説明

エネルギー総和抑制制御装置、電力総和抑制制御装置および方法

【課題】ステップ応答制御においてエネルギー使用量が一定値を大幅に超えないように、かつ設定値への追従特性が損なわれないようにする。
【解決手段】電力総和抑制制御装置は、各制御ループの操作量を特定の値にした場合の昇温時間を推定する昇温時間推定部(12)と、各制御ループの制御量を昇温時間の間に設定値変更に応じた量だけ変化させるのに必要な出力を推定し、この必要出力から各制御アクチュエータの使用電力の総和である使用電力総量を算出し、割当総電力に対する使用電力総量の達成率と最大限度時間に対する昇温時間の確保率とのバランスを表す重み付け評価関数の評価値を最適にする必要出力の組み合わせを探索して、最終的に得られた必要出力を各制御ループの操作量出力上限値として設定する電力抑制部(16〜19)と、制御ループ毎に設けられた制御部(22−i)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の制御ループを備えたマルチループ制御系の制御装置および制御方法に係り、特にステップ応答制御においてエネルギー使用量(例えば電力使用量)が指定された一定値を大幅に超えないように、かつ設定値への追従特性が可能な限り損なわれないように、制御を行うエネルギー総和抑制制御装置、電力総和抑制制御装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化問題に起因する法改正などに伴い、工場や生産ラインのエネルギー使用量管理が強く求められている。工場内の加熱装置や空調機器は特にエネルギー使用量の大きな設備装置であるため、エネルギー使用量の上限を、本来備える最大量よりも低く抑えるように管理されることが多い。例えば電力を使用する設備装置では、電力デマンド管理システムからの指示により、特定の電力使用量以内に制限する運用が行なわれている。
特に複数の電気ヒータを備える加熱装置では、立ち上げ時(複数の電気ヒータが設置されている領域の一斉昇温時)に同時供給される総電力を抑制するために、以下のような手法が提案されている。
【0003】
特許文献1に開示されたリフロー装置では、立ち上げ時の消費電流を低減するために、ヒータの近傍が熱的に飽和してから次のヒータを立ち上げるようにして、立ち上げ時間帯をずらすようにしていた。
特許文献2に開示された半導体ウエハの処理装置では、装置立ち上げ時に一時に大電力が消費されないように、各ヒータに対して時間的にずらしながら電力を供給するようにしていた。
【0004】
特許文献3に開示された基板処理装置では、電力供給部から同時に供給される最大電力を小さくするために、所定の立ち上げ順序に従って、各熱処理部を1台ずつ順次立ち上げていくようにしていた。
特許文献4に開示された加熱装置では、装置立ち上げ時の過度の消費電流による電力障害を防止するために、まずコンベアより下方に位置するヒータに対し必要とする電力を供給し、かつコンベアより上方に位置するヒータへ供給される電力を制限して、合計消費電力を一定値以下に制御し、炉体内の温度の上昇に伴って温度を切換パラメータとして、コンベアより下方に位置するヒータへの供給電力を減少させるように制御していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2885047号公報
【特許文献2】特開平11−126743号公報
【特許文献3】特開平11−204412号公報
【特許文献4】特許第4426155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜特許文献4に開示された技術は、いずれも複数のヒータに時間差を設けて電力を供給する方式であるため、昇温効率が悪くなる、すなわちステップ応答時における制御量PV(温度)の設定値SPへの追従特性が悪くなるという問題点があった。
【0007】
製造装置では、複数のヒータに時間差を設けて電力を供給する場合、装置の立ち上げに要する時間や立ち上げに要する電力には多少のばらつきが必ずあるため、余裕のある時間差を与えて立ち上げの切換判断をする必要がある。したがって、例えば4系統の加熱制御系を備える加熱装置を立ち上げる(昇温する)場合に、加熱制御系を別々に順次立ち上げていくと、結果的に1系統の立ち上げ時間を単純に4倍した時間以上の時間が使われることになる。
【0008】
また、立ち上げの切換判断を行ないやすくするために、特許文献4に開示された技術のように特定の位置のヒータに対して決められた順序で電力を供給していくような工夫が考えられる。しかし、特許文献4に開示された技術は、全く同じパターンの立ち上げ時においてのみ通用する方法であり、製造条件などに応じて昇温要求が変化する場合には適用できない。複数のヒータに同時に電力を供給する通常の同時昇温という最も効率的な方法から乖離した方法になればなるほど、昇温効率が低下するか、適用対象が限られるかの、いずれかの問題が生じる。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、複数の制御系に関し、ステップ応答制御においてエネルギー使用量(例えば電力使用量)が指定された一定値を大幅に超えないように、かつ設定値への追従特性が可能な限り損なわれないように、制御を行うことができるエネルギー総和抑制制御装置、電力総和抑制制御装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のエネルギー総和抑制制御装置は、複数の制御ループLi(i=1〜n)の制御アクチュエータのエネルギー使用量を規定する割当総エネルギーの情報を受信する割当総エネルギー入力手段と、制御量変化時間の最大限度時間の情報を受信する最大限度時間入力手段と、各制御ループLiの操作量MViを現在値から特定の出力値にした場合の前記制御量変化時間を推定する制御量変化時間推定手段と、各制御ループLiの制御量PViを前記制御量変化時間の間に設定値SPiの変更に応じた量だけ変化させるのに必要な操作量である必要出力MUiを推定し、この必要出力MUiから各制御アクチュエータの使用エネルギーの総和である使用エネルギー総量を算出し、前記割当総エネルギーに対する前記使用エネルギー総量の達成率と前記最大限度時間に対する前記制御量変化時間の確保率とのバランスを表す重み付け評価関数の評価値を最適にする前記必要出力MUiの組み合わせを探索して、最終的に得られた必要出力MUiを各制御ループLiの操作量出力上限値OHiとして設定するエネルギー抑制手段と、制御ループLi毎に設けられ、設定値SPiと制御量PViを入力として制御演算により操作量MViを算出し、操作量MViを前記操作量出力上限値OHi以下に制限する上限処理を実行して、上限処理後の操作量MViを対応する制御ループLiの制御アクチュエータに出力する制御手段とを備えることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の電力総和抑制制御装置は、複数の制御ループLi(i=1〜n)の制御アクチュエータの