説明

エアバッグ用基布およびこれを用いたエアバッグ

【課題】
エアバッグ用基布として用いられている従来の基布より軽く、かつ、細い糸を用いた基布では不足していた物理特性を満足するエアバッグ用基布を提案する。
【解決手段】
織物を構成する糸の太さおよび織密度が異なる二種の織物Aおよび織物Bが積層されて一体となった基布であり、織物Aが平織物であり織物を構成する糸の太さが300dtex以下、カバーファクターが800以上、織物Bがメッシュ織物であり織物を構成する糸の太さが350dtex以上、カバーファクターが400以下であって、かつ織物Aと織物Bとが一体となるように積層されていることを特徴とするエアバッグ用基布およびこの基布を用いたエアバッグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車衝突時の乗員保護装置として実用されているエアバッグに用いる基布に関するものであり、更に詳しくは、軽量で物理的特性に優れるエアバッグ用基布ならびに該エアバッグ用基布を用いたエアバッグを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の乗員安全保護装置としてエアバッグの装着が急速に進み、自動車の前部衝突時の運転者保護用、助手席者保護用、そして、側部衝突時の座席シートに内蔵された胸部および大腿部保護用、または側部窓に沿って展開するよう窓上部の天井内に装着された頭部保護用など、その装着数も増えてきている。
【0003】
これらの安全装置(以下、モジュールと記す)は、エアバッグを展開、膨張させるガス発生器(以下、インフレーターと記す)、乗員と当接して乗員の衝突エネルギーを吸収・緩和する袋体のエアバッグ、これらを連結する金属などの部品、電気信号伝達用の配線、車内に装着し易いように装置上部を被覆し意匠性も考慮された樹脂成型品、など多くの構成部品から成り、車内各部に搭載された各モジュールの重量合計は少なくないものとなる。
【0004】
そこで、モジュールを構成する部品を、軽くコンパクトにする努力がなされている。この内、エアバッグの軽量化を図るため、エアバッグ本体を構成する基布に細い糸を用いてその目付けを少なくすることはこれまでにも検討されてきた。
【0005】
例えば、従来使用されていた940dtexや700dtexの糸よりも細い470dtexや350dtexの糸を用いた織物から作成されたエアバッグが実用化されており、さらに、特許文献1には繊度200〜250d(222〜278dtex)の糸を用いたエアバッグ用基布が提案されている。
【0006】
しかし、これらの細い糸を用いた織物は、従来の太い糸を用いた織物に比較して基布目付けは低くなるものの、引張強力、引裂強力などの物理特性が低下し、織物が薄くなって縫製部の縫い目ずれも発生し易くなる傾向にあった。特に、ガス温度の高いインフレーターの場合には、縫製部の穴が縫い糸によって拡大し、この拡大した穴から高熱のガスが抜ける際に、縫い目周囲が軟化・溶融し易くなり、場合によっては溶融した縫い目が連続して縫製部の溶融破断を生じることもあった。
【0007】
そのため、特許文献2には、210d(235dtex)以下で、好ましくは10g/d(8.85cN/dtex)以上の強度である糸を経糸、緯糸に用いてオックスフォード織としたエアバッグ用基布に関する提案がある。オックスフォード織は、該公報の明細書本文に記載されているように、経糸および緯糸をそれぞれ2本以上引き揃えて平織布として製織して得られるものであり、経糸および緯糸に1本の糸を使用した通常の平織布に比較して柔軟な基布が得られ、高い織物強力を発現し易いが、織物構造としては平織布より緻密さに欠け、基布面に被覆材が施されていないノンコート基布として用いるには低通気性が得られにくく、縫製部の縫い目ずれも大きくなり易い。
【0008】
一方、特許文献3にはエアバッグ用基布として、目合いが1〜40mmである粗目織物とフィルムとからなる積層体を用いることが開示されている。この方法によれば極めて薄く、軽い基布が得られるが、基布の物理特性は粗目織物の物性に依ることになり、高密度織物が使用されるノンコート用基布としての特性を満足させることが難しく、本発明が目的としている、軽く、物理特性に優れた基布を得ることは出来ない。
【0009】
