説明

ウエブ搬送装置及びその方法と電池の製造方法

【課題】スリッタ刃の位置に合わせて,ウエブの搬送位置を調整し,切断後の各ウエブの幅を適切に揃えることのできるウエブ搬送装置及びその方法と電池の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のウエブ搬送装置は,ウエブをその長手方向に沿って切断するスリッタローラ組30と,それより搬送方向の上流側におけるウエブ供給の幅方向位置を調整する蛇行補正部20と,スリッタローラ組30より搬送方向の下流側における各ウエブの幅を検知するエッジセンサ41〜44と,そのセンサ値に基づくフィードバック制御により,各ウエブの幅が等しくなるように蛇行補正部20を操作するウエブ位置制御部50と,エッジセンサによる検出値に,予め定めた周波数以上の高周波成分をカットオフするローパスフィルタ処理を施してウエブ位置制御部50に入力するローパスフィルタ処理部とを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えば電池用の電極板等を製造する工程において使用され,帯状の薄板(以下,ウエブ)を搬送するためのウエブ搬送装置及びその方法と電池の製造方法に関する。さらに詳細には,製造工程中にウエブの切断工程が含まれており,その前後での蛇行補正制御を行うウエブ搬送装置及びその方法と電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばリチウムイオン電池に使用される電極板は,帯状の金属箔の両面に活物質を塗工することによって製造される。例えば,金属箔の両面に活物質ペーストを塗工し,塗工された活物質ペーストを乾燥し,乾燥した活物質ペーストをその金属箔とともに圧延し,圧延した活物質ペーストを金属箔とともに切断する。そのために,金属箔をロール状にしたもの(ウエブロール)からウエブを順次巻き出し,ウエブを搬送しつつ各工程を実施して電極板を製造する。
【0003】
従来より,ウエブを搬送するためのウエブ搬送装置では,ウエブの幅方向へのずれを補正するための蛇行補正制御が行われている(例えば,特許文献1参照。)。本文献には,例えば,エッジセンサによりウエブの片側のエッジの位置を検出する装置が開示されている。この装置では,ウエブのエッジが希望の位置となるように,搬送ローラを幅方向に移動させるようにされている。また,ウエブの両側のエッジにそれぞれセンサを設け,ウエブの中心の変動を修正するようにした装置も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−226005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来の蛇行補正制御では,ウエブの搬送経路の目標である位置が予め定められており,ウエブがその位置へ近づくように制御している。ところが,ウエブを長手方向に沿って切断する工程を含むウエブ搬送装置では,切断された後の各ウエブの幅を揃えることが求められる場合がある。この場合には,ウエブを切断するスリッタ刃の位置に対してウエブの位置を合わせるように制御する必要がある。しかしながら,スリッタ刃の位置は,必ずしも不動のものではないという問題点があった。例えば,スリッタ刃は消耗品であるので適宜交換される必要があり,そのスリッタ刃の交換の前後で,スリッタ刃の位置が多少ずれることがある。
【0006】
さらには,スリッタ刃が,スリッタローラに搭載されているものでは,スリッタローラの一端部に回転駆動のための駆動部が設けられているものがある。このようなものでは,連続した駆動によって駆動部が発熱し,スリッタ刃の軸方向への位置変動を招く場合がある。例えば,スリッタローラや駆動部自体が,熱によってその軸方向に多少伸びるからである。そのため,連続した製造の途中でも,切断後のウエブの幅が多少変化してしまうという問題点があった。
【0007】
