説明

エチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物、該組成物からなるフィルム、該フィルムを備える包装材、及び、該組成物の製造方法

【課題】ヒートシール性に優れるエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物、該組成物からなるフィルム、該フィルムを備える包装材、及び、該組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】エチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物は、85.5質量%以上91.5質量%以下のエチレン−ビニルアルコール共重合体と、8.5質量%以上14.5質量%以下のエチレン−エチルアクリレート共重合体との混合物からなり、JIS Z0238に規定される袋のヒートシール強度が450gf/15mm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物、該組成物からなるフィルム、該フィルムを備える包装材、及び、該組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン−ビニルアルコール共重合体は、例えば、包装用フィルムの材料として用いられている(例えば特許文献1参照)。エチレン−ビニルアルコール共重合体は、透明性及びガスバリア性、特に酸素に対するガスバリア性において優れており、被包装物の酸化劣化等の防止に有効である。具体的には、エチレン−ビニルアルコール共重合体は、包装材の中間層に用いられ、中間層の両面には、例えば低密度ポリエチレン等の熱可塑性樹脂層が設けられる。
【0003】
低密度ポリエチレンからなる熱可塑性樹脂層同士をヒートシールした場合、エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる層同士をヒートシールする場合に比べて、低温でヒートシールが可能であるのみならず、優れたヒートシール強度が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−155677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、低密度ポリエチレン等のオレフィン系樹脂には、リモネンやメントールなどの香気成分が吸着し易いという特性がある。この特性のため、被包装物を直接囲む熱可塑性樹脂層にオレフィン系樹脂を用いた場合、被包装物の香気成分がオレフィン系樹脂に吸収されてしまい、被包装物の品質が低下する虞がある。
【0006】
ここで、オレフィン系樹脂とは異なり、エチレン−ビニルアルコール共重合体には、リモネンやメントール等のテルペンや、炭化水素系や、エチルブチレートやエチルカプレート等のエステル系の香気成分が吸着し難い。エチレン−ビニルアルコール共重合体を主成分とするフィルムにおいて、香気成分の非吸着性を維持しながらヒートシール性を高め、当該フィルムで被包装物を直接包むことができれば、被包装物の品質の低下を防止することが可能になる。
【0007】
また、エチレン−ビニルアルコール共重合体を主成分とするフィルムにおいてヒートシール性を高めることに成功すれば、エチレン−ビニルアルコール共重合体の層と熱可塑性樹脂層とを重ね合わせる必要がなくなり、層間剥離の虞も無くなる。このため、エチレン−ビニルアルコール共重合体を使用し易くなり、用途の拡大も可能になる。
【0008】
本発明は上述した事情に基づいてなされ、その目的とするところは、ヒートシール性に優れるエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物、該組成物からなるフィルム、該フィルムを備える包装材、及び、該組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明の一態様によれば、85.5質量%以上91.5質量%以下のエチレン−ビニルアルコール共重合体と、8.5質量%以上14.5質量%以下のエチレン−エチルアクリレート共重合体との混合物からなり、JIS Z0238に規定される袋のヒートシール強度が450gf/15mm以上であることを特徴とするエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物が提供される(請求項1)。
【0010】
