説明

エアサスペンション装置

【課題】装置全体としての消費電力を極力抑え得る小型で安価なエアサスペンション装置を提供する。
【解決手段】空気室ARを有する空気ばね手段ASが各車輪に装着されており、空気室への空気の給排流路にベーンポンプVPが介装され、複数のベーン3を有する回転子(ロータ4)が空気の給排に応じて可逆的に回転駆動される。ベーンポンプVPにはモータジェネレータMGが連結されており、これに電力蓄積手段ESから電力が供給されたときには回転子が回転駆動されて空気ばね手段に加圧空気が供給され、空気室から空気が排出されるときにはその空気圧によって回転子が回転駆動されて電力が出力され、電力蓄積手段ESに蓄積される。これらの電力は制御手段TRによって制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアサスペンション装置に関し、特に、車両の各車輪に装着した空気ばね手段への空気の給排を制御して車高を調整するエアサスペンション装置に係る。
【背景技術】
【0002】
エアサスペンション装置として、例えば下記の特許文献1に「車高の降下時間を充分に短くすることが可能なエアサスペンション装置」が提案され(公報の段落〔0005〕に記載)、「車高を下げるときに、排気弁が閉じられた状態で、分断弁が閉作動し、両開閉バルブが開作動するように設定すれば、前輪側左右エアチャンバから前輪側枝流路、前輪側主流路および前輪側タンク流路を通してタンクへ空気が流入するのと同時に、後輪側左右エアチャンバから後輪側枝流路、後輪側主流路および後輪側タンク流路を通してタンクへ空気が流入するようになる。このため、タンクへの流入時における空気の干渉が回避されて車高の降下時間を充分に短くすることが可能である。」と説明されている(段落〔0007〕)。
【0003】
同様に、下記の特許文献2にて「例えばオペレータを含む乗員の乗降時等に車高調整作業(車高の上げ,下げ)を短時間で行うことができ、車高調整時の応答性、制御性を向上することができるようにしたエアサスペンション装置」が提案され(段落〔0010〕)、「空気圧縮機の吐出側に主管路を設け、該主管路の途中には排気弁を設け、車両の各空気ばねに対しては複数の分岐管路と各開閉弁を介して主管路を接続すると共に、該主管路には前記空気ばねから排出された排気空気を内部に貯留する空気タンクをタンク管路を介して接続し、該空気タンクと空気圧縮機との間に接続される再圧縮管路と前記タンク管路とを、方向制御弁により前記空気タンクに対し選択的に連通,遮断する構成」が開示されている(段落〔0017〕)。
【0004】
また、車両の車高調整装置として、下記の特許文献3に「車高下降時間を短縮できるとともに、ドライヤ内の除湿剤の除湿再生効率に優れた、コンパクトかつ安価な空気圧車高調整装置」が提案され(段落〔0008〕)、「空気を蓄えるタンクを排気回路側に設け、車高下降要求時は、車高下降制御開始から所定時間内は前記第2タンク弁及び前記排気弁を閉とし前記車高調整弁及び前記第1タンク弁を開として車高を下降させることにより、車高下降要求開始から所定時間内は、エアサスペンション内の圧縮空気はタンク内に蓄積できる分だけタンクに放出されることにより車高が低下する。」旨記載されている(段落〔0010〕)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−224869号公報
【特許文献2】特開2008−30701号公報
【特許文献3】特開2002−87040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1等に記載のエアサスペンション装置は、基本的に図4に記載のように構成されており、エアサスペンション用の空気ばね手段ASに対し加圧空気を供給する空気供給源PSが設けられ、バッテリBTに接続された電動モータMによってコンプレッサCが駆動されると、ドライヤD及び逆止弁Gを介して、乾燥した加圧(圧縮)空気が制御弁VAを介して空気ばね手段ASに供給されるように構成されている。また、コンプレッサCの非駆動時に、常閉の排気弁VE及び制御弁VAが開位置とされると、オリフィスO及びドライヤDを介して空気が排出されるように構成されており、この空気の排出時にドライヤDが再生される。更に、前述のように車高の降下時間を調整するため、空気供給源PSには、常閉の調整弁VTを介して空気タンクATが接続されている。
【0007】
上記従来のエアサスペンション装置では、コンプレッサCとして所謂レシプロ駆動方式の大型の装置が用いられており、また、これを駆動する電動モータMは消費電力が多く、バッテリBTへの負担が大であった。更に、車高の降下時間を調整するために空気タンクATが付設されていたので、重量増加とスペース増大が不可避であった。
【0008】
