説明

エポキシ樹脂無機複合シート及び成形品

【課題】 取り扱い性に優れると共に硬化物の耐衝撃性及び吸湿信頼性の高いエポキシ樹脂無機複合シートを提供する。
【解決手段】 軟化温度が80℃以下のフェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂と60〜95質量%の無機充填材とを含有するエポキシ樹脂組成物をキャリア材の表面に未硬化の状態で10〜1000μmの厚みに形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層配線板の製造およびIC等の部品封止及び保護用コーティングなどとしての用途に用いられるエポキシ無機複合シート及びその成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化、小型薄型化の要求に伴い、半導体の高集積化、配線距離の短縮化、プリント配線板の小型化等を図るためにビルドアップ工法によるプリント配線板の製造が盛んに行われている。
【0003】
ビルドアップ工法によるプリント配線板の製造には現状、アディティブ用プリプレグ、銅箔付き樹脂シート(樹脂付銅箔)、ビルドアップ用樹脂フィルムなどが用いられている。しかしながら、これらの材料においてはそれぞれに課題を残している。
【0004】
アディティブ用プリプレグは、ガラスクロス等の基材を有していることから低線膨張化にはメリットがあるものの、ビア形成時のレーザー加工性に乏しい。また、成形後の基板表面平滑性もクロスのうねりが生じやすいなどの問題を有している。さらに、電気特性の面でも誘電率、誘電正接の増加を招き、高速化、高周波化には不利といえる。
【0005】
一方、銅箔付き樹脂シートやビルドアップ用樹脂フィルムは、基材がないことから線膨張係数が大きくなり、導通信頼性や実装信頼性面で不利であるといえる。
【0006】
また、ICやウエハー、受動部品の封止、保護コーティングの用途としては、現在、液状タイプのものやモールド成形用の材料が用いられている。液状タイプのものにおいては、印刷、塗布時においてハンドリング性が悪く、取り扱いしずらい面がある。また、塗布量の制御に精密な粘度管理等が必要で厚み管理が容易でない点、硬化時間が長いなどの課題を有している。さらに、無溶剤系においては高充填化が不可能、硬化剤が限られるなどのデメリットがあるといえる。逆に、溶剤系では乾燥時間の長時間化を招くなどの問題を有している。また、トランスファー成形に用いられるモールド材料においては、金型の初期投資に多額の金額がかかることから少量多品種生産には一般に不向きである。また、タブレット形状であることから流れ性が良好でなければならず、流動性が不十分であった場合、中央部と端部において厚みムラを生じやすいなど成形条件の制御と材料の流れ性の制御が困難である。
【0007】
そこで、上記の課題を解決する方法として、無機充填材を含有させたエポキシ樹脂無機複合シートを用いることが考えられている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、ビルドアップ工法による材料においては、エポキシ樹脂無機複合シートの可撓性の面から無機充填材の含有量は少量に限られている。一般的には30質量%以下にしなければならず、50質量%を超えると含有量が増えるに従い未硬化のエポキシ樹脂無機複合シートは硬く脆くなり、エポキシ樹脂無機複合シートの作製時においてロール状に巻き取りが行えなかったり、たとえロール状に巻き取ることができてもクラック、切断時の粉落ちなどの発生を余儀なくされている。また、成形時の流れ性が低下し、ラミネート等で一般的に加圧される条件である1MPa以下でのラミネートでは回路部分の充填性が不十分などの問題が生じる可能性があった。
【0009】
また、ICやウエハー、受動部品の封止、保護コーティングの用途としては、液状の封止材料を印刷等によりコーティングする方法やタブレット形状のモールド成形材料を用いトランスファー成形により行われているが、液状タイプのものは印刷時のハンドリング性の悪さ、乾燥時間の長さなどアセンブリに非常に手間がかかるなどの課題を有する他、液状物として取り扱うためには粘度の問題から無機充填材の含有量が70質量%以下のものがほとんどとなっている。また、トランスファー成形機を用いたタブレット形状のものにおいては、金型の初期投資が莫大であるなど、多品種少量生産には向いていない。
【0010】
これに対して、エポキシ樹脂無機複合シートでは、簡易のプレス機やラミネーターがあれば短時間(数分)のプレスで対応することができ、他には乾燥機を用いて必要な熱量を加えるだけでよく、プロセスが簡易であることだけでなく、手を汚しにくいクリーンなプロセスともいえる。しかしながら、従来、無機充填材を50重量%以上配合させたようなBステージのシート形状のものはビルドアップ用樹脂シートと同様に硬く脆くなり、エポキシ樹脂無機複合シートの作製時においてロール状に巻き取りが行えなかったり、たとえロール状に巻き取ることができてもクラック、切断時に粉落ちなどが発生することから実用上、実現不可能なものとなっていた。
【0011】