請求項1のエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物は、所定濃度のエチレン−ビニルアルコール共重合体とエチレン−エチルアクリレート共重合体との混合物をポリマーアロイ化したものである。このエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物は、450gf/15mm以上のヒートシール強度を有し、エチレン−ビニルアルコール共重合体のみからなる樹脂に比べてヒートシール性に優れる。
【0011】
好ましくは、前記エチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物は、100mm×100mm×0.04mmのフィルムに成形し、温度40℃で発生させたメントール蒸気に1週間曝露したときのメントールの吸着量が、1.0mg以下である(請求項2)。
【0012】
請求項2のエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物にあっては、所定の試験条件下にて、メントールの吸着量が、100cm当たり1週間で1.0mg以下であり、ヒートシールに一般的に供されるオレフィン系樹脂に比べて少ない。このため、このエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物をリモネンやメントール等のテルペンや、炭化水素系の香気成分を有する被包装物に適用したときに、被包装物の品質低下が抑制される。
【0013】
好ましくは、ポリエチレンテレフタレートの層と協働してアルミニウム層を挟む、積層フィルムの表面に位置する120mm×220mm×0.04mmのヒートシール層にエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物を成形し、2枚の前記積層フィルムを前記ヒートシール層同士を合わせるように重ねた状態で三方をシール幅10mmにてヒートシールして三方シール袋を作製し、前記三方シール袋に、メントール、リモネン、サリチル酸メチル、カンファー、及び、トコフェロールからなる薬効成分の群から選択された1種を質量濃度10%にて含むメチルエチルケトン溶液を注液してから、前記三方シール袋の開口をシール幅10mmにてヒートシールして密封袋を作製し、そして、前記密封袋を温度40℃に1週間置いたとき、ヒートシールされた部分を除く前記ヒートシール層1つあたりの前記薬効成分の吸着量が1.0mg以下である(請求項3)。
【0014】
請求項3のエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物にあっては、所定の試験条件下にて、メントール、リモネン、サリチル酸メチル、カンファー、及び、トコフェロールの各々の吸着量が、200cm当たり1週間で0.1mg以下であり、ヒートシールに一般的に供されるオレフィン系樹脂に比べて少ない。このため、このエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物をこれらの薬効成分を有する被包装物に適用したときに、被包装物の品質低下が抑制される。
【0015】
好ましくは、前記エチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物は、比エネルギーが0.8MJ/kg以上となるように二軸押出機で前記混合物を混練して得られる(請求項4)。
請求項4のエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物は、比エネルギーが0.4MJ/kg以上となるように二軸押出機で混合物を混練することで、450gf/15mm以上のヒートシール強度を確実に有する。
【0016】
本発明の他の態様によれば請求項1乃至4の何れか一項に記載のエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物からなるフィルムが提供される(請求項5)。
【0017】
請求項5のフィルムは、450gf/15mm以上のヒートシール強度を有するエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物からなり、ヒートシール性に優れ、包装材に適する。
【0018】
本発明の更に他の態様によれば、請求項5に記載のフィルムを備えることを特徴とする包装材が提供される(請求項6)。
請求項6の包装材は、450gf/15mmのヒートシール強度を有するエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物からなるフィルムを備え、ヒートシール性に優れている。
【0019】
好ましくは、包装材は、メントール、リモネン、サリチル酸メチル、カンファー、及び、トコフェロールからなる薬効成分の群のうちから選択された何れか1種以上を含む物品の包装に用いられる(請求項7)。
