説明

エチレンのオリゴマー化のための触媒組成物およびプロセス

本発明は、エチレンのオリゴマー化のための触媒組成物であって、クロム化合物;R1、R2、R3、R4およびR5が、独立して、ハロゲン、アミノ、トリメチルシリル、C1〜C10アルキル、アリールおよび置換アリールから選択される、一般構造R12P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−Hのリガンド;有機または無機ハロゲン化物を含有する改質剤;および活性剤または助触媒を含む触媒組成物;並びにその触媒を利用したオリゴマー化のためのプロセスに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンのオリゴマー化のための触媒組成物およびプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
コモノマーグレードの1−ヘキセンおよび1−オクテンを含む直鎖状アルファオレフィン(LAO)を製造するための既存のプロセスは、エチレンのオリゴマー化によるものである。これらのプロセスには、鎖長4,6,8などのエチレンオリゴマーの生成物分布が生じるという共通点がある。これは、競合する鎖の成長および置換反応工程により非常に左右され、シュルツ・フローリーまたはポアソン生成物分布を生じる化学機構のためである。
【0003】
市場の観点から、この生成物分布により、一連のアルファオレフィンの製造業者にとってやっかいな難題が課せられる。その理由は、扱う各市場区分が、市場サイズおよび成長、地理学、細分化などに関して非常に異なる反応を示すからである。したがって、生成物の範囲の一部は、所定の経済状況において需要が大きいかもしれないが、それと同時に、他の生成物の留分は、全くまたはわずかなニッチでしか市場性がないかもしれないので、製造業者が市場の要求に適応することは非常に難しい。現在、最も価値のあるLAO生成物は、高分子産業のためのコモノマーグレードの1−ヘキセンである。
【0004】
それゆえ、最も経済的に見込みのあるLAO、すなわち、コモノマーグレードの1−ヘキセンの意図的な生産が、極めて望ましいであろう。高いC6−選択率に関する要件を満たすために、新規のプロセスが開発されてきた。選択的C6−工業プロセスがChevron Phillipsにより稼働されている。包括的な展望については、非特許文献1を参照のこと。
【0005】
さらに、特許文献1には、典型的に、タイプCrCl3(ビス−(2−ジフェニルホスフィノ−エチル)アミン)/MAO(メチルアルミノキサン)の、クロム系選択的エチレン三量体化触媒系が開示されている。また、リガンド構造(例えば、ビス(2−ジエチルホスフィノ−エチル)−アミン、ペンタメチルジエチレントリアミンなど)の変種も開示されている。しかしながら、これら全ての錯体は、1−ヘキセン以外のLAO、並びに蝋およびポリエチレンなどの望ましくない副生成物を多量に生成する。
【0006】
多量の科学出版物および特許文献に、基本PNP−構造(例えば、ビス(ジフェニルホスフィノ)アミン−リガンド)を特徴とするリガンドによるクロム系金属−有機錯体の使用が記載されている。エチレンの三量体化および四量体化の両方について、非特許文献2から10、特許文献2から5、非特許文献11、または非特許文献12から14を参照のこと。
【0007】
活性剤/助触媒として、過剰な量のMAOが最も一般に使用される。このことは、特に、非特許文献11の最近の反応速度研究において明白である。ここで、8100モル/モルまでのAl−(MAOまたは修飾MAOの形態にある)対Cr−比が使用された。クロム前駆体(例えば、クロムアセチルアセトネート)の要求される量は、これらの研究において報告された非常に高い触媒活性のために、みごとに少ないが、この主張されている利点は、結局のところ、有害であることが判明した:触媒の活性成分が非常に低濃度であるために、その系が、技術的環境において本質的に避けられない微量の阻害因子および触媒毒の影響を極めて受けやすくなる。これらは、供給原料、溶媒または補助添加剤における不純物であり得る(例えば、水、酸素、硫黄化合物、腐食生成物など)。被毒または失活を避けるために、過剰な量の不純物除去剤、例えば、MAOが必要である。それゆえ、触媒の活性成分の表面上低いコストは、多量の不純物除去剤/助触媒/活性剤のコストにより上回られている。
【0008】
公表された研究の大半はCr−PNP錯体によるものであるが、いくつかは、他のリガンド、例えば、Xが二価有機架橋基である、一般式(R1)(R2)P−X−P(R3)(R4)のリガンドを取り扱っており(「Catalytic Trimerization of Olefinic Monomers」と題する特許文献6を参照のこと)、またはチタノセンなどの完全に異なる錯体を取り扱っている(非特許文献15を参照のこと)。いずれの場合にも、主要な関心事は、常に、選択性およびポリエチレンの形成の最小化である。
【0009】
この問題に対する最も進歩した手法が特許文献7に最近開示された。ここには、エチレンの選択的三量体化のための触媒系が記載された。この触媒系は、クロム源、「PNPNH−主鎖」を特長とするリガンド、および助触媒/活性剤を含む。典型的な実施の形態において、クロム源はCrCl3(THF)3(THF=テトラヒドロフラン)であり、PNPNH−リガンドは(Ph)2P−N(i−Ph)−P(Ph)−N(i−Ph)−H(Ph=フェニル基、i−Ph=イソプロピル基)であり、助触媒はトリエチルアルミニウム(TEA)である。エチレンの三量体化のためのこの触媒系を使用すると、90質量%超のC6−収率が達成され、C6−分画における1−ヘキセンの選択率は99.5質量%超であった。より低いプロセス温度、すなわち、40〜50℃により、1−ヘキセンの選択率および収率が非常に高くなるのに対し、より高い温度(65〜90℃)では、主な副生成物として少量のC4−オレフィンの形成が促進される。また、プロセス温度が上昇するにつれて、触媒活性はある程度減少すると同時に、1−ヘキセンの選択率は非常に高いままである。
【0010】