その一方で、無機充填材の含有により、エポキシ樹脂無機複合シートの硬化物の線膨張係数の低減や吸湿率を低減させることが可能であり、プリント回路基板においては、ビア接続部の熱衝撃試験等における導通信頼性の向上が可能となる。また、吸湿率の低減は耐マイグレーション性等における絶縁信頼性の向上や耐吸湿半田性、耐吸湿リフロー性等における実装信頼性の観点からも好ましい。また、近年の携帯電話をはじめとするモバイル機器等においては、落下等の粗雑な取り扱いによる過酷な条件による機械特性等が要求されるようになり、材料の強靭性(耐衝撃性)を高める必要が生じている。無機充填材の増加は成形硬化物を硬く脆くさせることになり、耐衝撃性向上には逆方向の要因となっているが、このような課題に対しても充分な耐衝撃性を付与することが可能であることが好ましい。
【特許文献1】特開2001−151864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、取り扱い性に優れると共に硬化物の耐衝撃性及び吸湿信頼性の高いエポキシ樹脂無機複合シートを提供することを目的とするものである。
【0013】
また、本発明は、耐衝撃性及び吸湿信頼性の高い成形品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のエポキシ樹脂無機複合シートは、軟化温度が80℃以下のフェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂と60〜95質量%の無機充填材とを含有するエポキシ樹脂組成物をキャリア材の表面に未硬化の状態で10〜1000μmの厚みに形成して成ることを特徴とするものである。
【0015】
本発明にあっては、フェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂の硬化剤として、軟化点80℃以下のフェノールフェニルアラルキル樹脂またはフェノールビフェニルアラルキル樹脂の少なくとも一方をエポキシ樹脂組成物に含有するのが好ましい。
【0016】
また、本発明にあっては、フェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂の硬化剤として、ジシアンジアミドをエポキシ樹脂組成物に含有することができる。
【0017】
また、本発明にあっては、常温において液状のエポキシ樹脂もしくは分子量が400以下の結晶性エポキシ樹脂をエポキシ樹脂組成物に含有し、その含有量が無機充填材と溶剤を除く樹脂分に対して30質量%以下であることが好ましい。
【0018】
また、本発明にあっては、キャリア材の片面もしくは両面に離型処理が施されており、キャリア材から加熱することなく剥離可能であることが好ましい。
【0019】
また、本発明にあっては、無機充填材として溶融シリカ又はアルミナの少なくとも一方を用いるのが好ましい。
【0020】
本発明の成形品は、請求項1乃至6のいずれかに記載のエポキシ樹脂無機複合シートを成形硬化して成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、エポキシ樹脂組成物に軟化温度が80℃以下のフェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂と60〜95質量%の無機充填材とを含有し、キャリア材の表面に未硬化の状態で10〜1000μmの厚みに形成するので、取り扱い性に優れたエポキシ樹脂無機複合シートにすることができ、また、その硬化物の耐衝撃性及び吸湿信頼性を高くすることができるものである。
【0022】
また、フェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂の硬化剤として、軟化点80℃以下のフェノールフェニルアラルキル樹脂またはフェノールビフェニルアラルキル樹脂を用いることにより、さらに取り扱い性に優れたエポキシ樹脂無機複合シートにすることができ、また、その硬化物の耐衝撃性及び吸湿信頼性をさらに高くすることができるものである。
【0023】
また、フェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂の硬化剤として、ジシアンジアミドをエポキシ樹脂組成物に含有することにより、さらに取り扱い性に優れたエポキシ樹脂無機複合シートにすることができ、また、その硬化物の耐衝撃性及び吸湿信頼性をさらに高くすることができるものである。
【0024】
また、常温において液状のエポキシ樹脂もしくは分子量が400以下の結晶性エポキシ樹脂をエポキシ樹脂組成物に含有し、その含有量が樹脂分に対して30質量%以下とすることによって、無機充填材が高充填であっても高い柔軟性を確保することができるものである。
【0025】
また、キャリア材の片面もしくは両面に離型処理が施されており、キャリア材から加熱することなく剥離可能であるので、Bステージで複数枚をラミネートする前に予めキャリア材から剥がしておくことにより、数枚を一度に重ねてプレスすることが可能であり、これにより、仮に1シートのある一部分に欠陥が存在していたとしても、数枚重ねられることから2枚以上重ねることにより、欠陥の確率を著しく低下させ、絶縁不良の防止を図ることが可能となり、また、複数枚をあらかじめ重ねておくことにより厚膜化が容易に行えることから背の高い受動部品の封止に好適に用いることができるものである。
