説明

エポキシ樹脂粉体塗料

【課題】塗膜の薄膜化及び平滑化することによる高外観の塗膜を形成し得る粉体塗料、該粉体塗料を用いて絶縁層を形成する金属製被塗物の絶縁方法、及び該方法により得られる絶縁層付金属製被塗物を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂、硬化剤及び充填剤を含有する粉体塗料において、該粉体塗料は、その平均粒子径が10〜30μmであり、5μm以下の粒子を3.0〜6.0体積%含むことを特徴とする粉体塗料。 電子部品の表面に絶縁層を形成する絶縁方法であって、該絶縁層は上記粉体塗料を金属製被塗物に静電塗装した後に熱硬化することにより塗膜を形成することを特徴とする絶縁方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料、その粉体塗料を用いる絶縁方法およびその粉体塗料を熱硬化させ絶縁層を形成した絶縁層付き金属製被塗物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のVOC(揮発性有機化合物)排出規制に対応する塗料として組成中に有機溶剤を含まない粉体塗料が注目されており、使用量が著しく増加の傾向にある。代表的な利用分野として、ハードディスク、DVD、CD−ROMなどに用いられるマイクロモータのスロット絶縁用や各種携帯器機をはじめとするデジタル家電などに使用される各種部品の絶縁用に粉体塗料を用いることは広く行われている。マイクロモータのスロット絶縁用の粉体塗料は、一般に平均粒子径が50μm程度であり、そして硬化後の絶縁被膜の厚さは、概略100μm程度である。近年、ハードディスクなどに用いられるマイクロモータなどの被塗装物の小型化に伴い、絶縁被膜を50μm以下の薄膜にすることが産業界から切望されている。また、上述する情報家電の高機能化に伴い用いられる部品の小型軽量化の達成とともに絶縁層の薄膜化も求められている。
【0003】
前記のような利用分野で使用される粉体塗料は、一般に熱硬化性樹脂を主要成分としており、通常、塗装ガンを通して静電塗装により、アースした被塗物上に静電的に付着させた後に加熱・溶融して塗膜が形成される。静電塗装法としては、コロナ荷電法および摩擦荷電法が知られている。
【0004】
上述した静電塗装では、金属製被塗物に対して均一な塗膜を形成するために、帯電した粉体塗料を被塗物全体に均一に付着させる必要がある。一般に平面な被塗物上には十分均一な塗膜を形成できるが、非平面部(特に、凹凸形状の凹部等)上には、粉体塗料粒子が入り込みにくく、非平面部に付着する粉体塗料の量が他の部分と比較して少なくなる場合が多い。この場合には、非平面部に形成される塗膜の膜厚が他の部分の膜厚と比較して薄くなるため、均一な塗膜が得られにくい。この現象はコロナ荷電法において顕著に見られるものであり、ファラデーケージ効果に起因するものである。ファラデーケージ効果とは、電界(電気力線)が被塗物の凹部に形成されず、凸部に集中する現象をいうものである。また、粉体塗料は、液状塗料の場合と比較して、塗料自体が粒状のため、塗装後の溶融および焼付けによっても塗膜の表面の凹凸を平滑化するのが困難であった。
【0005】
これらの問題を解決する手段として、以下のような方法が提案されている。
第一の方法として、平面部には従来通りの手段で粉体塗装を行った後、粉体塗装では均一な塗膜が形成できない前記非平面部には電着塗料を塗装する積層塗膜形成方法が提案されている(例えば特許文献1)。この方法では、粉体塗料塗装後に電着塗装を行うため、粉体塗料の塗装面に電着塗料を塗着させることが困難であり、前記粉体塗膜と電着塗膜との境界部分に十分な膜厚が確保できず、防食性の劣る箇所が生じる場合があった。
第二の方法として、粉体塗料の平均粒子径を小さくさせ、かつ、小粒子径の粒子の比率に上限を設けた粉体塗料が提案されている(例えば特許文献2)。
第三の方法として、粉体塗料の平均粒子径が20〜50μmであり、粒径分布標準偏差が20μm以下である粉体塗料を使用することが提案されている(例えば特許文献3)。
