説明

エピタキシャルウエハ及びエピタキシャルウエハの製造方法

【課題】蓄積された製造技術、製造ノウハウを活かすことができ、かつ、p型不純物の拡散を抑制できるエピタキシャルウエハ及びエピタキシャルウエハの製造方法を提供する。
【解決手段】エピタキシャルウエハ1は、半導体基板10と、半導体基板10の上方に設けられるn型クラッド層20と、n型クラッド層20の上方に設けられ、5.0×1015cm−3以下の原子濃度のCと1.0×1016cm−3以上1.6×1016cm−3以下の原子濃度のMgと1.1×1016cm−3以上5.0×1018cm−3以下の原子濃度のZnとを含む活性層40と、Cがドープされた炭素ドープ層62とアンドープ層64とMgがドープされたマグネシウムドープ層66とを有するp型クラッド層60と、p型クラッド層60上に設けられ、Znを含むp型キャップ層70とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャルウエハ及びエピタキシャルウエハの製造方法に関する。特に、本発明は、発光素子用のエピタキシャルウエハ及びエピタキシャルウエハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、n型GaAs基板上に、少なくともAlGaInP系材料からなるn型クラッド層、活性層、及びp型クラッド層を順次積層したダブルヘテロ構造を有する化合物半導体エピタキシャルウエハにおいて、AlGaInP系材料からなるp型クラッド層中のp型不純物が炭素であり、p型クラッド層中のキャリア濃度が8.0×1017cm−3以上、1.5×1018cm−3以下の範囲であるレーザーダイオード用エピタキシャルウエハが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に記載のレーザーダイオード用エピタキシャルウエハは、p型AlGaInPクラッド層中のp型不純物に炭素を用いることによりp型不純物の活性層への拡散を低減できるので、動作電流値が低く、信頼性が高いレーザーダイオードを提供できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−111160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
まず、AlGaInP等の化合物半導体中においては、炭素(C)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)の順に拡散しやすい。したがって、活性層への不純物の拡散を抑制することのみを目的とする場合、特許文献1に記載のように、不純物として炭素(C)を用いることが最適である。しかしながら、従来、Mg又はZnを不純物に用いた発光素子用のエピタキシャルウエハから製造される発光素子の製造プロセスにおいては、Mg又はZnの活性層への拡散が発生することを前提にして製造プロセスが設計されている。よって、不純物として炭素を用いる場合、不純物としてMg又はZnを用いることを前提にして設計された製造プロセス、製造技術、製造ノウハウをそのまま採用することができない場合がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、蓄積された製造技術、製造ノウハウを活かすことができ、かつ、p型不純物の拡散を抑制できるエピタキシャルウエハ及びエピタキシャルウエハの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、半導体基板と、半導体基板の上方に設けられるn型クラッド層と、n型クラッド層の上方に設けられ、5.0×1015cm−3以下の原子濃度の炭素と、1.0×1016cm−3以上1.6×1016cm−3以下の原子濃度のマグネシウムと、1.1×1016cm−3以上5.0×1018cm−3以下の原子濃度の亜鉛とを含む活性層と、活性層の上方に設けられ、炭素がドープされた炭素ドープ層と、炭素ドープ層上に設けられ、不純物がドーピングされていないアンドープ層と、アンドープ層上に設けられ、マグネシウムがドープされたマグネシウムドープ層とを有するp型クラッド層と、p型クラッド層上に設けられ、亜鉛を含むp型キャップ層とを備えるエピタキシャルウエハが提供される。
【0008】