【0026】
また、無機充填材として溶融シリカ又はアルミナの少なくとも一方を用いることにより、電気特性の向上に有効であり、また、アルミナの場合は放熱性を良好にすることができるものである。
【0027】
また、本発明のエポキシ樹脂無機複合シートを成形硬化することにより、硬化物の耐衝撃性及び吸湿信頼性を高くすることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0029】
本発明ではエポキシ樹脂として、軟化点80℃以下のフェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂を必須要素するものである。軟化温度が80℃以下のものを用いる理由としては、乾燥後のエポキシ樹脂無機複合シートの可撓性を損なわないようにするためである。エポキシ樹脂無機複合シートの可撓性は、無機充填材の充填量(配合量)が増加すればするほど、可撓性が低下する傾向が顕著になるものである。尚、本発明においては、フェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂の軟化点の下限は特に限定されないが、軟化点が50℃以上のフェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂が使用可能である。
【0030】
本発明ではエポキシ樹脂として、軟化点80℃以下のフェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂を単独で使用してもよいが、他のエポキシ樹脂と併用してもよい。他のエポキシ樹脂と併用する場合、そのエポキシ樹脂も固体の場合においては軟化温度が80℃以下が好ましく、軟化温度80℃以下のエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、アラルキル型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物、トリグリシジルイソシアヌレート、脂環式エポキシ樹脂など公知慣用のものを使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
また、常温25℃において液状のエポキシ樹脂や分子量が400以下の結晶性エポキシ樹脂を用いることにより、さらに可撓性を良好にすることが可能となる。このようなエポキシ樹脂としてはビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。常温において液状のエポキシ樹脂や分子量が400以下の結晶性エポキシ樹脂を用いる場合、その配合量は無機充填材と溶剤を除く樹脂分(エポキシ樹脂無機複合シート中の無機充填材と溶剤を除く全成分)に対して30質量%以下であることが好ましく、30質量%よりも多く配合すると、硬化物の耐衝撃性の低下という問題が生じる恐れがある。尚、常温において液状のエポキシ樹脂や分子量が400以下の結晶性エポキシ樹脂の配合は任意であるので、その配合量の下限は0である。
【0032】
本発明では無機充填材(無機フィラー)としては、溶融シリカ(SiO)、結晶シリカ(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)などを例示することができ、これらの他に、高誘電率性チタン酸バリウムや酸化チタンのような高誘電率フィラーやハードフェライトやハードフェライトのような磁性フィラー、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、グアニジン塩、ホウ酸亜鉛、モリブデン化合物、スズ酸亜鉛等の無機系難燃剤や、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、雲母粉、等を用いることができ、これらのものを一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの無機充填材は熱伝導性、比誘電率、難燃性、粒度分布、色調の自由度が高いことから、所望の機能を選択的に発揮させる場合に適宜配合及び粒度設計を行って、容易に高充填化を行うことができ、特に、無機充填材として最大粒径が20μm以下、好ましくは10μm以下のものを用いると、貫通孔の形成のためのレーザー加工、ドリル加工時の孔形状や磨耗を良好に保つことができる。また、エポキシ樹脂組成物中における無機充填材の分散性を向上させるために、エポキシシラン系、メルカプトシラン系、アミノシラン系、ビニルシラン系、スチリルシラン系、メタクリロキシシラン系、アクリロキシシラン系、チタネート系等のカップリング剤や、アルキルエーテル系、ソルビタンエステル系、アルキルポリエーテルアミン系、高分子系等の分散剤を適宜添加することが好ましい。
【0033】