特許文献7からの触媒系は、低いプロセス温度(例えば、40〜50℃)では非常によく働き、これらの穏やかな条件は、ある技術的環境においては有利であるようであるが、他の場合には、より高い温度でプロセスを動作させることがまだ望ましいであろう。
【0011】
より高い温度により、発熱性エチレン三量体化反応における反応塊を冷却するために、溶媒の蒸発の、または適切な溶媒成分のエンタルピーを利用することが可能になるであろう。この冷却効果は特に有用である。何故ならば、反応塊と密接に接触した熱交換器の表面を含むことは、混乱した条件下での蝋または高分子形成により生じるファウリング作用をこれらの表面が受けやすいという事実のために、これらのプロセスにおいてはそれほど都合良くないからである。
【0012】
科学文献および特許文献にこれまで開示された選択的エチレン三量体化触媒およびプロセスは、一般に、以下の課題に対処しなければならない:
・ 所望の生成物である1−ヘキセンに対する低い選択率(副反応経路による望ましくない副生成物)。
【0013】
・ 生成物の限られた純度、すなわち、C6−留分内の選択率(異性化、分岐オレフィンの形成など)。
【0014】
・ 蝋の形成、すなわち、重質、長鎖、高炭素数生成物の形成。
【0015】
・ 高分子の形成(ポリエチレン、分岐および/または架橋PE);これにより、著しい生成物の収量の損失および設備のファウリングが引き起こされる。
【0016】
・ 不十分な回転率/触媒活性の結果として、生成物kg当たりの高いコスト。
【0017】
・ 高い触媒またはリガンドコスト。
【0018】
・ リガンドの合成が難しいために、不十分な有効性および高い触媒コストがもたらされる。
【0019】
・ 微量の不純物に対する、活性および選択率両方に関する触媒性能の感受性(触媒損失/被毒)。
【0020】
・ 技術的環境における触媒成分の難しい取扱い(触媒錯体の合成、予備混合、不活化、触媒またはリガンドの回収)。
【0021】
・ 厳しい反応条件、すなわち、高温および高圧の結果として、投資費用、維持費、およびエネルギー費が高くなる。
【0022】
・ 高い助触媒/活性剤コストおよび/または消費。
【0023】
・ 様々な助触媒品質に対する感受性;しばしば、比較的あいまいな化合物を多量に活性剤(例えば、ある種のMAO−種類)として使用しなければならない場合。
【0024】
・ 温度、圧力、滞留時間、触媒濃度などのプロセス条件に関する触媒系の実施可能性の非常に狭いまたは不適切な領域。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】国際公開第03/053891A1号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2004/056578号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2004/056479号パンフレット
【特許文献4】欧州特許第02794480.0号明細書
【特許文献5】欧州特許第02794479.2号明細書
【特許文献6】国際公開第2005/039758A1号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2009/006979A2号パンフレット
【非特許文献】
【0026】
【非特許文献1】J. T. Dixon, M. J. Green, F. M. Hess, D. H. Morgan, "Advances in selective ethylene trimerisation - a critical overview", Journal of Organometallic Chemistry 689 (2004) 3641-3668
【非特許文献2】D. S. McGuinness, P. Wasserscheid, W. Keim, C. Hu, U. Englert, J. T. Dixon, C. Grove, "Novel Cr-PNP complexes as catalysts for the trimeri- zation of ethylene", Chem. Commun., 2003, 334-335
【非特許文献3】K. Blann, A. Bollmann, J. T. Dixon, F.M. Hess, E. Killian, H. Maumela, D. H. Morgan, A. Neveling, S. Otto, M. J. Overett, "Highly selective chromium-based ethylene trimerisation catalysts with bulky diphosphino- amine ligands", Chem. Comm., 2005, 620-621
【非特許文献4】M. J. Overett, K. Blann, A. Bollmann, J. T. Dixon, F. Hess, E. Killian, H. Maumela, D. H. Morgan, A. Neveling, S. Otto, "Ethylene trimerisation and tetramerisation catalysts with polar-substituted diphosphinoamine ligands", Chem. Commun., 2005, 622-624
【非特許文献5】D. S. McGuinness, D. B. Brown, R. P. Tooze, F. M. Hess, J. T. Dixon, A. M. Z. Slavin, "Ethylene Trimerization with Cr-PNP and Cr-SNS Complexes: Effect of Ligand Structure, Metal Oxidation State, and Role of Activator on Catalysis", Or- ganometallics 2006, 25, 3605-3610
