説明

エッチング用組成物及びエッチング方法

【課題】リン酸系の窒化ケイ素のエッチング用組成物では、長時間使用すると酸化ケイ素の析出があり、長期間安定に用いられるものがなかった。
【解決手段】リン化合物、ホウ素化合物及び/又はそれらのフッ化物を含んでなる窒化ケイ素のエッチング用組成物では、長時間の使用においても酸化ケイ素の析出がない。さらに可溶性ケイ素化合物を含むものは、酸化ケイ素の析出がなくなおかつ酸化ケイ素に対する窒化ケイ素のエッチング選択比も高い。さらに硝酸及び/又は硝酸塩を添加すると選択性の安定性が高まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化ケイ素のエッチング用組成物に関する。更には、半導体デバイスやフラットパネルディスプレー等の絶縁膜に使用される窒化ケイ素をエッチングできる組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素は、セラミックス材料、半導体用材料として非常に重要な化合物である。半導体の製造工程には、酸化ケイ素にダメージを与えることなく、窒化ケイ素のみ選択的にエッチングすることが必要な工程がある。現在、この工程には高純度リン酸が主に使用されている。しかし高純度リン酸では150℃以上という高温で使用した場合、酸化ケイ素のダメージが大きいという問題があった。
【0003】
酸化ケイ素のダメージを抑制する方法としてケイ素を溶解した高純度リン酸、又はヘキサフルオロケイ酸を添加したリン酸が提案されている。(特許文献1〜3参照)しかし、ヘキサフルオロケイ酸は揮発し易い物質であり、使用温度150℃以上では、ヘキサフルオロケイ酸が揮発し、安定な添加効果が得られず、エッチング液の連続使用が困難であった。またヘキサフルオロケイ酸を添加した場合、エッチング液から不溶性のケイ素化合物の析出が早まり、工業的に使用するには問題があった。
【0004】
一方、半導体ウェットエッチング装置では、清浄に保つためエッチング液をろ過循環しエッチング液中のゴミ等を除去しながらエッチングを行っている。加熱した燐酸水溶液による窒化ケイ素のエッチングにおいても、同様にろ過循環して析出物を除去する方法が提案されている(特許文献4)。しかしながら、析出したケイ素酸化物はろ過される前に半導体ウエハなどに付着してしまう問題があった。
【0005】
100℃以下の温度で窒化ケイ素をエッチングする方法としてリン酸、フッ化水素酸、硝酸からなるエッチング液にフルオロケイ酸又はフルオロケイ酸塩を添加する方法が開示されている。しかし、リン酸にフッ化水素酸及び硝酸の双方を添加したエッチング用組成物では他の半導体材料である酸化ケイ素のダメージが大きく、半導体プロセスに用いるには問題があり、特に、高温で用いた場合には悪影響がさらに顕著であった。
【0006】
このように、これまで窒化ケイ素を高温で長期間安定的に選択的にエッチングできるエッチング用組成物はなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平6−349808号公報
【特許文献2】特開2000−133631号公報
【特許文献3】特開平8−64574号公報
【特許文献4】特公平3−20895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記の課題に鑑みて、高純度リン酸によるケイ素酸化物へのダメージ及び析出を抑制し、リン酸エッチング液の入れ替え頻度を少なくでき、すなわちリン酸エッチング液を長期にわたり安定に使用できるエッチング用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、窒化ケイ素のエッチングについて鋭意検討した結果、リン化合物、ホウ素化合物及び/又はそれらの弗化物、と水を含んで成るエッチング用組成物では、従来のリン酸エッチング液よりケイ素酸化物ダメージ及び析出を抑制でき、長期安定的に窒化ケイ素をエッチング除去できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0011】
本発明の窒化ケイ素のエッチング組成物は、リン化合物、ホウ素化合物及び/又はそれらの弗化物、及び水を含んでなるものである。
【0012】
本発明のエッチング用組成物に使用されるリン化合物は、リン酸、フッ化燐であるが、用いるリン酸、フッ化燐に特に制限は無く、一般に流通しているものを使用することができる。
【0013】
