説明

ウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物の製造方法

【課題】ウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物の新規な製造方法を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアナートと環状ケタールとをウレタン化反応させ、カチオン性イオン交換樹脂の存在下に加水開環反応させて式(4)で示す化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、接着剤、成形材料、インキ、印刷材料、電気絶縁材料、光学材料、歯科材料、医療材料等の分野で幅広く利用することが可能な、新規なウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反応性が高いことで知られる(メタ)アクリレート系のモノマーは、熱、紫外線、電子線、ラジカル重合開始剤などを用いて、(メタ)アクリレート系のモノマー単独で、あるいは他のエチレン性不飽和化合物と共重合することにより、様々な要求に応じられる汎用性の高い高分子化合物として用いることができる。(メタ)アクリレート系のモノマーは、例えば、粘着剤、塗料等の分野などで用いられる他、最近では電子材あるいは歯科材の分野でも用いられている。特に医療用材料の分野では、ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセロールメタクリレート、ビニルピロリドンなどの親水性を有する(メタ)アクリレート化合物が提案され、既に実用化されている。
このような(メタ)アクリレート系のモノマーは、高純度、かつ高機能性が求められる電子材や歯科材などの分野に使用され始めたことに伴い、非水性材料との親和性、接着性や親水性等に優れる性質、さらには光重合性等の機能性などが新たな課題として要求され始めている。
【0003】
このような要求に対応した(メタ)アクリレート系のモノマーとしては、例えば特許文献1にリン含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物が、特許文献2にカラーフィルタ材料として(メタ)アクリロイル基を有する多官能ウレタンアクリレート感光性組成物が提案されている。
しかし、これらはモノマーの重合性や、レジストなどに用いる場合の基板への接着性、あるいは合成の容易さ等における課題解決が充分とは言えない。従って、光重合成、接着性、且つ製造の容易さに優れた、新規な(メタ)アクリレート系モノマーの開発が熱望されている。
【0004】
このため、発明者らは、分子構造中に重合性の(メタ)アクリレート基および親水性のウレタン結合と、複数のヒドロキシ基を併せ持つ、ウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物を研究している。しかし、ケタール化された(メタ)アクリレート化合物を原料として、塩酸、硫酸等の無機酸を触媒に使用してウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物を製造すると、アルカリによる触媒の中和が必要であり、中和の際に水酸基がエステル交換反応するなど、副反応が起こるため、重合性二官能化合物が生成し、ウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物の純度が低下することがある。このため、ウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物のさらに効率的な製造方法を開発することが求められていた。
【0005】
【特許文献1】特開2003−212954号公報
【特許文献2】特開2003−315998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、分子内に親水性の高い構造を有し、かつ高い光重合成を示すウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物を容易に得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、カチオン性イオン交換樹脂を用いる製造方法が上記課題を解決する製造方法であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明によれば、式(1)で表される(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアナートと式(2)で表される環状ケタールとをウレタン化反応させ、式(3)で表される化合物(3)を得、これをカチオン性イオン交換樹脂の存在下に水含有溶媒中で加水開環反応させることを特徴とする下記化合物(4)の製造方法が提供される。即ち、本発明は次の[1]および[2]です。
