説明

エネルギ吸収部材用アルミニウム合金発泡体

【課題】プラトー応力を低く保持したままでより多くの変形が進む、歩行者(脚部)の優れた保護特性が得られるアルミニウム合金発泡体を提供することである。
【解決手段】バンパビーム前面に設けられた歩行者保護部材などのエネルギ吸収部材として好適なアルミニウム合金発泡体であって、質量%で、Zn:0.5〜20.0%、Ca:0.1〜5.0%、Ti:0.1〜5.0%、Mg:0.1〜5.0%を各々含有し、更に、Ag:0.1〜5.0%、Zr:0.1〜5.0%の一種または二種を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を発泡させてなるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などにエネルギ吸収部材として用いられるアルミニウム合金発泡体に関するものである。本発明が対象とするエネルギ吸収部材は、例えば、自動車バンパビーム前面側に設けられた歩行者保護部材など、自動車と歩行者などの衝突時に、圧縮の衝撃荷重を受けて変形して、衝撃エネルギを吸収する、衝撃エネルギ吸収部材(エネルギ吸収部材)である。なお、アルミニウム合金発泡体を、以下、発泡アルミニウムとも言う。
【背景技術】
【0002】
自動車などの衝撃エネルギ吸収部材(クラッシュボックス)として、通常、自動車の構造部材には、閉断面を有する鋼製の中空部材が汎用されている。鋼製の中空部材は、軸方向や断面方向の圧縮の衝撃入力を受けると潰れ変形して、その衝撃エネルギを吸収する。この際、限られた変形量で、より大きなエネルギを吸収可能とするには、部材の寸法や肉厚を大きくすることが有効である。しかし、これは鋼製中空部材の体積や重量の増加を招いてしまい、燃費が悪化したり車両同士の衝突時における相手車両に与えるダメージが大きくなったりして好ましくない。また、軟鋼板に代わって、高強度鋼板(ハイテン)を使用して、鋼製中空部材の体積や重量の増加を抑制することも実際に行なわれているが、高強度鋼板は成形性が劣るため、部材形状が制約を受けることや、成形工程が増加することといった不都合がある。
【0003】
これに対して、近年では、これら衝撃エネルギ吸収部材として、リサイクル性の良好な発泡アルミニウムなどの発泡金属が注目されている。このクラッシュボックスは、発泡アルミニウムを角柱状の形状としたものである。そして、この角柱軸芯方向を衝突方向に一致させるように配置し、衝突時に圧縮応力を受けて圧壊することにより衝突エネルギを吸収し、乗員や構造体への衝撃を減少させるようにしたものである。
【0004】
このような発泡アルミニウムを用いたクラッシュボックスへの適用例としては、自動車車体のサイドメンバなどの構造部材として、断面形状が略円形状あるいは多角形状をなす鋼製の管体の中空部に、発泡アルミニウムを充填したものが知られている(特許文献1、2、3、4、5参照)。
【0005】
これは、一定の反力を示しつつ圧縮変形する発泡アルミニウムの特性を利用したものであって、管体の圧縮変形を制御することによって、衝撃エネルギの吸収能を高めることが可能になる。
【0006】
更に、発泡アルミニウム自体の衝撃エネルギ吸収能を高めるために、アルミニウム組成として、重量%で、Cu:0.1〜7%、Ca:0.2〜5%、Zn:0.1〜10%、Mg:0.1〜20%、Ti:0.1〜5%からなる群の1種又は2種以上を含み、残部がアルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が、相対密度が0.20以下、平均気泡粒径が3.7mm以下とともに提案されている(特許文献6、7参照)。
【0007】
ところが、上記したような鋼製の管体や中空部材の中空部に発泡アルミニウムを充填したタイプのクラッシュボックスは、その皮材としての鋼製の管体や中空部材によって、初期瞬間応力、即ち、荷重−変位関係(特性)における最大荷重が高くなるとともに、プラトー応力(圧縮変形の際の圧縮応力)の安定性にも欠けるという問題がある。このため、実際問題として、発泡アルミニウム自体の衝撃エネルギ吸収性を活かし得ていない。
【0008】