本発明は,前記した従来の搬送装置が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,スリッタ刃の位置に合わせて,ウエブの搬送位置を調整し,切断後の各ウエブの幅を適切に揃えることのできるウエブ搬送装置及びその方法と電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題の解決を目的としてなされた本発明のウエブ搬送装置は,ウエブ供給部と,ウエブ回収部と,ウエブ供給部とウエブ回収部との間に設けられ,ウエブをその長手方向に沿って切断するスリット部とを有し,ウエブ供給部から供給されたウエブを搬送しつつスリット部で切断してウエブ回収部で回収するウエブ搬送装置であって,スリット部より搬送方向の上流側におけるウエブ供給の幅方向位置を調整する幅方向位置調整部材と,スリット部より搬送方向の下流側における各ウエブの幅を検知するウエブ幅センサと,ウエブ幅センサによる検出値に基づくフィードバック制御により,各ウエブの幅が等しくなるように幅方向位置調整部材を操作する幅方向位置制御部と,ウエブ幅センサによる検出値に,予め定めた周波数以上の高周波成分をカットオフするローパスフィルタ処理を施して幅方向位置制御部に入力するローパスフィルタ処理部とを有するものである。
【0009】
本発明のウエブ搬送装置によれば,ウエブは搬送されつつ長手方向に沿って切断され,その切断後の各ウエブの幅が,ウエブ幅センサによって検出される。さらに,その検出値に基づいて,各ウエブの幅が等しくなるようにフィードバック制御される。その際,ウエブ幅センサによる検出値にローパスフィルタ処理を施して,高周波成分をカットオフする。このようにすれば,ノイズを除去して,ゆっくりした変位のみを対象とした制御とすることができる。例えば,スリット部における刃の位置の熱による変位に適切に対応することができる。従って,スリッタ刃の位置に合わせて,ウエブの搬送位置を調整し,切断後の各ウエブの幅を適切に揃えることのできる装置となっている。
【0010】
さらに本発明では,幅方向位置調整部材の搬送方向の下流側で,かつ,スリット部より搬送方向の上流側に配置され,ウエブの幅方向位置を検知するウエブ位置センサを有し,幅方向位置制御部は,ウエブ位置センサによる検出位置から,ウエブ幅センサによって検出された各ウエブの幅の差の半分を引いた値を目標位置とし,ウエブ位置センサによる検出位置が,目標位置に近づくように幅方向位置調整部材を操作することが望ましい。
このようなものであれば,搬送しつつ目標位置が設定され,各ウエブの幅の差が無くなるように制御される。
【0011】
本発明のウエブ搬送方法は,ウエブを,幅方向位置調整部材によりその幅方向に位置調整しつつ,その長手方向に搬送し,スリット部によりその長手方向に沿ってウエブを切断するウエブ搬送方法であって,スリット部より搬送方向の下流側における各ウエブの幅をウエブ幅センサによって検知し,検知した各ウエブの幅に基づくフィードバック制御により,各ウエブの幅が等しくなるように幅方向位置調整部材を操作するとともに,フィードバック制御における各ウエブの幅の値として,ウエブ幅センサによる検出値に,予め定めた周波数以上の高周波成分をカットオフするローパスフィルタ処理を施したものを用いるものである。
この方法によれば,ノイズを除去して,切断後の各ウエブの幅を適切に揃えることができる。
【0012】
さらに本発明では,スリット部の刃交換後,フィードバック制御の開始前に,ウエブを搬送してスリット部により切断し,切断後の各ウエブの幅を測定し,その測定結果に基づいてフィードバック制御の目標位置を決定し,ウエブの幅方向の搬送位置が決定された目標位置に近づくようにフィードバック制御による幅方向位置調整部材の操作を開始することが望ましい。
このようにすれば,スリット部の刃の交換によって,切断後の各ウエブの幅に急激な変位があった場合でも,適切に制御できる。
【0013】
さらに本発明では,ウエブを搬送しつつ随時,フィードバック制御の目標位置を更新し,更新された目標位置に近づくように幅方向位置調整部材の操作を行うことが望ましい。
このようにすれば,例えば熱の発生等によって,切断後の各ウエブの幅が徐々に変位した場合でも,適切に制御できる。
