ウォーム減速機
【課題】負荷がかかった状態でも常に潤滑油のくさび効果を確保できるウォーム減速機を提供する。
【解決手段】ウォームホイール40の歯面41が第1形状部61と残りの部分である第2形状部62とを含む。第1形状部61は、使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷のときのウォームホイール40に対するウォームの位置ずれに起因してウォームの歯面が可動する可動範囲の包絡線を含んで構成される。第2形状部62は第1形状部61の少なくとも溝底51側に隣接しウォームとの接触を回避する。通常負荷の状態で第1歯面形状部61の中央部を含む領域A0のみがウォームと接触する。第1歯面形状部61の歯幅方向W1の一対の端部611,612には非接触領域A1,A2が形成される。
【解決手段】ウォームホイール40の歯面41が第1形状部61と残りの部分である第2形状部62とを含む。第1形状部61は、使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷のときのウォームホイール40に対するウォームの位置ずれに起因してウォームの歯面が可動する可動範囲の包絡線を含んで構成される。第2形状部62は第1形状部61の少なくとも溝底51側に隣接しウォームとの接触を回避する。通常負荷の状態で第1歯面形状部61の中央部を含む領域A0のみがウォームと接触する。第1歯面形状部61の歯幅方向W1の一対の端部611,612には非接触領域A1,A2が形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウォーム減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、パワーステアリングの歯車機構において、鋼鉄製のウォームとプラスチック製のウォームホイールが互いに噛み合うときに、歯の高さ方向に線接触部が生ずるように歯面の実効輪郭を作製する技術が提案されている(例えば特許文献1を参照)。
一方、近年の電動パワーステアリング装置の高出力化に伴い、減速機構として用いられるウォーム減速機が大型化しており、車両へのレイアウトが非常に厳しくなってきている。特に、ウォームホイールのギヤ部として樹脂を用いた場合、強度を満足するためにウォームホイールが大型になる傾向にある。また、高強度に耐え得る樹脂は高価であり、製造コストが高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−161268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、金属ギヤを用いることが考えられる。通例、ウォームホイールに対するウォームの歯当たり領域は、ウォームホイールの歯面において、ウォームホイールの歯幅方向の中央位置に設定されている。
この場合、ウォーム減速機の負荷が大きくなると、ウォームホイールに対してウォームが種々の位置ずれを生じるため、ウォームホイールの歯面では、ウォームの歯がウォームホイールの歯溝に入り込む側の部分(歯溝の入口部)において、歯当たりが強くなる傾向にある。その結果、歯面間で、いわゆるくさび効果による潤滑作用が低下し、潤滑状態が悪くなる。潤滑状態が悪くなると、温度が上昇するため、益々、潤滑状態が悪化する。
【0005】
また、ウォーム減速機を量産した場合、部品精度のばらつきの影響で、ウォームホイールの歯溝の入口部において強い歯当たりを生ずる個体もある。
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、負荷がかかった状態でも常に潤滑油のくさび効果を確保することができるウォーム減速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、請求項1の発明は、ウォーム(30)と、前記ウォームと噛み合う歯溝(50)を有するウォームホイール(40)と、を備え、前記ウォームホイールの歯面(41,42)は、使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷のときの前記ウォームホイールに対するウォームの位置ずれに起因して前記ウォームの歯面が可動する可動範囲の包絡線(L1)を含んで構成された第1形状部(61,71)と、前記歯面のうち前記第1形状部を除く部分であって前記第1形状部の少なくとも溝底側に隣接し前記ウォームとの接触を回避した第2形状部(62,72)と、を含むウォーム減速機(20)を提供する。
【0007】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
また、請求項2のように、使用時の最大負荷未満の負荷のときに、前記ウォームホイールの歯面の第1形状部は、その歯幅方向の一対の端部(621,622;721,722)に、前記ウォームの歯面に対する非接触領域(A1,A2;B1,B2)を形成するようにしてもよい。
【0008】
また、請求項3のように、使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷のときに、前記ウォームホイールの歯面の第1形状部の全面と前記ウォームの歯面とが接触するようにしてもよい。
また、請求項4のように、前記ウォームの位置ずれは、前記ウォームホイールの中心軸線(C2)に平行な方向(X1)に前記ウォームがオフセットされる第1の位置ずれと、前記ウォームホイールの中心軸線と直交する平面(P2)内で前記ウォームの中心軸線(C1)と前記ウォームホイールの中心軸線との距離(D1)を増減する方向(Y1)に前記ウォームがオフセットされる第2の位置ずれと、前記ウォームの中心軸線を含み且つ前記ウォームホイールの中心軸線に平行な平面(P1)内で前記ウォームの中心軸線が傾斜する第3の位置ずれと、前記ウォームの中心軸線を含み且つ前記ウォームホイールの中心軸線とは直交する平面内で前記ウォームの中心軸線が傾斜する第4の位置ずれ、とを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、通常負荷(使用時の最大負荷未満の負荷)の範囲内での高負荷を受けてウォームが位置ずれしたときに、第1歯面形状部の例えば中央部を含む領域のみでウォームの歯面と接触する一方、第1歯面形状部の例えば歯幅方向の一対の端部とウォームの歯面との間には、隙間が形成される。この隙間(特にウォームの歯がウォームホイールの歯溝に侵入する入口側に設けられる隙間)を通して歯面間に潤滑油が侵入し易くなるので、常に潤滑油のくさび効果を確保して、歯面間の潤滑状態を常に良好に維持することができる。
