説明

エアバッグ装置

【課題】胸部中央で乗員を拘束した従来のエアバッグ装置よりも、拘束力を向上できるエアバッグ装置の提供。
【解決手段】(1)左右のチャンバ12、13を有するエアバッグ11を備えたエアバッグ装置10であって、左右のチャンバ12、13は、エアバッグの展開膨張時に、乗員の肋骨のうち肋硬骨14の部分を押す形状を有する。(2)左右のチャンバ12、13の、乗員の肋硬骨14の部分を押す形状が、乗員正面視にて、上方で近接し下方に向かって徐々に離れる形状を含む。(3)左右のチャンバ12、13の、乗員の肋硬骨14の部分を押す形状が、乗員平面視にて、前方で近接し後方に向かって徐々に離れる形状を含む。(4)左右のチャンバ12、13は、乗員1の頭部5に当たる部分に凹形状部23を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前面衝突時に展開膨張して乗員を前方から拘束する、ツインチャンバ(チャンバは気室を意味する)型のエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシングルチャンバ型のエアバッグ装置では、車両前面衝突時にチャンバが展開膨張し、乗員の胸部中央部と頭部を前方から拘束する。
シングルチャンバよりも乗員をソフトに拘束するために、従来、ツインチャンバを有するエアバッグ装置が提案されている。
【0003】
特許文献1は、ツインチャンバ型のエアバッグ装置を開示している。該エアバッグ装置は、左右のチャンバと、該左右のチャンバの乗員側先端を連結するタイパネルを有する。車両前面衝突時に左右のチャンバが展開膨張し、左右チャンバで肋軟骨かその近傍を拘束するとともに、左右チャンバ間の凹部に侵入してくる乗員の胸部中央部と頭部をタイパネルでソフトに拘束する。
【0004】
特許文献2は、ツインチャンバ型のエアバッグ装置を開示している。該エアバッグ装置は、左右のチャンバと、該左右のチャンバ間の凹部の奥に左右のチャンバ間にわたって設けられた連結布を有する。車両前面衝突時に左右のチャンバが展開膨張し、左右のチャンバで乗員の左右両肩(脇下よりも上の部分)を拘束するとともに、連結布で乗員の胸部中央部をソフトに受け止める。
【0005】
従来のツインチャンバにおける、タイパネルまたは連結布による乗員の胸部の拘束は、シングルチャンバによる乗員の拘束と、乗員の胸部の左右方向中央部(胸骨および肋軟骨の部位)を拘束する点において、互いに類似しており、同じ課題を呈する。
【特許文献1】特開2003−335203号公報
【特許文献2】特開2007−38812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高まる衝突安全性能への要求に対し、前面衝突時の乗員傷害を更に低減するためには、より高い拘束力で乗員の運動エネルギを吸収する必要がある。
一方で、拘束力向上に対して、シングルチャンバ型エアバッグ装置、および乗員を胸部中央部にて拘束する従来のツインチャンバ型エアバッグ装置には、つぎの課題がある。この課題を、図12〜図16を参照して説明する。図12〜図16はシングルチャンバ型エアバッグ装置を示すが、従来のツインチャンバ型エアバッグ装置にも同じ課題がある。
【0007】
従来のエアバッグ11Pは、前面衝突時に乗員1は肋骨前端(胸部左右方向中央部の胸骨2)に、エアバッグ、またはタイパネル、連結布から、入力(拘束力)6を受ける(図12〜図14)。これは、エアバッグ展開形状が乗員の胸骨2または肋軟骨3部位で接触する形状をしており(図15に示すアーチ形状、タイパネル、連結布の場合は張られた平面形状)、乗員の肋硬骨4部位が展開したエアバッグ11Pから車両前後方向に離れているからである(図16)。
その結果、
(イ)エアバッグ11Pは、シングルチャンバ型もツインチャンバ型も、胸骨2およびそれを支える剛性の低い軟骨部(肋軟骨3)に拘束力を入力するため、拘束力の許容上限は肋軟骨3の剛性で決まってしまい、肋軟骨3の剛性は大きくないため、拘束力の向上は難しい。すなわち、エアバッグ出力をあげて、エアバッグによる拘束力を高くすることは難しい。
