説明

ウエットシート

【課題】ウエットシートの基本的な性能を確保しつつ、清拭による各種プラスチックへの悪影響がないウエットシートを提供すること。
【解決手段】式(1):R1−O−R2−OH(式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基であり、R2は炭素数2〜3のアルキレン基である。)で示されるグリコール誘導体を3〜20質量%及びカチオン系殺菌剤を0.1〜5.0質量%含有する液剤が繊維シートに含浸してなる、ウエットシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウエットシートに関する。より具体的には、本発明は、医療施設において、感染防止のために各種の医療機器の外装、手が頻回に接触するドアノブ、ベッドサイドテーブル、ベッド柵や各種の手すり等を除菌するのに用いる除菌清拭用ウエットシートに関する。
【背景技術】
【0002】
殺菌剤等を含有する水溶液を不織布に含浸させた所謂ウエットシートという形態は、簡便で使い易く、また使い捨てできることから、家庭のみならず医療現場でも重宝されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、芯材層の上下両面に表面層が交絡法で一体に積層されている三層構造の不織布シートに特徴を有したものが開示されている。特許文献1の殺菌剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼントニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、ポピドンヨード等が用いられる。
【0004】
特許文献2や特許文献3には、塩化ベンザルコニウム等のカチオン系殺菌剤と、グリコール系溶剤を含む水溶液を不織布に含浸させるウエットティッシュ又は殺菌性ウエットワイパーが開示されている。
【0005】
特許文献4に示される清掃用不織布は、界面活性剤と水溶性溶剤及びアルカリ剤を含有する洗浄剤を含浸させることを特徴とするものである。
【0006】
特に近年、医療施設における感染防止上の重要な施策として、手が頻回に接触する場所、例えばドアノブや各種の手すり、あるいは各種の医療機器の外装等、を介した微生物汚染の伝播を遮断することが重要であることが認識されるようになってきた。そのため、医療現場において、殺菌剤等を含浸するウエットシートを使用する頻度が高まってきた。
【特許文献1】特開2005−137702号公報
【特許文献2】特開平6−46968号公報
【特許文献3】特開平10−057293号公報
【特許文献4】特開2003−180593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の使用頻度ではそれほど意識されなかったが、かかるウエットシートの使用頻度をより多くした場合、どういうわけかプラスチック類、取り分け医療機器の外装等に汎用されているABS樹脂に変色やひび割れが生じる。かかる変色やひび割れは、美観上問題となるだけではく、機器の寿命にも影響する。
【0008】
そこで本発明者らは、医療現場で使用できるウエットシートの基本的な性能、例えば除菌性、汚れの除去性及び保管時のウエットシート自体の防腐性、を確保しつつ、プラスチック類に悪影響を与えないウエットシートを提供すべく、従来のウエットシートに含有される成分について詳細に検討した。
【0009】
例えば、特許文献2や特許文献3において用いられているグリコール系溶剤であるプロピレングリコールや1,3−ブタンジオールはABS樹脂に損傷を与えることが分かった。さらに特許文献2に開示されるパラベン類は少量の添加でABS樹脂に損傷を与えることが分かった。
【0010】
特許文献4において水溶性溶剤として挙げられるグリコール類にはエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノフェニルエーテル等が含まれ、これらはABS樹脂に損傷を与えることが分かった。このように、従来のウエットシートでは、医療機器類に多用されているプラスチック類への影響に対する配慮がなされていない。
【0011】
本発明の課題は、ウエットシートの基本的な性能を確保しつつ、清拭による各種プラスチックへの悪影響がないウエットシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕式(1):R1−O−R2−OH 式(1)
