説明

エマルション塗料組成物、その製造方法、及び塗装物品

【課題】 例えば透明プラスチック材料や金属材料の表面に優れた防曇膜が形成可能なエマルション塗料組成物、その製造方法、及びそのエマルション塗料組成物を使用して防曇塗膜を形成した塗装物品を提供する。
【解決方法】 本発明のエマルション塗料組成物は、架橋官能基を有するビニル系単量体と水溶性ビニル系単量体から形成される親水性重合体部分及び非水溶性ビニル系単量体から形成される疎水性重合体部分から構成されるブロック又はグラフト共重合体と、界面活性剤と、水と、水溶性有機溶剤と、酸性リン酸アルキルエステルとからなり、ブロック又はグラフト共重合体/界面活性剤/水/水溶性有機溶剤の質量比率(分率)が10〜25/0.01〜5/30〜85/41〜60の範囲であり、かつ酸性リン酸アルキルエステルの含有量がブロック又はグラフト共重合体100質量部に対して0.01〜30質量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルション塗料組成物、その製造方法、及び塗装物品に関する。詳しくは例えば透明プラスチック材料や金属材料の表面に優れた防曇塗膜を形成可能なエマルション塗料組成物、その製造方法、及びそのエマルション塗料組成物を使用して防曇塗膜を形成した塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成型品やガラスなどの表面には、その表面温度が露点温度以下になると、大気中の水分が細かい水滴となって結露し、曇りが生じるという問題があった。このような曇りを防ぐため、親水性の組成物を被覆することにより防曇性能を持たせる技術は従来から種々の提案がされてきた。
【0003】
例えば、良好な防曇塗膜物性を維持しつつ、安全性の高いエマルション化への要望に対応する観点から、親水性重合体部分と疎水性重合体部分とからなるブロック又はグラフト共重合体を乳化剤などによって水中に微粒子状に分散させたエマルション組成物が開示された(特許文献1参照)。
これは溶剤に水を用いるため法規制や溶剤による揮発が少なく、塗装作業環境がより安全に改善されているが、高温で加熱硬化させた場合には優れた防曇性、密着性、耐水性を有していても、低温で加熱硬化させた場合には硬化が不十分となり耐水性が著しく低下する。従って、加熱硬化温度より低い温度で熱変形するアクリル樹脂のような熱可塑性樹脂においては使用することが困難であった。
【0004】
また、親水性重合体部分と疎水性重合体部分とからなるブロック又はグラフト共重合体、界面活性剤、及び酸性リン酸アルキルエステルから有機溶剤系の加熱硬化型防曇剤組成物も知られている(特許文献2参照)。
この方法で得られる塗膜は、低温で加熱硬化させた場合にも防曇性及び密着性の両面で優れた物性を有しているが、有機溶剤を使用するため、取り扱い上の法規制や塗装作業環境の面で問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2002−20679公報(第7〜9頁)
【特許文献2】特開2003−105255号公報(第8〜9頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は従来技術に存在するこのような問題点に着目したものであって、その目的は、低温硬化しても良好な防曇性、密着性、耐水性が発現されると共に、有機溶剤から生じる塗装作業環境の問題を低減可能なエマルション塗料組成物、その製造方法、及びそれを使用して得られる塗装物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の発明は、架橋官能基を有するビニル系単量体と水溶性ビニル系単量体から形成される親水性重合体部分及び非水溶性ビニル系単量体から形成される疎水性重合体部分から構成されるブロック又はグラフト共重合体と、界面活性剤と、水と、水溶性有機溶剤と、酸性リン酸アルキルエステルとからなるエマルション塗料組成物であって、ブロック又はグラフト共重合体/界面活性剤/水/水溶性有機溶剤の質量比率(分率)が9.99〜25/0.01〜5/30〜49/41〜60の範囲であり、かつ酸性リン酸アルキルエステルの含有量がブロック又はグラフト共重合体100質量部に対して0.01〜30質量部であるエマルション塗料組成物である。
【0008】
本発明の第2の発明は、以下の各工程からなる第1の発明に記載のエマルション塗料組成物の製造方法である。
(A)架橋官能基を有するビニル系単量体と水溶性ビニル系単量体から形成される親水性重合体部分及び非水溶性ビニル系単量体から形成される疎水性重合体部分とから構成されるブロック又はグラフト共重合体と、界面活性剤と、水と、水溶性有機溶媒とを混合することによりエマルション組成物を得る第1工程
(B)エマルション組成物と酸性リン酸アルキルエステルとを混合することによりエマルション塗料組成物を得る第2工程
【0009】
本発明の第3の発明は、第1の発明のエマルション塗料組成物を被塗物に塗布・乾燥した後、加熱硬化させた防曇塗膜を有する塗装物品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の発明のエマルション塗料組成物は、低温硬化しても良好な防曇性、密着性、耐水性が発現できる。従って、アクリル樹脂のような加熱硬化温度より低い温度で熱変形する熱可塑性樹脂においても優れた塗膜性能を発揮する物品を得ることができる。
また、溶媒として水と水溶性有機溶剤との混合物を用いることにより法規制上の問題が軽減されると同時に、溶剤による揮発が少ないため、塗装作業環境を改善できる。
したがって、この本発明の第1の発明は、プラスチック材料や金属材料表面での親水性塗膜の形成に好適に使用され、さらに具体的には建築外装材や各種構造物への耐汚染性塗料、透明プラスチック製品への防曇剤、防滴剤、エアコン製品等の熱交換器に使用されるアルミフィン材への親水化剤等としてその効果を十分に発揮することができる。