[1]、式(1)で表される(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアナートと式(2)で表される環状ケタールとをウレタン化反応させ、式(3)で表されるウレタン結合含有環状ケタール(メタ)アクリレート化合物を得、これをカチオン性イオン交換樹脂の存在下に水含有溶媒中で加水開環反応させることを特徴とする式(4)で示されるウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物の製造方法。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を表す。)
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R2は−(CH2)n−で示される基を示す。ここで、nは1〜4の整数である。R3及びR4は同一であっても異なっても良く、水素原子またはメチル基またはエチル基を表す。)
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、R1、R2、R3及びR4は式(1)又は式(2)と同様である。)
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、R1及びR2は式(1)又は式(2)と同様である。)
[2]、カチオン性イオン交換樹脂が、H+型カチオン性イオン交換樹脂である、前記[1]項に記載のウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、化合物(3)を前駆体として用い、これをカチオン性イオン交換樹脂の存在下で、水含有溶媒中で加水開環反応させる方法により目的の化合物(4)を純度良く容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、式(1)で表される(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアナートと式(2)で表される環状ケタールとをウレタン化反応させ、式(3)で表される化合物(3)を得、これをカチオン性イオン交換樹脂の存在下に水含有溶媒中で加水開環反応させることを特徴とする化合物(4)の製造方法である。
【0019】
本発明の製造方法に用いる(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアナートは、式(1)で表される。式(1)中、R1は水素原子またはメチル基である。このような、式(1)で表される(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアナートの具体例としては、例えば、アクリロイルオキシエチルイソシアナート、メタクリロイルオキシエチルイソシアナートが挙げられ、入手の容易さの点からメタクリロイルオキシエチルイソシアナートが好ましく挙げられる。このようなイソシアナートは、市販品を用いても良いが、公知の合成方法を駆使することにより既知の原料から合成したものを用いても良い。
【0020】
本発明の製造方法に用いる環状ケタールは式(2)で表される。式(2)においてR2は−(CH2)n−で示される基を示し、nは1〜4の整数である。R2は具体的に−CH2−、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−、−CH2CH2CH2CH2−などのいずれかであり、入手のし易さから−CH2−であることが好ましい。R3及びR4は同一であっても異なっても良く、水素原子またはメチル基またはエチル基を示し、反応後の環状ケタール残留分除去の容易さの観点からは、メチル基であることが好ましい。
【0021】
前記式(2)で表される環状ケタールの具体例としては、例えば、2,3−O−イソプロピリデングリセロール、3,4−O−イソプロピリデンブタノール、5,6−O−イソプロピリデンヘキサノール、2,3−O−sec−ブチリデングリセロール、3,4−O−sec−ブチリデンブタノール、5,6−O−sec−ブチリデンヘキサノール、等が挙げられ、反応の容易さの点からは2,3−O−イソプロピリデングリセロールが好ましく挙げられる。これらの環状ケタールとしては、市販品が用いられる他、グリセリンと式(5)で表されるカルボニル化合物とを、塩酸、硫酸、パラトルエンスルホン酸などの触媒存在下に、石油エーテル、ベンゼン、トルエンなどの溶媒中で環化反応させた合成物を用いることもできる。
【0022】
【化5】

【0023】
式(5)中、R3及びR4は式(2)のものと同一である。式(5)で表されるカルボニル化合物としては、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、3−ペンタノンが挙げられ、反応後の除去の容易さからアセトンが好ましく挙げられる。
【0024】
本発明の製造方法におけるウレタン結合含有環状ケタール(メタ)アクリレート化合物は、式(3)で示されるウレタン結合含有環状ケタール(メタ)アクリレート化合物である[以下、化合物(3)と略称することもある]。式(3)中においてR1は水素原子またはメチル基を表し、入手のし易さからメチル基であることが好ましい。R2は−(CH2)n−で示される基を示し、nは1〜4の整数である。R2は具体的に−CH2−、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−、−CH2CH2CH2CH2−などのいずれかであり、入手のし易さから−CH2−であることが好ましい。また、式(3)中のR3及びR4は同一であっても異なっても良く、水素原子またはメチル基またはエチル基を示し、反応後の環状ケタール残留分除去の容易さの観点からは、メチル基であることが好ましい。
