エネルギー吸収構造
【課題】鉄道車両が衝突した際に、衝突のエネルギーを吸収するエネルギー吸収構造に関して、乗り上げ衝突時にエネルギーを吸収し、なおかつ座屈開始時に生じるピーク荷重を低減する。乗り上げ衝突時には、曲げモーメントが作用して効率よくエネルギー吸収ができない。また、座屈開始時にはおおきなピーク荷重が生じている。
【解決手段】鉄道車両が衝突した際に、衝突のエネルギーを吸収するエネルギー吸収構造に関して、エネルギー吸収部材を上下二段に配置し、なおかつ上と下のエネルギー吸収部材の長さを異なったものにする。
【解決手段】鉄道車両が衝突した際に、衝突のエネルギーを吸収するエネルギー吸収構造に関して、エネルギー吸収部材を上下二段に配置し、なおかつ上と下のエネルギー吸収部材の長さを異なったものにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両や道路車両などに代表される輸送機器では、運行中に予期せぬ衝突事故が発生することを想定しなくてはならない。そのため輸送機器の設計にあたっては搭乗している乗員・乗客を最優先に保護することが構造概念として存在する。その構造概念とは、乗員・乗客が搭乗している部分を衝突による圧壊から防止することを目的とした空間(以後、サバイバルゾーンと呼ぶ)と、逆に圧壊を積極的に受け入れることによって変形させてエネルギーを吸収する空間(以後、クラッシャブルゾーンと呼ぶ)を設けるという概念である。近年この概念は輸送機器の設計に積極的に取り入れられるようになっている。
【0003】
鉄道車両を例に挙げると、クラッシャブルゾーンは主にエネルギー吸収構造と梁構造という二つの構造に分類できる。
エネルギー吸収構造とは衝突時に車体に作用するエネルギーの大部分を吸収する構造であり、主にエネルギー吸収部材の搭載である。一方、梁構造とはエネルギー吸収構造やクラッシャブルゾーンに付属する内装構造を支持する構造である。
【0004】
このうち、エネルギー吸収部材の例として、たとえば特開2004−168218号公報(特許文献1)をあげることができる。
この特許文献1では、焼鈍したアルミ合金製中空押出形材を用いて効率よくエネルギーを吸収することを示している。また、クラッシャブル構造の例として、特開2004−
268694号公報(特許文献2)をあげることができる。この特許文献2では、運転台の床高さをサバイバルゾーンの床高さと比較して高くすることが開示されている。
【0005】
衝突の最初に荷重が作用する部位にエネルギー吸収部材を搭載したエネルギー吸収構造の一例として、「Proc. Instrn. Mech. Engrs. Vol.207 p1-16「Development of
crashworthiness for railway vehicle structures」(著者:A. Scholes & J. H. Lewis)をあげることができる。本文献においては、車端(又は車両先端部)に設置された突起部(バッファ)にエネルギー吸収部材が取付けられており、衝突時に最初に荷重が伝達することがわかる。
【0006】
ところが衝突事故は必ずしも上記文献のような正面衝突モードばかりではないのでエネルギー吸収構造は様々な衝突程度やモードに対応する必要がある。例えば、正面衝突以外としては乗り上げ衝突がある。乗り上げ衝突とは、一方の車両が他方の車両の床より上部に乗り上げる衝突するモードであって、例えばInternational railway journal 1995年7月発行 p30-31「tests validate methods to cut injuries」(著者:John Lewis)にその詳細が記載れている。
【0007】
この乗り上げ衝突に対応するために現在はRAIL Vo 503 p28 に掲載されているような構造が採用されている。すなわち、床面より下にエネルギー吸収構造を配置し、正面衝突はエネルギー吸収構造によりエネルギーを吸収して乗り上げ衝突はクラッシャブルゾーン全体の構造でエネルギーを吸収している。
【0008】
【特許文献1】特開2004−168218号公報
【特許文献2】特開2004−268694号公報
【非特許文献1】Proc. Instrn. Mech. Engrs. Vol.207 p1-16「Development of crashworthiness for railway vehicle structures」(著者:A. Scholes & J. H. Lewis)
【非特許文献2】RAIL Vo 503 p28
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術では、エネルギー吸収部材がサバイバルゾーンの床下に取付けられているので仮に上述のような乗り上げ衝突が発生した場合には相手車両はエネルギー吸収部材の上部と衝突してしまうことになるので、エネルギー吸収が期待できない梁のみでエネルギーを吸収しなくてはならなくなってしまう。
【0010】
従って、乗り上げ事故を想定しエネルギー吸収部材をサバイバルゾーンの床面より上に配置した場合には、床の上と下を含む一つの大きなエネルギー吸収部材を取付けた場合には相手車両はエネルギー吸収部材に対して片当たりしてしまうことになる。このため、エネルギー吸収部材にはおおきな曲げモーメントが作用し、エネルギー吸収部材は偏った圧壊となってしまい、エネルギー吸収部材の車体側への付け根部分に作用する応力で破断してしまう可能性がある。
【0011】
また上述のように一つのエネルギー吸収部材であると、衝突によって開始する座屈のピーク荷重が最大となってしまい減速度を増加するという問題がある。
【0012】