第四の方法として、本願出願人は先にビスフェノールA型エポキシ樹脂を主体とする特定の性状を有するエポキシ樹脂に、ポリビニルブチラール、触媒系硬化剤、アクリル酸エステルオリゴマーとともに特定の粒径範囲の無機充填剤を配合したエポキシ樹脂組成物を使用することを提案した(特許文献4)。
第二から第四の方法においては、いずれも粒子径の均一化を図ることにより、塗膜の平滑性を向上することを目的としているものである。言い換えるならば、粒子径の小さいもしくは大きい粒子を分級により取り除くことを本来の目的とするものである。
【0006】
しかしながら、第二から第四の方法においては、粒子径の均一化において、粒子径の小さいものを含むことが好ましくない旨、開示されているにすぎず、例えば5μm以下の粒子について具体的開示は全くない。
使用される金属製被塗物が更に小型化されたことにより、粒径の小さいものを除去し、粒子径を均一化するだけでは塗膜の平滑性は未だ満足できるものではなかった。
【0007】
【特許文献1】特開昭49―111947号公報
【特許文献2】特開平5−98193号公報
【特許文献3】特開平8−41384号公報
【特許文献4】特開平10−265714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、塗膜の薄膜化及び平滑化することによる高外観の塗膜を形成することができる粉体塗料を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記粉体塗料を用いて絶縁層を形成する金属製被塗物の絶縁方法、及び該方法により得られる絶縁層付金属製被塗物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、少なくともエポキシ樹脂、硬化剤および充填剤を含有する粉体塗料において、その平均粒子径が特定の範囲にあり、かつ、5μm以下の粒子(以下、小粒子径の粒子ともいう)を所定量含んでいる場合に粉体塗装後熱硬化させた塗膜は高外観のものが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は以下の粉体塗料、その粉体塗料を用いる絶縁方法、及びその粉体塗料を熱硬化させ絶縁層を形成した絶縁層付き金属製被塗物を提供するものである。
(1)エポキシ樹脂、硬化剤及び充填剤を含有する粉体塗料において、該粉体塗料は、その平均粒子径が10〜30μmであり、5μm以下の粒子を3.0〜6.0体積%含むことを特徴とする粉体塗料。
(2)水平流れ率が1.0〜5.0%であることを特徴とする前記(1)に記載の粉体塗料。
(3)電子部品の表面に絶縁層を形成する絶縁方法であって、該絶縁層は、前記(1)または(2)に記載の粉体塗料を金属製被塗物に静電塗装した後に熱硬化することにより塗膜を形成することを特徴とする絶縁方法。
(4)電子部品の表面に絶縁層を形成した絶縁層付き金属製被塗物であって、該絶縁層は、前記(3)に記載の方法により形成された塗膜であることを特徴とする絶縁層付き金属製被塗物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の粉体塗料は、その平均粒子径が特定の範囲にあり、かつ、小粒子径の粒子を所定量含んでいるため、静電塗装後の膜厚と硬化後の膜厚の差を減少させることができる。このため、硬化塗膜の平滑性を向上することができ、高外観の塗膜を形成することができる。
また、上記粉体塗料の水平流れ率が特定の範囲のものは、塗膜の形状安定という点で優れている。
さらに、本発明は、上記粉体塗料を用いて静電塗装、次いで熱硬化させることにより、高外観の塗膜を形成する絶縁方法、該方法により塗膜を形成した絶縁層付金属製被塗物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し、適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲のものである。
【0013】
本発明の粉体塗料は、エポキシ樹脂、硬化剤および充填剤を含有する粉体塗料である。
【0014】