また、上記エピタキシャルウエハにおいて、半導体基板が、n型GaAs基板であり、n型クラッド層、活性層、及びp型クラッド層が、AlGaInP系化合物半導体からなり、p型キャップ層が、p型GaAsからなることが好ましい。
【0009】
また、上記エピタキシャルウエハにおいて、炭素ドープ層が、1.0×1017cm−3以上8.0×1018cm−3以下の原子濃度の炭素を含み、マグネシウムドープ層が、5.0×1017cm−3以上8.0×1018cm−3以下の原子濃度のマグネシウムを含み、p型キャップ層が、5.0×1017cm−3以上1.2×1020cm−3以下の原子濃度の亜鉛を含むことが好ましい。
【0010】
また、上記エピタキシャルウエハにおいて、p型クラッド層が、炭素ドープ層と、アンドープ層と、マグネシウムドープ層とからなり、炭素ドープ層が、マグネシウムドープ層の厚さの5%以上60%以下の厚さを有し、アンドープ層が、5nm以上10nm以下の厚さを有することが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記目的を達成するため、n型GaAs基板と、n型GaAs基板の上方に設けられるn型クラッド層と、n型クラッド層の上方に設けられる活性層と、活性層の上方に設けられ、炭素がドープされた炭素ドープ層と、炭素ドープ層上に設けられ、不純物がドーピングされていないアンドープ層と、アンドープ層上に設けられ、亜鉛がドープされた亜鉛ドープ層とからなるp型クラッド層と、p型クラッド層上に設けられ、p型GaAsからなるp型キャップ層とを備えるエピタキシャルウエハが提供される。
【0012】
また、本発明は、上記目的を達成するため、半導体基板を準備する半導体基板準備工程と、半導体基板の上方にn型クラッド層と、活性層と、p型クラッド層と、p型キャップ層とを順次形成する半導体積層構造形成工程とを備え、p型クラッド層が、活性層上に設けられ炭素がドープされた炭素ドープ層と、炭素ドープ層上に設けられ不純物がドーピングされていないアンドープ層と、アンドープ層上に設けられマグネシウムがドープされたマグネシウムドープ層とを有し、活性層が、5.0×1015cm−3以下の原子濃度の炭素と、1.0×1016cm−3以上1.6×1016cm−3以下の原子濃度のマグネシウムと、1.1×1016cm−3以上5.0×1018cm−3以下の原子濃度の亜鉛とを含み、p型キャップ層が、亜鉛を含むエピタキシャルウエハの製造方法が提供される。
【0013】
また、上記エピタキシャルウエハの製造方法において、半導体積層構造形成工程が、炭素ドープ層の成長時にCBrを供給し、マグネシウムドープ層の成長時にCpMgを供給することができる。
【0014】
また、上記エピタキシャルウエハの製造方法において、半導体積層構造形成工程が、アンドープ層をGaAs又はAlGaAsから形成することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るエピタキシャルウエハ及びエピタキシャルウエハの製造方法によれば、蓄積された製造技術、製造ノウハウを活かすことができ、かつ、p型不純物の拡散を抑制できるエピタキシャルウエハ及びエピタキシャルウエハの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係るエピタキシャルウエハの縦断面図である。
【図2】実施例及び比較例に係るエピタキシャルウエハのp型クラッド層の深さ方向のキャリア濃度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施の形態の要約]
半導体基板上にダブルヘテロ構造を有する発光素子用のエピタキシャルウエハにおいて、半導体基板と、前記半導体基板の上方に設けられるn型クラッド層と、前記n型クラッド層の上方に設けられ、5.0×1015cm−3以下の原子濃度の炭素と、1.0×1016cm−3以上1.6×1016cm−3以下の原子濃度のマグネシウムと、1.1×1016cm−3以上5.0×1018cm−3以下の原子濃度の亜鉛とを含む活性層と、前記活性層の上方に設けられ、炭素がドープされた炭素ドープ層と、前記炭素ドープ層上に設けられ、不純物がドーピングされていないアンドープ層と、前記アンドープ層上に設けられ、マグネシウムがドープされたマグネシウムドープ層とを有するp型クラッド層と、前記p型クラッド層上に設けられ、亜鉛を含むp型キャップ層とを備えるエピタキシャルウエハが提供される。
【0018】