【0010】
請求項2の発明によれば、通常負荷(使用時の最大負荷未満負荷)のときに、第1歯面形状部の歯幅方向の一対の端部とウォームの歯面とが接触せず両者の間に隙間が設けられる。この隙間(特にウォームの歯がウォームホイールの歯溝に侵入する入口側に設けられる隙間)を通して歯面間に潤滑油が侵入し易くなるので、常に潤滑油のくさび効果を確保して、歯面間の潤滑状態を常に良好に維持することができる。
【0011】
請求項3の発明によれば、万一、例えば使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷の状態が瞬間的に生じたとしても、第1歯面形状部の全面と前記ウォームの歯面とが接触することで、局部的な歯当たりを抑制して、耐久性を向上することができる。
請求項4の発明によれば、ウォームホイールに対するウォームの種々の位置ずれに起因してウォームの歯面が可動する可動範囲を考慮し、その可動範囲の包絡線を含んで、ウォームホイール歯面形状部を構成するので、実際の使用において、確実に歯面間の潤滑状態を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態にかかるウォーム減速機を備える電動パワーステアリング装置の概略構成を示す一部断面図である。
【図2】ウォームギヤ機構の概略斜視図である。
【図3A】ウォームホイールの要部の斜視図であり、例えば一方の歯面(ここでは左歯面と呼ぶ)を示している。
【図3B】ウォームホイールの要部の斜視図であり、例えば他方の歯面(ここでは右歯面と呼ぶ)を示している。
【図4】過負荷のときのウォームホイールに対するウォームの位置ずれに起因してウォームの歯面が可動する可動範囲の包絡線を示す概略斜視図である。
【図5】ウォーム減速機の概略図であり、ウォームホイールの中心軸線に平行な方向にウォームがオフセットされる第1の位置ずれを示している。
【図6】ウォーム減速機の概略図であり、ウォームホイールの中心軸線と直交する平面内でウォームの中心軸線とウォームホイールの中心軸線間との距離を増大する方向にウォームがオフセットされる第2位置ずれを示している。
【図7】ウォーム減速機の概略図であり、ウォームの中心軸線を含み且つウォームホイールの中心軸線に平行な面内でウォームの中心軸線が傾斜する第3の位置ずれを示している。
【図8】ウォームの中心軸線を含み且つウォームホイールの中心軸線とは直交する平面内でウォームの中心軸線が傾斜する第4の位置ずれを示す概略図である。
【図9A】ウォームホイールの要部の斜視図であり、通常範囲内の高負荷のときにおいて、例えば左歯面の接触領域と非接触領域を示している。
【図9B】ウォームホイールの要部の斜視図であり、通常範囲内の高負荷のときにおいて、例えば右歯面の接触領域と非接触領域を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下には、図面を参照して、この発明の実施形態について具体的に説明する。
図1は本発明の一実施の形態のウォームホイールを含む電動パワーステアリング装置の模式図である。図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール等からなる操舵部材2と、操舵部材2の回転に連動して転舵輪3を転舵する転舵機構4と、運転者の操舵を補助するための操舵補助機構5とを備えている。操舵部材2と転舵機構4とは、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して機械的に連結されている。
【0014】
本実施の形態では、操舵補助機構5がステアリングシャフト6にアシスト力(操舵補助力)を与える例に則して説明する。しかしながら、本発明を、操舵補助機構5が後述するピニオン軸にアシスト力を与える構造に適用することも可能である。
ステアリングシャフト6は、操舵部材2に連結された入力軸8と、中間軸7に連結された出力軸9とを含む。入力軸8と出力軸9とは、トーションバー10を介して同一軸線上で相対回転可能に連結されている。
【0015】
ステアリングシャフト6の周囲に配置されたトルクセンサ11は、入力軸8および出力軸9の相対回転変位量に基づいて、操舵部材2に入力された操舵トルクを検出する。トルクセンサ11のトルク検出結果は、制御装置としてのECU(Electronic Control Unit :電子制御ユニット)12に入力される。また、車速センサ13からの車速検出結果がECU12に入力される。中間軸7は、ステアリングシャフト6と転舵機構4とを連結している。
【0016】
転舵機構4は、ピニオン軸14と、転舵軸としてのラック軸15とを含むラックアンドピニオン機構からなる。ラック軸15の各端部には、タイロッド16およびナックルアーム(図示せず)を介して転舵輪3が連結されている。
ピニオン軸14は、中間軸7に連結されている。ピニオン軸14は、操舵部材2の操舵に連動して回転するようになっている。ピニオン軸14の先端(図1では下端)には、ピニオン17が設けられている。
【0017】
ラック軸15は、自動車の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸15の軸方向の途中部には、前記ピニオン17に噛み合うラック18が形成されている。このピニオン17およびラック18によって、ピニオン軸14の回転がラック軸15の軸方向移動に変換される。ラック軸15を軸方向に移動させることで、転舵輪3を転舵することができる。
【0018】
操舵部材2が操舵(回転)されると、この回転が、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して、ピニオン軸14に伝達される。そして、ピニオン軸14の回転は、ピニオン17およびラック18によって、ラック軸15の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。
