説明

エマルション組成物及びポリフェノール化合物の凝集防止方法

【課題】ポリフェノール化合物と組み合わせても凝集等の発生がない乳化安定性に優れたエマルション組成物を提供する。
【解決手段】本発明のエマルション組成物は、脂溶性物質と、リン脂質と、ショ糖脂肪酸エステルを含む乳化剤と、該ショ糖脂肪酸エステルに対して質量比で0.1以下の(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルション組成物及びポリフェノール化合物の凝集防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カテキンや植物性色素のようなポリフェノール化合物の機能性に着目して、これらを含有する組成物が多く開発されている。ポリフェノール化合物含有組成物には、予めポリフェノール化合物を含む各成分を混合して得られるものの他、ポリフェノール化合物以外を予め調製した後に、ポリフェノール化合物を添加して得られるものもある。
ところで、脂溶性物質を乳化物の形で、ポリフェノール化合物と共に使用する場合、乳化物とポリフェノール化合物が凝集を起こし易いという問題がある。これを解消するために、脂溶性物質の乳化安定性を更に向上させることが行われている。
【0003】
例えば特許文献1では、油性成分に対して10倍量以下という少量の非イオン性界面活性剤を配合した非エタノール可溶化物である透明組成物を開示している。
また特許文献2では、45℃以下の温度で固体であり、所定の糖のエステル又はエーテルである界面活性剤を用いたナノエマルジョンを開示している。このナノエマルジョンは、貯蔵時に安定であり、良好な透明性を示し、更に良好な化粧料的性質を有し、保存安定性がよく、べたつき感がないと記載されている。
一方、HLBに着目して乳化安定性を向上させたものとして、特許文献3では、HLB15〜16のショ糖脂肪酸エステルと、酵素処理レシチン/酵素分解レシチンとを組み合わせた乳飲料が開示されており、特許文献4では、HLB16〜19のショ糖脂肪酸エステルとリゾレシチンとを組み合わせたフレーバー組成物が開示されている
【特許文献1】特許第3298867号公報
【特許文献2】特許第3583331号公報
【特許文献3】特許第3492794号公報
【特許文献4】特開2000−245385号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの技術においても、ポリフェノール化合物に対する充分な乳化安定性を実現することができなかった。このため、エマルション組成物にポリフェノール化合物を添加すると、乳化物凝集を充分に防止することができなかった。
従って、本発明は、ポリフェノール化合物と組み合わせても凝集等の発生がない乳化安定性に優れたエマルション組成物を提供することを目的とする。
また本発明は、ポリフェノール化合物と組み合わせた場合に凝集等の発生を防止する凝集防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のエマルション組成物は、脂溶性物質と、リン脂質と、ショ糖脂肪酸エステルを含む乳化剤と、該ショ糖脂肪酸エステルに対して質量比で0.1以下の(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとを含有するものである。
ここで、前記脂溶性物質が、脂溶性のカロチノイドであってもよく、前記脂溶性のカロチノイドが、アスタキサンチン及び/又はそのエステルであってもよい。
上記エマルション組成物において、前記ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の炭素数が12〜18であることが好ましい。
また上記エマルション組成物は、更に多価アルコールを含有していてもよく、該多価アルコールがグリセリンであってもよい。
【0006】
上記エマルション組成物において、脂溶性物質の含有量を0.1質量%に調整した時の、波長700nmの光の透過率が80%以上であることが好ましい。
また、上記エマルション組成物において、粒子径が200nm以下であることが好ましい。
ここで上記エマルション組成物は、ポリフェノール化合物を含む溶液との混合用であることが好ましい。
【0007】
本発明のポリフェノール化合物の凝集防止方法は、ポリフェノール化合物を含む脂溶性物質と、リン脂質と、ショ糖脂肪酸エステルを含む乳化剤と、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとを含有するエマルション組成物におけるポリフェノール化合物の凝集防止方法であって、前記(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを、前記ショ糖脂肪酸エステルに対して質量比で0.1以下とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリフェノール化合物と組み合わせても凝集等の発生がない乳化安定性に優れたエマルション組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、ポリフェノール化合物と組み合わせた場合に凝集等の発生を防止する凝集防止方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のエマルション組成物は、脂溶性物質と、リン脂質と、ショ糖脂肪酸エステルを含む乳化剤と、該ショ糖脂肪酸エステルに対して質量比で0.1以下の(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとを含有するものである。
これにより、本発明のエマルション組成物は、良好な乳化安定性を示し、ポリフェノール化合物と組み合わせた場合であっても、乳化物凝集などを発生しない。
【0010】
本発明における乳化剤は、乳化力の観点から、HLBが10以上であることが好ましく、12以上が更に好ましい。HLBが低すぎると、乳化力が不十分となることがある。
ここで、HLBは、通常界面活性剤の分野で使用される親水性−疎水性のバランスで、通常用いる計算式、例えば川上式等が使用できる。川上式を次に示す。
HLB=7+11.7log(M/M
ここで、Mは親水基の分子量、Mは疎水基の分子量である。
また、カタログ等に記載されているHLBの数値を使用してもよい。
また、上記の式からも分かるように、HLBの加成性を利用して、任意のHLB値の乳化剤を得ることができる。
【0011】
