説明

エアレーション装置及びこれを備えた海水排煙脱硫装置、エアレーション装置の運転方法

【課題】散気膜のスリットにおいて発生した析出物を除去することができるエアレーション装置及びこれを備えた海水排煙脱硫装置、エアレーション装置の運転方法を提供する。
【解決手段】被処理水である希釈使用済海水(図示せず)中に浸漬され、希釈使用済海水中に微細気泡を発生させるエアレーション装置であって、空気122を吐出手段であるブロア(本実施例では4台)121A〜121Dにより供給する空気供給ラインL5と、前記空気供給ラインL5に介装された圧力計125と、前記空気が供給されるスリットを有する散気膜11を備えたエアレーションノズル123とを具備し、前記圧力計125の計測により空気供給圧力が所定の閾値を超えた場合、空気供給管に対して真水141又は水蒸気を一時的な供給を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭焚き、原油焚き及び重油焚き等の発電プラントに適用される排煙脱硫装置の排水処理に係り、特に、海水法を用いて脱硫する排煙脱硫装置の排水(使用済海水)をエアレーションにより脱炭酸(暴気)するエアレーション装置及びこれを備えた海水排煙脱硫装置、エアレーション装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石炭や原油等を燃料とする発電プラントにおいて、ボイラから排出される燃焼排気ガス(以下、「排ガス」と呼ぶ)は、該排ガス中に含まれている二酸化硫黄(SO2)等の硫黄酸化物(SOx)を除去してから大気に放出される。このような脱硫処理を施す排煙脱硫装置の脱硫方式としては、石灰石石膏法、スプレードライヤー法及び海水法等が知られている。
【0003】
このうち、海水法を採用した排煙脱硫装置(以下、「海水排煙脱硫装置」と呼ぶ)は、吸収剤として海水を使用する脱硫方式である。この方式では、たとえば略円筒のような筒形状を縦置きにした脱硫塔(吸収塔)の内部に海水及びボイラ排ガスを供給することにより、海水を吸収液として湿式ベースの気液接触を生じさせて硫黄酸化物を除去している。
上述した脱硫塔内で吸収剤として使用した脱硫後の海水(使用済海水)は、たとえば、上部が開放された長い水路(Seawater Oxidation Treatment System;SOTS)内を流れ排水される際、水路の底面に設置したエアレーション装置から微細気泡を流出させるエアレーションによって脱炭酸(爆気)される(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−055779号公報
【特許文献2】特開2009−028570号公報
【特許文献3】特開2009−028572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、エアレーション装置で用いるエアレーションノズルは、基材の周囲を覆うゴム製等の散気膜に小さなスリットが多数設けられたものである。一般的には「ディフューザノズル」と呼ばれている。このようなエアレーションノズルは、供給される空気の圧力により、スリットから略均等な大きさの微細気泡を多数流出させることができる。
【0006】
このようなエアレーションノズルを用いて、海水中でエアレーションを連続して行うと、散気膜のスリット壁面やスリット開口近傍に、海水中の硫酸カルシウム等の塩類が析出し、スリットの間隙が狭くなったり、スリットを塞いだりする結果、散気膜の圧力損失を増大させ、散気装置に空気を供給するブロワ、コンプレッサ等の吐出手段の吐出圧高が発生し、ブロワ、コンプレッサ等に負荷がかかるという、問題がある。
【0007】
析出物の発生は、散気膜の外側に位置する海水が、スリットから散気膜の内側へ浸み込み、常時スリットを通過する空気に、長時間に亙って触れて乾燥(海水の濃縮)が促進され、析出に至っている、と推定される。
【0008】
