説明

エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法、エチレン−ビニルアルコール共重合体、及び、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法。

【課題】 高エチレン含量のエチレン−ビニルアルコール共重合体であっても容易に製造
可能なエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法、該エチレン−ビニルアルコール
共重合体の製造方法により得られたエチレン−ビニルアルコール共重合体、及び、高エチ
レン含量のエチレン−ビニルアルコール共重合体であっても容易に、かつ、高い効率でア
セタール化、ケタール化又はエステル化できる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体
の製造方法を提供する。
【解決手段】 エチレン−酢酸ビニル共重合体と、水及び/又はアルコールとを混合し、
超臨界状態又は亜臨界状態の流体中で反応させるエチレン−ビニルアルコール共重合体の
製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高エチレン含量のエチレン−ビニルアルコール共重合体であっても容易に製造
可能なエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法、該エチレン−ビニルアルコール
共重合体の製造方法により得られたエチレン−ビニルアルコール共重合体、及び、高エチ
レン含量のエチレン−ビニルアルコール共重合体であっても容易に、かつ、高い効率でア
セタール化、ケタール化又はエステル化できる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体
の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン−ビニルアルコール共重合体からなるシートは、酸素等に対するガスバリア性に
優れることから、食品等の保存条件の厳しい製品を包装するための包装材として広く用い
られている。エチレン−ビニルアルコール共重合体シートの諸性能は、エチレン成分とビ
ニルアルコール成分との配合比によって決まることから、用途に応じて最適な性能を発揮
するように配合比が決定されていた。
【0003】
一般に、エチレン−ビニルアルコール共重合体はエチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニ
ルエステル共重合体を溶液中で加水分解(けん化)する方法により製造されている。エチ
レン−酢酸ビニル共重合体のけん化方法としては、例えば、アルカリ性触媒を使用する均
一けん化方法;メタノール−水系等の溶媒を利用し、アルカリ性触媒を使用する不均一け
ん化方法等が挙げられる。しかし、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体では、エチレン
含有量の増加とともに溶媒和性が著しく悪化し、溶液中で加水分解を行おうとしても、得
られるエチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量やけん化度にも限界があっ
た。
【0004】
これに対して、特許文献1には、エチレン−酢酸ビニル共重合体の加水分解又はアルコー
ル分解を行うのに、特にエチレン−酢酸ビニル共重合体の溶解性に優れた溶媒としてジア
ルキルスルホキシドを用いる方法が開示されている。しかしながら、ジアルキルスルホキ
シドは、低分子量アルコール、エステル、水等の通常の溶媒に比べて沸点が高く、また、
得られるエチレン−ビニルアルコール共重合体中の水酸基との親和性が高いことから、生
成したエチレン−ビニルアルコール共重合体から完全に除去するのは不可能であるという
問題点があった。このように樹脂中にジメチルスルホキシドが残存すると、樹脂の劣化を
促進することが懸念される。
また、エチレン−酢酸ビニル共重合体の加水分解又はアルコール分解を行うのに、溶媒と
してジメチルスルホキシドを用いる方法も提案されている。しかしながら、溶媒としてジ
メチルスルホキシドを用いた場合、黄色がかったエチレン−ビニルアルコール共重合体し
か得られず、その用途が極めて限定されるという問題点があった。
更に、特許文献2には、エチレン−ビニルアルコール共重合体をモノマーから合成する方
法が開示されている。しかしながら、この場合にも得られるエチレン−ビニルアルコール
共重合体のエチレン含量が高くなると、溶かすことのできる溶媒がなくなるという問題が
あり、得られるエチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含量は2〜19モル%程
度が限界であった。
【0005】
エチレン−ビニルアルコール共重合体はガスバリア性が高く、耐溶剤性も良好であること
から食品包装材等として多用されている。しかし、残存する水酸基のため吸湿性が高く、
吸湿することにより物性が著しく低下してしまうことが知られている。
このような吸湿によるエチレン−ビニルアルコール共重合体の物性の低下を防止する方法
として、エチレン−ビニルアルコール共重合体をアセタール化、ケタール化又はエステル
化する方法が知られている。アセタール化、ケタール化又はエステル化された変性エチレ
ン−ビニルアルコール共重合体は、結晶性が低いことから、透明性等の光学的性質が高い