このため、発泡アルミニウム単体のクラッシュボックスとして、軽量である利点を活かして、中高速衝突でも、低速衝突時と同様に、衝突エネルギの吸収ができ、現在使用されている高張力鋼板製の構造部材に代替できる、発泡アルミニウムも、これまで種々提案されている。
【0009】
例えば、アルミニウム合金発泡体の組成を、Zn:1.0〜20.0%、Ca:0.1〜5.0%、Ti:0.1〜5.0%、Mg:0.1〜5.0%を各々含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなるものとし、更に、発泡の平均粒径を細粒化するとともに、相対密度を上げたアルミニウム合金とし、発泡粒径を均一化させることが提案されている(特許文献8)。また、このアルミニウム合金組成の発泡体のセル壁の平均硬さを上げることが提案されている(特許文献9)。更に、このアルミニウム合金組成の発泡体の50nm以下の析出物粒子を一定量分散した組織とすることも提案されている(特許文献10)。
【0010】
この他、発泡体のプラトー応力を高める、あるいは、応力と変形量との積で表されるプラトー変形領域を長くして、エネルギ吸収量を増加させることが提案されている(非特許文献1、2)。
【0011】
これらの提案は、いずれもアルミニウム合金発泡体のプラトー応力を4MPa以上と高くして、現在使用されている440MPa級高張力鋼板製のクラッシュボックスのエネルギ吸収性能に見合ったものとしようとている。そして、アルミニウム合金発泡体を、クラッシュボックスとして、高張力鋼板に代替できるものにしようとしている。
【特許文献1】特開平8−164869号公報
【特許文献2】特開平11−59298号公報
【特許文献3】特開2003−19977号公報
【特許文献4】特開2003−28224号公報
【特許文献5】特開2004−108541号公報
【特許文献6】特開平11−302765号公報
【特許文献7】特開2000−328155号公報
【特許文献8】特開2006−77316号公報
【特許文献9】特開2006−77317号公報
【特許文献10】特開2006−89813号公報
【非特許文献1】日本金属学会春季大会講演概要(2004)、p139
【非特許文献2】Porous Metals and Metal Foaming Technology(2005)、p517
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のように、これまでに開示されている発泡アルミニウム単体のクラッシュボックスは、あくまで他の車輌やその他の剛体(ガードレール、電信柱など)など「高剛性の物体」との衝突に際してのエネルギ吸収を前提としている。このため、上記した通り、高張力鋼板製のクラッシュボックスのエネルギ吸収性能に見合って、アルミニウム合金発泡体のプラトー応力を高めようとしている。
【0013】
一方、近年では、自動車のバンパーなどには、歩行者と衝突することを想定し、歩行者の特に脚部 (下肢、膝) を保護するような性能が求められるようになっている。このような歩行者の特に脚部を保護する場合、バンパーが歩行者衝突により加わった衝突エネルギを吸収して、歩行者の脚部を保護する性能が求められる。
【0014】
このような課題に対して、バンパービームの前面側にアルミニウム合金発泡体を配置し、歩行者と自動車(前端あるいは後端)との衝突際に、その衝突荷重エネルギを、配置されたアルミニウム合金発泡体が、断面(幅)方向や軸(長手)方向に変形して吸収すれば、歩行者の保護につながる。
【0015】
実際の歩行者保護は、バンパービーム前面側であって、バンパーカバーの裏側に、発泡ウレタン材や発泡スチロール材などの比較的厚いアブソーバ(クッション材、エネルギ吸収部材)を設けることによって対応されているが、アブソーバの性能や厚みには限界や制約がある。
【0016】
これに対して、アルミニウム合金発泡体は軽量であり、場合によっては、アブソーバを省略乃至薄肉化できるために、自動車車体にとって、あまり重量増加とはならない利点もある。更に、前記した「高剛性の物体」との衝突に際してのエネルギ吸収を前提としたバンパービームの強度やエネルギ性能(圧壊性能)を、歩行者保護のために、低下させずに済む利点も大きい。
【0017】