本発明は、前記問題に鑑み、散気膜のスリットにおいて発生した析出物を除去することができるエアレーション装置及びこれを備えた海水排煙脱硫装置、エアレーション装置の運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、被処理水中に浸漬され、被処理水中に微細気泡を発生させるエアレーション装置であって、空気を吐出手段により供給する空気供給配管と、前記空気供給配管に介装された圧力計と、前記空気が供給されるスリットを有する散気膜を備えたエアレーションノズルとを具備し、散気膜に対する圧力損失の上昇があった際、空気供給管に対して真水又は水蒸気の一時的な供給を行うことを特徴とするエアレーション装置にある。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、散気膜に対する圧力損失の上昇有無の判断は、供給空気の圧力若しくは空気量を計測する手段、又は吐出手段の電流値又は回転数を計測する手段の少なくとも一つにより行うことを特徴とするエアレーション装置にある。
【0011】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記エアレーションノズルは、内部に空気が導入される支持体を覆う散気膜と、前記散気膜に多数設けられたスリットとからなり、スリットから微細気泡を流出させることを特徴とするエアレーション装置にある。
【0012】
第4の発明は、第1又は2の発明において、前記エアレーションノズルは、内部に空気が導入される円筒状の基部側支持体と、基部側支持体よりも径が縮小され、仕切板を介して軸方向に設けられる中空筒体と、該中空筒体の他端に設けられ、前記基部側支持体と略同一径の端部支持体と、前記基部側支持体と前記端部支持体を覆いつつ両端で締結されるチューブ状の散気膜と、前記散気膜に多数設けられたスリットと、前記基部側支持体の側面に設けられ、散気膜の内周面と支持体外周面との間の加圧空間へ導入された空気を仕切板の手前側で流出させる空気出口とを具備することを特徴とするエアレーション装置にある。
【0013】
第5の発明は、第1又は2の発明において、前記エアレーションノズルは、内部に空気が導入される円筒状の基部側支持体と、基部側支持体と略同一径の端部支持体と、基部側支持体と端部支持体を覆いつつ締結されるチューブ状の散気膜と、前記散気膜に多数設けられたスリットとを具備することを特徴とするエアレーション装置にある。
【0014】
第6の発明は、海水を吸収剤として使用する脱硫塔と、前記脱硫塔から排出された使用済海水を流して排水する水路と、前記水路内に設置され、前記使用済海水中に微細気泡を発生して脱炭酸を行う第1乃至5のいずれか一つのエアレーション装置とを具備することを特徴とする海水排煙脱硫装置にある。
【0015】
第7の発明は、被処理水中に浸漬され、被処理水中にスリットから微細気泡を発生させるエアレーション装置を用い、吐出手段による空気を供給するに際し、散気膜に対する圧力損失の上昇があった際、真水又は水蒸気を一時的に供給し、スリットでの析出物の除去を行うことを特徴とするエアレーション装置の運転方法にある。
【0016】
第8の発明は、第7の発明において、圧力損失が解消された際、さらに真水又は水蒸気を供給し、微細気泡を発生するスリットの目詰まりを防止することを特徴とするエアレーション装置の運転方法にある。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、エアレーション装置の散気膜のスリットにおいて析出物の発生があった場合に迅速に対応して、これを除去することができ、散気膜の圧力損失を減少させ、ブロワ、コンプレッサ等の負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施例1に係る海水排煙脱硫装置の概略図である。
【図2−1】図2−1は、エアレーションノズルの平面図である。
【図2−2】図2−2は、エアレーションノズルの正面図である。
【図3−1】図3−1は、エアレーションノズルの内部構造概略図である。
【図3−2】図3−2は、エアレーションノズルの膨張状態を示す内部構造概略図である。
【図4−1】図4−1は、実施例1に係るエアレーション装置の概略図である。
【図4−2】図4−2は、実施例1に係る他のエアレーション装置の概略図である。
【図5−1】図5−1は、実施例1に係る他のエアレーション装置の概略図である。
【図5−2】図5−2は、実施例1に係る他のエアレーション装置の概略図である。
【図6−1】図6−1は、実施例1に係る他のエアレーション装置の概略図である。
【図6−2】図6−2は、実施例1に係る他のエアレーション装置の概略図である。
【図7】図7は、実施例1に係る他のエアレーションノズルの内部構造概略図である。
【図8】図8は、実施例1に係る他のエアレーションノズルの内部構造概略図である。