【0014】
また本発明は,導体箔ウエブを,幅方向位置調整部材によりその幅方向に位置調整しつつ,その長手方向に搬送し,スリット部によりその長手方向に沿ってウエブを切断することにより電極板を製造し,製造された電極板を電解液とともにケースに封入して電池を製造する電池の製造方法であって,スリット部より搬送方向の下流側における各ウエブの幅をウエブ幅センサによって検知し,検知した各ウエブの幅に基づくフィードバック制御により,各ウエブの幅が等しくなるように幅方向位置調整部材を操作するとともに,各ウエブの幅として,ウエブ幅センサによる検出値に,予め定めた周波数以上の高周波成分をカットオフするローパスフィルタ処理を施したものを用いる電池の製造方法にも及ぶ。
【発明の効果】
【0015】
本発明のウエブ搬送装置及びその方法と電池の製造方法によれば,スリッタ刃の位置に合わせて,ウエブの搬送位置を調整し,切断後の各ウエブの幅を適切に揃えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本形態に係るウエブ搬送工程を示すブロック図である。
【図2】各センサの配置を示す説明図である。
【図3】蛇行補正部とスリッタ部との構成を示す説明図である。
【図4】蛇行制御のための処理ブロック線図である。
【図5】エッジセンサの検出値とローパスフィルタ処理の結果とを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,本発明を具体化した形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,リチウムイオン二次電池に用いられる電極板を製造する製造装置に,本発明を適用したものである。
【0018】
本形態の製造装置を使用して製造されるリチウムイオン二次電池には,アルミ箔の両面に正極活物質を塗工した正極用の電極板と,銅箔の両面に負極活物質を塗工した負極用の電極板とが用いられている。このリチウムイオン二次電池は,例えば,これらの電極板の間にセパレータを挟んで捲回したものを,電解液とともにケース内に密封した,捲回タイプの二次電池である。本形態は,その正負の電極板の製造に際して,アルミ箔,銅箔,またはそれらに活物質が載った製造途中のもの等のウエブを搬送するための搬送装置である。
【0019】
まず,正極用の電極板の製造工程のうちの一部として使用される搬送装置を,図1に示すブロック図を参照して説明する。この搬送装置は,ウエブがロール状に巻かれた巻き出しロールからウエブを巻き出し,図中矢印で示す方向へ順にウエブを搬送しつつ各加工処理を行う。そして,加工後のウエブをロール状に巻き取るものである。この搬送装置にウエブを供給する巻き出しロールとしては例えば,厚さ約10μm,幅約600mm,長さ約4000mのアルミ箔の上に,その長手方向に沿って3条のペーストが幅方向に間隔をあけて塗布され,ロール状に巻かれたものが用いられる。
【0020】
この搬送装置には,図1に示すように,
巻き出し部1,
第1スリッタ部2,
リザーバ部3,
プレス部4,
箔部プレス部5,
膜厚センサ部6,
CPCユニット部7,
第2スリッタ部8,
超音波クリーナ部9,
検査部10,
巻き取り部11,
の各部がこの順に設けられている。
【0021】
巻き出し部1は,巻き出しロールからウエブを巻き出して供給するものである。
第1スリッタ部2は,切断刃を備え,上述のように間隔をあけて塗布されたペーストの間の箇所で長手方向に連続的に切断するものである。本形態では,2つの切断刃を備え,巻き出し部1によって巻き出されたウエブのうち,ペーストの塗布されていない2箇所の箔部を同時に切断するようになっている。従って,この第1スリッタ部2から出力されるウエブは,3本のウエブとなっている。この3本のウエブはいずれも,幅方向の両側に非塗工部があり,中央にペーストが塗工されているものである。
【0022】