電力使用量を規定する割当総電力PWの情報を受信する割当総電力入力手段と、昇温時間TLの最大限度時間TMの情報を受信する最大限度時間入力手段と、各制御ループLiの変更後の設定値SPiと設定値変更前の制御量PViとから各制御ループLiの制御量PViの変更量ΔPViを算出する制御量変更量算出手段と、各制御ループLiの設定値変更前の操作量MViから制御量PViの変化レートTHiを算出する制御量変化レート算出手段と、各制御ループLiの操作量MViを現在値から特定の出力値にした場合の各制御ループLiの昇温時間TLiを前記変更量ΔPViと前記変化レートTHiとから推定し、前記昇温時間TLiのうちの最大値である前記昇温時間TLを選出する昇温時間算出手段と、各制御ループLiの制御量PViを前記昇温時間TLの間に前記変更量ΔPVi分だけ変化させるのに必要な操作量である必要出力MUiを推定する必要出力推定手段と、前記必要出力MUiと各制御ループLiの既知の最大出力時電力値CTmiとから各制御アクチュエータの使用電力の総和である使用電力総量TWを算出する使用電力合計算出手段と、前記昇温時間TLを逐次変更しながら前記必要出力推定手段と前記使用電力合計算出手段とに処理を実行させ、前記割当総電力PWに対する前記使用電力総量TWの達成率と前記最大限度時間TMに対する前記昇温時間TLの確保率とのバランスを表す重み付け評価関数の評価値Fを最適にする前記必要出力MUiの組み合わせを探索して、最終的に得られた必要出力MUiを各制御ループLiの操作量出力上限値OHiとして設定する探索処理手段と、制御ループLi毎に設けられ、設定値SPiと制御量PViを入力として制御演算により操作量MViを算出し、操作量MViを前記操作量出力上限値OHi以下に制限する上限処理を実行して、上限処理後の操作量MViを対応する制御ループLiの制御アクチュエータに出力する制御手段とを備えることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のエネルギー総和抑制制御装置の1構成例において、前記制御量変化時間推定手段は、推定した前記制御量変化時間を最短時間として前記エネルギー抑制手段に登録し、前記エネルギー抑制手段は、前記割当総エネルギーに対する前記使用エネルギー総量の達成率を、各制御ループLiの既知の最大出力時エネルギー値の総和である最大エネルギーと前記割当総エネルギーと前記使用エネルギー総量とから算出し、前記最大限度時間に対する前記制御量変化時間の確保率を、前記最短時間と前記最大限度時間と前記制御量変化時間とから算出し、前記重み付け評価関数の評価値を、前記割当総エネルギーに対する前記使用エネルギー総量の達成率と前記最大限度時間に対する前記制御量変化時間の確保率との加重和として算出することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の電力総和抑制制御装置の1構成例において、前記昇温時間算出手段は、選出した前記昇温時間TLを最短時間TLmとして前記探索処理手段に登録し、前記探索処理手段は、前記割当総電力PWに対する前記使用電力総量TWの達成率を、前記最大出力時電力値CTmiの総和である最大電力と前記割当総電力PWと前記使用電力総量TWとから算出し、前記最大限度時間TMに対する前記昇温時間TLの確保率を、前記最短時間TLmと前記最大限度時間TMと前記昇温時間TLとから算出し、前記重み付け評価関数の評価値Fを、前記割当総電力PWに対する前記使用電力総量TWの達成率と前記最大限度時間TMに対する前記昇温時間TLの確保率との加重和として算出することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のエネルギー総和抑制制御方法は、複数の制御ループLi(i=1〜n)の制御アクチュエータのエネルギー使用量を規定する割当総エネルギーの情報を受信する割当総エネルギー入力ステップと、制御量変化時間の最大限度時間の情報を受信する最大限度時間入力ステップと、各制御ループLiの操作量MViを現在値から特定の出力値にした場合の前記制御量変化時間を推定する制御量変化時間推定ステップと、各制御ループLiの制御量PViを前記制御量変化時間の間に設定値SPiの変更に応じた量だけ変化させるのに必要な操作量である必要出力MUiを推定し、この必要出力MUiから各制御アクチュエータの使用エネルギーの総和である使用エネルギー総量を算出し、前記割当総エネルギーに対する前記使用エネルギー総量の達成率と前記最大限度時間に対する前記制御量変化時間の確保率とのバランスを表す重み付け評価関数の評価値を最適にする前記必要出力MUiの組み合わせを探索して、最終的に得られた必要出力MUiを各制御ループLiの操作量出力上限値OHiとして設定するエネルギー抑制ステップと、設定値SPiと制御量PViを入力として制御演算により操作量MViを算出し、操作量MViを前記操作量出力上限値OHi以下に制限する上限処理を実行して、上限処理後の操作量MViを対応する制御ループLiの制御アクチュエータに出力する制御ステップとを備えることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の電力総和抑制制御方法は、複数の制御ループLi(i=1〜n)の制御アクチュエータの電力使用量を規定する割当総電力PWの情報を受信する割当総電力入力ステップと、昇温時間TLの最大限度時間TMの情報を受信する最大限度時間入力ステップと、各制御ループLiの変更後の設定値SPiと設定値変更前の制御量PViとから各制御ループLiの制御量PViの変更量ΔPViを算出する制御量変更量算出ステップと、各制御ループLiの設定値変更前の操作量MViから制御量PViの変化レートTHiを算出する制御量変化レート算出ステップと、各制御ループLiの操作量MViを現在値から特定の出力値にした場合の各制御ループLiの昇温時間TLiを前記変更量ΔPViと前記変化レートTHiとから推定し、前記昇温時間TLiのうちの最大値である前記昇温時間TLを選出する昇温時間算出ステップと、各制御ループLiの制御量PViを前記昇温時間TLの間に前記変更量ΔPVi分だけ変化させるのに必要な操作量である必要出力MUiを推定する必要出力推定ステップと、前記必要出力MUiと各制御ループLiの既知の最大出力時電力値CTmiとから各制御アクチュエータの使用電力の総和である使用電力総量TWを算出する使用電力合計算出ステップと、前記昇温時間TLを逐次変更しながら前記必要出力推定ステップと前記使用電力合計算出ステップとに処理を実行させ、前記割当総電力PWに対する前記使用電力総量TWの達成率と前記最大限度時間TMに対する前記昇温時間TLの確保率とのバランスを表す重み付け評価関数の評価値Fを最適にする前記必要出力MUiの組み合わせを探索して、最終的に得られた必要出力MUiを各制御ループLiの操作量出力上限値OHiとして設定する探索処理ステップと、設定値SPiと制御量PViを入力として制御演算により操作量MViを算出し、操作量MViを前記操作量出力上限値OHi以下に制限する上限処理