本発明において硬化剤としては、ジシアンジアミド、フェノール、酸無水物などを用いることができる。フェノールにおいてはノボラック型、アラルキル型、テルペン型などを用いることができるが、特に、上記エポキシ樹脂と同様に軟化温度として80℃以下のものを用いることが好ましい。また、アラルキル型フェノール、特に、フェノールフェニルアラルキル樹脂またはフェノールビフェニルアラルキル樹脂を用いた場合においては著しく耐衝撃性を向上させることができるとともに、低吸湿率、高密着性を併せ持ちプリント回路基板用材料、IC及び部品保護用コーティング材料としての信頼性の高い成形物(硬化物)が得られる。また、酸無水物系に関しては液状、結晶のどちらでも可能であるが、常温で液状のものや低分子量のものを用いることで無機充填材の量を増量してもエポキシ樹脂無機複合シートの可撓性を保持することができる。
【0034】
そして、本発明のエポキシ樹脂無機複合シートを製造するにあたっては、上記のエポキシ樹脂、無機充填材、硬化剤を所定の有機溶剤(例えば、メチルエチルケトンやN,N−ジメチルホルムアミド)に溶解・分散した樹脂ワニスを調製し、この樹脂ワニスをキャリアの片面あるいは両面に塗布した後、加熱及び/又は熱風吹き付けにより有機溶剤を乾燥させる。このようにして常温で固形のエポキシ樹脂組成物からなるエポキシ樹脂無機複合シートをキャリア材の表面に作製することができる。このエポキシ樹脂無機複合シートは、60〜95質量%の無機充填材を含有し、その他の成分が5〜40質量%の樹脂成分となる。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂無機複合シートは、キャリア材の表面上に未硬化の状態である。ここで未硬化とは、いわゆるBステージ化することであり、エポキシ樹脂組成物を加熱することにより、エポキシ樹脂組成物の反応を一部行わせた状態を表している。従って、本発明のエポキシ樹脂無機複合シートは、プリプレグと同様に、積層成形の加熱加圧によって一旦溶融した後に硬化する性質を備えているものである。
【0036】
本発明のエポキシ樹脂無機複合シートの厚みは10μm〜1000μmである。10μm未満では、コーティング時においては用いることのできる無機充填材の粒子径が微細化してくることから充填性に問題を生じやすくなり、また、エポキシ樹脂無機複合シートの強度が低下することになり事実上、キャリア材からの離型が不可能となる。また、1000μmを超える場合ではエポキシ樹脂無機複合シートの表面の発泡やエポキシ樹脂無機複合シートの内部ボイドを発生させずに乾燥させるために、乾燥時間に莫大な時間を要することになり、従って、1000μm以下のエポキシ樹脂無機複合シートを複数枚重ねて使用する方が実用上好適であるといえる。
【0037】
キャリア材としては、高分子フィルムあるいは金属シートが好ましい。高分子フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、アセチルセルローズ、テトラフルオロエチレンなどを例示することができる。また、金属シートとしては、銅箔、アルミニウム、ニッケル箔の如き金属箔などを例示することができる。さらには、キャリアとしては離型紙等を用いてもよい。キャリア材としては、価格、耐熱性の点でポリエステルフィルムが好ましい。また、キャリア材の厚みとしては10〜200mmが一般的である。また、キャリア材の片面あるいは両面には、離型処理を施してあることが好ましく、例えば、オルガノポリシロキサンやフッ素系ポリマーをコートすることにより離型処理を施すことができ、これにより、塗工された後乾燥されたエポキシ樹脂無機複合シートは、キャリア材から加熱することなく容易に剥がすことができるものである。離型性の指標は、キャリア材の表面に形成されたエポキシ樹脂無機複合シートとキャリア材との剥離強度の測定により行うことができるが、50mm/分の引張速度の条件において0.6N/m〜60N/mの範囲であることが好ましい。剥離強度が0.6N/m未満の場合においては、塗工乾燥後の巻き取り段階においてエポキシ樹脂無機複合シートがキャリア材から剥がれてしまうなどの問題が生じやすい。また、剥離強度が60N/mよりも大きい場合においては、離型が困難となりシートの剥離時においてシートが破壊することになる。また、エポキシ樹脂無機複合シートの引張り強度は0.5MPa〜15MPaの範囲であることが好ましく、この範囲であれば、巻き取り時には、剥離が容易で、破れにくいエポキシ樹脂無機複合シートを得ることができる。
【0038】
そして、本発明のエポキシ樹脂無機複合シートでは、従来のプリント回路基板に用いられているガラスクロス等の基材を含まず、無機充填材のみにより信頼性の向上を図るとともに、短所としての可撓性や流れ性の低減を発生させないようにすることができるものである。また、従来に比べて、無機充填材の増量により簡易なプロセスで簡易な設備で信頼性の高いIC、受動部品、ウエハーの封止、コーティングを可能にすることができるものであり、少量多品種生産にも好適な材料となるものである。また、キャリア材に離型処理が施されており、キャリア材から加熱することなくエポキシ樹脂無機複合シートを容易に破壊せずに剥離することができる特性を有していることから、ラミネートする前に予めキャリア材から剥がしておくことにより、数枚を一度に重ねてプレスすることが可能であり、これにより、仮に1シートのある一部分に欠陥が存在していたとしても、数枚重ねられることから2枚以上重ねることにより欠陥の確率を著しく低下させ絶縁不良の防止を図ることが可能となり、また、厚膜化が容易に行えることから背の高い受動部品の封止に好適に用いることができるものである。