【非特許文献6】A. Jabri, P. Crewdson, S. Gambarotta, I. Korobkov, R. Duchateau, "Isolation of a Cationic Chromium(II) Species in a Catalytic System for Ethylene Tri- and Tetramerization", Organometallics 2006, 25, 715-718
【非特許文献7】T. Agapie, S. J. Schofer, J. A. Labinger, J.E. Bercaw, "Mechanistic Studies of the Ethylene Trimerization Reaction with Chromium-Diphosphine Catalysts: Experimental Evidence for a Mechanism Involving Metal - lacyclic Intermediates", J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 1304-1305
【非特許文献8】S. J. Schofer, M. D. Day, L. M. Henling, J. A. Labinger, J. E. Bercaw, "Ethylene Trimerization Catalysts Based on Chromium Complexes with a Nitrogen-Bridged Diphosphine Ligand Having ortho- Methoxyaryl or ortho-Thiomethoxy Substituents: Well-Defined Catalyst Precursors and Investigations of the Mechanism", Organometallics 2006, 25, 2743-2749
【非特許文献9】S. J. Schofer, M. D. Day, L. M. Henling, J. A. Labinger, J. E. Bercaw,"A Chromium-Diphosphine System for Catalytic Ethylene Trimerization: Synthetic and Structural Studies of Chromium Complexes with a Nitrogen-Bridged Diphosphine Ligand with ortho-Methoxyaryl Substituents", Organometallics 2006, 25, 2733-2742
【非特許文献10】P. R. Elowe, C. McCann, P. G. Pringle, S. K. Spitz- messer, J. E. Bercaw, "Nitrogen-Linked Diphosphine Ligands with Ethers Attached to Nitrogen for Chromium-Catalyzed Ethylene Tri- and Tetramerization", Organometallics 2006, 25, 5255-5260
【非特許文献11】S. Kuhlmann, C. Paetz, C. Haegele, K. Blann, R. Walsh, J. T. Dixon, J. Scholz, M. Haumann, P. Wasserscheid, "Chromium catalyzed tetramerization of ethylene in a continuous tube reactor - Proof of concept and kinetic aspects", J. Catal. 2009, 262, 83-91
【非特許文献12】the SNS-structure D. S. McGuinness, D. B. Brown, R. P. Tooze, F. M. Hess, J. T. Dixon, A. M. Z. Slavin, "Ethylene Trimerization with Cr-PNP and Cr-SNS Complexes: Effect of Ligand Structure, Metal Oxidation State, and Role of Activator on Catalysis", Organometallics 2006, 25, 3605-3610
【非特許文献13】A. Jabri, C. Temple, P. Crewdson, S. Gambarotta, I. Korobkov, R. Duchateau, "Role of the Metal Oxidation State in the SNS-Cr Catalyst for Ethylene Trimerization: Isolation of Di- and Trivalent Cationic Intermediates, J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 9238-9247
【非特許文献14】C. Temple, A. Jabri, P. Crewdson, S. Gambarotta, I. Korobkov, R. Duchateau, "The Question of the Cr- Oxidation State in the {Cr(SNS)} Catalyst for Selective Ethylene Trimerization: An Unanticipated Re-Oxidation Pathway", Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 7050-7053
【非特許文献15】H. Hagen, W. P. Kret- schmer, F. R. van Buren, B. Hessen, D. A. van Oeffelen, "Selective ethylene trimerization: A study into the mechanism and the reduction of PE formation", Journal of Molecular Catalysis A: Chemical 248 (2006) 237-247
