説明

エチレンオキシド触媒

事実上遷移金属及びレニウムを含まず、主にαアルミナなどの担体に被着された銀、アルカリ金属、硫黄及びホウ素成分から成り、場合によってはフッ素及び塩化物成分を含む、エチレンオキシド触媒を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、αアルミナなどの支持体上に被着させた銀、セシウムなどのアルカリ金属、ホウ素及び硫黄との組合せから成る、エチレンをエチレンオキシドに酸化するための触媒と、この触媒を使用したエチレンオキシドの製造に関する。場合によっては、フッ素又は塩化物成分を含めることもできる。基本的に、この触媒はレニウム又は遷移金属の成分を含まない。
【背景技術】
【0002】
エチレンオキシドの製造方法は、アルミナなどの担体に被着させた銀からなる固体触媒を使用して、エチレンを分子状酸素で気相酸化させるものである。エチレンオキシドを製造するための銀触媒の効果及び効率を向上させるために、多くの研究者たちが努力を払ってきた。特許文献1は、これまでの研究者たちの包括的な分析結果を示している。
【特許文献1】米国特許第5051395号明細書
【0003】
この分野において過去に多く引用されているものには、特許文献2(特許文献3も参照)があり、エチレン及びプロピレンオキシド製造用の銀触媒であり、不純物又はセメントとて処理済担体中に固定されたものの中では最も過剰であり、助触媒として適当量の、銅、金、マグネシウム、亜鉛、カドミウム、水銀、ストロンチウム、カルシウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、クロム、バナジウム及び/又は、好ましくはバリウムから成る触媒(第2欄、1〜15行)、
プロピレンオキシドを製造するための銀触媒であり、不純物又はセメントとして処理済担体中に固定されたものの中では最も過剰であり、助触媒として適当量のリチウム、カリウム、ナトリウム、ルビジウム、セシウム、銅、金、マグネシウム、亜鉛、カドミウム、ストロンチウム、カルシウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、クロム、バナジウム、及びバリウムから、少なくとも1種類を選択することにより構成された触媒(第2欄、16〜34行)、
ならびに(a)助触媒として適当量のナトリウム、セシウム、ルビジウム及び/又はカリウムと、(b)助触媒として働く量のマグネシウム、ストロンチウム、カルシウム、及び/又は好ましくはバリウムとを含む、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドを製造するための銀触媒(第3欄、5〜8行)を様々に示している。
【特許文献2】米国特許第4007135号明細書
【特許文献3】英国特許出願公開第1491447号公報
【0004】
特許文献4及び関連の特許文献5は、セシウム及び3b〜7b族元素のオキシアニオンから成る銀エチレンオキシド触媒に関する。
【特許文献4】米国特許第5057481号明細書
【特許文献5】米国特許第4908343号明細書
【0005】
特許文献6は、5b族及び6b族元素の化合物により改変された元素銀から成る、プロピレンをプロピレンオキシドに酸化するのに適した触媒を記載している。担体の使用は示されているが、例は示されてない。また、セシウムの使用は示されていない。
【特許文献6】米国特許第3888889号明細書
【0006】
特許文献7では、レニウムを助触媒とする担持銀触媒及び、使用可能なコプロモータ(copromoter)が多種類示されている。
【特許文献7】欧州公開第0266015号公報
【0007】
特許文献8では、銀を含浸させた触媒であり、セシウムなど少なくとも1種のカチオン助触媒、ならびに(i)硫酸アニオン、(ii)フッ化アニオン、及び(iii)周期表の3b〜6b族の元素のオキシアニオンを含む助触媒を、その上に有した担体で構成された、エチレンオキシドの生成に適した触媒を開示している。これは特許請求している触媒の範囲外にあり、比較のために同特許は支持体上のAg/Cs/S/Fから成る触媒No.6を、第21欄及び第22欄に示していると思われる。
【特許文献8】米国特許第5102848号明細書
【0008】
特許文献9は、アルカリ金属、レニウム、及び、希土類又はランタノイドの成分を助触媒とする銀触媒を記載している。
