説明

エマルション系廃水の処理方法

【課題】高価な廃水処理剤(エマルションブレーカ)の使用量を削減できるとともに、清澄化処理後の排水の清澄度も向上させることができるO/W型エマルション系の廃水処理方法を提供すること。
【解決手段】O/W型のエマルション廃水に無機凝集剤からなる又は無機凝集剤を主体として高分子凝集剤を含有する廃水処理剤を添加混合してマクロフロックを生成させて、該マクロフロックを除去分離する油水分離処理、及び、マクロフロック除去後の分離生成水の清澄化処理を経て、エマルション系廃水を処理する方法。廃水処理剤の添加混合に際して、廃水処理剤(無機凝集剤及び高分子凝集剤)100質量部に対してベントナイト50〜250質量部を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中古切削水(水性金属加工油)等のO/W型のエマルション系廃水を処理する方法に関する。
【0002】
ここでは、O/W型のエマルション系廃水として、中古切削水を例に採り説明するが、本発明の廃水処理方法は、他のO/W型のエマルション系廃水にも適用可能である。
【0003】
他のO/W型のエマルション系廃水としては、例えば、探傷剤廃水、ダイカスト離型剤廃水、水性塗料廃水等を挙げることができる。
【背景技術】
【0004】
昨今、金属加工切削時の冷却液として切削水(水溶性切削油:油成分は鉱物系油)が、環境負荷が低いため、従来の油性切削油に代わり主流になりつつある。
【0005】
このため、自動車産業等における金属加工切削時に中古切削水が大量に発生するようになってきた。
【0006】
そして、O/W型のエマルション系廃水である中古切削水は、そのまま河川等に排水(廃棄)することはできず、各自治体の排水基準に適合する清澄度になるまで浄化処理して排水する必要がある。
【0007】
通常、下記のような油水分離処理(1)及び清澄化処理(2)からなる廃水処理を中古切削水に対して行って河川等に排水していた。
【0008】
(1)油水分離処理:
中古切削水(O/W型エマルション)に、無機凝集剤を主体とし高分子凝集剤を含む複合型の廃水処理剤(エマルションブレーカ)を添加する。
【0009】
すると、無機凝集剤(通常、多価金属塩)が油粒子の電荷(マイナスイオン)を中和してマイクロフロック(凝結体:coagulated mass)の生成が進行する。さらに、該マイクロフロックは、高分子凝集剤によって高分子の持つ架橋作用によりマクロフロック(凝塊:agglomeration)の生成が進行する(図1(A)参照)。
【0010】
マクロフロックを生成後の処理液を、ロ過等の固液分離操作により、油成分であるフロックを水成分から分離除去して油水分離を行なう。
【0011】
(2)清澄化処理:
油水分離後の分離水(ロ過水)を、活性炭、イオン交換樹脂等を用いて浄化処理をする。
【0012】
しかし、昨今、環境負荷低減の見地から、排水基準が厳格になりつつある。
【0013】
他方、廃水処理剤は、相対的に高価であり、大量の中古切削水の廃水処理に際して、その使用量の削減が希求されていた。
【0014】
なお、本発明の特許性に影響を与えるものではないが、関連先行技術文献として、特許文献1・2等がある。
【0015】
特許文献1に記載の水溶性廃油汚水処理方法は、「水溶性切削汚水を受入槽に注入し、水で希釈して貯水した後、連続エアレーションにより曝気し、攪拌させて水質を均一に保ち、これによって嫌気性微生物を抑制して好気性微生物の増殖を促進し、含有成分の反応を促して、微細な凝集フロッグを形成する汚水処理工程を設けることを特徴とする連続エアレーション方式による」ものである(請求項1)。
【0016】
特許文献2に記載の廃水処理方法は、「エマルジョンの油分を含む廃水処理方法において、前記廃水を減圧下で蒸留する減圧蒸留処理することによって、蒸留凝縮水と濃縮液とに分離し、前記濃縮液を酸処理することによって、前記エマルジョンを分解し、該エマルジョンを分解した濃縮液を遠心分離することによって前記油分を分離することを特徴とする」ものである(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2000−301196号公報(特許請求の範囲等参照)
