説明

エゼクタおよびこのエゼクタを用いた燃料電池システム

【課題】部品点数の抑制による生産性の向上とコスト抑制を図ることができるとともに、噴出量を精度よく制御する。
【解決手段】エゼクタ50は、ニードル70に対してノズル80を軸方向に変位可能とする第1、第2のダイヤフラム100,110と、少なくとも第1、第2のダイヤフラム100,110で囲まれて構成される第1流体室41、第2流体室42、および第3流体室43とを含み、ノズル80は、第3流体室43に供給される第3流体の圧力を用いて変位し、この変位により噴出口82aから噴出される第1流体の流量を調整可能であり、ニードル70は、基部73に第1流体が通流する中空の通路73aを有し、通路73aは、一方が第1流体室41に連通するとともに、他方が先部74側においてノズル80内に連通する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エゼクタおよびこのエゼクタを用いた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素(燃料ガス、反応ガス)がアノードに、酸素を含む空気(酸化剤ガス、反応ガス)がカソードに、それぞれ供給されることで発電する固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)等の燃料電池の開発が盛んである。
【0003】
燃料電池は、例えば、数十個から数百個のセルが積層されたスタック構造である。各セルは、膜電極構造体(MEA)を一対のセパレータで挟持して構成され、膜電極構造体は、アノード(陽極)およびカソード(陰極)の2つの電極と、これらの電極に挟持された固体高分子電解質膜とで構成される。
そして、燃料電池のアノードに燃料としての水素ガスが供給され、カソードに酸化剤としての酸素を含む空気が供給されると、燃料電池は化学反応により発電する。
【0004】
このような燃料電池を用いた燃料電子システムでは、水素タンクから燃料電池に水素を供給し、燃料電池からは、水素オフガスが排出される。ここで、水素タンクから供給される水素には、発電に必要が水素量よりも多くの水素が含まれているため、燃料電池から排出される水素オフガスには、余剰な水素が含まれる。そこで、循環装置を用いて、この水素オフガスを循環させ、これを水素タンクからの水素に混合させて、燃料電池に供給している。
【0005】
従来、この循環装置としては、外部に動力源を必要とせず、圧力エネルギを利用するエゼクタが用いられることが多い。
エゼクタを用いた燃料電池システムでは、燃料電池に供給される水素の圧力を発電電力に応じて制御するレギュレータや発電電力に応じた循環能力を引き出すためにエゼクタに構成されるノズルの開口径を切り替える装置等が必要となる。
従来、レギュレータやエゼクタのノズルの開口径(開口面積)を切り替える装置等として、種々の技術が開示されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0006】
また、エゼクタに備わる噴出口の開口面積を調節するニードルの先端に、吐出口を設け、この吐出口から水素を噴出させる技術も知られている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−227799号公報
【特許文献2】特開2002−56868号公報
【特許文献3】特開2004−095528号公報
【特許文献4】特開平8−338398号公報
【特許文献5】特開2005−337101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、エゼクタは、噴出量を精度よく制御するために、ノズルの噴出口にニードルを精度よく配置させる必要がある。
しかしながら、一般的にニードルは細い針状であるためノズルの噴出口に好適に支持することが難しく、ニードルの支持に高価な軸受を用いたり、その他の部材等を併用したりする必要があった。このため、部品点数が多くなる等、コスト低減の妨げとなっていた。
一方、特許文献5のエゼクタでは、ニードルを可動させて噴出口にニードルの先端を位置させたときには、ニードルの先端から噴出されるように切り替えている。
しかしながら、このエゼクタでは、ニードルを可動させて噴出口にニードルを位置させる際に、流体の流れる流路が切り替わることとなり、その切り替わるポイントでガスの流れが不連続となるおそれがあり、その改善が求められていた。
【0009】