(式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基であり、R2は炭素数2〜3のアルキレン基である。)で示されるグリコール誘導体を3〜20質量%及びカチオン系殺菌剤を0.1〜5.0質量%含有する液剤が繊維シートに含浸してなる、ウエットシートに関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のウエットシートは、ウエットシートの基本的な性能を確保しつつ、清拭による各種プラスチックへの悪影響がないという優れた効果を奏するものである。しかも本発明のウエットシートは、除菌性、保管中の防腐性だけでなく、油性汚れ及び血液汚れに対する汚れの除去性にも優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のウエットシートはグリコール誘導体とカチオン系殺菌剤とを含有する液剤が繊維シートに含浸してなり、除菌清拭に用いられる。本明細書における液剤とは上記成分を含有する水溶液であり、本明細書において含浸液とも言う。
【0015】
本明細書において、含浸液が繊維シートに含浸される割合を含浸率%で示す。含浸率%は、繊維シート質量を100とした含浸液の質量である。本発明における含浸率としては、100〜250%が好ましく、150〜200%がより好ましい。拭き取り効果を発揮する観点から、含浸率は100%以上が好ましく、キーボード等の機器内部への水分の進入を防止する観点から、含浸率は250%以下が好ましい。
【0016】
本発明で用いられるグリコール誘導体は、式(1):
1−O−R2−OH 式(1)
(式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基であり、R2は炭素数2〜3のアルキレン基である。)で示されるグリコール誘導体である。好ましいグリコール誘導体としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びプロピレングリコールモノエチルエーテルからなる群より選択される一種以上の化合物が挙げられる。
【0017】
グリコール誘導体は含浸液中に3〜20質量%含有され、好ましくは含浸液中に5〜15質量%含有され、より好ましくは含浸液中に7〜12質量%含有される。ABS樹脂等のプラスチックに対する損傷を軽減させる効果、及び充分な防腐効果が発揮される観点から、グリコール誘導体は含浸液中に3質量%以上含有されることが好ましく、防腐効果に見合った量を含有させるという観点から、グリコール誘導体は含浸液中に20質量%以下含有されることが好ましい。
【0018】
本発明で用いられるカチオン系殺菌剤としては、本技術分野で公知のカチオン系殺菌剤が制限なく挙げられる。好ましいカチオン系殺菌剤としては、例えば、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、グルコン酸クロルヘキシジン及び式(2):
3456+- 式(2)
(式中、R3〜R6のうち少なくとも1つは、アルコキシル基、アルカノイルアミノ基又はアルカノイルオキシ基で置換されていてもよい総炭素数8〜28のアルキル基又はアルケニル基であり、これらの基でない残余の基はフェニル基、ベンジル基、炭素数1〜5のアルキル基又は−(R7O)H(ここでR7は炭素数2〜3のアルキレン基であり、mは2〜40の数である)である。ただし、X-はハロゲン化物イオン又は有機性の一価のアニオンである。)からなる群より選択される一種以上の化合物が挙げられる。
【0019】
式(2)で示される化合物の具体例としては、例えばジデシルジメチルアンモニウムクロリド、塩化ベンザルコニウム、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0020】
カチオン系殺菌剤は含浸液中に0.1〜5.0質量%含有され、好ましくは含浸液中に0.2〜2.0質量%含有され、より好ましくは含浸液中に0.4〜1.0質量%含有される。充分な除菌効果が発揮される観点から、カチオン系殺菌剤は含浸液中に0.1質量%以上含有されることが好ましく、除菌効果に見合った量を含有させるという観点から、カチオン系殺菌剤は含浸液中に5.0質量%以下含有されることが好ましい。
【0021】
本発明における含浸液には、グリコール誘導体、カチオン系殺菌剤及び水以外の添加剤が含まれていてもよい。かかる添加剤としては、公知のウエットシートに用いられる界面活性剤、増粘剤、防錆剤、紫外線吸収剤、着色剤、香料等が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルグリコシド等の非イオン性界面活性剤;アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等の陰イオン性界面活性剤;ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン等の酢酸ベタイン型両性界面活性剤;ラウリルジメチルアミンオキサイド等の両性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤としては、一種類を単独で用いてもよく、又は複数の種類を組み合わせて用いてもよい。かかる界面活性剤を用いることにより、高い洗浄力を発揮させる効果が奏されるため、好ましい。