【0011】
本発明の第2の発明のエマルション塗料組成物の製造方法によれば、前述の第1の発明の効果に加えて、ロットに関わらず塗膜の平滑性が優れている。
【0012】
本発明の第3の発明の塗装物品は、前述のエマルション塗料組成物を被塗物に塗布・乾燥した後、加熱硬化させた防曇塗膜を有するので、その防曇塗膜は防曇性、密着性、耐水性が優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第1の発明であるエマルション塗料組成物を構成する各成分について順次詳細に説明する。
まず、本発明に使用されるブロック又はグラフト共重合体について説明する。
このブロック又はグラフト共重合体は、架橋官能基を有するビニル系単量体と水溶性ビニル系単量体とから形成される親水性重合体部分と非水溶性ビニル系単量体から形成される疎水性重合体部分とから構成されている。
【0014】
最初にブロック又はグラフト共重合体中の親水性重合体部分について説明する。
この親水性重合体部分を形成する水溶性ビニル系単量体成分としては、例えば(メタ)アクリルアミド(以下、(メタ)という表記は化合物のビニル基にメチル基を有する場合と水素基を有する場合の二通りがあることを意味している。この場合は、メタクリルアミドとアクリルアミドを示す。)、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルピペリジン、N−(メタ)アクリロイルモルホリン、N−ビニル−2−ピロリドン、4−ビニルピリジン等の窒素原子含有ビニル系単量体;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等のカルボン酸基含有ビニル系単量体、及びこれらの塩(アンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩);スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2−アクリルアミドー2−メチルスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート等のスルホン酸基含有ビニル系単量体、及びこれらの塩(アンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩);メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート(ここでエチレンオキシドの重合度は1〜10が好適である)、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート(ここでプロピレンオキシドの重合度は1〜10が好適である)等のアルコキシアルキレングリコール基含有ビニル系単量体等が挙げられ、これらの1種以上が使用される。
【0015】
これら水溶性ビニル系単量体成分の例示の中では、塗膜の親水性を高めるという点から窒素原子含有ビニル系単量体、例えばN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルモルホリン、N−ビニル−2−ピロリドン等が好ましく使用される。
【0016】
親水性重合体部分は、窒素原子含有ビニル系単量体10〜100質量部を含む水溶性ビニル系単量体から形成されることが好ましい。親水性重合体部分が、窒素原子含有ビニル系単量体10質量部未満を含む水溶性ビニル系単量体から形成される場合は、得られる塗膜の親水性が低下する傾向にある。塗膜の親水性を更に高めるためには、親水性重合体部分が、窒素原子含有ビニル系単量体20〜100質量部を含む水溶性ビニル系単量体から形成されることが特に好ましい。
【0017】
また親水性重合体部分を形成するために使用される架橋官能基を有するビニル系単量体成分としては、例えばN−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチロール(メタ)アクリルアミド等のメチロール基又はアルコキシメチロール基含有ビニル系単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートにε−カプロラクトンを1モル付加させたヒドロキシル基含有ビニル系単量体(ダイセル化学工業(株)製、商品名:プラクセルFA−1、プラクセルFM−1など)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が使用される。そして熱硬化性が付与され、熱硬化された塗膜は親水性と耐水性を両立することができる。
【0018】
親水性重合体部分は、前記架橋官能基を有するビニル系単量体1〜30質量部を含む水溶性ビニル系単量体成分から形成されることが好ましい。親水性重合体部分が、架橋官能基を有するビニル系単量体1質量部未満から形成される場合は、得られる塗膜の架橋度が低くなるために塗膜の耐水性が低下し、30質量部を超える場合には塗膜の密着性が低下する傾向にある。さらに塗膜の親水性と耐水性、密着性を十分に両立させ得るためには、親水性重合体部分が、架橋官能基を有するビニル系単量体5〜20質量部を含む水溶性ビニル系単量体から形成されることが特に好ましい。
【0019】
さらに塗膜の硬度を高めることを目的に、親水性重合体部分を形成する前記水溶性ビニル系単量体成分中に炭素数1〜4の直鎖又は分岐状の低級アルキル基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(以下、低級アルコールの(メタ)アクリル系単量体と略記する。)を含有させてもよい。具体的には、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が好ましく使用される。