【図9】図9は、実施例1に係るディスク状のエアレーションノズルの概略図である。
【図10−1】図10−1は、散気膜のスリットにおける、空気(飽和度の低い湿り空気)の流出と海水の浸入、および濃縮海水の状況を示す図である。
【図10−2】図10−2は、散気膜のスリットにおける、空気の流出と海水の浸入、および濃縮海水の状況を示す図である。
【図10−3】図10−3は、散気膜のスリットにおける、空気の流出と海水の浸入、濃縮海水及び析出物の状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0020】
本発明による実施例に係るエアレーション装置及び海水排煙脱硫装置について、図面を参照して説明する。図1は、本実施例に係る海水排煙脱硫装置の概略図である。
図1に示すように、海水排煙脱硫装置100は、排ガス101と海水103とを気液接触してSO2を亜硫酸(H2SO3)へ脱硫反応させる排煙脱硫吸収塔102と、排煙脱硫吸収塔102の下側に設けられ、硫黄分を含んだ使用済海水103Aを希釈用の海水103と希釈混合する希釈混合槽105と、希釈混合槽105の下流側に設けられ、希釈使用済海水103Bの水質回復処理を行う酸化槽106とからなるものである。
【0021】
海水排煙脱硫装置100では、排煙脱硫吸収塔102において海水供給ラインL1を介して供給される海水103の内の一部の吸収用の海水103を排ガス101と気液接触させて、排ガス101中のSO2を海水103に吸収させる。そして、排煙脱硫吸収塔102で硫黄分を吸収した使用済海水103Aは、排煙脱硫吸収塔102の下部に設けられている希釈混合槽105に供給される希釈用の海水103と混合させる。そして、希釈用の海水103と混合希釈された希釈使用済海水103Bは、希釈混合槽105の下流側に設けられている酸化槽106に送給され、酸化用空気ブロア121より供給された空気122をエアレーションノズル123により供給し、水質回復させた後、排水124として海へ放流するようにしている。
図1中、符号102aは海水を上方に噴出させる液柱用の噴霧ノズル、120はエアレーション装置、122aは気泡、L1は海水供給ライン、L2は希釈海水供給ライン、L3は脱硫海水供給ライン、L4は排ガス供給ライン、L5は空気供給ラインである。
【0022】
このエアレーションノズル123の構成を図2−1、図2−2及び図3を参照して説明する。
図2−1は、エアレーションノズルの平面図、図2−2は、エアレーションノズルの正面図、図3−1はエアレーションノズルの内部構造概略図である。
図2−1、図2−2に示すように、エアレーションノズル123は、基材の周囲を覆う散気膜11に小さなスリット12が多数設けられたものであり、一般的には「ディフューザノズル」と呼ばれている。このようなエアレーションノズル123は、空気供給ラインL5から供給される空気122の圧力により散気膜11が膨張すると、スリット12が開いて略均等な大きさの微細気泡を多数流出させることができる。ここで、散気膜11としては、例えばゴム製等の可撓性を有するものが好ましい。
【0023】
図2−1、図2−2に示すように、エアレーションノズル123は、空気供給ラインL5から分岐した複数(本実施例では8本)の枝管(図示せず)に設けられたヘッダ15に対して、フランジ16を介して取り付けられている。なお、希釈使用済海水103B中に設置される枝管及びヘッダ15には、耐食性を考慮して樹脂製パイプ等が使用されている。
【0024】
このエアレーションノズル123の具体的な構成について図3−1を参照して説明する。図3−1に示すように、本実施例に係るエアレーションノズル123Aは、希釈使用済海水103Bに対する耐食性を考慮して樹脂製とした略円筒形状の支持体20を用い、この支持体20の外周を覆うようにして多数のスリット12が形成されたゴム製の散気膜11を被せた後、左右両端部をワイヤやバンド等の締結部材22により固定した構成とされる。
【0025】
また、上述したスリット12は、圧力を受けない通常の状態においては閉じている。なお、海水排煙脱硫装置100においては、常時空気122を供給しているので、常にスリット12は開放状態である。
【0026】
ここで、支持体20の一端20aは、ヘッダ15に取り付けた状態で空気122の導入を可能とすると共に、その他端20bは、海水103が導入可能に開口されている。