操舵補助機構5は、操舵補助用の電動モータ19と、電動モータ19の出力トルクを転舵機構4に伝達するための伝達機構としてのウォーム減速機20とを含む。ウォーム減速機20は、駆動ギヤとしてのウォーム30と、このウォーム30と噛み合う被動ギヤとしてのウォームホイール40とを含む。ウォーム減速機20は、ギヤハウジング21内に収容されている。ギヤハウジング21内において、ウォーム30とウォームホイール40との少なくとも噛み合い領域には、潤滑油成分を含むグリース等の潤滑剤(図示せず)が充填されており、ウォーム30およびウォームホイール40の歯面間には、潤滑剤が介在している。
【0019】
ウォーム30は、図示しない継手を介して電動モータ19の回転軸(図示せず)に連結されている。ウォーム30は、電動モータ19によって回転駆動される。また、ウォームホイール40は、ステアリングシャフト6とは一体回転可能に連結されている。
電動モータ19がウォーム30を回転駆動すると、ウォーム30によってウォームホイール40が回転駆動され、ウォームホイール40およびステアリングシャフト6が一体回転する。そして、ステアリングシャフト6の回転は、中間軸7を介してピニオン軸14に伝達される。ピニオン軸14の回転は、ラック軸15の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。すなわち、電動モータ19によってウォーム30を回転駆動することで、転舵輪3が転舵されるようになっている。
【0020】
電動モータ19は、三相ブラシレスモータからなり、制御装置としてのECU12によって制御される。ECU12は、トルクセンサ11からのトルク検出結果、車速センサ13からの車速検出結果等に基づいて電動モータ19を制御する。具体的には、ECU12では、トルクと目標アシスト量との関係を車速毎に記憶したマップを用いて目標アシスト量を決定し、電動モータ19の発生するアシスト力を目標アシスト量に近づけるように制御する。
【0021】
図2に示すように、ウォーム減速機20のウォーム30は、軸方向に対向する一対の歯面31,32を有しており、各歯面31,32は渦巻き状に連続している。
ウォームホイール40の外周には、複数の歯溝50が周方向に等間隔で形成されている。ウォームホイール40は、各歯溝50において相対向し、ウォーム30の一対の歯面31,32に、それぞれ、噛み合う一対の歯面41,42を有している。
【0022】
図3Aに示すように、ウォームホイール40の歯面41(例えば左歯面)は、第1形状部61と、歯面41の残りの部分(第1形状部61を除く部分)である第2形状部62とを備えている。第1形状部61は、使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷のときのウォームホイール40に対するウォーム30の位置ずれに起因してウォーム30の歯面31が可動する可動範囲の包絡線L1(図4を参照)を含んで構成されている。使用時の最大負荷を超える負荷(過負荷)は、実際の使用時には生じ得ない負荷である。第2形状部62は、第1形状部61の少なくとも溝底51側に隣接しウォーム30の歯面31との接触を回避している。
【0023】
図3Bに示すように、ウォームホイール40の歯面42(例えば右歯面)は、第1形状部71と、歯面42の残りの部分(第1形状部71を除く部分)である第2形状部72とを備えている。第1形状部71は、使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷のときのウォームホイール40に対するウォーム30の位置ずれに起因してウォーム30の歯面32が可動する可動範囲の包絡線L1(図4を参照)を含んで構成されている。使用時の最大負荷を超える負荷(過負荷)は、実際の使用時には生じ得ない負荷である。第2形状部72は、第1形状部71の少なくとも溝底51側に隣接しウォーム30の歯面32との接触を回避している。
【0024】
ウォーム30が右巻きの螺旋として構成されている場合には、ウォームホイール40の例えば右歯面である歯面42の噛み合い負荷が例えば左歯面である歯面41の噛み合い負荷よりも大きいので、例えば右歯面である歯面42の第1形状部71の面積が、左歯面である歯面41の第1形状部61の面積よりも広くなっている。
歯面41の第2形状部62や歯面42の第2形状部72は、ウォーム30と接触しないように形成されていればよく、特に形状を限定されないので、例えば鍛造により歯溝50を形成する場合に適している。
【0025】
前述した使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷のときのウォーム30の位置ずれには、図5に示す第1の位置ずれ、図6に示す第2の位置ずれ、図7に示す第3の位置ずれ、および図8に示す第4の位置ずれが含まれている。
図5に示す第1の位置ずれは、ウォーム30がウォームホイール40の中心軸線C2に平行な方向X1にオフセットされる位置ずれである。より具体的には、第1の位置ずれは、ウォーム30の中心軸線C1を含み且つウォームホイール40の中心軸線C2に平行な平面P1(図5において紙面に相当)内において、ウォーム30の中心軸線C1がウォームホイール40の中心軸線C2に平行な方向X1にオフセットされる位置ずれである。
【0026】
図6に示す第2の位置ずれは、ウォームホイール40の中心軸線C2と直交する平面P2内でウォーム30とウォームホイール40の中心間距離D1を増減する方向Y1に前記ウォーム30がオフセットされる位置ずれである。より具体的には、第2の位置ずれは、ウォーム30の中心軸線X1を含み且つウォームホイール40の中心軸線C2に直交する平面P2(図6において紙面に相当)内において、ウォーム30の中心軸線C1とウォームホイール40の中心軸線間C2との距離である中心間距離D1を増減する方向Y1にウォーム30の中心軸線C1がオフセットされる位置ずれである。
【0027】
図7に示す第3の位置ずれは、ウォーム30の中心軸線C1を含み且つウォームホイール40の中心軸線C2に平行な面P1(図7において紙面に相当)内でウォーム30の中心軸線C1が傾斜する位置ずれである。