請求項7の包装材には、ヒートシールに一般的に供されるオレフィン系樹脂に比べて、これらの薬効成分が吸着し難い。このため、この包装材をこれらの薬効成分を有する物品被包装物に適用したときに、被包装物の品質低下が抑制される。
【0020】
本発明の他の態様によれば、85.5質量%以上91.5質量%以下のエチレン−ビニルアルコール共重合体と、8.5質量%以上14.5質量%以下のエチレン−エチルアクリレート共重合体との混合物を、比エネルギーが0.4MJ/kg以上となるように二軸押出機で混練する工程を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物の製造方法が提供される(請求項8)。
【0021】
請求項8のエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物の製造方法によれば、請求項1乃至3に記載のエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物が確実に製造される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ヒートシール性に優れるエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物、該組成物からなるフィルム、該フィルムを備える包装材、及び、該組成物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】JIS Z0238:1998に規定される袋のヒートシール強度試験に用いられる試験片の形状を概略的に示す斜視図である。
【図2】エチレン−ビニルアルコール共重合体とエチレン−エチルアクリレート共重合体の混合物における、エチレン−エチルアクリレート共重合体の配合比とヒートシール強度の関係を示すグラフである。
【図3】エチレン−ビニルアルコール共重合体とエチレン−エチルアクリレート共重合体の混合物における、混練時の比エネルギーとヒートシール強度の関係を示すグラフである。
【図4】エチレン−ビニルアルコール共重合体とエチレン−エチルアクリレート共重合体の混合物における、エチレン−エチルアクリレート共重合体の配合比とメントール吸着量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態のエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物(以下、EVOH系ポリマーアロイ組成物ともいう)について説明する。
EVOH系ポリマーアロイ組成物は、85.5質量%以上91.5質量%以下のエチレン−ビニルアルコール共重合体と、8.5質量%以上14.5質量%以下のエチレン−エチルアクリレート共重合体とを含む混合物である。
【0025】
EVOH系ポリマーアロイ組成物は、好ましくは、86質量%以上91質量%以下のエチレン−ビニルアルコール共重合体と9質量%以上14%質量%以下のエチレン−エチルアクリレート共重合体とを含み、より好ましくは、88質量%以上90.7質量%以下のエチレン−ビニルアルコール共重合体と、9.3質量%以上12%質量%以下のエチレン−エチルアクリレート共重合体とを含む。
【0026】
ただし、EVOH系ポリマーアロイ組成物は、JIS Z0238:1998の項目7に規定される袋のヒートシール強さ(ヒートシール強度)が、450gf/15mm以上になるように前記組成の混合物を溶融混合して得られる。つまり、EVOH系ポリマーアロイ組成物は、エチレン−ビニルアルコール共重合体とエチレン−エチルアクリレート共重合体の単なる混合物ではなく、新規な物性を示すエチレン−ビニルアルコール系樹脂組成物である。
【0027】
そして、好ましくは、所定のメントール吸着量試験方法による、EVOH系ポリマーアロイ組成物のメントール吸着量が1.0mg以下であり、より好ましくは0.1mg以下である。
メントール吸着量試験方法は以下の通りである。
まず、EVOH系ポリマーアロイ組成物を100mm×100mm×0.04mmのシートに成形する。そして、成形したシートを1000mgのメントールとともに、直径150mmで高さ15mmのプラスチック製のシャーレに入れて封し、封したシャーレを温度40℃の恒温槽に1週間入れておく。
【0028】
かくして、メントールの蒸気に1週間暴露した後、シャーレからシートを取り出し、シートの表面をアセトンで洗浄してから、溶媒としてアセトンを用いて、シートを4時間のソックスレー抽出にかける。この後、得られた抽出液をガスクロマトグラフィーにかけて、メントールの量を定量し、定量結果をメントール吸着量とする。