【0020】
この低級アルコールの(メタ)アクリル系単量体は、前記ブロック又はグラフト共重合体中の親水性重合体部分を形成する水溶性ビニル系単量体100質量部に対して、0〜50質量部の範囲で使用されることが好ましく、50質量部を超える場合は塗膜の親水性が低下する傾向にあるので好ましくない。
【0021】
続いてブロック又はグラフト共重合体中の疎水性重合体部分について説明する。
この疎水性重合体部分を構成する非水溶性ビニル系単量体成分としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐状のアルキル基を有するアルキルビニル系単量体;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;アクリロニトリル等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が使用される。
【0022】
これら非水溶性ビニル系単量体成分の例示の中では、低級アルコールの(メタ)アクリル系単量体、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート等が塗膜の硬度を高めると共に、プラスチック材料や金属材料に対する密着性が得られる点で好ましい。
【0023】
さらに塗膜に透明性を付与することを目的に、前記ブロック又はグラフト共重合体中の疎水性重合体部分を形成する前記非水溶性ビニル単量体成分中に、酸基を有するビニル系単量体を含有させてもよい。具体的には(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルスルホン酸等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が使用される。
【0024】
この酸基を有するビニル系単量体は、前記ブロック又はグラフト共重合体中の疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体100質量部に対して、0〜30質量部の範囲で使用されることが好ましく、30質量部を超える場合は塗膜と基材との密着性が低下する傾向にある。さらに塗膜の親水性と密着性及び透明性を十分に両立させ得るためには、酸基を有するビニル系単量体は、ブロック又はグラフト共重合体中の疎水性重合体部分100質量部中に1〜15質量部の範囲で使用されることが特に好ましい。
【0025】
本発明のエマルション塗料組成物を構成するブロック又はグラフト共重合体においては、前記の親水性重合体部分と前記の疎水性重合体部分との質量比率(分率)が50/50〜95/5であることが好ましい。親水性重合体部分が50質量%未満の場合は塗膜の親水性が低下し、親水性重合体部分が95質量%を超える場合は基材に対する密着性が低下する傾向にある。
【0026】
次に、本発明に使用される界面活性剤について説明する。
この界面活性剤としては、公知のもの全てが使用可能であり、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性イオン系界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤が使用される。
【0027】
非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンラウリルアルコール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレン高級アルコールエーテル類;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類;ポリオキシエチレングリコールモノステアレート等のポリオキシエチレンアシルエステル類;ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪族エステル類;アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル等のリン酸エステル類;セルロースエーテル類等が使用される。
【0028】
陰イオン性界面活性剤としては、例えばオレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム等の脂肪酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等の高級アルコール硫酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩及びアルキルナフタレンスルホン酸塩;ジアルキルスルホコハク酸塩、ジアルキルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンサルフェート塩等が使用される。
【0029】
陽イオン性界面活性剤としては、例えばエタノールアミン類、ラウリルアミンアセテート、トリエタノールアミンモノ蟻酸塩、ステアラミドエチルジエチルアミン酢酸塩等のアミン塩;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等が使用される。
【0030】
両性界面活性剤としては、例えばジメチルアルキルラウリルベタイン、ジメチルアルキルステアリルベタイン等の脂肪酸型両性界面活性剤;ジメチルアルキルスルホベタイン等のスルホン酸型両性界面活性剤;アルキルグリシン等が使用される。
【0031】
特にこれら界面活性剤の中で非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤がエマルション塗料の乳化安定性に優れると共に、得られる塗膜の親水性をさらに高めることできる点で特に好ましい。また界面活性剤は1種又は2種以上を組み合わせて使用する。
【0032】
