説明

ウォーターポンプ用密封装置

【課題】LLC等の密封流体を密封するウォーターポンプ用密封装置において、部品の防錆性ならびに耐圧性および耐摩耗性を向上させる。
【解決手段】本発明の密封装置1は、ゴムリング11および樹脂リング21の組み合わせよりなる。ゴムリング11は、筒状固定部12、フランジ部13およびシールリップ14を一体にする。樹脂リング21は、固定リング部22、フランジ部26およびバックアップリング部23を一体に有する。固定リング部22、フランジ部26およびバックアップリング部23に囲まれる凹部27が樹脂リング21に形成され、断面略U字形のリップ基部17がこの凹部27に機内側から嵌め込まれ、これによりゴム・樹脂交互の積層構造が設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封技術に係る密封装置に関し、更に詳しくは、ウォーターポンプの軸封部に用いられるのに適した密封装置に関するものである。本発明の密封装置は例えば自動車エンジン冷却用ウォーターポンプに用いられ、またはその他の冷却用ウォーターポンプに用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来からこの種のウォーターポンプに用いられる密封装置として、図2に示す密封装置51が知られており、この密封装置51は、ハウジング52に固定されるとともに軸53に摺動自在に密接するシールリップ54を複数並べて配置することにより、LLC等の密封流体が機内側Aから機外側Bへ漏洩しないようこれをシールしている。シールリップ54はゴム状弾性体よりなり、このゴム状弾性体が金属製補強環55に被着(加硫接着)されている。
【0003】
しかしながら上記従来技術は、その構成部品として金属製補強環55を有しているために、この補強環55に錆が発生しやすく、よって部品の防錆性に難点を有している。またウォーターポンプ用の密封装置としては、部品の防錆性のほかに以下の点に留意する必要がある。
(1)密封流体圧として機内側から0.2MPa程度の圧力が作用するので、耐圧性を考慮する必要がある。
(2)水潤滑でシールリップが摩耗しやすいので、耐摩耗性を考慮する必要がある。
(3)ポンプ内に存在する鋳砂、錆または砂粒等の異物が水中に混入してシールリップを摩耗させやすいので、この点からも耐摩耗性を考慮する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−310095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上の点に鑑みて、上記LLC等の密封流体を密封するウォーターポンプ用密封装置において、部品の防錆性ならびに耐圧性および耐摩耗性を向上させることが可能な密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1による密封装置は、LLC等の密封流体が機内側から機外側へ漏洩しないようハウジングおよび軸間に装着されるウォーターポンプ用密封装置において、ゴムリングおよび樹脂リングの組み合わせよりなり、前記ゴムリングは、前記ハウジングの内周に嵌合される筒状固定部と、前記筒状固定部の機内側端部に径方向内方へ向けて設けられたフランジ部と、前記フランジ部の内周端部に設けられるとともに前記軸に摺動自在に密接するシールリップとを一体に有し、前記樹脂リングは、前記ゴムリングの筒状固定部の内周に嵌合されてその嵌合代により前記ゴムリングを前記ハウジングに強く押し付ける固定リング部と、前記固定リング部の機外側端部に径方向内方へ向けて設けられたフランジ部と、前記フランジ部の内周端部に設けられるとともに前記シールリップの背面側に配置されて前記シールリップの過度の変形を抑制するバックアップリング部とを一体に有し、前記固定リング部、フランジ部およびバックアップリング部に囲まれる環状の凹部が前記樹脂リングに形成され、断面略U字形を呈する前記シールリップのリップ基部が前記凹部に機内側から嵌め込まれ、これにより当該密封装置の外周部から内周部へかけて前記ゴムリングの筒状固定部、前記樹脂リングの固定リング部、前記ゴムリングのリップ基部および前記樹脂リングのバックアップリング部が径方向に一列に並べられるゴム・樹脂交互の積層構造が設定されていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の請求項2による密封装置は、上記した請求項1記載の密封装置において、前記樹脂リングを軸方向に抜け止めするフランジ状の内向き係合部が前記ゴムリングにおける筒状固