説明

エッチング製品

【課題】ゲート電極や隔壁として用いることができる部材であって、比較的安価に供給できるとともに量産性にも優れたエッチング製品を提供すること。
【解決手段】Fe−Cr−Al系のステンレス板からなり、エッチングによる複数の貫通孔を有するとともに、表面が酸化膜からなる絶縁層により被覆されてなる構成とする。厚みが一定で所望形状の複数の貫通孔がありしかも全面を誘電体で覆われた金属板を提供することができ、したがって、FEDのゲート電極16、PDPの隔壁、光熱電池の電子加速部材等の部材として使用することにより、これらの部材の低コスト化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイや光熱電池の構成部材として利用されるエッチング製品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ディスプレイとしてはカソードレイチューブ(CRT)が一般的に用いられてきた。ところが、CRTは嵩張るという基本的な問題を抱えており、近年、これに代わる平面型ディスプレイとして、プラズマディスプレイパネル(PDP)やフィールドエミッションディスプレイ(FED)が開発されている。このPDPやFEDは、CRTが電子銃を1組しか有しない構造であるのに対して、セルと呼ばれる微小な発光素地部のそれぞれに電子銃やそれに代わる発光機能を有しており、平面型ディスプレイに適した構造となっている。
【0003】
一方、電子を放出しやすい材料としてカーボンナノチューブ(CNT)が知られているが、このCNTを電子放出源としたFEDの開発も進められている。さらに最近では、FEDの構造を応用して光熱発電装置(以下、「光熱電池」という)を開発しようとする動きもある。
【0004】
図1は一般的なFEDの構造を断面で示す概略構成図である。図示の如く、このFEDは、2枚のガラス基板11,12が互いに平行に配設されており、背面板となるガラス基板11の前面側に電子放出源である面状の陰極13が形成され、前面板となるガラス基板12の背面側に透明電極からなる陽極14とそれを覆って蛍光体15が形成され、前面板と背面板の間に電子引出し電極であるゲート電極16が配設された構造をしている。そして、面状の陰極13から出た電子をゲート電極16により加速してその上方に位置する蛍光体15に電子を当てて発光させるようになっている。
【0005】
図2は一般的なPDPの構造を断面で示す概略構成図である。図示の如く、このPDPは、2枚のガラス基板21,22が互いに平行に配設され、両者は背面板となるガラス基板21に設けられた隔壁23により一定間隔で保持されており、前面板となるガラス基板22の背面側に透明電極からなる表示電極24とそれを覆って保護層25が形成され、背面板となるガラス基板21の前面側に隔壁23の間に位置してアドレス電極26が形成され、さらに隔壁23の壁面とセルの底面を覆うようにして蛍光体27が設けられた構造をしている。そして、2つの電極に挟まれた空間(セル)にてプラズマを発生し、そこから生じた紫外線にて背面板に形成してある蛍光体27を発光させるようになっている。
【0006】
これらのFEDやPDPにおいては、発光源である電子を引き出したりプラズマを発生させるために、各セルは真空状態(減圧状態)になっている。また、各セルは分離されており、しかも、電子の道筋を妨害したり不規則なプラズマを発生させないように各セルの材料は誘電体により構成されている。
【0007】
図3は提案されている光熱電池の原理を説明するための概略構成図である。この光熱電池は、内部が真空又は不活性ガスに満たされたセル筐体31と、このセル筐体31の中に配置され、加熱されて温度上昇すると内部の電子を放出する電子放出部材32と、この電子放出部材32から放出された電子を収集する集電体33を備え、この集電体33の反対側に絶縁層34を介して電子加速部材35が配置された構造をしている。電子放出部材32はCNTのような電子を放出しやすい材料からなる。そして、電子放出部材32のある側から筐体31に光や熱を照射することによって電子放出部材32から電子を放出させ、電子加速部材35に電圧をかけて生じさせた電界によってその電子を加速し、集電体33に照射させて発電するというものである。この光熱電池は先のFEDと類似した構造になっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、FEDやPDPは、各セル内に発光源である電子引出し電極やプラズマ発生用電極を有し、各々のセルが分離された構造になっており、また電子を引き出したりプラズマを発生させるために、各セルは真空(減圧)状態になっている。また、提案されている光熱電池も、CNTにより電子を放出させるために真空(減圧)状態になっている。そして、上記した動作を行うために、各セルを分離するゲート電極や前面板と背面板の間隔を一定に保つ隔壁は誘電体により作りこむ必要がある。また、平面型ディスプレイは大型化が著しく、微細な形状のゲート電極を作ることや隔壁の間隔を一定に保つことがコスト的に大きな負担となってきている。一方、光熱電池における電子放出部材と電子加速部材とは両者の間で消費される電力量をほぼ零とするため、電子加速部材を絶縁膜で覆う構造となっており、このため電子加速部材は製造コストが高いものになっている。