また本発明における乳化剤には、ショ糖脂肪酸エステルが含まれる。本発明に用いられるショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の炭素数が12〜18のものが好ましく、14〜16がより好ましく、14が最も好ましい。脂肪酸の炭素数が12以上とすることによって、後述するように(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを含まないエマルション組成物においても充分な乳化安定性を確保しやすく、一方、脂肪酸の炭素数を18以下とすることにより、ポリフェノールが共存する時の乳化物の凝集を防ぐことができることから、それぞれ好ましい。
【0012】
本発明におけるショ糖脂肪酸エステルの好ましい例としては、ショ糖モノオレイン酸エステル、ショ糖モノステアリン酸エステル、ショ糖モノパルミチン酸エステル、ショ糖モノミリスチン酸エステル、ショ糖モノラウリン酸エステル等が挙げられる。本発明においては、これらのショ糖脂肪酸エステルを、単独又は混合して用いることができる。
市販品としては、例えば、三菱化学フーズ(株)社製リョートーシュガーエステル S-1170、S-1170F、S-1570、S-1670、P-1570、P-1670、M-1695、O-1570、OWA-1570、L-1695、LWA-1570、第一工業製薬(株)社製の、DKエステルSS、F160、F140、F110、F90、コスメライクS-110、S-160、S-190、P-160、M-160、L-160、L-150A、L-160A、O-150等が挙げられる。
【0013】
また、本発明のエマルション組成物においては、他の乳化剤を併用することもできる。併用することのできる乳化剤としては、水性媒体に溶解する乳化剤であれば特に限定は無いが、低刺激性であること、また、環境への影響が少ないこと等から、ノニオン性乳化剤が好ましい。ノニオン性乳化剤の例としては、有機酸モノグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。より好ましくは、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが挙げられる。また、上記の乳化剤は蒸留などで高度に精製されたものであることは必ずしも必要ではなく、反応混合物であってもよい。
【0014】
本発明のエマルション組成物では、上記乳化剤のうち、グリセリン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステル(これらを総称して本明細書では、「(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル」と称する)が、ショ糖脂肪酸エステルに対して質量比で0.1以下である。このように(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの含有量を0.1以下とすることによって、ポリフェノール化合物の乳化安定性を損なうことなく、ポリフェノール化合物の凝集を防止することができる。
ショ糖脂肪酸エステルに対する(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの質量比は、0.1以下であればよいが、ポリフェノール化合物の凝集をより確実に防止できる観点から、好ましくは0.05以下であり、0.001以下であることがより好ましく、0、即ち(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを含有しないことが最も好ましい。
【0015】
本発明における上記ショ糖脂肪酸エステルの含有量は、エマルション組成物に対して、0.1〜40質量%が好ましく、1〜30質量%がより好ましく、5〜20質量%が更に好ましい。0.1質量%以上とすることによって、微細な粒子径のエマルション組成物を効果的に得ることができ、また、ポリフェノールを添加した場合であっても良好な乳化安定性を維持することができ、40質量%以下とすることによって、エマルション組成物の泡立ちを適切に抑制することができる。
なお、他の乳化剤を併用する場合には、ショ糖脂肪酸エステルとの合計量が上記範囲となればよいが、その場合には、他の乳化剤の含有比は、本発明による効果を確実に得るために、乳化剤合計量全体に対して50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0016】
本発明における脂溶性物質としては、特に制限はないが、脂溶性カロチノイド、脂溶性ビタミン、ユビキノン類、油脂等を挙げることができ、このうち脂溶性カロチノイドが好ましい。
本発明におけるこれらの脂溶性物質は、エマルション組成物に対して、乳化粒子径の微細化と乳化安定性の観点から、0.1〜30質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがより好ましく、5〜15質量%であることが更に好ましい。
【0017】
本発明におけるカロチノイド類としては、天然色素を含むカロチノイド類を好ましく挙げることができ、これには、黄色から赤色のテルペノイド類の色素であり、植物類、藻類、及びバクテリアのものが含まれる。
また、天然由来のものに限定されず、常法に従って得られるものであればいずれのものも、本発明におけるカロチノイドに含まれる。例えば、後述のカロチノイド類のカロチン類の多くは合成によっても製造されており、市販のβ−カロチンの多くは合成により製造している。
【0018】
カロチノイド類としては、炭化水素類(カロテン類)及びこれらの酸化アルコール誘導体類(キサントフィル類)が挙げられる。
これらの例として、アクチニオエリスロール、アスタキサンチン、ビキシン、カンタキサンチン、カプサンチン、カプソルビン、β−8’−アポ−カロテナール(アポカロテナール)、β−12’−アポ−カロテナール、α−カロテン、β−カロテン、”カロテン”(α−及びβ−カロテン類の混合物)、γ−カロテン、β−クリプトキサンチン、エキネノン、ルテイン、リコピン、ビオレリトリン、ゼアキサンチン、及びそれらのうちヒドロキシル又はカルボキシルを含有するもののエステル類が挙げられる。
【0019】
カロチノイド類の多くは、シス及びトランス異性体の形で天然に存在するが、合成物はしばしばラセミ混合物である。
カロチノイド類は一般に植物素材から抽出することができる。これらのカロチノイド類は種々の機能を有しており、例えば、マリーゴールドの花弁から抽出するルテインは家禽の餌の原料として広く使用され、家禽の皮膚及び脂肪並びに家禽が産む卵に色を付ける機能がある。
【0020】
本発明において用いられるカロチノイド類は乳化粒径の微細化の観点から、好ましくは常温で油状のものである。特に好ましい例としては、酸化防止効果、抗炎症効果、皮膚老化防止効果、美白効果などを有し、黄色から赤色の範囲の着色料として知られているアスタキサンチン及びアスタキサンキチンのエステル等の誘導体(以下、「アスタキサンチン類」と総称する。)から選択された少なくとも1種を含むことができる。