そこで、本発明は、部品点数の抑制による生産性の向上とコスト抑制を図ることができるとともに、噴出量を精度よく制御することができるエゼクタおよびこのエゼクタを用いた燃料電池システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、供給される第1流体を噴出するノズルと、前記ノズル内に配置され、基部と、前記ノズルの噴出口に挿入される先部とを有するニードルと、前記ノズルから噴出された第1流体によって発生する負圧で第2流体を吸引し、これらの流体を混合させて流出するディフューザと、少なくとも前記ノズルと前記ニードルとを内包し、前記ノズルと前記ニードルと前記ディフューザとを同軸に配置するボディとを有し、前記ノズルと前記ニードルとの相対位置を可変することにより、前記ノズルから噴出される第1流体の流出量を調整し、前記ディフューザにより混合された流体の流量を調整するエゼクタであって、前記ボディに周囲を固定されるとともに、前記ノズルの一端側およびこの一端側から離間した他端側にそれぞれ固定されて、前記ニードルに対して前記ノズルを軸方向に変位可能とする第1、第2のダイヤフラムと、少なくとも前記第1、第2のダイヤフラムと、前記ボディとから囲まれて構成され、第1流体が供給される第1流体室と、前記第1流体室に対して前記ディフューザ側に位置し、少なくとも前記第1のダイヤフラムと、前記ボディとから囲まれて構成され、第2流体が供給される第2流体室と、前記第1流体室に対して前記ディフューザの反対側に位置し、少なくとも前記第2のダイヤフラムと、前記ボディとから囲まれて構成され、第3流体が供給される第3流体室と、を含み、前記ノズルは、前記第3流体室に供給される第3流体の圧力を用いて変位し、この変位により前記ノズルの噴出口と前記ニードルの前記先部とを相対移動させることで当該噴出口の開口面積を変化させて、前記ノズルから噴出される第1流体の流量を調整可能であり、前記ニードルは、前記基部に第1流体が通流する中空の通路を有しており、前記通路は、一方が前記第1流体室に連通するとともに、他方が前記先部側において前記ノズル内に連通することを特徴とする。
【0011】
このようなエゼクタによれば、第1流体室からニードル内部の通路を通じてノズル内に供給された第1流体は、ノズルの噴出口から噴出される。ここで、ノズルはニードルに対して軸方向に変位可能であり、ノズルの噴出口とニードルの先部とを相対移動させることで、噴出口の開口面積を変化させ、噴出口とニードルの先部との間の間隙(開口)から噴出される第1流体の流量を調整することができる。ノズルには、2枚の第1,第2のダイヤフラムが固定されており、ノズルは、第3流体室に供給される第3流体の圧力を用いてこの第1,第2のダイヤフラムを撓曲させることで変位可能である。
【0012】
ニードルは、第1流体が通流する中空の通路を基部に有しているので、中実である場合に比べて中空とされた分、ニードルの重量増加を抑えつつ、ニードルの外径を大径化することが可能となる。したがって、従来の針状とされたニードルを支持するときのような支持部品の高精度化やその他の部品を併用して支持する場合に比べて、外径を大径化したニードルは支持し易くなり、部品点数の抑制による生産性の向上とコスト抑制を図ることができる。また、ニードルの外径を大径化することができるので、耐久性の向上を図ることもできる。
【0013】
また、ニードルの内部(中空の通路)を第1流体が通流する構成であるので、ニードルの外部を通路として利用する必要がなくなり、ニードルの外部を軸受等で支持した場合にも、軸受が第1流体の通流の妨げとならない。したがって、軸受等の回りの構成が簡単になるとともに、第1流体を噴出口に連続的に通流させることができる。したがって、噴出量を連続的に精度よく可変制御することができる。
【0014】
さらに、通路は、基部に形成されており、一方が第1流体室に連通するとともに、他方が先部側においてノズル内に連通する構成であるので、第1流体は、ノズルの噴出口よりも上流側にてノズル内に流れ込むこととなる。したがって、第1流体を噴出口に連続的に通流させることができる。つまり、例えば、噴出口の開口面積が大きくなる方向にノズルを変位させることにより、当該開口面積を大きくして、第1流体の流量が増加するように構成することができ、また、噴出口の開口面積が小さくなる方向にノズルを変位させることにより、当該開口面積を小さくして、第1流体の流量が減少するように構成することができる。
【0015】
また、本発明は、前記ニードルの前記先部をテーパ状とすることにより、ノズルの噴出口から噴出される第1流体のリニアな調整が可能となり、噴出量を連続的に精度よく可変制御することができる。
【0016】
また、本発明は、前記通路の前記他方における連通孔を、スロット状の連通孔とすることにより、連通孔の形成が容易となる。
【0017】
また、本発明は、前記通路の前記他方における連通孔は、前記噴出口に向けて第1流体を流出する斜め孔とすることにより、ニードルから噴出口に向けて第1流体がスムーズに流れ込むようになり、ノズルの噴出口から第1流体を好適に噴出させることができる。
【0018】
また、本発明は、前記エゼクタを備えた燃料電池システムであって、前記第1流体は、燃料供給手段から燃料電池のアノードに供給される燃料であり、前記第2流体は、前記燃料電池から排出される排出燃料であり、前記第3流体は、酸化剤供給手段から前記燃料電池のカソードに供給される酸化剤であることを特徴とする。
【0019】