【0022】
添加剤は含浸液中に0.0001〜5.0質量%含有されることが好ましく、0.001〜2.0質量%含有されることがより好ましく、0.01〜1.0質量%含有されることがさらに好ましい。
【0023】
本発明に用いられる繊維シートとしては不織布が好ましい。不織布としては、ウエットシートとして用いられている公知の不織布が挙げられる。清拭操作時の強度を保持する観点から、不織布としては合成系繊維が混用されてなるものが好ましい。ここで用いることができる合成系繊維としては、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル−ポリエチレン芯鞘繊維、ポリプロピレン−ポリエチレン芯鞘繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維)ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリウレタン繊維等が挙げられる。さらには高密度ポリエチレンポリプロピレン等の共重合体系の繊維も合成系繊維に含まれる。
【0024】
本発明に用いられる不織布には、これら合成系繊維に加えてさらに他の天然系繊維(木綿等)や再生繊維(レーヨン等)が混合されることが好ましい。例えば、セルロース系の繊維を不織布基材の一部として用いると、吸水性が向上するので好ましい。コットンのような短繊維で構成された不織布を用いると、吸水性が良好であるばかりでなく、柔軟性が向上し清拭性が良好となるためより好ましい。他の構成繊維としては、コットン、パルプ等が挙げられる。
【0025】
不織布の製造方法も限定されない。例えば、湿式法、抄紙法、乾式法、接着法、機械結合法、スパンボンド法、抄紙法、交合法等の公知の方法で製造でき、これらの製法が組み合わさって製造された不織布でもよい。
【0026】
本発明に用いる繊維シートの表面状態も限定されない。例えば、繊維シートに貫通孔があってもよいし、繊維シート表面に円形、楕円形、長方形等の凹部があってもよいし、繊維シート表面に縦筋や横筋があってもよい。ここでいう凹部とは、貫通はしていないが、へこんだ部分のことをいう。繊維シート表面に貫通孔、凹部、筋等が存在すると、清拭時に汚れの掻き取り効果が向上するので好ましい。
【0027】
本発明のウエットシートを構成する繊維シートの坪量は20〜200g/mが好ましく、より好ましくは25〜120g/m、さらに好ましくは30〜80g/mである。清拭時の強度を維持する観点から、坪量は20g/m以上であることが好ましく、風合の軟らかさを確保する観点から、坪量は200g/m以下が好ましい。
【0028】
本発明のウエットシートの製造方法には限定されない。例えば、ロール状に巻かれたウエットシート用の繊維シートを、一方向のみ開封している筒状のプラスチック容器に収納し、含浸液を一定量含浸させ、プラスチックシート等で上部にヒートシールを行い、開口部を有する蓋を嵌め込む方法;1枚ずつ折り重ねた繊維シートを、1方向のみ開封しているプラスチックシート等で製袋された容器に収納し、含浸液を一定量含浸させ、開封部をヒートシールする方法;1枚ずつ折り重ねた状態の繊維シートに含浸液を一定量含浸させ、プラスチックシート等での製袋を行いながら濡れた状態の繊維シートをその袋内に収納する方法;繊維シートロールから繊維シートをシート状に引き出しながら含浸液を一定量含浸させた後に、カットし1枚ずつ折り重ねたり、ロール状にリワインドさせたりして容器に収納する方法;が挙げられる。さらにはこれらの製造方法が組み合わさった製造方法でもよい。
【実施例】
【0029】
以下の各例において、次の成分を用いた。
カチオン系殺菌剤:
・コータミンD10E(花王社製:ジデシルジメチルアンモニウムクロリドを80質量%含有する)
・サニゾールC(花王社製:塩化ベンザルコニウムを50質量%含有する)
・コータミン24P(花王社製:ラウリルトリメチルアンモニウムクロリドを27質量%含有する)
両性界面活性剤:
・アンヒトール20N(花王社製:ラウリルジメチルアミンオキサイドを35質量%含有する)
【0030】
予備試験例
<含浸液によるABS樹脂に対する損傷性の評価>
次に示す組成を有する水溶液を含浸液として調製した。
コータミンD10E:0.4質量%
グリコール誘導体:表1に記載の各化合物:10.0質量%
アンヒトール20N:0.2質量%
精製水:バランス