図8に示す第4の位置ずれは、ウォーム30の中心軸線C1を含み且つウォームホイール40の中心軸線C2とは直交する平面P2(図8において紙面に相当)内でウォーム30の中心軸線C1が傾斜する位置ずれである。
【0028】
本実施形態によれば、ウォームホイール40の歯面41,42が、使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷のときの前記ウォームホイール40に対するウォーム30の位置ずれに起因してウォーム30の歯面31,32が可動する可動範囲の包絡線L1を含んで構成された第1形状部61,71を含んでいる。
したがって、通常負荷(使用時の最大負荷未満の負荷)の状態(実際の使用状態に相当)でウォームホーイル40に対してウォーム30が位置ずれしたときに、図9Aに示すように、ウォームホイール40の歯面41(例えば左歯面)は、第1歯面形状部61の例えば中央部を含む領域A0のみでウォーム30の歯面31と接触する。通常負荷(使用時の最大負荷未満の負荷)の範囲内で負荷が大きくなるほど、領域A0の面積が増大する。一方、第1歯面形状部61の例えば歯幅方向W1の一対の端部611,612には、ウォーム30の歯面31に接触しない非接触領域A1,A2が形成される。
【0029】
これにより、ウォームホイール40の歯面41の歯幅方向W1の一対の端部611,612の非接触領域A1,A2とウォーム30の歯面31との間に、隙間(図示せず)が形成される。この隙間(特にウォーム30の歯がウォームホイール40の歯溝50に侵入する入口側に設けられる非接触領域とウォーム30の歯面31との間の隙間)を通して、歯面41,31間に潤滑油が侵入し易くなるので、常に潤滑油のくさび効果を確保して、歯面41,31間の潤滑状態を常に良好に維持することができる。
【0030】
また、通常負荷(使用時の最大負荷未満の負荷)の状態(実際の使用状態に相当)でウォームホイール40に対してウォーム30が位置ずれしたときに、図9Bに示すように、ウォームホイール40の歯面42(例えば右歯面)は、第1歯面形状部71の例えば中央部を含む領域B0のみでウォーム30の歯面32と接触する。通常負荷の範囲内で負荷が大きくなるほど、領域B0の面積が増大する。一方、第1歯面形状部71の例えば歯幅方向W1の一対の端部711,712には、ウォーム30の歯面32に接触しない非接触領域B1,B2が形成される。
【0031】
これにより、ウォームホイール40の歯面42の歯幅方向W1の一対の端部711,712の非接触領域B1,B2とウォーム30の歯面32との間に、隙間(図示せず)が形成される。この隙間(特にウォーム30の歯がウォームホイール40の歯溝50に侵入する入口側に設けられる非接触領域とウォーム30の歯面32との間の隙間)を通して歯面42,32間に潤滑油が侵入し易くなるので、常に潤滑油のくさび効果を確保して、歯面42,32間の潤滑状態を常に良好に維持することができる。
【0032】
さらに、万一、例えば使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷の状態が瞬間的に生じたとしても、各第1歯面形状部61,71の全面とウォーム30の対応する歯面31,32とが接触することで、局部的な歯当たりを抑制して、耐久性を向上することができる。
また、ウォームホイール40に対するウォーム30の種々の位置ずれ(図5〜図8に示した第1〜第4の位置ずれ)に起因してウォーム30の歯面31,32が可動する可動範囲を考慮し、その可動範囲の包絡線L1を含んで、ウォームホイール40の第1歯面形状部61,72を構成するので、実際の使用において、確実にウォーム30とウォームホイール40の歯面31,41;32,42間の潤滑状態を向上することができる。
【0033】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0034】
1…電動パワーステアリング装置、5…操舵補助機構、19…電動モータ、20…ウォーム減速機、30…ウォーム、31,32…歯面、40…ウォームホイール、41,42…歯面、50…歯溝、51…溝底、61…第1形状部、62…第2形状部、71…第1形状部、72…第2形状部、A0…中央部を含む領域、A1,A2…非接触領域、B0…中央部を含む領域…B0、B1,B2…非接触領域、C1…(ウォームの)中心軸線、C2…(ウォームホイールの)中心軸線、D1…中心間距離(ウォームの中心軸線とウォームホイールの中心軸線との距離)、L1…包絡線、P1…ウォームの中心軸線を含み且つウォームホイールの中心軸線に平行な平面、P2…ウォームの中心軸線を含み且つウォームホイールの中心軸線に直交する平面、W1…歯幅方向、X1…ウォームホイールの中心軸線に平行な方向、Y1…中心間距離を増減する方向(ウォームの中心軸線と前記ウォームホイールの中心軸線との距離を増減する方向)
【技術分野】
【0001】
本発明はウォーム減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、パワーステアリングの歯車機構において、鋼鉄製のウォームとプラスチック製のウォームホイールが互いに噛み合うときに、歯の高さ方向に線接触部が生ずるように歯面の実効輪郭を作製する技術が提案されている(例えば特許文献1を参照)。
一方、近年の電動パワーステアリング装置の高出力化に伴い、減速機構として用いられるウォーム減速機が大型化しており、車両へのレイアウトが非常に厳しくなってきている。特に、ウォームホイールのギヤ部として樹脂を用いた場合、強度を満足するためにウォームホイールが大型になる傾向にある。また、高強度に耐え得る樹脂は高価であり、製造コストが高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−161268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、金属ギヤを用いることが考えられる。通例、ウォームホイールに対するウォームの歯当たり領域は、ウォームホイールの歯面において、ウォームホイールの歯幅方向の中央位置に設定されている。