【0025】
前記化合物(3)の具体例としては、例えば、2,3−O−イソプロピリデングリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン、3,4−O−イソプロピリデンブチル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン、5,6−O−イソプロピリデンヘキシル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン、2,3−O−sec−ブチリデングリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン、3,4−O−sec−ブチリデンブチル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン、5,6−O−sec−ブチリデンヘキシル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン等が挙げられ、反応の容易さの点から2,3−O−イソプロピリデングリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンが好ましく挙げられる。
【0026】
本発明の製造方法により製造されるウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物は、式(4)で表されるウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物である(化合物(4)と略称することもある)。式(4)中においてR1は水素原子またはメチル基を表し、取扱い易さの点からメチル基であることが好ましい。R2は−(CH2)n−で示される基を示し、nは1〜4の整数である。R2は具体的には、−CH2−、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−、−CH2CH2CH2CH2−などのいずれかであり、取扱い易さの点から−CH2−であることが好ましい。
前記化合物(4)の具体例としては、グリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン、3,4−ジヒトロキシブチル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン、5,6−ジヒトロキシヘキシル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン等が挙げられ、合成のし易さからグリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンが好ましく挙げられる。
【0027】
本発明の製造方法により化合物(4)を調製するには、前記式(1)で表される(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアナートと前記式(2)で表される環状ケタールとをウレタン化反応させ、前記式(3)で表される化合物(3)を得、これをカチオン性イオン交換樹脂の存在下に水含有溶媒中で加水開環反応させる本発明の製造方法により得ることができる。
【0028】
式(1)で表される(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアナートと、式(2)で表される環状ケタールとを、ウレタン化反応させる際の該環状ケタールの量は、該(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアナートに対し、モル比で1.1〜3倍量が好ましい。このウレタン化反応は、触媒を用いなくても進行するが、反応時間を短縮できる点から、ウレタン化反応用触媒を用いるのが好ましい。
【0029】
前記ウレタン化反応用触媒としては、例えば、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、ジモルフォリノメタン、エチルモルフォリノ酢酸、N−(3−ジメチルアミノプロピル)モルフォリン、N−メチルピペリジン、キノリン、1,2−ジメチルイミダゾール、N−メチルジシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、1,4−ジアザビシクロオクタン、テトラメチル−1,3−ブタンジアミン、テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、ジメチルジエチル−1,3−プロパンジアミン、ペンタメチルジエチレンジアミン、テトラエチルメタンジアミン、ビス(2−ジメチルアミノエチル)アジペート、ビス(2−ジエチルアミノエチル)アジペート、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジエチルシクロヘキシルアミン、メチルオクチルシクロヘキシルアミン、メチルドデシルシクロヘキシルアミンなどの3級アミン化合物;塩化スズ、テトラ−N−ブチルスズ、テトラフェニルスズ、トリ−n−ブチルスズアセテート、ジメチルジクロロスズ、ジ−n−ブチルスズジアセテート、ジ−n−ブチルジクロロスズ、ジ−n−ブチルスズジラウレート、ジ−n−ブチルスズジジラウリン酸メルカプチド、ビス(2−エチルヘキシル)スズオキシド、ジ−n−ブチルスズスルフィドなどの含スズ化合物が用いられ、反応生成物にウレタン化反応用触媒が残存した場合の安全性の点からは、3級アミン化合物が好ましく挙げられる。