[実施の形態]
(エピタキシャルウエハ1の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係るエピタキシャルウエハの縦断面の概要を示す。
【0019】
本実施の形態に係るエピタキシャルウエハ1は、例えば、レーザーダイオード(Laser Diode:LD)、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)等の発光素子用のエピタキシャルウエハ1として用いることができる。具体的に、エピタキシャルウエハ1は、半導体基板10と、半導体基板10上に設けられるn型クラッド層20と、n型クラッド層20上に設けられる第1ガイド層30と、第1ガイド層30上に設けられる活性層40と、活性層40上に設けられる第2ガイド層50と、第2ガイド層50上に設けられるp型クラッド層60と、p型クラッド層60上に設けられるp型キャップ層70とを備える。すなわち、エピタキシャルウエハ1は、ダブルヘテロ構造を有する。
【0020】
更に、p型クラッド層60は、活性層40の上方(すなわち、第2ガイド層50上)に設けられ、p型不純物としての炭素(C)がドープされた炭素ドープ層62と、炭素ドープ層62上に設けられ、不純物がドープされていないアンドープ層64と、アンドープ層64上に設けられ、マグネシウム(Mg)がドープされたマグネシウムドープ層66とを有して設けられる。すなわち、活性層40に近い側から炭素ドープ層62、アンドープ層64、マグネシウムドープ層66の順に設けられる。炭素ドープ層62を活性層40に近い側に設けることにより、マグネシウムドープ層66にドープされているMgの活性層40への拡散を抑制できる。すなわち、炭素ドープ層62が、Mgの拡散を抑制するバリア層としての機能を発揮する。これにより、活性層40へのMgの拡散を抑制でき、エピタキシャルウエハ1から製造される発光素子等のデバイスの特性の低下を抑制できる。
【0021】
ここで、炭素ドープ層62は、1.0×1017cm−3以上8.0×1018cm−3以下の原子濃度の炭素を含むことが好ましく、1.0×1017cm−3以上6.0×1018cm−3以下の原子濃度の炭素を含むことがより好ましく、1.0×1017cm−3以上3.0×1018cm−3以下の原子濃度の炭素を含むことが特に好ましい。また、マグネシウムドープ層66は、5.0×1017cm−3以上8.0×1018cm−3以下の原子濃度のマグネシウムを含むことが好ましく、8.0×1017cm−3以上8.0×1018cm−3以下の原子濃度のマグネシウムを含むことが好ましく、8.0×1017cm−3以上3.0×1018cm−3以下の原子濃度のマグネシウムを含むことが特に好ましい。なお、アンドープ層64に不純物はドープされていないが、不可避的な不純物は含まれていてもよい。そして、p型クラッド層60は、炭素ドープ層62と、アンドープ層64と、マグネシウムドープ層66との三層構造からなることが好ましい。この場合、炭素ドープ層62が、マグネシウムドープ層66の厚さ(一例として、16μmの厚さ)の5%以上60%以下の厚さを有することが好ましい。これは、炭素ドープ層62の厚さがマグネシウムドープ層66の厚さの5%未満の場合、炭素ドープ層62がMgの拡散を十分に抑制できないためである。また、炭素ドープ層62の厚さがマグネシウムドープ層66の厚さの60%を超えた場合、活性層40へのMgの拡散が実質的になくなるので、従来用いている製造プロセスとしての素子化プロセスのプロセス設定を変更しなければならない場合があるからである。
【0022】
また、アンドープ層64は、マグネシウムドープ層66中のMg及びp型キャップ層70中の不純物(例えば、Zn)の活性層40側への拡散を抑制することを目的として5nm以上の厚さを有すると共に、電気伝導の抵抗層として機能することを防止すべく、10nm以下の厚さを有することが好ましい。本実施の形態において、アンドープ層64は、GaAs若しくはAlGaAsから形成する。したがって、アンドープ層の厚さが所定の厚さを超えた場合、p型クラッド層の平均組成がAlGaInP系化合物半導体の組成ではなくなることがある。この場合、エピタキシャルウエハから製造する発光素子、例えば、LDの発光特性(例えば、放射角)が設計値からずれる場合があることからも、アンドープ層は10nm以下の厚さにすることが好ましい。
【0023】