リザーバ部3は,第1スリッタ部2によって3本となったウエブをそれぞれ搬送するとともに,それらの間隔を徐々に拡大するものである。さらにこのリザーバ部3では,3本のウエブのそれぞれの張力や搬送速度を調整し,次段のプレス部4へ3本のウエブが揃って供給されるようにしている。
【0023】
プレス部4は,ペーストの塗布されているウエブをプレスして,ペースト部分を高密度化するとともに厚さを均一化するものである。このとき,ペーストの塗工されている範囲のアルミ箔もプレスの影響を受け,やや伸びることが知られている。
箔部プレス部5は,プレス部4でプレスの影響を受けにくい箇所のアルミ箔,すなわち,非塗工部にプレスをかけるものである。これにより,塗工部と同程度に非塗工部も伸ばされ,ウエブの湾曲が防止される。
なお,このプレス部4及び箔部プレス部5は,リザーバ部3によって互いに間隔をあけて供給されてくる3本のウエブをまとめて処理するものである。
【0024】
膜厚センサ部6は,ウエブの厚みを検査するものである。特に,アルミ箔とペースト部分との厚みをそれぞれ取得できるものであればより望ましい。
CPCユニット部7は,3本のウエブの張力や搬送速度を揃えるとともに,蛇行を矯正して幅方向のウエブの搬送位置を調整するものである。これにより,次の第2スリッタ部8へ,3本のウエブがほぼ等間隔に並んで供給されるようにしている。
【0025】
第2スリッタ部8は,切断刃を備え,3本のウエブのそれぞれについてペースト塗工部分の中心位置で長手方向に連続的に切断するものである。本形態では,3本の切断刃を備え,3本のウエブを同時に切断して計6本のウエブとするものとしている。この第2スリッタ部8で切断されることにより,ここより下流側では,ペースト部分の片側のみに非塗工部があるウエブとなる。
超音波クリーナ部9は,6本の各ウエブの表面から,超音波により粉塵等を除去するものである。
【0026】
検査部10は,6本のウエブのそれぞれについてペースト等に欠陥がないか検査するものである。さらに,この検査部10では,ウエブのうち,ここまでの工程において欠陥があると判断された箇所に,欠陥を表示するマークを付加する。このマークが付加された箇所のウエブは,後の工程においてはね出され,製品には使用されない。
巻き取り部11は,6本のウエブを別々にロール状に巻き取るものである。
【0027】
このうち,図2に示すように,CPCユニット部7は,3本のウエブに対してそれぞれ独立した蛇行補正部20を有している。第2スリッタ部8は,3本のウエブをそれぞれ2本に切断して計6本のウエブとするためのスリッタローラ組30を有している。蛇行補正部20は,ウエブWの幅方向の搬送位置の調整と蛇行補正とを行うためのものである。特に,スリッタローラ組30での切断後の2つのウエブの幅ができるだけ等しくなるように制御している。スリッタローラ組30は,蛇行補正部20よりウエブWの搬送方向について下流側に配置され,各ウエブWをその幅方向の中心位置で,長手方向に沿って2つに切断するためのものである。
【0028】
図2に示した3本のうちの図中最下部の1本のウエブWの制御について,より具体的に図3に示す。他のウエブWについても同様の構成となっている。蛇行補正部20は,図3に示すように,4本のローラ21,22,23,24を有し,ウエブWの幅方向の搬送位置を補正するものである。図中下段のローラ21,24はいずれも,装置内の適切な位置に回転軸が固定されたローラである。図中上段のローラ22と23は,その両端部がそれぞれ連結バー25,25によって互いに固定されている首振りローラである。これにより,ローラ22と23は,一定の距離を置いて平行な配置となるように組み合わされ,その面内で一体的に回動される。本形態ではその回動の中心は,ローラ22の表面上の点Pである。
【0029】
さらに本形態では,図3に示すように,ローラ23とローラ24との間に,2つのエッジセンサ26,27が設けられている。このエッジセンサ26,27は,ローラ23とローラ24との間を搬送されるウエブWの幅方向について両側のエッジの位置を検出するためのものである。両側に配置することにより,ウエブWの幅に多少のバラツキがある場合でも中心制御を行うことができる。また,エッジセンサ26,27の検出結果から,この箇所におけるウエブWの幅を取得することもできる。