この燃料電池システムによれば、燃料電池から排出される排出燃料を、新たに燃料電池に供給される燃料に混合して再循環させる際に、燃料電池に供給する燃料および排出燃料の混合流体の流量を、第1流体、第2流体および第3流体の圧力バランスに基づく機械的な制御のみで適切に調整することができる。これにより、例えば、電気的なアクチュエータ等を用いて流量制御を行う場合に比べて、より単純な構成でありながら、所望の信頼性の高い流量制御を行うことができる。これによって、燃料電池システムの制御が複雑化することを防いで、コスト抑制を図ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、部品点数の抑制による生産性の向上とコスト抑制を図ることができるとともに、噴出量を精度よく制御することができるエゼクタおよびこのエゼクタを用いた燃料電池システムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態のエゼクタが適用される燃料電池システムの構成を示す図である。
【図2】エゼクタの構成を示す断面図である。
【図3】(a)はニードルの先部側を示す斜視図、(b)はニードルの先部側を示す断面図、(c)はニードルを先部側から見た図である。
【図4】流体の流れを示す説明図である。
【図5】バルブが閉じる側にノズルが変位したときの状態を示す断面図である。
【図6】変形例に係る図であり、(a)はニードルの先部側を示す斜視図、(b)はニードルの先部側を示す断面図、(c)はニードルを先部側から見た図である。
【図7】その他の燃料電池システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るエゼクタの実施の形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
ここで、本実施の形態によるエゼクタ50は、例えば電気自動車等の車両に搭載された燃料電池システムに備えられており、この燃料電池システムは、エゼクタ50と、燃料電池スタック1と、燃料供給手段(水素供給源)としての水素タンク20と、酸化剤供給手段としてのコンプレッサ30と、これらを制御するECU(Electronic Control Unit、電子制御装置)10とを備えて構成されている。
【0023】
燃料電池スタック1は、固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)であり、MEA(Membrane Electrode Assembly、膜電極接合体)をセパレータ(図示しない)で挟持してなる単セルが複数積層されて構成されている。MEAは、電解質膜(固体高分子膜)と、これを挟持するカソード及びアノードとを備えている。各セパレータには、溝や貫通孔からなるアノード流路2およびカソード流路3が形成されている。
【0024】
このような燃料電池スタック1は、アノード流路2を介してアノード側に水素タンク20から水素が供給され、カソード流路3を介してカソード側にコンプレッサ30から酸素を含む空気が供給されると、アノードおよびカソードに含まれる触媒(Pt等)上で電極反応が起こり、発電可能な状態となる。
【0025】
そして、このように発電可能な状態の燃料電池スタック1と、外部負荷(例えば図示しない走行用のモータ)とが電気的に接続され、電流が取り出されると、燃料電池スタック1が発電するようになっている。
【0026】
<アノード系>
アノード系は、燃料電池スタック1よりも上流側に備えられる、水素タンク20、常閉型の遮断弁21、エゼクタ50、および燃料電池スタック1よりも下流側に備えられる、常閉型のパージ弁22を備えている。
【0027】
水素タンク20は、配管21a、遮断弁21、配管21b、エゼクタ50、および配管21cを介して、アノード流路2の入口側に接続されている。
そして、燃料電池自動車のイグニッションがオンされ、燃料電池スタック1の起動が要求されてECU10により遮断弁21が開かれると、水素タンク20の水素が配管21a等を介してアノード流路2に供給されるようになっている。
【0028】
アノード流路2の出口は、配管22a、配管22bを介して、エゼクタ50の後記する第2流体室42に通じる吸込口に接続されている。そして、アノード流路(アノード)2から排出された未反応の水素を含むアノードオフガスは、図示しない気液分離器において、これに同伴する液状の水分が分離された後、燃料電池スタック1の上流側のエゼクタ50に戻されるようになっている。
そして、エゼクタ50に戻されたアノードオフガスは、水素タンク20からの水素と混合された後、アノード流路2に再供給されるようになっている。つまり、本実施形態では、配管22aおよび配管22bによって、水素を循環させて再利用する水素循環ラインが構成されている。
【0029】
パージ弁22は、常閉型の電磁弁であり、燃料電池スタック1の発電時において、配管22aおよび配管22bを循環するアノードオフガス(水素)に含まれる不純物(水蒸気、窒素等)を排出(パージ)する場合に、ECU10によって開かれる弁である。
