆動する可変容量型ウインチモータと、
前記可変容量型ウインチモータを操作するウインチ操作手段と、
前記吊荷の荷重及び前記ウインチ操作手段の操作量に基づいて前記可変容量型ウインチモータを低速モード又は高速モードに切換える制御部と、を備えることを特徴とするウインチの制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記操作量が所定の切換操作量未満の場合には、
前記吊荷の荷重によらず、前記可変容量型ウインチモータを低速モードに維持することを特徴とする請求項1に記載のウインチの制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記操作量が所定の切換操作量以上の場合には、
前記吊荷の荷重が所定の切換荷重未満であれば前記可変容量型ウインチモータを高速モードとし、前記吊荷の荷重が前記切換荷重以上であれば前記可変容量型ウインチモータを低速モードとすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウインチの制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、巻下げが開始される時点での前記吊荷の荷重が所定の切換荷重以上の場合には、前記ウインチ操作手段が中立にされるまで、
前記可変容量型ウインチモータを低速モードに維持することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のウインチの制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、巻下げが開始される時点での前記吊荷の荷重が所定の切換荷重未満の場合には、前記ウインチ操作手段が中立にされるまで、
前記操作量が所定の切換操作量未満であれば前記可変容量型ウインチモータを低速モードにし、前記操作量が前記切換操作量以上であれば前記可変容量型ウインチモータを高速モードにすることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のウインチの制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のウインチの制御装置を備えることを特徴とする移動式クレーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−62175(P2012−62175A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209024(P2010−209024)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000148759)株式会社タダノ (419)
【Fターム(参考)】