本発明の目的は、乗り上げ衝突に対応し、ピーク荷重を低減させた輸送機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的は2枚の板材と、この板材の内側面板間を接続する複数のリブとから構成される中空形材と、この中空形材を筒状に組合わせて形成したエネルギー吸収部材とからなり、このエネルギー吸収部材を車両先頭部の上下に二段取付けた輸送機器において、前記上側のエネルギー吸収部材と前記下側のエネルギー吸収部材は前記車両の進行方向において長さが異なることにより達成される。
【0014】
また上記目的は、前記エネルギー吸収部材は断面積が異なるエネルギー吸収部材を進行方向に複数段重ね合わせてなり、前記車両の進行方向の先端部が最も断面積が小さいことにより達成される。
【0015】
また上記目的は、前記エネルギー吸収部材は前記車両の外板で覆われてなり、この外板の内壁と前記エネルギー吸収部材の先端部との間には空隙が形成されていることにより達成される。
【0016】
また上記目的は、前記エネルギー吸収部材の進行方向端面は金属板で閉塞されていることにより達成される。
【0017】
また上記目的は、前記中空形材で配線ケーブル等を覆って前記エネルギー吸収部材を形成したことにより達成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、乗り上げ衝突に対応し、ピーク荷重を低減させた輸送機器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施例を図で説明する。
【実施例1】
【0020】
本発明を鉄道車両構体に対して適用した場合の第一の実施例を図1から図7で説明する。
【0021】
図1は一般的な鉄道車両の構造を説明する部分斜視図である。
図1において、鉄道車両構体1は、屋根を形成する屋根構体2,車体長手方向に対して両端を閉鎖する面を形成する妻構体3,車体長手方向に対して左右の面を形成する側構体4及び床面を形成する台枠5から構成されている。側構体4の最下部かつ台枠5の両端には側梁6が設けられている。また側構体4には窓や出入口の開口がある。
【0022】
このような基本構造を持つ鉄道車両構体1は、衝突時に乗員・乗客の生命を保護するサバイバルゾーン10と、衝突時に生じるエネルギーを吸収するクラッシャブルゾーン11が設定されている。サバイバルゾーン10は車両の長手方向の中央に設置されている。クラッシャブルゾーン11は車両の長手方向の両端部に存在し、あたかもサバイバルゾーン10を挟み込むように配置されている。図1では運転台を有さない車両を用いて構造を説明したが、運転台を有する車両であってもクラッシャブルゾーン11とサバイバルゾーン10の相対的な配置は変わらない。
【0023】
図2は運転台を有する車両の車両端部におけるクラッシャブルゾーン11の側面図である。
図2において、クラッシャブルゾーン11は梁部材40,運転台床50,外板60とエネルギー吸収部材100により構成される。梁部材40と運転台床50は、クラッシャブルゾーン11全体の通常運用に伴って生じる強度や振動に対応している。すなわち、運転手や機器の質量、通常運用中に作用する振動に対して十分耐えうる構造となっている。運転台床50は、サバイバルゾーン10側の台枠5よりも高い位置に存在する。外板60は車両の外観を形成するものであり、エネルギー吸収部材100や連結器(図示せず)などを覆い隠すものである。この外板60は衝突時の挙動にはほとんど影響を及ぼすものではない。台枠5の先端にはエネルギー吸収部材100が設置されている。エネルギー吸収部材100と外板60の内壁との間には空隙がある。エネルギー吸収部材100は筒状になっており、空洞部分は電気配線などを通す通路として利用できる。またエネルギー吸収部材100先端の空洞は金属板で閉塞しても良い。
【0024】
このエネルギー吸収部材100は上下に二組配置されており、おのおののエネルギー吸収部材100の組は、車体長手方向(圧壊方向)に対して二段で構成されている。エネルギー吸収部材100aと100bは長手方向に連結されて実質的にひとつの組を構成しているばかりでなく、エネルギー吸収部材100cと100dも同様に長手方向に連結されており実質的にひとつの組を構成している。この二段のエネルギー吸収部材のうちサバイバルゾーンに近い側のエネルギー吸収部材100bと100dの外断面積は、先端に近い側のエネルギー吸収部材100aと100cの外形断面積と比較すると広くなっている。
【0025】
サバイバルゾーンを根元と考えると、根元側のエネルギー吸収部材100bと100dの外形断面積は、先端側のエネルギー吸収部材100aと100cの外形断面積と比較して広くなっている。
【0026】
おのおののエネルギー吸収部材の組において、サバイバルゾーンから先端までの長さは上側に配置されるエネルギー吸収部材の組のほうが下側に配置されるエネルギー吸収部材の組と比較して長い。すなわち、上側に配置されたエネルギー吸収部材の組の長さをLUとし、下側に配置されたエネルギー吸収部材の組の長さをLLとしたとき、LU>LLの関係になっている。ただし、LL<LUの場合においても、ピーク荷重を低減する効果を得ることができる。エネルギー吸収部材が配置されている高さは二組の対になっているエネルギー吸収部材の高さの範囲内に台枠の高さが含まれる関係である。
【0027】
エネルギー吸収部材100と梁部材40は、衝突時に互いの変形を拘束しないようにしている。すなわち、まったく結合されていないことを示す。ただ、全体からみると十分に弱い結合であり、衝突時にお互いの変形を拘束しない程度の結合であれば、本発明と同等の効果を得ることができる。エネルギー吸収部材と運転台床の結合も、エネルギー吸収部材100と梁部材40の結合と同様である。エネルギー吸収部材100とサバイバルゾーンの結合は、溶接やボルトなどのような方法を用いて強固に行われる。
【0028】
エネルギー吸収部材の車端側端部は、実質的に部材と連結されない。すなわち、衝突時に全体の変形モードを大きく変化させるような連結はされていない。言い換えれば、衝突時に変形モードがほとんど変わらないような連結は、本発明と同等の効果を有することになる。