積層体の物理特性を改良する為に、特許文献4には、熱可塑性フィルムや不織布などからなる中央層と、その上面および下面にほぼ実質的に中央層に平行で、間隔を置いて配置された繊維とが縫製または熱加工により一体に積層され、該中央層の上面と下面に配置された繊維が互いに約45〜90度の角度をなして配向されている積層体が提案されている。この積層体の物理特性は、ほぼ繊維シートの特性が反映される為、比較的高い強力を発現し易いが、従来用いられている織物の密度と同様の本数を配置することは極めて煩雑であり、中央層の材質および中央層と複数の繊維シートを一体積層化する手段によっては、積層体の重量が重くなってしまう。
【0010】
【特許文献1】特開2000−153743号公報
【特許文献2】特開平6−33336号公報
【特許文献3】特開平5−213136号公報
【特許文献4】特表2000−508270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、エアバッグ用基布として用いられている従来の基布より軽く、かつ、細い糸を用いた基布では不足していた物理特性を満足するエアバッグ用基布を提案するものであり、前記したこれらの先行技術では到底得ることの出来ない優れた特性を有するエアバッグ用基布ならびに該エアバッグ用基布を用いたエアバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、従来、エアバッグ用基布として一般的に使用されている一枚の平織物基布とは異なり、構成する糸の太さおよび織物密度が異なる二種類の織物が積層され一体化した基布である。
【0013】
すなわち本発明は、
(1) 織物を構成する糸の太さおよび織密度が異なる2種の織物Aおよび織物Bが積層されて一体となった基布であり、織物Aが平織物であり織物を構成する糸の太さが300dtex以下、カバーファクターが800以上、織物Bがメッシュ織物であり織物を構成する糸の太さが350dtex以上、カバーファクターが400以下であることを特徴とするエアバッグ用基布、
(2) 該織物Aと織物Bとが、織物Aを構成する糸の一部により織物Bが一体となるように織り込まれて積層されていることを特徴とする前記1項に記載のエアバッグ用基布、
(3) 該基布の目付けが190g/m以下、かつ、該基布の引張強力が650N/cm以上であることを特徴とする前記1項または2項に記載のエアバッグ用基布、
(4) 該基布の少なくとも片面に不通気加工が施されていることを特徴とする特徴とする前記1項〜3項のいずれか1項に記載のエアバッグ用基布、
(5) 前記1項〜4項のいずれか1項に記載の基布を用いて構成されていることを特徴とするエアバッグ、である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、軽く、引張強力などの物理特性に優れたエアバッグ用基布、およびこれを用いた軽量なエアバッグを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、織物を構成する糸の太さおよび織密度が異なる二種類の織物Aと織物Bとが積層されて一体となった基布であり、構成する糸の太さが300dtex以下好ましくは280dtex以下、カバーファクターが800以上好ましくは820以上である平織物Aと、糸の太さが350dtex以上好ましくは400dtex以上、カバーファクターが400以下好ましくは350以下であるメッシュ織物Bとを積層し、一体化した基布を用いることが肝要である。織物Aに300dtexを超える太さの糸を用いると基布の目付けが重くなり、カバーファクターが800未満の場合は基布物性が不足する可能性がある。また、織物Bに350dtex未満の太さの糸を用いると基布物性が不十分となり、カバーファクター400を超えると基布物性は向上するが、基布重量が過剰になる傾向がある。
【0016】
本発明の積層基布は、細い糸からなる織物Aと太い糸からなる織物Bの両方を用いることが必要で、織物Aだけで基布物性を満足させるためには極めて高い密度の織物を作成することが必要になり、製織工程でのトラブルを招き易く、得られた基布も硬くなり、物性面でも引裂強力などが不足することになる。例えば235dtexの糸を用いて織密度を28本/cm以上とした基布が考案されているが、これらの基布は極めて硬くなり、350dtexの糸を用いた織物並みの強力を確保することはできなかった。また、織物Bだけで基布物性を満足させることは、織密度をある程度上げることにより達成できるが、基布重量が重くなり、本発明の目的である軽量で物理特性を満足する基布を得ることはできない。