このため、一端20a側は、ヘッダ15及びフランジ16を貫通する空気導入口20cを介してヘッダ15内部と連通している。そして、支持体20の内部は、支持体20の軸方向の途中に設けた仕切板20dにより分割され、この仕切板20dにより空気の流通が阻止されている。さらに、この仕切板20dよりヘッダ15側となる支持体20の側面には、散気膜11の内周面と支持体外周面との間に、すなわち、散気膜11を加圧して膨張させる加圧空間11aへ空気122を流出させるための空気出口20e、20fが開口している。従って、ヘッダ15からエアレーションノズル123に流入する空気122は、図中に矢印で示すように、空気導入口20cから支持体20の内部へ流入した後、側面の空気出口20e、20fから加圧空間11aへ流出することとなる。
なお、締結部材22は、散気膜11を支持体20に固定するとともに、空気出口20e、20fから流入する空気が両端部から漏出することを防止するものである。
【0027】
このように構成されたエアレーションノズル123Aにおいて、ヘッダ15から空気導入口20cを通って流入する空気122は、空気出口20e、20fを通って加圧空間11aへ流出することにより、最初はスリット12が閉じているため加圧空間11a内に溜まって内圧を上昇させる。内圧が上昇された結果、散気膜11は加圧空間11a内の圧力上昇を受けて膨張し、散気膜11に形成されているスリット12が開くことによって空気122の微細気泡を希釈使用済海水103B中に流出させる。
このような微細気泡の発生は、枝管L5A〜5H及びヘッダ15を介して空気供給を受ける全てのエアレーションノズル123A〜Cで実施される(図3−1、7、8参照)。
【0028】
以下、本実施例に係るエアレーション装置について説明する。
本発明では、散気膜11に形成されたスリット12に析出物の発生があった場合に、これを迅速に除去する手段を提供する。
図4−1、図4−2は、本実施例に係るエアレーション装置の概略図である。図5−1、図5−2及び図6−1、図6−2は、他のエアレーション装置の概略図である。
図4−1に示すように、本実施例に係るエアレーション装置120Aは、被処理水である希釈使用済海水(図示せず)中に浸漬され、希釈使用済海水中に微細気泡を発生させるエアレーション装置であって、空気122を吐出手段であるブロア(本実施例では4台)121A〜121Dにより供給する空気供給ラインL5と、前記空気供給ラインL5に介装された圧力計125と、前記空気が供給されるスリットを有する散気膜11を備えたエアレーションノズル123Aとを具備し、前記圧力計125の計測により空気供給圧力が所定の閾値を超えた場合、空気供給管に対して真水又は水蒸気を一時的な供給を行うものである。
また、空気供給ラインL5には、2基の冷却器131A、131Bと、2基のフィルタ132A、132Bとが各々設けられている。これにより、ブロア121A〜121Dにより圧縮された空気は冷却され、次いで濾過されている。
なお、ブロアが4基あるのは、通常は2〜3基で運転しており、その内の1〜2基は予備としている。また、冷却器131A、131Bと、フィルタ132A、132Bとが各々2基あるのは、連続して運転する必要から、通常は片方のみで運転し、他方はメンテナンス用としている。
【0029】
ここで、海水の塩分濃度は3.4%程度であり、96.6%の水に3.4%の塩類が溶けている。この塩類は、概ね、塩化ナトリウムが77.9%、塩化マグネシウムが9.6%、硫酸マグネシウムが6.1%、硫酸カルシウムが4.0%、塩化カリウムが2.1%、その他0.2%の構成となっている。
【0030】
この塩のなかで、海水の濃縮(海水の乾燥)につれて、硫酸カルシウムが最初に析出する塩であり、その析出の閾値が海水の塩分濃度で約14%である。
【0031】
ここで、スリット12に析出物が析出するメカニズムを図10−1〜図10−3を用いて説明する。
図10−1は、散気膜のスリットにおける、空気(飽和度の低い湿り空気)の流出と海水の浸入、および濃縮海水の状況を示す図である。図10−2は、散気膜のスリットにおける、空気の流出と海水の浸入、および濃縮海水の状況を示す図である。図10−3は、散気膜のスリットにおける、空気の流出と海水の浸入、濃縮海水及び析出物の状況を示す図である。
ここで、本発明において、スリット12とは、散気膜11に形成される切れ込みをいい、スリット12の間隙は空気が排出される通路となる。