しかし、前記したようにアルミニウム合金発泡体のプラトー応力が高いと、歩行者、特に、歩行者脚部と自動車(前部あるいは後部)との衝突時の際には、歩行者脚部に負荷される加速度が大きくなって、歩行者保護部材としては使用できない。
【0018】
歩行者保護に対応するべく、バンパビーム前面側に設けられる歩行者保護部材(エネルギ吸収部材、衝撃エネルギ吸収部材)には、歩行者衝突時の発生荷重や加速度等を低くできることが好ましい。衝突に際して、歩行者の脚部を保護する場合には、前記車体同士や車体と他の構造物などとの衝突時よりも遥かに小さい衝突荷重で、断面(幅)方向や軸(長手)方向に変形して、エネルギを吸収する必要がある。
【0019】
この点、アルミニウム合金発泡体にも、このような歩行者保護部材として適用される場合においては、上記したこれまでのアルミニウム合金発泡体とは違い、プラトー応力を低く保持したままで、より多くの変形が進む特性、即ち、歩行者(脚部)の保護特性に優れることが求められている。
【0020】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、プラトー応力を低く保持したままで、より多くの変形が進む特性を有し、歩行者(脚部)の保護特性に優れるアルミニウム合金発泡体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この目的を達成するために、本発明のエネルギ吸収部材用アルミニウム合金発泡体の要旨は、質量%で、Zn:0.5〜20.0%、Ca:0.1〜5.0%、Ti:0.1〜5.0%、Mg:0.1〜5.0%を各々含有し、更に、Ag:0.1〜5.0%、Zr:0.1〜5.0%の一種または二種を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を発泡させてなることとする。
【0022】
プラトー応力を低く保持したままでより多くの変形が進む、歩行者(脚部)の保護特性としては、前記アルミニウム合金発泡体が、85%以下の変形領域で5MPa以下の低いプラトー応力が維持される特性を有することが好ましい。
【0023】
本発明アルミニウム合金発泡体のエネルギ吸収部材用途としては、歩行者(脚部)の保護が必要な自動車車体用であることが好ましい。そして、エネルギ吸収部材が、バンパビーム前面側に設けられた歩行者保護部材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明アルミニウム合金発泡体は、上記本発明成分組成とすることで、アルミニウム合金発泡体のプラトー応力を低く保持したままで、より多くの変形が進む特性を向上させることができる。この結果、バンパビーム前面側に設けられた歩行者保護部材(エネルギ吸収部材、衝撃エネルギ吸収部材)として、歩行者衝突時の発生荷重や加速度等を低くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(発泡用アルミニウム合金組成)
アルミニウム合金発泡体の、エネルギ吸収部材としての、必要強度などの基本的な特性や、プラトー応力を低く保持したままでより多くの変形が進むような歩行者保護特性を満たす、発泡用アルミニウム合金組成を以下に説明する。
【0026】
本発明において、発泡用アルミニウム合金の前提としての組成は、発泡体としての強度、圧縮変形能などの基本的な特性(必要特性)を満たすために、質量%で、Zn:0.5〜20.0%、Ca:0.1〜5.0%、Ti:0.1〜5.0%、Mg:0.1〜5.0%を各々含有する。そして、歩行者保護部材として、プラトー応力を低く保持したままでより多くの変形が進むような歩行者保護特性を満たすために、Ag:0.1〜5.0%、Zr:0.1〜5.0%の一種または二種を含有する。更に、残部組成(残部)はアルミニウムおよび不可避的不純物からなるものとする。
【0027】
(Zn)
Znは、Zn単体で析出するほか、Mgと共存して、上記析出物粒子の主体であるZn−Mg化合物を形成する。また、Mgと共存した際の強度向上にも有効な元素でもある。更に、凝固収縮する作用があり、セル壁の一部に膜厚の薄い部分を形成させ、圧縮変形能を高める作用がある。これらの作用を発揮させるためには、0.5%以上の含有が必要である。しかし、20.0%を超えて過度に含有すると、粗大なZn−Mg化合物を形成し、却って、プラトー応力を低下させる。また、発泡アルミニウムの気泡粒径の安定化を阻害し、気泡が粗くなってしまい、圧縮強度を低下させる。従って、Znの含有量は0.5〜20.0%の範囲とする。