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
従来技術の欠点を克服した触媒組成物およびエチレンのオリゴマー化のためのプロセスを提供すること、および技術プロセスのための先例のない選択率および十分に高い活性/回転率の全く新しいエチレン三量体化触媒系を作製することが、本発明の課題である。さらに、本発明は、化学工学の考慮事項により課せられる境界条件に関する触媒系の自由度の向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
最初の課題は、触媒組成物において、
(a) クロム化合物、
(b) R1、R2、R3、R4およびR5が、独立して、ハロゲン、アミノ、トリメチルシリル、C1〜C10アルキル、置換C1〜C10アルキル、アリールおよび置換アリールから選択される、一般構造R12P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−Hのリガンド、またはPNPNH−ユニットのPまたはN原子が、環系の一員であって差し支えなく、その環系が、置換によりリガンドの1つ以上の構成化合物から形成される、リガンドの任意の環状誘導体、
(c) 有機または無機ハロゲン化物を含有する改質剤、および
(d) 活性剤または助触媒、
を含む触媒組成物により達成される。
【0029】
リガンドのどのような環状誘導体を使用しても差し支えないことを理解すべきであり、ここで、PNPNH−ユニットのPまたはN原子の内の少なくとも1つは環の一員であり、その環は、置換により、すなわち、一構成化合物当たり、2つの全基R1〜R5(記載の)またはHいずれか、2つの基R1〜R5(記載の)の各々から1つの原子または全基R1〜R5(記載の)またはHおよび別の基R1〜R5(記載の)からの1つの原子を形式的に除去し、形式的にそのように形成された原子価不飽和部位を一構成化合物当たり1つの共有結合により結合させて、所定の部位に最初に存在したのと同じ原子価を提供することにより、リガンドの1つ以上の構成化合物から形成されている。
【0030】
クロム化合物は、Cr(II)またはCr(III)の有機または無機塩、配位錯体および有機金属錯体、好ましくはCrCl3(THF)3、Cr(III)アセチルアセトネート、Cr(III)オクタノエート、クロムヘキサカルボニル、Cr(III)−2−エチルヘキサノエート、ベンゼン(トリカルボニル)−クロムまたは塩化Cr(III)から選択されることが好ましい。
【0031】
ハロゲン含有クロム化合物を選択する場合、そのような化合物は分子内相互作用しか提供できないのに対し、改質剤は分子間相互作用を提供することが意図されるので、そのような化合物はクロム化合物およびハロゲン化物を含有する改質剤の両方として作用できない。それゆえ、クロム化合物および改質剤は、異なる化合物でなければならない。
【0032】
改質剤が、E=NまたはP、X=Cl、BrまたはIであり、R=アルキル、シクロアルキル、アシル、アリール、アルケニル、アルキニルまたは対応する架橋ジ−、トリ−またはマルチユニットである、タイプ[H4E]X、[H3ER]X、[H2ER2]X、[HER3]Xまたは[ER4]Xのアンモニウムまたはホスホニウム塩;HX;またはRX;好ましくは塩化テトラフェニルホスホニウム、塩化テトラエチルアンモニウム一水和物、塩化テトラエチルアンモニウム、イソプロピルアミン塩酸塩、トリエチルアミン塩酸塩、塩化テトラプロピルアンモニウム、塩化テトラ−n−ブチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、p−トルイジン塩酸塩、塩化ジメチルジステアリルアンモニウム、塩化(トリ−n−ブチル)−n−テトラデシルホスホニウム、塩化ベンゾイルおよび塩化アセチルから選択されることがさらに好ましい。
【0033】
一般に、ハロゲン化物を放出できるどのような化合物も適切な改質剤である。
【0034】
改質剤は、ピペリジンなどの非環状および環状アミンに基づくアンモニウムまたはホスホニウム塩から選択してもよい。「架橋ジ−、トリ−またはマルチユニット」という用語は、例えば、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンまたはエチレンビス(ジフェニル−ホスフィン)、並びにトリ−またはマルチユニットについては、E=NまたはP、n≧2およびY=置換基−EHRまたは−ER2を架橋する任意のユニット(分岐アルキル、シクロアルキル、アリールなど)である、タイプY(HER)nおよびY(ER2nによる化合物を含むものと理解すべきである。
【0035】
言い換えれば、クロム源および改質剤を組み合わせると、[A]=[H4E]+、[H3ER]+、[H2ER2+、[HER3+、[ER4+、E、XおよびRが先に定義されたものである、タイプ[A][CrX4]、[A]2[CrX5]および[A]3[CrX6]のアンモニウム−およびホスホニウム−クロム酸塩錯体が得られるであろう。
【0036】
また、クロム源および改質剤を組み合わせると、以下の成分からの混合物が得られるであろう:
− Cr−塩および[H4E]X、[H3ER]X、[H2ER2]X、[HER3]X、[ER4]X、
− Cr−塩および無水ハロゲン化水素酸、特に、塩化水素酸、並びにH3E、H2ER、HER2またはR3E、
− Cr−塩およびRX、例えば、塩化ベンゾイル、並びにH3E、H2ER、HER2またはR3E。
【0037】
代わりの例において、本発明は、触媒組成物において、
(a’) ハロゲン化物含有クロム化合物、
(b) 一般構造R12P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−Hのリガンドであって、R1、R2、R3、R4およびR5が、独立して、ハロゲン、アミノ、トリメチルシリル、C1〜C10アルキル、アリールおよび置換アリールから選択されるリガンド、
(c’) 遊離アミン基を含有する改質剤、および
(d) 活性剤または助触媒、
を含む触媒組成物を提供する。
【0038】