【0029】
図3は図2に示した運転台を有する車両における運転台部分をレール方向に見た図である。
図3において、車体全体の大部分は外板60により覆われており、部分的に窓70が存在する。クラッシャブルゾーン11における外板60に覆われた内部にはエネルギー吸収部材100,運転台床50,梁部材40が存在する。運転台床50は台枠5よりも高い位置に存在していることがわかる。エネルギー吸収部材100は幅方向に関して左右でかつ上下にも対称に対になって設置されている。
【0030】
図4は図2および図3に示した運転台を有する車両における運転台部分を上から見た図である。
図4において、上述したように車体全体は外板60により覆われており、部分的に窓
70が存在する。クラッシャブルゾーン11において、外板60に覆われた内部にはエネルギー吸収部材100,運転台床50,梁部材40が存在する。運転台床50の枕木方向の幅とレール方向長さはクラッシャブルゾーン11とほぼ等しい。梁部材40はクラッシャブルゾーン11の外郭形状を合わせて形成された、いわゆる骨組みとなっている。外板60は梁部材40に固定されている。エネルギー吸収部材100は車両の幅方向に関して対称に対になって設置されている。左右のエネルギー吸収部材100に関してサバイバルゾーン10から先端までの長さは同じである。つまり図3および図4から左右対称に設置されたエネルギー吸収部材の対は完全に対称な位置と形状である。
【0031】
図5はエネルギー吸収部材100のうち車体の左右どちらかひとつの組のみの斜視図である。
図5において、エネルギー吸収部材100は中空押出形材200とふさぎ板110により構成されている。エネルギー吸収部材100の四辺は中空押出形材200により構成されており、この中空押出形材200の長手方向端面にはふさぎ板110が存在する。ふさぎ板110とエネルギー吸収部材100とは溶接に代表されるような接合手段により強固に接続されている。エネルギー吸収部材100aと100bは、ふさぎ板110を介して強固に接続されている。エネルギー吸収部材100cと100dも同様にふさぎ板110を介して強固に接続されている。
【0032】
図5に示すように、エネルギー吸収部材100a,100dはエネルギー吸収部材100b,100cより小さい容積となっている。
【0033】
図6は図5中A−Aで示したエネルギー吸収部材100の断面図である。
図6において、エネルギー吸収部材100の四辺は中空押出形材200により形成され、四角形の筒状となっている。中空押出形材200の構造については図7で説明する。
【0034】
図7はエネルギー吸収部材100を構成する中空押出形材200の断面図である。
図7において、中空押出形材200は二枚の実質的に平行な面板210aと210bとを備え、この面板210aと210bとを接続する複数のリブ220により構成されている。リブ220と面板210aと210bとにより囲まれる空間の幅方向断面はあたかも三角形を呈して堅牢となるように構成されている。中空押出形材200の材料はアルミニウム合金をはじめとする軽合金である。
【0035】
かかる構成において、本発明を適用したクラッシャブルゾーン11が衝突した場合、車体構造として最初に接触を開始するのは先頭に存在するエネルギー吸収部材100である。このとき上下二組のエネルギー吸収部材100のうち図2に示すように上側のエネルギー吸収部材100c,100dのほうが長いので上側のエネルギー吸収部材100c,
100dが最初に接触して崩壊を開始する。その後、上側のエネルギー吸収部材100c,100dが変形して(LU−LL)の長さだけ短くなったところで下側のエネルギー吸収部材100a,100bが接触を開始する。このため上下二組のエネルギー吸収部材
100は接触を開始するタイミングすなわち崩壊を開始しはじめるときに生じるピーク荷重が発生するタイミングが分散されるため、全体としてのピーク荷重を低減することができる。
【0036】
ピーク荷重の低減効果について図8と図9を用いて説明する。
図8は上下二組のエネルギー吸収部材100の長さを等しくした場合に予想される接触開始からの時間と車体に作用する長手方向の力の関係を表したグラフである。図9は本発明の一実施例のように上下二組のエネルギー吸収部材の長さが異なる場合に予想される接触開始からの時間と車体に作用する長手方向の力の関係を表したグラフである。
図8において、長さが等しい場合上下二組のエネルギー吸収部材が障害物と接触するタイミングは等しい。このため変形を開始したときに生じるピーク荷重が発生するタイミングは等しくなる。そこで、車体全体に着目した場合、ピーク荷重は上側のエネルギー吸収部材により生じるピーク荷重と下側のエネルギー吸収部材により生じるピーク荷重をそのまま加算した値となる。
【0037】
一方図9において、最初に上側のエネルギー吸収部材が接触を開始してピーク荷重が生じる。その後上側のエネルギー吸収部材が変形することにより生じる荷重は、時間の経過(圧壊変形量の経過)とともに徐々に低下する。さらに時間(圧壊変形)をすすめていくと、下側のエネルギー吸収部材が接触を開始する。さらに時間を進めると、下側のエネルギー吸収部材はピーク荷重を生じる。ただ、この時点において上側のエネルギー吸収部材は、ピーク荷重と比較してかなり荷重が低下した状態である。このため、上側のエネルギー吸収部材と下側のエネルギー吸収部材により生じる荷重を加算しても、それほど大きな値にはならない。すなわち、図8に示したように、上下のエネルギー吸収部材が同時に接触する場合と比較して、車体に作用する荷重は低いものとなる。
【0038】
次に、エネルギー吸収部材の断面積と比較して小さな物体と衝突した場合について図
10と図11を用いて説明する。
図10は、エネルギー吸収部材が上下二組に分割されていない場合の側面図である。