パージ弁22が開かれると、配管22a内の水素ガスは、希釈器32に流入し、希釈器32内において後記するカソード系の配管31a等を通じて供給されたエアで希釈されて車外に排出される。
【0030】
<カソード系>
カソード系は、コンプレッサ30と、希釈器32(ガス処理装置)とを備えている。
コンプレッサ30は、配管30aを介して、カソード流路3の入口に接続されている。そして、ECU10から送られる指令回転速度にしたがって作動すると、コンプレッサ30は、酸素を含む空気を取り込み、空気をカソード流路3に供給するようになっている。コンプレッサ30の回転速度は、通常、図示しないアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)が大きくなると、空気を大流量・高圧で供給すべく、高められる設定となっている。
なお、コンプレッサ30は、燃料電池スタック1および/又は燃料電池スタック1の発電電力を充放電する高圧バッテリ(図示しない)を電源として作動する。
【0031】
配管30aは途中で分岐されており、この分岐した部分は、エア分岐路33aとなり、後記するエゼクタ50の第3流体室43に通じる導入口に接続されている。つまり、エア分岐路33aを通じて、コンプレッサ30からのエアがエゼクタ50の第3流体室43に(パイロット圧として)直接供給されるようになっている。
【0032】
カソード流路3の出口は、配管31a、背圧弁31、配管31bを介して、希釈器32に接続されている。そして、カソード流路3(カソード)から排出された多湿のカソードオフガスは、配管31a等を介して希釈器32に供給されるようになっている。背圧弁31は、カソード流路3における空気の圧力を制御するようになっており、バタフライ弁等からなる。
【0033】
希釈器32は、パージ弁22から導入されるアノードオフガスと、配管31bから導入されるカソードオフガス(希釈用ガス)とを混合し、アノードオフガス中の水素を、カソードオフガスで希釈する役割をなす。
【0034】
〔エゼクタ〕
次に、エゼクタ50について図2を参照して説明する。なお、以下の説明では、図2に示すように、ニードル70を構成するニードル本体72の基部73が配置される側を「一端側」と称し、また、ニードル本体72の先部74が配置される側を「他端側」と称する。
エゼクタ50は、ボディ60と、このボディ60の内部に固定されたニードル70と、このニードル70を収容する略筒状のノズル80と、ノズル80の噴出口82a側に設けられたディフューザ90と、を備え、これらのニードル70とノズル80とがボディ60に内包され、ニードル70とノズル80とディフューザ90とが同軸に配置されている。
【0035】
本実施形態のエゼクタ50では、ボディ60に対してニードル70が固定されており、この固定されたニードル70に対してノズル80が後記するように軸方向に変位可能に構成されている。
また、ノズル80の一端側および他端側において、ノズル80とボディ60との間には、ノズル80の変位動作に追従して撓む弾性部材(例えば、合成ゴム等の材料)からなる第1,第2のダイヤフラム100、110が固定されており、この第1,第2のダイヤフラム100,110によってボディ60内が3つの流体室(第1流体室41、第2流体室42、第3流体室43)に仕切られた構造となっている。
【0036】
ニードル70は、円環状の支持部71と、この支持部71に支持されてボディ60の延出方向に沿って他端側へ延びるニードル本体72と、を備える。支持部71は、ボディ60の内壁面に設けられた突部61に複数個のボルト62(図では1個のみ図示)で固定されており、その中心部に形成された挿通孔71aに、ニードル本体72の後記する基部73が挿通されて固定されている。
なお、支持部71には、軸方向に図示しない複数の透孔が形成されており、この透孔を通じて後記する第1流体としての水素が通流可能である。
【0037】
以下、エゼクタ50の各部について詳細に説明する。
ボディ60は、略筒状であり、ニードル70およびノズル80を内包している。ボディ60の他端側には、ディフューザ90が配置されており、このディフューザ90の送出口91は、図1に示した配管21cを介して燃料電池スタック1のアノード流路2に接続されている。
また、ボディ60内には、ノズル80を付勢してノズル80とニードル70との相対位置を保持する第1のばね63と、第2のばね64が保持されている。本実施形態では、ノズル80の初期位置を、ノズル80が全開となる状態、つまり、ノズル80が他端側に付勢された図2に示す状態となるように、供給される第1流体としての水素の圧力を考慮して第1,第2のばね63,64の付勢力を設定している。
【0038】
ニードル本体72は、筒状の基部73と、この基部73の他端側に設けられ、ノズル80の噴出口82aに挿入される先部74とを有する。基部73は、大径部75と小径部76とを有しており、その内側に形成される中空を利用して後記する第1流体としての水素が通流する通路73aが形成されている。大径部75の他端側には、フランジ部73bが形成されており、このフランジ部73bに、後記するバルブ77を構成する円環状のシール部材(弾性部材)からなる弁座77aが設けられている。