この場合、ウォーム減速機の負荷が大きくなると、ウォームホイールに対してウォームが種々の位置ずれを生じるため、ウォームホイールの歯面では、ウォームの歯がウォームホイールの歯溝に入り込む側の部分(歯溝の入口部)において、歯当たりが強くなる傾向にある。その結果、歯面間で、いわゆるくさび効果による潤滑作用が低下し、潤滑状態が悪くなる。潤滑状態が悪くなると、温度が上昇するため、益々、潤滑状態が悪化する。
【0005】
また、ウォーム減速機を量産した場合、部品精度のばらつきの影響で、ウォームホイールの歯溝の入口部において強い歯当たりを生ずる個体もある。
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、負荷がかかった状態でも常に潤滑油のくさび効果を確保することができるウォーム減速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、請求項1の発明は、ウォーム(30)と、前記ウォームと噛み合う歯溝(50)を有するウォームホイール(40)と、を備え、前記ウォームホイールの歯面(41,42)は、使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷のときの前記ウォームホイールに対するウォームの位置ずれに起因して前記ウォームの歯面が可動する可動範囲の包絡線(L1)を含んで構成された第1形状部(61,71)と、前記歯面のうち前記第1形状部を除く部分であって前記第1形状部の少なくとも溝底側に隣接し前記ウォームとの接触を回避した第2形状部(62,72)と、を含むウォーム減速機(20)を提供する。
【0007】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
また、請求項2のように、使用時の最大負荷未満の負荷のときに、前記ウォームホイールの歯面の第1形状部は、その歯幅方向の一対の端部(621,622;721,722)に、前記ウォームの歯面に対する非接触領域(A1,A2;B1,B2)を形成するようにしてもよい。
【0008】
また、請求項3のように、使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷のときに、前記ウォームホイールの歯面の第1形状部の全面と前記ウォームの歯面とが接触するようにしてもよい。
また、請求項4のように、前記ウォームの位置ずれは、前記ウォームホイールの中心軸線(C2)に平行な方向(X1)に前記ウォームがオフセットされる第1の位置ずれと、前記ウォームホイールの中心軸線と直交する平面(P2)内で前記ウォームの中心軸線(C1)と前記ウォームホイールの中心軸線との距離(D1)を増減する方向(Y1)に前記ウォームがオフセットされる第2の位置ずれと、前記ウォームの中心軸線を含み且つ前記ウォームホイールの中心軸線に平行な平面(P1)内で前記ウォームの中心軸線が傾斜する第3の位置ずれと、前記ウォームの中心軸線を含み且つ前記ウォームホイールの中心軸線とは直交する平面内で前記ウォームの中心軸線が傾斜する第4の位置ずれ、とを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、通常負荷(使用時の最大負荷未満の負荷)の範囲内での高負荷を受けてウォームが位置ずれしたときに、第1歯面形状部の例えば中央部を含む領域のみでウォームの歯面と接触する一方、第1歯面形状部の例えば歯幅方向の一対の端部とウォームの歯面との間には、隙間が形成される。この隙間(特にウォームの歯がウォームホイールの歯溝に侵入する入口側に設けられる隙間)を通して歯面間に潤滑油が侵入し易くなるので、常に潤滑油のくさび効果を確保して、歯面間の潤滑状態を常に良好に維持することができる。
【0010】
請求項2の発明によれば、通常負荷(使用時の最大負荷未満負荷)のときに、第1歯面形状部の歯幅方向の一対の端部とウォームの歯面とが接触せず両者の間に隙間が設けられる。この隙間(特にウォームの歯がウォームホイールの歯溝に侵入する入口側に設けられる隙間)を通して歯面間に潤滑油が侵入し易くなるので、常に潤滑油のくさび効果を確保して、歯面間の潤滑状態を常に良好に維持することができる。
【0011】
請求項3の発明によれば、万一、例えば使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷の状態が瞬間的に生じたとしても、第1歯面形状部の全面と前記ウォームの歯面とが接触することで、局部的な歯当たりを抑制して、耐久性を向上することができる。
請求項4の発明によれば、ウォームホイールに対するウォームの種々の位置ずれに起因してウォームの歯面が可動する可動範囲を考慮し、その可動範囲の包絡線を含んで、ウォームホイール歯面形状部を構成するので、実際の使用において、確実に歯面間の潤滑状態を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態にかかるウォーム減速機を備える電動パワーステアリング装置の概略構成を示す一部断面図である。
【図2】ウォームギヤ機構の概略斜視図である。
【図3A】ウォームホイールの要部の斜視図であり、例えば一方の歯面(ここでは左歯面と呼ぶ)を示している。
【図3B】ウォームホイールの要部の斜視図であり、例えば他方の歯面(ここでは右歯面と呼ぶ)を示している。
【図4】過負荷のときのウォームホイールに対するウォームの位置ずれに起因してウォームの歯面が可動する可動範囲の包絡線を示す概略斜視図である。
【図5】ウォーム減速機の概略図であり、ウォームホイールの中心軸線に平行な方向にウォームがオフセットされる第1の位置ずれを示している。
【図6】ウォーム減速機の概略図であり、ウォームホイールの中心軸線と直交する平面内でウォームの中心軸線とウォームホイールの中心軸線間との距離を増大する方向にウォームがオフセットされる第2位置ずれを示している。
【図7】ウォーム減速機の概略図であり、ウォームの中心軸線を含み且つウォームホイールの中心軸線に平行な面内でウォームの中心軸線が傾斜する第3の位置ずれを示している。
【図8】ウォームの中心軸線を含み且つウォームホイールの中心軸線とは直交する平面内でウォームの中心軸線が傾斜する第4の位置ずれを示す概略図である。
【図9A】ウォームホイールの要部の斜視図であり、通常範囲内の高負荷のときにおいて、例えば左歯面の接触領域と非接触領域を示している。