を実行して、上限処理後の操作量MViを対応する制御ループLiの制御アクチュエータに出力する制御ステップとを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、各制御ループLiの操作量MViを現在値から特定の出力値にした場合の制御量変化時間を推定し、各制御ループLiの制御量PViを制御量変化時間の間に設定値SPiの変更に応じた量だけ変化させるのに必要な操作量である必要出力MUiを推定し、この必要出力MUiから各制御アクチュエータの使用エネルギーの総和である使用エネルギー総量を算出し、割当総エネルギーに対する使用エネルギー総量の達成率と最大限度時間に対する制御量変化時間の確保率とのバランスを表す重み付け評価関数の評価値を最適にする必要出力MUiの組み合わせを探索して、最終的に得られた必要出力MUiを各制御ループLiの操作量出力上限値OHiとして設定することにより、複数の制御系に関し、ステップ応答制御(設定値SPiのステップ変更が行なわれ、制御量PViの設定値SPiへの追従のために制御機能が利用されている状態)においてエネルギー使用量が割当総エネルギーを大幅に超えないように、かつ制御量PViの設定値SPiへの追従特性が可能な限り損なわれないように、制御を行うことができる。また、本発明では、割当総エネルギーに対する使用エネルギー総量の達成率と最大限度時間に対する制御量変化時間の確保率とのバランスを表す重み付け評価関数の評価値を最適にする必要出力MUiの組み合わせを探索することにより、電力デマンド管理(特定時間内の総電力を抑えようとする管理)と総エネルギー使用量管理(昇温完了までに消費する総エネルギー使用量が大きくなり過ぎないようにする管理)のバランスの適正化を図ることができる。
【0017】
また、本発明では、各制御ループLiの操作量MViを現在値から特定の出力値にした場合の昇温時間TLを推定し、各制御ループLiの制御量PViを昇温時間TLの間に設定値SPiの変更に応じた量だけ変化させるのに必要な操作量である必要出力MUiを推定し、この必要出力MUiから各制御アクチュエータの使用電力の総和である使用電力総量TWを算出し、割当総電力PWに対する使用電力総量TWの達成率と最大限度時間TMに対する昇温時間TLの確保率とのバランスを表す重み付け評価関数の評価値Fを最適にする必要出力MUiの組み合わせを探索して、最終的に得られた必要出力MUiを各制御ループLiの操作量出力上限値OHiとして設定することにより、複数の制御系に関し、ステップ応答制御において電力使用量が割当総電力PWを大幅に超えないように、かつ制御量PViの設定値SPiへの追従特性が可能な限り損なわれないように、制御を行うことができる。また、本発明では、割当総電力PWに対する使用電力総量TWの達成率と最大限度時間TMに対する昇温時間TLの確保率とのバランスを表す重み付け評価関数の評価値Fを最適にする必要出力MUiの組み合わせを探索することにより、電力デマンド管理(特定時間内の総電力を抑えようとする管理)と総電力使用量管理(昇温完了までに消費する総電力使用量が大きくなり過ぎないようにする管理)のバランスの適正化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る加熱装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る電力総和抑制制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る制御系のブロック線図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る電力総和抑制制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る電力総和抑制制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第1の実施の形態において電力デマンド管理と総エネルギー使用量管理とのバランスを重みによって操作できることを示す図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係るエネルギー総和抑制制御装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[発明の原理]
例として加熱装置を取り上げて説明する。例えば複数の加熱制御系に時間差を設けて順次立ち上げると、結果的に電力に余裕のある時間帯が生じることは避けられないので、その電力の余裕が装置の立ち上げ完了を遅らせる非効率分になることに、発明者は着眼した。単純に言えば、設定値SPのステップ変更が行なわれた際に、制御量PVの設定値SPへの追従制御が行なわれていない状態を多く発生させていることになる。
【0020】
また、制御ループ間の干渉がある加熱制御系では、先に立ち上げ完了した制御ループに、後から立ち上がる制御ループからの干渉による昇温外乱が発生するので、制御の整定までに余計な時間がかかり非効率になる。したがって、使用する総電力を一定値以内に抑えて各制御ループの同時昇温をしながら、各制御ループが極力同時に昇温を完了するように「完了のタイミング」を合わせることが、最も効率的な装置の立ち上げ方になる。
【0021】
そこで、制御ループの代表的な昇温能力(例えば最大出力時の昇温レート)を予め記憶しておき、操作量MVを設定値変更前の値(現在値)から特定の出力値(例えば最大値)にした場合の昇温レートを推定し、昇温完了までの推定時間と操作量出力上限に対応する使用電力とを簡易的に求める。あるいは、操作量MVを設定値変更前の値(現在値)から特定の出力値(例えば最大値)にした場合の昇温レートを推定する推定式を実験データに基づいて求め、その比較的高精度な推定式を備えるようにしてもよい。
各制御ループの昇温完了時間が概ね等しくなり、かつ使用電力の合計が割当総電力以内で最大になる操作量出力上限の組み合わせを、前記昇温完了までの推定時間を適宜修正しながら求めれば、最も効率的な立ち上げ方に近づけることができる。
【0022】
小型の調節計では、アルゴリズム記憶容量や1制御周期当りの演算量も限られている。したがって、各制御ループにおける最大出力時(操作量MViが最大値の時)の昇温時間をまず算出し、算出した各ループの昇温時間から最大のものを抽出し、その昇温時間近傍を所要時間とした場合に各ループの出力上限を低くできる度合を求め、合計が割当総電力以内になるかどうかを判定し、割当総電力を超える場合は、前記所要時間を数パーセント程度大きくして、各ループの出力上限を低くできる度合を再度求めるという演算手順が好ましい。以上が本発明の基本原理である。
【0023】
ただし、基本原理の技術は、特定時間内の総電力を抑えると、昇温完了までに消費する総エネルギー使用量が大きくなりすぎるケースがある。一方、総電力を抑えずに昇温時間を短くすると、電力デマンドに対応できないばかりでなく、高温待機時間を不要に長くして総エネルギー使用量が不利になるケースがある。
【0024】