なお、メントール吸着量は、3枚以上のシートの定量結果の算術平均値として求められる。
【0029】
また、好ましくは、所定の薬効成分吸着量試験方法による、EVOH系ポリマーアロイ組成物の薬効成分の吸着量が1.0mgであり、より好ましくは0.1mg以下である。薬効成分は、メントール、リモネン、サリチル酸メチル、カンファー、及び、トコフェロールからなる群から選択される1種以上である。
薬効成分吸着量試験方法は以下の通りである。
(1)PET(ポリエチレンテレフタレート:12μm)/Al(アルミニウム:9μm)/EVOH系ポリマーアロイ組成物のフィルム(40μm)の積層フィルムをドライラミネートで作製する。
(2)(1)の積層フィルムから、それぞれ120mm×220mmの寸法の複数のシートを切り出し、2枚のシートをEVOH系ポリマーアロイ組成物のフィルムが内側になるようにして重ね合わせ、シール幅10mmにて三方をヒートシールし、三方シール袋を作製する。
【0030】
(3)薬効成分の質量濃度が10%のMEK(メチルエチルケトン)溶液を作製し、(2)の三方シール袋にこのMEK溶液を20ml充填する。それから、三方シール袋の開口をシール幅10mmにてヒートシールして密封する。
(4)(3)の密封された袋を40℃の恒温槽内で1週間保存する。
【0031】
(5)1週間後、MEK溶液を廃棄してから袋を2枚の積層フィルムに分離し、各積層フィルムのEVOH系ポリマーアロイ組成物のフィルムの表面をMEKにて洗浄した後、各積層フィルムをMEKを溶媒としてソックスレー抽出に4時間かけて、薬効成分を抽出する。
(6)(5)で得られた抽出液をガスクロマトグラフィー分析し、ヒートシール部分を除くEVOH系ポリマーアロイ組成物のフィルム1つあたりの薬効成分の吸着量を定量する。
【0032】
エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン−ビニルアルコール共重合体の総物質量を1としたとき、モル分率にて、0.38以下のエチレン成分を含むのが好ましく、換言すれば、0.62以上のビニルアルコール成分を含む。エチレン−ビニルアルコール共重合体におけるエチレン成分のモル分率が0.38以下の場合、上記メントール吸着量試験方法EVOH系ポリマーアロイ組成物のメントール吸着量が1.0mg以下になる。
【0033】
一方、エチレン−エチルアクリレート共重合体は、エチレン−エチルアクリレート(エチレン−アクリル酸エチル)共重合体の総物質量を1としたとき、モル分率にて、0.97以下のエチレン成分を含むのが好ましく、換言すれば、0.03以上のエチルアクリレート成分を含むのが好ましい。
【0034】
以下、上述したEVOH系ポリマーアロイ組成物の製造方法について説明する。EVOH系ポリマーアロイ組成物は新規な組成物であり、以下のリアクティブプロセッシング法によって製造することができる。
原料としてのエチレン−ビニルアルコール共重合体とエチレン−エチルアクリレート共重合体は、所定の濃度となるように、溶融混合される。溶融混合には、好ましくは、二軸押出機が用いられる。溶融混合により得られたポリマーアロイは、例えばTダイ成形法やインフレーション成形法等を用いてフィルム状に成形され、これにより、EVOH系ポリマーアロイ組成物からなるフィルムが得られる。
【0035】
溶融混合時には、混合物をポリマーアロイ化するために、高い剪断力が加えられる。好ましくは、比エネルギーが0.4MJ/kg(=0.4×10J/kg)以上、より好ましくは0.8MJ/kg以上になるように、混合物が溶融混合させられる。
比エネルギーは、二軸押出機の場合、二軸押出機のスクリューを駆動するモータで消費されるエネルギーXを当該エネルギーXで溶融混合される混合物の質量Yで割って得られる値(X/Y)である。なお、エネルギーXは、モータの消費電力に力率及び溶融混合時間を掛けて得られる値である。
【0036】
ここで、溶融混合物に対して高い剪断力を確実に加えるために、二軸押出機のスクリューとしては、高剪断タイプが用いられる。具体的には、スクリューとして、フライトスクリュー、パイナップルスクリュー、及び、ニーディングディスクを適当に組み合わせたものが用いられる。
【0037】
なお、二軸押出機のL(軸長)/D(軸径)は、例えば15以上である。また、スクリューの回転速度は、例えば10rpm以上2000rpm以下であり、溶融混合時の混合物の温度は、例えば190℃以上250℃以下であり、混練時間は、例えば1分以上30分以下である。
【0038】
上述したEVOH系ポリマーアロイ組成物は、例えば、フィルム状に成形して、ヒートシール性を有する包装材として用いることができる。あるいは、上述したEVOH系ポリマーアロイ組成物は、例えば、半剛性の容器形状に成形して、ヒートシール性を有する包装材として用いることができる。