【0017】
本発明は、細い糸から構成される基布(織物A)の軽さと、太い糸から構成される基布(織物B)の強力とを併せ持つ基布を得ることが出来るもので、織物Aまたは織物Bの一方のみでは発現できない特性を有するものである。
【0018】
織物Aと織物Bとの一体化は、双方の物理的な特性に影響することの無い方法であれば良く、例えば、縫い合わせによる縫合、接着剤や粘着剤による化学的接合、ニードルパンチなど機械的な絡み合わせによる物理的接合、製織時に接結組織により織り合わせる方法、あるいはこれらの複合などがあるが、製織時に二枚の織物Aおよび織物Bを製織しつつ同時に接結組織により一体積層する方法が好ましい。とりわけ、織物Aを構成する細い糸の一部により織物Bが一体となるように織り込むことが好ましい。
【0019】
本発明の織物A、Bを構成する経糸と緯糸の糸の太さは、同じであっても異なっていてもいずれでも良く、経糸および/または緯糸を構成する単糸1本の太さも自由に選定すれば良いが、例えば単糸1本の太さは0.5〜6dtexの範囲であることが好ましい。また、糸の強度も7cN/dtex以上、好ましくは8cN/dtex以上の糸を用いることが好ましい。さらに、単糸の断面形状も、円形、楕円、扁平、多角形、中空、その他の異型など、織物の製造、得られた織物の物性に支障のない範囲で適宜選定すればよい。また、太さや断面形状などが異なる複数の糸を、合糸、撚り合わせなどにより一体化したものを用いても良い。
【0020】
本発明でいうカバーファクターとは織物の経糸および緯糸のそれぞれの織密度N(本/cm)と糸の太さD(dtex)との積で求められ、下式にて表される。
【0021】
【数1】

【0022】
本発明の織物Aは、基布の物性を担う基本構造であり、織物構造の緻密さ、物理特性や性能の均等性を確保する為に平織が好ましい。また、織物Bは織物Aのみでは不足する可能性のある物理特性を補う補強部材であり、補強効果が均一となるような構造が好ましく、メッシュ状で織物目付けは低く、補強効果は高くなるような組織仕様とすることが好ましい。例えば、通常の平織でも良いが、絡み織、模紗織、など経糸同士が絡んだ構造としても良い。場合によっては、経糸、緯糸の二軸以外に、斜め60度を含む多軸設計としても良い。
【0023】
織物Aと織物Bが積層一体化された基布の目付けは190g/m以下が好ましい。ここでいう目付けは、不通気加工による被覆材を施す場合は、被覆材の無い状態の基布重量をいう。また、引張強力は650N/cm以上であることが好ましい。
【0024】
本発明のエアバッグ用基布を製造する織機としては、織物Aと織物Bを別々に製織した後に一体化する場合には、特に限定されるものではない。また、織物Aと織物Bとが製織と同時に一体化される場合には、織物Aの糸で織物Bを一体となるように織り込むことが可能な開口装置、例えばドビー装置、ジャカード装置などが装備されている織機であれば良い。緯糸の挿入方式による分類としては、シャトル織機、ウォータージェット織機、エアージェット織機、レピア織機、プロジェクタイル織機、などから選定すればよい。
【0025】
また、本発明のエアバッグ用基布を構成する繊維糸条は、天然繊維、化学繊維、無機繊維など、特に限定するものではないが、合成繊維フィラメントは、汎用性があり、基布の製造工程、基布物性などの点から好ましい。例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612などの単独またはこれらの共重合、混合により得られる脂肪族ポリアミド繊維、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9Tに代表される脂肪族アミンと芳香族カルボン酸の共重合ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの単独またはこれらの共重合、混合によって得られるポリエステル繊維、超高分子量ポリオレフィン系繊維、ビニリデン、ポリ塩化ビニルなどの含塩素系繊維、ポリテトラフルオロエチレンを含む含フッ素系繊維、ポリアセタール系繊維、ポリサルフォン系繊維、ポリフェニレンサルファイド系繊維(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン系繊維(PEEK)、全芳香族ポリアミド系繊維、全芳香族ポリエステル系繊維、ポリイミド系繊維、ポリエーテルイミド系繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール系繊維(PBO)、ビニロン系繊維、アクリル系繊維、セルロース系繊維、炭化珪素系繊維、アルミナ系繊維、ガラス系繊維、カーボン系繊維、スチール系繊維、などから適宜、一種または二種以上を選定すればよいが、物理特性、耐久性、耐熱性などの点からナイロン66繊維を用いることが好ましい。また、リサイクルの観点からは、ポリエステル系繊維、ナイロン6繊維も好ましく用いられる。