半導体基板10は、III−V族化合物半導体から形成され、例えば、n型のGaAsから形成することができる。また、半導体基板10上に設けられる各半導体層(ただし、p型キャップ層70を除く)は、AlGaInP系化合物半導体から形成することができる。p型キャップ層70は、例えば、p型のGaAsから形成することができる。なお、p型キャップ層70上の一部の領域に、p型キャップ層70にオーミック接触する材料からなるp側電極を設け、半導体基板10の裏側、すなわち、半導体基板10のn型クラッド層20に接している面の反対側の面の略全面に、半導体基板10にオーミック接触する材料からなるn側電極を設けることができる。
【0024】
また、n型クラッド層20には、n型不純物としてシリコン(Si)がドープされる。そして、p型キャップ層70には、p型不純物として亜鉛(Zn)がドープされる。なお、p型キャップ層70には、Znと共にCをドープすることもできる。p型キャップ層70にZnとCとをコドープすることにより、p型キャップ層70にドープするZnの量を削減することができ、かつ、マグネシウムドープ層66にドープされたMgとp型キャップ層70にドープされたZnとの相互拡散を低減できる。
【0025】
また、本実施の形態において、活性層40は、5.0×1015cm−3以下の原子濃度の炭素と、1.0×1016cm−3以上1.6×1016cm−3以下の原子濃度のマグネシウムと、1.1×1016cm−3以上5.0×1018cm−3以下の原子濃度の亜鉛とを含む。更に、p型キャップ層70は、5.0×1017cm−3以上1.2×1020cm−3以下の原子濃度の亜鉛を含むことが好ましく、8.0×1017cm−3以上4.0×1019cm−3以下の原子濃度の亜鉛を含むことがより好ましい。
【0026】
(変形例)
p型クラッド層60が有するマグネシウムドープ層66を、Znがドープされた亜鉛ドープ層にすることもできる。また、マグネシウムドープ層66を、C及びMgがコドープされた炭素‐マグネシウム混合ドープ層にすることもできる。また、半導体基板10とn型クラッド層20との間に、GaAs等からなるバッファ層を設けることもできる。更に、第1ガイド層30及び第2ガイド層50を省略することもできる。また、活性層40の代わりに発光層を設け、発光層を、量子井戸構造、多重量子井戸構造、歪量子井戸構造等にすることもできる。また、p型キャップ層70を、AlGaAs、GaP等の化合物半導体から形成することもできる。
【0027】
(エピタキシャルウエハ1の製造方法)
本実施の形態に係るエピタキシャルウエハ1は、有機金属気相エピタキシー法(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy:MOVPE法)を用いて製造することができる。すなわち、MOVPE装置のリアクター内に半導体基板10を設置した後、リアクター内を所定の雰囲気、所定の圧力に制御する。続いて、この状態で半導体基板10を所定の温度に加熱する。そして、加熱している半導体基板10に、n型クラッド層20、第1ガイド層30、活性層40、第2ガイド層50、p型クラッド層60、及びp型キャップ層70それぞれのエピタキシャル成長に要するIII族原料ガス、V族原料ガス、キャリアガス、及びドーパント原料ガスを適宜供給する。これにより、エピタキシャルウエハ1を製造する。
【0028】
なお、III族原料ガスとしては、Al(CH[トリメチルアルミニウム:TMAl]、Al(C[トリエチルアルミニウム]、Ga(CH[トリメチルガリウム:TMGa]、Ga(C[トリエチルガリウム]、In(CH[トリメチルインジウム:TMIn]、及びIn(C[トリエチルインジウム]等の少なくとも1種類を含む有機金属化合物を用いることができる。
【0029】
また、V族原料ガスとしては、AsH[アルシン]、PH[ホスフィン]、TBP[ターシャリーブチルホスフィン]、As(CH[トリメチルアルシン]、TBA[ターシャリーブチルアルシン]、及びNH[アンモニア]等の少なくとも1種類を含むガスを用いることができる。キャリアガスとしては、H[水素]、N[窒素]、及びAr[アルゴン]等の少なくとも1種類を含むガスを用いることができる。
【0030】