【0030】
前記ウレタン化反応用触媒を用いる場合の使用量は、前記(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアナート100質量部に対して通常0.001〜50質量部、好ましくは0.01〜30質量部、最も好ましくは0.1〜10質量部である。
【0031】
前記ウレタン化反応は、無溶媒の反応でも何ら問題無く行えるが、前記(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアナートに対して反応性をもたない溶媒を用いるのであれば溶媒存在下に行うこともできる。前記溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ピリジン等が好ましく挙げられ、反応後の溶媒除去の容易さからアセトンが最も好ましく挙げられる。前記溶媒を用いる場合の使用量は、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアナート100質量部に対して0.1〜1000質量部程度である。
【0032】
前記ウレタン化反応の反応温度は、通常0〜100℃、好ましくは25〜80℃、最も好ましくは40〜60℃の範囲である。反応温度が0℃より低い場合は、反応に長時間を要する恐れがある。反応温度が100℃を超える場合、重合等の副反応が起こり易くなる恐れがある。一方、反応時間は、反応温度、触媒の種類および量などの条件により異なるが、通常、6〜24時間程度であるのが好ましい。
以上のウレタン化反応により、式(3)で表されるウレタン結合含有環状ケタール(メタ)アクリレート化合物(以下、化合物(3)と略することもある)を得ることができる。得られる化合物(3)は、そのまま未精製で、または再結晶、カラム等の処理により単離、精製したのち、化合物(4)を得るための加水開環反応の原料として用いることができる。
【0033】
本発明の製造方法では、前記化合物(3)を、カチオン性イオン交換樹脂の存在下に水含有溶媒中で加水開環反応させる事により目的の化合物(4)を得ることができる。
本発明の製造方法に用いるカチオン性イオン交換樹脂には、H+型カチオン性イオン交換樹脂と、Na+型カチオン性イオン交換樹脂がある。
前記、H+型カチオン性イオン交換樹脂としては、カルボン酸残基の陽イオンが水素イオン(H+)をもつ、カルボン酸残基を有するH+型カチオン性イオン交換樹脂;スルホン酸残基の陽イオンが水素イオン(H+)をもつ、スルホン酸残基を有するH+型カチオン性イオン交換樹脂;がある。
前記、Na+型カチオン性イオン交換樹脂としては、スルホン酸残基の陽イオンがナトリウムイオン(Na+)をもつ、スルホン酸残基を有するNa+型カチオン性イオン交換樹脂;がある。
【0034】
前記、カルボン酸残基を有するH+型カチオン性イオン交換樹脂としては、具体的には、ダイヤイオンWKシリーズ(商品名、三菱化学社製)、IRC50、IRC76(商品名、オルガノ社製)等が挙げられる。
前記、スルホン酸残基を有するH+型カチオン性イオン交換樹脂としては、具体的には、アンバーリスト15DRY(商品名、ローム&ハース社製)、アンバーリスト15WET(商品名、ローム&ハース社製)、アンバーリスト31WET(商品名、ローム&ハース社製)、ダウエックス50W(商品名、ダウケミカル社製)、ムロマックXSC−12−338(商品名、ムロマチテクノス社製)、ナフィオンNR50(商品名、デュポン社製)等が挙げられる。
また前記、スルホン酸残基を有するNa+型カチオン性イオン交換樹脂としては、具体的には、ダイヤイオンSKシリーズ(商品名、三菱化学社製)、ダイヤイオンUBKシリーズ(商品名、三菱化学社製)等が挙げられる。
【0035】
以上のカチオン性イオン交換樹脂のうち、反応速度の速さやの点からは、H+型カチオン性イオン交換樹脂を用いるのがよく、中でもダイヤイオンWKシリーズ、アンバーリスト31WET、ナフィオンNR50を用いるのが好ましい。これらH+型カチオン性イオン交換樹脂を用いる場合、反応速度の速さや反応終了後の濾過等を用いたカチオン性イオン交換樹脂の、除去の容易さの理由からは、スルホン酸残基を有するH+型カチオン性イオン交換樹脂を用いるのがよく、中でもアンバーリスト31WET、ナフィオンNR50が最も好ましい。
【0036】
尚、Na+型カチオン性イオン交換樹脂を用いる場合は、できれば使用前にイオン交換操作を行い任意のイオン交換率でH+型にした後に用いることが反応速度の速さの点から好ましい。Na+型強酸性カチオン性イオン交換樹脂をそのまま用いて式(4)で示されるウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物を得る場合は、反応速度が遅く、短時間の反応では反応転化率が上がらない傾向があるので、H+型強酸性カチオン性イオン交換樹脂を用いたときより長時間反応させるか、使用量を多くするとよい。