【特許文献2】特開2005−46657号公報(特許請求の範囲等参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、O/W型のエマルション系廃水を処理する方法において、高価な廃水処理剤(エマルションブレーカ)の使用量を削減できるとともに、清澄化処理後の排水の清澄度も向上させることができるO/W型のエマルション系廃水の処理方法を提供することを目的(課題)とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記課題を、下記構成により解決するものである。
【0020】
O/W型のエマルション廃水に無機凝集剤からなる又は無機凝集剤を主体として高分子凝集剤を含有する廃水処理剤を添加混合してマクロフロックを生成させて、該マクロフロックを除去分離する油水分離処理、及び、マクロフロック除去後の分離生成水の清澄化処理を経て、エマルション系廃水を処理する方法において、
前記廃水処理剤の添加混合に際して、前記廃水処理剤(無機凝集剤及び高分子凝集剤)100質量部に対してベントナイト50〜250質量部を添加することを特徴とする。
【0021】
ベントナイトを大量に添加することにより、従来に比して、廃水処理剤(エマルションブレーカ)の使用量を削減できるとともに、油水分離後の分離水(ロ過水)の清澄度が向上し、さらには、マクロフロックの分離が容易となる。
【0022】
その理由は、下記の如くであると推定される(図1(B)参照)。
【0023】
ベントナイトを使用しない場合は、マクロフロックが破壊されて、油水分離における分離性が不十分となる。すなわち、ベントナイトがマクロフロックを凝集する際の核となって、相対的に大径のマクロフロックを形成しやすくなり、沈降速度が顕著に増大して、廃水処理の生産性が向上する。
【0024】
また、マクロフロックの破壊強度が増大して、一度凝集したフロックが再度破壊(部分分解)され難い。したがって、ベントナイトの清澄作用も相乗して、油水分離後の分離生成水の清澄度が向上する。そして、同様の清澄度を得るのに、排水処理剤(エマルションブレーカ)の使用量を減量できる。なお、現状市場価格は、エマルションブレーカの平均価格は、ベントナイトのそれの約20倍である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(A)は従来における、(B)は本発明におけるマクロフロックの生成機構をそれぞれ示す説明図である。
【図2】(A)、(B)は、それぞれ、試験例1・2おける廃水処理剤の添加量と濃度(清澄度)の関係を示すグラフ図である。
【図3】(A)、(B)は、それぞれ、試験例1・2における、生成フロックの状態を示すモデル斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の説明で、配合単位は、特に断らない限り質量単位である。
【0027】
本発明のエマルション系廃水を処理する方法は、O/W型のエマルション系廃水に無機凝集剤からなる又は無機凝集剤を主体として高分子凝集剤を含有する廃水処理剤(エマルションブレーカ)を添加混合してマクロフロックを生成させて、該マクロフロックを除去分離する油水分離処理、及び、マクロフロック除去後の分離水の清澄化処理を経ることを前提とする。
【0028】
ここで、O/W型のエマルション系廃水としては、切削水(水溶性切削油)が代表的である。上記、無機凝集剤および高分子凝集剤としては、例えば、下記の例示のものを使用できる(化学工学協会編「化学工学便覧 改定四版」(昭53−10−25)丸善、p1092、表14・10参照)。
【0029】
・無機凝集剤・・・ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)等のアルミニウム塩;硫酸第一鉄・第二鉄、塩化第二鉄等の鉄塩を挙げることができる。通常、中性域で排水可能なように、適用pHが6〜8であるアルミニウム塩(主成分酸化アルミニウム)を使用することが望ましい。
【0030】