本発明のエッチング用組成物に使用されるフッ化リンは、三フッ化リン、五フッ化リン、HPF,HPO,HPOFなどのフルオロリン酸、フルオロリン酸アンモニウムなどのフルオロリン酸塩から成る群より選ばれる少なくとも一種である。
【0014】
本発明のエッチング用組成物に使用されるホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸アンモニウムなどのホウ酸塩、三フッ化ホウ素、HBF,HBF(OH),HBF(OH),HBF(OH)などのフルオロホウ酸、フルオロホウ酸アンモニウムなどのフルオロホウ酸塩から成る群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0015】
本発明のエッチング用組成物は、リン酸、0.001〜10重量%のホウ素化合物及び/又はフッ化リン、1〜30重量%の水からなり、0.001〜1重量%のホウ素化合物、15〜30重量%の水からなる組成が特に好ましい。
【0016】
ホウ素化合物及び/又はフッ化リンが0.001重量%未満であると、ケイ素酸化物の析出を抑制する効果が小さく、10重量%を超えるホウ素化合物及び/又はフッ化リンを添加すると、シリコン酸化膜などエッチングしてはならない材料がエッチングされ易くなる。また1重量%未満の水では窒化ケイ素のエッチング速度が低く、30重量%を超える水では、エッチング用組成物の沸点が下がり、エッチングに適する温度を維持できなくなる。工業的にはホウ素化合物及び/又はフッ化リンは0.01〜0.2重量%の範囲が特に好ましい。
【0017】
本発明のエッチング組成物のホウ素含有量は、窒化ケイ素のエッチング速度、酸化ケイ素の析出抑制、さらに選択比の安定の観点から、0.014重量%以上であることが好ましく、更に好ましくは0.014重量%〜10重量%、0.014重量%〜5重量%が特に好ましい。
【0018】
本発明のエッチング用組成物には、可溶性ケイ素化合物を添加することが好ましい。可溶性ケイ素化合物を添加すると、シリコン酸化膜へのダメージを低減することができる。可溶性ケイ素化合物としては、ケイ酸、ケイ酸塩、ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロケイ酸塩、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランなどのアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシランなどのアルキルシラン類が特に好ましいが、それ以外の可溶性ケイ素化合物を使用しても一向に差し支えない。ケイ酸塩、ヘキサフルオロケイ酸塩としては、アンモニウム塩が好ましい。ケイ酸、ケイ酸塩は、ケイ素酸化物などを硫酸や燐酸
に添加し、加熱して溶解させたものを使用しても良い。ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロケイ酸塩は、工業的に流通しているものを使用しても良いし、ケイ酸にフッ化水素酸を反応させ、さらにこれを塩にしても良い。
【0019】
本発明のエッチング用組成物における可溶性ケイ素化合物の濃度は、0〜0.5重量%、特に0.001〜0.1重量%が好ましい。0.5重量%以上添加すると、ケイ素酸化物が析出するおそれがある。
【0020】
本発明のエッチング組成物のケイ素含有量は0.001〜0.01重量%、フッ素含有量は0.010〜0.050重量%が特に好ましく、更に好ましくは、ケイ素含有量が0.004〜0.005重量%、フッ素含有量が0.016〜0.020重量%である。ケイ素含有量が0.001重量%未満では、使用バッチ初期の酸化ケイ素のエッチング速度が大きく、初期バッチの選択比が低く安定し難い。一方、0.01重量%以上では、バッチ処理の繰り返しにつれて窒化ケイ素のエッチング速度が低下し、選択比も安定し難い。
【0021】
本発明のエッチング用組成物ではバッチ初期から高い選択性が得られ、なおかつ長期に安定性が維持されるものである。この様な特性が得られる原因は必ずしも定かではないが、エッチング組成物中でホウ素とケイ素とフッ素(フッ酸)の複合化物が形成され、極めて安定な状態が維持されていると考えられる。
【0022】
本発明のエッチング用組成物には、硝酸及び/又は硝酸塩を添加することが好ましい。硝酸及び/又は硝酸塩を添加すると、シリコン酸化膜へのダメージを低減することができる。特にリン化合物、ホウ素化合物及び/又はそれらのフッ化物と硝酸及び/又は硝酸塩を併用して用いた場合、バッチ処理を繰り返しても酸化ケイ素に対する窒化ケイ素の選択エッチング性の変動が小さく、極めて安定性が高くなる。硝酸塩としては硝酸アンモニウムを使用することが好ましい。