図10において、障害物150がエネルギー吸収部材の上半分に衝突した場合、エネルギー吸収部材は上側のみに荷重(いわゆる偏当たり)が作用することになるため、エネルギー吸収部材には高い回転力(モーメント)が作用する。この回転モーメントにより、エネルギー吸収部材100xにおいては、エネルギー吸収部材100yと接続する側の端部に高い応力が作用してこの部分の破断につながる可能性がある。
【0039】
一方、図11に示したように本発明を適用したエネルギー吸収部材では、エネルギー吸収部材100pおよび100qにのみ荷重が作用するために、曲げモーメントは発生しない。
【実施例2】
【0040】
次に、本発明を鉄道車両構体に対して適用した場合の第2の実施例を図12で説明する。
図12は第2の実施例を備えたエネルギー吸収部材の斜視図である。
図12において、エネルギー吸収部材は大きく三つの組からなる。すなわち、100jaと100jbが車体長手方向に強固に連結されて実質的に一つのエネルギー吸収部材を構成しているのと、100kaと100kbが車体長手方向に強固に連結されて実質的に一つのエネルギー吸収部材を構成しているのと、100laと100lbが車体長手方向に強固に連結されて実質的に一つのエネルギー吸収部材を構成しているものである。これらの長さを各々L1,L2,L3とすると、その関係はL1≠L2≠L3となる。
【0041】
かかる構成によって実施例1と比較するとさらにピーク荷重を下げることが可能である。
【実施例3】
【0042】
次に、本発明を鉄道車両構体に対して適用した場合の第3の実施例を図13で説明する。
【0043】
図13は第3の実施例を備えたエネルギー吸収部材の斜視図である。
【0044】
図13において、エネルギー吸収部材100sと100tはサバイバルゾーン側の端部でエネルギー吸収部材100rに連結されている。エネルギー吸収部材100sとエネルギー吸収部材100tの長さは異なる。
【0045】
かかる構成により最初の衝突の時のピーク荷重を低減できることに加え、サバイバルゾーン側のエネルギー吸収部材の剛性が高くなるので全体があたかも“く”の字にまがる全体座屈を防止しやすくなる。
【0046】
本発明は以上のごとく、
1.2枚の板材と、この板材の内側面板間を接続する複数のリブとから構成される中空形材と、この中空形材を筒状に組合わせて形成したエネルギー吸収部材とからなり、このエネルギー吸収部材を車両先頭部の上下に二段取付けた輸送機器において、前記上側のエネルギー吸収部材と前記下側のエネルギー吸収部材は前記車両の進行方向において長さが異なるようにしたものである。
2.前記エネルギー吸収部材は断面積が異なるエネルギー吸収部材を進行方向に複数段重ね合わせてなり、前記車両の進行方向の先端部が最も断面積が小さくしたものである。
3.前記エネルギー吸収部材は前記車両の外板で覆われてなり、この外板の内壁と前記エネルギー吸収部材の先端部との間には空隙が形成されたものである。
4.前記エネルギー吸収部材の進行方向端面は金属板で閉塞したものである。
5.前記中空形材で配線ケーブル等を覆って前記エネルギー吸収部材を形成したものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】一般的な鉄道車両の斜視図である。
【図2】本発明の一実施例を備えた鉄道車両の側面図である。
【図3】本発明の一実施例を備えた鉄道車両の正面図である。
【図4】本発明の一実施例を備えた鉄道車両の平面図である。
【図5】本発明の一実施例を備えたエネルギー吸収部材の斜視図である。
【図6】本発明の一実施例を備えたエネルギー吸収部材の断面図である。
【図7】本発明の一実施例に適用したエネルギー吸収部材を構成する中空押出形材の断面図である。
【図8】従来の構造により衝突した場合の接触を開始してからの時間と車体に作用する長手方向の力の関係を示すグラフ図である。
【図9】本発明を適用して衝突した場合の接触を開始してからの時間と車体に作用する長手方向の力の関係を示すグラフ図である。
【図10】従来の構造により衝突した場合に生じるエネルギー吸収部材の変形を説明する図である。
【図11】本発明を適用した場合に生じるエネルギー吸収部材の変形を説明する図である。
【図12】本発明の第2の実施例を備えたエネルギー吸収部材の斜視図である。
【図13】本発明の第3の実施例を備えたエネルギー吸収部材の斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
1…鉄道車両構体、2…屋根構体、3…妻構体、4…側構体、5…台枠、6…側梁、
10…サバイバルゾーン、11…クラッシャブルゾーン、40…梁部材、50…運転台床、60…外板、70…窓、100…エネルギー吸収部材、110…ふさぎ板、150…障害物、200…中空押出形材、210…面板、220…リブ、230…結節点。
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両や道路車両などに代表される輸送機器では、運行中に予期せぬ衝突事故が発生することを想定しなくてはならない。そのため輸送機器の設計にあたっては搭乗している乗員・乗客を最優先に保護することが構造概念として存在する。その構造概念とは、乗員・乗客が搭乗している部分を衝突による圧壊から防止することを目的とした空間(以後、サバイバルゾーンと呼ぶ)と、逆に圧壊を積極的に受け入れることによって変形させてエネルギーを吸収する空間(以後、クラッシャブルゾーンと呼ぶ)を設けるという概念である。近年この概念は輸送機器の設計に積極的に取り入れられるようになっている。
【0003】
鉄道車両を例に挙げると、クラッシャブルゾーンは主にエネルギー吸収構造と梁構造という二つの構造に分類できる。
エネルギー吸収構造とは衝突時に車体に作用するエネルギーの大部分を吸収する構造であり、主にエネルギー吸収部材の搭載である。一方、梁構造とはエネルギー吸収構造やクラッシャブルゾーンに付属する内装構造を支持する構造である。
【0004】