【0028】
(Mg)
Mgは、Znと共存して、上記析出物粒子の主体であるZn−Mg化合物を形成する。また、強度向上に有効な元素であり、更に、Znと共同して発泡アルミニウムの製造時に、溶湯の粘性を増加させ、かつ気泡を安定化させて、発泡体を均質にする作用を有する。その効果を得るためには、Mgを少なくとも0.1%以上含有する必要がある。一方、5.0%を超えて過度に含有すると、粗大なZn−Mg化合物を形成し、却って、プラトー応力を低下させる。また、溶湯の粘性を過度に高め、溶湯の流動性を著しく低下させ、発泡剤の分散が困難となり、却って、発泡の微細化、均一性が阻害され、圧縮強度を低下させる。したがって、Mg含有量は0.1〜5.0%の範囲とする。
【0029】
(Ca)
Caは、発泡アルミニウムの製造時におけるアルミニウム合金溶湯の粘性を増加させ、かつ気泡を安定化させて、発泡体を均質にするとともに、発泡の微細化、均一性を達成するための、発泡作用を有する。その効果を得るためには、少なくとも0.1%以上の含有が必要である。一方、5.0%を超えて過度に含有すると、溶湯の粘性を過度に高め、溶湯の流動性を著しく低下させ、発泡剤の分散が困難となり、却って、発泡の微細化、均一性が阻害され、圧縮強度を低下させる。従って、Caの含有量は0.1〜5.0%の範囲とする。
【0030】
(Ti)
Tiは、発泡アルミニウムの強度向上に有効な元素である。その効果を引き出すためには、少なくとも0.1%以上の含有が必要である。一方、5.0%を超えて過度に含有すると、溶湯の流動性を低下させ、晶出することにより、アルミニウムを脆くする。したがって、Tiの含有量は0.1〜5.0%の範囲とする。
【0031】
(Ag、Zr)
本発明では、バンパビーム前面側に設けられる歩行者保護部材として、プラトー応力を低く保持したままでより多くの変形が進むような歩行者保護特性を満たすために、Ag、Zrの一種または二種を含有することを特徴とする。Ag、Zrは、アルミニウム合金発泡体に含有されることで、アルミニウム合金発泡体を85%以下の変形領域で5MPa以下の低いプラトー応力が維持される特性を有するものとする。
【0032】
Ag、Zrの含有量が少なすぎると、この効果が発揮されずに、アルミニウム合金発泡体が60〜70%の変形でプラトー応力が5MPaを超えて高くなる。この結果、プラトー応力を低く保持したままでより多くの変形が進むことができずに、歩行者(脚部)の保護部材として適用できなくなる。
【0033】
一方で、Ag、Zrの含有量が多すぎると、Ag、Zrの比重が大きいために、相対密度が大きくなり、却って、プラトー応力が高くなって、やはり、85%以下の変形領域で5MPa以下の低いプラトー応力が維持される特性を、アルミニウム合金発泡体が有することができなくなる。また、Ag、Zrの添加に要するコストも大幅に増加する。したがって、Ag、Zrの一種または二種の含有量は、各々Ag:0.1〜5.0%、Zr:0.1〜5.0%の範囲とする。
【0034】
(その他の元素)
その他の元素は基本的に不純物である。規制すべきその他の元素として、混入しやすいCuは、発泡過程での発泡粒径の均一性を阻害する可能性がある。このため、本発明ではCuは不純物であり、Cu含有量は極力少ない方が好ましい。また、Cu以外の不純物元素も含有量は極力少ない方が好ましい。ただ、これらCuなどの不純物元素の含有量を低減するために、溶解、精錬などの発泡アルミニウム製造上のコストが増加する問題もある。したがって、発泡アルミニウムの特性を低下させない、通常の発泡アルミニウムにおける不純物量範囲、不純物レベルでの含有は許容する。例えば、前記したCuは上限で3質量%までの含有は許容する。
【0035】
(発泡体の相対密度)
その他の発泡体要件として、密度を上げずに(軽量化効果を損なわずに)、エネルギ吸収量を向上するために、アルミニウム合金発泡体(発泡)の相対密度を0.1以上とすることが好ましい。発泡体の相対密度が0.1未満では、アルミニウム合金発泡体が、十分な衝撃吸収能(エネルギ吸収能)を得られない可能性がある。
【0036】