また、大径部75の一端側には、シール材75aを介して後記するノズル80の基端部81が装着される。
【0039】
小径部76の一端側には、通路73aの流入口となる4個の開口部76a(図3(a)参照)が形成されている。また、小径部76の他端側には、通路73aの流出口となるスロット状の連通孔76bが計4個(図3(a)〜(c)参照)形成されている。つまり、通路73aは、一方が開口部76aを通じて後記する第1流体室41に連通するとともに、他方が先部74側のスロット状の連通孔76bを通じてノズル80内に連通するようになっている。連通孔76bは、細長溝状として形成してもよく、長孔状に形成してもよい。
【0040】
小径部76の外周面には、図2に示すように、ノズル80の後記する先端部82の内周面に係止された軸受85の内面が接しており、小径部76(ニードル本体72)に対して先端部82が軸方向に変位可能となっている。
【0041】
先部74は、前記したように、ノズル80の噴出口82aに挿入されるようになっており、先端74aが、先細りとされたテーパ状とされている。
【0042】
ノズル80は、ニードル70の基端側(一端側)に設けられた基端部81と、ニードル70の先端側(他端側)に設けられた先端部82と、これらの基端部81と先端部82とを連結する連結部材83とからなる。
基端部81は、断面略ハット形状とされた有底円筒状とされており、その中空部に、ニードル本体72の基部73の一端側が軸方向に摺動可能に収容される。本実施形態では、中空部の底部81aが断面三角凹状とされており、この底部81aと、底部81aに対向するニードル本体72の基部73の一端面との間に背圧室81bを形成している。この背圧室81bには、ニードル本体72の通路73aの一端側が連通している。つまり、背圧室81bは、通路73a、開口部76a、および後記するバルブ77を介して第1流体室41に連通している。したがって、これらを介して背圧室81bには、第1流体室41の第1流体が流入するようになっており、これによって、ノズル80の可動方向(他端側に変位する方向)に作用する力を打ち消すようになっている。
【0043】
基端部81の他端側には、フランジ部81cが形成されており、このフランジ部81cがニードル70の支持部71の一端面71bに当接するようになっており、当接した状態でノズル80の他端側への変位が規制されるようになっている。本実施形態では、フランジ部81cが一端面71bに当接した状態で、先端部82の噴出口82aの開口が最大開口となるように設定されている。つまり、噴出口82aにおける開口(ニードル70の先部74との間に形成される円環状の隙間)が最大開口面積となるように設定されている。
また、フランジ部81cには、貫通孔が形成され、この貫通孔に連結部材83を構成するボルト83aが挿通されるようになっている。
【0044】
また、基端部81には、第1のダイヤフラム100が固定されている。第1のダイヤフラム100は、基端部81を取り囲むように基端部81に固定される円環状の部材であり、基端部81側に装着される内周縁部101と、内周縁部101から半径外方向へと延在する薄肉状のスカート部102と、このスカート部102の外周部に形成されてボディ60に固定される外周縁部103とからなる。
【0045】
内周縁部101は、基端部81に装着される円環状の保持部材84と、この保持部材84に被せられる円環状の押え部材86と、の間に挟持されることで基端部81に固定される。スカート部102は、ノズル80の変位動作に追従して撓曲自在である。また、外周縁部103は、ボディ60を構成するブロック間に挟持されて固定されている。
【0046】
このような第1のダイヤフラム100を設けることによって、第1のダイヤフラム100で仕切られる第3流体室43の内部の気密が好適に保持されるようになる。
なお、押え部材86と第3流体室43の側壁との間には、前記した第1のばね63が縮設されている。
【0047】
先端部82は、ボディ60の延出方向に沿って延びる円筒状の噴出部82bを有しており、この噴出部82bの先端に、噴出口82aが形成されている。噴出部82bは、噴出口82aに向かい漸次連続的に縮径するテーパ状に形成されている。
【0048】
先端部82は、ニードル70の基部73の小径部76および先部74の略全体を覆う状態に配置されており、ニードル70に対して軸方向に摺動可能である。先端部82の基端部82cには、その一端面に、バルブ77を構成する円環突条の弁体77bが形成されている。
弁体77bは、ニードル70の基部73における大径部75に設けられた円環状の弁座77aに対向して設けられており、後記するように一端側へノズル80が変位した際に(図5参照)、弁座77aに着座可能である。
また、先端部82の基端部82cには、連結部材83を構成するボルト83aがカラー83bを介して螺合されている。カラー83bは、基端部81と先端部82との間隔を所定の間隔に一体的に保持するスペーサの役割をなす。