このうち、エネルギー吸収部材の例として、たとえば特開2004−168218号公報(特許文献1)をあげることができる。
この特許文献1では、焼鈍したアルミ合金製中空押出形材を用いて効率よくエネルギーを吸収することを示している。また、クラッシャブル構造の例として、特開2004−
268694号公報(特許文献2)をあげることができる。この特許文献2では、運転台の床高さをサバイバルゾーンの床高さと比較して高くすることが開示されている。
【0005】
衝突の最初に荷重が作用する部位にエネルギー吸収部材を搭載したエネルギー吸収構造の一例として、「Proc. Instrn. Mech. Engrs. Vol.207 p1-16「Development of
crashworthiness for railway vehicle structures」(著者:A. Scholes & J. H. Lewis)をあげることができる。本文献においては、車端(又は車両先端部)に設置された突起部(バッファ)にエネルギー吸収部材が取付けられており、衝突時に最初に荷重が伝達することがわかる。
【0006】
ところが衝突事故は必ずしも上記文献のような正面衝突モードばかりではないのでエネルギー吸収構造は様々な衝突程度やモードに対応する必要がある。例えば、正面衝突以外としては乗り上げ衝突がある。乗り上げ衝突とは、一方の車両が他方の車両の床より上部に乗り上げる衝突するモードであって、例えばInternational railway journal 1995年7月発行 p30-31「tests validate methods to cut injuries」(著者:John Lewis)にその詳細が記載れている。
【0007】
この乗り上げ衝突に対応するために現在はRAIL Vo 503 p28 に掲載されているような構造が採用されている。すなわち、床面より下にエネルギー吸収構造を配置し、正面衝突はエネルギー吸収構造によりエネルギーを吸収して乗り上げ衝突はクラッシャブルゾーン全体の構造でエネルギーを吸収している。
【0008】
【特許文献1】特開2004−168218号公報
【特許文献2】特開2004−268694号公報
【非特許文献1】Proc. Instrn. Mech. Engrs. Vol.207 p1-16「Development of crashworthiness for railway vehicle structures」(著者:A. Scholes & J. H. Lewis)
【非特許文献2】RAIL Vo 503 p28
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術では、エネルギー吸収部材がサバイバルゾーンの床下に取付けられているので仮に上述のような乗り上げ衝突が発生した場合には相手車両はエネルギー吸収部材の上部と衝突してしまうことになるので、エネルギー吸収が期待できない梁のみでエネルギーを吸収しなくてはならなくなってしまう。
【0010】
従って、乗り上げ事故を想定しエネルギー吸収部材をサバイバルゾーンの床面より上に配置した場合には、床の上と下を含む一つの大きなエネルギー吸収部材を取付けた場合には相手車両はエネルギー吸収部材に対して片当たりしてしまうことになる。このため、エネルギー吸収部材にはおおきな曲げモーメントが作用し、エネルギー吸収部材は偏った圧壊となってしまい、エネルギー吸収部材の車体側への付け根部分に作用する応力で破断してしまう可能性がある。
【0011】
また上述のように一つのエネルギー吸収部材であると、衝突によって開始する座屈のピーク荷重が最大となってしまい減速度を増加するという問題がある。
【0012】
本発明の目的は、乗り上げ衝突に対応し、ピーク荷重を低減させた輸送機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的は2枚の板材と、この板材の内側面板間を接続する複数のリブとから構成される中空形材と、この中空形材を筒状に組合わせて形成したエネルギー吸収部材とからなり、このエネルギー吸収部材を車両先頭部の上下に二段取付けた輸送機器において、前記上側のエネルギー吸収部材と前記下側のエネルギー吸収部材は前記車両の進行方向において長さが異なることにより達成される。
【0014】
また上記目的は、前記エネルギー吸収部材は断面積が異なるエネルギー吸収部材を進行方向に複数段重ね合わせてなり、前記車両の進行方向の先端部が最も断面積が小さいことにより達成される。
【0015】
また上記目的は、前記エネルギー吸収部材は前記車両の外板で覆われてなり、この外板の内壁と前記エネルギー吸収部材の先端部との間には空隙が形成されていることにより達成される。
【0016】
また上記目的は、前記エネルギー吸収部材の進行方向端面は金属板で閉塞されていることにより達成される。
【0017】
また上記目的は、前記中空形材で配線ケーブル等を覆って前記エネルギー吸収部材を形成したことにより達成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、乗り上げ衝突に対応し、ピーク荷重を低減させた輸送機器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施例を図で説明する。
【実施例1】
【0020】
本発明を鉄道車両構体に対して適用した場合の第一の実施例を図1から図7で説明する。
【0021】
図1は一般的な鉄道車両の構造を説明する部分斜視図である。
図1において、鉄道車両構体1は、屋根を形成する屋根構体2,車体長手方向に対して両端を閉鎖する面を形成する妻構体3,車体長手方向に対して左右の面を形成する側構体4及び床面を形成する台枠5から構成されている。側構体4の最下部かつ台枠5の両端には側梁6が設けられている。また側構体4には窓や出入口の開口がある。
【0022】