そして、n型のドーパントの原料ガスは、Si[ジシラン]、SiH[シラン]、HSe[セレン化水素]、及びTe(C等の少なくとも1種類を含むガスを用いることができる。また、p型のドーパントとしての炭素(C)のドープは、III族原料ガス濃度に対するV族原料ガス濃度の比であるV/III比の調整による有機金属化合物ガスからのオートドーピング、若しくは成長温度の調整による有機金属化合物ガスからのオートドーピングにより実施できる。あるいは、p型のドーパントの原料ガスとして、CBr[四臭化炭素]ガスを用いることができる。
【0031】
更に、p型のドーパントのMgのドープは、CpMg[ビスシクロペンタジエニルマグネシウム]を用いることができる。更に、p型のドーパントのZnのドープは、DEZ[ジエチル亜鉛]又はDMZ[ジメチル亜鉛]を用いることができる。
【0032】
なお、得られたエピタキシャルウエハ1にp側電極及びn側電極を形成することもできる。p側電極及びn側電極はそれぞれ、フォトリソグラフィー法、真空蒸着法若しくはスパッタ法等を用いて形成することができる。
【0033】
(p型クラッド層60の機能について)
本実施の形態において、p型クラッド層60は、炭素ドープ層62とアンドープ層64とマグネシウムドープ層66との三層構造を有して形成される。マグネシウムドープ層66と炭素ドープ層62とによりアンドープ層64が挟まれているので、マグネシウムドープ層66のMgが活性層40側に拡散することをアンドープ層64が抑制する。より詳細には、活性層40側(すなわち、活性層40近傍)に炭素ドープ層62を形成することにより、活性層40へのMgの拡散を抑制するバリア層として炭素ドープ層62が機能する。これにより、炭素ドープ層62が、活性層40へのMgの拡散を抑制するので、エピタキシャルウエハ1から製造した発光素子のデバイス特性の低下を抑制できる。なお、エピタキシャルウエハ1から製造される発光素子においてp型クラッド層60に高濃度の不純物のドープを要する場合、又はエピタキシャルウエハ1のエピタキシャル成長時の温度を高温度にすることを要する場合、Mgはより活性層40側へ拡散しやすくなるが、アンドープ層64によりMgの活性層40側への拡散を抑制できる。
【0034】
また、炭素ドープ層62のCは少なくともMgより拡散しにくく、活性層40にCは拡散しにくい。したがって、マグネシウムドープ層66にドープされたMg及び炭素ドープ層62にドープされたCはp型クラッド層60内に留まりやすいので、p型クラッド層60全体におけるキャリア濃度を略均一に保つことができる。
【0035】
また、活性層40中のMgの原子濃度を高くする場合、炭素ドープ層62の厚さ、及び炭素ドープ層62の炭素原子濃度を低減させる。すなわち、従来の発光素子の製造プロセス、製造技術、製造ノウハウをそのまま活用することを目的とする場合であって、活性層40へのMgの拡散を従来と同程度に調整することを要する場合、炭素ドープ層62の厚さ、及び炭素ドープ層62の炭素原子濃度を低減させ、活性層40中のMgの原子濃度を高くすることができる。
【0036】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係るエピタキシャルウエハ1においては、p型クラッド層60が、炭素ドープ層62とアンドープ層64とマグネシウムドープ層66との三層構造から形成され、かつ、CはMgより拡散しにくいことから、p型クラッド層60にMgのみをドープする場合に比べて、p型クラッド層60に接する活性層40へのp型不純物の拡散を低減できる。また、p型クラッド層60がGaAs若しくはAlGaAsからなるアンドープ層64を有しているので、アンドープ層64と炭素ドープ層62若しくはマグネシウムドープ層66とのヘテロ接合界面において、マグネシウムドープ層66にドープされたMg及びp型キャップ層70にドープされたZnを効率よくトラップすることができる。これにより、Mg及びZnが活性層40に拡散することをある程度、抑制できる。したがって、本実施の形態に係るエピタキシャルウエハ1によれば、p型不純物の活性層40への拡散をある程度抑制できると共に、ある程度のp型不純物を活性層40に拡散させることができるので、不純物としてMg又はZnを用いることを前提として設計された製造プロセス、製造技術、製造ノウハウを活用することができる。
【0037】
以上により、本実施の形態に係るエピタキシャルウエハ1を用いると、従来の製造プロセス、製造技術、製造ノウハウを大きく変更することなく、低い動作電流値であり、かつ、信頼性の高い高寿命の発光素子を提供することができる。