【0031】
【表1】

【0032】
厚さ1mm、幅10mm、長さ70mmのABS樹脂製の板をテスト板として用意した。次いで、このテスト板の全体が浸る量の25℃の含浸液中にテスト板を8時間浸漬した。浸漬後のテスト板の外観を観察し、次いでテスト板のほぼ中央部が直角に曲がるまでテスト板を屈曲させた。テスト板を屈曲させることにより、テスト板の強度に与える含浸液の影響を評価した。その結果、いずれの含浸液についても、浸漬後のテスト板にはひび割れ又は変色が観察され、しかも屈曲させたことでテスト板は折れた。このように、水溶性溶剤として汎用されている各種グリコール誘導体等を含浸液に配合しても、含浸液はABS樹脂に対する損傷性を有することが分かった。
【0033】
実施例1〜5及び比較例1〜4
表2及び表3に記載の組成を有する水溶液を含浸液として調製した。調製された含浸液を、表2及び表3に記載の含浸率で不織布に含浸させて、ウエットシートを作製した。不織布としては、ダイワボウポリテック株式会社製のASP40K(レーヨン/ポリエチレンテレフタレート/高密度ポリエチレンポリプロピレン:坪量40g/m3)を用いた。不織布のサイズは140×200mmとした。なお、表2及び表3においては、各成分の組成を含浸液中の質量%で示した。
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
試験例1
<ウエットシートの防腐性の評価>
実施例及び比較例のウエットシートを、各例あたり10枚用意したものを、それぞれ5袋できるように2枚ずつピロー包装して、下記評価に使用した。包装素材は、アルミ層含有シートとし、密封はヒートシールにより行った。ウエットシート1枚あたりの質量は約2.5〜3.6gであった。一般細菌としての大腸菌(IFO3972)と黄色ブドウ球菌(IFO13276)、真菌としての黒色麹カビ(IFO6341)を各ウエットシートに接種した。これらの微生物の接種は、各シート間で接種量がほぼ等しくなるように、次のようにして行った:大腸菌と黄色ブドウ球菌は、約106cfu/mLに、黒色麹カビは約104cfu/mLに調製された菌液を、各ウエットシート1枚あたり0.1mL接種した。
【0037】
次いで、ピロー包装して密封された、微生物が接種された各ウエットシートを室温で保存した。これらの微生物の生存又は死滅を日々評価した。評価は二週間かけて行った。具体的な評価は次のようにして行った。ウエットシートに含浸された含浸液の9倍の質量の滅菌生理食塩水をウエットシートに加えて、均一に混合した。得られた混合液の0.1mLを一般細菌用のSCDLP寒天培地及び真菌用のGPLP寒天培地にそれぞれ接種して、37℃で24時間と、25℃で4日間培養した。培養後、コロニーの生成のないことによって、細菌及び真菌の死滅を確認した。
【0038】
ウエットシートの防腐性を、下記の基準で評価した。
◎:細菌と真菌の両方の死滅が1日以内で確認できた。
○:細菌と真菌の両方の死滅が2日〜7日以内で確認できた。
×:14日目を超えても、細菌と真菌のいずれか又は両方の死滅が確認できなかった。
【0039】
試験例2
<ABS樹脂に対する損傷性の評価>
予備試験例と同じABS樹脂製板をテスト板として用意した。実施例及び比較例の各ウエットシートを、テスト板のほぼ中央部に室温下で24時間接触させた。24時間後に、テスト板の接触部位の外観を観察し、次いでテスト板のほぼ中央部が直角に曲がるまでテスト板を屈曲させた。
【0040】
下記の基準で結果を評価した。
○:肉眼では試験前のテスト板と試験後のテスト板の外観の区別が付かず、しかも試験後のテスト板を屈曲させても折れなかった。
×:試験後のテスト板にはひび割れ又は変色が観察され、しかも屈曲させたことで折れた。
【0041】
一方、実施例及び比較例で用いた含浸液そのものについても、ABS樹脂に対する損傷性を評価した。具体的には、予備試験例と同じ方法により、損傷性を評価した。
【0042】
さらに、不織布として上記ASP40Kに代えて、ユニチカ(株)社製のコットエースC050S/A07(コットン100%:坪量50g/m3)を用いて、実施例1〜5と同様の条件でABS樹脂に対する損傷性を評価した。その結果、実施例1〜5の組成の含浸液を用いて作製されたいずれのウエットシートについても評価は○であった。
【0043】
試験例3
<油性汚れ除去性評価>
油性汚れのモデル汚れとしての中鎖トリグリセライド(目視確認できるように油溶性染料で着色)を均一にステンレス板上に塗布した。この汚れに対して、実施例及び比較例の各ウエットシートを用いて上下に5回清拭した。清拭操作は5名が実施した。実施者には、全ての清拭操作を同様に行うように指示し、各ウエットシートのどれが実施例でどれが比較例に該当するかを知らせなかった。清拭操作後の油性汚れの除去程度を目視にて判定した。