【0030】
また,スリッタローラ組30は,図3に示すように,スリッタローラ31と溝ローラ32との組で構成されている。スリッタローラ31は,その円周方向に突出して固定されたスリッタ刃34を有している。溝ローラ32は,外周に円周方向に形成された溝35を有している。これらは,スリッタローラ31のスリッタ刃34が溝ローラ32の溝35内に入り込むように,位置を合わせて配置されている。このスリッタ刃34と溝35とによって,ウエブWが切断される。なお,本形態のスリッタローラ組30は,図2に示したように,1本のローラに適切な間隔で3つのスリッタ刃34および溝35が設けられており,3本のウエブを1つのスリッタローラ組30で同時に切断することができるようになっている。
【0031】
スリッタローラ31と溝ローラ32とは,スリッタ刃34と溝35の箇所以外の箇所では,その外周面同士がごく接近した位置となるように,平行に配置されている。さらに,図3に示すように,スリッタローラ31と溝ローラ32とにはそれぞれ,軸方向の一端部に回転駆動部37,38が取り付けられている。電極板などの製造時には,これらの回転駆動部37,38によって,スリッタローラ31と溝ローラ32とは,それぞれ同じ周速で逆向きに回転される。これにより,スリッタ刃34と溝35の箇所以外の箇所では,ウエブWを両ローラの間に挟んで,送り出すようになっている。
【0032】
ウエブWは,図3に示すように,蛇行補正部20において,4本のローラ21,22,23,24にこの順に掛けられている。そして,それぞれのローラにおいて,搬送方向が約90°ずつ曲げられるとともに,ローラ22,23の首振り動によって,その下流側での搬送位置が調整される。そして,スリッタローラ組30において,幅が半分となるように長手方向に沿って2つに切断される。切断されて2本となったウエブW1,W2は,スリッタローラ組30から互いにやや異なる角度に引き出される。
【0033】
そして,図3に示すように,2本となったウエブW1,W2の搬送経路には,それぞれ2組のエッジセンサ41,42,43,44が配置されている。すなわち,エッジセンサ41,42によってウエブW1の両側のエッジが検出される。エッジセンサ43,44によってウエブW2の両側のエッジが検出される。従って,これらのエッジセンサ41〜44の検出結果を用いて,切断後のウエブW1,W2のそれぞれの幅を取得することができるようになっている。
【0034】
さらに,本形態では,蛇行補正部20を制御するためのウエブ位置制御部50が設けられている。ウエブ位置制御部50は,エッジセンサ26,27の検出結果をフィードバックして蛇行補正部20を制御し,ウエブWの位置合わせを行うためのものである。本形態では,切断後の2本のウエブW1,W2の幅が等しくなるように,蛇行補正部20のフィードバック制御の目標とするウエブWの位置を定める。エッジセンサ26,27の設置位置などに基づいた予め決まった位置を目標位置とするのではない。この目標位置の決定方法については後述する。
【0035】
ウエブ位置制御部50は,決定された目標位置xdを目標として,蛇行補正部20をフィードバック制御する。目標位置xdは,ウエブWの中央位置の目標値である。そのフィードバック制御の速度指令値vは,以下の式1で与えられる。
v = KP×(xd−Δx)+KD×(d/dt)(xd−Δx) …(式1)
【0036】
ここで,
KPは,P成分(比例成分)のフィードバックゲイン
KDは,D成分(微分成分)のフィードバックゲイン
Δxは,エッジセンサ26および27の検出結果から得られるウエブWの中央位置
である。なお,ウエブWとしてその幅にバラツキがないものを対象とする場合には,xdとしてウエブWの片側の目標位置を与え,Δxとして対応する側のセンサの検出結果のみを用いることとしてもよい。
【0037】