すなわち、従来のエポキシ樹脂無機複合シートでは厚みが厚くなればなるほど指数的に比例して乾燥時間を長くしなければならず、生産性が低下する傾向にあった。これは乾燥時に内包されるボイド発生確率が高くなることから厚膜化とともにマイルドな条件で長時間乾燥させなければ厚膜化は困難であったためであるが、本発明のように数枚重ねてBステージ状態で厚膜化できることにより部分の高さの高低を問わずに封止を行うことができるものである。さらには、プリント回路基板用途の応用としては近年、ビルドアップ基板の歩留まり向上として一括積層成形が近年注目を浴びているが、そのための必要条件としてBステージ状態での回路形成が必要となってくる。本発明は転写回路形成法を組み合わせることにより一括積層成形が可能となる。一括積層成形でのビルドアップ基板作製にはBステージ状態でのキャリアフィルムとの剥離が必要となってくるが、そのような応用も可能となる。そして、本発明は一括成形にて多層化を行うことができると共に、併せて導体回路の微細化・高密度化による小型化と信頼性の向上とを達成することができるものである。
【0039】
本発明の成形品は、上記エポキシ樹脂無機複合シートをプレス成形やトランスファ成形等により成形した硬化物であるが、例えば、温度100〜200℃で10〜240分間の加熱により硬化させることができる。
【実施例】
【0040】
以下本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0041】
(実施例1〜10、比較例1〜4)
表1に示す各固形成分を含有するスラリーをプラネタリーミキサーにて混練し、これに所定の溶剤としてメチルエチルケトンの配合することにより粘度を3000cpsに調製した樹脂ワニスを得た。次に、この樹脂ワニスを厚み75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルムからなるキャリア材(コーティング面にオルガノポリシロキサンを塗布して離型処理したもの)に塗布し、130℃で8分間加熱乾燥することにより、キャリア材の一面に厚み100μmでBステージ状態のエポキシ樹脂組成物からなるエポキシ樹脂無機複合シートを形成した。
【0042】
次に、上記のようにして得られるエポキシ樹脂無機複合シートのフィルム性評価をJIS−K6301及びJIS−K6252に準じて行った。条件は室温(25±3℃)の環境下で引張速度10mm/分の速度にて測定した。測定値はss特性の最大強度をフィルム強度とし完全な破断にいたるまで(荷重が0に達するまで)の伸びをフィルム伸びとして定義した。
【0043】
また、エポキシ樹脂無機複合シートの成形硬化物の強靭性評価として、成形硬化物の曲げ試験をJIS−C6481に準じて行った。条件は1mm/分のクロスヘッド速度で行い最大強度、撓み量と強靭性の指標として強度−撓み曲線の積分値を算出し破壊に要するエネルギーの推定を行い、耐衝撃性(耐落下試験性)の指標とした。成形条件としては真空直圧成形により175℃で120分で行い、板厚1.5mmのサンプルを作製した。
【0044】
また、エポキシ樹脂無機複合シートをFR−4タイプ基板と複合化させた基板を作製し、これの煮沸煮沸半田耐熱評価を行った。煮沸は2時間行い、260℃の半田浸漬後のFR−4タイプ基板との界面での剥離状態を断面観察で行った。表1はその母数に対する不良数を示す。
【0045】
尚、表1に示す各成分としては以下のものを用いた。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(液状):大日本インキ化学工業社製の「エピクロン850S」
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(軟化点97℃):ジャパンエポキシレジン社製の「エピコート1004」
ビフェニル型エポキシ樹脂:ジャパンエポキシレジン社製の「YX4000H」
フェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂(軟化点72℃):日本化薬社製の「NC3000H」
フェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂(軟化点58℃):日本化薬社製の「NC3000」
臭素化エポキシ樹脂:阪本薬品製の「SRBSP」
ジシアンジアミド:日本カーバイド社製
フェノールフェニルアラルキル樹脂:明和化成社製の「MEH7800SS」
フェノールビフェニルアラルキル樹脂:明和化成社製の「MEH7851H」
ビスフェノールAノボラック:大日本インキ化学社製の「VH4170」
カップリング剤:日本ユニカ製の「A187」
触媒:四国化成製の「2E4MZ」
二酸化珪素:電気化学工業社製の「FB3LDX」
アルミナ:アドマテックス社製の「AO502」
【0046】
【表1】

【0047】