【0023】
本発明のエッチング用組成物における硝酸及び/又は硝酸塩の濃度は、0〜20重量%、特に0.0001〜10重量%、さらに0.01〜1重量%、とりわけ0.01〜0.2重量%が好ましい。一方、20重量%以上添加すると、窒化ケイ素のエッチング速度が低下する。
【0024】
本発明のエッチング用組成物は、窒化ケイ素のエッチング、特に半導体デバイス、フラットパネルディスプレーの絶縁膜として使用される窒化ケイ素のエッチングに利用において優れた性能を発揮する。半導体デバイスにおいて、窒化ケイ素は、半導体基板上にCVD法(化学気相成長)などで成膜されるが、素子、回路を形成するためには、エッチングで不要な部分を取り除く必要がある。本発明のエッチング用組成物を使用すれば、窒化ケイ素を選択的、かつ長期安定的にエッチングすることができる。
【0025】
本発明のエッチング用組成物を使用する時の温度は、120〜180℃、好ましくは130〜170℃である。180℃を超える温度では、窒化ケイ素以外の半導体材料に対してダメージが発生し易く、120℃未満の温度では、工業的に満足できる速度で窒化ケイ素をエッチングすることが難しい。
【0026】
本発明のエッチング用組成物を使用する際、窒化ケイ素のエッチングに伴い、エッチング液中にケイ素の濃度が高くなる。したがって、これを避けるためリン化合物、ホウ素化合物及び/又はそれらのフッ化物を追加添加することができる。ホウ素化合物、又はフッ化リンはホウ素化合物単独で添加しても良いし、ホウ素化合物及び/又はフッ化リンを含む本発明のエッチング用組成物として添加しても良い。
【0027】
またバッチ処理を繰り返す場合には、本発明のエッチング組成物の一部の成分が消費、或いは揮発し、本発明の効果が低下する場合があるため、本発明のエッチング組成物中のリン化合物、ホウ素化合物、ケイ素化合物及び/又はそれらのフッ化物、硝酸及び/又は硝酸塩、水のいずれか一種以上を適宜追加しながら用いてもよい。
【0028】
本発明のエッチング用組成物を使用し、窒化ケイ素をエッチングする際、超音波などを使用し、エッチングを促進しても良い。
【発明の効果】
【0029】
本発明のエッチング用組成物では、窒化ケイ素のエッチングに対する選択性が高く、長期間のエッチングにおいて酸化ケイ素の過度の溶解あるいは析出がなく、窒化ケイ素を選択的にエッチングできるため、生産性が高い。
【実施例】
【0030】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
実施例1
フルオロホウ酸0.02%、アンモニア0.002%、水5%、残部リン酸からなるエッチング組成物100gに、SiNをCVD法により300nmの厚みに成膜したシリコンウエハ(15mm角の正方形)及び熱酸化膜1000nmの厚みに成膜したシリコンウエハ(15mm角の正方形)を150℃で30分間浸漬した。ウエハを取り出し、水洗、乾燥の後、光干渉式膜厚計でSiN、及び熱酸化膜の膜厚を測定した。これを、1バッチとして連続的に14バッチ繰り返した。14バッチ目のSiNエッチング速度は、6.10nm/minであり、熱酸化膜のエッチング速度は0.03nm/minであった。1
4バッチ目においても、熱酸化膜上にケイ素酸化物の析出は認められず、熱酸化膜はわずかにエッチングされていた。
【0032】
当該エッチング組成物では、最初は可溶性ケイ酸を含まない状態から出発したが、当該組成物は使用開始直後から可溶性ケイ酸を含む状態となった。各バッチにおける窒化ケイ素と酸化ケイ素のエッチング選択比率(窒化ケイ素/酸化ケイ素)を調べたところ、1バッチ目の18から、14バッチ目で130に向上した。
【0033】
実施例2
実施例1の組成にさらにヘキサフルオロケイ酸を0.03%添加した組成物を用いて、実施例1と同様の条件で窒化ケイ素のエッチングを行った。
【0034】
14バッチ目においてもケイ素酸化物の析出は認められなかった。
【0035】
窒化ケイ素と酸化ケイ素の選択比は1バッチ目から220であり、当初から高い選択比であった。
【0036】
実施例3
実施例1の組成においてフルオロホウ酸0.02%をフルオロリン酸0.02%に変更した組成物を用いて、実施例1と同様の条件で窒化ケイ素のエッチングを行った。
【0037】