これらのアスタキサンチン類は、超臨界炭酸ガスを用いて天然素材から抽出したものが、臭気の点でより好ましい。
【0021】
アスタキサンチンは、476nm(エタノール)、468nm(ヘキサン)に吸収極大を持つ赤色の色素でカロチノイドの一種キサントフィルに属している(Davies, B.H. : In “Chemistry and Biochemistry of Plant Pigments”, T. W. Goodwin ed., 2nd ed., 38-165, Academic Press, NY, 1976.)。アスタキサンチンの化学構造は3,3’−dihydroxy−β,β−carotene−4,4’−dione(COH52、分子量596.82)である。
【0022】
アスタキサンチンは、分子の両端に存在する環構造の3(3’)−位の水酸基の立体配置により、3S,3S’−体、3S,3R’−体(meso−体)、3R,3R’−体の三種の異性体が存在する。また、さらに分子中央の共役二重結合のcis−、trans−の異性体も存在する。例えば全cis−、9−cis体と13−cis体などの如くである。
【0023】
前記3(3’)−位の水酸基は脂肪酸とエステルを形成することができる。オキアミから得られるアスタキサンチンは、脂肪酸二個結合したジエステル(Yamaguchi,K., Miki,W., Toriu, N., Kondo,Y., Murakami,M., Konosu,S., Satake,M., Fujita,T. : The composition of carotenoid pigments in the antarctic krill Euphausia superba, Bull. Jap. Sos. Sci. Fish., 1983, 49, p.1411-1415.)、H.pluvialisから得られるものは3S,3S’−体で、脂肪酸一個結合したモノエステル体が多く含まれている(Renstrom, B., Liaaen-Jensen, S. : Fatty acids of some esterified carotenols, Comp. Biochem. Physiol. B, Comp. Biochem., 1981, 69, p.625-627.)。
【0024】
また、Phaffia Rhodozymaより得られるアスタキサンチンは、3R,3R’−体(Andrewes, A.G., Starr, M.P. : (3R,3’R)-Asttaxanthin from the yeast Phaffa rhodozyma, Phytochem., 1976, 15, p.1009-1011.)であり、通常天然に見出される3S,3S’−体と反対の構造を持っている。また、これは脂肪酸とエステル形成していないフリー体で存在している(Andrewes, A.G., Phaffia, H.J., Starr, M.P. : Carotenids of Phaffia rhodozyma, a red pigmented fermenting yeast, Phytochem., 1976, 15, p.1003-1007.)。
【0025】
アスタキサンチン及び同エステル体はR.Kuhnらによってロブスター(Astacus gammarus L.)から初めて分離され、その推定構造が開示された(Kuhn, R., Soerensen, N.A. : The coloring matters of the lobster (Astacus gammarus L.), Z. Angew. Chem.,1938, 51, p.465-466.)。それ以来、アスタキサンチンが自然界に広く分布し、通常アスタキサンチン脂肪酸エステル体として存在すること、甲殻類などでたんぱく質と結合したアスタキサンチン蛋白(オボルビン、クラスタシアニン)としても存在することが明らかにされている(Cheesman, D.F. : Ovorubin, a chromoprotein from the eggs of the gastropod mollusc Pomacea canaliculata, Proc. Roy. Soc. B, 1958, 149, p.571-587.)。
【0026】
前記アスタキサンチン及びそのエステル(アスタキサンチン類)は、アスタキサンチン及び/又はそのエステルを含有する天然物から分離・抽出したアスタキサンチン含有オイルとして、本発明のエマルション組成物に含まれていてもよい。このようなアスタキサンチン含有オイルとして、例えば、赤色酵母ファフィア、緑藻ヘマトコッカス、海洋性細菌等を培養し、その培養物からの抽出物、ナンキョクオキアミ等からの抽出物を挙げることができる。
ヘマトコッカス藻抽出物(ヘマトコッカス藻由来色素)は、オキアミ由来の色素や、合成されたアスタキサンチンとはエステルの種類及びその含有量の点で異なることが知られている。
【0027】
本発明において用いることができるアスタキサンチン類は、前記抽出物(抽出エキス)、またさらにこの抽出物を必要に応じて適宜精製したものでもよく、また合成品であっても良い。前記アスタキサンチン類としては、ヘマトコッカス藻から抽出されたもの(以下、ヘマトコッカス藻抽出物ともいう。)が、品質、生産性の点から特に好ましい。
【0028】
本発明に使用できるヘマトコッカス藻抽出物の由来としては、具体的には、ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)、ヘマトコッカス・ラキュストリス(Haematococcus lacustris)、ヘマトコッカス・カペンシス(Haematococcus capensis)、ヘマトコッカス・ドロエバゲンシス(Haematococcus droebakensis)、ヘマトコッカス・ジンバビエンシス(Haematococcus zimbabwiensis)等が挙げられる。
本発明に使用できるヘマトコッカス藻の培養方法は、特開平8−103288号公報等に開示された様々な方法を採用することができ、特に限定されるものではなく、栄養細胞から休眠細胞であるシスト細胞に形態変化していればよい。
【0029】
本発明に使用できるヘマトコッカス藻抽出物は、上記の原料を、必要に応じて、例えば特開平5−68585号公報等に開示された方法により細胞壁を破砕して、アセトン、エーテル、クロロホルム及びアルコール(エタノール、メタノール等)等の有機溶剤や、超臨界状態の二酸化炭素等の抽出溶剤を加えて抽出することによって得られる。
前記ヘマトコッカス藻抽出物は、特開平2−49091号公報記載の色素同様、色素純分としてはアスタキサンチンもしくはそのエステル体を含み、エステル体を、一般的には50モル%以上、好ましくは75モル%以上、より好ましくは90モル%以上含むものである。