そこで、本発明は、車両の各車輪に装着した空気ばね手段への空気の給排を制御して車高を調整するエアサスペンション装置において、従前のコンプレッサ及び空気タンクを用いることなく、装置全体としての消費電力を極力抑え得る小型で安価なエアサスペンション装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するため、本発明は、車両の各車輪に装着し空気室を有する空気ばね手段を備え、駆動時に空気を加圧して前記空気室に供給し非駆動時に空気を排出して車高を調整するエアサスペンション装置において、前記空気ばね手段に対する空気の給排流路に介装され、該給排流路内の空気圧によって回転駆動される複数のベーンを有する回転子が当該給排流路内の空気の給排に応じて可逆的に回転駆動されるベーンポンプと、該ベーンポンプに連結されるモータジェネレータであって、該モータジェネレータに電力が供給されたときに前記回転子が回転駆動されて前記空気ばね手段に空気が供給され、前記空気室から空気が排出されるときの前記給排流路内の空気圧によって前記回転子が回転駆動されて電力が出力されるモータジェネレータと、該モータジェネレータに対し電力を供給すると共に当該モータジェネレータから出力される電力を蓄積する電力蓄積手段と、該電力蓄積手段から前記モータジェネレータに供給される電力、及び前記モータジェネレータから当該電力蓄積手段に出力される電力を制御する制御手段とを備えることとしたものである。
【0010】
そして、前記電力蓄積手段として、前記モータジェネレータから出力される電力を蓄積するバッテリと、該バッテリに対し並列接続されるキャパシタを備えたものとし、前記制御手段により、前記モータジェネレータの起動時には、前記キャパシタに蓄積された電力を前記モータジェネレータに供給するように制御するとよい。
【0011】
上記のエアサスペンション装置において、前記モータジェネレータと前記ベーンポンプとの間に介装し、前記回転子の回転駆動速度を可変制御する変速手段を備えたものとし、該変速手段を前記制御手段により制御するように構成するとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、上記の構成になるエアサスペンション装置によれば、空気ばね手段に対する空気の給排流路にベーンポンプが介装され、これに連結されたモータジェネレータの出力が電力蓄積手段に供給されるように制御されるので、車高上昇時における空気ばね手段への空気の供給時には電力蓄積手段の電力が消費されるが、車高降下時に空気ばね手段から空気が排出されるときの給排流路内の空気圧によって、ベーンポンプが駆動され、その出力電力が電力蓄積手段に供給されるので、消費電力の一部を回収することができ、装置全体としての消費電力を抑制することができる。
【0013】
特に、バッテリに対し並列接続されるキャパシタを備えたものであれば、モータジェネレータの起動時には、キャパシタに蓄積された電力をモータジェネレータに供給することができるので、一時的に必要とされる大電流にも容易に対応することができる。また、モータジェネレータの発電量を制御することすれば、従来の空気タンクを必要とすることなく車高の降下時間を調整することができるので小型で安価な装置とすることができる。更に、上記の変速手段を備えたものとすれば、変速手段の駆動制御により、車高降下時における給排流路内の空気抵抗を適宜制御して車高降下時間を調整することができるだけでなく、車高上昇時における給排流路内の空気抵抗を適宜制御することにより車高上昇時間も調整することができるので、乗心地が一層向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るエアサスペンション装置のブロック図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係るエアサスペンション装置のブロック図である。
【図3】本発明の他の実施形態に供する変速手段の断面図である。
【図4】従来のエアサスペンション装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の望ましい実施形態を図面を参照して説明する。先ず、本発明の一実施形態に係るエアサスペンション装置の全体構成を説明すると、図1に示すように、従来装置と同様、車両の各車輪(図示せず)に装着し空気室ARを有する空気ばね手段ASを備え、駆動時に空気を加圧して空気室ARに供給し非駆動時に空気を排出して車高を調整するように構成されている。空気ばね手段ASに対する空気の給排流路APには、可変容量式のベーンポンプVP等が介装されている。このベーンポンプVPは、ハウジング1内にカムリング2が装着され、その内面に沿って摺動するように、複数のベーン(代表して3で示す)及び回転子たるロータ4が収容されている。ベーン3は給排流路AP内の空気圧によって回転駆動されように構成されており、給排流路AP内の空気の給排に応じてロータ4が可逆的に回転駆動される。このロータ4はモータジェネレータMGの回転子(図示せず)に連結されており、モータジェネレータMGに電力が供給されたときにはロータ4が回転駆動されて空気ばね手段ASに空気が供給される。逆に、空気室ARから空気が排出されるときの給排流路AP内の空気圧によってロータ4が回転駆動されると、モータジェネレータMGから電力が出力される。