エネルギー管理には、電力デマンド管理という側面と、総エネルギー使用量管理という側面がある。電力デマンドレスポンスとして特定時間内の総電力を抑制すれば、その特定時間を含む特定期間内の総エネルギー使用量も抑制される可能性もあるが、加熱装置では必ずしも両立する方向にあるとは限らない。保温性の高い加熱系でないならば、総電力を抑えて昇温時間を犠牲にすると、その分だけ昇温中の放熱累積が顕著に大きくなる。
発明者は、このような問題点が発生することを見出し、電力デマンド管理と総エネルギー使用量管理のバランスを、例えば上位側から適宜調整可能になるバランス調整機能を備えるべきであることと、その具体的な実現方法に想到した。総エネルギー使用量管理は、昇温中の放熱累積として管理できるので、昇温時間短縮管理に置き換えられる。
【0025】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。本実施の形態では、電力デマンド対応の重みと昇温時間短縮の重みにより、電力デマンド管理と総エネルギー使用量管理のバランスの適正化を図る。
【0026】
図1は本発明の第1の実施の形態に係る加熱装置の構成を示すブロック図である。加熱装置は、被加熱物を加熱するための加熱処理炉1と、加熱処理炉1の内部に設置された複数の制御アクチュエータであるヒータH1〜H4と、それぞれヒータH1〜H4によって加熱される加熱処理炉1内の制御ゾーンZ1〜Z4の温度PVを測定する複数の温度センサS1〜S4と、ヒータH1〜H4に出力する操作量MV1〜MV4を算出する電力総和抑制制御装置2と、電力総和抑制制御装置2から出力された操作量MV1〜MV4に応じた電力をそれぞれヒータH1〜H4に供給する電力調整器3−1〜3−4とから構成される。この図2に示した加熱装置においては、電力総和抑制制御装置2が制御ゾーンZ1〜Z4の温度PVを制御する制御ループが、4個形成されていることになる。
【0027】
図2は電力総和抑制制御装置2の構成を示すブロック図である。電力総和抑制制御装置2は、上位PC4から割当総電力PWの情報を受信する割当総電力入力部10と、昇温時間TLの最大限度時間TMの情報を受信する最大限度時間入力部11と、各制御ループLi(i=1〜nであり、nは2以上の整数、図1の例ではn=4)の操作量MViを現在値から最大値100.0%にした場合の各制御ループLiの昇温時間TLiのうちの最大値TLを推定する昇温時間推定部12と、各制御ループLiの制御量PViを昇温時間TLの間に設定値SPiの変更に応じた量だけ変化させるのに必要な操作量である必要出力MUiを推定する必要出力推定部16と、各制御ループLiの必要出力MUiと最大出力時電力値CTmiとから各ヒータHiの使用電力の総和である使用電力総量TWを算出する使用電力合計算出部17と、割当総電力PWと最大限度時間TMを用いた重み付け評価関数を記憶する評価関数記憶部18と、割当総電力PWに対する使用電力総量TWの達成率と最大限度時間TMに対する昇温時間TLの確保率とのバランスを表す重み付け評価関数の評価値Fを最適にする必要出力MUiの組み合わせを探索して、最終的に得られた必要出力MUiを各制御ループLiの操作量出力上限値OHiとして設定する探索処理部19と、制御ループLi毎に設けられた制御部22−iとから構成される。
【0028】
昇温時間推定部12は、制御量PVi変更量算出部13と、制御量PVi変化レート算出部14と、昇温時間算出部15とから構成される。この昇温時間推定部12は、制御量変化時間推定手段を構成している。
探索処理部19は、昇温時間設定部20と、評価関数判定部21とから構成される。必要出力推定部16と使用電力合計算出部17と探索処理部19とは、電力抑制手段を構成している。
【0029】
制御部22−iは、設定値SPi入力部23−iと、制御量PVi入力部24−iと、PID制御演算部25−iと、出力上限処理部26−iと、操作量MVi出力部27−iとから構成される。
【0030】
図3は本実施の形態の制御系のブロック線図である。各制御ループLiは、制御部22−iと、制御対象Piとから構成される。後述のように、制御部22−iは、設定値SPiと制御量PViとから操作量MViを算出して、この操作量MViを制御対象Piに出力する。図1の例では、制御対象PiはヒータHiが加熱する加熱処理炉1であるが、操作量MViの実際の出力先は電力調整器3−iであり、操作量MViに応じた電力が電力調整器3−iからヒータHiに供給される。
【0031】
以下、本実施の形態の電力総和抑制制御装置2の動作を説明する。図4、図5は電力総和抑制制御装置2の動作を示すフローチャートである。なお、図4のA,Bは、それぞれ図5のA,Bと接続されていることは言うまでもない。
割当総電力入力部10は、電力を管理する電力デマンド管理システムのコンピュータである上位PC4から、ヒータの電力使用量を規定する割当総電力PWの情報を受信する(図4ステップS100)。
【0032】
最大限度時間入力部11は、昇温時間TLの最大限度時間TMの情報を例えば上位PC4から受信する(ステップS101)。
探索処理部19の昇温時間設定部20は、加熱装置のオペレータ等によって各制御ループLiの設定値SPiが変更され、昇温が開始されたとき(ステップS102においてYES)、操作量MViを現在値から最大値100.0%にした場合の各制御ループLiの昇温時間TLiのうちの最大値TLを求める処理を、以下のように行なわせる。
【0033】
まず、昇温時間推定部12の制御量PVi変更量算出部13は、各制御ループLiの変更後の設定値SPiと設定値変更前の制御量PViとを取得して、各制御ループLiの制御量PViの変更量ΔPViを次式により制御ループLi毎に算出する(ステップS103)。
ΔPVi=SPi−PVi ・・・(1)
【0034】
制御量PVi(温度)は、温度センサSiによって測定され、制御部22−iに入力される。なお、設定値SPiと制御量PViとに応じた制御はステップS103よりも後ろのステップで行われるので、制御部22−iに入力される制御量PViをステップS103の時点で取得すれば、この制御量PViは設定値変更前の制御量となる。
【0035】
続いて、昇温時間推定部12の制御量PVi変化レート算出部14は、各制御ループLiの制御部22−iから設定値変更前の操作量MViを取得し、設定値SPiの変更に伴う制御量PViの変化のレート(速度)THiを次式により制御ループLi毎に算出する(ステップS104)。
THi=THoi{100.0/(100.0−MVi)} ・・・(2)
【0036】
設定値SPiと制御量PViとに応じた制御はステップS104よりも後ろのステップで行われるので、制御部22−iから出力されている操作量MViをステップS104の時点で取得すれば、この操作量MViは設定値変更前の操作量となる。式(2)において、THoiは制御ループLi毎に予め記憶されている値であり、操作量MVi=0.0%の状態から最大出力MVi=100.0%にしたとき(すなわち操作量上昇幅が100.0%のとき)の制御量PViの変化レート値である。つまり、式(2)は、変化レート値THoiを操作量上昇幅(100.0−MVi)で換算する数式である。本実施の形態では加熱装置の例で説明しているので、制御量PViの変化レートTHiは昇温レート[sec./℃]である。