この界面活性剤の配合量は、前記ブロック又はグラフト共重合体に対して0.1〜20質量部であることが好ましい。界面活性剤の配合量が、0.1質量部未満である場合はエマルション塗料製造時の乳化が不十分であったり、塗料中に共重合体成分が析出して固形物の沈降や分離が発生するといった安定性に関する問題を生じることがあり、配合量が20質量部を超える場合は塗膜の耐水性と塗膜硬度が低下する場合がある。エマルション塗料の製造のし易さと塗膜性能のバランスから、前記ブロック又はグラフト共重合体と界面活性剤の質量比率(外割)は100/0.5〜100/15であることが特に好ましい。
【0033】
次に、本発明に使用される水溶性有機溶剤について説明する。
この水溶性有機溶剤は、エマルション塗料組成物中に酸性リン酸アルキルエステルを混合後、速やかに均一分散させるために必須成分であり、かつ前記ブロック又はグラフト共重合体の合成工程においては重合溶媒としての機能を発揮可能な要件を満たすことが必要である。
【0034】
具体的に使用できる水溶性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、メチルカルビトール、エチルカルビトール、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のアルコールエーテル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル系溶剤;ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤等が使用され、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用する。
【0035】
水溶性有機溶剤に関し、ブロック又はグラフト共重合体は通常60〜120℃の温度範囲で合成されるために、合成温度以上の沸点を有する水溶性有機溶剤を重合溶媒に用いる必要があり、ロック又はグラフト共重合体は親水性重合体部分と疎水性重合体部分という性質の異なる重合体部分から形成されるため、これら両重合体部分に対して親和性のある水溶性有機溶剤を使用する必要がある。これらの2点の必要性より、前記水溶性有機溶剤の中でも特にアルコールエーテル系溶剤、エステル系溶剤が重合溶媒として好ましい。またこれら水溶性有機溶剤は、塗装作業性を改善する目的でエマルション塗料組成物中に後で追加してもよい。特にエマルション塗料を塗装した際にタレが発生しやすい場合には、常温で水よりも蒸発速度の速い水溶性有機溶剤をエマルション塗料に追加することが好ましい。また一方でエマルション塗料を塗装して加熱硬化する際にワキが発生しやすい場合には、沸点が130℃以上、さらに好ましくは150℃以上の沸点を有する水溶性有機溶剤、例えば、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、乳酸エチル等をエマルション塗料に追加することが好ましい。
【0036】
続いて本発明に使用される水について説明する。
この水については、上水道水をそのまま使用しても問題のない場合もあるが、水道水中に含まれる無機イオンや塩素イオン等によってエマルション塗料の乳化安定性が損なわれる場合もあるため、イオン交換水又は純水を使用するのが好ましい。
【0037】
これらの水と水溶性有機溶剤の比率は特に限定はされないが、なるべく水の含有量が多いことが塗装作業環境や安全衛生の面で好ましい。水溶性有機溶剤の含有量は、水と水溶性有機溶剤の総量に対して通常5〜70質量部、好ましくは30〜60質量部である。水溶性有機溶剤が70質量部を超えると安定したエマルションが得られず、水溶性有機溶剤が5質量部未満であるとエマルション塗料の塗装作業性面、特に被塗物に対する塗れ性や乾燥性、ワキの問題が発生しやすくなる。
【0038】
本発明のエマルション塗料組成物における前記各成分の割合、即ちブロック又はグラフト共重合体、界面活性剤、水、及び水溶性有機溶剤の組み合わせ組成は、質量比率(分率)で、前記ブロック又はグラフト共重合体/界面活性剤/水/水溶性有機溶剤=9.99〜25/0.01〜5/30〜49/41〜60の範囲である。
ここでエマルション塗料中に占める前記ブロック又はグラフト共重合体の含有量は、エマルション塗料の粘度に影響し易く、25質量部を超えるとエマルション塗料の粘度が高くなり、塗膜のレベリング性が低下し、9.99質量%未満では成膜性が劣り塗装作業面での問題が発生する場合がある。
また界面活性剤が0.01質量%質量部未満の場合はエマルション塗料製造時の乳化が不十分となり、エマルション塗料の安定性が低下する場合があり、5質量%を超えると塗膜の耐水性と塗膜硬度が低下する場合がある。
さらに水が30質量%未満ないし水溶性有機溶剤が60質量%を超える場合は安定したエマルションが得られない場合があり、また水が49質量%を超える場合ないし水溶性有機溶剤が41質量%未満の場合はエマルション塗料の塗装作業性に問題が生じる場合がある。
【0039】
さらに、本発明に使用される酸性リン酸アルキルエステルについて説明する。
この酸性リン酸アルキルエステルは、硬化触媒であって、ブロック又はグラフト共重合体中の架橋官能基の反応性を高めて、低温での硬化に対して有効に作用し、耐水性を高めることができる。
酸性リン酸アルキルエステルの具体例としては、硬化触媒としての酸活性度が高いリン酸モノアルキルエステルやリン酸ジアルキルエステルが挙げられる。またリン酸トリアルキルエステルは、本発明の酸性リン酸アルキルエステルと併用して使用することは可能であるが、硬化触媒としての酸活性度がほとんどないため、これを単独で使用しても塗膜の硬化が不十分となり、塗膜の耐水性が著しく低いものとなるため好ましくないが、リン酸ジアルキルエステルと併用して使用する事は可能である。
【0040】