【0038】
また、従来のようにp型クラッド層のp型不純物にZn又はMgを用いた場合は、Zn又はMgの活性層40への拡散により、活性層40の結晶性が低下する。その結果、活性層40の特性をフォトルミネッセンス(PL)測定で評価すると、Zn又はMgのドープ量の増加に伴い、発光スペクトルの半値幅が急激に広がる結果が得られる。したがって、従来のウエハにおいては、p型クラッド層のキャリア濃度を4.0×1017cm−3程度に抑えていた。しかし、キャリア濃度を低く抑えていたので、従来のウエハから製造した発光素子の動作電流値を低くすることは困難であった。一方、本実施の形態に係るエピタキシャルウエハ1においては、p型クラッド層60(例えば、マグネシウムドープ層66)のキャリア濃度を9.0×1017cm−3以上にしても、炭素ドープ層62内でMgの活性層40への拡散の大部分を止めることができる。したがって、活性層40へのMgの拡散は従来より少なく、活性層40へのMgの拡散に起因する活性層40の結晶性の悪化を抑制できる。これにより、本実施の形態に係るエピタキシャルウエハ1によれば、PL測定により活性層40の特性を評価すると、PL発光の半値幅が狭く維持されていることを示す結果が得られる。
【実施例】
【0039】
実施例においては、DVDの読み書き用の光源として用いられる赤色LD用のエピタキシャルウエハを製造した。実施例に係るエピタキシャルウエハの構造は、実施の形態において説明した構造と同様である(例えば、図1参照)。
【0040】
具体的に、実施例に係るエピタキシャルウエハは、n型GaAs基板(ただし、厚さ:500μm、目標とするキャリア濃度:8.0×1017cm−3)上に、Siドープのn型(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pからなるn型クラッド層(ただし、厚さ:2.5μm、目標とするキャリア濃度:8.0×1017cm−3)と、アンドープの(Al0.3Ga0.70.5In0.5Pからなる第1ガイド層(ただし、厚さ:0.02μm)と、アンドープの(Al0.05Ga0.950.5In0.5Pからなる活性層と、アンドープの(Al0.3Ga0.70.5In0.5Pからなる第2ガイド層(ただし、厚さ:0.02μm)と、Cドープのp型の(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pからなる炭素ドープ層(ただし、厚さ:0.4μm、目標とするキャリア濃度:6.0×1018cm−3)と、アンドープのAlGaAs層(ただし、厚さ:10nm)と、Mgドープのp型の(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pからなるマグネシウムドープ層(ただし、厚さ:1.6μm、目標とするキャリア濃度:6.0×1018cm−3)と、C及びZnドープのp型GaAsからなるp型キャップ層(ただし、厚さ:1.5μm、目標とするキャリア濃度:1.2×1020cm−3)とをこの順にエピタキシャル成長して製造した。
【0041】
実施例に係るエピタキシャルウエハは、MOVPE法を用いて製造した。すなわち、MOVPE装置のリアクター内にn型GaAs基板を設置し、リアクター内を所定の雰囲気、所定の圧力に制御した後、n型GaAs基板を所定の温度に加熱した状態で、n型クラッド層、第1ガイド層、活性層、第2ガイド層、p型クラッド層、及びp型キャップ層のエピタキシャル層それぞれのエピタキシャル成長に要するIII族原料ガス、V族原料ガス、キャリアガス、及びドーパント原料ガスを適宜供給して製造した。
【0042】
具体的に、エピタキシャル成長温度(ただし、n型GaAs基板に対向するリアクターの面に設置した放射温度計により測定したn型GaAs基板表面の温度)を800℃に設定し、成長圧力(すなわち、リアクター内の圧力)を約10666Pa(80Torr)に設定した。また、キャリアガスは水素を用いた。
【0043】
また、各エピタキシャル層のエピタキシャル成長時にリアクター内に供給した原料ガスの流量はそれぞれ次のとおりである。
【0044】
(n型クラッド層)
TMG:0.012L/分、TMA:0.004L/分、TMI:0.02L/分、Si:0.51L/分、PH:1.8L/分
【0045】
(第1ガイド層及び第2ガイド層)
TMG:0.014L/分、TMA:0.003L/分、TMI:0.02L/分、PH:1.8L/分