【0037】
次に、昇温時間推定部12の昇温時間算出部15は、各制御ループLiの制御量PViをΔPViだけ変化させるのに必要な制御量変化時間である昇温時間TLiを、制御量PViの変化レートTHiと変更量ΔPViとから次式により制御ループLi毎に推定する(ステップS105)。
TLi=THiΔPVi ・・・(3)
【0038】
昇温時間算出部15は、各制御ループLiの昇温時間TLiのうちの最大値TLを選出する(ステップS106)。
TL=max(TLi) ・・・(4)
式(4)において、max( )は最大値選出演算関数である。以上のステップS103〜S106の処理により、昇温時間TLを推定することができる。この昇温時間TLは、最大出力MVi=100.0%を利用しての昇温時間なので、昇温可能な最短時間を与えることになる。昇温時間算出部15は、TLm=TL、すなわちステップS106で選出した昇温時間TLを最短時間TLmとして探索処理部19に登録する(ステップS107)。
【0039】
次に、探索処理部19の評価関数判定部21は、制御量PViを昇温時間TLの間に変更量ΔPVi分だけ変化させる場合において、電力デマンド管理のための使用電力総量TWの抑制と総エネルギー使用量管理のための昇温時間TLの短縮とのバランスを調整する処理を、以下のように行なわせる。
【0040】
まず、必要出力推定部16は、各制御ループLiの設定値変更前の操作量MViを取得し、各制御ループLiの制御量PViを昇温時間TLの間に変更量ΔPVi分だけ変化させるのに必要な操作量である必要出力MUiを次式により制御ループLi毎に算出する(ステップS108)。
MUi={100.0THoi/(TL/ΔPVi)}+MVi ・・・(5)
式(5)は、式(2)において、分母の100.0をMUiに置換し、THiをTL/ΔPViに置換して、MUiについて解くことにより得られる数式である。
【0041】
続いて、使用電力合計算出部17は、各制御ループLiの必要出力MUiから各ヒータHiの使用電力の総和である使用電力総量TWを次式により算出する(ステップS109)。
【0042】
【数1】

【0043】
式(6)において、CTmiは制御ループLi毎に予め記憶されている値であり、操作量MViが最大値100.0%の場合のヒータHiの使用電力値である。
探索処理部19の評価関数判定部21は、最大電力ΣCTmiと使用電力総量TWと割当総電力PWとから、割当総電力PWに対する使用電力総量TWの達成率であるデマンド達成率FDを次式のように算出する(ステップS110)。
【0044】
【数2】

【0045】
また、評価関数判定部21は、最大限度時間TMと昇温時間TLと最短時間TLmとから、最大限度時間TMに対する昇温時間TLの確保率である昇温時間確保率FTを次式のように算出する(ステップS111)。
FT=(TM−TL)/(TM−TLm) ・・・(8)
そして、評価関数判定部21は、デマンド達成率FDと昇温時間確保率FTとのバランスを表す重み付け評価関数の評価値Fを次式のように算出する(ステップS112)。
F=αFD+(1−α)FT ・・・(9)
【0046】
式(7)〜式(9)は、予め評価関数記憶部18に登録されている。式(9)の重みαは、予め定められた0.0〜1.0の任意の数値である。重みαが0.0に近いほど昇温時間確保の重みが大きくなり、重みαが1.0に近いほど電力デマンド達成の重みが大きくなる。なお、式(7)では分母をΣCTmi−PWとし、式(8)では分母をTM−TLmとしており、デマンド達成率FDと昇温時間確保率FTの理想値(最大値)が各々1.0になる。これにより、デマンド達成率FDと昇温時間確保率FTとのバランスを考え易くなるようにしている。
次に、評価関数判定部21は、必要出力推定部16が今回算出した制御ループLi毎の必要出力MUiと自身が今回算出した重み付け評価関数の評価値Fとを記憶する(ステップS113)。
【0047】
そして、評価関数判定部21は、今回算出した重み付け評価関数の評価値Fと自身が記憶している前回の評価値Fとを比較し(ステップS114)、今回算出した評価値Fが前回の評価値F以上の場合は(ステップS114においてNO)、昇温時間設定部20に指示して、昇温時間TLを現在の値の例えば1.05倍に延長させて(ステップS115)、ステップS108に戻る。こうして、今回算出した評価値Fが前回の評価値Fよりも小さくなるまで、ステップS108〜S115の処理が繰り返される。なお、評価関数判定部21に記憶されている重み付け評価関数の評価値Fの初期値は0である。したがって、昇温開始後の最初のステップS114の処理では、評価関数判定部21が算出した評価値Fと前回の評価値Fに相当する初期値0とが比較されることになる。
【0048】
評価関数判定部21は、今回算出した重み付け評価関数の評価値Fが前回の評価値Fよりも小さい場合(ステップS114においてYES)、前回の評価値Fに対応する、各制御ループLiの必要出力MUi(必要出力推定部16が前回算出した必要出力MUi)をそれぞれ各制御ループLiの操作量出力上限値OHiとして設定する(ステップS116)。本実施の形態では、評価値Fを縦軸にとり、昇温時間TLを横軸にとったとき、重み付け評価関数は最大値を頂点とする上に凸の関数となる。したがって、ステップS116の処理は、評価値Fが最大値(最適値)になったときの必要出力MUiを操作量出力上限値OHiとして設定することを意味する。
【0049】
次に、制御部22−iは、制御ループLiの操作量MViを以下のとおりに算出する。各制御ループLiの設定値SPiは、加熱装置のオペレータによって設定され、設定値SPi入力部23−iを介してPID制御演算部25−iに入力される(図5ステップS117)。
各制御ループLiの制御量PVi(温度)は、温度センサSiによって測定され、制御量PVi入力部24−iを介してPID制御演算部25−iに入力される(ステップS118)。
【0050】
PID制御演算部25−iは、設定値SPiと制御量PViに基づいて、以下の伝達関数式のようなPID制御演算を行って操作量MViを算出する(ステップS119)。
MVi=(100/PBi){1+(1/TIis)+TDis}(SPi−PVi)
・・・(10)
PBiは比例帯、TIiは積分時間、TDiは微分時間、sはラプラス演算子である。
【0051】
出力上限処理部26−iは、以下の式のような操作量MViの上限処理を行う(ステップS120)。
IF MVi>OHi THEN MVi=OHi ・・・(11)
すなわち、出力上限処理部26−iは、操作量MViが操作量出力上限値OHiより大きい場合、操作量MVi=OHiとする上限処理を行う。
【0052】