この通路を形成するスリット壁面12aは、海水103が接触しているが、空気122の導入によって乾燥・濃縮され、濃縮海水103aとなり、その後スリット壁面に析出物103bが析出され、スリットの通路を閉塞するものとなる。
【0032】
図10−1は、空気122の相対湿度が低いので、海水が乾燥して海水の塩分濃縮が徐々に増加し、濃縮海水103aが形勢された状況を示している。但し、海水の濃縮が始まっても海水の塩分濃度が概ね14%以下では、硫酸カルシウム等の析出はない。
【0033】
図10−2は、濃縮海水103aの一部において、局所的に海水の塩分濃度が14%を超えた部分に析出物103bが発生している状態である。この状態では析出物103bが僅かであるので、スリット12を空気が通過する際の圧力損失が僅かに上昇するものの、空気122は通過可能である。
【0034】
これに対し、図10−3は、濃縮海水103aの濃縮が進行すると、析出物103bによる閉塞(プラッキング)状態となり、圧力損失が大きくなる状態である。なお、このような状態でも空気122の通路は残っているものの吐出手段にはかなりの負荷がかかるものとなる。
よって、このような状態となった後に、後述するように圧力損失の上昇を圧力計で計測し、空気の変動を生じさせて析出物を除去するようにしている。
【0035】
本実施例では、このスリット12への析出物103bが発生した場合に、これを迅速に除去して、通常の状態に復帰させるために、圧力計125により空気122の供給圧力を監視し、この圧力計125において、所定の閾値を超えた場合に、制御装置126により指令を発して、ポンプP1を操作し、真水141を一時的に供給するようにしている。また、本実施例のように制御装置126を用いず、圧力変動の変化に応じて作業員による手動制御を行うようにしてもよい。
【0036】
すなわち、圧力計125の計測により空気供給圧力が所定の閾値を超えた場合、制御装置126により、真水タンク140により、真水141を空気供給ラインL5から分岐した枝管L5A〜5H内に導入している。
これにより、空気に同伴された水分がスリット12に付着している析出物103bに到達し、その析出物と水分との潮解作用により、析出物が溶解・除去され、その除去されたスリットの数が多くなるにつれて、供給される空気の抜けが良好となり、散気膜11が急激に収縮される。この収縮に伴い、スリット12に付着していた析出物103bが圧壊し、供給される空気により散気膜11の外部に放出される。
【0037】
ここで、本実施例において散気膜に対する圧力損失の上昇の判断は、供給空気の圧力を圧力計により計測することで、多数ある散気膜の個々における圧力損失を間接的に把握することができるからである。
なお、散気膜の内側と外側との圧力差を計測して個別に圧力損失の上昇の有無を判断するようにしてもよい。
【0038】
ここで、図3−2はエアレーションノズルの膨張状態を示す内部構造概略図である。
散気膜11のスリット12に付着物が付着すると、散気膜の圧力損失が上昇し、散気膜11が膨らむ。図3−2に示すように、スリットに付着物が形成されると、圧力損失が上昇して散気膜11の膨張がさらに助長され、その径が通常の散気状態の膨張状態の径D0からD1のさらに膨張した状態に増大する。
このさらに膨張した状態で、空気に真水141を供給すると、その潮解作用により、析出物が除去され、析出物が除去されたスリットの数が増大すると、空気の抜けが良好となり、一気に、膨張状態から散気膜11のゴムが急激に収縮する。すなわち、散気膜11の径がD1の状態からD2の状態となる。
この収縮によりスリット12に付着していた付着物が崩れる。この場合においても、スリット12からは空気の放出が継続されているので、崩れた付着物が散気膜11の外に放出されることとなる。
【0039】
次に、本実施例では、散気膜11のスリットに付着した析出物により起因する圧力損失の上昇を圧力計125により把握していたが、本発明はこれに限定されず、電流計を用いてブロアの電流値を計測して、圧力損失の上昇を間接的に把握するようにしてもよい。
【0040】
これは、ブロア121A〜121Dは常に所定量の空気を散気膜11に供給するように設定されているので、スリットに析出物が付着することで、空気供給量が低減すると、ブロア121A〜121Dを駆動するために電流値が上昇する。