【0026】
これらの繊維糸条には、紡糸性や、加工性、耐久性などを改善するために通常使用さている各種の添加剤、例えば、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤などの一種または二種以上を使用してもよい。また、絡み織を製織する上で望ましい場合には、加撚、嵩高加工、捲縮加工、捲回加工、糊付け加工、などの加工を施してもよい。さらに、糸条の形態は、長繊維フィラメント以外に、短繊維の紡績糸、これらの複合糸などを用いても良い。
【0027】
本発明では気密性を確保する為に、基布の少なくとも片面に不通気加工により被覆材を施すことは好ましく、例えば、基布の片面に塗布量10g/m以上または厚さ10μ以上の被覆材を用いることができる。被覆材は、通常、エアバッグ用基布に使用されている材料であれば良く、耐熱性、摩耗性、基布との密着性、難燃性、不粘着性、などを満足するものであれば良い。例えば、シリコーン系樹脂またはゴム、ポリウレタン系樹脂またはゴム(シリコーン変性、フッ素変性も含む)、フッ素系樹脂またはゴム、塩素系樹脂またはゴム、ポリエステル系樹脂またはゴム、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂、尿素系樹脂、フェノール系樹脂などの一種または二種以上を用いれば良い。
【0028】
該被覆材の付与方法は、1)コーティング法(ナイフ、キス、リバース、コンマ、スロットダイ、リップなど)、2)浸漬法、3)印捺法(スクリーン、ロール、ロータリー、グラビアなど)、4)転写法(トランスファー)、5)ラミネート法、などの加工法によればよい。
【0029】
また、被覆材には主たる材料の他、加工性、接着性、表面特性あるいは耐久性などを改良するために通常使用される各種の添加剤、例えば、架橋剤、接着付与剤、反応促進剤、反応遅延罪、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、粘着防止剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤、などの一種または二種以上を選択し、混合しても良い。
【0030】
被覆材が液体である場合の組成としては、塗布量、塗布法、材料の加工性や安定性、被覆材として要求される特性などに応じて、無溶媒型、溶媒型、水分散型、水乳化型、水溶性型、などから適宜選定すればよい。
【0031】
被覆材は、基布の少なくとも片面の表面、基布を構成する糸束の間隙部あるいは繊維単糸の間隙部など、いずれに介在させてもよい。
【0032】
また、被覆材には基布との密着性を向上させるための各種前処理剤、接着向上剤などを添加しても良いし、予め基布表面にプライマー処理などの前処理を施しても良い。さらに、該被覆材の物理特性を向上させたり、耐熱性、老化防止性、耐酸化性などを付与したりするために、被覆材を織物に付与した後、乾燥、架橋、加硫などを熱風処理、加圧熱処理、高エネルギー処理(高周波、電子線、紫外線など)などを施してもよい。
【0033】
本発明によるエアバッグの仕様、形状、容量は、配置される部位、用途、収納スペース、乗員衝撃の吸収性能、インフレーターの出力などに応じて選定すればよい。
【0034】
また、エアバッグに乗員が当接した際のエネルギー吸収のため、一個または複数の排気穴、例えば直径10mm〜80mmの円形またはそれに相当する面積の穴、またはこれらの排気性能に相当するスリット、膜、弁などを設けてもよく、排気部の周囲には、補強布を接合、積層しても良い。さらに、乗員側へのエアバッグの突出を抑制したり、膨張時の厚みを制御したりするためにエアバッグ内側に吊り紐、ガス流調整布、あるいはエアバッグ外側にフラップと呼ぶ帯状布、抑え布などを設けても良い。
【0035】