。また、アセタール化、ケタール化又はエステル化された変性エチレン−ビニルアルコー
ル共重合体を出発原料とすれば、新規な性能が付与されたフィルムの開発も期待できる。
【0006】
しかし、現在知られているエチレン−ビニルアルコール共重合体のアセタール化、ケター
ル化又はエステル化方法では、達成可能なアセタール化度、ケタール化度又はエステル化
度はせいぜい30モル%程度であり、大半の水酸基がそのまま残ってしまうことから、大
幅な改質を行うことは困難であった。また、エチレン−ビニルアルコール共重合体の場合
も、エチレン含量が高くなるに従い溶媒和性が著しく悪化し、適当な溶媒が存在しなくな
ることから、製造できるアセタール変性エチレン−ビニルアルコール共重合体中のエチレ
ン含量にも限界があった。
【0007】
【特許文献1】特許3066167号公報
【特許文献2】特開2001−261745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、高エチレン含量のエチレン−ビニルアルコール共重合体であ
っても容易に製造可能なエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法、該エチレン−
ビニルアルコール共重合体の製造方法により得られたエチレン−ビニルアルコール共重合
体、及び、高エチレン含量のエチレン−ビニルアルコール共重合体であっても容易に、か
つ、高い効率でアセタール化、ケタール化又はエステル化できる変性エチレン−ビニルア
ルコール共重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明1は、エチレン−酢酸ビニル共重合体と、水及び/又はアルコールとを混合し、超
臨界状態又は亜臨界状態の流体中で反応させるエチレン−ビニルアルコール共重合体の製
造方法である。
本発明2は、エチレン−ビニルアルコール共重合体と、カルボニル基含有化合物とを混合
し、超臨界状態又は亜臨界状態の流体中で反応させる変性エチレン−ビニルアルコール共
重合体の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明1のエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法では、エチレン−酢酸ビニル
共重合体と、水及び/又はアルコールとを混合し、超臨界状態又は亜臨界状態の流体中で
反応させる。
本発明者らは、鋭意検討の結果、驚くべきことに超臨界状態又は亜臨界状態の流体中で反
応させた場合には、無溶媒系又は無溶媒系に近い条件下であっても極めて高い効率でエチ
レン−酢酸ビニル共重合体の加水分解又はアルコシド分解が起こり、エチレン−ビニルア
ルコール共重合体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
上記原料となるエチレン−酢酸ビニル共重合体としては特に限定されないが、エチレン含
量が10モル%以上であるエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いた場合には、従来の方法
では得ることが困難であったエチレン含量が10モル%以上であるエチレン−ビニルアル
コール共重合体を容易に得ることができる。更に、エチレン含量が50モル%以上である
エチレン−酢酸ビニル共重合体を用いた場合には、従来の方法では得ることが不可能であ
ったエチレン含量が50モル%以上であるエチレン−ビニルアルコール共重合体を得るこ
ともできる。
【0012】
上記アルコールとしては特に限定されないが、アルコリシスを行う目的であれば1級アル
コールが好適に用いられる。また、反応後の除去を容易にするためには炭素数が1〜9で
あるアルコールが好適である。炭素数が9を超えると、沸点が高くなり、通常の方法では
除去が困難になる。また、2−プロパノール等の2級アルコールやイソプロパノール等の
3級アルコールは分散安定剤としての役割も果たし得ることから、水や1級アルコールと
併用してもよい。
上記水及びアルコールは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
上記エチレン−酢酸ビニル共重合体と水及び/又はアルコールとの混合比としては特に限
定されないが、エチレン−酢酸ビニル共重合体100重量部に対する水及び/又はアルコ
ールの混合量の好ましい下限は5重量部である。5重量部未満であると、加水分解又はア
ルコキシド分解の効率が悪くなることがある。より好ましい下限は10重量部である。上
限については特に限定されないが、過大であると後述する超臨界押出機を用いる場合には
攪拌効率が低下するおそれがあることから、好ましい上限は500重量部、より好ましい
上限は300重量部である。
【0014】
本発明1のエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法では、得られたエチレン−酢
酸ビニル共重合体と水及び/又はアルコールとの混合物を、超臨界状態又は亜臨界状態の
流体中で反応させる。
本明細書において、超臨界流体とは、臨界圧力(以下、Pcともいう)以上、かつ臨界温
度(以下、Tcともいう)以上の条件の流体を意味する。また、亜臨界流体とは、超臨界
状態以外の状態であって、反応時の圧力、温度をそれぞれP、Tとしたときに、0.5<
P/Pc<1.0かつ0.5<T/Tc、又は、0.5<P/Pcかつ0.5<T/Tc
<1.0の条件の流体を意味する。上記亜臨界流体の好ましい圧力、温度の範囲は、0.