【図9B】ウォームホイールの要部の斜視図であり、通常範囲内の高負荷のときにおいて、例えば右歯面の接触領域と非接触領域を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下には、図面を参照して、この発明の実施形態について具体的に説明する。
図1は本発明の一実施の形態のウォームホイールを含む電動パワーステアリング装置の模式図である。図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール等からなる操舵部材2と、操舵部材2の回転に連動して転舵輪3を転舵する転舵機構4と、運転者の操舵を補助するための操舵補助機構5とを備えている。操舵部材2と転舵機構4とは、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して機械的に連結されている。
【0014】
本実施の形態では、操舵補助機構5がステアリングシャフト6にアシスト力(操舵補助力)を与える例に則して説明する。しかしながら、本発明を、操舵補助機構5が後述するピニオン軸にアシスト力を与える構造に適用することも可能である。
ステアリングシャフト6は、操舵部材2に連結された入力軸8と、中間軸7に連結された出力軸9とを含む。入力軸8と出力軸9とは、トーションバー10を介して同一軸線上で相対回転可能に連結されている。
【0015】
ステアリングシャフト6の周囲に配置されたトルクセンサ11は、入力軸8および出力軸9の相対回転変位量に基づいて、操舵部材2に入力された操舵トルクを検出する。トルクセンサ11のトルク検出結果は、制御装置としてのECU(Electronic Control Unit :電子制御ユニット)12に入力される。また、車速センサ13からの車速検出結果がECU12に入力される。中間軸7は、ステアリングシャフト6と転舵機構4とを連結している。
【0016】
転舵機構4は、ピニオン軸14と、転舵軸としてのラック軸15とを含むラックアンドピニオン機構からなる。ラック軸15の各端部には、タイロッド16およびナックルアーム(図示せず)を介して転舵輪3が連結されている。
ピニオン軸14は、中間軸7に連結されている。ピニオン軸14は、操舵部材2の操舵に連動して回転するようになっている。ピニオン軸14の先端(図1では下端)には、ピニオン17が設けられている。
【0017】
ラック軸15は、自動車の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸15の軸方向の途中部には、前記ピニオン17に噛み合うラック18が形成されている。このピニオン17およびラック18によって、ピニオン軸14の回転がラック軸15の軸方向移動に変換される。ラック軸15を軸方向に移動させることで、転舵輪3を転舵することができる。
【0018】
操舵部材2が操舵(回転)されると、この回転が、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して、ピニオン軸14に伝達される。そして、ピニオン軸14の回転は、ピニオン17およびラック18によって、ラック軸15の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。
操舵補助機構5は、操舵補助用の電動モータ19と、電動モータ19の出力トルクを転舵機構4に伝達するための伝達機構としてのウォーム減速機20とを含む。ウォーム減速機20は、駆動ギヤとしてのウォーム30と、このウォーム30と噛み合う被動ギヤとしてのウォームホイール40とを含む。ウォーム減速機20は、ギヤハウジング21内に収容されている。ギヤハウジング21内において、ウォーム30とウォームホイール40との少なくとも噛み合い領域には、潤滑油成分を含むグリース等の潤滑剤(図示せず)が充填されており、ウォーム30およびウォームホイール40の歯面間には、潤滑剤が介在している。
【0019】
ウォーム30は、図示しない継手を介して電動モータ19の回転軸(図示せず)に連結されている。ウォーム30は、電動モータ19によって回転駆動される。また、ウォームホイール40は、ステアリングシャフト6とは一体回転可能に連結されている。
電動モータ19がウォーム30を回転駆動すると、ウォーム30によってウォームホイール40が回転駆動され、ウォームホイール40およびステアリングシャフト6が一体回転する。そして、ステアリングシャフト6の回転は、中間軸7を介してピニオン軸14に伝達される。ピニオン軸14の回転は、ラック軸15の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。すなわち、電動モータ19によってウォーム30を回転駆動することで、転舵輪3が転舵されるようになっている。
【0020】
電動モータ19は、三相ブラシレスモータからなり、制御装置としてのECU12によって制御される。ECU12は、トルクセンサ11からのトルク検出結果、車速センサ13からの車速検出結果等に基づいて電動モータ19を制御する。具体的には、ECU12では、トルクと目標アシスト量との関係を車速毎に記憶したマップを用いて目標アシスト量を決定し、電動モータ19の発生するアシスト力を目標アシスト量に近づけるように制御する。
【0021】
図2に示すように、ウォーム減速機20のウォーム30は、軸方向に対向する一対の歯面31,32を有しており、各歯面31,32は渦巻き状に連続している。
ウォームホイール40の外周には、複数の歯溝50が周方向に等間隔で形成されている。ウォームホイール40は、各歯溝50において相対向し、ウォーム30の一対の歯面31,32に、それぞれ、噛み合う一対の歯面41,42を有している。
【0022】
図3Aに示すように、ウォームホイール40の歯面41(例えば左歯面)は、第1形状部61と、歯面41の残りの部分(第1形状部61を除く部分)である第2形状部62とを備えている。第1形状部61は、使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷のときのウォームホイール40に対するウォーム30の位置ずれに起因してウォーム30の歯面31が可動する可動範囲の包絡線L1(図4を参照)を含んで構成されている。使用時の最大負荷を超える負荷(過負荷)は、実際の使用時には生じ得ない負荷である。第2形状部62は、第1形状部61の少なくとも溝底51側に隣接しウォーム30の歯面31との接触を回避している。