そこで、図4−2に示す本実施例に係る他のエアレーション装置120Bのように、各ブロア121A〜121Dの電流値を計測する電流計128A〜128Dを設けるようにしている。そして、運転しているブロアの電流値の上昇の有無を電流計128A〜128Dで確認して、電流値の上昇があった場合には、圧力損失の上昇があったと判断し、前述したようなブロアの運転を行うようにすればよい。
【0041】
ここで、空気吐出手段(ブロア)としては、一定の容積を供給する容積式と非容積式があるが、散気膜の圧力損失の上昇を把握する指標として、上記以外に空気供給系統の空気量、あるいは空気吐出手段の回転数を採用してもよい。散気膜の圧力損失の上昇を把握する指標として、空気量を採用する場合は、散気膜の圧力損失が上昇すると空気量が低下することとなるので、供給空気の空気流量を計測し、空気流量の低下の有無を確認して、空気流量の低下があった場合には、圧力損失の上昇があったと判断し、前述したようなブロアの運転を行うようにすればよい。
また、空気流量の低下はブロアの回転数で把握することもできる。
なお、空気吐出手段としては、ブロア以外に例えば送風機、コンプレッサ等の空気を散気膜に供給する手段を用いるようにしてもよい。
【0042】
なお、上述した本発明の実施例では、散気膜に対する圧力損失の上昇有無の判断として、例えば供給空気の圧力若しくは空気量を計測する手段、又は吐出手段の電流値又は回転数を計測する手段の少なくとも一つにより行うようにしているが、本発明はこれらの限定されるものではない。
【0043】
また、図5−1に示すエアレーション装置120Cのように、真水141を空気供給ラインL5から分岐した枝管L5A〜5H内に導入するに際して、ノズル127を用いることで、ミスト状態の水を空気122に同伴させるようにしてもよい。
【0044】
また、圧力計125を用いる代わりに、図5−2に示すエアレーション装置120Dは、電流計128A〜128Dを設けている。そして、運転しているブロアの電流値の上昇の有無を電流計128A〜128Dで確認して、電流値の上昇があった場合には、圧力損失の上昇があったと判断し、前述したような水分供給の操作を行うようにすればよい。
【0045】
図4−1、図4−2及び図5−1、図5−2においては、真水タンク140から真水141を供給しているが、本発明は真水141の供給に限定されず、例えば水蒸気を供給するようにしてもよい。
【0046】
また、図6−1に示すエアレーション装置120Eでは、吐出手段であるブロア121A〜121Dの空気導入口近傍に水分142を供給する吸気スプレーノズル(図示せず)を設けている。図5−1においては、真水タンク140を設置しているが、ブロア121A〜121Dに対する吸気スプレーノズル単独としてもよい。
この場合、制御装置126より図示しない水分供給手段を介して水分142を各々のブロア121A〜121Dの吸気側に添加し(水分は、ブロア本体に入る前に蒸発させるようにする。)、ブロア出口側の冷却器131Aでの冷却量を調整し、エアレーションノズルのスリット12を通過する空気を飽和湿り空気とする。
【0047】
すなわち、ブロア121A〜121Dにより加圧圧縮された空気122は、その温度が例えば100℃程度と高温となるが、この際、水分142を余分に供給することで供給される空気122は水分リッチの状態となる。その後、冷却器131により空気の温度を低下させると(例えば40℃)、空気122中の水分量には変化がないので、冷却された空気122の水分の飽和度(相対湿度)が増加することとなる。結果として、エアレーションノズル123のスリット12での空気は相対湿度が100%となり、吸気に添加する水の量を更に増やすと、水ミストを含む飽和湿り空気となり、気液二相の状態となる。
これにより、析出物に対して潮解作用を促進させることができる。
【0048】
また、ブロア121A〜121Dの入口側において、ブロアが吸込む大気の相対湿度が100%であっても、圧縮・冷却された結果、エアレーションノズル123のスリット12での空気の相対湿度が100%とならない場合もある。このような場合には、不足した水分142をブロア入口で補給すると、水分が蒸発せずブロア内部に浸入するため、好ましくない。この場合は、ブロア121A〜121Dの出口側、あるいは冷却器131A、131Bの後流側において、真水等の水分142を供給するようにすればよい。
【0049】
また、析出物を除去して通常の散気状態となった場合(圧力計125で所定閾値未満となった場合)、さらに真水141又は水蒸気を供給し、微細気泡を発生するスリットの目詰まりを防止するようにしてもよい。