6<P/Pc<1.0かつ0.6<T/Tc、又は、0.6<P/Pcかつ0.6<T/
Tc<1.0である。ただし、流体が水である場合には、亜臨界流体となる温度、圧力の
範囲は、0.5<P/Pc<1.0かつ0.5<T/Tc、又は、0.5<P/Pcかつ
0.5<T/Tc<1.0である。なお、ここで温度は摂氏を表すが、Tc又はTのいず
れかが摂氏ではマイナスである場合には、上記亜臨界状態を表す式はこの限りではない。
【0015】
上記流体としては特に限定されないが、水やアルコール等の有機媒体等の常温常圧で液体
であるものであってもよいし、二酸化炭素、窒素、酸素、ヘリウム、アルゴン、空気等の
常温常圧で気体であるものであってもよいし、また、これらの混合流体であってもよい。
なかでも、二酸化炭素は、比較的容易に超臨界状態又は亜臨界状態にできることに加え、
超臨界状態又は亜臨界状態では液体状に近く上記混合物の混練に適し、解圧することによ
り容易に気化して除去することができることから、好適である。
また、上記流体には、従来公知の酸塩基触媒を添加してもよい。
【0016】
上記反応の方法としては特に限定されず、上記混合物を入れた耐圧容器中に超臨界状態又
は亜臨界状態にある流体を流入させてもよいが、超臨界押出機を用いて押出成型を行う等
の、連続的な生産方法が好ましい。また、予め原料となるエチレン−酢酸ビニル共重合体
を水又はアルコールに膨潤させておき、通常の押出混練過程を行うことで水/又はアルコ
ールを超臨界又は亜臨界状態にすることで反応を行ってもよい。
【0017】
上記超臨界押出機は、少なくとも、混合物を混練する手段と、超臨界状態又は亜臨界状態
の流体を供給する手段と、混練した混合物を一定の形状に押し出す手段とを有するもので
ある。このような超臨界押出機を用いれば、押出成型法により上記混練物から直接エチレ
ン−ビニルアルコール共重合体の成型体(例えば、シート等)が得られる。なお、混練す
る手段と押し出す手段があれば、特に押出成型には限定されず、射出成型、ブロー成型等
の公知の成型法を用いることができる。
流体として二酸化炭素用いた場合には、成型体を大気中に押し出すことにより二酸化炭素
等は気化して、速やかに成型体の外へと排除される。また、混合物中に含まれていた水、
及び/又はアルコール、反応により生成した酢酸も押出時に大気中に放出され、成型体中
には残留しない。この放出の効率を上げるためには、混練手段の後に脱気手段を導入する
ことが好ましい。上記脱揮手段としては、例えば、混練した樹脂を一旦常圧になるように
一部を開放系にする方法や、また、真空ポンプで減圧する方法等が挙げられる。
エチレン−酢酸ビニル共重合体と、水及び/又はアルコールとの混合物を、超臨界押出機
を用いて反応させることを特徴とするエチレン−ビニルアルコール共重合体成形体の製造
方法もまた、本発明の1つである。
【0018】
本発明1のエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法によれば、従来の方法に比べ
て、エチレン成分とビニルアルコール成分との比の選択の幅が極めて広く、従来の方法で
は全く得ることができなかったエチレン含有量が50モル%以上のエチレン−ビニルアル
コール共重合体であっても容易に製造することができる。エチレン含有量が50モル%以
上のエチレン−ビニルアルコール共重合体を用いれば、酸素等に対するガスバリア性等の
従来のエチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムの優れた性質を維持したまま、吸湿
により諸性能が著しく低下してしまうという問題点が改善されたフィルムを得ることがで
きる。
エチレン含有量が50モル%以上であるエチレン−ビニルアルコール共重合体もまた、本
発明の1つである。
なお、本発明のエチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量の上限は特に限定
されないが、本発明のエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法によっても好まし
い上限は99モル%程度である。
【0019】
本発明のエチレン−ビニルアルコール共重合体は、けん化度が60モル%以上であること
が好ましい。60モル%未満であると、水酸基による結晶構造をとることができず、水酸
基の存在により発現する耐熱性能やガスバリア性が大幅に悪化する。
【0020】
本発明のエチレン−ビニルアルコール共重合体は、重合度が500以上であることが好ま