【0044】
下記の基準で結果を評価した。
○:清拭後の汚れの面積が塗布時の汚れの面積の10%未満であった。
△:清拭後の汚れの面積が塗布時の汚れの面積の10〜50%であった。
×:清拭後の汚れの面積が塗布時の汚れの面積の50%を超えていた。
【0045】
試験例4
<血液汚れ除去性評価>
ステンレス板上に馬血液の50μLを、直径約1.5cmの円形に広げ、50℃で1時間かけて乾燥させた。この汚れに対して、実施例及び比較例の各ウエットシートを用いて上下に5回清拭した。清拭操作は5名が実施した。実施者には、全ての清拭操作を同様に行うように指示し、各ウエットシートのどれが実施例でどれが比較例に該当するかを知らせなかった。清拭操作後の血液汚れの除去程度を目視にて判定した。
【0046】
下記の基準で結果を評価した。
○:清拭により90%以上の血液汚れが除去された。
△:清拭により50〜90%未満の血液汚れが除去された。
×:清拭により50%未満の血液汚れが除去された。
【0047】
試験例5
<除菌率の評価>
ステンレス板に皮膚常在菌を接種し、室温で10分間放置後、試験例4と同様の方法で実施例及び比較例の各ウエットシートを用いて当該ステンレス板を清拭した。清拭直後のステンレス板の残存生菌数をスタンプ法にて測定した。スタンプ法には日水製薬製フードスタンプを使用した。37℃、24時間培養を行い、生成したコロニー数を計測した。この計測結果に基づいて、接種した菌数に対する除菌された菌の割合(除菌率%)を求めた。
【0048】
各試験例の結果を表4に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
このように、予備試験例と試験例2から、たとえ含浸液の組成が本発明における含浸液の組成の範囲内であったとしても、含浸液の状態のままではABS樹脂に対する損傷性を有すること、及び本発明のウエットシートの形態とすることで初めてABS樹脂に対する損傷性がなくなったことが分かる。さらに試験例1及び試験例3〜5より、本発明のウエットシートは、油性汚れや血液汚れに対する除去性が優れていること、保管時の微生物汚染に対して充分な防腐性を有すること、及び除菌性にも優れていることが分かり、取り分け医療施設において好適に用いることができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のウエットシートは、除菌清拭用のウエットシートとして、医療施設における医療機器の外装やドアノブ等の汚れの除去や殺菌に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
1−O−R2−OH 式(1)
(式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基であり、R2は炭素数2〜3のアルキレン基である。)で示されるグリコール誘導体を3〜20質量%及びカチオン系殺菌剤を0.1〜5.0質量%含有する液剤が繊維シートに含浸してなる、ウエットシート。
【請求項2】
グリコール誘導体が、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びプロピレングリコールモノエチルエーテルからなる群より選択される一種以上の化合物である、請求項1に記載のウエットシート。
【請求項3】
カチオン系殺菌剤が、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、グルコン酸クロルヘキシジン及び式(2):
3456+- 式(2)
(式中、R3〜R6のうち少なくとも1つは、アルコキシル基、アルカノイルアミノ基又はアルカノイルオキシ基で置換されていてもよい総炭素数8〜28のアルキル基又はアルケニル基であり、これらの基でない残余の基はフェニル基、ベンジル基、炭素数1〜5のアルキル基又は−(R7O)H(ここでR7は炭素数2〜3のアルキレン基であり、mは2〜40の数である)である。ただし、X-はハロゲン化物イオン又は有機性の一価のアニオンである。)
からなる群より選択される一種以上の化合物である、請求項1又は2に記載のウエットシート。
【請求項4】
液剤がさらに界面活性剤を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のウエットシート。

【公開番号】特開2010−138519(P2010−138519A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315775(P2008−315775)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】