また、本発明において、広く市販されているヘマトコッカス藻抽出物を用いることができ、例えば、武田紙器(株)製のASTOTS−S、同−2.5O、同−5O、同−10O等、富士化学工業(株)製のアスタリールオイル50F、同 5F等、東洋酵素化学(株)製のBioAstinSCE7等が挙げられる。
本発明において、ヘマトコッカス藻抽出物中のアスタキサチン類の色素純分としての含有量は、抽出コストの観点から好ましくは0.001〜50質量%が好ましく、より好ましくは0.01〜25質量%である。
【0030】
ユビキノン類としては、コエンザイムQ10のようなコエンザイムQ類等が挙げられる。コエンザイムQ10は、「ユビデカレノン」として日本薬局方に記載されている補酵素の一種であり、ユビキノン10、補酵素UQ10等と呼ばれることもある。自然界においては、酵母、鯖、鰯、小麦胚芽等の天然物に多く含まれており、熱水、含水アルコール、アセトン等の溶媒によってコエンザイムQ10を抽出することができる。工業的にも製造可能であり一般的には発酵法や合成法が知られている。本発明で使用されるコエンザイムQ10は、天然物から抽出されたものであってもよく、工業的に合成されたものであってもよい。また、コエンザイムQ10として市販品を使用してもよく、日清ファルマ社製のコエンザイムQ10や、日本油脂社製のコエンザイムQ10粉末等を挙げることができる。
【0031】
脂溶性ビタミン類としては、脂溶性ビタミンE類、レチノイド類、ビタミンD類、アスコルビン酸及びエリソルビン酸の油溶化誘導体を挙げることができ、この内でも、抗酸化機能が高くラジカル捕捉剤としても使用可能な脂溶性ビタミンE類であることが好ましい。
脂溶性ビタミンE類には、特に限定されないが、トコフェロール及びトコトリエノール並びにこれらの誘導体などが含まれ、dl−α−トコフェロール、dl−β−トコフェロール、dl−γ−トコフェロール、dl−δ−トコフェロール、酢酸dl−α−トコフェロール、ニコチン酸−dl−α−トコフェロール、リノール酸−dl−α−トコフェロール、コハク酸dl−α−トコフェロール等のトコフェロール及びその誘導体、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール、δ−トコトリエノール等を挙げることができる。これらは単独で用いても、複数併用して用いてもよいが、混合物の状態で使用する場合が好ましく、混合物の状態のものとしては抽出トコフェロール、ミックストコフェロールなどと呼ばれるものが含まれる。
【0032】
レチノイド類としては、レチノール,3−ヒドロレチノール,レチナール,3−ヒドロレチナール,レチノイン酸,3−デヒドロレチノイン酸,ビタミンAアセテート等のビタミンA類;α,β,γ−カロチン,β−クリプトキサンチン,エキネノン等のカロチノイドやキサントフィル等のプロビタミンA類を挙げることができる。ビタミンD類としては、ビタミンD乃至D等のビタミンD類を挙げることができる。
またその他の脂溶性ビタミン物質としては、ニコチン酸ビタミンE等のエステル類;ビタミンK乃至K等のビタミンK類を挙げることができる。
アスコルビン酸、エリソルビン酸などの油溶化誘導体には、ステアリン酸L−アスコルビルエステル、テトライソパルミチン酸L−アスコルビルエステル、パルミチン酸L−アスコルビルエステル、パルミチン酸エリソルビルエステル、テトライソパルミチン酸エリソルビルエステル、ジオレイン酸アスコルビル等のビタミンCの脂肪酸エステル類、ジパルミチン酸ピリドキシン、トリパルミチン酸ピリドキシン、ジラウリン酸ピリドキシン、ジオクタン酸ピリドキシン等のビタミンBの脂肪酸エステル類等が挙げられる。これらのうち、アスコルビン酸、エリソルビン酸の油溶化誘導体は、ラジカル捕捉剤としても使用可能である。
【0033】
ω−3油脂類としては、リノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)並びにこれらを含有する魚油などを挙げることができる。
このうちDHAは、ドコサヘキサエン酸(Docosahexaenoic acid)の略称であり、6つの二重結合を含む22個の炭素鎖をもつカルボン酸(22:6)の総称であるが、通常は生体にとって重要な4、7、10、13、16、19位に全てシス型の二重結合をもつ。
【0034】
ω−3油脂類以外の油脂としては、常温で、液体の油脂(脂肪油)及び固体の油脂(脂肪)が挙げられる。
前記液体の油脂としては、例えばオリーブ油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、ヒマシ油、アボガド油、月見草油、タートル油、トウモロコシ油、ミンク油、ナタネ油、卵黄油、ゴマ油、パーシック油、小麦胚芽油、サザンカ油、アマニ油、サフラワー油、綿実油、エノ油、大豆油、落花生油、茶実油、カヤ油、コメヌカ油、シナギリ油、日本キリ油、ホホバ油、胚芽油、トリグリセリン、トリオクタン酸グリセリン、トリイソパルチミン酸グリセリン、サラダ油、サフラワー油(ベニバナ油)、パーム油、ココナッツ油、ピーナッツ油、アーモンド油、ヘーゼルナッツ油、ウォルナッツ油、グレープシード油、スクワレン、スクワラン等が挙げられる。
また、前記固体の油脂としては、牛脂、硬化牛脂、牛脚脂、牛骨脂、ミンク油、卵黄油、豚脂、馬脂、羊脂、硬化油、カカオ脂、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム油、パーム硬化油、モクロウ、モクロウ核油、硬化ヒマシ油等が挙げられる。
上記の中でも、エマルション組成物の粒子径、安定性の観点から、中鎖脂肪酸トリグリセライドであるココナッツ油が好ましく用いられる。
【0035】
また他の脂溶性物質として、例えば、流動パラフィン、パラフィン、ワセリン、セレシン、マイクロクリスタリンワックスなどの炭化水素、カルナウバロウ、キャンデリラロウ、ホホバ油、ミツロウ、ラノリンなどのロウ類、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸2−オクチルドデシル、2−エチルヘキサン酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリルなどのエステル類、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、リノール酸、アラキドン酸などの脂肪酸類、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、2−オクチルドデカノールなどの高級アルコール類、メチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンなどのシリコーン油、その他、高分子類、油溶性色素類、油溶性蛋白質などを挙げることができる。また、それらの混合物である各種の植物由来油、動物由来油も含まれる。
【0036】