しい。500未満であると、フィルム等の成形体に加工したときに、成形体の強度が劣る
ことがある。より好ましくは1000以上である。
【0021】
本発明1のエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法によれば、エチレン含有量が
10モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体であっても、ジメチルスルホキシ
ド等を用いることなく製造することができる。このようにジメチルスルホキシド等を用い
ずに製造したエチレン−ビニルアルコール共重合体を用いれば、黄色がからない、極めて
透明性の高い成形体を得ることができる。
エチレン含量が10モル%以上であるエチレン−ビニルアルコール共重合体を用いてなる
エチレン−ビニルアルコール共重合体成形体であって、厚さ300μmにおいてJIS
K 7103に準拠する方法により測定した黄色度が2以下であるエチレン−ビニルアル
コール共重合体成形体もまた、本発明の1つである。
【0022】
本発明のエチレン−ビニルアルコール共重合体成形体は、極めて透明度が高く、黄変等し
にくいものである。従って、本発明のエチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムは光
学用途にも好適に用いることができる。
【0023】
本発明のエチレン−ビニルアルコール共重合体成形体は、厚さ300μmにおいて、JI
S K 7103に準拠する方法により測定した黄色度が2以下である。2を超えると、
光学用途には用いることができない。
また、本発明のエチレン−ビニルアルコール共重合体成形体は、厚さ300μmにおいて
、JIS K 7105に準拠する方法により測定したヘイズ値が2以下であることが好
ましい。2を超えると、光学用途には用いることができないことがある。
なお、上記黄色度やヘイズ値を測定する際には、実際に厚さが300μmのサンプルを作
製して直接測定することが好ましい。厚さ300μm以下のサンプルについて測定を行い
、その結果を外挿することによっても黄変度やヘイズ値を求めることはできるが、測定限
界等の問題から、このように外挿により求められた黄色度やヘイズ値は正確なものである
とはいえないことがある。
【0024】
本発明2の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法では、エチレン−ビニル
アルコール共重合体と、カルボニル基含有化合物とを混合し、超臨界状態又は亜臨界状態
の流体中で反応させる。
本発明者らは、鋭意検討の結果、驚くべきことに超臨界状態又は亜臨界状態の流体中で反
応させた場合には、無溶媒系又は無溶媒系に近い条件下であっても従来の方法では達成で
きなかったほどの極めて高い効率でエチレン−酢酸ビニル共重合体をアセタール化、ケタ
ール化又はエステル化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0025】
上記原料となるエチレン−ビニルアルコール共重合体としては特に限定されないが、本発
明2の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法は無溶媒系であることから、
本発明1のエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法により得られたエチレン含量
が10モル%以上であるエチレン−ビニルアルコール共重合体を原料として用いることが
でき、従来の方法では得ることができなかったエチレン含量が50モル%以上である変性
エチレン−ビニルアルコール共重合体を容易に得ることができる。
【0026】
上記カルボニル基含有化合物としては特に限定されないが、例えば、アルデヒド、ケトン
、カルボン酸及びカルボン酸誘導体からなる群より選択される少なくとも1種が好適であ
る。
上記アルデヒドとしては特に限定されず、直鎖、分岐、環状、芳香族のいずれの態様であ
ってもかまわない。直鎖アルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデ
ヒド、プロピレンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、グルタルアル
デヒド、パラホルムアルデヒド、フタル酸ジカルボキシアルデヒド、サリチルアルデヒド
、ヒドロキシベンズアルデヒド、イソ吉草酸アルデヒド、吉草酸アルデヒド、フェニルア