【特許文献9】米国特許第5486628号明細書
【0009】
特許文献10は、アルミナ支持体上に被着させた銀、アルカリ金属、遷移金属、及び、硫黄から成るエチレンオキシド触媒に関するものである。商用銀エチレンオキシド触媒の調製に一般に好まれる担体は、アルミナやシリカなどの固体無機材料又はチタニアベースの化合物、又はそれらの組合せであった。αアルミナは、シリカを含んでもよく、特に好ましい担体であった。様々な特許が、これらの実用性を向上させるべく、かかる担体の前処理に焦点を当ててきた。例えば、特許文献11は、触媒成分を被着する前に、90℃の水を用いてαアルミナ担体を反復して洗浄することを示している。同特許において、担体は25℃のHF溶液でも洗浄された。より最近の特許文献12では同様に、エチレンオキシド触媒の調製において、触媒成分を被着する前に、90℃の水でαアルミナ担体を反復して洗浄することを示している。
【特許文献10】米国特許第5011807号明細書
【特許文献11】米国特許第5102648号明細書
【特許文献12】米国特許第6103916号明細書
【0010】
従来技術はまた、触媒の性能が特にホウ酸タリウムの添加によって向上することを示している(特許文献13、1982年2月4日公開)。また特許文献14(1981年8月22日公開)は、Mo又はWと一緒にホウ素を添加することによって触媒の改善が得られることを示している。特許文献13及び特許文献14のどちらにおいても、担体には0.07%を超えるNaを含むべきでないとしている。これは銀エチレンオキシド触媒にナトリウム及びホウ素を共に添加することの利点を開示している特許文献15(1980年公開)とは対照的である。
【特許文献13】特開昭57−21937号公報
【特許文献14】特開昭56−1055750号公報
【特許文献15】英国特許出願公開第1571123号公報
【0011】
以下に示す一群の特許では、ホウ素がレニウムコプロモータ(copromoter)として開示されている。この一群の特許では、「触媒がレニウムを含む場合、レニウムコプロモータも含むことが好ましい。コプロモータを利用するときは、硫黄、モリブデン、タングステン、クロム、リン、ホウ素、及びそれらの混合物から成る群からそれを選択する。」と明確に述べている。この一群の特許の例は、特許文献16、特許文献17、特許文献18、特許文献19、特許文献20、特許文献21、特許文献22、特許文献23、特許文献24、特許文献25、特許文献26、及び特許文献27である。
【特許文献16】米国特許第5545603号明細書
【特許文献17】米国特許第5663385号明細書
【特許文献18】米国特許第5739075号明細書
【特許文献19】米国特許第5801259号明細書
【特許文献20】米国特許第5929259号明細書
【特許文献21】米国特許第6372925号明細書
【特許文献22】米国特許第6368998号明細書
【特許文献23】欧州公開第0900123B1号明細書
【特許文献24】欧州公開第0874688B1号明細書
【特許文献25】欧州公開第0716884B1号明細書
【特許文献26】PCT/EP97/01622
【特許文献27】PCT/EP97/02236
【0012】
αアルミナ担体の調製法において、ホウ酸又はその塩を、融剤(flux agent)として粉末アルミナに添加するのが通例である。これは、非特許文献28、及び非特許文献29、に明確に例示されている。担体を焼成する前にホウ酸又はその塩を粉末アルミナに添加することは、特許文献28、特許文献29、特許文献30及び特許文献31に開示されている。
【非特許文献1】W.Wingeryら、「Introduction to ceramics」、第2版、1976年、8頁
【非特許文献2】M.Bengisu、「Engineering Ceramics」、2001年、157頁
【特許文献28】米国特許第5100824号明細書
【特許文献29】米国特許第5145824号明細書
【特許文献30】米国特許第5384302号明細書
【特許文献31】国際公開WO97/40933