(ロ)力点(図14の(a))からのオフセットにより、胸部側面の肋硬骨4部位(図14の(b))でのモーメント(M=オフセット量W×入力L)が大きくなり、拘束力の許容上限が胸部側面の肋硬骨4部位(b)の耐モーメント強さで決まってしまい、肋硬骨4部位(b)の耐モーメント強さには限度があるので、拘束力の向上は難しい。すなわち、エアバッグ出力をあげて、エアバッグによる拘束力を高くすることは難しい。
上記(イ)、(ロ)により、エアバッグ出力が制限され、エアバッグ出力をあげてより高い拘束力で乗員の運動エネルギを吸収することは難しい。
【0008】
本発明の目的は、胸部中央で乗員を拘束した従来のエアバッグ装置よりも、拘束力を向上できるエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する、または上記目的を達成する本発明はつぎのとおりである。
(1) 左右のチャンバを有するエアバッグを備えたエアバッグ装置であって、
左右のチャンバは、エアバッグの展開膨張時に、乗員の肋骨のうち肋硬骨の部分を押す形状を有するエアバッグ装置。
(2) 前記左右のチャンバの、乗員の肋硬骨の部分を押す形状が、乗員正面視にて、上方で近接し下方に向かって徐々に離れる形状を含む(1)記載のエアバッグ装置。
(3) 前記左右のチャンバの、乗員の肋硬骨の部分を押す形状が、乗員平面視にて、前方で近接し後方に向かって徐々に離れる形状を含む(1)記載のエアバッグ装置。
(4) 前記左右のチャンバの、乗員の肋硬骨の部分を押す形状が、乗員正面視にて、上方で近接し下方に向かって徐々に離れ、乗員平面視にて、前方で近接し後方に向かって徐々に離れる形状を含む(1)記載のエアバッグ装置。
(5) 前記左右のチャンバは、エアバッグの展開膨張時に、乗員の頭部に当たる部分に凹形状部を有する(1)〜(4)のいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【発明の効果】
【0010】
上記(1)のエアバッグ装置によれば、左右のチャンバは、エアバッグの展開膨張時に、乗員の肋骨のうち肋硬骨の部分を押す形状を有するので、エアバッグの拘束力を肋軟骨を押す場合に比べてあげることができ、エアバッグ出力(エアバッグ圧力)をあげてより高い拘束力で乗員の運動エネルギを吸収することができる。
上記(2)のエアバッグ装置によれば、左右のチャンバの、乗員の肋硬骨の部分を押す形状が、乗員正面視にて、上方で近接し下方に向かって徐々に離れる形状となっているので、上方で近接し下方に向かって徐々に離れる肋硬骨の形状に対応し、左右のチャンバが乗員の肋硬骨の部分を押すことができる。
上記(3)のエアバッグ装置によれば、左右のチャンバの、乗員の肋硬骨の部分を押す形状が、乗員平面視にて、前方で近接し後方に向かって徐々に離れる形状となっているので、乗員の体格差を拘束位置により吸収することができる。大柄な乗員は、左右チャンバの後方端部で拘束され、小柄の乗員は左右チャンバ間の凹部側面で、したがって、左右チャンバの後方端部から前方に隔たった位置で拘束される。
上記(4)のエアバッグ装置によれば、左右のチャンバの、乗員の肋硬骨の部分を押す形状が、乗員正面視にて、上方で近接し下方に向かって徐々に離れ、乗員平面視にて、前方で近接し後方に向かって徐々に離れる形状を含むので、左右のチャンバが乗員の肋硬骨の部分を押すことができるとともに、乗員の体格差を拘束位置により吸収することができる。
上記(5)のエアバッグ装置によれば、左右のチャンバが、エアバッグの展開膨張時に、乗員の頭部に当たる部分に凹形状部を有するので、頭部とくに顔面への反力を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明のエアバッグ装置を、図1〜図11を参照して説明する。
図1〜図8は本発明の実施例1を示し、図9、図10は本発明の実施例2を示し、図11は本発明の実施例3を示す。本発明の何れの実施例にも適用できる部分には、本発明の全実施例にわたって同じ符号を付してある。なお、図3、図4において、Xは車両前後方向の後方を示し、Yは車両左右方向を示し、Zは上方を示す。
【0012】
〔実施例1〕
本発明の実施例1のエアバッグ装置10の構成を、図1〜図8を参照して説明する。
本発明のエアバッグ装置10は、車両の助手席前方のインスツルメントパネル内、または運転席前方のステアリングホイール中央部の非回転型パッド内に、折り畳まれて収納され、車両の前面衝突時(衝突予知時を含む)に後方に展開膨張され、乗員を前方から拘束する装置である。