エアバッグ本体を構成する裁断基布の枚数は、一枚または複数枚のどちらでもよく、エアバッグの接合部、例えば、外周部、補強布や吊り紐の固定などは、縫製、接着、溶着、製織、製編あるいはこれらの併用など、いずれの方法によってもよく、エアバッグとしての堅牢性、展開時の耐衝撃性、乗員の衝撃吸収性能などを満足するものであればよい。例えば、接合部を縫合により接合する場合、本縫い、二重環縫い、片伏せ縫い、かがり縫い、安全縫い、千鳥縫い、扁平縫い、などの通常のエアバッグに適用されている縫い目により行えばよい。また、縫い糸の太さは700dtex(20番手相当)〜2800dtex(0番手相当)、運針数は2〜10針/cmとすればよい。複数列の縫い目線が必要な場合は、縫い目線間の距離は2.2mm〜8mm程度として、多針型ミシンを用いればよいが、縫製部距離が長くない場合には、一本針ミシンで複数回縫合してもよい。エアバッグ本体として複数枚の裁断基布を用いる場合には、複数枚を重ねて縫合しても良いし、一枚ずつ縫合しても良い。
【0036】
また、場合によっては、外周縫合部などの縫い目からのガス抜けを防ぐため、シール材、接着剤、粘着材、などを縫い目の上部および/または下部、縫い目の間、縫い代部などに塗布、散布、積層してもよい。
【0037】
縫合に使用する縫い糸は、一般に化合繊縫い糸と呼ばれるものや工業用縫い糸として使用されているものの中から適宜選定すればよく、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ポリエステル、高分子ポリオレフィン、含フッ素、ビニロン、アラミド、カーボン、ガラス、スチールなどがあり、紡績糸、フィラメント合撚糸、フィラメント樹脂加工糸のいずれでもよい。
【0038】
また、使用するインフレーターの特性によっては、インフレーター噴出口周囲に熱ガスから保護するための耐熱保護布や力学的な補強布を設けても良い。これらの保護布や補強布は、布自体が耐熱性の材料、例えば、全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、PBO繊維、ポリイミド繊維、含フッ素系繊維などの耐熱性繊維材料を用いても良いし、エアバッグ本体と同じか本体用基布より太い糸を用いて別途作成した織物を用いても良いし、該織物に耐熱性被覆材を施したものを用いても良い。
【0039】
エアバッグを収納する際の折畳み法も、運転席用バッグのように中心から左右、上下対称の屏風折り、あるいは中心に向かって多方位から押し縮める折り、助手席バッグのようなロール折り、蛇腹折り、屏風状のつづら折り、あるいはこれらの併用や、シート内蔵型サイドバッグのようなアリゲーター折り、などにより折畳めばよい。
【0040】
本発明は、従来のエアバッグ用基布とは異なる織組織から成る織物であって、目付けの低い、しかも織物の組織ズレ、縫製部の縫い目ズレの少ない基布ならびに該基布を用いたエアバッグを提供するものであり、各種の乗員保護用バッグ、例えば、運転席および助手席の前面衝突保護用、側面衝突保護用のサイドバッグ、後部座席保護用、追突保護用のヘッドレストバッグ、脚部・足部保護用のニーバッグおよびフットバッグ、乳幼児保護用(チャイルドシート)のミニバッグ、エアーベルト用袋体、歩行者保護用などの乗用車、商業車、バス、二輪車などの各用途の他、機能的に満足するものであれば、船舶、列車・電車、飛行機、遊園地設備、など多用途に適用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づき本願発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例の中で行ったエアバッグ用基布およびエアバッグの特性評価の方法を以下に示す。
(1)基布の目付け
JIS L−1096の8.4.2に規定された方法により、基布の単位面積当たりの質量を求めた。
(2)引張強力
JIS L−1096の8.12.1A法(ストリップ法)に規定された方法により、基布の経方向と緯方向の引張強力を求め、経と緯の平均値を算出した。
(3)通気度
JIS L−1096の8.27.1A法(フラジール法)に規定された方法により通気度を求めた。
(4)縫い目ずれ
JIS L−1096の8.21.1B法(縫目滑脱法)に規定された方法に準じ、