このような基本構造を持つ鉄道車両構体1は、衝突時に乗員・乗客の生命を保護するサバイバルゾーン10と、衝突時に生じるエネルギーを吸収するクラッシャブルゾーン11が設定されている。サバイバルゾーン10は車両の長手方向の中央に設置されている。クラッシャブルゾーン11は車両の長手方向の両端部に存在し、あたかもサバイバルゾーン10を挟み込むように配置されている。図1では運転台を有さない車両を用いて構造を説明したが、運転台を有する車両であってもクラッシャブルゾーン11とサバイバルゾーン10の相対的な配置は変わらない。
【0023】
図2は運転台を有する車両の車両端部におけるクラッシャブルゾーン11の側面図である。
図2において、クラッシャブルゾーン11は梁部材40,運転台床50,外板60とエネルギー吸収部材100により構成される。梁部材40と運転台床50は、クラッシャブルゾーン11全体の通常運用に伴って生じる強度や振動に対応している。すなわち、運転手や機器の質量、通常運用中に作用する振動に対して十分耐えうる構造となっている。運転台床50は、サバイバルゾーン10側の台枠5よりも高い位置に存在する。外板60は車両の外観を形成するものであり、エネルギー吸収部材100や連結器(図示せず)などを覆い隠すものである。この外板60は衝突時の挙動にはほとんど影響を及ぼすものではない。台枠5の先端にはエネルギー吸収部材100が設置されている。エネルギー吸収部材100と外板60の内壁との間には空隙がある。エネルギー吸収部材100は筒状になっており、空洞部分は電気配線などを通す通路として利用できる。またエネルギー吸収部材100先端の空洞は金属板で閉塞しても良い。
【0024】
このエネルギー吸収部材100は上下に二組配置されており、おのおののエネルギー吸収部材100の組は、車体長手方向(圧壊方向)に対して二段で構成されている。エネルギー吸収部材100aと100bは長手方向に連結されて実質的にひとつの組を構成しているばかりでなく、エネルギー吸収部材100cと100dも同様に長手方向に連結されており実質的にひとつの組を構成している。この二段のエネルギー吸収部材のうちサバイバルゾーンに近い側のエネルギー吸収部材100bと100dの外断面積は、先端に近い側のエネルギー吸収部材100aと100cの外形断面積と比較すると広くなっている。
【0025】
サバイバルゾーンを根元と考えると、根元側のエネルギー吸収部材100bと100dの外形断面積は、先端側のエネルギー吸収部材100aと100cの外形断面積と比較して広くなっている。
【0026】
おのおののエネルギー吸収部材の組において、サバイバルゾーンから先端までの長さは上側に配置されるエネルギー吸収部材の組のほうが下側に配置されるエネルギー吸収部材の組と比較して長い。すなわち、上側に配置されたエネルギー吸収部材の組の長さをLUとし、下側に配置されたエネルギー吸収部材の組の長さをLLとしたとき、LU>LLの関係になっている。ただし、LL<LUの場合においても、ピーク荷重を低減する効果を得ることができる。エネルギー吸収部材が配置されている高さは二組の対になっているエネルギー吸収部材の高さの範囲内に台枠の高さが含まれる関係である。
【0027】
エネルギー吸収部材100と梁部材40は、衝突時に互いの変形を拘束しないようにしている。すなわち、まったく結合されていないことを示す。ただ、全体からみると十分に弱い結合であり、衝突時にお互いの変形を拘束しない程度の結合であれば、本発明と同等の効果を得ることができる。エネルギー吸収部材と運転台床の結合も、エネルギー吸収部材100と梁部材40の結合と同様である。エネルギー吸収部材100とサバイバルゾーンの結合は、溶接やボルトなどのような方法を用いて強固に行われる。
【0028】
エネルギー吸収部材の車端側端部は、実質的に部材と連結されない。すなわち、衝突時に全体の変形モードを大きく変化させるような連結はされていない。言い換えれば、衝突時に変形モードがほとんど変わらないような連結は、本発明と同等の効果を有することになる。
【0029】
図3は図2に示した運転台を有する車両における運転台部分をレール方向に見た図である。
図3において、車体全体の大部分は外板60により覆われており、部分的に窓70が存在する。クラッシャブルゾーン11における外板60に覆われた内部にはエネルギー吸収部材100,運転台床50,梁部材40が存在する。運転台床50は台枠5よりも高い位置に存在していることがわかる。エネルギー吸収部材100は幅方向に関して左右でかつ上下にも対称に対になって設置されている。
【0030】
図4は図2および図3に示した運転台を有する車両における運転台部分を上から見た図である。
図4において、上述したように車体全体は外板60により覆われており、部分的に窓
70が存在する。クラッシャブルゾーン11において、外板60に覆われた内部にはエネルギー吸収部材100,運転台床50,梁部材40が存在する。運転台床50の枕木方向の幅とレール方向長さはクラッシャブルゾーン11とほぼ等しい。梁部材40はクラッシャブルゾーン11の外郭形状を合わせて形成された、いわゆる骨組みとなっている。外板60は梁部材40に固定されている。エネルギー吸収部材100は車両の幅方向に関して対称に対になって設置されている。左右のエネルギー吸収部材100に関してサバイバルゾーン10から先端までの長さは同じである。つまり図3および図4から左右対称に設置されたエネルギー吸収部材の対は完全に対称な位置と形状である。
【0031】
図5はエネルギー吸収部材100のうち車体の左右どちらかひとつの組のみの斜視図である。
図5において、エネルギー吸収部材100は中空押出形材200とふさぎ板110により構成されている。エネルギー吸収部材100の四辺は中空押出形材200により構成されており、この中空押出形材200の長手方向端面にはふさぎ板110が存在する。ふさぎ板110とエネルギー吸収部材100とは溶接に代表されるような接合手段により強固に接続されている。エネルギー吸収部材100aと100bは、ふさぎ板110を介して強固に接続されている。エネルギー吸収部材100cと100dも同様にふさぎ板110を介して強固に接続されている。