セトアルデヒド等が挙げられる。
上記ケトンとしては特に限定されず、直鎖、分岐、環状、芳香族のいずれの態様であって
もかまわない。具体的には例えば、アセトン、エチルメチルケトン、メチルプロピルケト
ン、イソプロピルメチルケトン、アセトフェノン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン
、シクロブタノン等が挙げられる。
上記カルボン酸としては特に限定されず、直鎖、分岐、環状、芳香族いずれの態様であっ
てもかまわない。具体的には例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、イソ吉
草酸、サリチル酸、オレイン酸、リノール酸、アクリル酸、メタクリル酸、安息香酸等が
挙げられる。
上記カルボン酸誘導体としては特に限定されず、例えば、上記カルボン酸のエステル化物
、ハロゲン化物等が挙げられる。
【0027】
本発明2の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法における、上記エチレン
−ビニルアルコール共重合体とカルボニル基含有化合物との混合比としては特に限定され
ないが、エチレン−ビニルアルコール共重合体が有する水酸基量に対するカルボニル基含
有化合物の混合量の好ましい上限は20等量である。20等量を超えると、生成物からカ
ルボニル基含有化合物を除去することが困難となることがあり、また、超臨界押出機を用
いて混練する際に混合効率が低下することがある。下限については特に限定されず、目的
とするアセタール化度等により適宜決定すればよい。
なお、上記等量とは、エチレン−ビニルアルコール共重合体中の水酸基モル数と求めるア
セタール化に必要なモル数の比を意味する。
【0028】
本発明2の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法では、エチレン−ビニル
アルコール共重合体とカルボニル基含有化合物との混合物を、超臨界状態又は亜臨界状態
の流体中で反応させる。
上記超臨界状態又は亜臨界状態の流体としては、本発明1で用いたものと同様のものを用
いることができる。
【0029】
上記反応の方法としては特に限定されず、上記混合物を入れた耐圧容器中に超臨界状態又
は亜臨界状態にある流体を流入させてもよいが、超臨界押出機を用いて押出成型する等、
連続的に生産する方法が好ましい。また、予めエチレン−ビニルアルコール共重合体を水
及び/又はアルコールに膨潤させておき、通常の押出混練過程を行うことで水及び/又は
アルコールを超臨界又は亜臨界状態にすることで反応を行ってもよい。更に、上記カルボ
ニル基含有化合物をエチレン−ビニルアルコール共重合体と混練することで超臨界又は亜
臨界状態にして直接反応を行ってもよい。この場合、脱水のため、又は、触媒として、水
/及び又はアルコールを添加してもよい。
【0030】
上記超臨界押出機は、少なくとも、混合物を混練する手段と、超臨界状態又は亜臨界状態
の流体を供給する手段と、混練した混合物を一定の形状に押し出す手段とを有するもので
ある。このような超臨界押出機を用いれば、押出成型法により上記混練物からアセタール
化及び/又はケタール化及び/又はエステル化された変性エチレン−ビニルアルコール共
重合体の成型体(例えば、シート等)が得られる。混練する手段と押し出す手段があれば
、特に押出成型に限定されず、射出成型、ブロー成型等公知の成型法を用いることもでき
る。
更に、流体として二酸化炭素用いた場合には、成型体を大気中に押し出すことにより二酸
化炭素等は気化して、速やかに成型体の外へと排除される。また、混合物中に含まれてい
た水及び/又はアルコール、反応により生成した酢酸や酢酸エステル等も押出時に大気中
に放出され、成型体中には残留しない。この放出の効率を上げるためには、混練手段の後
に脱気手段を導入することが好ましい。上記脱気手段としては、例えば、混練した樹脂を
一旦常圧になるように一部を開放系にする方法や、真空ポンプで減圧する方法等が挙げら
れる。また、アセタール化のような脱水反応を行う場合には、平衡反応を生成物の方向へ
傾けるためにも脱気手段は有効である。
エチレン−ビニルアルコール共重合体と、カルボニル基含有化合物との混合物を、超臨界
押出機を用いて反応させる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体成形体の製造方法も
また、本発明の1つである。
【0031】