縫い目は上糸と下糸いずれも5番手糸の縫い糸を用い、本縫い、運針数35針/10cmとし、作成した試料を引張し490Nの引張応力が発現した時点で引張試験機を止め、直ちに縫い目ズレの大きさを測定し、経、緯の平均値を算出した。表1には実施例1の値を100として相対値で示した。
(5)バッグの展開試験
エアバッグの展開試験は、ダイセル社製のインフレーター(型式ZA、2ステージ型、出力160kpa/220kpa)、固定金具、樹脂製ケースを用いてモジュールを組み立て実施した。モジュールは100℃で約5時間予熱した後、展開試験を行い、展開時のエアバッグ膨張状態ならびに展開後のエアバッグ外周縫製部の状態を観察した。
【0042】
また、評価に使用した運転席用エアバッグの作成法を以下に示す。
【0043】
エアバッグ用基布として準備した織物から、外径がφ690mmである円形の本体パネルを2枚裁断し、一方の本体パネル中央部にφ67mmのインフレーター取付け口、ならびに該取付け口の中心から斜め上45度の線上120mmの位置に排気孔φ30mmを二箇所(左右一対)に開口した。また、補強布として、ナイロン66繊維の470dtexを用いて作成した織密度21本/cmであるノンコート基布と,織密度18本/cmの基布にシリコーン樹脂を35g/mを塗布して得られたコート基布とを準備した。インフレーター取付け口の補強布として外径210mm、内径67mmの環状布aをノンコート基布から3枚、コート基布から1枚裁断した。さらに、排気孔補強布として前記コート基布から外径90mm、内径30mmの環状布bを2枚裁断した。3枚のノンコート環状布aをインフレーター取付け口に重ね合わせ、内側からφ126mm、φ188mmの位置で円形に縫製し、その上から同一形状のコート環状布a1枚を重ね合わせ、φ75mmの位置で4枚の環状補強布を本体基布に円形に縫い合わせた。また、それぞれの排気孔には、環状布bを1枚重ね合わせて本体パネルに縫い付けた。環状布a、環状布bの各補強布は、それぞれを縫い合わせる本体パネルの糸軸と45度ずれるように重ね合わせた。インフレーター取付け口の周囲には、本体パネルの糸軸と平行となる位置に、穴間距離68mmにてφ5.5mmのボルト穴を4ヶ所に設けた。環状布a、bの本体パネルへの縫い付けには、上糸を5番手糸(1400dtex相当)、下糸を8番手糸(940dtex相当)として、3.5針/cmの運針数で本縫いにより行った。また、二枚の本体パネルは、環状布を縫い付けた面同士をパネルの糸軸を45度ずらして重ね合わせ、その外周部を、縫い目線間2.4mm、縫い代を20mm、として二重環縫い二列にて縫合し、内径φ650mmの円形エアバッグを作成した。外周部縫製の縫い糸は、上記本縫いと同じ縫い糸の組み合わせを用いた。
【0044】
[実施例1]
ドビー装置を装備したレピア織機により、織物Aとして経糸、緯糸にいずれもナイロン66繊維の235dtex/72f(糸強度8.4cN/dtex)の糸を用いて平織を、織物Bとして経糸、緯糸にいずれもナイロン66繊維の470dtex/144f(糸強度8.6cN/dtex)の糸を用いてメッシュ織を、それぞれ同時に作成し、織物Aの糸により織物Bを接結し、一体となったエアバッグ用基布を製織し、精練、セットを行ってノンコート基布を得た。得られた基布の織密度は、織物Aが経、緯いずれも29本/cm、織物Bが4本/cmであった。基布特性を評価するとともに、前記した方法によりエアバッグの展開試験を行い、展開時のエアバッグ膨張状態および展開後の外周部の状況を観察した。
【0045】
表1に示すように、得られた基布は軽量で、強力も高く、展開時の状況および展開後のエアバッグの外周には問題はなかった。
【0046】
[実施例2]
織物Aの経糸、緯糸にいずれも280dtex/72f(糸強度8.6cN/dtex)、織物Bの経糸、緯糸にいずれも470dtex/144f(糸強度8.6cN/dtex)を用い、実施例1に準じて一体積層したノンコート基布を作成した。得られた基布の織密度は、織物Aが経、緯いずれも26本/cm、織物Bが3本/cmであった。表1に示すように、基布の目付けは低く、強力も高く、展開時および展開後のエアバッグには問題はなかった。
【0047】
[実施例3]
織物Aの経糸、緯糸にいずれも280dtex/72f(糸強度8.6cN/dtex)、織物Bの経糸、緯糸にいずれも350dtex/140f(糸強度8.6cN/dtex)を用い、実施例1に準じて一体積層したノンコート基布を作成した。得られた基布の織密度は、織物Aが経、緯いずれも24本/cm、織物Bが6本/cmであった。次いで、無溶剤型シリコーン樹脂をナイフコート法により20g/m塗布し、180℃で1分間熱処理を行い、樹脂を硬化させてコート基布を得た。基布の特性および展開試験の結果を表1に示す。基布特性、展開試験いずれも本発明の目的に合致した結果である。