【0013】
本発明のエアバッグ装置10は、左右(前方から後方に向かっての左右)のチャンバ(気室)12、13を有するエアバッグ11と、左右のチャンバ(気室)12、13に接続されエアバッグに膨張用ガスを供給するインフレータを有する。左右のチャンバ12、13は互いに独立であることが望ましい。ただし、左右のチャンバ12、13は前端部において互いに連通していてもよい。
【0014】
左右のチャンバ12、13は、車両の前面衝突時(衝突予知時を含む)に展開膨張され、展開膨張された時に、左右のチャンバ12、13間の車両前後方向に延びる中心線に対して、互いに対称またはほぼ対称の形状を有する。チャンバ12、13の壁(以下、チャンバの壁とチャンバの内部空間の両方をチャンバ12、13という)は、可撓性材料、たとえば、布から構成される。布は織布または不織布からなり、布糸は、たとえば、樹脂製であってもよい。
【0015】
左右のチャンバ12、13は、上下方向には、図3に示すように、上端部が乗員1の肩か肩より上で乗員(乗員の人形モデルである場合を含む)1の頭部5の上端よりは下方に位置し、下端部が肋骨の下端かその近傍に位置する。左右のチャンバ12、13の左右方向外側端部は、図4、図5に示すように、乗員1の胸部の左右方向外側端部またはその近傍か、それより外側にある。とくに小柄乗員1Bに対してはチャンバ12、13の左右方向外側端部は乗員1の胸部の外側端部より外側にある。
【0016】
左右のチャンバ12、13は、エアバッグ11の展開膨張時に、乗員1の肋骨のうち肋硬骨4の部分を前方から後方に向かって押す形状(エアバッグ11からの入力が乗員1の肋骨のうち肋硬骨4の部分に入る形状)を有する。左右のチャンバ12、13は、エアバッグ11の展開膨張時に、乗員1の胸骨2と肋軟骨3の部分は、後方に押さない形状を有する。ここで、エアバッグ形状を定める時に対象とする乗員1は、たとえば、大人の男性の平均的体格をもったAM50の乗員である。
【0017】
図2は、乗員1の前方から見た正面透視図である。図2において、乗員1は、胸骨2、胸骨2と連結する肋軟骨3、肋軟骨3と連結する肋硬骨4を有し、肋硬骨4は乗員の胸部側部で前方から後方に湾曲した後胸骨の背部にある剛性の高い椎骨(背骨)に連結している。肋軟骨3は低剛性で、肺臓の呼吸時の膨張収縮を、変形することにより吸収する。肋硬骨4は肋軟骨3に比べて高剛性である。左右の肋硬骨4の、肋軟骨3との連結部間の左右方向間隔は、下方に向かって増大している。左右の肋軟骨3の、肋硬骨4との連結部の左右方向間隔は、下方に向かって拡がっている。
【0018】
従来は、車両前面衝突時のエアバッグ11からの入力が乗員1の肋骨のうち肋軟骨3の部分に入っていたが、本発明では、車両前面衝突時のエアバッグ11からの入力が乗員1の肋骨のうち肋硬骨4の部分(肋硬の前後方向湾曲部の前側部分4a、図6、図7で点線で囲んだ部分)に入るように左右チャンバ形状が設定されている。
【0019】
図3の乗員正面視において、左右のチャンバ12、13の、乗員1の肋硬骨4の部分を押すために、チャンバ形状は、上方で近接し下方に向かって徐々に離れる形状となっている。左右のチャンバ12、13は、各々、正面視にて、上辺12a、13aと、下方に向かって延び上辺12a、13aより長い2側辺12b、12c、13b、13cをもつほぼ2等辺三角形の角部を丸めた形状をなしている。左チャンバ12と右チャンバ13の、互いに対向する側辺12b、13bとは、上方では近接し(上端部またはその近傍で接触していてもよい)、下方に向かって徐々に離れている。左チャンバ12と右チャンバ13の、互いに対向する側辺12b、13bとの間は、下方に向かって幅が増大する(下方に向かって拡がる)隙間14となっており、乗員1の胸骨2と肋軟骨3はこの隙間14の後方に位置するようになっている。これによって、左右のチャンバ12、13から乗員1への拘束力は、乗員1の肋硬骨4の部分にのみ入り、乗員1の胸骨2と肋軟骨3の部分には入らないようになっている。
【0020】