具体的に使用できるリン酸モノアルキルエステルとしては、例えばリン酸モノメチルエステル、リン酸モノエチルエステル、リン酸モノn−ブチルエステル、リン酸モノイソブチルエステル、リン酸モノ2−エチルヘキシルエステル、リン酸モノラウリルエステル、リン酸モノステアリルエステル等が挙げられる。
【0041】
また具体的に使用できるリン酸ジアルキルエステルとしては、例えばリン酸ジメチルエステル、リン酸ジエチルエステル、リン酸ジn−ブチルエステル、リン酸ジイソブチルエステル、リン酸ジ2−エチルヘキシルエステル、リン酸ジラウリルエステル、リン酸ジステアリルエステル等が挙げられる。
【0042】
これらのリン酸モノアルキルエステル及びリン酸ジアルキルエステルの中から、目的に応じて適宜1種又は2種以上が選択して使用される。リン酸モノアルキルエステル及びリン酸ジアルキルエステルのアルキル基は、炭素数1〜8のものが好ましい。この炭素数が8を超えると、それ自体蝋状固体であるため、塗料配合時の取り扱いが悪化したり、ブロック又はグラフト共重合体との相溶性が低下したりする場合がある。
【0043】
リン酸モノアルキルエステルとリン酸ジアルキルエステルは、一般には混合物として使用され、両者の作用効果を兼ね備えることができる。尚、リン酸モノオレイルエステル、リン酸ジオレイルエステル等のリン酸モノアルケニルエステル又はリン酸ジアルケニルエステルは、二重結合を有していることから、塗膜の耐光性が低下し紫外線等によって劣化が起き易くなり好ましくない。
【0044】
この酸性リン酸アルキルエステルの配合量は、塗膜性能のバランスを考慮すると、前記ブロック又はグラフト共重合体100質量部に対して、0.01〜30質量部で使用されることが好ましく、より好ましくは0.1〜10質量部である。この酸性リン酸アルキルエステルの配合量が0.01質量部未満である場合には防曇塗料組成物の硬化性が不十分となり、耐水性が低下し、また30質量部を超える場合は、塗膜平滑性が低下する場合がある。
【0045】
尚、予め酸性リン酸アルキルエステルを添加しておいた場合には、経時的に塗料を増粘させる場合があるため、酸性リン酸アルキルエステルは塗装する直前に添加することが塗料のポットライフの点で好ましい。
【0046】
また、酸性リン酸アルキルエステルと水溶性有機溶媒を組合せることにより、エマルション粒子内に均一に硬化剤が取り込まれるため、塗膜外観、低温硬化性を向上させる事が出来る。
【0047】
本発明のエマルション塗料組成物は、更に塗膜強度を高めるために、従来公知の硬化剤を併用することもできる。例えばヘキサメトキシメチロールメラミン、ヘキサブトキシメチロールメラミン、一部メトキシ又はブトキシ化されたメチロールメラミン縮合物であるメラミン硬化剤;ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の縮合物であるイソシアネート硬化剤、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸ナトリウム、ジノニルナフタレンスルホン酸ナトリウム等が好ましい。
【0048】
これらの硬化剤は、本発明のエマルション塗料組成物に使用されるブロック又はグラフト共重合体に対し、30重量%以下で使用されることが好ましく、30重量%を超えると得られる塗膜の防曇性が低下するので好ましくない。
【0049】
本発明のエマルション塗料組成物は、必要に応じて、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防カビ剤、抗菌剤等の慣用の添加剤顔料、染料を配合してもよい。これら添加剤等は水溶性であるか又は水に安定に乳化、分散するものが好ましい。
【0050】
本発明のエマルション塗料組成物による防曇塗膜の形成は、第3の発明である塗装物品を製造することに他ならず、通常の塗装方法により被塗物に塗布した後、30〜60℃の温度で1〜10分間塗料中に含まれる溶媒を揮発乾燥させ、60〜150℃の温度、好ましくは70〜90℃で20〜60分間加熱硬化することによって行われる。但しこの場合、被塗物がプラスチック材料である場合にはプラスチック材料の熱変形温度以下での硬化温度の設定が必要である。
【0051】
エマルション塗料組成物を塗布される素材としての被塗物は、ガラス素材、プラスチック素材、アルミニウム、ステンレス、鉄、及びこれらのクロメート処理、亜鉛処理された金属素材などが挙げられる。プラスチック素材に関しては、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリプロピレンなどの合成樹脂フィルムや合成樹脂板が用いられる。
【0052】
また、エマルション塗料組成物を塗布される成型品としての被塗物は、プラスチック成型品、無機ガラスレンズ、建造物の窓、浴室の窓、鏡、自動車又は列車、航空機、船舶などの乗り物の窓、スキーなどのゴーグル、自動車レンズ、面体、オートバイヘルメットなどに用いるシールド等が挙げられる。
【0053】
この被塗物に関し、エマルション塗料組成物の塗れ性やハジキを防止する目的で、塗装前の被塗物表面の脱脂や洗浄を行うことが好ましく、具体的には洗剤水溶液又はアルコール溶剤による超音波洗浄方法;アルコール溶剤等を使用したワイピング法;紫外線とオゾンによる被塗物表面の洗浄方法等にて処理することが好ましい。
また塗装方法を特に限定するものではないが、浸漬法、フローコート法、ロールコーター法、バーコーター法、スプレーコート法等が適しており、形成される塗膜の膜厚は0.5〜20μmの範囲が好ましく、さらに良好な塗膜外観を得るためには1〜10μmの範囲が特に好ましい。
【0054】
次に、本発明の第2の発明であるエマルション塗料の製造方法について説明する。