操作量MVi出力部27−iは、出力上限処理部26−iによって上限処理された操作量MViを制御対象(実際の出力先は電力調整器3−i)に出力する(ステップS121)。制御部22−iは制御ループLi毎に設けられているので、ステップS117〜S121の処理は制御ループLi毎に実施されることになる。
電力総和抑制制御装置2は、以上のようなステップS102〜S121の処理を例えばオペレータの指示によって制御が終了するまで(ステップS122においてYES)、一定時間毎に行う。なお、ステップS103〜S116の処理は、各制御ループLiの設定値SPiのうち少なくとも1つが変更されたときに行われる。
【0053】
以下、説明を容易にするため、シンプルな架空の数値例を示す。最大電力ΣCTmi=600W、割当総電力PW=300W、最短時間TLm=120秒、最大限度時間TM=180秒、重みα=0.7(つまり、デマンド達成の重みが大きい)であるときに、下記のような(A)〜(C)の3とおりの昇温時間TLと使用電力総量TWとが推定算出されたとする。
(A)使用電力総量TW=500W、昇温時間TL=130秒。
(B)使用電力総量TW=450W、昇温時間TL=150秒。
(C)使用電力総量TW=400W、昇温時間TL=175秒。
【0054】
(A)の場合のデマンド達成率FD、昇温時間確保率FTおよび重み付け評価関数の評価値Fは、式(12)〜式(14)のように算出される。
FD=(600−500)/(600−300)=0.333 ・・・(12)
FT=(180−130)/(180−120)=0.833 ・・・(13)
F=0.7×0.333+0.3×0.833
=0.2331+0.2499=0.4830 ・・・(14)
【0055】
(B)の場合のデマンド達成率FD、昇温時間確保率FTおよび重み付け評価関数の評価値Fは、式(15)〜式(17)のように算出される。
FD=(600−450)/(600−300)=0.500 ・・・(15)
FT=(180−150)/(180−120)=0.500 ・・・(16)
F=0.7×0.500+0.3×0.500
=0.350+0.150=0.500 ・・・(17)
【0056】
(C)の場合のデマンド達成率FD、昇温時間確保率FTおよび重み付け評価関数の評価値Fは、式(18)〜式(20)のように算出される。
FD=(600−400)/(600−300)=0.667 ・・・(18)
FT=(180−175)/(180−120)=0.083 ・・・(19)
F=0.7×0.667+0.3×0.083
=0.4669+0.0249=0.4918 ・・・(20)
【0057】
(A)〜(C)の例によると、(B)の場合の重み付け評価関数の評価値Fが最大値になるので、この(B)の場合の必要出力MUiが操作量出力上限値OHiとして設定される。
【0058】
また、最大電力ΣCTmi=600W、割当総電力PW=300W、最短時間TLm=120秒、最大限度時間TM=180秒、重みα=0.3(つまり、昇温時間確保の重みが大きい)であるときに、下記のような(D)〜(F)の3とおりの昇温時間TLと使用電力総量TWとが推定算出されたとする。
(D)使用電力総量TW=500W、昇温時間TL=130秒。
(E)使用電力総量TW=450W、昇温時間TL=150秒。
(F)使用電力総量TW=400W、昇温時間TL=175秒。
【0059】
(D)の場合のデマンド達成率FD、昇温時間確保率FTおよび重み付け評価関数の評価値Fは、式(21)〜式(23)のように算出される。
FD=(600−500)/(600−300)=0.333 ・・・(21)
FT=(180−130)/(180−120)=0.833 ・・・(22)
F=0.3×0.333+0.7×0.833
=0.0999+0.5831=0.6830 ・・・(23)
【0060】
(E)の場合のデマンド達成率FD、昇温時間確保率FTおよび重み付け評価関数の評価値Fは、式(24)〜式(26)のように算出される。
FD=(600−450)/(600−300)=0.500 ・・・(24)
FT=(180−150)/(180−120)=0.500 ・・・(25)
F=0.3×0.500+0.7×0.500
=0.150+0.350=0.500 ・・・(26)
【0061】
(F)の場合のデマンド達成率FD、昇温時間確保率FTおよび重み付け評価関数の評価値Fは、式(27)〜式(29)のように算出される。
FD=(600−400)/(600−300)=0.667 ・・・(27)
FT=(180−175)/(180−120)=0.083 ・・・(28)
F=0.3×0.667+0.7×0.083
=0.2001+0.0581=0.2582 ・・・(29)
【0062】
(D)〜(F)の例によると、(D)の場合の重み付け評価関数の評価値Fが最大値になるので、この(D)の場合の必要出力MUiが操作量出力上限値OHiとして設定される。
図6は(A)〜(F)の例における昇温時間TLと重み付け評価関数の評価値Fとの関係を示す図であり、電力デマンド管理と総エネルギー使用量管理とのバランスを重みαによって操作できることを示す図である。図6における60は(A)〜(C)の場合の昇温時間TLと評価値Fとの関係を示し、61は(D)〜(F)の場合の昇温時間TLと評価値Fとの関係を示している。
【0063】
本実施の形態では、電力デマンド管理と総エネルギー使用量管理とのバランス調整機能として、重みαを上位PC4側から指定できるような機能を設けることにより、電力使用量が割当総電力PWを大幅に超えないようにするだけでなく、昇温完了までに消費する総電力使用量が大きくなり過ぎないように昇温時間TLの短縮を考慮した制御を実現することができ、電力デマンド管理と総エネルギー使用量管理とのバランスを重みαによって操作することができる。
【0064】
[最適値探索動作例]
本実施の形態においては、重み付け評価関数の評価値Fが前回の評価値Fよりも小さくなるまで、昇温時間TLを1.05倍長くしながらステップS108〜S115の処理を繰り返すようにしたので、昇温時間TL=最短時間TLm=120秒から始まり、120×1.05=126秒,120×1.052=132.3秒,120×1.053=138.9秒,120×1.054=145.9秒,・・・のような順序で昇温時間TLが確定し、この昇温時間TLに対応する使用電力総量TWが算出され、重み付け評価関数の評価値Fが算出されることになる。重み付け評価関数を、最大値が最適値になる上に凸の関数式で与えているので、算出した評価値Fが前回の評価値Fを下回った場合は、それ以上の最適値探索を実行する必要はない。
【0065】
[関数式のバリエーション]
本実施の形態では、デマンド達成率FD、昇温時間確保率FTおよび重み付け評価関数の評価値Fを式(7)〜式(9)のように算出したが、これに限らず、例えば下記のようにデマンド達成率FDおよび昇温時間確保率FTの次数を変更して重み付け評価関数の評価値Fを算出しても理論上は問題ない。
F=αFD2+(1−α)FT2 ・・・(30)
【0066】
また、式(8)の代わりに下記の式を用いて昇温時間確保率FTを算出しても構わない。つまり、昇温時間確保率FTの分母をTM−TLmとしなくても理論上は問題ない。