本発明において使用されるエポキシ樹脂としては従来から知られているエポキシ樹脂をその使用目的に応じて適宜使用することができる。例えば、分子内に2個以上のオキシラン基を有する化合物が好ましく使用できる。そのようなエポキシ樹脂としては、グリシジルエステル樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられ、具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノール−ノボラック型またはクレゾール−ノボラック型のエポキシ樹脂、臭素化ノボラック型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型もしくはAD型エポキシ樹脂、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ペンタエリストールポリグリシジルエーテル等の脂肪族系エポキシ樹脂、脂肪族若しくは芳香族アミンとエピクロルヒドリンから得られるエポキシ樹脂、脂肪族若しくは芳香族カルボン酸エピクロルヒドリンから得られるエポキシ樹脂、複素環エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂等を使用することができる。これらのエポキシ樹脂は1種類だけ使用してもよいし、2種類以上使用してもよい。
このなかでも、コンデンサー等の電子部品に使用する場合には難燃性の観点から臭素化エポキシ樹脂を含有することが好ましい。
また、マイクロモーター用に使用する場合には塗膜密着性やじん性の観点からビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有することが好ましい。
【0015】
本発明において使用される硬化剤としては、従来から公知の物を種々選択することができる。例えば、酸無水物、アミン類、イミダゾール類、ジヒドロジン類、ルイス酸、ブレンステッド酸塩類、ポリメルカプトン類、イソシアネート類、ブロックイソシアネート類、ジシアンジアミド、カルボン酸ジヒドラジド、メラミン樹脂、多価カルボン酸等を使用することができる。
【0016】
本発明において使用される硬化剤の使用割合は、前記エポキシ樹脂に含まれる官能基1当量に対して、その硬化剤中の官能基の当量数が0.3〜1.2当量が好ましく、より好ましくは0.4〜0.8当量なる割合である。
【0017】
本発明において使用される充填剤としては、例えば、溶融シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、チタンホワイト、窒化ケイ素、炭化ケイ素等の無機化合物を使用することができる。
充填剤は耐ヒートサイクル性を向上させる点から線膨張係数は低い方が好ましく、線膨張係数を低くさせるためには、溶融シリカを使用することが好ましい。これらの充填剤は1種類だけ使用してもよいし、2種類以上使用してもよい。また、同じ種類の充填剤を2種以上使用してもよい。これらの充填剤において、その平均粒子径は0.1〜20μmが好ましく、より好ましくは0.1〜10μmであり、更に0.5〜3μmであることが好ましい。またその配合量は、エポキシ樹脂100重量部当り、20〜150重量部が好ましく、より好ましくは40〜100重量部の割合である。充填剤の配合量が20重量部未満だと、粉体組成物の溶融硬化工程での流動性が大きくなりすぎて塗膜を均一に形成することができなくなるという問題があるからである。一方、150重量部超だと、粉体塗料の溶融硬化工程での流動性が小さくなりすぎて被塗物との十分な密着性が得られず、十分な密着強度が得られないという問題があるからである。
【0018】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、前記成分の他、触媒、流展剤、難燃剤、顔料、カップリング剤、消泡剤等の慣用の補助成分を適宜配合することができる。
【0019】
次に、粉体塗料の製造方法において説明する。
粉体塗料は、エポキシ樹脂と無機充填剤等の充填剤をニーダなどによる溶融混錬処理を施すか、エクストルーダなどによる溶融混合処理を施した後、混合物を冷却固化し、粗粉砕し、この粗粉砕物に硬化剤、さらに必要により、硬化促進剤や補助成分を乾式混合し、この混合物に溶融混合処理を施した後、混合物を冷却固化し、微粉砕後、分級し、平均粒子径10〜30μmに調製することにより得られる。本発明において5μm以下の粒子を所定量含有させる必要があるが、分級時に所定量含有されるように分級してもよいし、分級時に5μm以下の粒子を取り除いたものに所定量含有させる方法によってもよい。