【0037】
本発明の製造方法に用いるカチオン性イオン交換樹脂の樹脂の形状は、用いる反応条件に応じて選択してよいが、通常、粒子径が100μm〜5mm程度の小粒子の形状、もしくは繊維状の形状ものを使用することができる。
カチオン性イオン交換樹脂の使用量は、通常反応系全体に占める割合が、0.5〜50質量%、さらに好ましくは1〜30質量%となる量が好ましい。0.5質量%より少ない場合、短時間に高い反応転化率が達成できない場合があり、また50質量%より多くしても反応転化率の向上が期待できないことがあり効率的でない。
【0038】
加水開環反応に用いる水含有溶媒としては、例えば、水単独または、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ジメチルアセトアミドなどの水可溶性の溶媒と水との混合溶媒が好ましく挙げられ、反応後の除去の容易さからエタノールと水との混合溶媒が最も好ましく挙げられる。この際、エタノールと水との混合割合は4対1が最もよい。
水含有溶媒の使用量は、前記化合物(3)100質量部に対して300〜1000質量部程度である。
【0039】
前記加水開環反応の反応温度は、好ましくは0〜50℃の範囲である。反応温度が50℃を超える場合、エステルの加水分解反応またはエステル交換反応などの副反応が起こる恐れがある。また反応温度が0℃より低い場合、水分が固化する恐れがある。一方、反応時間は、反応温度、カチオン性イオン交換樹脂の種類および量などの条件により異なるが、通常、1〜6時間程度が好ましい。
尚、前記加水開環反応の進行に伴い、反応系内にカルボニル化合物が副生成することがあるが、反応時間を短縮する目的で、副生成するカルボニル化合物を減圧留去などの手段により反応系内から除去することが好ましい。
【0040】
本発明の製造方法により得られる化合物(4)は、そのまま未精製で使用できる他、減圧乾燥、再結晶、カラム等の処理により単離、精製した後に用いることもできる。
【0041】
尚、式(4)で示されるウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物の製造方法としては、本発明のカチオン性イオン交換樹脂を用いる製造方法のほかに、ケタール化された(メタ)アクリレート化合物を塩酸、硫酸等の無機酸を触媒として使用する方法もあるが、無機酸を使用する方法では、アルカリによる触媒の中和が必要であり、中和の際に水酸基がエステル交換反応などの副反応が起こり、場合によっては、重合性二官能化合物が生成して目的物の純度が低下することがある。本発明のカチオン性イオン交換樹脂を用いる製造方法では、これらの問題がないのでウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物の製造方法として優れている。
【0042】
また、本発明のカチオン性イオン交換樹脂を用いる方法では、用いるカチオン性イオン交換樹脂が固体であるために、反応液から容易に除去することができるので中和の操作が不要であり、重合性二官能化合物生成等の問題がほとんどない。その結果、本発明の製造方法によって得られる前記式(4)で示されるウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレートは、使用するカチオン性イオン交換樹脂の種類により僅かに着色する場合があるが、高純度であり、これを原料に使用した重合組成物はゲル化を起こし難いという利点があるので、各種ポリマー製品を製造する際のモノマー原料として好ましく使用できる。
前記式(4)で示されるウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレートをモノマー原料に用いて、公知の重合方法により重合して得られたポリマーは、塗料、接着剤、成形材料、インキ、印刷材料、電気絶縁材料、光学材料、歯科材料、医療材料等の分野で幅広く利用することが可能である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
製造例1 (式(2)の化合物の合成)
2,3−O−イソプロピリデングリセロールは、M.Renoll,M.S.Newman,Org.Syn.Coll.3,502(1955)に従い、以下の合成方法により製造した。
カルシウム管、冷却管およびディーン−スターク(Dean−stark)トラップを装着したナス型フラスコに、グリセリン(100g)、アセトン(300ml)、p−トルエンスルホン酸1水和物(3g)および石油エーテル(300ml)を加え、50℃に設定したオイルバス中で加熱還流させた。12時間後、生成水分量約23mlで、新たに水分が生成しなくなったことを確認した後、反応混合物を室温まで冷却した。次いで、酢酸ナトリウム3gを加えて更に30分間攪拌した後、エバポレータにより石油エーテルおよびアセトンを留去した。得られた粗生成物を、バス温度70℃、留分温度60℃、減圧度5mmHgの条件で減圧蒸留することにより、収量130.6g、収率91%で、無色透明液体の2,3−O−イソプロピリデングリセロールを得た。1H−NMRの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(CDCl3)1.3−1.5ppm,d,C3(6H) 1.9ppm,s,O(1H) 3.5−4.3ppm,m,C22(5H)