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本出願人は、多くの相反する内容であり、困惑を招く大量の参考文献がある中、エチレンオキシド製造用の新規に改善された触媒を発見した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、アルカリ金属成分、好ましくはセシウム、及び硫黄成分とホウ素成分からなる組合せ助触媒を含む改善されたエチレンオキシド用の担持銀触媒、及びこの触媒の調製と使用に関する。この触媒は、基本的にレニウム及び遷移金属成分を含まず、場合によってはフッ素又は塩化物成分を含むことができる。
【0015】
本発明者らは、助触媒として働く濃度のホウ素及び硫黄を、金属銀及びアルカリ金属の塩の沈殿と共に、担体表面に共沈したとき、エチレンオキシド製造用の触媒の性能が大幅に向上することを発見した。この新しい発明では、従来技術では添加されている助触媒Ti、Mo、W、あるいはReのいずれの存在も必要とせず、実際には排除をしている。
【0016】
本発明では、ホウ素は、例えばホウ酸、ホウ酸アンモニウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸セシウムなど、任意に可溶性の形で含浸溶液に添加してよい。硫黄成分は、硫酸塩、例えば硫酸セシウム、硫酸アンモニウムなどとして含浸溶液に添加してよい。米国特許第4766105号は、例えば第10欄53〜60行に硫黄助触媒の使用を記載しており、この開示を参照することにより本明細書に組み込む。硫黄の量は、触媒の重量に対して、元素の量で5〜300重量ppmの範囲が好ましい。他に使用してよい硫黄化合物は、硫酸セシウム、硫酸カリウム、硫化アンモニウム、あるいはスルホン酸である。これらホウ素及び硫黄化合物の例は、限定的なものではなく、例としてのみ述べたものである。
【0017】
また、ホウ素及び/又はS化合物は、別の段階で触媒に添加してもよい。これは、実施例の項で例示するように、含浸段階の前又は後に、ホウ素及び/又は硫黄化合物を適当な溶媒に溶解させ、それに続いて標準法を使用して触媒の含浸を行うことによって実施してよい。含浸段階後にホウ素及び/又は硫黄化合物を添加すると、場合によって含浸の早期に被着されたアルカリ金属の量に影響が出ることがある。従って、含浸後に使用する溶液が、触媒表面に必要とされるアルカリ金属塩の少なくとも一部を含むことが必須である。
【0018】
ほとんどの場合、ホウ素は担体の表面上及び表面直下に存在する。ホウ素は、担体の含浸段階で粉末アルミナ及びシリカと混合される一般的な融剤である。このホウ素は担体の表面上及び表面直下に存在するが、そのほとんどが表面のシリカ及びアルミナと安定した化合物を形成するので、触媒の性能に所望の改善をもたらすことができない。
【0019】
ホウ素成分の量は、触媒の重量に対して、ホウ素として5〜500ppm、好ましくは20〜100ppmである。アルカリ金属助触媒の量は、触媒の重量に対してアルカリ金属として3000ppm以下であり、触媒には、その重量に対してアルカリ金属を400〜1500ppm含むことが好ましく、500〜1200ppmを含むことがより好ましい。リチウム、カリウム、ルビジウム、及び2種以上のアルカリ金属の混合物も使用できるが、アルカリ金属がセシウムであることが好ましい。
【0020】
また、触媒はその重量に対して元素として10〜300重量ppmの、フッ素助触媒を含んでよい。フッ化アンモニウム、アルカリ金属のフッ化物などが使用できる、
【0021】
本発明に従って調製される好ましい触媒は、金属として最高で約30重量%の銀を含み、多孔質の耐火性担体の表面及び細孔全体に被着させた。触媒全体の20重量%を超える銀含有量が有効であるが、必要以上に高価な触媒になる。銀含有量は、触媒全体の重量に対して金属として約5〜20%が好ましく、8〜15%の銀含有量が特に好ましい。
【0022】
この触媒はアルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、又はそれらの組合せを含む担体で作製される。担体は、主にαアルミナを含むものが好ましく、最高約15重量%のシリカを含むものが特に良い。担体は、0.1〜1.0cc/gの多孔度を有することが好ましく、約0.2〜0.7cc/gが特に良い。また、比較的表面積が小さい担体が好ましく、すなわちBET法で決定して約0.2〜2.0m/g、好ましくは0.4〜1.6m/g、最も好ましくは0.5〜1,3m/gの表面積を有するものである。非特許文献3を参照のこと。多孔度は水銀ポロシメータ法で決定する。非特許文献4を参照のこと。細孔及び細孔直径分布は、表面積及び見かけの多孔度の測定値から決定される。