【0020】
本発明において、粉体塗料の平均粒子径は、10〜30μm、より好ましくは15〜25μmである。粉体塗料の平均粒子径を、従来公知の粉体塗料の平均粒子径(約50μm)よりも小さくすることにより、形成される塗膜の薄膜化を図ることができる。粉体塗料組成物中の粒子の平均粒子径が10μm未満であると、製造工程が複雑化するとともに、凝集しやすい5μm以下の粒子が相対的に増えるので流動化しにくくなり、粉体塗料が金属製被塗物に付着する効率が低下するため、歩留まりが悪く生産性が低下するからである。粉体塗料の平均粒子径が、30μmを超えると、硬化塗膜を50μm以下にすることが困難となるからである。
【0021】
本発明における粉体塗料は、平均粒子径が10〜30μmであることが必要であることは前記したとおりであるが、それに加えて、粉体塗料中に5μm以下の粒子を3.0〜6.0体積%、より好ましくは3.5〜5.0体積%含有するものであり、これが重要な特徴である。5μm以下の粒子の含有率が3.0体積%未満であると、粒子同士の隙間に小粒子径の粒子が入り込むことが不十分となるため、硬化塗膜の膜厚が粉体塗装後の膜厚と比較して著しく減少し、表面の平滑性が損なわれるからである。また、6.0体積%より多く含有すると凝集しやすい5μm以下の粒子が増えるため粉体塗料の流動性が低下するといった不具合が生じることになるからである。
【0022】
本発明において、粉体塗料の水平流れ率は1.0〜5.0%が好ましく、より好ましくは2.0〜4.5%である。1.0%未満であると溶融時に塗料が流れなくなるためピンホール等の塗膜欠陥が生じやすくなるし、5.0%を超えると硬化塗膜を得る際の溶融から硬化の過程においていわゆるタレと呼ばれる現象が生じ、所望の膜厚を形成することができなくなるからである。
尚、水平流れ率とは、粉体塗料における加熱時の溶融性を示すものであり、この値が大きいと溶融時に低粘度であるため塗料が流れやすいことを示し、小さいと溶融時に高粘度であるため塗料が流れにくいことを示す。
該水平流れ率の測定方法については後述する。
【0023】
本発明の粉体塗料が塗装される金属製被塗物の形状は、特に限定されないが、本発明の粉体塗料は、特に非平面部を有する立体構造物に好適に使用され本発明の効果が有効に発揮される。即ち、本発明の粉体塗料が凹凸を有する形状に対しての追従性が良好であることから、例えば、箱状物、波板状物、袋状物、筒状物、棒状物、穴あき状物等にも好適に使用される。
【0024】
本発明の粉体塗料は静電塗装法により目的とする金属製被塗物に対して塗装される。静電塗装法としては、コロナ荷電法および摩擦荷電法のいずれかの方法であってもよい。コロナ荷電法においては、外部荷電法および内部荷電法のいずれの方法を用いても差し支えない。
【0025】
本発明における塗装方法としては静電流動床法も好ましい。静電流動法は、以下の原理に基づくものである。
まず、流動化空気が流動化室または更に通常は多孔性の空気分布膜の下方のプレナム室に配置された帯電電極によってイオン化される。次いでイオン化空気が粉体塗料を帯電させ、これによって同じく帯電した粒子同士が静電反発を起こすために上昇運動を始める。そして帯電した粉体粒子の雲が流動床の表面に形成され、ここに金属性被塗物をこの雲に導入することにより粉体粒子は静電引力によって表面に付着することを利用した方法である。
そのため、粒子径が小さい場合には粒子同士の凝集が生じるため上述した上昇運動が生じにくく流動化しないこととなる。
【0026】