FT=(TM−TL)/TM ・・・(31)
【0067】
なお、本実施の形態の電力総和抑制制御装置2における処理の順序は図4、図5に示したとおりでなくてもよいことは言うまでもない。また、図4、図5の例では、割当総電力PWと最大限度時間TMの情報を1回だけ受信するようになっているが、上位PC4は必要に応じて情報を送信し、これにより割当総電力PWと最大限度時間TMと重みαの値が随時更新されるようになっていてもよい。
【0068】
[第2の実施の形態]
第1の実施の形態では、電力量に基づいて操作量出力上限値OHiの設定などの処理を行っているが、これに限るものではなく、例えば燃料使用量などのエネルギー量に基づいて処理を行うようにしてもよい。すなわち、本発明は、第1の実施の形態の電力総和抑制制御装置2で用いる「電力」という物理量を、「エネルギー」あるいは「パワー」に置き換えた形態を権利範囲に含む。
【0069】
第1の実施の形態の電力総和抑制制御装置2で用いる「電力」という物理量を「エネルギー」に置き換えたエネルギー総和抑制制御装置の構成を図7に示す。
図7のエネルギー総和抑制制御装置は、最大限度時間入力部11と、昇温時間推定部12と、必要出力推定部16と、評価関数記憶部18と、制御部22−iと、割当総エネルギー入力部110と、使用エネルギー合計算出部117と、探索処理部119とから構成される。探索処理部119は、昇温時間設定部20と、評価関数判定部121とから構成される。必要出力推定部16と使用エネルギー合計算出部117と探索処理部119とは、エネルギー抑制手段を構成している。図7に示したエネルギー総和抑制制御装置の構成は、第1の実施の形態において「電力」を「エネルギー」に置き換えたものに相当するので、詳細な説明は省略する。
【0070】
なお、本発明は、加熱制御に限らず、例えば冷却装置による冷却温度制御や、換気風量による環境制御(有害物質VOC(Volatile Organic Compounas)や細菌などの制御)の電力総和抑制、エネルギー総和抑制にも適用することができる。
【0071】
第1、第2の実施の形態で説明した電力総和抑制制御装置とエネルギー総和抑制制御装置とは、CPU、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って第1、第2の実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、複数の制御ループを備えたマルチループ制御系の制御装置および制御方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1…加熱処理炉、2…電力総和抑制制御装置、3−1〜3−4…電力調整器、10…割当総電力入力部、11…最大限度時間入力部、12…昇温時間推定部、13…制御量PVi変更量算出部、14…制御量PVi変化レート算出部、15…昇温時間算出部、16…必要出力推定部、17…使用電力合計算出部、18…評価関数記憶部、19,119…探索処理部、20…昇温時間設定部、21,121…評価関数判定部、22−i…制御部、23−i…設定値SPi入力部、24−i…制御量PVi入力部、25−i…PID制御演算部、26−i…出力上限処理部、27−i…操作量MVi出力部、110…割当総エネルギー入力部、117…使用エネルギー合計算出部、H1〜H4…ヒータ、S1〜S4…温度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の制御ループLi(i=1〜n)の制御アクチュエータのエネルギー使用量を規定する割当総エネルギーの情報を受信する割当総エネルギー入力手段と、
制御量変化時間の最大限度時間の情報を受信する最大限度時間入力手段と、
各制御ループLiの操作量MViを現在値から特定の出力値にした場合の前記制御量変化時間を推定する制御量変化時間推定手段と、
各制御ループLiの制御量PViを前記制御量変化時間の間に設定値SPiの変更に応じた量だけ変化させるのに必要な操作量である必要出力MUiを推定し、この必要出力MUiから各制御アクチュエータの使用エネルギーの総和である使用エネルギー総量を算出し、前記割当総エネルギーに対する前記使用エネルギー総量の達成率と前記最大限度時間に対する前記制御量変化時間の確保率とのバランスを表す重み付け評価関数の評価値を最適にする前記必要出力MUiの組み合わせを探索して、最終的に得られた必要出力MUiを各制御ループLiの操作量出力上限値OHiとして設定するエネルギー抑制手段と、
制御ループLi毎に設けられ、設定値SPiと制御量PViを入力として制御演算により操作量MViを算出し、操作量MViを前記操作量出力上限値OHi以下に制限する上限処理を実行して、上限処理後の操作量MViを対応する制御ループLiの制御アクチュエータに出力する制御手段とを備えることを特徴とするエネルギー総和抑制制御装置。
【請求項2】
複数の制御ループLi(i=1〜n)の制御アクチュエータの電力使用量を規定する割当総電力PWの情報を受信する割当総電力入力手段と、
昇温時間TLの最大限度時間TMの情報を受信する最大限度時間入力手段と、
各制御ループLiの変更後の設定値SPiと設定値変更前の制御量PViとから各制御ループLiの制御量PViの変更量ΔPViを算出する制御量変更量算出手段と、
各制御ループLiの設定値変更前の操作量MViから制御量PViの変化レートTHiを算出する制御量変化レート算出手段と、
各制御ループLiの操作量MViを現在値から特定の出力値にした場合の各制御ループLiの昇温時間TLiを前記変更量ΔPViと前記変化レートTHiとから推定し、前記昇温時間TLiのうちの最大値である前記昇温時間TLを選出する昇温時間算出手段と、
各制御ループLiの制御量PViを前記昇温時間TLの間に前記変更量ΔPVi分だけ変化させるのに必要な操作量である必要出力MUiを推定する必要出力推定手段と、
前記必要出力MUiと各制御ループLiの既知の最大出力時電力値CTmiとから各制御アクチュエータの使用電力の総和である使用電力総量TWを算出する使用電力合計算出手段と、
前記昇温時間TLを逐次変更しながら前記必要出力推定手段と前記使用電力合計算出手段とに処理を実行させ、前記割当総電力PWに対する前記使用電力総量TWの達成率と前記最大限度時間TMに対する前記昇温時間TLの確保率とのバランスを表す重み付け評価関数の評価値Fを最適にする前記必要出力MUiの組み合わせを探索して、最終的に得られた必要出力MUiを各制御ループLiの操作量出力上限値OHiとして設定する探索処理手段と、
制御ループLi毎に設けられ、設定値SPiと制御量PViを入力として制御演算により操作量MViを算出し、操作量MViを前記操作量出力上限値OHi以下に制限する上限処理を実行して、上限処理後の操作量MViを対応する制御ループLiの制御アクチュエータに出力する制御手段とを備えることを特徴とする電力総和抑制制御装置。
【請求項3】
請求項1記載のエネルギー総和抑制制御装置において、