【0044】
製造例2(式(2)の化合物の合成)
アセトンの代わりにメチルエチルケトンを用いた以外は製造例1と同様の操作を行ない、収量139.6g、収率88%で、無色透明液体の2,3−O−sec−ブチリデングリセロールを得た。1H−NMRの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(CDCl3)0.8−1.0ppm,t,CH23(3H) 1.2−1.4ppm,d,C3(3H) 1.6−1.8ppm,q,C2CH3(2H) 1.9ppm,s,O(1H) 3.5−4.3ppm,m,C22(5H)
【0045】
製造例3(化合物(3)の合成)
ナス型フラスコに、製造例1において合成した2,3−O−イソプロピリデングリセロール6.60gおよびピリジン1mlを加え、メタクリロイルオキシエチルイソシアナート7.37g(昭和電工(株)製)を秤取って、滴下ロートおよびカルシウム管を装着した。室温、遮光下において、メタクリロイルオキシエチルイソシアナートをゆっくりと滴下した。50℃に設定したオイルバス中で7時間反応させた。反応終了後、ピリジンおよび過剰の2,3−O−イソプロピリデングリセロールを減圧留去することにより、収量12.7g、収率93%で、白色固体の2,3−O−イソプロピリデングリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンを得た。1H−NMRの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(CDCl3)1.3−1.5ppm,d,C3(6H) 1.9ppm,s,CH2=CH(C3)(3H) 3.4−4.4ppm,m,OC22NH C22(9H) 5.1ppm,s,N(1H) 5.6,6.1ppm,s,C2=C(CH3)(2H)
【0046】
得られた生成物をHPLCにより下記条件において分析した結果、得られた2,3−O−イソプロピリデングリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンの純度は98%以上であることが分かった。
(HPLC条件)
溶離液:水/アセトニトリル=4/6(v/v)、カラム:ODS、検出器:UV(220nm)、送液速度:1.0ml/min、カラム槽温度:40℃
【0047】
製造例4(化合物(3)の合成)
2,3−O−イソプロピリデングリセロールの代わりに製造例2において合成した2,3−O−sec−ブチリデングリセロールを用いた以外は製造例3と同様の操作を行ない、収量13.8g、収率96%で、無色透明液体の2,3−O−sec−イソブチリデングリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンを得た。1H−NMRの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(CDCl3) 0.8−1.0ppm,t,CH23(3H) 1.2−1.4ppm,d,C3(3H) 1.6−1.8ppm,q,C2CH3(2H) 1.9ppm,s,CH2=CH(C3)(3H) 3.4−4.4ppm,m,OC22NH C22(9H) 5.1ppm,s,N(1H) 5.6,6.1ppm,s,C2=C(CH3
得られた生成物を実施例1と同様にHPLCにより分析した結果、得られた2,3−O−sec−イソブチリデングリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンの純度は97%以上であることが分かった。
【0048】
実施例1(化合物(4)の合成)
スクリュー管に、マグネチックスターラ、製造例3において合成した2,3−O−イソプロピリデングリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン10.0g、水10ml、エタノール40mlおよびカチオン性イオン交換樹脂としてアンバーリスト31WET(ローム&ハース社製)3.0gを加え、45℃で6時間攪拌反応させた後、アンバーリスト31WETを濾別し、減圧乾燥により収量8。5gで無色粘性液体のグリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンを得た。1H−NMRの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(D2O) 1.8ppm,s,CH2=CH(C3)(3H) 3.3−4.2ppm,m,OC22NH C22(9H) 5.6,6.0ppm,s,C2=C(CH3)(2H)
【0049】
得られた生成物を下記の条件でHPLCにより分析した結果、得られたグリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンの純度は98%以上であることが分かった。
(HPLC条件)
溶離液:水/アセトニトリル=4/6(v/v)、カラム:ODS、検出器:UV(220nm)、送液速度:1.0ml/min、カラム槽温度:40℃
【0050】
実施例2(化合物(4)の合成)