遊離アミン基を含有する改質剤が、第一級、第二級または第三級脂肪族または芳香族アミンから選択されることが好ましい。好ましい脂肪族アミンはイソプロピルアミンである。
【0039】
活性剤または助触媒は、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、エチルアルミニウムセスキクロライド、塩化ジエチルアルミニウム、二塩化エチルアルミニウム、メチルアルミノキサン(MAO)またはそれらの混合物から選択される。
【0040】
ある実施の形態において、リガンド/Crのモル比は、0.5から50、好ましくは0.8から2.0である。
【0041】
Al/Crのモル比は1:1から1000:1、好ましくは10:1から200:1であることが好ましい。
【0042】
改質剤/Crのモル比は0.01から100、好ましくは1から20であることが好ましい。
【0043】
触媒組成物を提供するための成分は、多かれ少なかれ、出発材料と考えられるが、それらの成分が混合されて触媒組成物を形成するときに転化されてもよいことが、当業者にとっては明白であろう。この点に関して、本発明による触媒組成物は、第1の実施の形態にしたがって、少なくとも成分(a)、(b)、(c)および(d)を組み合わせることにより、第2の実施の形態にしたがって、少なくとも成分(a’)、(b)、(c’)および(d)を組み合わせることにより、含有可能であると説明して差し支えない。
【0044】
第2の課題は、本発明による触媒組成物を、反応装置内でエチレンの気相に曝露し、オリゴマー化を行う各工程を有してなる、エチレンのオリゴマー化のためのプロセスによって達成される。
【0045】
オリゴマー化が、1から200バール、好ましくは10から50バールの圧力で行われることが好ましい。
【0046】
また、オリゴマー化は、10から200℃、好ましくは20から100℃の温度で行われることも好ましい。
【0047】
最後に、平均滞留時間は、10分間から20時間、好ましくは1から4時間であることが好ましい。
【0048】
意外なことに、第1の実施の形態において、有機または無機ハロゲン化物を触媒系に導入する改質剤が、触媒組成物の全体的な性能を大幅に向上させられることが分かった。このことは、おそらく、Cr−/PNPNH−リガンド/活性剤−触媒の、ハロゲン化物−担持改質剤との反応により、全く新しい触媒中心の形成によって、行われる。
【0049】
本発明の代わりの実施の形態において、ハロゲン化物含有クロム源、例えば、CrCl3(THF)3またはCrCl3は、遊離アミン、優先的に脂肪族アミン、例えば、イソプロピルアミンと組み合わせることができる。この組合せは、「その場で」塩化アルキルアンモニウム成分を構成し、したがって、第1の実施の形態の触媒組成物にほぼ相当する。
【0050】
プロセス条件に関する実施可能性の領域を増やすことに加え、本発明は、触媒系の活性に関してより大きい自由度を提供し、それゆえ、プロセスの生産性に所望のように影響を与える。1−ヘキセンの選択率を非常に高いレベルに維持しながら、技術プロセスにおける熱除去および混合速度がそうできるときはいつでも、プロセスの生産性を向上させることができる。それとは反対に、熱除去が重大である場合、触媒系の全体の活性は、潜在的な急騰条件を避けるように、調節することができる。
【0051】
従来技術のプロセスは、単に、総触媒濃度を極めて低いレベルまで低下させることによって、そうしている。しかしながら、このことには、大量の助触媒/活性剤(例えば、MAO)の添加が必要である。何故ならば、活性剤は、微量の触媒毒または失活不純物の除去剤としても働き、これら触媒毒または失活不純物は、実際の技術プロセスにおいてほぼ避けられないほど豊富にあるからである。
【0052】
本発明は、触媒組成物に関する幅広い自由度を提供することによって、これらの二律背反および制限を避ける。この自由度は、転じて、系の化学的性質によって定義される範囲内の任意の所望のプロセス温度レベルについての選択性、熱放出およびプロセス生産性を制御する。この自由度は、技術的環境において容易に取り扱え、制御できる触媒濃度レベルで達成される。
【0053】
活性触媒は、クロム濃度が0.001から100ミリモル/l、優先的には0.1と10ミリモル/lの間であり、リガンド/Cr比が0.5から50モル/モル、優先的には0.8と2.0モル/モルの間であるように、適切な溶媒、優先的にはトルエン、1−ヘキセンまたはシクロヘキサン中でクロム源およびリガンドを組み合わせることによって、調製される。リガンドの好ましい構造に関する例が、以下に示されており、以後、PNPNH−リガンドと称する。
【化1】

【0054】
助触媒、優先的にはトリエチルアルミニウムまたはトリエチルアルミニウムとMAOとの任意の混合物が、Al/Cr比が1と1000モル/モルの間となるように、トルエン中の溶液として加えられる。好ましいAl/Cr比は、10から200モル/モルである。
【0055】
改質剤が、改質剤/Cr比が0.01から100モル/モル、優先的には1から20モル/モルとなるように加えられる。
【0056】
溶媒のトルエンは、トルエン以外の芳香族炭化水素(ベンゼン、エチルベンゼン、クメン、キシレン、メシチレンなど)、脂肪族炭化水素(長鎖および環式両方、例えば、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン)、ヘキセン、ヘプテン、オクテンなどの直鎖オレフィン、または例えば、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン等のエーテルなどの他の溶媒または溶媒の混合物により置き換えても差し支えない。1−ヘキセンが最も好ましい。何故ならば、これは前記プロセスの生成物でもあり、これを溶媒として使用することは、それによりプロセスの分離ユニットが大幅に簡素化されるので、有利である。さらに、1−ヘキセン中のエテンの溶解度は、トルエン中におけるよりもさらに良好である。
【0057】