そして、上述したEVOH系ポリマーアロイ組成物からなる包装材は、好ましくは、リモネン及びメントール等のテルペンや、炭化水素系や、エチルブチレート及びエチルカプレート等のエステル系の香気成分のうち少なくとも1種以上を含む被包装物の包装に用いられる。
【0039】
また、上述したEVOH系ポリマーアロイ組成物からなる包装材は、好ましくは、メントール、リモネン、サリチル酸メチル、カンファー、及び、トコフェロール等の薬効成分のうち少なくとも1種以上を含む被包装物の包装に用いられる。
更に、この包装材は、単独で用いる場合、液体以外の固体若しくは気体の被包装物に適し、例えば、食品、医薬品、化粧品、電気製品及び電子部品等の包装に適する。
【0040】
また、上述したEVOH系ポリマーアロイ組成物のフィルムに更に、アルミニウムや他の樹脂からなる別の層を設けて、積層体からなる包装材として用いてもよい。この場合、成形されたフィルムに後から別の層を貼り付けてもよく、また、共押出により一体の積層体を製造してもよい。
【0041】
上述した一実施形態のEVOH系ポリマーアロイ組成物は、所定濃度のエチレン−ビニルアルコール共重合体とエチレン−エチルアクリレート共重合体との混合物をポリマーアロイ化したものである。このEVOH系ポリマーアロイ組成物は、450gf/15mm以上のヒートシール強度を有し、エチレン−ビニルアルコール共重合体のみからなる樹脂に比べてヒートシール性に優れる。
【0042】
また、上述した一実施形態のEVOH系ポリマーアロイ組成物にあっては、上記メントール吸着量試験方法にて、メントールの吸着量が、100cm当たり1週間で1.0mg以下であり、ヒートシールに一般的に供されるオレフィン系樹脂に比べて少ない。このため、このEVOH系ポリマーアロイ組成物をリモネンやメントール等のテルペンや、炭化水素系の香気成分を有する被包装物に適用したときに、被包装物の品質低下が抑制される。
【0043】
更に、上述した一実施形態のEVOH系ポリマーアロイ組成物は、比エネルギーが0.8MJ/kg以上となるように二軸押出機で混合物を混練することで、450gf/15mm以上のヒートシール強度を確実に有する。
【0044】
一方、上述した一実施形態のEVOH系ポリマーアロイ組成物からなるフィルムは、450gf/15mm以上のヒートシール強度を有し、ヒートシール性に優れ、包装材に適する。
以下、EVOH系ポリマーアロイ組成物の実施例について説明する。
【実施例】
【0045】
1.フィルムの作製
原料として、エチレン−ビニルアルコール共重合体(株式会社クラレ製、エバール(登録商標)F104B)とエチレン−エチルアクリレート共重合体(日本ポリエチレン株式会社製、レクスパール(登録商標)A4250)とを用意した。エチレン−ビニルアルコール共重合体におけるエチレンのモル分率は0.32である。
これらの原料を表1及び表2に示した組成になるようにそれぞれ配合した。なお、表1及び表2では、エチレン−ビニルアルコール共重合体をEVOHと、エチレン−エチルアクリレート共重合体をEEAとそれぞれ表示した。
【0046】
総質量で1kgの配合物を二軸押出機(株式会社東洋精機製作所製、ラボプラストミル)で溶融混合した。そして、二軸押出機に付設されたTダイで、溶融混合物から実施例1〜7及び比較例1〜15のフィルムをそれぞれ作製した。各フィルムの厚さは0.04mmであった。
【0047】
溶融混合時の比エネルギーは表1及び表2に示した通りであり、表1では、比エネルギーが約0.1MJ/kg〜0.3MJ/kgのグループを低剪断とし、比エネルギーが約3MJ/kg〜5MJ/kgのグループを高剪断と表示した。
【0048】
二軸押出機のL/Dは30、回転速度は200rpm、溶融混合物の温度は220℃、そして、混練時間は10分であった。
スクリューには、フライトスクリュー(株式会社東洋精機製作所製)、パイナップルスクリュー(株式会社東洋精機製作所製)、及び、ニーディングディスク(株式会社東洋精機製作所製)を組み合わせたものを用いた。
【0049】
2.フィルムの評価
2−1.ヒートシール強度の測定
実施例1〜7及び比較例1〜15の各フィルムについて、JIS Z0238:1998に規定される袋のヒートシール強さを測定した。また参考として、低密度ポリエチレン(LDPE)100%のフィルムについても、同じ条件にてヒートシール強度を測定した。
【0050】
(1)試験片の作成
各フィルムから100mm×100mm×0.04mmのフィルム片を切り出した。切り出された2枚のフィルム片を重ね合わせ、1辺をヒートシールした。そして、ヒートシールしたフィルム片を15mm幅にて切断し、図4に示す形状の試験片を作成した。