本発明におけるリン脂質は、グリセリン骨格またはスフィンゴシン骨格と脂肪酸残基及びリン酸残基を必須構成成分とし、これに、塩基や多価アルコール等が結合したものである。
【0037】
本発明で用いることができるリン脂質としては、例えば、レシチン(ホスファチジルコリン)、ホスファチジン酸、ビスホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルメチルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセリン、ジホスファチジルグリセリン(カルジオリピン)等のグリセロレシチン;スフィンゴミエリン等のスフィンゴレシチン等を挙げることができる。またこれらの成分を含む大豆、トウモロコシ、落花生、ナタネ、麦等の植物由来のものや、卵黄、牛等の動物由来のもの及び大腸菌等の微生物等由来の各種レシチンを挙げることができる。これらのリン脂質の由来は特に限定されないが、精製したものが特に好適である。本発明では、これらのリン脂質を、単独、又は併用して用いることができる。
これらのリン脂質の内で、入手の容易性、安全性、及び乳化性の点から、レシチン(ホスファチジルコリン)が、好ましい。
【0038】
レシチンは、分子内に親水基と疎水基を有しているため、従来から、食品、医薬品、化粧品分野で、広く乳化剤として使用されている。産業的にはレシチンの純度60%以上のものがレシチンとして利用されており、本発明でも利用できるが、微細な油滴粒径の形成及び脂溶性物質の安定性の観点から、好ましくは一般に高純度レシチンと称されるものであり、これはレシチン純度が80質量%以上、より好ましくは90質量%以上のものである。
【0039】
レシチンとしては、植物、動物及び微生物の生体から抽出分離された従来公知の各種のものを挙げることができる。市販品のレシチンとしては、理研ビタミン(株)製レシオンシリーズや、レシマールELなどを挙げることができる。
【0040】
また、本発明においては、上記の高純度レシチン以外にも、水素添加レシチン、酵素分解レシチン、酵素分解水素添加レシチン、ヒドロキシレシチン等を使用することができる。このような水素添加、ヒドロキシル化されたレシチンは、化粧品用途への応用に特に好ましい。前記水素添加は、例えば、レシチンを触媒の存在下に水素と反応させることにより行われ、脂肪酸部分の不飽和結合が水素添加される。水素添加により、レシチンの酸化安定性が向上する。
前記酵素分解レシチンは、リゾレシチンとも呼ばれ、レシチンにホスホリパーゼA2を作用させ、β位のエステル結合を加水分化し、水酸基を増やすことにより、親水性を増大させたものである。
また、前記ヒドロキシル化は、レシチンを高濃度の過酸化水素と酢酸、酒石酸、酪酸などの有機酸と共に加熱することにより、脂肪酸部分の不飽和結合が、ヒドロキシル化される。ヒドロキシル化により、レシチンの親水性が改良される。
本発明で用いることができるこれらのリン脂質は、単独又は複数種の混合物の形態で用いることができる。
【0041】
本発明で用いるリン脂質は、単独又は複数種の混合物の形態で用いることができる。
本発明におけるエマルション組成物において、リン脂質の含有量は0.1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.2〜8質量%、更に好ましくは0.5〜5質量%である。
前記リン脂質の含有量を0.1質量%以上とすることにより、エマルション組成物の乳化安定性が良好となる傾向がある。また、前記含有量を10質量%以下とすることにより、過剰なリン脂質が脂溶性物質から離れて水中にリン脂質分散体を形成することなく、エマルション組成物の乳化安定性の点から好ましい。
【0042】
本発明における多価アルコールは、保湿機能や粘度調整機能等を有している。また、多価アルコールは、水と油脂成分との界面張力を低下させ、界面を広がりやすくし、微細で、かつ、安定な微粒子を形成しやすくする機能も有している。
【0043】
本発明における多価アルコールとしては、特に限定されず、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,3−ブチレングリコール、イソプレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール、マルチトール、還元水あめ、果糖、ブドウ糖、蔗糖、ラクチトール、パラチニット、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、キシロース、グルコース、ラクトース、マンノース、マルトース、ガラクトース、フルクトース、イノシトール、ペンタエリスリトール、マルトトリオース、ソルビトール、ソルビタン、トレハロース、澱粉分解糖、澱粉分解糖還元アルコール等が挙げられる。これらを、単独又は複数種の混合物の形態で用いることができる。
【0044】
また、多価アルコールとしては、その1分子中における水酸基の数が、3個以上であるものを用いるのが好ましい。これにより、水系溶媒と油脂成分との界面張力をより効果的に低下させることができ、より微細で、かつ、安定な微粒子を形成させることができる。その結果、食品用途の場合は腸管吸収性を、化粧品用途の場合は経皮吸収性をより高いものとすることができる。
【0045】
上述したような条件を満足する多価アルコールの中でも、特に、グリセリンを用いた場合、エマルションのエマルション粒子径がより小さくなり、かつ該粒子径が小さいまま長期に亘り安定して保持されるため、更には本発明による凝集防止効果を最も効果的に発揮しやすいため、好ましい。
【0046】
このような多価アルコールの含有量は、本発明の組成物に対して、10〜60質量%が好ましく、好ましくは20〜55質量%、さらに好ましくは30〜50質量%である。多価アルコールの含有量が10質量%以上あれば、脂溶性物質の種類や含有量等に拘わらず、十分な保存安定性を得ることができる。一方、多価アルコールの含有量が60質量%以下であれば、エマルジョン組成物の粘度を適切な範囲に調整しつつ目的とする効果を得ることができる。
【0047】
<油中水型エマルション組成物の製造方法>
本発明におけるエマルション組成物の製造方法は、特に限定されないが、たとえば、a)水性媒体(水、または、水と多価アルコールの混合物等)に、乳化剤を溶解させて、水相を得、b)脂溶性物質(脂溶性のカロチノイド等)及びリン脂質を混合・溶解して、油相を得、c)攪拌下で水相と油相を混合して、乳化分散を行い、エマルション組成物を得る、ステップからなる製造方法が好ましい。
前記製造方法における油相、水相に含有される成分は、前述の本発明のエマルション組成物の構成成分と同様であり、好ましい例及び好ましい量も同様であり、好ましい組合せがより好ましい。
【0048】