次いで、触媒溶液を適切な圧力反応装置内で1と200バールの間、優先的には10と80バールの間の圧力で乾燥エテンの気相に曝す。この反応装置は、気泡塔反応装置、撹拌タンク反応装置、固定または分布式エチレン注入部を備えた流通反応装置などの、気相と液相との間に十分な接触を提供するのに適したどのようなタイプのものであっても差し支えない。選択された反応装置の構成の主な作業は、特に、高活性触媒組成物により達成される高い転化率で、相移動制限を避けるように、十分に速い気液物質移動を確実にすることである。
【0058】
好ましい反応温度は10と200℃の間であり、最も好ましい温度領域は20から100℃である。平均滞留時間および滞留時間分布(連続プロセスの場合)は、高い選択率で十分に転化が行われるように選択される。典型的な平均滞留時間は、10分間と20時間の間である(温度および圧力に応じて)。好ましい範囲は1から4時間である。
【0059】
要約すると、本発明は以下の利点を提供する:高い回転率と選択率での1−ヘキセンの製造;高い再現性、すなわち、触媒系が、不純物およびプロセス条件における変動からの干渉に対して安定である;1−ヘキセンの選択的製造;望ましくない副生成物のないこと;MAOなどの高価な助触媒が、完全にまたは大幅に、安価な物質により、好ましくはトリエチルアルミニウムにより置き換えられる;化学構造の比較的純粋な定義のために、品質が不安定になり易い助触媒(MAO)が、ある程度または完全に、明白な化学種(トリエチルアルミニウム)により置き換えられる;幅広くないLAO生成物分布;高分子形成の非常に良好な抑制;穏やかな反応条件、その結果として、技術規模のプラントに関する低い投資費用および低いエネルギー費および操業費;比較的簡単で単純なプロセス設計が可能になる;非常に高いC6−選択率のために、一連の分離における追加の精製工程を必要とせずに、高い生成物純度がもたらされる;容易に入手できる安価なクロム源;触媒系が、技術的環境により定義される境界条件を満たすように容易に微調整できる;可能な動作条件の幅広い可変性;様々な必要性による活性および選択率の容易な最適化;および簡単で安価な触媒調製。
【0060】
本発明は、主に、触媒の活性の改善を目的とすると同時に、当該技術分野において公知の高い選択率/収率を維持する。さらに、好ましいことに、容易に入手でき、安価であるCr前駆体の多くの挙動が、改質剤を添加したときに、改善できることが分かった。このことは、Cr(acac)3について特に当てはまる。リガンドとCr(acac)3を使用すると、有効期限が実質的に無制限の本当の物理的溶液(濃度勾配のない)が形成される。
【0061】
ここで、本発明のさらに別の利点および特長を、添付の図面を参照して、以下の実施例の項目に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例3による実験に関する時間によるエチレンの消費を示すグラフ
【図2】実施例4による実験に関する時間によるエチレンの消費を示すグラフ
【図3】実施例5による実験に関する時間によるエチレンの消費を示すグラフ
【図4】実施例6による実験に関する時間によるエチレンの消費を示すグラフ
【図5】実施例7による実験に関する時間によるエチレンの消費を示すグラフ
【図6】実施例8による実験に関する時間によるエチレンの消費を示すグラフ
【図7】実施例9による実験に関する時間によるエチレンの消費を示すグラフ
【実施例】
【0063】
実施例1: CrCl3(THF)3/PNPNH/TEA/[PPh4]Clおよび[NEt4]Cl・H2O−触媒系を使用したエチレンの三量体化
浸漬管、サーモウェル、ガス飛沫同伴撹拌機、冷却コイル、温度、圧力および撹拌機速度の制御ユニット(全てデータ収集システムに接続されている)を備えた300mlの圧力反応装置を乾燥アルゴンで不活化した。電子化されたデータ収集システムにより時間経過によるエテンの消費をモニタするための秤上のアルミニウム過圧ガスシリンダによって、等圧エテン供給を維持した。
【0064】
実験を行う前に、反応装置を数時間に亘り減圧下で100℃に加熱して、微量の水、酸素および酸素化不純物を除去した。
【0065】
触媒調製について、適切な量のPNPNH−リガンド(61.4mgの(Ph)2P−N(iPr)−P(Ph)−N(iPr)−H、Ph=フェニル、iPr=イソプロピル)、クロム前駆体(CrCl3(THF)3、37.5mg)および改質剤の塩化テトラフェニルホスホニウム(P(Ph)4Cl、37.7mg)を不活性雰囲気下で秤量し、シュレンク管に装填した。100mlの容積の無水トルエンを加え、この溶液をマグネチックスターラーにより撹拌した。Cr化合物およびリガンドを溶解させた後、トルエン(3.7ml)中のTEAの1.9モル/l溶液を必要量加えた。この溶液を直ちに反応装置に移し、反応を開始した。
【0066】
選択した容積および質量は、1.5モル/モルのリガンド対クロム比、70モル/モルのAl/Cr比、および1.0モル/モルのP(Ph)4Cl/Cr比で、1ミリモル/lのクロム濃度に相当する。
【0067】
この手法の後に、様々な圧力および温度下で、一連の三量体化反応を行った。さらに、改質剤[PPh4]Clを、第2の一連の実験について、塩化テトラエチルアンモニウム一水和物[NEt4]Cl・H2O(18.5mg)と置き換えた。
【0068】
滞留時間後、エチレン圧力によりその液体を、約100mlの水が充填されたガラス容器に移すことによって、液相中の反応を停止した。実験の物質収支を、気体および液体生成物それぞれの定量化およびGC−FID分析により決定し、その後、エテン取込みデータと比較した。
【0069】
測定データに基づいて、全体の収率および選択率を決定した。意外なことに、1−ブテン、1−オクテン、1−デセンおよび1−ドデセンが微量しかなく、非常に高い1−ヘキセン収率が観察される。清浄で明白な条件下での反復実験において、識別できる高分子形成は観察されなかった。その結果が表1に要約されている。
【表1】

【0070】
実施例2: Cr(acac)3/PNPNH/改質剤/TEAによるエチレンの三量体化
実施例1に記載した実験手法後、72mgのPNPNH−リガンド、0.1ミリモルのCr(acac)3、0.3ミリモルの様々なハロゲン化物含有改質剤および1.3mlの、トルエン中の1.9MのTEA溶液から触媒を調製した。次いで、触媒試験を50℃および30バールで行った。その結果が、改質剤がなく、クロム源としてCrCl3(THF)3を使用した実験との比較として、表2に示されている。