前記制御量変化時間推定手段は、推定した前記制御量変化時間を最短時間として前記エネルギー抑制手段に登録し、
前記エネルギー抑制手段は、前記割当総エネルギーに対する前記使用エネルギー総量の達成率を、各制御ループLiの既知の最大出力時エネルギー値の総和である最大エネルギーと前記割当総エネルギーと前記使用エネルギー総量とから算出し、前記最大限度時間に対する前記制御量変化時間の確保率を、前記最短時間と前記最大限度時間と前記制御量変化時間とから算出し、前記重み付け評価関数の評価値を、前記割当総エネルギーに対する前記使用エネルギー総量の達成率と前記最大限度時間に対する前記制御量変化時間の確保率との加重和として算出することを特徴とするエネルギー総和抑制制御装置。
【請求項4】
請求項2記載の電力総和抑制制御装置において、
前記昇温時間算出手段は、選出した前記昇温時間TLを最短時間TLmとして前記探索処理手段に登録し、
前記探索処理手段は、前記割当総電力PWに対する前記使用電力総量TWの達成率を、前記最大出力時電力値CTmiの総和である最大電力と前記割当総電力PWと前記使用電力総量TWとから算出し、前記最大限度時間TMに対する前記昇温時間TLの確保率を、前記最短時間TLmと前記最大限度時間TMと前記昇温時間TLとから算出し、前記重み付け評価関数の評価値Fを、前記割当総電力PWに対する前記使用電力総量TWの達成率と前記最大限度時間TMに対する前記昇温時間TLの確保率との加重和として算出することを特徴とする電力総和抑制制御装置。
【請求項5】
複数の制御ループLi(i=1〜n)の制御アクチュエータのエネルギー使用量を規定する割当総エネルギーの情報を受信する割当総エネルギー入力ステップと、
制御量変化時間の最大限度時間の情報を受信する最大限度時間入力ステップと、
各制御ループLiの操作量MViを現在値から特定の出力値にした場合の前記制御量変化時間を推定する制御量変化時間推定ステップと、
各制御ループLiの制御量PViを前記制御量変化時間の間に設定値SPiの変更に応じた量だけ変化させるのに必要な操作量である必要出力MUiを推定し、この必要出力MUiから各制御アクチュエータの使用エネルギーの総和である使用エネルギー総量を算出し、前記割当総エネルギーに対する前記使用エネルギー総量の達成率と前記最大限度時間に対する前記制御量変化時間の確保率とのバランスを表す重み付け評価関数の評価値を最適にする前記必要出力MUiの組み合わせを探索して、最終的に得られた必要出力MUiを各制御ループLiの操作量出力上限値OHiとして設定するエネルギー抑制ステップと、
設定値SPiと制御量PViを入力として制御演算により操作量MViを算出し、操作量MViを前記操作量出力上限値OHi以下に制限する上限処理を実行して、上限処理後の操作量MViを対応する制御ループLiの制御アクチュエータに出力する制御ステップとを備えることを特徴とするエネルギー総和抑制制御方法。
【請求項6】
複数の制御ループLi(i=1〜n)の制御アクチュエータの電力使用量を規定する割当総電力PWの情報を受信する割当総電力入力ステップと、
昇温時間TLの最大限度時間TMの情報を受信する最大限度時間入力ステップと、
各制御ループLiの変更後の設定値SPiと設定値変更前の制御量PViとから各制御ループLiの制御量PViの変更量ΔPViを算出する制御量変更量算出ステップと、
各制御ループLiの設定値変更前の操作量MViから制御量PViの変化レートTHiを算出する制御量変化レート算出ステップと、
各制御ループLiの操作量MViを現在値から特定の出力値にした場合の各制御ループLiの昇温時間TLiを前記変更量ΔPViと前記変化レートTHiとから推定し、前記昇温時間TLiのうちの最大値である前記昇温時間TLを選出する昇温時間算出ステップと、
各制御ループLiの制御量PViを前記昇温時間TLの間に前記変更量ΔPVi分だけ変化させるのに必要な操作量である必要出力MUiを推定する必要出力推定ステップと、
前記必要出力MUiと各制御ループLiの既知の最大出力時電力値CTmiとから各制御アクチュエータの使用電力の総和である使用電力総量TWを算出する使用電力合計算出ステップと、
前記昇温時間TLを逐次変更しながら前記必要出力推定ステップと前記使用電力合計算出ステップとに処理を実行させ、前記割当総電力PWに対する前記使用電力総量TWの達成率と前記最大限度時間TMに対する前記昇温時間TLの確保率とのバランスを表す重み付け評価関数の評価値Fを最適にする前記必要出力MUiの組み合わせを探索して、最終的に得られた必要出力MUiを各制御ループLiの操作量出力上限値OHiとして設定する探索処理ステップと、
設定値SPiと制御量PViを入力として制御演算により操作量MViを算出し、操作量MViを前記操作量出力上限値OHi以下に制限する上限処理を実行して、上限処理後の操作量MViを対応する制御ループLiの制御アクチュエータに出力する制御ステップとを備えることを特徴とする電力総和抑制制御方法。
【請求項7】
請求項5記載のエネルギー総和抑制制御方法において、
前記制御量変化時間推定ステップは、推定した前記制御量変化時間を最短時間として設定し、
前記エネルギー抑制ステップは、前記割当総エネルギーに対する前記使用エネルギー総量の達成率を、各制御ループLiの既知の最大出力時エネルギー値の総和である最大エネルギーと前記割当総エネルギーと前記使用エネルギー総量とから算出し、前記最大限度時間に対する前記制御量変化時間の確保率を、前記最短時間と前記最大限度時間と前記制御量変化時間とから算出し、前記重み付け評価関数の評価値を、前記割当総エネルギーに対する前記使用エネルギー総量の達成率と前記最大限度時間に対する前記制御量変化時間の確保率との加重和として算出することを特徴とするエネルギー総和抑制制御方法。
【請求項8】
請求項6記載の電力総和抑制制御方法において、
前記昇温時間算出ステップは、選出した前記昇温時間TLを最短時間TLmとして設定し、
前記探索処理ステップは、前記割当総電力PWに対する前記使用電力総量TWの達成率を、前記最大出力時電力値CTmiの総和である最大電力と前記割当総電力PWと前記使用電力総量TWとから算出し、前記最大限度時間TMに対する前記昇温時間TLの確保率を、前記最短時間TLmと前記最大限度時間TMと前記昇温時間TLとから算出し、前記重み付け評価関数の評価値Fを、前記割当総電力PWに対する前記使用電力総量TWの達成率と前記最大限度時間TMに対する前記昇温時間TLの確保率との加重和として算出することを特徴とする電力総和抑制制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−80366(P2013−80366A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219858(P2011−219858)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000006666)アズビル株式会社 (1,808)
【Fターム(参考)】