【0032】
図5に示すように、エネルギー吸収部材100a,100dはエネルギー吸収部材100b,100cより小さい容積となっている。
【0033】
図6は図5中A−Aで示したエネルギー吸収部材100の断面図である。
図6において、エネルギー吸収部材100の四辺は中空押出形材200により形成され、四角形の筒状となっている。中空押出形材200の構造については図7で説明する。
【0034】
図7はエネルギー吸収部材100を構成する中空押出形材200の断面図である。
図7において、中空押出形材200は二枚の実質的に平行な面板210aと210bとを備え、この面板210aと210bとを接続する複数のリブ220により構成されている。リブ220と面板210aと210bとにより囲まれる空間の幅方向断面はあたかも三角形を呈して堅牢となるように構成されている。中空押出形材200の材料はアルミニウム合金をはじめとする軽合金である。
【0035】
かかる構成において、本発明を適用したクラッシャブルゾーン11が衝突した場合、車体構造として最初に接触を開始するのは先頭に存在するエネルギー吸収部材100である。このとき上下二組のエネルギー吸収部材100のうち図2に示すように上側のエネルギー吸収部材100c,100dのほうが長いので上側のエネルギー吸収部材100c,
100dが最初に接触して崩壊を開始する。その後、上側のエネルギー吸収部材100c,100dが変形して(LU−LL)の長さだけ短くなったところで下側のエネルギー吸収部材100a,100bが接触を開始する。このため上下二組のエネルギー吸収部材
100は接触を開始するタイミングすなわち崩壊を開始しはじめるときに生じるピーク荷重が発生するタイミングが分散されるため、全体としてのピーク荷重を低減することができる。
【0036】
ピーク荷重の低減効果について図8と図9を用いて説明する。
図8は上下二組のエネルギー吸収部材100の長さを等しくした場合に予想される接触開始からの時間と車体に作用する長手方向の力の関係を表したグラフである。図9は本発明の一実施例のように上下二組のエネルギー吸収部材の長さが異なる場合に予想される接触開始からの時間と車体に作用する長手方向の力の関係を表したグラフである。
図8において、長さが等しい場合上下二組のエネルギー吸収部材が障害物と接触するタイミングは等しい。このため変形を開始したときに生じるピーク荷重が発生するタイミングは等しくなる。そこで、車体全体に着目した場合、ピーク荷重は上側のエネルギー吸収部材により生じるピーク荷重と下側のエネルギー吸収部材により生じるピーク荷重をそのまま加算した値となる。
【0037】
一方図9において、最初に上側のエネルギー吸収部材が接触を開始してピーク荷重が生じる。その後上側のエネルギー吸収部材が変形することにより生じる荷重は、時間の経過(圧壊変形量の経過)とともに徐々に低下する。さらに時間(圧壊変形)をすすめていくと、下側のエネルギー吸収部材が接触を開始する。さらに時間を進めると、下側のエネルギー吸収部材はピーク荷重を生じる。ただ、この時点において上側のエネルギー吸収部材は、ピーク荷重と比較してかなり荷重が低下した状態である。このため、上側のエネルギー吸収部材と下側のエネルギー吸収部材により生じる荷重を加算しても、それほど大きな値にはならない。すなわち、図8に示したように、上下のエネルギー吸収部材が同時に接触する場合と比較して、車体に作用する荷重は低いものとなる。
【0038】
次に、エネルギー吸収部材の断面積と比較して小さな物体と衝突した場合について図
10と図11を用いて説明する。
図10は、エネルギー吸収部材が上下二組に分割されていない場合の側面図である。
図10において、障害物150がエネルギー吸収部材の上半分に衝突した場合、エネルギー吸収部材は上側のみに荷重(いわゆる偏当たり)が作用することになるため、エネルギー吸収部材には高い回転力(モーメント)が作用する。この回転モーメントにより、エネルギー吸収部材100xにおいては、エネルギー吸収部材100yと接続する側の端部に高い応力が作用してこの部分の破断につながる可能性がある。
【0039】
一方、図11に示したように本発明を適用したエネルギー吸収部材では、エネルギー吸収部材100pおよび100qにのみ荷重が作用するために、曲げモーメントは発生しない。
【実施例2】
【0040】
次に、本発明を鉄道車両構体に対して適用した場合の第2の実施例を図12で説明する。
図12は第2の実施例を備えたエネルギー吸収部材の斜視図である。
図12において、エネルギー吸収部材は大きく三つの組からなる。すなわち、100jaと100jbが車体長手方向に強固に連結されて実質的に一つのエネルギー吸収部材を構成しているのと、100kaと100kbが車体長手方向に強固に連結されて実質的に一つのエネルギー吸収部材を構成しているのと、100laと100lbが車体長手方向に強固に連結されて実質的に一つのエネルギー吸収部材を構成しているものである。これらの長さを各々L1,L2,L3とすると、その関係はL1≠L2≠L3となる。
【0041】
かかる構成によって実施例1と比較するとさらにピーク荷重を下げることが可能である。
【実施例3】
【0042】
次に、本発明を鉄道車両構体に対して適用した場合の第3の実施例を図13で説明する。
【0043】
図13は第3の実施例を備えたエネルギー吸収部材の斜視図である。
【0044】
図13において、エネルギー吸収部材100sと100tはサバイバルゾーン側の端部でエネルギー吸収部材100rに連結されている。エネルギー吸収部材100sとエネルギー吸収部材100tの長さは異なる。
【0045】