・高分子凝集剤・・・アルギン酸ナトリウム、CMCナトリウム塩、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アミド部分加水分解塩等のアニオン性ポリマー;水溶性アニリン樹脂塩酸塩、ポリチオ尿素塩酸塩、ポリエチレンイミン、第四級アンモニウム塩、ポリビニルピリジン塩酸塩、ビニルピリジン共重合物塩等のカチオン性ポリマー;ポリアクリルアミド、ポリオキシエチレン、カセイ化デンプン等のノニオン性ポリマーを挙げることができる。これらの内で、pH適用範囲が広いノニオン性ポリマーであるポリアクリルアミドが汎用性に富み望ましい。
【0031】
上記廃水処理剤は、無機凝集剤のみで形成してもよいが、高分子凝集剤を併用することが、マクロフロックを形成しやすく、マクロフロックの破壊強度を増大でき望ましい。無機凝集剤10部に対する高分子凝集剤の配合比率は、無機凝集剤・高分子凝集剤の種類、廃水のSSレベルにより異なるが、通常、0.001〜1部とする。
【0032】
ここで、廃水処理剤の添加混合に際して、廃水処理剤(無機凝集剤及び高分子凝集剤の合計量)100部に対してベントナイト50〜300部(望ましくは80〜220部)を添加する。
【0033】
ベントナイトの添加量が過少であると、ベントナイトの添加効果を得難く、ベントナイトの添加量が過多であっても、それ以上の効果を望めず無駄である。
【0034】
そして、廃水処理剤の添加量は、被処理水である廃水の種類により異なるが、被処理水(通常の水性切削油濃度(5%)の切削水を2倍希釈したもの)の場合、発生被処理水1L(希釈前)に対して15〜20g(望ましくは15〜18g)とする。後述の試験例の如く、廃水処理剤(凝集剤)濃度が、15g未満では、ベントナイト添加によるフロック生成速度およびフロック凝集強度を得難く、また、処理後の被処理水pHを中性域とし難い。通常、廃水処理剤の主成分である無機凝集剤は弱酸性化合物であるためである。したがって、廃水処理剤が過多になると、被処理水pHが酸性域となり望ましくない。
【0035】
そして、発生処理水は、1.5〜2.5倍に希釈することが望ましい。凝集剤の凝集作用が阻害され難くなるためである。
【0036】
マクロフロックの除去分離は、沈降分離乃至遠心分離でもよいが、フィルタープレス等のロ過により行なうことが、生産性が良好であり望ましい。
【0037】
前記分離水の清澄化処理は、イオン交換樹脂等を用いて行なってもよいが、活性炭を用いて行うことがコスト的に有利である。
【実施例】
【0038】
未使用切削水は、新日石社製水溶性切削油「ユニソルブ」(登録商標)を、5%濃度に希釈して調製した。さらにまた、廃水処理剤「エマルションブレーカA」(特注品)は、酸化アルミニウムを含む無機凝集剤を主成分とし、非イオン性水溶性ポリマーを高分子凝集剤とする混合系エマルションブレーカである。
【0039】
<試験例1−1(従来例)>
上記未使用切削水100mLを200mLのビーカ10に入れ、蒸留水を添加して200mLとし(2倍希釈)したものに、「エマルションブレーカA」0.4g、0.8g、1.2g、1.6g及び2gをそれぞれ添加して、2分間攪拌して、30秒放置した。
【0040】
このとき、図3(A)に示す如く、水相12の上部に綿状フロック(浮遊物)14からなる油相が形成された。
【0041】
そして、放置後のエマルションブレーカの添加量の異なる各試験例について、ロ紙(1種)でロ過した各ロ液を被試験体とした。
【0042】
<試験例1−2(実施例)>
試験例1−1において、さらに、ベントナイトを等量ずつ添加して、2分間攪拌して、30秒放置した。
【0043】
このとき、図3(B)に示す如く、水相12の下部に綿状フロック(沈殿物)16からなる油相が形成された。
【0044】
そして、試験例1−1と同様に、放置後のエマルションブレーカ及びベントナイトの添加量の異なる各試験例について、ロ紙(1種)でロ過した各ロ液を被試験体とした。
【0045】
そして、各被試験体(ロ液)について、清澄度試験およびpHを測定した。
【0046】
<清澄度試験>