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.60、3098〜15頁、(1938年)
【非特許文献4】Drake及びRitter、「Ind.Eng.Chem.anal編」17、787頁、(1945年)
【0023】
商業用エチレンオキシド製造の応用例で使用する場合は、担体は通常通りに成形されたペレット、球、リングなどに形成することが望ましい。この担体粒子は、3〜10mmの範囲、好ましくは、4〜8mmの範囲の「相当の直径」を有することができるのが望ましく、これは通常、触媒が取り付けられる管の内径と一致する。「相当の直径」とは、使用される担体粒子と同じ外部表面(粒子の細孔内の表面積は無視)の体積比率を有する球の直径である。
【0024】
銀は、担体を銀含浸溶液に浸漬することにより、又は初期湿式法(incipient wetness technique)により担体に加えることが好ましい。この銀含有液は、吸収、毛細管作用、及び/又は真空によって担体の細孔へ浸透する。溶液中の銀塩濃度に応じて、1回の含浸か、又は中間に乾燥を挟む、もしくは挟まない、一連の含浸をある程度使用することができる。一般に、好ましい範囲内の銀含有量を有する触媒を得るための適切な含浸溶液は、金属として5〜50重量%の銀を含む。もちろん、使用される厳密な濃度は、様々なファクタのうちでも、とりわけ所望の銀含有量、担体の性質、液体の粘度、及び銀化合物の可溶性に依存する。
【0025】
含浸溶液は、すでに指摘したように、銀/アミン溶液であることを特徴とし、特許文献32に十分に記載されているものが好ましい。この開示は参照することにより本明細書に組み込まれる。特許文献33に記載の含浸手順が、セシウム成分に使用するのに有利である。
【特許文献32】米国特許第3702259号
【特許文献33】米国特許第3962136号
【0026】
様々な助触媒を前被着、共被着(co−deposition)、及び後被着(post−deposition)するため、既知の従来手順を使用することができる。
【0027】
含浸後は余分な含浸溶液を分離し、銀及び1種あるいは複数の助触媒を含浸させた担体を、か焼又は活性化する。本発明を最も好ましく実施するには、1996年4月2日に授与され、本願の譲受人に譲渡された特許文献34及び1996年1月16日に出願された共願の特許文献35に記載のように、か焼を行う。これらの開示は参照することにより本明細書に組み込まれる。か焼は、含浸された担体を、好ましくはゆっくりした速度で、120℃〜500℃の範囲の温度まで、含まれている銀を金属銀に変換し、有機物質を分解してそれを揮発分として除去するのに十分な時間、加熱することによって行われる。
【特許文献34】米国特許第5504052号
【特許文献35】米国特許出願08/587281号
【0028】
この全手順中、300℃を越えている間は、含浸された担体を不活性雰囲気に保持した。特定の理論に拘泥するものではないが、300℃以上の温度でかなりの量の酸素が銀内部に吸収され、そこで触媒の特性に悪影響を及ぼすと考えられる。本発明で使用する不活性雰囲気では、基本的に酸素を含まない。
【0029】
別のか焼方法としては、空気流中で300℃を越えない温度、好ましくは280℃を超えない温度で、触媒を加熱することである。
【0030】
本発明に従って調製された、分子状の酸素を用いたエチレンの気相酸化によりエチレンオキシドを製造するための触媒は、改善された性能、特に安定性を有する。それは通常、約150℃から400℃、通常約200℃〜300℃の反応温度、及び0.5〜35バールの反応圧力を要する。供給反応体混合物は、0.5〜30%のエチレン及び3〜15%の酸素を含み、その他は窒素、二酸化炭素、メタン、エタン、アルゴンなどの物質を含めて比較的不活性な物質を含んでいる。通常、触媒上を1回通過する際には、このエチレンの一部しか反応しないので、求めるエチレンオキシド生成物を分離した後、不活性成分及び/又は副生物が無制御に蓄積するのを防ぐために適当なパージを行い、二酸化炭素を取り除いた後、未反応物質を酸化反応器に戻す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下の実施例は、本発明を例示するものである。