試験片は、15mmの幅の2つの短冊P1,P2からなり、短冊P1,P2の一端同士が、10mmのシール幅Lsにてヒートシールされ、ヒートシール部HSを構成している。試験片の長さLaは、100mmである。
なお、ヒートシールには、ヒートシール装置(株式会社東洋精機製作所製熱傾斜試験器)が用いられ、ヒートシールの設定温度、荷重及び時間は、それぞれ140℃、0.2MPa及び0.7秒である。
【0051】
(2)引張試験
試験片の両端を引張試験機(株式会社東洋精機製作所製ストログラフ)のつかみに取り付け、試験片を長手方向に引っ張った。つかみ間の相対移動速度は300mm/minであり、ヒートシール部HSが破断したときの荷重をヒートシール強度とする。得られた結果を表1、表2及び図2、図4に示す。
なお、実施例1〜7及び比較例1〜15のヒートシール強度は、それぞれ、10個の試験片の結果の算術平均である。
【0052】
2−2.メントール吸着量の測定
実施例1〜7及び比較例1〜15の各フィルムについて、以下の試験方法にてメントール吸着量を測定した。また参考として、低密度ポリエチレン(LDPE)100%のフィルムについても、同じ条件にてメントール吸着量を測定した。
【0053】
各フィルムから、100mm×100mm×0.04mmの試験片を切り出した。そして、切り出した試験片を、1000mgのメントールとともに、直径150mmで高さ15mmのプラスチック製のシャーレに入れて封し、封したシャーレを40℃の恒温槽内に1週間置いた。
1週間後、シャーレから試験片を取り出し、アセトンで試験片表面を洗浄してから、試験片をアセトンで4時間のソックスレー抽出にかけた。そして、得られた抽出液中のメントールの量をガスクロマトグラフィーによって定量した。定量結果をメントール吸着量として表1、表2及び図3に示す。なお、実施例1〜7及び比較例1〜15のメントール吸着量は、それぞれ、10個の試験片の結果の算術平均であり、検出下限は0.1mgである。
【0054】
2−3.薬効成分の吸着量測定
実施例1のフィルムについて、以下の試験方法にて薬効成分の吸着量、則ち、メントール、リモネン、サリチル酸メチル、カンファー、及び、トコフェロールの吸着量を測定した。また参考として、低密度ポリエチレン(LDPE)100%のフィルムについても、同じ条件にて吸着量を測定した。
【0055】
(1)PET(ポリエチレンテレフタレート:12μm)/Al(アルミニウム:9μm)/実施例1のフィルム(40μm)の積層フィルムをドライラミネートで作製した。
(2)(1)の積層フィルムから、それぞれ120mm×220mmの寸法の複数のシートを切り出し、2枚のシートを実施例1のフィルムが内側になるようにして重ね合わせ、シール幅10mmにて三方をヒートシールし、複数の三方シール袋を作製した。
【0056】
(3)メントール、リモネン、サリチル酸メチル、カンファー、及び、トコフェロールの各々について質量濃度10%のMEK溶液を作製し、これらのMEK溶液を20mlずつ、(2)の三方シール袋に別々に充填した。それから、三方シール袋の開口をシール幅10mmにてヒートシールして密封した。
(4)(3)の密封された袋を40℃の恒温槽内で1週間保存した。
【0057】
(5)1週間後、MEK溶液を廃棄してから袋を2枚の積層フィルムに分離し、各積層フィルムの実施例1のフィルムの表面をMEKにて洗浄した後、各積層フィルムをMEKを溶媒としてソックスレー抽出に4時間かけて、薬効成分を抽出した。
(6)(5)で得られた抽出液をガスクロマトグラフィー分析し、各積層フィルムにおける各薬効成分の吸着量を定量した。定量結果を表3に示す。なお、ヒートシール部分を除く各積層フィルムの表面積が200cmであることから、吸着量の単位をmg/200cmとした。
【0058】
2−3.評価結果
2−3−1
表1、表2、図2、図3及び図4から以下のことが明らかである。
(1)実施例1〜3のヒートシール強度は938gf/15mm以上であり、比較例1〜15に比べて顕著に大きい。特に実施例1のヒートシール強度は1322gf/15mm以上であり、実施例の中で最も大きい。
実施例1〜3のヒートシール強度は、LDPE100%のヒートシール強度(3275gf/15mm)には及ばないが、JIS Z1711に規定されるポリエチレン製袋のヒートシール強度の規定値(640gf/15mm)を十分に上回っている。このため、実施例1〜3のフィルムをヒートシールして袋を作成した場合、袋は十分な強度を有する。
【0059】