14バッチ目のSiNエッチング速度は、6.00nm/minであり、熱酸化膜のエッチング速度は0.06nm/minであった。14バッチ目においても、熱酸化膜上にケイ素酸化物の析出は認められず、熱酸化膜はわずかにエッチングされていた。
【0038】
当該エッチング組成物では、最初は可溶性ケイ酸を含まない状態から出発したが、当該組成物は使用開始直後から可溶性ケイ酸を含む状態であった。各バッチにおける窒化ケイ素と酸化ケイ素のエッチング選択比率(窒化ケイ素/酸化ケイ素)を調べたところ、1バッチ目は15であったが、14バッチ目は100であった。
【0039】
実施例4
実施例1の組成においてフルオロホウ酸0.02%をフルオロホウ酸0.01%及びフルオロリン酸0.01%に変更した組成物を用いて、実施例1と同様の条件で窒化ケイ素のエッチングを行った。
【0040】
14バッチ目のSiNエッチング速度は、6.00nm/minであり、熱酸化膜のエッチング速度は0.05nm/minであった。14バッチ目においても、熱酸化膜上にケイ素酸化物の析出は認められず、熱酸化膜はわずかにエッチングされていた。
【0041】
当該エッチング組成物では、最初は可溶性ケイ酸を含まない状態から出発したが、当該組成物は使用開始直後から可溶性ケイ酸を含む状態であった。各バッチにおける窒化ケイ素と酸化ケイ素のエッチング選択比率(窒化ケイ素/酸化ケイ素)を調べたところ、1バッチ目は16であったが、14バッチ目は120であった。
【0042】
実施例5
実施例1の組成にさらにヘキサフルオロケイ酸を0.03%添加した組成物を用いて、実施例1と同様の条件で窒化ケイ素のエッチングを行った。
【0043】
0.02%フルオロホウ酸を4%/バッチ毎添加し、14バッチ目においてもケイ素酸化物の析出は認められなかった。
【0044】
窒化ケイ素と酸化ケイ素の選択比は1バッチ目から200であり、当初から高い選択比が得られた。
【0045】
実施例6
実施例5の組成においてフルオロホウ酸0.02%をフルオロホウ酸0.05%に変更し、さらに硝酸を0.1%添加した組成物を用いて、実施例5と同様の条件で窒化ケイ素のエッチングを行った。
【0046】
0.05%フルオロホウ酸を4%/バッチ毎添加し、1バッチ目のSiNエッチング速度は、5.42nm/min、12バッチ目のSiNエッチング速度は、5.00nm/minであり、熱酸化膜のエッチング速度は0.01nm/minであった。12バッチ目においても、熱酸化膜上にケイ素酸化物の析出は認められず、熱酸化膜はわずかに
エッチングされていただけであった。
【0047】
各バッチにおける窒化ケイ素と酸化ケイ素のエッチング選択比率(窒化ケイ素/酸化ケイ素)を調べたところ、1バッチ目は325と当初から高い選択比であり、12バッチ目も440で、高い選択比が維持された。
【0048】
実施例7
実施例6の組成において硝酸0.1%を硝酸1%に変更した組成物を用いて、実施例5と同様の条件で窒化ケイ素のエッチングを行った。
【0049】
1バッチ目のSiNエッチング速度は、5.57nm/min、12バッチ目のSiNエッチング速度は、5.02nm/minであり、熱酸化膜のエッチング速度は0.02nm/minであった。12バッチ目においても、熱酸化膜上にケイ素酸化物の析出は認
められず、熱酸化膜はわずかにエッチングされていた。
【0050】
各バッチにおける窒化ケイ素と酸化ケイ素のエッチング選択比率(窒化ケイ素/酸化ケイ素)を調べたところ、1バッチ目は220、12バッチ目は328であった。
【0051】
実施例8
実施例1の組成においてフルオロホウ酸0.02%をフルオロホウ酸0.05%に変更し、さらに硝酸アンモニウムを0.1%添加した組成物を用いて、実施例1と同様の条件で窒化ケイ素のエッチングを行った。
【0052】
1バッチ目のSiNエッチング速度は、5.44nm/min、12バッチ目のSiNエッチング速度は、4.99nm/minであり、熱酸化膜のエッチング速度は0.01
nm/minであった。12バッチ目においても、熱酸化膜上にケイ素酸化物の析出は認められず、熱酸化膜はわずかにエッチングされていた。
【0053】
当該エッチング組成物では、最初は可溶性ケイ酸を含まない状態から出発したが、当該組成物は使用開始直後から可溶性ケイ酸を含む状態であった。各バッチにおける窒化ケイ素と酸化ケイ素のエッチング選択比率(窒化ケイ素/酸化ケイ素)を調べたところ、1バッチ目は340と当初から高い選択比であり、12バッチ目は441であった。
【0054】
実施例9