本発明2の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法によれば、従来の方法で
は達成することが困難であった、アセタール化度及び/又はケタール化度及び/又はエス
テル化度の合計が10モル%以上である変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を容易
に得ることができる。
なお、本明細書において、得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のアセター
ル基又はケタール基は、原料となるエチレン−ビニルアルコール共重合体の2つの水酸基
をアセタール化又はケタール化して形成されていることから、アセタール化又はケタール
化された2つの水酸基を数える方法によりアセタール化度又はケタール化度を算出してい
る。
【0032】
更に、原料として本発明1のエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法で得られた
エチレン−ビニルアルコール共重合体を用いるようにすれば、エチレン−酢酸ビニル共重
合体から、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造までを一括して行うことがで
きる。
【0033】
本発明2で得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を用いれば、エチレン−ビ
ニルアルコール共重合体シートの優れたガスバリア性を維持したまま、耐水性が付与され
たシート等を得ることができる。また、本発明2で得られた変性エチレン−ビニルアルコ
ール共重合体は、反応性に優れることから、更に化学的に変性させて種々の性質を付与す
るたの原料としても好適である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、高エチレン含量のエチレン−ビニルアルコール共重合体であっても容易
に製造可能なエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法、該エチレン−ビニルアル
コール共重合体の製造方法により得られたエチレン−ビニルアルコール共重合体、及び、
高エチレン含量のエチレン−ビニルアルコール共重合体であっても容易に、かつ、高い効
率でアセタール化、ケタール化又はエステル化できる変性エチレン−ビニルアルコール共
重合体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
(実施例1)
エチレン含量が81モル%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体(エバフレックスEV4
60;三井・デュポンポリケミカル社製)100重量部と、蒸留水200重量部とを超臨
界押出機に仕込み、200℃、15MPaの二酸化炭素を送り込みながら混練した後、厚
さ300μmのシート状にして大気中に押し出した。得られたシートを構成するエチレン
−ビニルアルコールの共重合体について、1H−NMR法により分析を行ったところ、ほ
ぼすべての酢酸ビニル成分が加水分解されており、また、エチレン含量は原料と同様の8
1モル%であった。
【0036】
(実施例2)
エチレン含量が81モル%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体(エバフレックスEV4
60;三井・デュポンポリケミカル社製)100重量部と、蒸留水10重量部とを超臨界
押出機に仕込み、200℃、15MPaの二酸化炭素を送り込みながら混練した後、厚さ
300μmのシート状にして大気中に押し出した。得られたシートを構成するエチレン−
ビニルアルコールの共重合体について、1H−NMR法により分析を行ったところ、ほぼ
すべての酢酸ビニル成分が加水分解されており、また、エチレン含量は原料と同様の81
モル%であった。
【0037】
(実施例3)
エチレン含量が81モル%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体(エバフレックスEV4
60;三井・デュポンポリケミカル社製)100重量部と、蒸留水10重量部とを超臨界
押出機に仕込み、200℃、8MPaの二酸化炭素を送り込みながら混練した後、厚さ3
00μmのシート状にして大気中に押し出した。得られたシートを構成するエチレン−ビ