【0023】
図3Bに示すように、ウォームホイール40の歯面42(例えば右歯面)は、第1形状部71と、歯面42の残りの部分(第1形状部71を除く部分)である第2形状部72とを備えている。第1形状部71は、使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷のときのウォームホイール40に対するウォーム30の位置ずれに起因してウォーム30の歯面32が可動する可動範囲の包絡線L1(図4を参照)を含んで構成されている。使用時の最大負荷を超える負荷(過負荷)は、実際の使用時には生じ得ない負荷である。第2形状部72は、第1形状部71の少なくとも溝底51側に隣接しウォーム30の歯面32との接触を回避している。
【0024】
ウォーム30が右巻きの螺旋として構成されている場合には、ウォームホイール40の例えば右歯面である歯面42の噛み合い負荷が例えば左歯面である歯面41の噛み合い負荷よりも大きいので、例えば右歯面である歯面42の第1形状部71の面積が、左歯面である歯面41の第1形状部61の面積よりも広くなっている。
歯面41の第2形状部62や歯面42の第2形状部72は、ウォーム30と接触しないように形成されていればよく、特に形状を限定されないので、例えば鍛造により歯溝50を形成する場合に適している。
【0025】
前述した使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷のときのウォーム30の位置ずれには、図5に示す第1の位置ずれ、図6に示す第2の位置ずれ、図7に示す第3の位置ずれ、および図8に示す第4の位置ずれが含まれている。
図5に示す第1の位置ずれは、ウォーム30がウォームホイール40の中心軸線C2に平行な方向X1にオフセットされる位置ずれである。より具体的には、第1の位置ずれは、ウォーム30の中心軸線C1を含み且つウォームホイール40の中心軸線C2に平行な平面P1(図5において紙面に相当)内において、ウォーム30の中心軸線C1がウォームホイール40の中心軸線C2に平行な方向X1にオフセットされる位置ずれである。
【0026】
図6に示す第2の位置ずれは、ウォームホイール40の中心軸線C2と直交する平面P2内でウォーム30とウォームホイール40の中心間距離D1を増減する方向Y1に前記ウォーム30がオフセットされる位置ずれである。より具体的には、第2の位置ずれは、ウォーム30の中心軸線X1を含み且つウォームホイール40の中心軸線C2に直交する平面P2(図6において紙面に相当)内において、ウォーム30の中心軸線C1とウォームホイール40の中心軸線間C2との距離である中心間距離D1を増減する方向Y1にウォーム30の中心軸線C1がオフセットされる位置ずれである。
【0027】
図7に示す第3の位置ずれは、ウォーム30の中心軸線C1を含み且つウォームホイール40の中心軸線C2に平行な面P1(図7において紙面に相当)内でウォーム30の中心軸線C1が傾斜する位置ずれである。
図8に示す第4の位置ずれは、ウォーム30の中心軸線C1を含み且つウォームホイール40の中心軸線C2とは直交する平面P2(図8において紙面に相当)内でウォーム30の中心軸線C1が傾斜する位置ずれである。
【0028】
本実施形態によれば、ウォームホイール40の歯面41,42が、使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷のときの前記ウォームホイール40に対するウォーム30の位置ずれに起因してウォーム30の歯面31,32が可動する可動範囲の包絡線L1を含んで構成された第1形状部61,71を含んでいる。
したがって、通常負荷(使用時の最大負荷未満の負荷)の状態(実際の使用状態に相当)でウォームホーイル40に対してウォーム30が位置ずれしたときに、図9Aに示すように、ウォームホイール40の歯面41(例えば左歯面)は、第1歯面形状部61の例えば中央部を含む領域A0のみでウォーム30の歯面31と接触する。通常負荷(使用時の最大負荷未満の負荷)の範囲内で負荷が大きくなるほど、領域A0の面積が増大する。一方、第1歯面形状部61の例えば歯幅方向W1の一対の端部611,612には、ウォーム30の歯面31に接触しない非接触領域A1,A2が形成される。
【0029】
これにより、ウォームホイール40の歯面41の歯幅方向W1の一対の端部611,612の非接触領域A1,A2とウォーム30の歯面31との間に、隙間(図示せず)が形成される。この隙間(特にウォーム30の歯がウォームホイール40の歯溝50に侵入する入口側に設けられる非接触領域とウォーム30の歯面31との間の隙間)を通して、歯面41,31間に潤滑油が侵入し易くなるので、常に潤滑油のくさび効果を確保して、歯面41,31間の潤滑状態を常に良好に維持することができる。
【0030】
また、通常負荷(使用時の最大負荷未満の負荷)の状態(実際の使用状態に相当)でウォームホイール40に対してウォーム30が位置ずれしたときに、図9Bに示すように、ウォームホイール40の歯面42(例えば右歯面)は、第1歯面形状部71の例えば中央部を含む領域B0のみでウォーム30の歯面32と接触する。通常負荷の範囲内で負荷が大きくなるほど、領域B0の面積が増大する。一方、第1歯面形状部71の例えば歯幅方向W1の一対の端部711,712には、ウォーム30の歯面32に接触しない非接触領域B1,B2が形成される。
【0031】
これにより、ウォームホイール40の歯面42の歯幅方向W1の一対の端部711,712の非接触領域B1,B2とウォーム30の歯面32との間に、隙間(図示せず)が形成される。この隙間(特にウォーム30の歯がウォームホイール40の歯溝50に侵入する入口側に設けられる非接触領域とウォーム30の歯面32との間の隙間)を通して歯面42,32間に潤滑油が侵入し易くなるので、常に潤滑油のくさび効果を確保して、歯面42,32間の潤滑状態を常に良好に維持することができる。
【0032】