定部の機外側端部に一体に設けられていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項3による密封装置は、上記した請求項1または2記載の密封装置において、軸の周面に摺動自在に密接するリップ状の内周シール部が前記樹脂リングにおけるバックアップリング部の機外側端部であってフランジ部の内周部に一体に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記構成を有する本発明の密封装置は、その構成部品がゴムリングおよび樹脂リングの組み合わせとされて、錆が発生しやすい金属製補強環を有していないために、部品の防錆性を格段に向上することが可能とされている。
【0010】
また、一方の構成部品であるゴムリングが、ハウジングの内周に嵌合される筒状固定部を有しているのに対して、他方の構成部品である樹脂リングが、ゴムリングの筒状固定部の内周に嵌合されてその嵌合代によりゴムリングをハウジングに強く押し付ける固定リング部を有しているために、ゴムリング延いては当該密封装置全体をハウジングに強固に固定することが可能とされている。したがって金属製補強環が省略されても、その装着性に支障を生じることがない。
【0011】
また、一方の構成部品であるゴムリングが、軸に摺動自在に密接するシールリップを有しているのに対して、他方の構成部品である樹脂リングが、シールリップの背面側に配置されてシールリップの過度の変形を抑制するバックアップリング部を有しているために、シールリップの過度の変形を抑制し、もってその耐圧性を向上させることが可能とされている。耐圧性が向上すればシールリップは軸に対して過度に押し付けられなくなるので、その耐摩耗性を向上させることも可能となる。
【0012】
したがって以上のことから、本発明所期の目的どおり、LLC等の密封流体を密封するウォーターポンプ用密封装置において部品の防錆性ならびに耐圧性および耐摩耗性を向上させることが可能な密封装置を提供することができる。
【0013】
また、樹脂リングの筒状固定部、フランジ部およびバックアップリング部に囲まれる環状の凹部にゴムリングのリップ基部を軸方向一方から嵌め込む構成としたために、凹部に嵌め込んだリップ基部は樹脂リングに保持され、よって密封流体圧が作用しても殆ど変形することがない。したがって、このリップ基部に連なるリップ先端部の軸に対する接触姿勢を安定化させることができ、よってこの点からもシールリップの耐圧性および耐摩耗性を向上させることができる。
【0014】
また、ゴムリングにおける筒状固定部の機外側端部にフランジ状の内向き係合部を一体に設けた場合には、樹脂リングが軸方向に脱落するのを抑制することができ、樹脂リングにおけるバックアップリング部の機外側端部であってフランジ部の内周部にリップ状の内周シール部を一体に設けた場合には、機外側のダスト等の異物がバックアップリング部の内周に侵入するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例に係る密封装置の要部断面図
【図2】従来例に係る密封装置の断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施例に係る密封装置1の要部断面を示している。当該実施例に係る密封装置1は、密封流体(液体)であるLLC(ロングライフクーラント)が機内側(密封流体側)Aから機外側(大気側)Bへ漏洩しないよう自動車エンジン冷却用ウォーターポンプの軸封部に装着されるものであって、以下のように構成されている。
【0018】
すなわち、当該実施例に係る密封装置1は、所定のゴム材料よりなるゴムリング11と、所定の樹脂材料よりなる樹脂リング21とを有し、この2部品の組み合わせにより構成されている。
【0019】
一方の構成部品であるゴムリング11は、ハウジング2の軸孔内周の段差部3に嵌合される筒状固定部12の機内側端部に径方向内方へ向けてフランジ部13を一体成形し、このフランジ部13の内周端部に、軸4の周面に摺動自在に密接するシールリップ14を一体成形したものであって、シールリップ14はその受圧面14aを機内側Aに向け、この受圧面14aで密封流体圧を受けたときに軸4の周面に押し付けられるように構成されている。
【0020】
シールリップ14は、フランジ部13の内周端部に一体成形された断面略U字形のリップ基部17と、このリップ基部17の内周端部に斜め内方へ向けて一体成形されたリップ先端部18とを一体に有しており、後者のリップ先端部18には、軸4に対する締め代を調整するため、図示するようにガータースプリング19が嵌着されることもある。