【0049】
また、先端部82には、第2のダイヤフラム110が固定されている。第2のダイヤフラム110は、先端部82を取り囲むように先端部82に固定される円環状の部材であり、先端部82に固定される内周縁部111と、内周縁部111から半径外方向へと延在する薄肉状のスカート部112と、このスカート部112の外周部に形成されてボディ60に固定される外周縁部113とからなる。
【0050】
内周縁部111は、先端部82に設けられたフランジ部82eと、このフランジ部82eに被せられる円環状の押え部材87と、の間に挟持されることで先端部82に固定される。スカート部112は、ノズル80の変位動作に追従して撓曲自在である。外周縁部113は、ボディ60とディフューザ90との間に挟持されて固定されている。
【0051】
このような第2のダイヤフラム110を設けることによって、第2のダイヤフラム110で仕切られる第2流体室42の内部の気密が好適に保持されるようになる。また、前記した第1のダイヤフラム100と第2のダイヤフラム110で仕切られる第1流体室41の内部の気密が好適に保持されるようになる。
なお、押え部材87と第2流体室42の対向壁との間には、前記した第2のばね64が縮設されている。
また、第1のダイヤフラム100と第2のダイヤフラム110とは、同一のものが用いられている。
【0052】
このように、少なくとも第1,第2のダイヤフラム100,110とボディ60で囲われて構成される第1流体室41には、配管21bを介して水素が供給されるようになっている。また、少なくとも第2のダイヤフラム110とボディ60で囲われて構成される第2流体室42には、配管22bを介してアノード流路(アノード)2から排出された未反応の水素を含むアノードオフガスが供給されるようになっている。さらに、少なくとも第1のダイヤフラム100とボディ60で囲われて構成される第3流体室43には、エア分岐路33aを介してコンプレッサ30からのエアが供給されるようになっている。
【0053】
このようなエゼクタ50は、第1流体室41に供給された水素を、配管21bを通じて第1流体室41からニードル本体72の内部に形成された通路73aを通じてノズル80の噴出口82aから噴出する(図4参照)。ここで、第1流体室41から開口部76aを通じて通路73aに流入した水素は、通路73a内を先部74側へ向けて流れ、基部73の先部74側に形成されたスロット状の連通孔76bを通じてノズル80内に流れ込む。つまり、通路73a内を先部74側へ向けて流れる過程で、水素は、基部73の小径部76に摺接する軸受85が位置する部分よりも先部74側に流れて、ノズル80内に流れ込むようになっており、結果的に通路73a内を流れることで軸受85を跨いた先部74側でノズル80内に流れ込むこととなる。したがって、軸受85が水素の通流を遮断する構造であるか否かに拘わらず、第1流体室41から噴出口82aに向けて水素を確実に流すことができる。これにより、軸受85に水素の通流路を設ける必要がなくなり、薄形の軸受85を使用することができて、軽量化を図ることができるとともに、コストの抑制を図ることができる。
【0054】
そして、エゼクタ50は、ノズル80の噴出口82aから噴出される水素の負圧で、配管22bを通じて第2流体室42に供給されるアノードオフガスを吸引して、これらの流体をディフューザ90で混合させて流出する。流出された混合流体は、配管21cを通じて燃料電池スタック1のアノード流路2に供給される。
一方、エゼクタ50には、前記したようにコンプレッサ30からのエアが第3流体室43に供給されており、この第3流体室43に供給されたエアの圧力に基づいてノズル80が他端側に変位し、ノズル80の噴出口82aから噴出される水素の噴出量が調整される。
【0055】
次に、燃料電池システムにおけるエゼクタ50の作動について説明する。
このようなエゼクタ50を有する燃料電池システムにおいて、エゼクタ50は、図2に示すように、燃料電池システムが作動していない初期状態で、前記した第1,第2のばね63,64の設定による付勢力によって、ノズル80が他端側に付勢されて変位された状態にある。
【0056】
その後、図示しないイグニッションがオンされ、燃料電池スタック1の起動が要求されてECU10により遮断弁21が開かれると、水素タンク20の水素が配管21a等を介してエゼクタ50の第1流体室41に供給される(図4参照)。第1流体室41に供給された水素は、ニードル70の通路73aを通じてノズル80の噴出口82aから第2流体室42に流入する。
ここで、供給される水素の圧力が所定の圧力、つまり、第1,第2のばね64,65の差圧に相当する圧力が第2流体室42に作用するように水素が供給されると、第1のばね63の付勢力と第2のばね64の付勢力とが同等状態となり、ノズル80が一端側に変位し始める。
そして、さらに水素の圧力が所定の圧力に上昇することで、ノズル80が一端側にさらに変位して、弁体77bが弁座77aに着座することでバルブ77が一旦閉じられる(図5参照)。