【0032】
(実施例1)
使用した担体は、表面積の小さいアルミナ担体であり、表面積が0.9m/g、水分吸収率が31.2cc/100gである。
【0033】
担体の前処理
ステップ1:処理溶液(NHOH水溶液)は、必要量の水酸化アンモニウムを添加してpHが11.0になるように調節した。500gの担体のサンプルを圧力容器に入れ、次いで圧力が50mmHgに低下するまで真空に曝した。真空下においたまま、1500mlの処理溶液をこのフラスコに投入した。
【0034】
すべての溶液を添加すると、容器の圧力は大気圧まで上昇した。担体及び液体をジャケット付き添加漏斗に移し、液体を担体の床を通して循環させた。溶液は、約5L/時の速度で漏斗の最上部に絶えず流した。溶液はまた、同じ速度で漏斗の底から排出し、漏斗内の溶液の水位は、担体の高さより約1インチ高くなるように維持した。高温の液体をジャケット内に循環させて、その温度を65℃に保持した。
【0035】
ステップ2:30分後、この溶液を排出して秤量し、分析のために保存した。新しい処理溶液1500mlを加え、さらに30分間、手順を繰り返した。このステップを、合計5回の洗浄サイクルで繰り返した。
【0036】
ステップ3:最後のサイクルの後、室温1500mlの水で30分間、担体を洗浄した。
【0037】
ステップ4:水洗浄をもう一度繰り返し、次いで液体を排出し、担体を150℃で5時間乾燥した。
【0038】
原液の調製
銀/アミン錯体の原液の調製。以下の化合物を使用して銀溶液を調製した(部は質量である)。
酸化銀 834部
シュウ酸 444部
エチレンジアミン 566部
【0039】
酸化銀を、室温で水と混合し、次いでシュウ酸を徐々に添加した。混合物を15分間攪拌すると、この時点で酸化銀の黒色の懸濁液の色は、シュウ酸銀の灰色/茶色に変化した。この混合物をろ過し、固形物を3リットルの純水で洗浄した。
【0040】
反応温度を33℃未満に維持するために、サンプルを氷浴に入れ、エチレンジアミンと水(66%/34%の混合物)をゆっくり添加しながら攪拌した。エチレンジアミン/水混合液をすべて添加した後、この溶液を室温でろ過した。この透明なろ液を、銀/アミン原液として触媒の調製に利用した。
【0041】
触媒の調製と試験
a.助触媒の添加
上で得た透明の銀原液を、エチレンジアミン/水の66/34混合液で希釈した。さらに、銀11.5%、硫黄90ppm、セシウム1200ppm、ホウ素100ppmを含む触媒を調製するために、水酸化セシウム、硫酸アンモニウム、及びホウ酸を溶液に添加した。
【0042】
b.触媒の含浸
150gの担体試料を圧力容器に入れ、圧力が50mmHgに低下するまで真空に曝した。調製した銀/助触媒溶液200mlを、真空下のままフラスコに投入した。容器内の圧力は大気圧まで上昇し、内容物は数分間振とうした。触媒を溶液から分離した。以上により、すぐにか焼できる状態になった。
【0043】
c.触媒のか焼
か焼、すなわち銀の被着は、銀塩の分解温度まで触媒を加熱することにより開始させた。これは、制御された雰囲気中で、数台の熱源を備えた炉で加熱することによって行った。触媒は、周囲温度で炉に入る移動ベルトに載せた。触媒が1つのゾーンから次のゾーンへと通過していくにつれて、温度を徐々に上昇させた。触媒が7つの加熱ゾーンを通過すると、温度は400℃まで上昇した。加熱ゾーンの後、ベルトは100℃より低い温度まで徐々に触媒を冷却する冷却ゾーンを通過した。炉内での全滞留時間は、22分であった。炉の雰囲気は、別々の加熱ゾーンで窒素流を使用することによって制御した。
【0044】
d.触媒の試験
触媒は、溶融塩浴で加熱されたステンレス鋼管中で試験した。エチレン15%、酸素7%、及び主に窒素と二酸化炭素の不活性物78%から成るガス混合物を300psigで触媒中に通した。反応温度は、最初、触媒1m当たり毎時160kgのエチレンオキシド生成率が得られるように調節した。
【0045】
(比較例2)
硫黄化合物を添加しないことを除き、実施例1を繰り返した。
【0046】
(比較例3)
ホウ素化合物を添加しないことを除き、実施例1を繰り返した。
これらの触媒の試験結果を表1にまとめる。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示す結果から、本発明の触媒は、レニウム又は遷移金属を添加しない、エチレンオキシドの製造において目覚しい結果を与えることがわかる。比較すると、ホウ素成分又は硫黄成分のいずれかを使用しないと、大幅に劣った結果が得られる。