【0016】
このモータジェネレータMGに対し電力を供給すると共にモータジェネレータMGから出力される電力を蓄積する電力蓄積手段ESとして、モータジェネレータMGから出力される電力を蓄積するバッテリBTと、このバッテリBTに対し並列接続される大容量のキャパシタCPが設けられている。モータジェネレータMGは制御手段TRを介してバッテリBT及びキャパシタCPに接続されており、モータジェネレータMGの起動時には、キャパシタCPに蓄積された電力がモータジェネレータMGに供給される。本実施形態のモータジェネレータMGは、図示は省略するが、U、V及びWの三相コイルを有する永久磁石同期電動機で構成されており、各相コイルへの励磁電流が電子制御回路CTによってPWM制御等で制御され、駆動時は電動機として機能し、逆回転時には発電機として機能し、インバータIVを介してバッテリBT及びキャパシタCPに充電される。
【0017】
制御手段TRは電子制御回路CT及びインバータIVを有し、電子制御回路CTによる制御に応じて、モータジェネレータMGの出力(交流)がU、V及びWの各相のコイル毎にインバータIVを介して直流に変換されてバッテリBT及びキャパシタCPに充電される。本実施形態のバッテリBTとしては二次電池が用いられるが、燃料電池でもよい。尚、本実施形態の電子制御回路CTは一般的な構成であるので図示は省略するが、バスを介して相互に接続されたCPU、ROM、RAM、入出力ポート等から成るマイクロコンピュータを備えており、種々の検出信号入力ポートからCPUに入力されるように構成されている。
【0018】
例えば、排気弁VEが閉位置にあるときに制御弁VAが開位置とされ、ベーンポンプVPのロータ4がモータジェネレータMGによって回転駆動されると、フィルタF及び逆止弁CEを介してハウジング1内に導入された空気が、ベーン3によって図1に矢印で示すように圧縮されて加圧空気が出力され、ドライヤD及び逆止弁CAを介して、乾燥した加圧空気が(開位置の制御弁VAを介して)空気ばね手段ASの空気室ARに供給されるように構成されている。また、排気弁VE及び制御弁VAが開位置とされると、ベーンポンプVPを介して空気が排出されるように構成されており、この空気の排出時にドライヤDが再生される。
【0019】
一方、モータジェネレータMGが非駆動時で排気弁VEが開位置にあるときに、制御弁VAが開位置とされると、空気室AR内の圧縮空気がオリフィスOR及びドライヤDを介してハウジング1内に導入され、カムリング2を介して複数のベーン3間に画成された室内に順次導入され、ロータ4が(上記と空気室ARへの加圧空気供給時とは逆方向に)回転駆動される。このロータ4の回転駆動によってモータジェネレータMGの回転子が駆動されて発電し、その電力はバッテリBTに充電される。尚、上記の排気弁VE及び制御弁VAは、何れも常閉の電磁開閉弁で構成されているが、どのような弁装置を用いることとしてもよい。
【0020】
而して、本実施形態のエアサスペンション装置によれば、車高上昇時におけるベーンポンプVPから空気ばね手段ASへの空気の供給時にはモータジェネレータMGが駆動されるので、電力蓄積手段ES(バッテリBT及びキャパシタCP)の電力が消費されるが、車高降下時に空気ばね手段ASから空気を排出するときの給排流路AP内の空気圧によって、ベーンポンプVPが駆動され、その出力電力が電力蓄積手段ESに供給されるので、消費電力の一部を回収することができ、装置全体としての消費電力を抑制することができる。更に、モータジェネレータMGの発電量を制御することとすれば、車高降下時のベーンポンプVPの回転速度を制御し、給排流路AP内の空気抵抗を可変とすることができるので、従来の空気タンクを用いることなく車高の降下時間を調整することができる。これにより、小型で安価な装置とすることができる。
【0021】
更に、大容量のキャパシタCPを設けることとすれば、モータジェネレータMGが出力した電力をキャパシタCPに蓄積しておき、特にベーンポンプVPの起動時において、モータジェネレータMGが必要とする大電流をキャパシタCPから供給することができるので、電流不足を惹起することはなく、また、バッテリBTへの負担を軽減することができる。
【0022】