前記乳化分散における油相と水相との比率(質量)は、特に限定されるものではないが、油相/水相比率(質量%)として0.1/99.9〜50/50が好ましく、0.5/99.5〜30/70がより好ましく、1/99〜20/80が更に好ましい。
油相/水相比率を0.1/99.9以上とすることにより、有効成分が低くならないためエマルション組成物の実用上の問題が生じない傾向となり好ましい。また、油相/水相比率を50/50以下とすることにより、界面活性剤濃度が薄くなることがなく、エマルション組成物の乳化安定性が悪化しない傾向となり好ましい。
【0049】
前記乳化分散は、1ステップの乳化操作を行うことでもよいが、2ステップ以上の乳化操作を行うことが均一で微細な乳化粒子を得る点から好ましい。
具体的には、剪断作用を利用する通常の乳化装置(例えば、スターラーやインペラー攪拌、ホモミキサー、連続流通式剪断装置等)を用いて乳化するという1ステップの乳化操作に加えて、高圧ホモジナイザー等を通して乳化する等の方法で2種以上の乳化装置を併用するのが特に好ましい。高圧ホモジナイザーを使用することで、乳化物を更に均一な微粒子の液滴に揃えることができる。また、更に均一な粒子径の液滴とする目的で複数回行ってもよい。
【0050】
本発明における乳化分散する際の温度条件は、特に限定されるものでないが、脂溶性物質の安定性の観点から10〜100℃であることが好ましく、取り扱う脂溶性物質の融点などにより、適宜好ましい範囲を選択することができる。
【0051】
前記高圧ホモジナイザーとしては、処理液の流路が固定されたチャンバーを有するチャンバー型高圧ホモジナイザー及び均質バルブを有する均質バルブ型高圧ホモジナイザーが挙げられる。これらの中でも、均質バルブ型高圧ホモジナイザーは、処理液の流路の幅を容易に調節でき、操作時の圧力及び流量を任意に設定できるため、その操作範囲が広く、特に本発明にかかるエマルション組成物の製造方法にとって好ましい。
また、操作の自由度は低いが、圧力を高める機構が作りやすいため、超高圧を必要とする場合、チャンバー型高圧ホモジナイザーも好適に用いることができる。
【0052】
前記チャンバー型高圧ホモジナイザーとしては、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社製)、ナノマイザー(吉田機械興業(株)製)、アルティマイザー((株)スギノマシン製)等が挙げられる。
前記均質バルブ型高圧ホモジナイザーとしては、ゴーリンタイプホモジナイザー(APV社製)、ラニエタイプホモジナイザー(ラニエ社製)、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)、ホモゲナイザー(三和機械(株)製)、高圧ホモゲナイザー(イズミフードマシナリ(株)製)、超高圧ホモジナイザー(イカ社製)等が挙げられる。
【0053】
本発明において、前記高圧ホモジナイザーの圧力は、好ましくは50MPa以上、より好ましくは50〜250MPa、更に好ましくは100〜250MPaで処理することが好ましい。
また、乳化分散された組成物である乳化液はチャンバー通過直後30秒以内、好ましくは3秒以内に何らかの冷却器を通して冷却することが、分散粒子の粒子径保持の観点から好ましい。
【0054】
このような工程によって得られたエマルション組成物は、脂溶性物質を含有する乳化粒子が水性媒体中に分散しているO/Wエマルションである。
特に、本発明では、微細なエマルション粒子が均一に分散したエマルション組成物を得ることができる。
【0055】
<エマルション組成物の粒子径及び評価>
本発明のエマルション組成物の粒子径は、粒子安定性及び透明性の観点から、200nm以下であることが好ましく、透明性の観点から、より好ましくは130nm以下、最も好ましくは90nm以下である。
【0056】
本発明に用いるエマルション組成物の粒子径は、市販の粒度分布計等で計測することができる。エマルションの粒度分布測定法としては、光学顕微鏡法、共焦点レーザー顕微鏡法、電子顕微鏡法、原子間力顕微鏡法、静的光散乱法、レーザー回折法、動的光散乱法、遠心沈降法、電気パルス計測法、クロマトグラフィー法、超音波減衰法等が知られており、それぞれの原理に対応した装置が市販されている。
本発明における粒径範囲および測定の容易さから、本発明におけるエマルション粒径測定では動的光散乱法が好ましい。動的光散乱を用いた市販の測定装置としては、ナノトラックUPA(日機装(株))、動的光散乱式粒径分布測定装置LB−550((株)堀場製作所)、濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000(大塚電子(株))等が挙げられる。
本発明における粒子径は、前記動的光散乱式粒径分布測定装置LB−550((株)堀場製作所)を用いて測定した値とし、具体的には、以下のよう計測した値を採用する。
前記粒子径の測定方法は、脂溶性物質の濃度が0.1〜1質量%の範囲内になるように純水で希釈を行い、石英セルを用いて測定を行う。粒子径は、試料屈折率として1.600、分散媒屈折率として1.333(純水)、分散媒の粘度として純水の粘度を設定した時のメジアン径として求めることができる。
本発明における粒径は、前記動的光散乱式粒径分布測定装置を用いて25℃で測定した値を採用する。
【0057】
本発明のエマルション組成物の透過率は、脂溶性物質の含有量を0.1質量%となるようにエマルション組成物を純水で希釈し、純水を対照として、分光光度計を用いた700nmの露光波長における透過率の測定により求められる。
好ましい透明性とは、上記評価法により測定した透過率が、蒸留水の透過率を100%とした場合の80%以上であることが好ましく、85%以上であることが特に好ましい。ここで、透過率が80%以上であれば、エマルション組成物の乳化粒子が充分に微細であり、粒子の安定性を良好なものにすることができる。
【0058】
本発明のエマルション組成物は、カテキン等のポリフェノールを含む溶液と混合した場合でも、乳化物凝集など発生が無く乳化安定性に優れたエマルション組成物である。このため、本エマルション組成物は、ポリフェノール化合物を含む溶液と混合して使用されることが好ましい。また、ポリフェノール化合物に加えてアスコルビン酸、クエン酸等の有機酸、及び/又はそれらの塩を含む溶液と混合した場合も同様に乳化物凝集等の発生を抑制することができる。このため、上記ポリフェノール化合物に加えて有機酸及び/又はその塩を含む溶液と混合して使用されることもまた好ましい。
本発明のエマルション組成物を、ポリフェノール化合物等と混合して使用した場合、得られた混合液におけるポリフェノール化合物及び有機酸及び/又はその塩の合計量は、これらの化合物による機能性を保持しながら確実に凝集を防止する観点から、混合液全体に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。
【0059】