かかる構成により最初の衝突の時のピーク荷重を低減できることに加え、サバイバルゾーン側のエネルギー吸収部材の剛性が高くなるので全体があたかも“く”の字にまがる全体座屈を防止しやすくなる。
【0046】
本発明は以上のごとく、
1.2枚の板材と、この板材の内側面板間を接続する複数のリブとから構成される中空形材と、この中空形材を筒状に組合わせて形成したエネルギー吸収部材とからなり、このエネルギー吸収部材を車両先頭部の上下に二段取付けた輸送機器において、前記上側のエネルギー吸収部材と前記下側のエネルギー吸収部材は前記車両の進行方向において長さが異なるようにしたものである。
2.前記エネルギー吸収部材は断面積が異なるエネルギー吸収部材を進行方向に複数段重ね合わせてなり、前記車両の進行方向の先端部が最も断面積が小さくしたものである。
3.前記エネルギー吸収部材は前記車両の外板で覆われてなり、この外板の内壁と前記エネルギー吸収部材の先端部との間には空隙が形成されたものである。
4.前記エネルギー吸収部材の進行方向端面は金属板で閉塞したものである。
5.前記中空形材で配線ケーブル等を覆って前記エネルギー吸収部材を形成したものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】一般的な鉄道車両の斜視図である。
【図2】本発明の一実施例を備えた鉄道車両の側面図である。
【図3】本発明の一実施例を備えた鉄道車両の正面図である。
【図4】本発明の一実施例を備えた鉄道車両の平面図である。
【図5】本発明の一実施例を備えたエネルギー吸収部材の斜視図である。
【図6】本発明の一実施例を備えたエネルギー吸収部材の断面図である。
【図7】本発明の一実施例に適用したエネルギー吸収部材を構成する中空押出形材の断面図である。
【図8】従来の構造により衝突した場合の接触を開始してからの時間と車体に作用する長手方向の力の関係を示すグラフ図である。
【図9】本発明を適用して衝突した場合の接触を開始してからの時間と車体に作用する長手方向の力の関係を示すグラフ図である。
【図10】従来の構造により衝突した場合に生じるエネルギー吸収部材の変形を説明する図である。
【図11】本発明を適用した場合に生じるエネルギー吸収部材の変形を説明する図である。
【図12】本発明の第2の実施例を備えたエネルギー吸収部材の斜視図である。
【図13】本発明の第3の実施例を備えたエネルギー吸収部材の斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
1…鉄道車両構体、2…屋根構体、3…妻構体、4…側構体、5…台枠、6…側梁、
10…サバイバルゾーン、11…クラッシャブルゾーン、40…梁部材、50…運転台床、60…外板、70…窓、100…エネルギー吸収部材、110…ふさぎ板、150…障害物、200…中空押出形材、210…面板、220…リブ、230…結節点。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の板材と、この板材の内側面板間を接続する複数のリブとから構成される中空形材と、この中空形材を筒状に組合わせて形成したエネルギー吸収部材とからなり、このエネルギー吸収部材を車両先頭部の上下に二段取付けた輸送機器において、
前記上側のエネルギー吸収部材と前記下側のエネルギー吸収部材は前記車両の進行方向において長さが異なることを特徴とする輸送機器。
【請求項2】
請求項1記載の輸送機器において、
前記エネルギー吸収部材は断面積が異なるエネルギー吸収部材を進行方向に複数段重ね合わせてなり、前記車両の進行方向の先端部が最も断面積が小さいことを特徴とする輸送機器。
【請求項3】
請求項1記載の輸送機器において、
前記エネルギー吸収部材は前記車両の外板で覆われてなり、この外板の内壁と前記エネルギー吸収部材の先端部との間には空隙が形成されていることを特徴とする輸送機器。
【請求項4】
請求項1記載の輸送機器において、
前記エネルギー吸収部材の進行方向端面は金属板で閉塞されていることを特徴とする輸送機器。
【請求項5】
請求項1記載の輸送機器において、
前記中空形材で配線ケーブル等を覆って前記エネルギー吸収部材を形成したことを特徴とする輸送機器。
【請求項1】
2枚の板材と、この板材の内側面板間を接続する複数のリブとから構成される中空形材と、この中空形材を筒状に組合わせて形成したエネルギー吸収部材とからなり、このエネルギー吸収部材を車両先頭部の上下に二段取付けた輸送機器において、
前記上側のエネルギー吸収部材と前記下側のエネルギー吸収部材は前記車両の進行方向において長さが異なることを特徴とする輸送機器。
【請求項2】
請求項1記載の輸送機器において、
前記エネルギー吸収部材は断面積が異なるエネルギー吸収部材を進行方向に複数段重ね合わせてなり、前記車両の進行方向の先端部が最も断面積が小さいことを特徴とする輸送機器。
【請求項3】
請求項1記載の輸送機器において、
前記エネルギー吸収部材は前記車両の外板で覆われてなり、この外板の内壁と前記エネルギー吸収部材の先端部との間には空隙が形成されていることを特徴とする輸送機器。
【請求項4】
請求項1記載の輸送機器において、
前記エネルギー吸収部材の進行方向端面は金属板で閉塞されていることを特徴とする輸送機器。
【請求項5】
請求項1記載の輸送機器において、
前記中空形材で配線ケーブル等を覆って前記エネルギー吸収部材を形成したことを特徴とする輸送機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−253905(P2007−253905A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84442(P2006−84442)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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