すなわち、通常の圧力状態となった場合において、スリット12に供給される空気122に水分を同伴させることにより、海水103を乾燥・濃縮させないようにしている。
より好ましくは、供給される空気122を水分が多い湿り空気(相対湿度が高い状態)とするようにし、さらには、空気122の相対湿度が高い状態(好適には、相対湿度が100%の飽和湿り空気、あるいは、水ミストを含む飽和湿り空気の状態)となるようにして、析出物の発生を抑制する対策を講じるようにしてもよい。
【0050】
また、圧力計125を用いる代わりに、図6−2に示す他のエアレーション装置120Fは、電流計128A〜128Dを設けている。そして、運転しているブロアの電流値の上昇の有無を電流計128A〜128Dで確認して、電流値の上昇があった場合には、圧力損失の上昇があったと判断し、前述したような水分142の供給の操作を行うようにすればよい。
【0051】
次に、本実施例に係るエアレーションノズルについて説明する。本発明では、散気膜11に析出した析出物を容易に脱落させるエアレーションノズルを提供する。
図7は実施例に係る他のエアレーションノズルの内部構造概略図である。
図7に示すように、実施例に係る他のエアレーションノズル123Bは、内部に空気が導入される円筒状の基部側支持体20Aと、基部側支持体20Aよりも径が縮小され、仕切板20dを介して軸方向に設けられる中空筒体20gと、該中空筒体20gの他端に設けられ、前記基部側支持体20Aと略同一径の端部支持体20Bと、前記基部側支持体20Aと前記端部支持体20Bとを覆いつつ両端で締結手段22により締結されるチューブ状の散気膜11と、前記散気膜11に多数設けられたスリット(図示せず)と、前記基部側支持体20Aの側面に設けられ、散気膜11の内周面と支持体外周面との間の加圧空間11aへ導入された空気122を仕切板20dの手前側で流出させる空気出口20e、20fとを具備する。従って、ヘッダからエアレーションノズル123Bに流入する空気122は、図中に矢印で示すように、空気導入口20cから基部側支持体20Aの内部へ流入した後、側面の空気出口20e、20fから加圧空間11aへ流出することとなる。
【0052】
そして、空気122に同伴された水分により析出物の潮解が開始され、それが連続的に発生して空気の抜けが良好となった場合には、図7の破線に示すように、散気膜11が収縮する結果、中空筒体20gの径が小さい部分が変形することとなり、散気膜11のスリット12が変形して、析出物の脱落を助長させることとなる。
【0053】
図8は本実施例に係る他のエアレーションノズルの内部構造概略図である。本実施例に係るエアレーションノズル123Bは、内部に空気が導入される円筒状の基部側支持体20Aと、基部側支持体20Aと略同一径の端部支持体20Bと、基部側支持体20Aと端部支持体20Bを覆いつつ締結手段22により締結されるチューブ状の散気膜11と、前記散気膜11に多数設けられたスリット12とを具備するものである。
【0054】
図3に示すようなエアレーションノズル123Aは基部側支持体20の周囲を散気膜11が覆うような構造であるのに対し、図8に示すエアレーションノズル123Cは、散気膜11は自立しており、その先端部側でのみ端部支持体20Bにより支えられている。よって、空気122を供給している際には、散気膜11が膨張しているが、空気122の供給を停止すると、その散気膜11が破線に示すように、収縮・変形するので、スリットに付着している析出物の脱落が容易となる。
【0055】
また、チューブ状のエアレーションノズルに対して、ディスク状、プレート状のエアレーションノズルについて説明する。
図9は、本実施例に係るディスク状のエアレーションノズルの概略図である。図9に示すように、ディスク状のエアレーションノズル133は、例えばゴム製の散気膜11の円筒状の支持体134の底部に析出物の収容部135を設けている。また、収容部135にはパンチングメタル136等の仕切りを設け、空気122の導入の流れを阻害しないようにしている。
よって、空気122を供給している際には、散気膜11が膨張しているが、空気122に同伴された水分により析出物の潮解が開始され、それが連続的に発生して空気の抜けが良好となった場合には、その散気膜11が破線に示すように、収縮・変形するので、スリットに付着している析出物の脱落が容易となる。
【0056】