【0021】
また、筒状固定部12の機外側端部には径方向内方へ向けてフランジ状の内向き係合部15が一体に成形されており、この係合部15が樹脂リング21と係合することにより樹脂リング21が軸方向に脱落しないように構成されている。
【0022】
他方の構成部品である樹脂リング21は、ゴムリング11の筒状固定部12の内周に嵌合される固定リング部22を有しており、この固定リング部22がその嵌合代によってゴムリング11の筒状固定部12をハウジング2の軸孔内周面に強く押し付けるように構成されている。
【0023】
また、固定リング部22の機外側端部に径方向内方へ向けてフランジ部26が一体成形され、このフランジ部26の内周端部に機内側Aへ向けてバックアップリング部23が一体成形されている。バックアップリング部23はシールリップ14の背面側(機外側B)であってリップ基部17の内周側に配置され、シールリップ14をバックアップすることによりシールリップ14の過度の変形を抑制するように構成されている。
【0024】
また、バックアップリング部23の機外側端部であってフランジ部26の内周部には斜め内方へ向けてリップ状の内周シール部25が一体成形されており、この内周シール部25が軸4の周面に摺動自在に密接することにより機外側Bのダスト等の異物がバックアップリング部23の内周に侵入しないように構成されている。
【0025】
また、上記したように樹脂リング21は、固定リング部22、フランジ部26およびバックアップリング部23を一体に有しているので、これらに囲まれる環状の凹部27が形成され、この凹部27にゴムリング11におけるシールリップ14のリップ基部17が機内側Aから嵌め込まれるように構成されている。したがってこのように凹部27にリップ基部17が嵌め込まれる結果として、当該密封装置1の外周部から内周部へかけて、ゴムリング11の筒状固定部12、樹脂リング21の固定リング部22、ゴムリング11のリップ基部17、樹脂リング21のバックアップリング部23が径方向に一列に並べられるゴム・樹脂交互の積層構造が設定されている。
【0026】
上記ゴムリング11および樹脂リング21はそれぞれ別体にて製作され、接着剤を用いることなく非接着にて組み立てられる。
【0027】
上記構成の密封装置1は、上記したように密封流体であるLLCが機内側Aから機外側Bへ漏洩しないようウォーターポンプの軸封部に装着されるものであって、上記構成により以下の作用効果を発揮する点に特徴を有している。
【0028】
すなわち先ず、上記構成の密封装置1はその構成部品がゴムリング11および樹脂リング21の組み合わせとされ、錆が発生しやすい金属製補強環を有していない。したがって、ウォーターポンプに用いられても錆の発生を懸念する必要がなく、よって部品の防錆性を向上させることが可能とされている。
【0029】
また、一方の構成部品であるゴムリング11が、ハウジング2の軸孔内周に嵌合される筒状固定部12を有しているのに対して、他方の構成部品である樹脂リング21が、ゴムリング11の筒状固定部12の更に内周に嵌合されてその嵌合代によりゴムリング11をハウジング2の軸孔内周面に強く押し付ける固定リング部22を有しているために、樹脂リング21によってゴムリング11延いては密封装置1全体をハウジング2に対して強固に固定することが可能とされている。したがって、金属製補強環が省略されても密封装置1をハウジング2に対して強固に固定することができ、その装着性を確保することができる。
【0030】
また、一方の構成部品であるゴムリング11が、軸4の周面に摺動自在に密接するシールリップ14を有しているのに対して、他方の構成部品である樹脂リング21が、シールリップ14の背面側に配置されてシールリップ14の過度の変形を抑制するバックアップリング部23を有しているために、バックアップリング部23によってシールリップ14をバックアップすることが可能とされている。シールリップ14は密封流体圧に押されて軸4の周面に押し付けられるように弾性変形するが、このシールリップ14の弾性変形がバックアップリング部23によって規制されることになる。また、ゴムリング11はそのフランジ部13についても樹脂リング21の固定リング部22によりバックアップされるので、フランジ部13が機外側Bへ倒れ込むように変形することがなく、よってフランジ部13の倒れ込みによりシールリップ14が過度に変形することもない。したがって、シールリップ14の変形を抑制し、もってその耐圧性を向上させることができる。シールリップ14は軸4に対して強く押し付けられなければ接触面圧が抑制されるので、その耐摩耗性(耐摺動摩耗性)を向上させることもできる。