ニルアルコールの共重合体について、1H−NMR法により分析を行ったところ、ほぼす
べての酢酸ビニル成分が加水分解されており、また、エチレン含量は原料と同様の81モ
ル%であった。
【0038】
(実施例4)
エチレン含量が81モル%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体(エバフレックスEV4
60;三井・デュポンポリケミカル社製)100重量部と、エチルアルコール10重量部
とを超臨界押出機に仕込み、200℃、15MPaの二酸化炭素を送り込みながら混練し
た後、厚さ300μmのシート状にして大気中に押し出した。得られたシートを構成する
エチレン−ビニルアルコールの共重合体について、1H−NMR法により分析を行ったと
ころ、ほぼすべての酢酸ビニル成分が加水分解されており、また、エチレン含量は原料と
同様の81モル%であった。
【0039】
(実施例5)
エチレン含量が81モル%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体(エバフレックスEV4
60;三井・デュポンポリケミカル社製)100重量部と、50重量%エチルアルコール
水溶液10重量部とを超臨界押出機に仕込み、200℃、15MPaの二酸化炭素を送り
込みながら混練した後、厚さ300μmのシート状にして大気中に押し出した。得られた
シートを構成するエチレン−ビニルアルコールの共重合体について、1H−NMR法によ
り分析を行ったところ、ほぼすべての酢酸ビニル成分が加水分解されており、また、エチ
レン含量は原料と同様の81モル%であった。
【0040】
(実施例6)
実施例1で得られたエチレン−ビニルアルコール共重合体シートを粉砕して得た粉状体1
00重量部とブチルアルデヒド50重量部とを超臨界押出機に仕込み、200℃、15M
Paの二酸化炭素を送り込みながら混練した後、厚さ300μmのシート状にして大気中
に押し出した。
得られたシートを構成する変性エチレン−ビニルアルコール共重合体について1H−NM
R法により分析を行ったところ、ブチラール化度は15モル%、また、エチレン含量は原
料と同様の81モル%であった。
【0041】
(実施例7)
実施例1で得られたエチレン−ビニルアルコール共重合体シートを粉砕して得た粉状体1
00重量部とオルトフタル酸10重量部とを超臨界押出機に仕込み、200℃、15MP
aの二酸化炭素を送り込みながら混練した後、厚さ300μmのシート状にして大気中に
押し出した。
得られたシートを構成する変性エチレン−ビニルアルコール共重合体について1H−NM
R法により分析を行ったところ、エステル化度は15モル%、また、エチレン含量は原料
と同様の81モル%であった。
【0042】
(実施例8)
エチレン含量が81モル%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体(エバフレックス460
、三井デュポン社製)を、250℃、9MPaの1重量%水酸化ナトリウムのメタノール
溶液を送り込みながら混練した後、厚さ300μmのシート状にして大気中に押し出した

得られたシートを構成する変性エチレンービニルアルコール共重合体について1H−NM
R法により分析を行ったところ、100%の酢酸ビニル成分が加水分解されており、けん
化度は100モル%であった。また、エチレン含量は原料と同様の81モル%であった。
【0043】
(比較例1)
市販のエチレン含量が32モル%であるエチレンービニルアルコール共重合体(F101
A、クラレ社製)を用いて、押出機にて厚さ300μmのフィルム状に押出した。
【0044】
(比較例2)
エチレン含量が81モル%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体(エバフレックス460
、三井デュポン社製)100重量部、ジメチルスルホキシド1000重量部及び10重量
%水酸化ナトリウム水溶液10重量部を混合して加水分解反応を行った。処理後の樹脂を
厚さ300μmのフィルム状にして大気中に押し出した。得られた樹脂に対してH−N
MR法により分析を行ったところ、酢酸ビニル成分は全く加水分解されておらず、けん化
度は0モル%であった。
【0045】
(評価)
実施例1〜8及び比較例1、2で作製したフィルムについて、以下の方法により評価を行
った。
結果を表1に示した。
【0046】
(1)全光線透過率及びヘイズ値の測定
ヘイズメーター(東京電色社製、TC−HIIIDKP)を用い、JIS K 7105