【0009】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、FEDのゲート電極やPDPの隔壁、さらには光熱電池の電子加速部材としても好適に用いることができる表面に絶縁層を有する孔空き金属板であって、比較的安価に供給できるとともに量産性にも優れたエッチング製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明のエッチング製品は、Fe−Cr−Al系のステンレス板からなり、エッチングによる複数の貫通孔を有するとともに、表面が酸化膜からなる絶縁層により被覆されてなることを特徴としている。
【0011】
そして、上記構成のエッチング製品は、その用途に応じて、貫通孔は、深さ方向の一方の開口面と他方の開口面の中間部に、開口面積が最も狭い部分を有する形状にすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエッチング製品は、Fe−Cr−Al系のステンレス板からなり、エッチングによる複数の貫通孔を有するとともに、酸化膜からなる絶縁層により被覆された構成になっいるので、厚みが一定で所望形状の複数の貫通孔がありしかも全面を誘電体で覆われた金属板を提供することができ、したがって、FEDのゲート電極、PDPの隔壁、光熱電池の電子加速部材等の部材として使用することにより、これらの部材の低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明で用いるFe−Cr−Al系のステンレス板は、適切な雰囲気中で焼成することにより、表面に酸化膜であるアルミナが形成される。したがって、エッチング加工により所望形状の孔を空けた後、適切な熱処理を施すことにより表面が酸化膜で覆われた孔空き板材が得られる。熱処理は900〜1200℃で2時間程度である。このようにして形成された金属板表面の酸化膜は部材として組み込まれた場合に誘電体の役目を果たす。
【0014】
酸化膜(アルミナ)は、厚みが1μmを越えると剥がれやすくなる。したがって、酸化膜は形成時に厚みが1μm以下になるように制御するのが好ましい。
【0015】
Fe−Cr−Al系のステンレス板は、0.1mm、0.2mm、0.4mm等の種類があるので、その中から用途に応じた厚さのものを選択する。そして、エッチングは用途に応じて所望の形状に加工する。例えば、FEDのゲート電極に使用する場合は、エッチングにより複数の貫通孔を形成する際に、電子を引出しやすいような形状にエッチング加工を行う。
【実施例1】
【0016】
図4は本発明のエッチング製品をゲート電極に用いたFEDの断面を示す概略構成図であり、図1で説明したFEDと同様の部位には同じ符号を付してある。
【0017】
図4に示すように、このFEDは、2枚のガラス基板11,12が互いに平行に配設されており、背面板となるガラス基板11の前面側に電子放出源である面状の陰極13が形成され、前面板となるガラス基板12の背面側に透明電極からなる陽極14とそれを覆って蛍光体15が形成され、前面板と背面板の間にエッチング製品であるゲート電極16が配設された構造である。そして、面状の陰極13から出た電子をゲート電極16により加速してその上方に位置する蛍光体15に電子を当てて発光させるようになっている。
【0018】
このゲート電極16を構成するエッチング製品は、Fe−Cr−Al系のステンレス板(厚さ0.2mm)にエッチング加工により図示の如く中央で狭くなった断面形状の貫通孔を形成した後、熱処理を施して表面に一様な厚みで酸化膜(アルミナ)を形成したものであり、ゲート電極16はその表面に絶縁層16aが形成された状態になっている。そして、前面板と背面板の間隔は、ステンレス板の厚みで制御されるので安定している。また、エッチング形状は、深さ方向の一方の開口面と他方の開口面の中間部に、開口面積が最も狭い部分を有する形状として、電子を引き出しやすい形状にしてある。このようなエッチング形状は両面からのエッチング加工により形成することができる。
【0019】
FEDとしては種々の形態が提案されている。したがって、それらに応じて前記の表面に絶縁層を有する孔空き金属板を、単に背面板と前面板のスペーサーとして用いたり、前記金属板の絶縁層の上にゲート電極をめっき、蒸着、もしくはスパッタリングで形成して用いたり、さらにこれらの絶縁層を有する孔空き金属板を組み合わせて多層として用いることもできる。
【実施例2】
【0020】
図5は本発明のエッチング製品を障壁に用いたPDPの断面を示す概略構成図であり、図2で説明したPDPと同様の部位には同じ符号を付してある。
【0021】