【0031】
また、樹脂リング21の固定リング部22、フランジ部26およびバックアップリング部23に囲まれる環状の凹部27にゴムリング11のリップ基部17を軸方向一方から嵌め込む構成としたために、凹部27に嵌め込んだリップ基部17は樹脂リング21に保持され、よって密封流体圧が作用しても殆ど変形することがない。したがって、このリップ基部17に連なるリップ先端部18の軸4に対する接触姿勢を安定化させることができ、よってこの点からもシールリップ14の耐圧性および耐摩耗性を向上させることができる。
【0032】
尚、バックアップリング部23の内周面には、ネジ溝よりなるポンピング機構を設けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0033】
1 密封装置
2 ハウジング
3 段差部
4 軸
11 ゴムリング
12 筒状固定部
13,26 フランジ部
14 シールリップ
14a 受圧面
15 内向き係合部
17 リップ基部
18 リップ先端部
19 ガータースプリング
21 樹脂リング
22 固定リング部
23 バックアップリング部
25 内周シール部
27 凹部
A 機内側
B 機外側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LLC等の密封流体が機内側(A)から機外側(B)へ漏洩しないようハウジング(2)および軸(4)間に装着されるウォーターポンプ用密封装置(1)において、
ゴムリング(11)および樹脂リング(21)の組み合わせよりなり、
前記ゴムリング(11)は、前記ハウジング(2)の内周に嵌合される筒状固定部(12)と、前記筒状固定部(12)の機内側端部に径方向内方へ向けて設けられたフランジ部(13)と、前記フランジ部(13)の内周端部に設けられるとともに前記軸(4)に摺動自在に密接するシールリップ(14)とを一体に有し、
前記樹脂リング(21)は、前記ゴムリング(11)の筒状固定部(12)の内周に嵌合されてその嵌合代により前記ゴムリング(11)を前記ハウジング(2)に強く押し付ける固定リング部(22)と、前記固定リング部(22)の機外側端部に径方向内方へ向けて設けられたフランジ部(26)と、前記フランジ部(26)の内周端部に設けられるとともに前記シールリップ(14)の背面側に配置されて前記シールリップ(14)の過度の変形を抑制するバックアップリング部(23)とを一体に有し、
前記固定リング部(22)、フランジ部(26)およびバックアップリング部(23)に囲まれる環状の凹部(27)が前記樹脂リング(21)に形成され、断面略U字形を呈する前記シールリップ(14)のリップ基部(17)が前記凹部(27)に機内側(A)から嵌め込まれ、これにより当該密封装置(1)の外周部から内周部へかけて前記ゴムリング(11)の筒状固定部(12)、前記樹脂リング(21)の固定リング部(22)、前記ゴムリング(11)のリップ基部(17)および前記樹脂リング(21)のバックアップリング部(23)が径方向に一列に並べられるゴム・樹脂交互の積層構造が設定されていることを特徴とするウォーターポンプ用密封装置。
【請求項2】
請求項1記載の密封装置において、
前記樹脂リング(21)を軸方向に抜け止めするフランジ状の内向き係合部(15)が前記ゴムリング(11)における筒状固定部(12)の機外側端部に一体に設けられていることを特徴とするウォーターポンプ用密封装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の密封装置において、
軸(4)の周面に摺動自在に密接するリップ状の内周シール部(25)が前記樹脂リング(21)におけるバックアップリング部(23)の機外側端部であってフランジ部(26)の内周部に一体に設けられていることを特徴とするウォーターポンプ用密封装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−252497(P2011−252497A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151607(P2011−151607)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【分割の表示】特願2007−16189(P2007−16189)の分割
【原出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】