【0046】
(活性層)
TMG:0.016L/分、TMA:0.002L/分、TMI:0.024L/分、PH:1.8L/分
【0047】
(炭素ドープ層)
TMG:0.012L/分、TMA:0.004L/分、TMI:0.02L/分、CBr:0.22L/分、PH:1.8L/分
【0048】
(アンドープ層)
TMG:0.052L/分、TMA:0.02L/分、AsH:0.5L/分
【0049】
(マグネシウムドープ層)
TMG:0.01L/分、TMA:0.005L/分、TMI:0.02L/分、CpMg:0.26L/分、PH:1.8L/分
【0050】
(p型キャップ層)
TMG:0.012L/分、DEZ:0.9L/分、AsH:2L/分
【0051】
(比較例)
比較例に係るエピタキシャルウエハとして、p型クラッド層を、Mgドープのp型の(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pにしたエピタキシャルウエハを製造した。すなわち、比較例に係るエピタキシャルウエハは、実施例に係るエピタキシャルウエハとはp型クラッド層の構成が異なる点を除き、実施例に係るエピタキシャルウエハと同一の構成を備える。
【0052】
(実施例に係るエピタキシャルウエハと比較例に係るエピタキシャルウエハとの比較)
実施例及び比較例に係るエピタキシャルウエハそれぞれについて、p型クラッド層から活性層にかけて不純物の原料濃度分布を測定した。
【0053】
図2は、実施例及び比較例に係るエピタキシャルウエハのp型クラッド層の深さ方向のキャリア濃度分布を示す。
【0054】
図2においては、第2ガイド層と活性層との界面を深さ「0」に規定した。そして、活性層側を負に、第2ガイド層側を正にしている。図2を参照すると分かるように、実施例に係るエピタキシャルウエハでは比較例に係るエピタキシャルウエハに比べ、活性層でのMg濃度が低くなっている。実施例に係るエピタキシャルウエハにおけるp型クラッド層の目標とするキャリア濃度と、比較例に係るエピタキシャルウエハにおけるp型クラッド層の目標とするキャリア濃度とはいずれも6.0×1018cm−3である。しかしながら、比較例のp型クラッド層では、p型クラッド層と第2ガイド層との界面までMgがドープされているので、活性層中に多くのMgが拡散していることが測定された。
【0055】
一方、実施例に係るエピタキシャルウエハにおいては、p型クラッド層は、活性層側に炭素ドープ層を有し、マグネシウムドープ層と炭素ドープ層との間にアンドープ層を設けている。図2を参照すると、マグネシウムドープ層(すなわち、図2の深さ30.0nm以上40.0nm以下の領域)のMgの活性層への拡散が、炭素ドープ層(すなわち、図2の深さ20.0nm以上30.0nm以下の領域)により抑制されていることが測定された。すなわち、実施例においては、比較例に比べ、活性層中のMg濃度が低いことが測定された。
【0056】
次に、実施例及び比較例に係るエピタキシャルウエハそれぞれを用い、LDを作製した。そして、作製したLDの動作電流値をそれぞれ測定した。その結果、実施例に係るエピタキシャルウエハから作製したLDの動作電流値Iopは67mAであり、比較例に係るエピタキシャルウエハから作製したLDの動作電流値Iopは80mAであった。したがって、実施例に係るエピタキシャルウエハによれば、当該エピタキシャルウエハから作製したLDの動作電流値を低く抑えることができ、LDの信頼性の向上及び長寿命化を図ることができることが確認された。
【0057】
また、実施例に係るエピタキシャルウエハにおいては、炭素ドープ層の厚さ及び炭素ドープ層の炭素のキャリア濃度を、Mgの活性層への拡散が最適になるように調整したので、発光素子の製造プロセスのプロセス設定の変更は要さない。したがって、実施例に係るエピタキシャルウエハを用いた発光素子の製造においては、従来から蓄積された製造技術、製造ノウハウを活かすと共に、活性層へのp型不純物の拡散をある程度抑制することができた。
【0058】
なお、実施例に係るエピタキシャルウエハから発光素子としてLDと同様に高い信頼性及び長い寿命を有するLEDを作製することもできる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0060】
1 エピタキシャルウエハ
10 半導体基板
20 n型クラッド層