図4の乗員平面視において、乗員1の肋硬骨4の部分を押すための左右のチャンバ12、13の形状は、左右のチャンバ12、13間の間隔が、前方で近接し後方に向かって徐々に離れる形状となっている。左右のチャンバ12、13は、各々、平面視にて、斜辺12d、13dと、ほぼ直交する2辺12e、12f、13e、13fをもつほぼ直角三角形の角部を丸めた形状をなしている。左チャンバ12と右チャンバ13の、互いに対向する斜辺12d、13dとは、前方で近接し(前端部またはその近傍で接触していてもよい)後方に向かって徐々に離れている。左チャンバ12と右チャンバ13の、互いに対向する斜辺12d、13dとの間は、後方に向かって幅が増大し後方に向かって開く凹部15となっており、乗員1の胸骨2と肋軟骨3はこの凹部15の後方に位置するようになっている。これによって、左右のチャンバ12、13から乗員1への拘束力は、乗員1の肋硬骨4の部分のみに入り、乗員1の胸骨2と肋軟骨3の部分には入らないようになっている。
【0021】
また、左右のチャンバ12、13の、乗員1の肋硬骨4の部分を押す形状が、前方で近接し後方に向かって徐々に離れる形状となっていることにより、図5に示すように、乗員1の体格差が拘束位置によって吸収される。大柄乗員1Aはエアバッグ11の後端部かその近傍で拘束され、小柄乗員1Bはエアバッグ11の後端部より前位置で(凹部15内にもぐり込んだ位置で)拘束される。これにより、小柄乗員1Bに対しては受圧面積が小さくなり過剰な拘束力に至らず、また、大柄乗員1Aに対しては前後方向移動量を大きくとることができ、エネルギ吸収量(反力×移動量)を大きくとることができる。
【0022】
左右のチャンバ12、13は、図3と図4の構造の何れか一方の構造をとるだけであってもよいし、あるいは図3と図4の構造の両方をとる構造であってもよい。図3と図4の構造の両方をとると、図1のように、チャンバ12、13の形状は立体のくさび形状となる。この場合、左右のチャンバ12、13の下端部は、図4の平面視で、左右のチャンバ12、13のほぼ直角三角形の上端部領域内にあることが望ましい。したがって、チャンバ12、13の後端部は、上方から下方に向かって、前方に傾斜している。そのため、乗員1がチャンバ12、13に当たる時には、チャンバ12、13の上部でまず当たり、当たり部が上部を含んだまま下方に増大していく。
【0023】
くさび形状の左右のチャンバ12、13は、図8の(イ)、(ロ)、(ハ)に示すように、ほぼ直角三角形の上部片16と、ほぼ二等辺三角形の側部片17、18、19との、辺部における縫合により、作製される。縫合前に、各側部片17、18、19の幅方向中央部を1本のテザー20により、連結して(連結部21)、エアバッグが展開膨張された時に、各チャンバ12、13が、断面円形にならないで、ほぼ三角形断面を維持できるようにする。テザー20による連結後に、上部片16と、側部片17、18、19とを、辺部において縫合して(縫合部22)、くさび形状のチャンバ12、13とする。
以上は、本発明の実施例1以外の本発明の実施例にも適用される。
【0024】
本発明の実施例1は、さらにつぎの構成を有する。
本発明の実施例1のエアバッグ装置10は、助手席前方のインスツルメントパネルの内部に折り畳んで収納され、車両前面衝突を検知または予知した時に、後方に向かって展開膨張し、乗員1を前方から拘束する。
【0025】
つぎに、本発明の実施例1の作用、効果を説明する。
まず、本発明のエアバッグ装置10では、左右のチャンバ12、13が、エアバッグ11の展開膨張時に、乗員1の肋骨のうち肋硬骨4の部分を押す形状となっているので、エアバッグ11の拘束力を、エアバッグ11が肋軟骨3を押す場合に比べてあげることができる。その結果、エアバッグ出力(エアバッグ圧力)をあげることが許容され、エアバッグ出力(エアバッグ圧力)をあげることにより、従来より高い拘束力で乗員1を拘束し、乗員1が車両衝突時に慣性力で前方に移動するのを高い反力で拘束して、乗員1の運動エネルギをより多く吸収することができる。
【0026】
また、左右のチャンバ12、13の、乗員1の肋硬骨4の部分を押す形状が、乗員正面視にて、図3に示すような上方で近接し下方に向かって徐々に離れる形状となっているので、チャンバ11の形状は、上方で近接し下方に向かって徐々に離れる肋硬骨4の形状(図2、図6に示した形状)に対応し、左右のチャンバ12、13が乗員1の肋硬骨4の部分のみを押すことができる。この場合、左右のチャンバ12、13は、乗員1の胸骨2、肋軟骨3を押さない。