に準じてヘイズ値と全光線透過率を求めた。
【0047】
(2)黄色度の測定
色差計(Automatic Color Analyzer;東京電色社製)を用いて
、厚さ300μmのフィルム状の試料に対してC/2の光源を用いて2℃視野での黄色度
を測定した。
【0048】
(3)耐溶剤性の評価
得られたフィルムを、25℃及び65℃の条件でテトラヒドロフラン(THF)、ジメチ
ルスルホキシド(DMSO)、トルエン、及び、水−イソプロピルアルコール(IPA)
混合溶液に浸漬し、溶解しなかった場合を〇、溶解した場合を×として評価した。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、高エチレン含量のエチレン−ビニルアルコール共重合体であっても容易
に製造可能なエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法、該エチレン−ビニルアル
コール共重合体の製造方法により得られたエチレン−ビニルアルコール共重合体、及び、
高エチレン含量のエチレン−ビニルアルコール共重合体であっても容易に、かつ、高い効
率でアセタール化、ケタール化又はエステル化できる変性エチレン−ビニルアルコール共
重合体の製造方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−酢酸ビニル共重合体と、水及び/又はアルコールとを混合し、超臨界状態又は
亜臨界状態の流体中で反応させることを特徴とするエチレン−ビニルアルコール共重合体
の製造方法。
【請求項2】
エチレン−酢酸ビニル共重合体100重量部に対して、水及び/又はアルコールを5重量
部以上混合することを特徴とする請求項1記載のエチレン−ビニルアルコール共重合体の
製造方法。
【請求項3】
エチレン−酢酸ビニル共重合体は、エチレン含量が10モル%以上であることを特徴とす
る請求項1又は2記載のエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法。
【請求項4】
エチレン−酢酸ビニル共重合体と、水及び/又はアルコールとの混合物を、超臨界押出機
を用いて反応させることを特徴とするエチレン−ビニルアルコール共重合体成形体の製造
方法。
【請求項5】
エチレン含有量が50モル%以上であることを特徴とするエチレン−ビニルアルコール共
重合体。
【請求項6】
重合度が500以上であることを特徴とする請求項5記載のエチレン−ビニルアルコール
共重合体。
【請求項7】
エチレン含量が10モル%以上であるエチレン−ビニルアルコール共重合体を用いてなる
エチレン−ビニルアルコール共重合体成形体であって、厚さ300μmにおいてJIS
K 7103に準拠する方法により測定した黄色度が2以下であることを特徴とするエチ
レン−ビニルアルコール共重合体成形体。
【請求項8】
厚さ300μmにおいて、JIS K 7105に準拠する方法により測定したヘイズ値
が2以下であることを特徴とする請求項7記載のエチレン−ビニルアルコール共重合体成
形体。
【請求項9】
エチレン−ビニルアルコール共重合体と、カルボニル基含有化合物とを混合し、超臨界状
態又は亜臨界状態の流体中で反応させることを特徴とする変性エチレン−ビニルアルコー
ル共重合体の製造方法。
【請求項10】
カルボニル含有化合物は、アルデヒド、ケトン、カルボン酸及びカルボン酸誘導体からな
る群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項9記載の変性エチレン
−ビニルアルコール共重合体の製造方法。
【請求項11】
エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン含量が10モル%以上であることを特
徴とする請求項9又は10記載の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法。
【請求項12】
エチレン−ビニルアルコール共重合体と、カルボニル基含有化合物との混合物を、超臨界
押出機を用いて反応させることを特徴とする変性エチレン−ビニルアルコール共重合体成
形体の製造方法。

【公開番号】特開2006−28459(P2006−28459A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213478(P2004−213478)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】