一方、アルミニウム合金発泡体(発泡)の相対密度が高いほど、重量が大きくなり、発泡体の利点である軽量化効果が損なわれ、自動車などの軽量化に対する寄与が小さくなる。ただ、用途によっては、軽量化効果よりも変形応力が高い方が要求される場合もある。この点、相対密度は1.0以下が好ましい。
【0037】
なお、この発泡体の相対密度は、合金組成や製造条件、設備条件などに応じて、発泡剤(TiH2 )の添加量を調整して制御する。この相対密度は、発泡体から50×50×50mm(125cm3 )の試料を切り出し、この試料の重量を測定して、水の相当体積125cm3 =125gで割って求める。
【0038】
(プラトー応力)
本発明では、アルミニウム合金発泡体のプラトー応力(圧縮試験における圧縮応力)を好ましくは5MPa以下とする。プラトー応力が5MPaを超えると、前記した、プラトー応力を低く保持したままでより多くの変形が進む、歩行者(脚部)の保護特性が得られない可能性が高い。即ち、アルミニウム合金発泡体が、85%以下の変形領域で5MPa以下の低いプラトー応力が維持される特性を有せない可能性が高い。
【0039】
(製造条件)
次に、本発明発泡アルミニウムを製造するための、好ましい製造条件について以下に説明する。本発明では、発泡アルミニウムの製造工程自体は、従来と同様である。
【0040】
先ず、溶解炉内で、工業用純アルミニウムに対し、上記Zn:0.5〜20.0%、Mg:0.1〜5.0%、更に、Ag:0.1〜5.0%、Zr:0.1〜5.0%の一種または二種などの合金成分元素と、カルシウム0.1〜5.0%を添加し、大気中で溶湯を例えば約5分程度攪拌して増粘させる。
【0041】
そして、この増粘後の溶湯を600〜700℃の大気溶解炉中の鋳型に注湯した後、水素化チタンを所定量(アルミニウム合金中のTiとして0.1〜5.0%となるように)添加する。その後、例えば1〜10分間攪拌した後、攪拌機を取り除き、鋳型を前記温度範囲の大気溶解炉内で、1〜10分間程度保持して発泡を完了させる。
【0042】
この発泡完了後、炉内で放冷し、冷却後に鋳型からアルミニウム合金発泡体を取り出し、機械加工して、角柱や角形など、バンパビーム前面側に設けられた歩行者保護部材(エネルギ吸収部材)としての所望形状の、製品アルミニウム合金発泡体とする。
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0044】
以下に本発明の実施例を説明する。表1に示す各化学成分組成のアルミニウム合金発泡体を製造した。これら発泡体の特性として、相対密度、プラトー応力−変形量曲線を測定、評価した。相対密度、85%の変形時のプラトー応力(MPa)を表1に示す。また、エネルギ吸収特性としてのプラトー応力−変形量曲線を図1に示す。
【0045】
具体的には、先ず、溶解炉内で、工業用純アルミニウムに対し、Zn、Mg、Caなどとともに、更に、Ag、Zrの一種または二種などの合金成分元素を添加し、大気中で溶湯を約5分程度攪拌して増粘させた。そして、この増粘後の溶湯を、700℃の大気溶解炉中の鋳型に注湯した後、水素化チタンをTiとして0.1〜5.0%程度添加した。その後、2分間攪拌した後、攪拌機を取り除き、鋳型を700℃の大気溶解炉内で、4分間程度保持して発泡を完了させた。この発泡完了後、炉内で放冷し、冷却後に鋳型からアルミニウム合金発泡体を取り出し、高さ50mm×幅50mm×長さ50mmの角柱形状に機械加工した。この発泡体の特性を上記の通り調査した。
【0046】
(相対密度)
発泡体の相対密度は、前記した方法で求めた。即ち、得られた発泡体から50×50×50mm(125cm3 )の試料を切り出し、この試料の重量を測定して、水の相当体積125cm3 =125gで割って求めた。
【0047】
(プラトー応力)
前記機械加工後のアルミニウム合金発泡体を、インストロン社製万能圧縮試験機を用いて、その長手方向に静的に圧縮試験し、荷重応力−変位量曲線と、85%の変形時のプラトー応力(MPa)を求めた。
【0048】