【0049】
(実施例4〜6)
第2系列目となる一連の触媒を、実施例1で述べた一般的手順で調製し、試験した。この一連の触媒では、担体の前処理でpH値を12に調節した水酸化リチウム溶液を使用した。必要により少量のLiOHを加えることで、前処理の手順全体を通して、このpH値を維持した。
【0050】
銀含浸溶液に添加した助触媒は、水酸化セシウム、硫酸セシウム、及びホウ酸カリウムであった。これらの助触媒は、表2に示す組成の触媒となるように、
十分な量を添加した。
【0051】
【表2】

【0052】
(実施例7)
この実施例では、担体の前処理において85℃で0.015Nのフッ化アンモニウム溶液を使用した。銀含浸溶液に添加した助触媒は、水酸化セシウム、硫酸セシウム、及びホウ酸アンモニウムとした。これらの助触媒には、触媒が得られる十分な量として、銀12%、セシウム800ppm,及び硫黄80ppmを添加した。実施例1で述べたように、触媒を試験すると、84.9%の選択性が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンをエチレンオキシドに酸化する触媒であり、固体支持体上に被着させた銀から成り、主に(1)アルカリ金属成分、(2)ホウ素成分、及び(3)硫黄成分から成る助触媒と、その組合せを含むものであり、レニウム及び遷移金属を含まない触媒。
【請求項2】
アルカリ金属成分がセシウムである請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
ホウ素成分の量が5〜500ppmである請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
セシウム成分の量が400〜1500ppmである請求項2に記載の触媒。
【請求項5】
担体がαアルミナである請求項1に記載の触媒。
【請求項6】
5〜20重量%の銀を含む請求項1に記載の触媒。
【請求項7】
10〜300ppmのフッ素成分をさらに含む請求項1に記載の触媒。
【請求項8】
請求項1に記載の触媒の存在下でエチレンと分子状の酸素とを反応させることを含むエチレンオキシドを製造するための方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体支持体上に被着させた銀から成り、(1)触媒の重量に対してアルカリ金属成分400〜1500ppm、(2)触媒の重量に対してホウ素成分5〜500ppm、および(3)触媒の重量に対して硫黄成分5〜300ppmから成る助触媒の組合せを含む、エチレンをエチレンオキシドに酸化するための、レニウムおよび遷移金属を含まない触媒。
【請求項2】
前記アルカリ金属成分がセシウムである請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記担体がαアルミナである請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
触媒の重量に対して10〜300ppmのフッ素成分をさらに含む請求項1に記載の触媒。
【請求項5】
5〜20重量%の銀を含む請求項1に記載の触媒。
【請求項6】
請求項1に記載の触媒の存在下でエチレンと分子状の酸素とを反応させることを含むエチレンオキシドを製造するための方法。


【公表番号】特表2006−524129(P2006−524129A)
【公表日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509578(P2006−509578)
【出願日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【国際出願番号】PCT/US2004/010023
【国際公開番号】WO2004/094054
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(591105890)サイエンティフィック・デザイン・カンパニー・インコーポレーテッド (9)
【氏名又は名称原語表記】SCIENTIFIC DESIGN COMPANY INCORPORATED
【Fターム(参考)】