【0027】
すなわち、左チャンバ12と右チャンバ13の、互いに対向する側辺12b、13bとは、上方では近接し(上端部またはその近傍で接触していてもよい)、下方に向かって徐々に離れているので、左チャンバ12と右チャンバ13の、互いに対向する側辺12b、13bとの間は、下方に向かって幅が増大する隙間14となっている。その結果、乗員1の胸骨2と肋軟骨3はこの隙間14の後方に位置する。これによって、左右のチャンバ12、13からの、乗員1への拘束力は、乗員1の肋硬骨4の部分のみに入り、乗員1の胸骨2と肋軟骨3の部分には入らず、剛性の低い胸骨2と肋軟骨3の部分に過大な荷重をかけることを防止することができる。
【0028】
また、左右のチャンバ12、13の、乗員1の肋硬骨4の部分を押す形状が、乗員平面視にて、図4に示すように前方で近接し後方に向かって徐々に離れる形状となっているので、左チャンバ12と右チャンバ13の、互いに対向する斜辺12d、13dとは、前方で近接し(前端部またはその近傍で接触していてもよい)後方に向かって徐々に離れている。すなわち、左チャンバ12と右チャンバ13の、互いに対向する斜辺12d、13dとの間は、後方に向かって幅が増大し後方に向かって開く凹部15となっており、乗員1の胸骨2と肋軟骨3はこの凹部15の後方に位置するようになっている。これによって、左右のチャンバ12、13から乗員1への拘束力は、乗員1の肋硬骨4の部分にのみ入り、乗員1の胸骨2と肋軟骨3の部分には入らず、剛性の低い胸骨2と肋軟骨3の部分に過大な荷重をかけることを防止することができる。
【0029】
また、左右のチャンバ12、13の、乗員1の肋硬骨4の部分を押す形状が、乗員平面視にて、図4に示すように前方で近接し後方に向かって徐々に離れる形状となっているので、図5に示すように、乗員1の体格差が拘束位置によって吸収される。この場合、大柄乗員1Aはバッグ11の後端部かその近傍で拘束され、小柄乗員1Bはバッグ11の後端部より前位置で拘束される。その結果、小柄乗員1Bに対しては受圧面積が小さくなり過剰な拘束力に至らず、また、大柄乗員1Aに対しては前後方向移動量を大きくとることができ、エネルギ吸収量を大きくとる(反力×移動量のうち移動量を大きくとる)ことができる。
以上の作用効果は、本発明の実施例1以外の本発明の実施例にも適用される。
【0030】
本発明の実施例1では、さらにつぎの作用、効果が得られる。
本発明の実施例1のエアバッグ装置10は、助手席前方のインスツルメントパネルの内部に設けられているので、エアバッグ11の展開膨張は、ステアリングホイールの配置によって制限されず、独立に実行され得る。
【0031】
〔実施例2〕
本発明の実施例2のエアバッグ装置10は、図9、図10に示すように、本発明の実施例1のエアバッグ装置10に、左右のチャンバ12、13の乗員1の頭部5(とくに顔部の顎や頬の部分)を受ける部位に、チャンバ11の膨張状態で、凹形状部23(頭部に向かって凹となる形状)を形成したものである。
【0032】
図9の正面視において、凹形状部23は、乗員1の顎を下側から受けることができる形状となっている。また、図10の平面視において、凹形状部23は、乗員1の頬を過大な荷重をもってこすらないように、後方に向かって開いた形状となっている。凹形状部23を形成するには、チャンバ12、13の凹形状部23をチャンバ12、13内側から、図10に点線で示したように、テザー24により引っ張る。
【0033】
本発明の実施例2の作用効果については、左右のチャンバ12、13が、エアバッグ11の展開膨張時に、乗員1の頭部5に当たる部分に凹形状部23を有するので、頭部5とくに顔面への反力を低減できる。車両の前面衝突時に乗員1はラップベルトの存在により前傾姿勢をとりつつ前方に移動するが、凹形状部23により、顎部と平行な面で、かつ、大きな面で、顎部をソフトに受けることができる。また、頬部のこすれも少なく、凹形状部23の前方端部で、頬部を、頬部とほぼ平行な面で、かつ、広い面で、ソフトに受けることができる
【0034】
〔実施例3〕