本発明のエマルション組成物と共に用いられるポリフェノール化合物類に特に限定はなく、例えば、フラボノイド類(カテキン、アントシアニン、フラボン、イソフラボン、フラバン、フラバノン、ルチン)、フェノール酸類(クロロゲン酸、エラグ酸、没食子酸、没食子酸プロピル)、リグナン類、クルクミン類、クマリン類などを挙げることができる。また、これらの化合物は、以下のような天然物由来の抽出物中に多く含まれるため、抽出物という状態で利用することができる。
【0060】
例えば、カンゾウ抽出物、キュウリ抽出物、ケイケットウ抽出物、ゲンチアナ(リンドウ)抽出物、ゲンノショウコ抽出物、コレステロール及びその誘導体、サンザシ抽出物、シャクヤク抽出物、イチョウ抽出物、コガネバナ(オウゴン)抽出物、ニンジン抽出物、マイカイカ(マイカイ、ハマナス)抽出物、サンペンズ(カワラケツメイ)抽出物、トルメンチラ抽出物、パセリ抽出物、ボタン(ボタンピ)抽出物、モッカ(ボケ)抽出物、メリッサ抽出物、ヤシャジツ(ヤシャ)抽出物、ユキノシタ抽出物、ローズマリー(マンネンロウ)抽出物、レタス抽出物、茶抽出物(烏龍茶、紅茶、緑茶等)、微生物醗酵代謝産物、羅漢果抽出物等が挙げられる(かっこ内は、植物の別名、生薬名等を記載した。)。これらのポリフェノール類のうち、特に好ましいものとしては、カテキン、ローズマリー抽出物、グルコシルルチン、エラグ酸、没食子酸を挙げることができる。
【0061】
また本発明のエマルション組成物と共に用いられる有機酸及び/又はその塩としては、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、クエン酸、アジピン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸、リン酸等、並びにこれらの誘導体若しくはその塩を挙げることができる。
アスコルビン酸またはアスコルビン酸誘導体またはその塩として、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸Na、L−アスコルビン酸K、L−アスコルビン酸Ca、L−アスコルビン酸リン酸エステル、L−アスコルビン酸リン酸エステルのマグネシウム塩、L−アスコルビン酸硫酸エステル、L−アスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウム塩、L−アスコルビン酸ステアリン酸エステル、L−アスコルビン酸2−グルコシド、L−アスコルビル酸パルミチン酸エステル、テトライソパルミチン酸L−アスコルビル等が挙げられる。
【0062】
エリソルビン酸またはエリソルビン酸誘導体またはその塩として、エリソルビン酸、エリソルビン酸Na、エリソルビン酸K、エリソルビン酸Ca、エリソルビン酸リン酸エステル、エリソルビン酸硫酸エステル、エリソルビン酸パルミチン酸エステル、テトライソパルミチン酸エリソルビル等が挙げられる。
【0063】
本発明のエマルション組成物は、上述したようにポリフェノール化合物と組み合わせた場合であってもポリフェノール化合物に対して良好な乳化安定性を示し、乳化物凝集等を起こすことがない。このため、本発明は、ポリフェノール化合物等の脂溶性物質を含むエマルション組成物におけるポリフェノール化合物の凝集防止方法も提供する。
【0064】
即ち、本発明のポリフェノール化合物の凝集防止方法は、ポリフェノール化合物を含む脂溶性物質と、リン脂質と、ショ糖脂肪酸エステルを含む乳化剤と、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとを含有するエマルション組成物におけるポリフェノール化合物の凝集防止方法であって、前記(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを、前記ショ糖脂肪酸エステルに対して質量比で0.1以下とするものである。
本凝集方法については、上述のエマルション組成物に対して記述した記載をそのまま適用することができる。
【0065】
本発明のエマルション組成物は、このようにポリフェノール化合物を含む溶液と混合して使用しても良好な乳化安定性を示し、ポリフェノール化合物の凝集を生じないため、食品、化粧料に適用することが好ましい。
ここで、食品としては、飲料、冷菓など、化粧料としてはスキン化粧料(化粧水、美容液、乳液、クリームなど)、口紅、日焼け止め化粧料、メークアップ化粧料など、医薬品としては、栄養ドリンク、滋養強壮剤などを挙げることができるが、これらに制限されるものではない。
また、前記本発明の食品及び化粧料は、本発明のエマルション組成物と、所望の目的を達成するための添加可能な任意の成分とを、常法により混合等して、得ることができる。
【0066】
食品及び化粧料として用いられる際の本発明のエマルション組成物の添加量は、製品の種類や目的などによって異なり一概には規定できないが、製品に対して、0.01〜10質量%、好ましくは、0.05〜5質量%の範囲となるように添加して用いることができる。添加量が0.01質量%以上であれば目的の効果の発揮が期待でき、10質量%以下であれば、適切な効果を効率よく発揮できることが多い。
【実施例】
【0067】
以下に実施例で本発明を更に具体的に説明する。なお、以下の記載で「部」と「%」表示してあるものは、特にことわらない限り質量基準である。
【0068】
<エマルションの調製>
下記の成分を、70℃で加熱しながら1時間溶解して、水相組成物を得た。
ショ糖ミリスチン酸エステル(HLB=16) 50.0g
グリセリン 450.0g
純水 350.0g
【0069】
また、下記成分を、70℃で加熱しながら1時間溶解して、油相組成物を得た。
ヘマトコッカス藻抽出物(アスタキサンチン類含有率20質量%) 37.5g
ミックストコフェロール 9.5g
ココナッツ油 93.0g
レシチン(大豆由来) 10.0g
【0070】
水相を70℃に保ったままホモジナイザーで攪拌し(10000rpm)、そこへ上記油相を添加して攪拌を2分間継続した後、室温まで冷却して予備乳化物を得た。得られた予備乳化物を、アルティマイザーHJP−25005(株式会社スギノマシン社製)を用いて、200MPaの圧力で乳化を60℃にて行った。
その後、平均孔径1μmのミクロフィルターでろ過して、アスタキサンチン類含有エマルション組成物EM−01を調製した。
また、組成を下記表1に従った以外は全て同様にして、アスタキサンチン類含有エマルション組成物EM−02〜07を得た。
【0071】