30 第1ガイド層
40 活性層
50 第2ガイド層
60 p型クラッド層
62 炭素ドープ層
64 アンドープ層
66 マグネシウムドープ層
70 p型キャップ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板の上方に設けられるn型クラッド層と、
前記n型クラッド層の上方に設けられ、5.0×1015cm−3以下の原子濃度の炭素と、1.0×1016cm−3以上1.6×1016cm−3以下の原子濃度のマグネシウムと、1.1×1016cm−3以上5.0×1018cm−3以下の原子濃度の亜鉛とを含む活性層と、
前記活性層の上方に設けられ、炭素がドープされた炭素ドープ層と、前記炭素ドープ層上に設けられ、不純物がドーピングされていないアンドープ層と、前記アンドープ層上に設けられ、マグネシウムがドープされたマグネシウムドープ層とを有するp型クラッド層と、
前記p型クラッド層上に設けられ、亜鉛を含むp型キャップ層と
を備えるエピタキシャルウエハ。
【請求項2】
前記半導体基板が、n型GaAs基板であり、
前記n型クラッド層、前記活性層、及び前記p型クラッド層が、AlGaInP系化合物半導体からなり、
前記p型キャップ層が、p型GaAsからなる請求項1に記載のエピタキシャルウエハ。
【請求項3】
前記炭素ドープ層が、1.0×1017cm−3以上8.0×1018cm−3以下の原子濃度の前記炭素を含み、
前記マグネシウムドープ層が、5.0×1017cm−3以上8.0×1018cm−3以下の原子濃度の前記マグネシウムを含み、
前記p型キャップ層が、5.0×1017cm−3以上1.2×1020cm−3以下の原子濃度の前記亜鉛を含む請求項2に記載のエピタキシャルウエハ。
【請求項4】
前記p型クラッド層が、前記炭素ドープ層と、前記アンドープ層と、前記マグネシウムドープ層とからなり、
前記炭素ドープ層が、前記マグネシウムドープ層の厚さの5%以上60%以下の厚さを有し、
前記アンドープ層が、5nm以上10nm以下の厚さを有する請求項3に記載のエピタキシャルウエハ。
【請求項5】
n型GaAs基板と、
前記n型GaAs基板の上方に設けられるn型クラッド層と、
前記n型クラッド層の上方に設けられる活性層と、
前記活性層の上方に設けられ、炭素がドープされた炭素ドープ層と、前記炭素ドープ層上に設けられ、不純物がドーピングされていないアンドープ層と、前記アンドープ層上に設けられ、亜鉛がドープされた亜鉛ドープ層とからなるp型クラッド層と、
前記p型クラッド層上に設けられ、p型GaAsからなるp型キャップ層と
を備えるエピタキシャルウエハ。
【請求項6】
半導体基板を準備する半導体基板準備工程と、
前記半導体基板の上方にn型クラッド層と、活性層と、p型クラッド層と、p型キャップ層とを順次形成する半導体積層構造形成工程と
を備え、
前記p型クラッド層が、前記活性層上に設けられ炭素がドープされた炭素ドープ層と、前記炭素ドープ層上に設けられ不純物がドーピングされていないアンドープ層と、前記アンドープ層上に設けられマグネシウムがドープされたマグネシウムドープ層とを有し、
前記活性層が、5.0×1015cm−3以下の原子濃度の炭素と、1.0×1016cm−3以上1.6×1016cm−3以下の原子濃度のマグネシウムと、1.1×1016cm−3以上5.0×1018cm−3以下の原子濃度の亜鉛とを含み、
前記p型キャップ層が、前記亜鉛を含むエピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項7】
前記半導体積層構造形成工程が、前記炭素ドープ層の成長時にCBrを供給し、前記マグネシウムドープ層の成長時にCpMgを供給する請求項6に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項8】
前記半導体積層構造形成工程が、前記アンドープ層をGaAs又はAlGaAsから形成する請求項7に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−151240(P2011−151240A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11918(P2010−11918)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】