【0057】
その後、コンプレッサ30がECU10の制御により所定の回転速度で運転され、エア分岐路33aを介してエアが第3流体室43に供給されると、第3流体室43のエアの圧力が高まり、ノズル80を他端側に変位させる方向の力が作用し始める。これと同時に燃料電池スタック1のアノード流路2では水素が消費され、アノード流路2に配管21cを通じて連通する第2流体室42の水素の圧力が低下し始める。これによって、バルブ77の上流側と下流側とでは差圧が生じた状態となり、前記したエアの供給によりノズル80が他端側へ変位し始めてバルブ77が開き始めると、水素が第1流体室41からバルブ77を通ってニードル70の通路73aに流入し、その後、ノズル80の噴出口82aから第2流体室42に噴出する。
【0058】
そして、第3流体室43のエアの圧力がさらに高められると、ノズル80が他端側にさらに変位し、バルブ77がさらに開いて、第3流体室43に供給されたエアの圧力に対応した水素が噴出口82aから噴出される(図4参照)。
【0059】
ここで、前記したように、第2流体室42には、配管22bを通じてアノードオフガスが還流されているので、ノズル80の噴出口82aから噴出される水素の負圧で、第2流体室42に供給されるアノードオフガスが吸引され、これらの流体がディフューザ90で混合されて燃料電池スタック1のアノード流路2に向けて供給される。
【0060】
以上説明した本実施形態のエゼクタ50によれば、ニードル70は、基部73に水素が通流する中空の通路73aを有しているので、中実である場合に比べて中空とされた分、ニードル70の重量増加を抑えつつ、ニードル70の外径を大径化することが可能となる。したがって、従来の針状とされたニードルを支持するときのような支持部品の高精度化やその他の部品を併用して支持する場合に比べて、外径を大径化したニードル70は支持し易くなり、部品点数の抑制による生産性の向上とコスト抑制を図ることができる。また、ニードル70の外径を大径化することができるので、耐久性の向上を図ることもできる。
【0061】
また、ニードル本体72の内部(中空の通路73a)を水素が通流する構成であるので、ニードル70の外部を通路として利用する必要がなくなり、ニードル70の外部を軸受等で支持した場合にも、軸受85が水素の通流の妨げとならない。したがって、軸受85等の回りの構成が簡単になるとともに、水素を噴出口82aに連続的に通流させることができる。したがって、噴出量を連続的に精度よく可変制御することができる。
【0062】
さらに、通路73aは、基部73に形成されており、一方が第1流体室41に連通するとともに、他方が先部74側においてノズル80の先端部82内に連通する構成であるので、水素は、ノズル80の噴出口82aよりも上流側にてノズル80の先端部82内に流れ込むこととなる。したがって、水素を噴出口82aに連続的に通流させることができる。つまり、例えば、噴出口82aの開口面積が大きくなる方向に(他端側に向かう方向)ノズル80を変位させることにより(図2参照)、当該開口面積を大きくして、水素の流量が増加するように構成することができ、また、噴出口82aの開口面積が小さくなる方向(一端側に向かう方向)にノズル80を変位させることにより(図5参照)、当該開口面積を小さくして、水素の流量が減少するように構成することができる。
【0063】
また、ニードル70の先部74がテーパ状となっているので、ノズル80の噴出口82aから噴出される第1流体のリニアな調整が可能となり、噴出量を精度よく制御することができる。
【0064】
また、通路73aの他方における連通孔がスロット状の連通孔76bとされているので、連通孔76bの形成が容易である。
【0065】
また、本実施形態のエゼクタ50を備えた燃料電池システムによれば、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスを、新たに燃料電池スタック1に供給される水素に混合して再循環させる際に、燃料電池スタック1に供給する水素およびアノードオフガスの混合流体の流量を、水素、アノードオフガスおよびエアの圧力バランスに基づく機械的な制御のみで適切に調整することができる。これにより、例えば電気的なアクチュエータ等を用いて流量制御を行う場合に比べて、より単純な構成でありながら、所望の信頼性の高い流量制御を行うことができる。これによって、燃料電池システムの制御が複雑化することを防いで、コスト抑制を図ることができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、例えば次のように変更することができる。
前記した実施形態では、通路73aの他方をスロット状の連通孔76bとしたが、これに限られることはなく、図6に示すように、噴出口82aに向けて水素を流出する斜め孔76cとすることができる。
このような斜め孔76cとすることにより、ニードル70から噴出口82aに向けて水素がスムーズに流れ込むようになり、ノズル80の噴出口82aから水素を好適に噴出させることができる。