表1から明らかな通り、発明例1〜6は、本発明において特徴的なAg、Zrを含む、本発明アルミニウム合金組成範囲内であり、上記適正条件で製造されている。この結果、相対密度が最大でも0.36の比較的低い密度レベルであり、85%変形時のプラトー応力が5MPa以下である。また、図1の応力−変位曲線の通り、発明例を代表して示す発明例1、2 (発明例1:濃く細い実線、発明例2:濃く太い実線)は、プラトー応力を5MPa以下と低く保持したままでより多くの変形が進み、エネルギ吸収量も高く、歩行者(脚部)の保護特性が優れている。
【0049】
これに対して、比較例7、9は、Zn、Ca、Ti、Mgは各々諸定量含有し、上記適正条件で製造されているものの、本発明において特徴的なAg、Zrの含有量が下限未満であり少なすぎる。また、比較例11、12は、Zn、Ca、Ti、Mgは各々諸定量含有し、上記適正条件で製造されているものの、Ag、Zrを含有していない従来例である。
【0050】
このため、比較例7、9、11、12は、相対密度は比較的低い密度レベルであるものの、85%変形時のプラトー応力が5MPaを超えて高い。また、図1の応力−変位曲線の通り、比較例を代表して示す比較例9、11(比較例9:細い点線、比較例11:薄く太い実線)は、変形が進むにつれてプラトー応力が5MPaを超えて高くなっており、歩行者(脚部)の保護特性が劣っている。
【0051】
また、比較例8、10は、Zn、Ca、Ti、Mgは各々諸定量含有し、上記適正条件で製造されているものの、本発明において特徴的なAg、Zrの含有量が上限を超えて多すぎる。このため、比較例8、10は、相対密度が0.5を超えて大きく、軽量化できていない。更に、85%変形時のプラトー応力は、計測できないほど高くなっていた。
【0052】
以上の結果から、本発明アルミニウム合金発泡体における各要件の意義と好ましい製造条件の意義とが裏付けられる。
【0053】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明したように、本発明アルミニウム合金発泡体によれば、プラトー応力を低く保持したままでより多くの変形が進む、歩行者(脚部)の優れた保護特性が得られる。この結果、本発明アルミニウム合金発泡体は、バンパビーム前面側に設けられた歩行者保護部材などのエネルギ吸収部材(衝撃エネルギ吸収部材)などに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例の各応力−変位曲線を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Zn:0.5〜20.0%、Ca:0.1〜5.0%、Ti:0.1〜5.0%、Mg:0.1〜5.0%を各々含有し、更に、Ag:0.1〜5.0%、Zr:0.1〜5.0%の一種または二種を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を発泡させてなることを特徴とするエネルギ吸収部材用アルミニウム合金発泡体。
【請求項2】
前記アルミニウム合金発泡体が85%以下の変形領域で5MPa以下のプラトー応力が維持される特性を有する請求項1に記載のアルミニウム合金発泡体。
【請求項3】
前記アルミニウム合金発泡体が自動車用エネルギ吸収部材である請求項1または2に記載のアルミニウム合金発泡体。
【請求項4】
前記アルミニウム合金発泡体が自動車バンパビーム前面側に設けられた歩行者保護部材である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金発泡体。

【図1】
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【公開番号】特開2008−106341(P2008−106341A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292850(P2006−292850)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願〔平成18年度 経済産業省 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの〕
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000192626)神鋼鋼線工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】