本発明の実施例3のエアバッグ装置10は、図11に示すように、運転席前方に配置され、ステアリングホイール25のパッド26内に折り畳んで収納され、車両前面衝突時に乗員1側に展開膨張される。エアバッグ11が非対称のため、ステアリングホイール25が回転してもエアバッグ装置10は回転しないように、設けられる。
【0035】
本発明の実施例3の作用効果については、エアバッグ装置10が運転席前方に配置されているので、車両の前面衝突時に運転者が1次衝突、2次衝突から保護される。また、エアバッグ装置10を非回転でステアリングホイール25のパッド26内に収納したので、ステアリング時にも、左右のチャンバ12、13を運転者の左右に対応させて、運転者を正しく拘束することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施例1のエアバッグ装置と乗員の全体透視斜視図である(実施例1以外の実施例にも適用)。
【図2】乗員を前方から見た時の正面透視図である。
【図3】本発明の実施例1のエアバッグ装置と乗員の正面図である(実施例1以外の実施例にも適用)。
【図4】本発明の実施例1のエアバッグ装置と乗員の平面図である(実施例1以外の実施例にも適用)。
【図5】本発明の実施例1のエアバッグ装置と大柄および小柄の乗員の平面透視図である(実施例1以外の実施例にも適用)。
【図6】エアバッグが乗員を押す部分を点線で囲んで示した、乗員を前方から見た時の正面透視図である(実施例1以外の実施例にも適用)。
【図7】エアバッグが乗員を押す部分を点線で囲んで示した、乗員の平面図である(実施例1以外の実施例にも適用)。
【図8】エアバッグの作製方法を示す斜視図である(実施例1以外の実施例にも適用)。
【図9】本発明の実施例2のエアバッグ装置と乗員の正面図である。
【図10】本発明の実施例2のエアバッグ装置と乗員の平面図である。
【図11】本発明の実施例3のエアバッグ装置と乗員の正面図である。
【図12】従来のシングルチャンバ型エアバッグ装置と乗員の正面図である。
【図13】従来のシングルチャンバ型エアバッグ装置と乗員の平面図である。
【図14】モーメントのかかり方を示した、従来のシングルチャンバ型エアバッグ装置と乗員の平面図である。
【図15】展開膨張した従来のシングルチャンバの一部の平面図である。
【図16】展開膨張した従来のシングルチャンバと乗員の一部の平面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 乗員
1A 大柄乗員
1B 小柄乗員
2 胸骨
3 肋軟骨
4 肋硬骨
5 頭部
10 エアバッグ装置
11 エアバッグ
12、13 左右チャンバ
14 隙間
15 凹部
16 上部片
17、18、19 側部片
20 テザー
21 連結部
22 縫合部
23 凹形状部
24 テザー
25 ステアリングホイール
26 パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右のチャンバを有するエアバッグを備えたエアバッグ装置であって、
左右のチャンバは、エアバッグの展開膨張時に、乗員の肋骨のうち肋硬骨の部分を押す形状を有するエアバッグ装置。
【請求項2】
前記左右のチャンバの、乗員の肋硬骨の部分を押す形状が、乗員正面視にて、上方で近接し下方に向かって徐々に離れる形状を含む請求項1記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記左右のチャンバの、乗員の肋硬骨の部分を押す形状が、乗員平面視にて、前方で近接し後方に向かって徐々に離れる形状を含む請求項1記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記左右のチャンバの、乗員の肋硬骨の部分を押す形状が、乗員正面視にて、上方で近接し下方に向かって徐々に離れ、乗員平面視にて、前方で近接し後方に向かって徐々に離れる形状を含む請求項1記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記左右のチャンバは、エアバッグの展開膨張時に、乗員の頭部に当たる部分に凹形状部を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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