【0067】
また、ノズル80を構成する弁体77bを、ニードル70の基部73における大径部75に設けて、弁座77aを、ノズル80の先端部82の基端部82cに設けてもよい。
なお、弁体77bは、円環状としたものに限定されず、種々の形状、例えば、楕円環状、長円環状、多辺で構成される環状としてもよい。
【0068】
また、軸受85はニードル70の小径部76側に固定してもよい。また、軸受85に代わる突出部をノズル80の先端部82の内側やニードル70の小径部76側に一体的に形成してもよい。
【0069】
また、エゼクタ50の第3流体室43に通じるエア分岐路33aに、図7に示すように、オリフィス33bを設けるとともに、エア分岐路33a内のエアの圧力を調整するインジェクタ33を接続して、第3流体室43に供給されるエアの圧力をECU10の制御により調整するようにしてもよい。ここで、インジェクタ33は、エア分岐路33a内のエアを排出する機能を有しており、エアを排出することで、エア分岐路33a内のエアの圧力を調整する機能を有している。
【符号の説明】
【0070】
1 燃料電池スタック
41 第1流体室
42 第2流体室
43 第3流体室
50 エゼクタ
60 ボディ
70 ニードル
72 ニードル本体
73 基部
74 先部
76a 開口部
76b 連通孔
77 バルブ
77a 弁座
77b 弁体
80 ノズル
81b 背圧室
82 先端部
82a 噴出口
85 軸受
90 ディフューザ
100 第1のダイヤフラム
110 第2のダイヤフラム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給される第1流体を噴出するノズルと、
前記ノズル内に配置され、基部と、前記ノズルの噴出口に挿入される先部とを有するニードルと、
前記ノズルから噴出された第1流体によって発生する負圧で第2流体を吸引し、これらの流体を混合させて流出するディフューザと、
少なくとも前記ノズルと前記ニードルとを内包し、前記ノズルと前記ニードルと前記ディフューザとを同軸に配置するボディとを有し、
前記ノズルと前記ニードルとの相対位置を可変することにより、前記ノズルから噴出される第1流体の流出量を調整し、前記ディフューザにより混合された流体の流量を調整するエゼクタであって、
前記ボディに周囲を固定されるとともに、前記ノズルの一端側およびこの一端側から離間した他端側にそれぞれ固定されて、前記ニードルに対して前記ノズルを軸方向に変位可能とする第1、第2のダイヤフラムと、
少なくとも前記第1、第2のダイヤフラムと、前記ボディとから囲まれて構成され、第1流体が供給される第1流体室と、
前記第1流体室に対して前記ディフューザ側に位置し、少なくとも前記第1のダイヤフラムと、前記ボディとから囲まれて構成され、第2流体が供給される第2流体室と、
前記第1流体室に対して前記ディフューザの反対側に位置し、少なくとも前記第2のダイヤフラムと、前記ボディとから囲まれて構成され、第3流体が供給される第3流体室と、を含み、
前記ノズルは、前記第3流体室に供給される第3流体の圧力を用いて変位し、この変位により前記ノズルの噴出口と前記ニードルの前記先部とを相対移動させることで当該噴出口の開口面積を変化させて、前記ノズルから噴出される第1流体の流量を調整可能であり、
前記ニードルは、前記基部に第1流体が通流する中空の通路を有しており、
前記通路は、一方が前記第1流体室に連通するとともに、他方が前記先部側において前記ノズル内に連通することを特徴とするエゼクタ。
【請求項2】
前記ニードルの前記先部はテーパ状とされていることを特徴とする請求項1に記載のエゼクタ。
【請求項3】
前記通路の前記他方における連通孔は、スロット状の連通孔とされることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエゼクタ。
【請求項4】
前記通路の前記他方における連通孔は、前記噴出口に向けて第1流体を流出する斜め孔とされることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエゼクタ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のエゼクタを備えた燃料電池システムであって、
前記第1流体は、燃料供給手段から燃料電池のアノードに供給される燃料であり、
前記第2流体は、前記燃料電池から排出される排出燃料であり、
前記第3流体は、酸化剤供給手段から前記燃料電池のカソードに供給される酸化剤であることを特徴とする燃料電池システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−185390(P2010−185390A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30673(P2009−30673)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】