図2は、本発明の他の実施形態に係るエアサスペンション装置を示すもので、本実施形態のエアサスペンション装置においては、モータジェネレータMGとベーンポンプVPとの間に変速手段CVが介装されている。その他の構成は、図1に示す実施形態と実質的に同じであるので、実質的に同じ部品については同じ符号を付して説明を省略する。この変速手段CVは、例えばCVT(Continuously Variable Transmission)と呼ばれる無段変速機で構成され、図3に示すように、プライマプーリ11がベーンポンプVPのロータ4と同軸に回転可能に支持されており、ベルト12を介して接続されたセカンダリプーリ13がモータジェネレータMGの回転子(図示せず)に連結されている。
【0023】
上記の変速手段CVも前述の電子制御回路CTによって駆動制御され、プライマプーリ11及びセカンダリプーリ13の夫々におけるプーリ間隔が調整されることにより、ベーンポンプVPのロータ4の回転が無段変速されてモータジェネレータMGの回転子(図示せず)に伝達されるように構成されている。従って、モータジェネレータMG(及びベーンポンプVP)が駆動され、制御弁VAを介して空気室ARに空気が供給されるときには、変速手段CVを介してモータジェネレータMGの負荷を調整してベーンポンプVPに付与することによって、給排流路AP内の空気抵抗を制御することができる。逆に、空気室ARから排気弁VEを介して空気が排出されるときには、ベーンポンプVPのロータ4が空気圧によって回転駆動され、その回転トルクが変速手段CVを介してモータジェネレータMGに伝達されるので、変速手段CVの駆動制御に応じてベーンポンプVPの発電量が制御されると共に、給排流路AP内の空気抵抗が制御される。
【0024】
而して、本実施形態においては、変速手段CVを駆動制御することによって、給排流路AP内の空気抵抗を適宜制御することができるので、従来の空気タンクを用いることなく車高の降下時間を調整することができる。しかも、変速手段CVを駆動制御することによって、車高上昇時における給排流路AP内の空気抵抗を適宜制御して車高上昇時間を調整することもできる。この結果、乗心地が一層向上することとなる。
【符号の説明】
【0025】
AP 給排流路
AS 空気ばね手段
AR 空気室
ES 電力蓄積手段
BT バッテリ
CP キャパシタ
CA,CE 逆止弁
TR 制御手段
VA 制御弁
VE 排気弁
VP ベーンポンプ
MG モータジェネレータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の各車輪に装着し空気室を有する空気ばね手段を備え、駆動時に空気を加圧して前記空気室に供給し非駆動時に空気を排出して車高を調整するエアサスペンション装置において、前記空気ばね手段に対する空気の給排流路に介装され、該給排流路内の空気圧によって回転駆動される複数のベーンを有する回転子が当該給排流路内の空気の給排に応じて可逆的に回転駆動されるベーンポンプと、該ベーンポンプに連結されるモータジェネレータであって、該モータジェネレータに電力が供給されたときに前記回転子が回転駆動されて前記空気ばね手段に空気が供給され、前記空気室から空気が排出されるときの前記給排流路内の空気圧によって前記回転子が回転駆動されて電力が出力されるモータジェネレータと、該モータジェネレータに対し電力を供給すると共に当該モータジェネレータから出力される電力を蓄積する電力蓄積手段と、該電力蓄積手段から前記モータジェネレータに供給される電力、及び前記モータジェネレータから当該電力蓄積手段に出力される電力を制御する制御手段とを備えたことを特徴とするエアサスペンション装置。
【請求項2】
前記電力蓄積手段は、前記モータジェネレータから出力される電力を蓄積するバッテリと、該バッテリに対し並列接続されるキャパシタを備え、前記制御手段は、前記モータジェネレータの起動時には、前記キャパシタに蓄積された電力を前記モータジェネレータに供給するように制御することを特徴とする請求項1記載のエアサスペンション装置。
【請求項3】
前記モータジェネレータと前記ベーンポンプとの間に介装し、前記回転子の回転駆動速度を可変制御する変速手段を備え、該変速手段を前記制御手段により制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のエアサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−255707(P2011−255707A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129438(P2010−129438)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】