以上、本実施例では被処理水として海水を例にして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば汚染処理における汚染水にエアレーションを行うエアレーション装置において、散気孔(メンブレンスリット)での汚泥成分の析出によるプラッギングを防止でき、長期間に亙って安定して操業することができる。
【符号の説明】
【0057】
11 散気膜
12 スリット
100 海水排煙脱硫装置
102 排煙脱硫吸収塔
103 海水
103A 使用済海水
103B 希釈使用済海水
105 希釈混合槽
106 酸化槽
120A、120B エアレーション装置
123、123A〜123C、133 エアレーションノズル
125 圧力計
126 制御装置
140 真水タンク
141 真水
142 水分


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水中に浸漬され、被処理水中に微細気泡を発生させるエアレーション装置であって、
空気を吐出手段により供給する空気供給配管と、
前記空気供給配管に介装された圧力計と、
前記空気が供給されるスリットを有する散気膜を備えたエアレーションノズルとを具備し、
散気膜に対する圧力損失の上昇があった際、空気供給管に対して真水又は水蒸気の一時的な供給を行うことを特徴とするエアレーション装置。
【請求項2】
請求項1において、
散気膜に対する圧力損失の上昇有無の判断は、供給空気の圧力若しくは空気量を計測する手段、又は吐出手段の電流値又は回転数を計測する手段の少なくとも一つにより行うことを特徴とするエアレーション装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記エアレーションノズルは、内部に空気が導入される支持体を覆う散気膜と、
前記散気膜に多数設けられたスリットとからなり、
スリットから微細気泡を流出させることを特徴とするエアレーション装置。
【請求項4】
請求項1又は2において、
前記エアレーションノズルは、
内部に空気が導入される円筒状の基部側支持体と、
基部側支持体よりも径が縮小され、仕切板を介して軸方向に設けられる中空筒体と、
該中空筒体の他端に設けられ、前記基部側支持体と略同一径の端部支持体と、
前記基部側支持体と前記端部支持体を覆いつつ両端で締結されるチューブ状の散気膜と、
前記散気膜に多数設けられたスリットと、
前記基部側支持体の側面に設けられ、散気膜の内周面と支持体外周面との間の加圧空間へ導入された空気を仕切板の手前側で流出させる空気出口とを具備することを特徴とするエアレーション装置。
【請求項5】
請求項1又は2において、
前記エアレーションノズルは、
内部に空気が導入される円筒状の基部側支持体と、
基部側支持体と略同一径の端部支持体と、
基部側支持体と端部支持体を覆いつつ締結されるチューブ状の散気膜と、
前記散気膜に多数設けられたスリットとを具備することを特徴とするエアレーション装置。
【請求項6】
海水を吸収剤として使用する脱硫塔と、
前記脱硫塔から排出された使用済海水を流して排水する水路と、
前記水路内に設置され、前記使用済海水中に微細気泡を発生して脱炭酸を行う請求項1乃至5のいずれか一つのエアレーション装置とを具備することを特徴とする海水排煙脱硫装置。
【請求項7】
被処理水中に浸漬され、被処理水中にスリットから微細気泡を発生させるエアレーション装置を用い、吐出手段による空気を供給するに際し、散気膜に対する圧力損失の上昇があった際、真水又は水蒸気を一時的に供給し、スリットでの析出物の除去を行うことを特徴とするエアレーション装置の運転方法。
【請求項8】
請求項7において、
圧力損失が解消された際、さらに真水又は水蒸気を供給し、微細気泡を発生するスリットの目詰まりを防止することを特徴とするエアレーション装置の運転方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図10−3】
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【公開番号】特開2012−152658(P2012−152658A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11413(P2011−11413)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】