まず水溶性有機溶剤中でブロック共重合体を得るための溶液重合について説明する。ブロック共重合体の重合方法は、ラジカル重合、カチオン重合、アニオンリビング重合、カチオンリビング重合等の公知の各種重合方法によって行うことができるが、この中でも公知のポリメリックペルオキシドを用いるラジカル重合法を採用することが好ましい。さらにその中でも以下の式(1)、(2)、(3)で示されるポリメリックペルオキシドの1種以上を重合開始剤に用いたラジカル重合法を採用することが、工業的に大量かつ効率的に行える点で特に好ましい。
【0055】
〔CO(CH2)4COO(C24O)3CO(CH2)4COOO〕k ・・・(1)
〔CO(CH2)7COOO〕m ・・・(2)
〔CO(CH2)6CH(CH2CH3)(CH2)9COOO〕n ・・・(3)
(上述の式(1)、式(2)及び式(3)中において、k、m、nはいずれも2〜20の整数である。)
【0056】
具体的にブロック共重合体を得るための溶液重合は、撹拌装置、温度計を備えた反応器に水溶性有機溶剤を仕込み、60〜80℃の温度に加熱する。
その後、前記ポリメリックペルオキシドと、親水性重合体部分を形成する水溶性ビニル系単量体もしくは疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体のいずれか一方とを30分から3時間を要して添加し、さらに30分から3時間の重合反応を行いブロック共重合体前駆体を合成する。
更にその後、温度を5〜20℃上昇させ、もう一方の重合体部分を形成する水溶性ビニル系単量体もしくは非水溶性ビニル系単量体を30分から3時間を要して添加し、さらに30分から5時間の重合反応を行ってブロック共重合体を得る。
【0057】
続いてグラフト共重合体を得るための溶液重合について説明する。グラフト共重合体の重合方法は公知の過酸化結合を有するビニル系単量体を用いるラジカル重合法を採用することが好ましく、特に以下の式(4)又は(5)で示される過酸化結合を有するビニル系単量体を用いたラジカル重合法を採用することが工業的に大量かつ効率的に行える点で特に好ましい。
【0058】
【化1】

【0059】
【化2】

【0060】
具体的にグラフト共重合体を得るための溶液重合は、撹拌装置、温度計を備えた反応器に水溶性有機溶剤を仕込み、70〜90℃の温度に加熱する。
その後、前記過酸化結合を有するビニル系単量体と、ラジカル重合開始剤と、親水性重合体部分を形成する水溶性ビニル系単量体もしくは疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体のいずれか一方とを30分から3時間を要して添加し、さらに30分から3時間の重合反応を行いグラフト共重合体前駆体を合成する。この際の重合反応はラジカル重合開始剤のみの分解に基づくものであり、過酸化結合を有するビニル系単量体中の過酸化結合の分解が起こらない温度条件設定が必要である。ここで使用されるラジカル重合開始剤としては、例えばt−ブチルペルオキシオクタネート、t−ヘキシルペルオキシオクタネート、t−ブチルペルオキシピバレート等が好ましく使用される。
【0061】
更にその後、温度を10〜30℃上昇させて過酸化結合を有するビニル系単量体の過酸化結合が分解する条件下、もう一方の重合体部分を形成する水溶性ビニル系単量体もしくは非水溶性ビニル系単量体を30分から3時間を要して添加し、さらに30分から5時間の重合反応を行ってグラフト共重合体が得られる。
【0062】
本発明の第2の発明では、(A)第1工程として、前記のように得られたブロック又はグラフト共重合体と、界面活性剤と、水と、水溶性有機溶媒とを混合することによりエマルション組成物を得る。
まず、前記ブロック又はグラフト共重合体の乳化方法について説明する。乳化にあたっては界面活性剤を水に完全に溶解させ、この界面活性剤水溶液を撹拌しながら前記ブロック又はグラフト共重合体を含む溶液を徐々に添加する。使用する界面活性剤水溶液中の界面活性剤濃度は特に限定はされないが、水100質量部に対して0.05〜25質量部の範囲で安定なエマルション溶液が得られ、特に0.1〜10質量部の範囲が界面活性剤の水への溶解性と共重合体の乳化性、安定性の面で最も好ましい。
【0063】
ここで、前記ブロック又はグラフト共重合体は、親水性重合体と疎水性重合体という性質の異なる重合体同士で結合されているために、それ自身は水溶性ではないものの自己界面活性能を有しており、ごく少量の界面活性剤の存在下で容易に水媒体中で安定な乳化状態を取り得る。そのため撹拌は水溶液全体が均一に混合し得る程度の穏やかな撹拌力で十分に乳化を行うことができ、特に強力な撹拌は乳化時に泡立ちの発生が多くなるため好ましくない。また、乳化時の温度は室温でも構わないが、使用する界面活性剤の水への溶解性が十分でない場合は30〜60℃程度の範囲で加温することが好ましい。そして、乳化に際し、前記ブロック又はグラフト共重合体溶液は5〜60分間を要して添加するのが好ましく、一度に全量を添加すると安定な乳化状態が得られず、共重合体成分が析出する場合があるので好ましくない。前記ブロック又はグラフト共重合体溶液の添加終了後、さらに5〜30分間撹拌を行ってエマルション組成物が得られる。
【0064】
続いて(B)第2工程として、前記第1工程にて得られたエマルション組成物と、前記酸性リン酸アルキルエステルとを混合することにより、目的とするエマルション塗料組成物が得られる。
【実施例】
【0065】
以下、参考例、実施例、比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
〔参考例1〕
温度計、撹拌装置を備えた反応器に水溶性有機溶剤であるプロピレングリコールモノエチルエーテル550gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら70℃に加熱し、ここに下記式(6)で表される重合開始剤であるポリメリックペルオキシド5g、親水性重合体部分を形成する水溶性ビニル系単量体として、N,N−ジメチルアクリルアミド135g、架橋官能基を有するビニル系単量体として、N−メチロールアクリルアミド15gを溶解した混合液を2時間かけて滴下し、さらに2時間重合反応を行ってブロック共重合体前駆体を合成した。