次に,上記の式1で使用している目標位置xdについて説明する。本形態では,目標位置xdは,切断後のウエブW1とW2との幅が等しくなるように決定される。そのために,まず,ウエブW1,W2のそれぞれの幅及びその差を求める。このウエブW1,W2の幅の求め方は,以下の(1),(2)のいずれかあるいは両方によって行う。
(1)切断されたウエブW1,W2を少量作成し,その幅を測る。
(2)エッジセンサ41〜44でエッジの位置を測定し,その結果からウエブW1,W2の幅を算出する。
【0038】
(1)は,例えば,交換等によってスリッタ刃34の位置が多少ずれた場合の直後等に特に有効である。このような場合には,比較的急激で大きなずれが発生するからである。そこで,スリッタ刃34の交換終了後に,ウエブWを少しだけ進めて,新たなスリッタ刃34でウエブWを切断させる。そして,第2スリッタ部8を通過した後のそれぞれのウエブW1,W2の幅を測定する。測定中にはウエブWの搬送を止めるようにすれば,正確で無駄のない測定が可能である。この測定結果を用いて,切断後のウエブW1とW2との幅の差を求めることができる。
【0039】
(2)は,例えば,連続搬送の途中でのスリッタ刃34の位置の変動に対して有効である。この変動の原因は,例えば,回転駆動部37,38が発熱し,スリッタローラ組30の長さがその熱の影響で変化することである。このような変動は,連続的に少しずつ発生するからである。この方法によれば,搬送を継続しつつ連続的に測定することができるので,幅の変化状況をも把握することができる。
【0040】
なお,図3や図2に示すように,エッジセンサ41〜44は,蛇行補正部20から見て搬送方向に下流側のやや離れた位置にある。そのため,(2)の方法によって目標位置xdを取得する場合には,センサ値の遅れを考慮する必要がある。そこで,(2)の方法によるウエブW1,W2の幅の算出には,カットオフ周波数を小さく設定したローパスフィルタ処理を行うとよい。例えば,回転駆動部37,38の発熱等を原因とするウエブW1,W2の幅の変動は,通常,時間に対して緩やかに変化するので,このような処理が適しているのである。なお,上記の(1)の方法で取得したウエブW1,W2の幅の値を初期値として使用すればさらによい。
【0041】
本形態のウエブ位置制御部50は,上記の(1)または(2)によって得られたウエブW1,W2の幅の差に基づいて,その差が0となる目標位置xdを設定する。そして,上記の式1で示した速度補正値vを用いて,蛇行補正部20をフィードバック制御する。このようにすることにより,スリッタ刃34の交換や回転駆動部37,38の発熱等を原因とするスリッタ刃34の位置ずれに対処して,切断後のウエブW1,W2の幅が等しくなるように制御することができる。
【0042】
次に,本形態のウエブ位置制御部50による制御について,図4のブロック線図を参照してさらに説明する。図中で二点鎖線で囲んで示しているのはそれぞれ,上記の(2)によってウエブW1,W2の幅w1,w2を求めるための幅取得部51,52である。幅取得部51は,エッジセンサ41,42の検出結果X41,X42を使用して,ウエブW1の幅w1を求めるためのものである。幅取得部52は,エッジセンサ43,44の検出結果X43,X44を使用して,ウエブW2の幅w2を求めるためのものである。
【0043】
一方のウエブW1の幅w1を取得する幅取得部51では,エッジセンサ41,42の検出結果X41,X42,および,(1)で求めたウエブW1の幅w10を次の式2によって合成した値X1を,ローパスフィルタLに入力する。
X1 = w10 + X41 − X42 …(式2)
ここで,X41やX42は,装置に固定して設けられた基準の位置を原点として,ウエブW1のエッジ位置を表す値である。それぞれペアのエッジセンサは,同一の直線上に設置されることが望ましい。少なくとも,互いに平行に配置されることが望ましい。
【0044】
ローパスフィルタLは,図4に示すように,カットオフ周波数に基づいて一意的に得られるフィルタ係数A,Bを用いて,
w1 = A × X1 + B × Y1 …(式3)