(2)具体的には、図2に示したように、高剪断条件では、エチレン−エチルアクリレート共重合体の配合比が8質量%から10質量%に増える間、ヒートシール強度が臨界的に急激に大きくなる。エチレン−エチルアクリレート共重合体の配合比が10質量%から12質量%に増える間、ヒートシール強度は減少し、12質量%から14質量%に増える間、ヒートシール強度はわずかに減少し、ショルダーを形成する。そして、エチレン−エチルアクリレート共重合体の配合比が14質量%から15質量%に増える間、ヒートシール強度は臨界的に減少する。
【0060】
(3)低剪断条件では、エチレン−エチルアクリレート共重合体の配合比が8質量%のときにヒートシール強度が最大になり、エチレン−エチルアクリレート共重合体の配合比が8質量%から10質量%に増大する間に、ヒートシール強度が急激に減少する。
【0061】
(4)エチレン−エチルアクリレート共重合体の配合比が10質量%のときに、混練時の比エネルギーを変更した場合、図3に示したように、比エネルギーが0.2MJ/kgから1.0MJ/kgまで増大する間に、ヒートシール強度が臨界的に増大する。比エネルギーが1.0MJ/kgから3.7MJ/kgまで増大する間に、ヒートシール強度は微増し、比エネルギーが3.7MJ/kgから6.9MJ/kgまで増大する間に、ヒートシール強度は緩やかに減少する。
【0062】
(5)上述した(1)〜(4)より、エチレン−エチルアクリレート共重合体の配合比が同じであっても、混合時の剪断力即ち比エネルギーを高くすることによって、低剪断力で混合したものとは異なる物性を有する新規な物質、即ちポリマーアロイが製造されることがわかる。そして、ポリマーアロイの組成が所定の範囲内にあるときに、優れたヒートシール性を有するEVOH系ポリマーアロイ組成物が得られることがわかる。
【0063】
(6)一方、メントール吸着量は、図4に示したように、高剪断及び低剪断の両条件において、エチレン−エチルアクリレート共重合体の配合比が20質量%以上になると増加するものの、15質量%までは検出下限(0.1mg)未満であり、LDPE100%のメントール吸着量(8.6mg)よりも少ない。
【0064】
(7)また、表3に示したように、複数の薬効成分の吸着量について1種ずつ調べたところ、実施例1のフィルムをヒートシール層として表面に有する積層フィルムについては、メントール、リモネン、サリチル酸メチル、カンファー、及び、トコフェロールのいずれも検出下限(0.1mg)未満であり、LDPE100%のフィルムをヒートシール層として表面に有する積層フィルムの場合よりも少ない。
(8)なお、エチレン−エチルアクリレート共重合体の配合比が30%を超えると、剪断条件に関わらず、エチレン−エチルビニルアルコール共重合体とエチレン−エチルアクリレート共重合体とが相分離してしまい、均一な樹脂組成物を得ることができなかった。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
本発明は、上述した実施形態及び実施例に限定されることはなく、これらに更に変更を加えた実施形態及び実施例も含む。例えば、上述したEVOH系ポリマーアロイ組成物に対し、上述した成分の他に、分散剤、着色剤又は増量剤等の各種の添加剤を更に加えてもよい。ただし、優れたヒートシール性、及び、リモネンやメントール等のテルペンや、炭化水素系や、エチルブチレートやエチルカプレート等のエステル系の香気成分の非吸着性を確保するためには、EVOH系ポリマーアロイ組成物は、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体及び不可避的不純物以外の他の成分を含まないのが好ましい。
【0069】
具体的には、以下に示す成分及び濃度の1種以上の添加剤をEVOH系ポリマーアロイ組成物に加えてもよい。
<熱安定剤・酸化防止剤:1〜10000ppm>
ヒンダードフェノール系化合物、ビタミンE系化合物、
カルボン酸化合物:
シュウ酸、コハク酸、安息香酸、クエン酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸など
ホウ素化合物:オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチル、これらホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂など
リン酸化合物:
リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム
【0070】
<スリップ剤:100〜10000ppm>
炭化水素、アルコール、高級脂肪酸、エステル、多価アルコール部分エステル、高級脂肪酸金属塩、天然ワックス、脂肪酸アミド
<アンチブロッキング剤:100〜10000ppm>
シリカ、ゼオライト、ポリマービーズ、脂肪酸エステル、シリコーンパウダー