次いで、本発明においては、粉体塗料を上記方法により塗装後に加熱硬化する。硬化塗膜の厚みは20〜60μmであることが好ましい。20μm未満であると塗膜欠陥が生じるため絶縁性を確保できないからである。また、60μmを超えると薄膜化という要請を満たさないこととなるからである。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の粉体塗料、これを金属製被塗物に塗装後、加熱・硬化による塗膜の形成、及び形成された塗膜(以下、硬化塗膜という)について実施例を用いて具体的に説明するが、本発明の粉体塗料、硬化塗膜の形成及び硬化塗膜についてはこれらの実施例によって限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例の粉体塗料については、体積平均粒子径及び粒度分布、水平流れ率、流動性を評価し、硬化塗膜については、膜厚と外観の評価を行った。
【0028】
<体積平均粒子径及び粒度分布>
体積平均粒子径及び粒度分布はレーザー回析式粒子径分布測定装置(SYMPATEC社製、商品名 HELOSandRODOS 解析ソフトWINDOX5)を用いて測定した値である。具体的には、粉体塗料1.0gを投入後、分散器の分散圧を2.0barの条件下で測定を行った。
【0029】
<水平流れ率>
水平流れ率は、粉体塗料1.0gを内径16mmφの錠剤整形用金型に入れ、90MPaの圧力を60秒間加圧して錠剤を成型し、この錠剤の直径(A)を測定する。次いでスライドグラス上に錠剤をのせ、140℃の熱風乾燥炉に10分間放置後取出し、錠剤の直径(B)を測定した。下記式(I)より水平流れ率を測定する。
【0030】
【数1】

【0031】
<塗装試験>
後述する実施例1〜5、比較例1〜4により得られた粉体塗料を各々3.0mm×3.0mm×30mmの角棒(以下、試験片ともいう)に塗装機(英布社製、MODEL−380)にて、電圧52kV,エアー圧0.4kgf/cm、塗装時間1.5秒の条件下で粉体塗装した。この際、塗装機に投入された粉体塗料は各1Kgである。次いでこの角棒を吊るした状態で乾燥炉に配置し、毎分1℃のスピードで150℃まで昇温後、続けて1時間加熱して硬化塗膜を得た。
【0032】
<外観及び膜厚差>
上述した塗装試験により得られた硬化塗膜の外観を以下の基準に基づくタレ性と光沢性により評価した。タレ性の項目で言及している膜厚差とは、上述した試験片の上端から5mmにおける硬化塗膜の膜厚(C)と試験片の下端から5mmにおける硬化塗膜の膜厚(D)をノギスで計測する。下記式(II)より膜厚差を算出したものである。
タレ性
○:試験片の膜厚差が5μm以下
△:試験片の膜厚差が5μmより大きく10μm以下
×:試験片の膜厚差が10μmより大きい
光沢性
○:光沢が目視により見られ、かつ、表面にざらつきのないもの
△:光沢が目視により見られるものの表面にざらつきのあるもの
×:光沢が目視では見られず表面にざらつきのあるもの
【0033】
【数2】

【0034】
<流動性>
流動性を塗装試験における塗装機内の粉体塗料の挙動から以下の基準に基づき評価した。
○:粉体塗料が流動しており、試験片に付着している
×:粉体塗料が流動しておらず、試験片に付着していない
【0035】
実施例1
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量630)40質量部、臭素化エポキシ樹脂(エポキシ当量660)60質量部、溶融シリカ(平均粒子径2.3μm)35質量部、結晶性シリカ(平均粒子径1.4μm)45質量部、硬化剤BTDA(JAYHAWK FINE CHEMICALS INK.社製、商品名 BTDA)12.5質量部、ひまし油系添加剤(RHEOX.INC社製、商品名 THIXCIN R)2質量部、シランカップリング剤(チッソ社製、商品名サイラエースS−510)1質量部、難燃助剤(鈴裕社製、商品名ファイアカットAT―3)10質量部を混合し、池貝製作所社製PCM−45押出機で溶融混合し、冷却、固化後、粗粉砕したものをホソカワミクロン社製ACM−10パルベライザで、ディスク回転数4000rpm、セパレータ回転数1800rpm、供給量50kg/hrの条件で粉砕した後、分級処理を行い、微少粒子と粗大粒子を除去した。得られた粉体塗料の平均粒子径は19μmであり、粒子径が5μm以下の粒子の含有率は4体積%であった。この物の物性を表1に示す。
【0036】
実施例2
平均粒子径を25μmに変更した以外は全て実施例1と同様にして粉体塗料を製造した。この物の物性を表1に示す。