【表2】

【0071】
実施例3: Cr(acac)3/PNPNH/TEA/[N(nBu)4]Cl−触媒系を使用したエチレンの三量体化
この実施例は、Cr(III)アセチルアセトネート/PNPNH/TEA−触媒系の全体の性能が、改質剤の塩化テトラ−n−ブチルアンモニウムによってどのように大幅に向上させられるかを示す。Cr(III)アセチルアセトネート(手短にCr(acac)3)の使用が、その入手可能性および低価格のために、特に魅力的である。さらに、このクロム源は、トルエン中に容易に溶解し、それによって、触媒調製中の前駆体−スラリーを取り扱う必要がなくなる。
【0072】
実施例1に記載した実験手法後、69mgのPNPNH−リガンド、0.1ミリモルのCr(acac)3、0.3ミリモルの[N(nBu)4]Clおよび3mlの、トルエン中の1.9MのTEA溶液から触媒を調製した。次いで、触媒試験を55℃および30バールで行った。その結果が、改質剤を含まない対照実験と比較して、図1に示されている。GC分析は、動的相移動制限を注意深く考慮から外し、非常に高いC6−選択率(>92質量%)および98質量%超の全C6−分画内での1−ヘキセン選択率が達成されたので、図1のエテン消費曲線を1−ヘキセン製造に直接変換できることを示している。
【0073】
実施例4: シクロヘキサン中の改質剤[H3N(iPr)]Cl、[HN(Et)3]Clおよび[N(nBu)4]Clの影響
この実施例は、改質剤のイソプロピルアミン塩酸塩、トリエチルアミン塩酸塩、および塩化テトラ−n−ブチルアンモニウムを使用して、溶媒としてのシクロヘキサン中で高い活性および選択率で、1−ヘキセンをどのように製造できるかを示す。重ねて、溶媒のトルエンを乾燥シクロヘキサンと置き換えたことを除いて、実施例1の実験手法後に、触媒試験を行った。69mgのPNPNH−リガンド、0.1ミリモルのCr(acac)3、0.3ミリモルの改質剤および3mlの、ヘプタン中の1.3MのTEA溶液から触媒を調製した。実験条件は、T=55℃およびp=30バールとして選択した。
【0074】
GC分析は、92質量%超のC6−選択率および98質量%超の全C6−分画内での1−ヘキセン選択率を示す。図2は、単に触媒を適切に選択することにより、触媒活性を所望のレベルに都合よく調節できることを示している。
【0075】
実施例5: トルエン中の改質剤[H3N(iPr)]Clの影響
実施例4の代わりとして、溶媒としてトルエンを使用して、イソプロピルアミン塩酸塩の存在下での高活性触媒によっても、高い選択率で1−ヘキセンを製造できる。この実験について、69mgのPNPNH−リガンド、0.1ミリモルのCrCl3(THF)3、0.1ミリモルの[H3N(iPr)]Clおよび1.5mlの、トルエン中の1.9MのTEA溶液を100mlの無水トルエン中に溶解させた。触媒溶液を混合した直後、反応を50℃および30バールで開始した。再現性および一貫性の調査のために、0.05ミリモルの[H3N(iPr)]Clおよび一定のリガンド/Cr比、TEA/Cr比および改質剤/Cr比で実験を繰り返した。図3は、総触媒濃度を半分にすることにより、使用した触媒の絶対量に対する活性がより高まることを示している。このことは、エテンの取込み曲線2により明白であり、これは、曲線1の半分より高いレベルを示している。
【0076】
重ねて、GC分析は、エテンの取込み曲線を1−ヘキセン生成物形成曲線に直接変換できることを明白に示している。C6−選択率は全ての場合で92質量%より大きく、全C6−分画内での1−ヘキセン選択率は99質量%超であった。
【0077】
実施例6: CrCl3(THF)3と組み合わせた改質剤イソプロピルアミンの影響
前述したように、本発明の有利な作用は、例えば、CrCl3(THF)3などのハロゲン化物含有クロム源および遊離アミン、例えば、イソプロピルアミンを組み合わせることによって、もたらすことができる。この実施例について、69mgのPNPNH−リガンドを、0.1ミリモルのCrCl3(THF)3、0.2ミリモルのイソプロピルアミンおよび1.5mlの、100mlの無水トルエン中の1.9MのTEA溶液と混合した。反応を50℃(等温)および30バールのエテン圧力で直ちに開始した。関連するエテン消費により示される1−ヘキセンの形成の反応速度論が図4に示されている。GC分析は、93質量%超のC6−選択率を示しており、全C6−分画内での1−ヘキセン選択率は99質量%超であった。
【0078】
実施例7: クロム源Cr(III)アセチルアセトネートと組み合わせた改質剤[PPh4]Clの影響
Cr(III)アセチルアセトネートは特に有益なクロム源であるので、様々なプロセス条件下でこのクロム前駆体を使用した触媒試験に労力を費やしてきた。この実施例について、69mgのPNPNH−リガンドを、0.1ミリモルのCr(acac)3、0.4ミリモルの[PPh4]Cl、3mlの、トルエン中の1.9MのTEA溶液および100mlの無水トルエンと混合した。反応を、先の実施例に記載したように開始した。30バールのエテン圧力で様々な温度においていくつかの実験を行った。例示の結果が、70および80℃について、図5に示されている。80℃での全体の活性は、ある程度の熱的失活のために、70℃でよりもいくぶん低いが、両方の場合において、1−ヘキセンの選択率は優れたままであった。GCにより測定した選択率の数値は、先の実施例におけるものと同じであった。
【0079】
実施例8: 様々な溶媒:シクロヘキサン、1−ヘキセンおよびトルエン中でのCr(III)アセチルアセトネートとの改質剤イソプロピルアミン塩酸塩の影響
この実施例は、最も好ましい溶媒1−ヘキセンの使用を示す。生成物と同じであるだけでなく、図6に示されるように高い活性および選択率が保証されるので、溶媒としての1−ヘキセンが有益である。1−ヘキセンは、シクロヘキサンと共に、溶媒としてトルエンにさえ勝っている。この一連の実験について、69mgのPNPNH−リガンドを、0.1ミリモルのCr(acac)3、0.3ミリモルの[H3N(iPr)]Cl、および100mlのそれぞれの溶媒中の3.9ミリモルのTEAと混合した。温度は55℃であり、エテン圧力は30バールに選択した。GC分析は、先の実施例におけるものと同じ優れた全体の1−ヘキセン選択率を示した。