ヘキサフルオロケイ酸0.03%、水2.5%、残部リン酸からなるエッチング組成物にバッチ毎に0.05%フルオロホウ酸を4%/バッチ毎添加した他は、実施例1と同じ方法でエッチングを実施した。
【0055】
バッチを重ねても窒化ケイ素のエッチング速度の低下はなく、酸化ケイ素のエッチングも極めて低レベルに維持された。結果を図7、8に示す。
【0056】
実施例10
実施例9の組成にさらに0.1%(1000ppm)の硝酸を添加し、実施例1と同じ方法でエッチングを実施した。
【0057】
実施例9と同様に窒化ケイ素のエッチング速度の低下はなく、酸化ケイ素のエッチングも極めて低レベルに維持されたが、特にバッチ数を重ねた後の選択比が実施例9よりも高かった。エッチング速度を図7、8に、選択比を表1に示す。
【0058】
【表1】

実施例11
ケイ素0.0043%、フッ素0.0174%、ホウ素0.015%(ヘキサフルオロケイ酸0.022%、ホウ酸0.086%相当)、水3.75%、残部リン酸からなるエッチング組成物にバッチ毎に0.05%フルオロホウ酸を4.5%バッチ/毎添加し、155℃で評価した他は、実施例1と同じ方法でエッチングを実施した。
【0059】
本組成では、最初のバッチから一定の選択比が得られ、なおかつバッチを重ねても窒化ケイ素のエッチング速度の低下はなかった。結果を図1〜4に示す。
【0060】
実施例12
ケイ素0.0039%、フッ素0.0158%(ヘキサフルオロケイ酸で0.02%相当)とした以外は実施例11と同様の条件で窒化ケイ素のエッチングを行った。
【0061】
バッチを重ねても窒化ケイ素のエッチング速度の低下はなかった(図6)が、1,2バッチ目の熱酸化膜のエッチング速度は0.05nm/min以上で実施例11より大きくなった。(図2)
【0062】
実施例13
ケイ素0.0051%、フッ素0.0201%(ヘキサフルオロケイ酸で0.025%相当)とした以外は実施例11と同様の条件で窒化ケイ素のエッチングを行った。
【0063】
酸化ケイ素のエッチングは低レベルに維持された(図2)が、3バッチ目まで窒化ケイ素のエッチング速度の低下が見られた(図1)。
【0064】
比較例1
フルオロホウ酸、フルオロリン酸いずれも添加しない以外は実施例1と同様の方法でエッチングを実施した。14バッチ目のSiNエッチング速度は、2.49nm/minであった。14バッチ目では、熱酸化膜上にケイ素酸化物の析出が認められ、熱酸化膜は膜厚が増加していた。
【0065】
比較例2
ヘキサフルオロケイ酸0.03%、水2.5%、残部リン酸からなるエッチング組成物を用い、実施例1と同様の方法でエッチングを実施した。
【0066】
バッチ数を重ねるごとに、窒化ケイ素のエッチング速度が低下した。結果を図5に示す。
【0067】
比較例3
比較例2の組成に対し、バッチ毎に0.1%ヘキサフルオロケイ酸を4%/バッチ毎逐次添加した。
【0068】
バッチを重ねても窒化ケイ素のエッチングのエッチング速度の低下はなかった(図5)が、5バッチ目以降に酸化ケイ素の析出が生じ、連続使用することができなかった。(図6)
比較例4
実施例5の組成においてフルオロホウ酸0.02%をフルオロホウ酸1%に変更し、さらに硝酸を0.1%添加した組成物を用いて、実施例5と同様の条件で窒化ケイ素のエッチングを行った。
【0069】
1.5%フルオロホウ酸を4%/バッチ毎添加し、1バッチ目のSiNエッチング速度は、45.4nm/min、熱酸化膜のエッチング速度は84.6nm/minであった。12バッチ目のSiNエッチング速度は、49.0nm/minであり、熱酸化膜のエッチング速度は70.1nm/minであった。
【0070】
各バッチにおける窒化ケイ素と酸化ケイ素のエッチング選択比率(窒化ケイ素/酸化ケイ素)を調べたところ、1バッチ目は0.5で、12バッチ目も0.7と極めて低い選択比であった。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施例11〜13の条件における窒化ケイ素のエッチング速度を示す図である。
【図2】実施例11〜13の条件における酸化ケイ素のエッチング速度を示す図である。
【図3】実施例11〜13の条件における窒化ケイ素のエッチング速度の安定性を示す図である。
【図4】実施例11〜13の条件における選択比(窒化ケイ素/酸化ケイ素)を示す図である。
【図5】比較例2、3の条件における窒化ケイ素のエッチング速度を示す図である。