と表すことができる。w1は,このローパスフィルタ処理の結果により得られたウエブW1の幅である。また,X1は,上記の式2によって合成した今回の取得値であり,Y1は,w1の前回値である。
【0045】
ここで,式3で表されるローパスフィルタLは,カットオフ周波数を小さく設定したローパスフィルタ処理を行うものである。例えば,カットオフ周波数を数10sec-1 程度とするとよい。センサの検出値(X1,X2等)は,図5のラインSに示すように,ある程度,ノイズによる高周波成分が乗ったものとなる。このローパスフィルタ処理を行うことで高周波成分を除去し,図中に破線Fで示すように,切断後のウエブの幅(またはエッジ位置)の大まかな動きとして把握することができる。この破線Fが,連続搬送の途中でのスリッタ刃34の位置の変動(前述の(2)参照)に相当するものとなる。
【0046】
また,図4の下段に示すように,上段の式3のものと同様のローパスフィルタ処理によって,他方のウエブW2の幅w2が得られる。さらに,得られた幅w1とw2との差から,現状における切断後のウエブの幅の差が得られる。この差が0となる位置が,切断前のウエブWの目標となる搬送位置である。例えば,次の式4によって,ウエブWの目標位置xdが算出できる。
xd = (w1 − w2) /2 …(式4)
なお,全体の幅wが一定のウエブWを対象とする場合には,w2を算出せずw1のみの算出によって,w1=w/2として目標位置を決定してもよい。
【0047】
このようにして求めた目標位置xdを目標として,切断前のウエブWの搬送位置を制御する。そのために,図4に示すように,PIDコントローラに目標位置xdとエッジセンサ26,27によって取得された位置Δxとを入力する。PIDコントローラは,上記の式1によって速度指令vをCPCユニット部7に出力する。CPCユニット部7は,速度指令vに基づいて,ローラ22,23を首振り動させ,ウエブWの搬送位置を制御する。このようにすることにより,切断後のウエブW1,W2の幅の差を小さくするように,ウエブWの搬送目標位置xdを緩やかに変更しつつ,適切に蛇行補正することが出来る。
【0048】
さらに,以上に説明したようなウエブWの搬送装置を用いて,正極用の電極板および負極用の電極板を製造したら,これらを用いて以下のように電池を製造することができる。正極用の電極板と負極用の電極板との間にセパレータを挟み,まとめて捲回して捲回体を製造する。さらに,その捲回体を金属製等の電池ケースに挿入する。捲回体を挿入した電池ケースに,電解液を注入し,捲回体に含浸させる。両電極板にそれぞれ接続された電極端子を電池ケースの外部に突出させた状態で,電池ケースに蓋をして内部を密閉することにより,電池が完成する。
【0049】
以上詳細に説明したように本形態の搬送装置によれば,切断後のウエブW1,W2の幅を取得し,その差を0に近づけるように切断前のウエブWの搬送位置が補正される。さらに,エッジセンサ41〜44によって,搬送中においてもウエブW1,W2の幅を取得することが出来るので,連続駆動によるスリッタ刃34の位置ずれにも対応可能である。従って,スリッタ刃34の位置に合わせて,ウエブWの搬送位置を調整し,切断後のウエブW1,W2の幅を適切に揃えることのできる搬送装置となっている。
【0050】
なお,本形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。
例えば,上記の形態では,ウエブWを2本に切断するとしたが,一度に3本以上に切断する場合は,本発明を適用することにより,少なくとも幅方向に両端部の2本のウエブの幅を揃えることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 巻き出し部
7 CPCユニット部
8 第2スリッタ部
11 巻き取り部
20 蛇行補正部
26,27,41,42,43,44 エッジセンサ
30 スリッタローラ組
50 ウエブ位置制御部
L ローパスフィルタ
W ウエブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエブ供給部と,ウエブ回収部と,前記ウエブ供給部と前記ウエブ回収部との間に設けられ,ウエブをその長手方向に沿って切断するスリット部とを有し,前記ウエブ供給部から供給されたウエブを搬送しつつ前記スリット部で切断して前記ウエブ回収部で回収するウエブ搬送装置において,
前記スリット部より搬送方向の上流側におけるウエブ供給の幅方向位置を調整する幅方向位置調整部材と,
前記スリット部より搬送方向の下流側における各ウエブの幅を検知するウエブ幅センサと,
前記ウエブ幅センサによる検出値に基づくフィードバック制御により,前記各ウエブの幅が等しくなるように前記幅方向位置調整部材を操作する幅方向位置制御部と,
前記ウエブ幅センサによる検出値に,予め定めた周波数以上の高周波成分をカットオフするローパスフィルタ処理を施して前記幅方向位置制御部に入力するローパスフィルタ処理部とを有することを特徴とするウエブ搬送装置。
【請求項2】
請求項1に記載のウエブ搬送装置において,
前記幅方向位置調整部材の搬送方向の下流側で,かつ,前記スリット部より搬送方向の上流側に配置され,ウエブの幅方向位置を検知するウエブ位置センサを有し,
前記幅方向位置制御部は,
前記ウエブ位置センサによる検出位置から,前記ウエブ幅センサによって検出された各ウエブの幅の差の半分を引いた値を目標位置とし,
前記ウエブ位置センサによる検出位置が,前記目標位置に近づくように前記幅方向位置調整部材を操作することを特徴とするウエブ搬送装置。
【請求項3】
ウエブを,幅方向位置調整部材によりその幅方向に位置調整しつつ,その長手方向に搬送し,スリット部によりその長手方向に沿ってウエブを切断するウエブ搬送方法において,
前記スリット部より搬送方向の下流側における各ウエブの幅をウエブ幅センサによって検知し,
検知した各ウエブの幅に基づくフィードバック制御により,前記各ウエブの幅が等しくなるように前記幅方向位置調整部材を操作するとともに,
前記フィードバック制御における前記各ウエブの幅の値として,前記ウエブ幅センサによる検出値に,予め定めた周波数以上の高周波成分をカットオフするローパスフィルタ処理を施したものを用いることを特徴とするウエブ搬送方法。
【請求項4】
請求項3に記載のウエブ搬送方法において,
前記スリット部の刃交換後,前記フィードバック制御の開始前に,
ウエブを搬送して前記スリット部により切断し,
切断後の各ウエブの幅を測定し,
その測定結果に基づいて前記フィードバック制御の目標位置を決定し,
ウエブの幅方向の搬送位置が決定された目標位置に近づくように前記フィードバック制御による幅方向位置調整部材の操作を開始することを特徴とするウエブ搬送方法。
【請求項5】
請求項3に記載のウエブ搬送方法において,
ウエブを搬送しつつ随時,前記フィードバック制御の目標位置を更新し,更新された目標位置に近づくように幅方向位置調整部材の操作を行うことを特徴とするウエブ搬送方法。
【請求項6】
導体箔ウエブを,幅方向位置調整部材によりその幅方向に位置調整しつつ,その長手方向に搬送し,スリット部によりその長手方向に沿ってウエブを切断することにより電極板を製造し,製造された電極板を電解液とともにケースに封入して電池を製造する電池の製造方法において,
前記スリット部より搬送方向の下流側における各ウエブの幅をウエブ幅センサによって検知し,
検知した各ウエブの幅に基づくフィードバック制御により,前記各ウエブの幅が等しくなるように前記幅方向位置調整部材を操作するとともに,
前記各ウエブの幅として,前記ウエブ幅センサによる検出値に,予め定めた周波数以上の高周波成分をカットオフするローパスフィルタ処理を施したものを用いることを特徴とする電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−42458(P2011−42458A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191738(P2009−191738)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】