2,3−O−イソプロピリデングリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンの代わりに製造例4において合成した2,3−O−sec−ブチリデングリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンとカチオン性イオン交換樹脂としてナフィオンNR50(デュポン社)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行ない、収量8.0gで、無色粘性液体のグリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンを得た。1H−NMRの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(D2O) 1.8ppm,s,CH2=CH(C3)(3H) 3.3−4.2ppm,m,OC22NH C22(9H) 5.6,6.0ppm,s,C2=C(CH3)(2H)
得られた生成物を実施例1と同様にHPLCにより分析した結果、得られたグリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンは97.7%以上であることが分かった。
【0051】
比較例1
スクリュー管に、マグネチックスターラ、製造例3において合成した2,3−O−イソプロピリデングリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン10.0g、水5ml、エタノール40mlおよび濃硫酸3.0gを加え、45℃で24時間攪拌反応させた後、炭酸ナトリウムを加えて硫酸を中和した。中和液を濾別し、減圧乾燥により収量8.2gで無色粘性液体のグリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンを得た。
得られた生成物を実施例1と同様にHPLCにより分析した結果、グリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンは87.7%であり、副反応により生成した重合性二官能化合物であるグリセリル−1, 3−ジメタクリロイルオキシエチルウレタンが12.3%含まれることが分かった。
【0052】
実施例3(種々のカチオン性イオン交換樹脂による化合物(4)の合成)
製造例3において合成した2,3−O−イソプロピリデングリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン10.0g、水10mlおよびエタノール40mlを入れたスクリュー管に表1に示した種々のカチオン性イオン交換樹脂を2.0gずつ加え、45℃で6時間攪拌反応させ、グリセリル−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンを得た後、反応転化率、濾過性および着色性について分析し、種々のカチオン性イオン交換樹脂を用いて合成を行った場合の結果を表1に示した。反応転化率は実施例1と同様にHPLCにより分析した。
着色性の評価はJISK4101(ハーゼン単位色数試験方法)に基づいてハーゼン標準液No.500を蒸留水で希釈し、No5〜No200までの標準液を調製し評価を行った。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例3では、H+型カチオン性イオン交換樹脂を用いた場合、Na+型カチオン性イオン交換樹脂を用いた場合にくらべて反応転化率や着色性が良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアナートと式(2)で表される環状ケタールとをウレタン化反応させ、式(3)で表されるウレタン結合含有環状ケタール(メタ)アクリレート化合物を得、これをカチオン性イオン交換樹脂の存在下に水含有溶媒中で加水開環反応させることを特徴とする式(4)で示されるウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物の製造方法。
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメチル基を表す。)
【化2】

(式中、R2は−(CH2)n−で示される基を示す。ここで、nは1〜4の整数である。R3及びR4は同一であっても異なっても良く、水素原子またはメチル基またはエチル基を表す。)
【化3】

(式中、R1、R2、R3及びR4は式(1)又は式(2)と同様である。)
【化4】

(式中、R1及びR2は式(1)又は式(2)と同様である。)
【請求項2】
カチオン性イオン交換樹脂が、H+型カチオン性イオン交換樹脂である、請求項1に記載のウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物の製造方法。


【公開番号】特開2007−297329(P2007−297329A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−126324(P2006−126324)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【Fターム(参考)】