図5に示すように、このPDPは、2枚のガラス基板21,22が互いに平行に配設され、両者はエッチング製品である隔壁23により一定間隔で保持されており、前面板となるガラス基板22の背面側に透明電極からなる表示電極24とそれを覆って保護層25が形成され、背面板となるガラス基板21の前面側に隔壁23の間に位置してアドレス電極26が形成され、さらに隔壁23の壁面とセルの底面を覆うようにして蛍光体27が設けられた構造をしている。そして、2つの電極に挟まれた空間(セル)にてプラズマを発生し、そこから生じた紫外線にて背面板に形成してある蛍光体27を発光させるようになっている。
【0022】
この隔壁23を構成するエッチング製品は、Fe−Cr−Al系のステンレス板(厚さ0.2mm)にエッチング加工により図示の如くほぼ真っ直ぐな断面形状の貫通孔を形成した後、熱処理を施して表面に一様な厚みで酸化膜(アルミナ)を形成したものであり、隔壁23はその表面に絶縁層23aが形成された状態になっている。このように、金属板のエッチングと熱処理のみで障壁が形成されるので、従来の隔壁形成に比べて大幅なコストダウンを図ることができる。
【実施例3】
【0023】
図6は本発明のエッチング製品を電子加速部材に用いた光熱電池の断面を示す概略構成図であり、図3で説明したPDPと同様の部位には同じ符号を付してある。
【0024】
図6に示すように、この光熱電池は、内部が真空又は不活性ガスに満たされたセル筐体31と、このセル筐体31の中に配置され、加熱されて温度上昇すると内部の電子を放出する電子放出部材32と、この電子放出部材32から放出された電子を収集する集電体33を備え、電子放出部材32と集電体33の間にエッチング製品である電子加速部材35が配置された構造をしている。そして、電子放出部材32のある側から筐体31に光や熱を照射することによって電子放出部材32から電子を放出させ、電子加速部材35に電圧をかけて生じさせた電界によってその電子を加速し、集電体33に照射させて発電するようになっている。
【0025】
この電子加速部材35を構成するエッチング製品は、Fe−Cr−Al系のステンレス板(厚さ0.2mm)にエッチング加工により図示の如くテーパー状の断面形状をした貫通孔を形成した後、熱処理を施して表面に一様な厚みで酸化膜(アルミナ)を形成したものであり、電子加速部材35はその表面に絶縁層35aが形成された状態になっている。そして、前面板と背面板の間隔は、ステンレス板の厚みで制御されるので安定している。また、電子を加速しやすいように、エッチング形状は図示のように電子放出部材32から集電体33に向けて狭くなるテーパー形状にしてある。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のエッチング製品は、上記したようなFEDのゲート電極、PDPの隔壁、光熱電池の電子加速部材として利用する以外に、同様な機能が要求されるその他の用途にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】一般的なフィールドエミッションディスプレイの構造を断面で示す概略構成図である。
【図2】一般的なプラズマディスプレイパネルの構造を断面で示す概略構成図である。
【図3】提案されている光熱電池の原理を説明するための概略構成図である。
【図4】本発明のエッチング製品をゲート電極に用いたフィールドエミッションディスプレイの断面を示す概略構成図である。
【図5】本発明のエッチング製品を障壁に用いたプラズマディスプレイパネルの断面を示す概略構成図である。
【図6】本発明のエッチング製品を電子加速部材に用いた光熱電池の断面を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0028】
11,12 ガラス基板
13 陰極
14 陽極
15 蛍光体
16 ゲート電極
16a 絶縁層
21,22 ガラス基板
23 隔壁
23a 絶縁層
24 表示電極
25 保護層
26 アドレス電極
27 蛍光体
31 セル筐体
32 電子放出部材
33 集電体
34 絶縁層
35 電子加速部材
35a 絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe−Cr−Al系のステンレス板からなり、エッチングによる複数の貫通孔を有するとともに、表面が酸化膜からなる絶縁層により被覆されてなることを特徴とするエッチング製品。
【請求項2】
貫通孔は、深さ方向の一方の開口面と他方の開口面の中間部に、開口面積が最も狭い部分を有する形状であることを特徴とする請求項1に記載のエッチング製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−144034(P2006−144034A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−331883(P2004−331883)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】