アタゴ社製ポケット切削油濃度計「ATAGO PAL−91S」(登録商標)によりロ液における切削油濃度を測定した。その結果を示す図2(A)から、エマルションブレーカAとともにベントナイトを併用した場合、エマルションブレーカAの濃度が、約7g/L(1.4g/200mL)までは、ベントナイトの添加による清澄度に対する影響は殆どないが、約8g/L(1.6g/200mL)において、ベントナイト添加無し(試験例1−1)では、濃度1.4であるのに対し、ベントナイト添加有り(試験例1−2)では、濃度0.9と格段に清澄度が異なることが確認できた。
【0047】
このため、エマルションブレーカAの添加量の1〜3割減量が期待できる。例えば、前記の如くエマルションブレーカの価格がベントナイトのそれの約20倍である場合において、ベントナイトを等量添加してエマルションブレーカを2割減量できたとすると、廃水処理剤(薬剤)合計費用が0.85倍(0.8+1/20)となる。
【0048】
<pH試験>
リトマス試験紙により測定した。その結果を示す図2(B)から、ベントナイトの添加によるpHに対する影響が、エマルションブレーカA添加量2g/L(0.4g/200mL)から10g/L(1.6g/200mL)の範囲では、ほとんどないことが確認できた。そして、エマルションブレーカA添加量8g/Lにおいて、pHが中性(約7)となることが確認できた。
【0049】
<試験例2(実施例)>
新日石社製水溶性切削油「ユニソルブ」(登録商標)を、5%濃度に希釈して調製して、切削加工(アルミニウム製品の)を行なって発生した使用済切削水1Lを2.0Lビーカに採取し、水を添加して2.0Lとしたもの(2倍希釈)に対して、エマルションブレーカA32g(添加量16g/L)およびベントナイト60g(添加量30g/L)を添加して、マグネチックスターラで2分間攪拌後、30秒放置した。
【0050】
そして、試験体について、ロ紙(1種)でロ過した後、活性炭30gを添加して、脱色処理をした。
【0051】
目視観察をしたところ、真水と同様な外観を呈した。そして、SS(浮遊物)測定およびpH測定をしたところ、SS:12mg/L、pH:6.8であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
O/W型のエマルション系廃水に無機凝集剤からなる又は無機凝集剤を主体として高分子凝集剤を含有する廃水処理剤を添加混合してマクロフロックを生成させて、該マクロフロックを除去分離する油水分離処理、及び、マクロフロック除去後の分離水の清澄化処理を経て、前記エマルション系廃水を処理する方法において、
前記廃水処理剤の添加混合に際して、前記廃水処理剤(無機凝集剤及び高分子凝集剤の合計量)100質量部に対してベントナイト50〜300質量部を添加することを特徴とするエマルション系廃水の処理方法。
【請求項2】
前記ベントナイトの前記廃水処理剤100質量部に対する添加量が80〜220質量部であることを特徴とするエマルション系廃水の処理方法。
【請求項3】
前記マクロフロックの除去分離を、ロ過により行なうことを特徴とする請求項1又は2記載の特徴とするエマルション系廃水の処理方法。
【請求項4】
前記分離水の清澄化処理を、活性炭を用いて行うことを特徴とする請求項1、2又は3記載のエマルション系廃水の処理方法。
【請求項5】
前記廃水処理剤における無機凝集剤がアルミニウム塩系であり、前記廃水処理剤の被処理水に対する添加量が5〜15g/Lであることを特徴とする請求項1〜4いずれか一記載のエマルション系廃水の処理方法。
【請求項6】
前記被処理水が、使用済の金属加工切削水を1.5〜2.5倍に希釈したものとすることを特徴とする請求項5記載のエマルション系廃水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−279877(P2010−279877A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133942(P2009−133942)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(591258783)大東工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】