その後、疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体であるメチルメタクリレート140gとブチルメタクリレート10gの混合液を1時間かけて滴下し、80℃で3時間重合反応を行い、ブロック共重合体を得た。
得られたブロック共重合体溶液は、仕込みモノマーの重合転化率100%、固形分35.5%であり、ブロック共重合体は親水性重合体部分と疎水性重合体部分との重量比が50/50、親水性重合体部分に含まれる窒素原子含有ビニル系単量体の重量割合が100%、親水性重合体部分に含まれる架橋官能基を有するビニル系単量体の重量割合は10.0%であった。
〔CO(CH2)4COO(C24O)3CO(CH2)4COOO〕10 ・・・(6)
【0066】
〔参考例2〕
温度計、撹拌装置を備えた反応器に水溶性有機溶剤であるプロピレンレングリコールモノメチルエーテル500gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら85℃に加熱し、ここに重合開始剤であるt−ブチルペルオキシオクタノエート1gと下記式(7)で示される過酸化結合を有するビニル系単量体4g、親水性重合体部分を形成する水溶性ビニル系単量体としてN−アクロイルモルホリン63g、メトキシジエチレングリコールメタクリレート25g、架橋官能基を有するビニル系単量体として2−ヒドロキシエチルメタクリレート33g、N−メチロールアクリルアミド10g、及びメチルメタクリレート16gを溶解した混合液を2時間かけて滴下し、さらに2時間重合反応を行ってグラフト共重合体前駆体を合成した。
【化3】

その後、疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体であるメチルメタクリレート57gとアクリル酸6gの混合液を1時間かけて滴下し、110℃で5時間重合反応を行い、グラフト共重合体を得た。
得られたグラフト共重合体溶液は、仕込みモノマーの重合転化率100%、固形分30.0%であり、グラフト共重合体の親水性重合体部分と疎水性重合体部分との重量比が70/30、親水性重合体部分に含まれる窒素原子含有ビニル系単量体の重量割合が46.3%、親水性重合体部分に含まれる架橋官能基を有するビニル系単量体の重量割合は29.3%であった。
【0067】
〔参考例3〕
温度計、撹拌装置を備えた反応器に有機溶剤としてのプロピレングリコールモノエチルエーテル550gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら70℃に加熱した。ここに前記式(6)で表される重合開始剤としてのポリメリックペルオキシド5g、親水性重合体部分を形成する水溶性ビニル系単量体としてのメトキシジエチレングリコールメタクリレート90g、架橋官能基を有するビニル系単量体としてのN−メチロールアクリルアミド10g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート20g、及びメチルメタクリレート30gを溶解した混合液を2時間を要して滴下した。そして、更に2時間重合反応を行ってブロック共重合体前駆体を合成した。
その後、疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体としてのメチルメタクリレート140gとアクリル酸10gの混合液を1時間を要して滴下し、80℃で3時間重合反応を行い、ブロック共重合体を得た。
得られたブロック共重合体は、仕込み単量体の重合転化率100%、固形分35.7%、親水性重合体部分と疎水性重合体部分との重量比50/50、親水性重合体部分に含まれる窒素原子含有ビニル系単量体の重量割合6.7%、親水性重合体部分に含まれる架橋官能基を有するビニル系単量体の重量割合20%であった。
【0068】
〔実施例1〕
第1工程として、フラスコ中にイオン交換水200g、界面活性剤であるジオクチルスルホコハク酸ナトリウム13gを仕込み、撹拌しながら40℃に加温して界面活性剤を十分に溶解させた。
これに参考例1で得られたブロック共重合体溶液250gを20分かけて穏やかな撹拌下で徐々に添加し、添加終了後さらに10分間撹拌を行い、水溶性有機溶媒であるプロピレングリコールモノメチルエーテルを50g添加し、エマルション組成物を得た。
第2工程として、前記第1工程で得られたエマルション組成物と酸性リン酸アルキルエステルであるリン酸ジiso−ブチルエステル0.5gとを混合してエマルション塗料組成物を得た。
得られたエマルション塗料組成物中の固形分による質量比率(ブロック共重合体/界面活性剤/酸性リン酸アルキルエステル)は、17.3/2.5/41.2であった。
【0069】
〔実施例2〜4及び比較例1〜6〕
エマルション塗料組成物を前記実施例1と同様の方法で製造し、それぞれのエマルション塗料組成物の原料の種類や仕込量、製造結果を表1、表2に示した。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
尚、表1及び表2における記号は次のことを意味している。
〈界面活性剤〉
「a」・・・ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(日本油脂(株)製、商品名:ラピゾールA−80)
「b」・・・ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(日本油脂(株)製、商品名:ニッサンノニオンHS−210)
〈水溶性有機溶媒〉
「PGE」・・・プロピレングリコールモノエチルエーテル