【0048】
[比較例1]
織物AおよびBの経、緯にいずれもナイロン66繊維の350dtex/140f(糸強度8.6cN/dtex)を用い、実施例1と同様に一体積層した基布を製織し、実施例1に準じてノンコート基布を作成した。得られた基布の織密度は織物Aが経、緯いずれも22本/cm、織物Bが経、緯いずれも10本/cmであった。得られた基布の強力は高いが、目付けが大きく、展開後のエアバッグ外周部には問題がなかったが、通気度がやや高い為、膨張状態がやや不十分であった。
【0049】
[比較例2]
エアバッグ用基布として、経、緯いずれもナイロン66繊維の235dtex/72f(糸強度8.4cN/dtex)を用いた織物A(平織)のみを作成した。この織物Aに精練、セットを行って得られたノンコート基布の織密度は、経、緯いずれも30本/cmであった。得られた基布の目付けは低いが、強力が小さく、縫い目ずれも大きい為、展開後のエアバッグ外周部の目開きが大きく、一部が破損した。
【0050】
[比較例3]
エアバッグ用基布として、経、緯いずれもナイロン66繊維の235dtex/72f(糸強度8.4cN/dtex)を用い、前記した先行特許文献2に記載の実施例1と同様の織物組織により基布を作成し、精練、セットを行ってノンコー基布を得た。但し、該先行特許に使用されている強度11.2g/d(10cN/dtex)のナイロン6糸は入手が出来ない為、8.4cN/dtexの糸を用いた。得られた基布は、軽く、強度も高いが、通気性が極めて大きく、展開時のバッグ膨張状態は不足しており、縫い目ずれも大きく、外周部が大きく破損した。先行技術文献2に開示されたオックスフォード織によるエアバッグ基布は、ノンコート基布としては使用することができない。
【0051】
[比較例4]
エアバッグ用基布として、経、緯いずれにもナイロン66繊維の470dtex/144f(糸強度8.6cN/dtex)を用いて作成したメッシュ織物である織物Bを用いた。作成した織物Bの織密度は、経、緯いずれも16.5本/cmであり、精練、セットに引き続き実施例3に準じてコート基布を得た。得られた基布は、目付けは軽いが、強力が不足し、展開後の外周部が大きく破損した。
【0052】
[比較例5]
比較例4に準じて、経および緯の織密度がいずれも21本/cmであるノンコートのメッシュ織物である織物Bを作成し、エアバッグ用基布として用いた。得られた基布の強力は高く、展開時および展開後のエアバッグに問題はないが、基布目付けが大きく、本発明の目的を達成することはできない。
【0053】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物を構成する糸の太さおよび織密度が異なる2種の織物Aおよび織物Bが積層されて一体となった基布において、織物Aが平織物であり織物を構成する糸の太さが300dtex以下、カバーファクターが800以上、織物Bがメッシュ織物であり織物を構成する糸の太さが350dtex以上、カバーファクターが400以下であることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項2】
織物Aと織物Bが、織物Aを構成する糸の一部により織物Bが一体となるように織り込まれて積層されていることを特徴とする請求項1記載のエアバッグ用基布。
【請求項3】
該基布の目付けが190g/m以下、かつ、該基布の引張強力が650N/cm以上であることを特徴とする請求項1または2記載のエアバッグ用基布。
【請求項4】
該基布の少なくとも片面に不通気加工が施されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のエアバッグ用基布を用いて構成されていることを特徴とするエアバッグ。

【公開番号】特開2009−24286(P2009−24286A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189558(P2007−189558)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】