フィルム性評価については、実施例1〜4及び比較例2〜3の結果より、無機充填材の増加に伴いフイルム強度が上昇しフィルム伸びが上昇する傾向がある。ここで強度はシートの硬さ(腰の強さ)の指標となり、伸びは柔軟性(可撓性)の指標と考えられる。すなわち、フィルムが無機充填材の増加に伴い硬くもろくなる傾向があることをデータが示している。実施例1〜4の範囲、すなわち、無機充填材量が60〜95重量%の範囲においてはフィルムを実際に手で扱いカット時のクラックの発生、剥離時のシートの伸びによる変形を確認したところ十分に取り扱いのできるものであることがわかった。しかしながら、比較例2に示されるように無機充填材が60重量%未満の場合においては可撓性はあるものの剥離時に伸びが生じてしまうことがわかった。また96重量%入った比較例3においては非常に硬くもろいシートとなり巻き取り時にクラックの発生が生じるとともにカット時にも同様の現象が生じ実用に使用できるものとはいい難いものであった。また軟化温度が97℃のエポキシ樹脂を用いてシートを形成した比較例4においても比較例3と同様であった。以上のことから無機充填材は60〜95重量%がシートの取り扱い性に優れていることが明確になった。またエポキシ樹脂無機複合シート中のエポキシ樹脂の軟化温度が非常に重要であり、80℃を超えるエポキシ樹脂では無機充填材がその範囲内に入っていても取り扱い性に問題があることがわかった。また、実施例5と実施例6〜8の結果を比較すると、フェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂とともに第二成分として常温で液状のエポキシ樹脂または分子量が400以下の低分子量の結晶性エポキシを併用することにより、フィルム伸びが上昇しハンドリング性がさらに高くなることがわかった。
【0048】
また、エポキシ樹脂無機複合シートの成形硬化物の強靭性評価については、無機充填材の増加とともに強度は増加し、撓み量は低下する傾向があるが、その曲線の積分値はフィラーの上昇とともに低下の傾向がある。また、エポキシ樹脂無機複合シートのシート強度と同様に95重量%を超えると大きくその値が低下した。また、エポキシ樹脂としてフェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂を用いた場合において特に耐衝撃性が向上することがわかった。
【0049】
さらに、煮沸煮沸半田耐熱評価については、本発明のエポキシ樹脂無機複合シートを用いてプリント基板との複合化を図った複合基板は、吸湿耐熱性の優れた材料であることも確認することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化温度が80℃以下のフェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂と60〜95質量%の無機充填材とを含有するエポキシ樹脂組成物をキャリア材の表面に未硬化の状態で10〜1000μmの厚みに形成して成ることを特徴とするエポキシ樹脂無機複合シート。
【請求項2】
フェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂の硬化剤として、軟化点80℃以下のフェノールフェニルアラルキル樹脂またはフェノールビフェニルアラルキル樹脂の少なくとも一方をエポキシ樹脂組成物に含有して成ることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂無機複合シート。
【請求項3】
フェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂の硬化剤として、ジシアンジアミドをエポキシ樹脂組成物に含有して成ることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂無機複合シート。
【請求項4】
常温において液状のエポキシ樹脂もしくは分子量が400以下の結晶性エポキシ樹脂をエポキシ樹脂組成物に含有し、その含有量が無機充填材と溶剤を除く樹脂分に対して30質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のエポキシ樹脂無機複合シート。
【請求項5】
キャリア材の片面もしくは両面に離型処理が施されており、キャリア材から加熱することなく剥離可能であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のエポキシ樹脂無機複合シート。
【請求項6】
無機充填材として溶融シリカ又はアルミナの少なくとも一方を用いて成ることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のエポキシ樹脂無機複合シート。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のエポキシ樹脂無機複合シートを成形硬化して成ることを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2006−124434(P2006−124434A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311511(P2004−311511)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】