【0037】
実施例3
溶融シリカの配合量を45質量部、結晶性シリカの配合量を35質量部に変更した以外は全て実施例1と同様にして粉体塗料を製造した。この物の物性を表1に示す。
【0038】
実施例4
溶融シリカの配合量を15質量部、結晶性シリカの配合量を65質量部に変更した以外は全て実施例1と同様にして粉体塗料を製造した。この物の物性を表1に示す。
【0039】
実施例5
溶融シリカの配合量を65質量部、結晶性シリカの配合量を15質量部に変更した以外は全て実施例1と同様にして粉体塗料を製造した。この物の物性を表1に示す。
【0040】
比較例1
実施例1において、結晶性シリカを添加せず、溶融シリカを80質量部配合した以外は全て実施例1と同様にして粉体塗料を製造した。この物の物性を表1に示す。
【0041】
比較例2
粉砕条件をディスク回転数3500rpm、セパレータ回転数2200rpmに変更した以外は全て実施例1と同様にして粉体塗料を製造した。この物の物性を表1に示す。
【0042】
比較例3
粉砕条件をディスク回転数4500rpm、セパレータ回転数1800rpmに変更した以外は全て実施例1と同様にして粉体塗料を製造した。この物の物性を表1に示す。
【0043】
比較例4
粉砕条件をディスク回転数4000rpm、セパレータ回転数1500rpmに変更した以外は全て実施例1と同様にして粉体塗料を製造した。この物の物性を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1から、平均粒子径が30μmを越える場合には、硬化塗膜が80μmと厚くなり薄膜化を図ることができないことがわかる。平均粒子径が10μmより小さい場合には、流動化しないため、被塗物に付着しないことがわかる。5μm以下の粒子が6体積%超含有している場合には粉体の流動性が悪くなることがわかる。水平流れ率が5%超であるとタレが生じていることがわかる。水平流れ率が1%未満であると光沢が低下することがわかる。
これらの結果から、平均粒子径を10〜30μmとし、5μm以下の粒子を3.0〜6.0体積%の所定量含んでいる場合に薄膜化と平滑性の向上を図りうることが可能であることが理解される。これにより、均一の膜厚が得られ安定した絶縁性を得ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の粉体塗料は、平均粒子径と小粒子径の粒子の含有量を所定の範囲内にすることにより、塗膜の薄膜化と平滑性を向上させることが可能となった。このため、情報家電等に搭載される各種精密機器部品の小型化に対応が可能となり、得られた硬化塗膜は絶縁性の向上に寄与し得るものである。尚、本発明に適用できる利用分野として、抵抗ネットワーク、集合集積回路、インダクタコイルマイクロモーター、各種コンデンサー、自動車用の電装部品等が挙げられる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、硬化剤及び充填剤を含有する粉体塗料において、該粉体塗料は、その平均粒子径が10〜30μmであり、5μm以下の粒子を3.0〜6.0体積%含むことを特徴とする粉体塗料。
【請求項2】
水平流れ率が1.0〜5.0%であることを特徴とする請求項1に記載の粉体塗料。
【請求項3】
電子部品の表面に絶縁層を形成する絶縁方法であって、該絶縁層は、請求項1または2に記載の粉体塗料を金属製被塗物に静電塗装した後に熱硬化することにより塗膜を形成することを特徴とする絶縁方法。
【請求項4】
電子部品の表面に絶縁層を形成した絶縁層付き金属製被塗物であって、該絶縁層は、請求項3に記載の方法により形成された塗膜であることを特徴とする絶縁層付き金属製被塗物。


【公開番号】特開2008−56865(P2008−56865A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−238369(P2006−238369)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000108454)ソマール株式会社 (81)
【Fターム(参考)】