「PGM」・・・プロピレングリコールモノメチルエーテル
「MLC」・・・乳酸メチル
〈酸性リン酸アルキルエステル〉
「I」 ・・・リン酸ジiso−ブチルエステル
「II」 ・・・リン酸モノ2−エチルヘキシルエステル
「III」・・・リン酸ジメチルエステル
【0073】
前記実施例1〜4及び比較例1〜5のエマルション塗料組成物を用いて塗装物品を作製した後述する実施例5〜9及び比較例6〜10の塗膜性能試験条件と評価方法を以下に記載する。
〈外観〉
塗膜の外観状態を目視で評価し、異常のないものを○、ワキ、ブツ等の外観不良が発生するものは×とした。
〈密着性〉
JIS K5600−5−6に規定されるクロスカット法に準じて、塗膜に2mm×2mmのマス目を25個作成し、その表面にセロテープ(登録商標)を密着させて瞬時にセロテープ(登録商標)を剥離して塗膜の密着度合いを目視で観察した。
全く塗膜剥離が認められないものを○、少しでも塗膜の剥離が認められたものを×とした。
〈防曇性〉
呼気試験:常温で呼気を吹きかけ曇り状態を目視で観察した。
全く曇らないものを○、曇りが認められるものを×とした。
40℃スチーム試験:40℃スチームを塗膜に連続的に照射し、照射1分後の曇り状態を目視で観察した。
曇りが認められず平滑な水膜が形成されているものを○、曇りが認められるものを×とした。
80℃スチーム試験:80℃スチームを塗膜に連続的に照射し、照射1分後の曇り状態を目視で観察した。
曇りが認められず平滑な水膜が形成されているものを○、曇りが認められるものを×とした。
〈耐水性〉
60℃の温水に塗装板を24時間浸漬し、室温にて1時間乾燥した後の外観を目視で評価した。
初期塗膜の状態と全く同じで変化が認められないものを◎、白化が認められるモノを○、塗膜の溶解が認められるものを×とした。
【0074】
〔実施例5〜9及び比較例6〜10〕
前記実施例1〜4及び比較例1〜5で得られたエマルション塗料組成物を乾燥膜厚で2〜8μmとなるようにスプレー塗装により各種基材に塗装を行い、50℃の温度で10分間乾燥を行って塗装物品を作製した後、それぞれの硬化条件で加熱硬化を行った。
このようにして得られたそれぞれの塗装物品の防曇塗膜について、塗膜性能の評価結果を表3及び表4に示した。
【0075】
【表3】

【0076】
【表4】

【0077】
尚、表3及び表4における記号は次のことを意味している。
〈基板〉
「PC」・・・透明ポリカーボネート樹脂板、
「AC」・・・透明アクリル樹脂板、
「Al」・・・クロメート処理されたアルミニウム板
【0078】
前述した実施例、比較例をまとめると以下の通りとなる。
表3に示したように、本発明の実施例5〜9は、ブロック又はグラフト共重合体、界面活性剤、水、水溶性有機溶媒、及び酸性リン酸アルキルエステルを所定範囲内で添加することにより高温で硬化させた塗膜のみならず、低温で硬化させた塗膜についても優れた外観性、防曇性、密着性、耐水性を有する防曇塗膜が得られた。
【0079】
これに対して、表4に示すように、界面活性剤を多量及び少量添加した比較例1及び比較例2のエマルション塗料組成物を用いて塗装した比較例6及び比較例7は、界面活性剤が塗膜表面に析出し外観不良が生じたり、防曇性が著しく低下した。また、水溶性有機溶媒を多量に添加した比較例3のエマルション塗料組成物を用いて塗装した比較例8は、塗膜表面に不溶物が析出し外観不良が生じた。また、酸性リン酸アルキルエステルを多量及び少量添加した比較例4及び比較例5のエマルション塗料組成物を用いて塗装した比較例9及び比較例10は、外観不良が生じたり、耐水性試験を行った際、硬化不良のために防曇塗膜が溶解してしまった。
【0080】
以上の結果より、本発明のエマルション塗料組成物の実施例は、低温での加熱硬化においても優れた塗膜外観、防曇性、密着性、及び耐水性の得られる防曇塗膜を形成することが確認された。さらには塗装作業環境の問題を低減させ得る安全性の高いエマルション塗料組成物を提供することができることも確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋官能基を有するビニル系単量体と水溶性ビニル系単量体から形成される親水性重合体部分及び非水溶性ビニル系単量体から形成される疎水性重合体部分から構成されるブロック又はグラフト共重合体と、界面活性剤と、水と、水溶性有機溶剤と、酸性リン酸アルキルエステルとからなるエマルション塗料組成物であって、ブロック又はグラフト共重合体/界面活性剤/水/水溶性有機溶剤の質量比率(分率)が9.99〜25/0.01〜5/30〜49/41〜60の範囲であり、かつ酸性リン酸アルキルエステルの含有量がブロック又はグラフト共重合体100質量部に対して0.01〜30質量部であるエマルション塗料組成物。
【請求項2】
以下の各工程からなる請求項1に記載のエマルション塗料組成物の製造方法。
(A)架橋官能基を有するビニル系単量体と水溶性ビニル系単量体から形成される親水性重合体部分及び非水溶性ビニル系単量体から形成される疎水性重合体部分とから構成されるブロック又はグラフト共重合体と、界面活性剤と、水と、水溶性有機溶媒とを混合することによりエマルション組成物を得る第1工程
(B)エマルション組成物と酸性リン酸アルキルエステルとを混合することによりエマルション塗料組成物を得る第2工程
【請求項3】
請求項1に記載のエマルション塗料組成物を被塗物に塗布・乾燥した後、加熱硬化させた防曇塗膜を有する塗装物品。

【公開番号】特開2007−51254(P2007−51254A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239052(P2005−239052)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【Fターム(参考)】