【0080】
実施例9: 改質剤HClの影響
この実施例は、意外なことに、無水塩化水素酸でさえ、PNPNH−リガンド/Cr/TEA−系にとって改質剤として適していることを示す。この一連の実験において、69mgのPNPNH−リガンド、0.1ミリモルのCr(acac)3、0.3ミリモルのHClおよび3mlの、トルエン中の1.9MのTEA溶液を100mlの無水トルエンと混合した。HClは、ジエチルエーテル中の1M溶液として加えた。反応条件は55℃および30バールであった。図7は、この触媒系の活性が、触媒系の成分の調製順序に依存するが、先の実施例において観察された活性数字に容易に到達できることを示している。また、実施例1〜8の場合のように、非常に高い1−ヘキセンの選択率が得られた。
【0081】
先の説明、特許請求の範囲および図面に開示された特徴は、別個とその任意の組合せの両方で、本発明を様々な形態で実現するための素材であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒組成物において、
(a) クロム化合物、
(b) R1、R2、R3、R4およびR5が、独立して、ハロゲン、アミノ、トリメチルシリル、C1〜C10アルキル、置換C1〜C10アルキル、アリールおよび置換アリールから選択される、一般構造R12P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−Hのリガンド、またはPNPNH−単位のPまたはN原子の少なくとも1つが環系の一員であり得、該環系が、置換によって、前記リガンドの1つ以上の構成化合物から形成される、前記リガンドの任意の環状誘導体、
(c) 有機または無機ハロゲン化物を含有する改質剤、および
(d) 活性剤または助触媒、
を含む触媒組成物。
【請求項2】
前記クロム化合物が、Cr(II)またはCr(III)の有機または無機塩、配位錯体および有機金属錯体から選択されることを特徴とする請求項1記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記改質剤が、E=NまたはP、X=Cl、BrまたはIであり、R=アルキル、シクロアルキル、アシル、アリール、アルケニル、アルキニルまたは対応する架橋ジ−、トリ−またはマルチユニットである、タイプ[H4E]X、[H3ER]X、[H2ER2]X、[HER3]Xまたは[ER4]Xのアンモニウムまたはホスホニウム塩;HX;またはRXから選択されることを特徴とする請求項1または2記載の触媒組成物。
【請求項4】
触媒組成物において、
(a’) ハロゲン化物含有クロム化合物、
(b) 一般構造R12P−N(R3)−P(R4)−N(R5)−Hのリガンドであって、R1、R2、R3、R4およびR5が、独立して、ハロゲン、アミノ、トリメチルシリル、C1〜C10アルキル、アリールおよび置換アリールから選択されるリガンド、
(c’) 遊離アミン基を含有する改質剤、および
(d) 活性剤または助触媒、
を含む触媒組成物。
【請求項5】
前記改質剤が、第一級、第二級または第三級の脂肪族または芳香族アミンから選択されることを特徴とする請求項4記載の触媒組成物。
【請求項6】
前記活性剤または助触媒が、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、エチルアルミニウムセスキクロライド、塩化ジエチルアルミニウム、二塩化エチルアルミニウム、メチルアルミノキサン(MAO)またはそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項7】
リガンド/Crモル比が0.5から50であることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項8】
Al/Crモル比が1:1から1000:1であることを特徴とする請求項6記載の触媒組成物。
【請求項9】
改質剤/Crモル比が0.01から100であることを特徴とする請求項1から8いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項10】
Cr/ハロゲン化物のモル比が1:1から1:20であることを特徴とする請求項1から9いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項11】
エチレンのオリゴマー化のためのプロセスにおいて、反応装置内において請求項1から10いずれか1項記載の触媒組成物をエチレンの気相に曝し、オリゴマー化を行う各工程を有してなるプロセス。
【請求項12】
前記オリゴマー化が1から200バールの圧力で行われることを特徴とする請求項11記載のプロセス。
【請求項13】
前記オリゴマー化が10から200℃の温度で行われることを特徴とする請求項11または12記載のプロセス。
【請求項14】
平均滞留時間が10分間から20時間であることを特徴とする請求項11から13いずれか1項記載のプロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−523306(P2012−523306A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503886(P2012−503886)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001842
【国際公開番号】WO2010/115520
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(507055615)リンデ アーゲー (29)
【氏名又は名称原語表記】LINDE AG
【出願人】(502132128)サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション (109)
【Fターム(参考)】