表中、ショ糖ミリスチン酸エステルは三菱化学フーズ株式会社製リョートーシュガーエステルM−1695(HLB=16)、ショ糖ラウリン酸エステルは三菱化学フーズ株式会社製リョートーシュガーエステルL−1695(HLB=16)、ショ糖パルミチン酸エステルは三菱化学フーズ株式会社製リョートーシュガーエステルP−1670(HLB=16)、ショ糖オレイン酸エステルは三菱化学フーズ株式会社製リョートーシュガーエステルO−1570(HLB=15)、モノオレイン酸デカグリセリルは日光ケミカルズ株式会社製NIKKOL Decaglyn 1−O(HLB=12)を使用した。ヘマトコッカス抽出物は、武田紙器株式会社製ASTOTS−Sを使用した。ミックストコフェロールは、理研ビタミン株式会社製の理研Eオイル800を使用した。ココナッツ油は、花王株式会社のココナードMTを使用した。レシチン(大豆由来)は理研ビタミン株式会社製のレシオンPを使用した。
【0072】
<エマルションの評価>
得られたアスタキサンチン類含有エマルション組成物(EM−01〜10)1.0g、L−アスコルビン酸Na 1.0g、クエン酸三Na 1.0g、及びカテキン 1.0gを96.0gの純水に添加して、スターラーを用いて、10分間攪拌を行った。得られたエマルション希釈液の粒子径を、動的光散乱粒径測定装置FPAR-1000(大塚電子株式会社製)を使用して測定した。また、エマルション希釈液を密封栓付きのガラスビンに入れ、50℃恒温槽中に1ヶ月間放置後、室温まで冷却して、再び粒子径の測定を行った。同様に、70℃恒温槽中に1週間放置後、粒子径の測定を行った。
上記の評価において、アスコルビン酸Na、及び、クエン酸三Naは和光純薬工業株式会社製の試薬を使用した。カテキンは株式会社ファーマフーズ社製のPF−TP80を使用した。
結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1から明らかなように、本発明の実施例に相当するEM−01〜EM−07は、カテキン及びアスコルビン酸を含む溶液に混合しても、凝集を起こさず、また保存安定性も良好なエマルション組成物であることが明らかであった。
【0075】
次に、本発明の実施例に相当するエマルション組成物EM−01を使用した試作例を以下に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
<試作例1>
飲料
(1)EM−01 20g
(2)果糖ぶどう糖液糖 120g
(3)カテキン(PF−TP80) 5g
(4)ビタミンC(L−アスコルビン酸) 10g
(5)クエン酸 10g
(6)オレンジ香料 3g
(7)水 832g
合計 1000g
【0076】
上記(2)〜(7)の成分を混合・溶解した後、(1)の成分を加えてさらに混合を行い、飲料液を調製した。これを瓶に充填して85℃で10分間加熱殺菌した。これを室温まで冷却し飲料を得た。得られた飲料は、透明性に優れ、50℃で1ヶ月間静置保管しても濁りやネックリング等の発生は認められなかった。
【0077】
<試作例2>
化粧水
(1)1,3−ブタンジオール 60g
(2)グリセリン 40g
(3)オレイルアルコール 1g
(4)ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウリン酸エステル 5g
(5)ポリオキシエチレン(15)ラウリルアルコールエーテル 5g
(6)エタノール 100g
(7)メチルパラベン 2g
(8)L−アスコルビン酸Na 10g
(9)カテキン(PF−TP80) 1g
(10)EM−01 1g
(11)精製水 775g
合計 1000g
【0078】
上記(1)を(11)に添加・溶解させて水相を得た。次に、(6)に、(2)〜(5)、(7)〜(9)を溶解し、先の水相と攪拌混合した。更に、(9)を加えて攪拌混合を行い、化粧水を得た。得られた化粧水は、透明性に優れ、50℃で1ヶ月間静置保管しても濁りの発生は認められなかった。
【0079】
これらのことより本実施例のエマルション組成物は、乳化物の粒子径を微細にすることができ、且つ、アスコルビン酸Na等の有機酸、及び、カテキン等のポリフェノールを添加した場合でも、非常に優れた乳化安定性を示すことが分かった。
従って、本発明にかかるエマルション組成物は、ポリフェノール化合物を含む溶液と混合しても凝集等を起こすことがない優れた乳化安定性を示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂溶性物質と、リン脂質と、ショ糖脂肪酸エステルを含む乳化剤と、前記ショ糖脂肪酸エステルに対して質量比で0.1以下の(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとを含有するエマルション組成物。
【請求項2】
前記脂溶性物質が、脂溶性のカロチノイドである請求項1に記載のエマルション組成物。
【請求項3】
前記脂溶性のカロチノイドが、アスタキサンチン及び/又はそのエステルである請求項2に記載のエマルション組成物。
【請求項4】
前記ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の炭素数が12〜18である請求項1〜請求項3のいずれか1項記載のエマルション組成物。
【請求項5】
更に多価アルコールを含有する請求項1〜請求項4のいずれか1項記載のエマルション組成物。
【請求項6】
前記多価アルコールがグリセリンである請求項5に記載のエマルション組成物。
【請求項7】
脂溶性物質の含有量を0.1質量%に調整した際の、波長700nmの光の透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項記載のエマルション組成物。
【請求項8】
粒子径が200nm以下である請求項1〜請求項7のいずれか1項記載のエマルション組成物。
【請求項9】
ポリフェノール化合物を含む溶液との混合用である請求項1〜請求項8のいずれか1項記載のエマルション組成物。
【請求項10】
(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを含まないものである請求項1〜請求項9のいずれか1項記載のエマルション組成物。
【請求項11】
ポリフェノール化合物を含む脂溶性物質と、リン脂質と、ショ糖脂肪酸エステルを含む乳化剤と、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとを含有するエマルション組成物におけるポリフェノール化合物の凝集防止方法であって、前記(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを、前記ショ糖脂肪酸エステルに対して質量比で0.1以下とすることを特徴とするポリフェノール化合物の凝集防止方法。

【公開番号】特開2008−280257(P2008−280257A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123615(P2007−123615)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】