【図6】比較例2、3の条件における酸化ケイ素のエッチング速度を示す図である。(負のエッチング速度は酸化ケイ素の析出を示す。)
【図7】実施例9、10の条件における窒化ケイ素のエッチング速度を示す図である。
【図8】実施例9、10の条件における酸化ケイ素のエッチング速度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン化合物、ホウ素化合物及び/又はそれらの弗化物、及び水を含んでなる窒化ケイ素のエッチング用組成物。
【請求項2】
リン酸、フッ化ホウ素及び/又はフッ化リン、及び水を含んでなる請求項1に記載の窒化ケイ素のエッチング用組成物。
【請求項3】
ホウ素化合物が、ホウ酸及び/又はホウ酸塩である請求項1に記載の窒化ケイ素のエッチング用組成物。
【請求項4】
リン化合物が、リン酸及び/又はフッ化リンである請求項1に記載の窒化ケイ素のエッチング用組成物。
【請求項5】
フッ化ホウ素が、三フッ化ホウ素、フルオロホウ酸、フルオロホウ酸塩から成る群より選ばれる少なくとも一種である請求項2に記載のエッチング用組成物。
【請求項6】
フッ化リンが、三フッ化リン、五フッ化リン、フルオロリン酸、フルオロリン酸塩から成る群より選ばれる少なくとも一種である請求項2に記載のエッチング用組成物。
【請求項7】
ホウ素化合物及び/又はフッ化リンが、0.001〜10重量%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のエッチング用組成物。
【請求項8】
ホウ素含有量が0.014重量%以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のエッチング用組成物。
【請求項9】
さらに可溶性ケイ素化合物を含んでなる請求項1〜8のいずれかに記載のエッチング用組成物。
【請求項10】
可溶性ケイ素化合物が、ハロゲン化ケイ素、ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロケイ酸塩、アルコキシシラン類、アルキルシラン類の群より選ばれる少なくとも一種以上であることを特徴とする請求項9に記載のエッチング用組成物。
【請求項11】
可溶性ケイ素化合物がケイ酸、ケイ酸塩、フッ化ケイ素、塩化ケイ素、ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシランから成る群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項9〜10のいずれかに記載のエッチング用組成物。
【請求項12】
可溶性ケイ素化合物が0〜0.5重量%であることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載のエッチング用組成物。
【請求項13】
ケイ素含有量が0.001〜0.01重量%である請求項9〜12のいずれかに記載のエッチング用組成物。
【請求項14】
フッ素含有量が0.010〜0.050重量%である請求項1〜13のいずれかに記載のエッチング用組成物。
【請求項15】
さらに硝酸及び/又は硝酸塩を含んでなる請求項1〜14のいずれかに記載のエッチング用組成物。
【請求項16】
硝酸塩が硝酸アンモニウムである請求項15に記載のエッチング用組成物。
【請求項17】
硝酸及び/又は硝酸塩が、0.0001〜10重量%であることを特徴とする請求項15〜16のいずれかに記載のエッチング用組成物。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載のエッチング組成物を使用し、120℃以上180℃以下でエッチングすることを特徴とする窒化ケイ素のエッチング方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載のエッチング組成物を使用して窒化ケイ素をエッチングする方法において、リン化合物、ホウ素化合物、ケイ素化合物及び/又はそれらのフッ化物、硝酸及び/又は硝酸塩、水の群から選ばれる少なくとも一種を追加添加して用いることを特徴とするエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−21538(P2009−21538A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330109(P2007−330109)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】