さらに、万一、例えば使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷の状態が瞬間的に生じたとしても、各第1歯面形状部61,71の全面とウォーム30の対応する歯面31,32とが接触することで、局部的な歯当たりを抑制して、耐久性を向上することができる。
また、ウォームホイール40に対するウォーム30の種々の位置ずれ(図5〜図8に示した第1〜第4の位置ずれ)に起因してウォーム30の歯面31,32が可動する可動範囲を考慮し、その可動範囲の包絡線L1を含んで、ウォームホイール40の第1歯面形状部61,72を構成するので、実際の使用において、確実にウォーム30とウォームホイール40の歯面31,41;32,42間の潤滑状態を向上することができる。
【0033】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0034】
1…電動パワーステアリング装置、5…操舵補助機構、19…電動モータ、20…ウォーム減速機、30…ウォーム、31,32…歯面、40…ウォームホイール、41,42…歯面、50…歯溝、51…溝底、61…第1形状部、62…第2形状部、71…第1形状部、72…第2形状部、A0…中央部を含む領域、A1,A2…非接触領域、B0…中央部を含む領域…B0、B1,B2…非接触領域、C1…(ウォームの)中心軸線、C2…(ウォームホイールの)中心軸線、D1…中心間距離(ウォームの中心軸線とウォームホイールの中心軸線との距離)、L1…包絡線、P1…ウォームの中心軸線を含み且つウォームホイールの中心軸線に平行な平面、P2…ウォームの中心軸線を含み且つウォームホイールの中心軸線に直交する平面、W1…歯幅方向、X1…ウォームホイールの中心軸線に平行な方向、Y1…中心間距離を増減する方向(ウォームの中心軸線と前記ウォームホイールの中心軸線との距離を増減する方向)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォームと、前記ウォームと噛み合う歯溝を有するウォームホイールと、を備え、
前記ウォームホイールの歯面は、使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷のときの前記ウォームホイールに対するウォームの位置ずれに起因して前記ウォームの歯面が可動する可動範囲の包絡線を含んで構成された第1形状部と、前記歯面のうち前記第1形状部を除く部分であって前記第1形状部の少なくとも溝底側に隣接し前記ウォームとの接触を回避した第2形状部と、を含むウォーム減速機。
【請求項2】
請求項1において、使用時の最大負荷未満の負荷のときに、前記ウォームホイールの歯面の第1形状部は、その歯幅方向の一対の端部に、前記ウォームの歯面に対する非接触領域を形成するウォーム減速機。
【請求項3】
請求項2において、使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷ときに、前記ウォームホイールの歯面の第1形状部の全面と前記ウォームの歯面とが接触するウォーム減速機。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項において、前記ウォームの位置ずれは、前記ウォームホイールの中心軸線に平行な方向に前記ウォームがオフセットされる第1の位置ずれと、前記ウォームホイールの中心軸線と直交する平面内で前記ウォームの中心軸線と前記ウォームホイールの中心軸線との距離を増減する方向に前記ウォームがオフセットされる第2の位置ずれと、前記ウォームの中心軸線を含み且つ前記ウォームホイールの中心軸線に平行な平面内で前記ウォームの中心軸線が傾斜する第3の位置ずれと、前記ウォームの中心軸線を含み且つ前記ウォームホイールの中心軸線とは直交する平面内で前記ウォームの中心軸線が傾斜する第4の位置ずれ、とを含むウォーム減速機。
【請求項1】
ウォームと、前記ウォームと噛み合う歯溝を有するウォームホイールと、を備え、
前記ウォームホイールの歯面は、使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷のときの前記ウォームホイールに対するウォームの位置ずれに起因して前記ウォームの歯面が可動する可動範囲の包絡線を含んで構成された第1形状部と、前記歯面のうち前記第1形状部を除く部分であって前記第1形状部の少なくとも溝底側に隣接し前記ウォームとの接触を回避した第2形状部と、を含むウォーム減速機。
【請求項2】
請求項1において、使用時の最大負荷未満の負荷のときに、前記ウォームホイールの歯面の第1形状部は、その歯幅方向の一対の端部に、前記ウォームの歯面に対する非接触領域を形成するウォーム減速機。
【請求項3】
請求項2において、使用時の最大負荷と同等または同等以上の負荷ときに、前記ウォームホイールの歯面の第1形状部の全面と前記ウォームの歯面とが接触するウォーム減速機。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項において、前記ウォームの位置ずれは、前記ウォームホイールの中心軸線に平行な方向に前記ウォームがオフセットされる第1の位置ずれと、前記ウォームホイールの中心軸線と直交する平面内で前記ウォームの中心軸線と前記ウォームホイールの中心軸線との距離を増減する方向に前記ウォームがオフセットされる第2の位置ずれと、前記ウォームの中心軸線を含み且つ前記ウォームホイールの中心軸線に平行な平面内で前記ウォームの中心軸線が傾斜する第3の位置ずれと、前記ウォームの中心軸線を含み且つ前記ウォームホイールの中心軸線とは直交する平面内で前記ウォームの中心軸線が傾斜する第4の位置ずれ、とを含むウォーム減速機。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【公開番号】特開2013−87796(P2013−87796A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226108(P2011−226108)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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