<帯電防止剤:100〜10000ppm>
グリセリン、界面活性剤、導電性微粒子
【0071】
<着色剤:100〜100000ppm>
無機顔料、有機顔料、染料
<可塑剤:1000〜100000ppm>
フタル酸エステル、多価アルコール、アミン化合物
<紫外線吸収剤:1000〜100000ppm>
ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系
【0072】
<抗菌剤:1000〜20000ppm>
銀ゼオライト、チオサルファイト銀錯体、ニトリル誘導体、イミダゾール誘導体、トリアジン誘導体、フェノールエーテル誘導体、ピロール誘導体、
<高級脂肪酸塩などの成形助剤等>
【0073】
<水分吸収剤:10000〜300000ppm>
シリカゲル、ゼオライト、塩化カルシウム
<ガス吸収剤:10000〜300000ppm>
活性炭、ゼオライト、鉄粉、アスコルビン酸
【0074】
最後に、本発明のEVOH系ポリマーアロイ組成物の用途は、包装材に限定されることはなく、種々の製品に適用可能であるのは勿論である。
【符号の説明】
【0075】
P1,P2 短冊
HS ヒートシール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
85.5質量%以上91.5質量%以下のエチレン−ビニルアルコール共重合体と、
8.5質量%以上14.5質量%以下のエチレン−エチルアクリレート共重合体との混合物からなり、
JIS Z0238に規定される袋のヒートシール強度が450gf/15mm以上である
ことを特徴とするエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物。
【請求項2】
100mm×100mm×0.04mmのフィルムに成形し、温度40℃で発生させたメントール蒸気に1週間曝露したときのメントールの吸着量が、1.0mg以下であることを特徴とする請求項1に記載のエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物。
【請求項3】
ポリエチレンテレフタレートの層と協働してアルミニウム層を挟む、積層フィルムの表面に位置する120mm×220mm×0.04mmのヒートシール層に成形し、
2枚の前記積層フィルムを前記ヒートシール層同士を合わせるように重ねた状態で三方をシール幅10mmにてヒートシールして三方シール袋を作製し、
前記三方シール袋に、メントール、リモネン、サリチル酸メチル、カンファー、及び、トコフェロールからなる薬効成分の群から選択された1種を質量濃度10%にて含むメチルエチルケトン溶液を注液してから、前記三方シール袋の開口をシール幅10mmにてヒートシールして密封袋を作製し、そして、
前記密封袋を温度40℃に1週間置いたとき、
ヒートシールされた部分を除く前記ヒートシール層1つあたりの前記薬効成分の吸着量が1.0mg以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物。
【請求項4】
比エネルギーが0.4MJ/kg以上となるように二軸押出機で前記混合物を混練して得られたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載のエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物からなるフィルム。
【請求項6】
請求項5に記載のフィルムを備えることを特徴とする包装材。
【請求項7】
メントール、リモネン、サリチル酸メチル、カンファー、及び、トコフェロールからなる薬効成分の群のうちから選択された何れか1種以上を含む物品の包装に用いられることを特徴とする請求項6に記載の包装材。
【請求項8】
85.5質量%以上91.5質量%以下のエチレン−ビニルアルコール共重合体と、8.5質量%以上14.5質量%以下のエチレン−エチルアクリレート共重合体との混合物を、比エネルギーが0.4MJ/kg以上となるように二軸押出機で混練する工程を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のエチレン−ビニルアルコール系ポリマーアロイ組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−31245(P2012−31245A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170171(P2010−170171)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】