説明

エミッタ電極、エミッタ電極の製造方法及び照明装置

【課題】ナノカーボンから構成されるエミッタを備えるエミッタ電極、エミッタ電極の製造方法及び照明装置を提供する。
【解決手段】所定のパターンで形成されたドット101aを備える導電層12のほぼ全面にナノカーボンとバインダとの混合物を塗布し、ドット101aのパターンに沿って凹凸状にカーボン層102aを形成する。基板11を熱焼成してバインダを除去し、ドット101aのエッジ104近傍のカーボン層102にひび割れ103を生じさせるとともに、ひび割れ103の周辺からナノカーボンを起毛させる。これにより、ピーリング処理等を必要とせず、ナノカーボンを起毛させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノカーボンを備える電界放出用エミッタ電極、エミッタ電極の製造方法及びそのエミッタ電極を備える照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電界放出発光素子は平面発光で且つ素子自体の厚みが薄いので、電界放出発光素子を照明光源として利用した照明装置は、天井又は壁面など場所を限定することなく設置することが可能である。そのため、電界放出発光素子は蛍光灯等に代わる照明光源として期待できる。
【0003】
電界放出発光素子は、陰極(カソード)と陽極(アノード)との間に電界をかけ、陰極上の電子放出源(エミッタ)の先端部分に電界を集中させることにより、電子を放出させ、カソードとアノードとの間の電位差で電子を加速し、その電子をアノード上に形成された蛍光体層に照射して、蛍光体を発光させる。
【0004】
電界放出発光素子には、カーボンナノチューブ(CNT)等のナノカーボンを利用した電子放出源を備えるエミッタ電極を用いているものがある(特許文献1及び2)。エミッタとしてCNTを利用する場合、一般的に、CNTをバインダ等と混ぜてペーストにし、カソード上にスプレーやスクリーン印刷等により塗布する。このように形成されたエミッタから良好に電子を放出するために、エミッタ表面に対しピーリングと呼ばれる処理によりCNTを起毛させる方法が知られている(特許文献3)。しかしながら、ピーリング処理では、起毛するCNTの数、密度等が制御できないため、良好な電子放出特性を有するエミッタ電極を精度よく作製することは困難であった。
【0005】
そこで、ピーリング処理なしでCNTを起毛させる方法として、CNTを塗布した後に、表面をレーザ照射する方法が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−143645号公報
【特許文献2】特開2000−086219号公報
【特許文献3】特開2007−265749号公報
【特許文献4】特表2007−531201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献4によれば、所望の密度でCNTを起毛させることができるが、この手法はレーザ照射のための高価な装置を必要とするため、その実用化に問題があった。また、このようなエミッタ電極を備える照明装置においても、良好な電子放出特性を有するエミッタ電極が必要であった。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、良好な電子放出特性を備えるエミッタ電極及びその製造方法を提供することを目的とする。さらにこのエミッタ電極を備えることにより発光特性が良好となる照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係るエミッタ電極は、
ナノカーボンから構成されるエミッタから電子を放出するエミッタ電極であって、
基板と、
前記基板上に形成された導電層と、
前記導電層上に表面が所定のピッチで凹凸状に形成され且つ該凹凸状の部分にひび割れを有するカーボン層と、該ひび割れの周辺から起毛した起毛部と、を有するエミッタと、
を備え、
前記カーボン層と前記起毛部とがナノカーボンから構成される、
ことを特徴とする。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る照明装置は、
本発明の第1の観点に係るエミッタ電極と、
前記エミッタ電極に対向して設置された蛍光体層と、
前記蛍光体層を挟んで前記エミッタ電極に対向するアノードと、
前記エミッタ電極と前記蛍光体層と前記アノードとが設置された発光管と、を備える、ことを特徴とする。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の第3の観点に係るエミッタ電極の製造方法は、
基板を用意する工程と、
前記基板上に導電層を形成する工程と、
前記導電層上に、所定のピッチでドットを形成する工程と、
前記ドットが形成された前記導電層上に、ナノカーボンとバインダとから構成されるカーボン層を、前記ドットのパターンに沿って凹凸状に形成する工程と、
前記基板を熱焼成して、前記バインダを分解するとともに、前記カーボン層の表面の前記ドットのエッジ近傍にひび割れを形成し、該ひび割れの周辺から、前記ナノカーボンの一部を起毛させることにより、エミッタを形成する熱焼成工程と、
を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高価な装置を必要とするレーザ照射を行わずにナノカーボンを起毛させることができ、良好な電子放出特性を備えるエミッタ電極及びその製造方法を提供することができる。さらにこのようなエミッタ電極を備えることにより発光特性の良好な照明装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るエミッタ電極の断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るエミッタ電極の作製工程を概念的に示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るエミッタ電極の作製工程を概念的に示す、エミッタ電極の正面図(a〜c−1)及び正面図(a〜c−1)それぞれのA−A’断面矢視図(a〜c−2)である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る電界放出発光素子の断面図である。
【図5】図4に示す電界放出発光素子の構成例を示す分解斜視図である。
【図6】本発明の実施例1に係るエミッタ電極の走査型電子顕微鏡像である。
【図7】本発明の実施例1に係るエミッタ電極の凹凸を3次元測定機により示す図である。
【図8】本発明の実施例1に係るエミッタ電極の凹凸を3次元測定機により示す図である。
【図9】本発明の実施例1に係るエミッタ電極の電界放出特性を示す図である。
【図10】本発明の実施例1に係る電界放出発光素子の発光の写真を示す図である。
【図11】本発明の実施例2に係る電界放出発光素子の発光の写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態に係るエミッタ電極とその製造方法について図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
(第1の実施の形態)
まず、本発明の第1の実施の形態に係るエミッタ電極(カソード基板)10について説明する。
【0016】
エミッタ電極10は、図1に示すように、基板11と、基板11上に形成されたカソード12と、さらにその上に形成されたエミッタ13と、から構成される。
【0017】
基板11は、ソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス等のガラス、水晶、石英等の絶縁性透明材料から構成される。ただし、その材質は、絶縁が取れる材質であればこれら以外のものでもよい。
【0018】
カソード12は、Au、Ag、Al、Cu、Fe、Ni、Co、Pd、Pt、Mo又はWの金属の群から1種類又は2種類の金属の合金、或いはインジウムスズ酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)に代表される透明電極の中から選ばれる導体から構成される。なお、透明電極は、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノホーン(CNH)等から構成される透明導電膜であってもよい。
【0019】
エミッタ13は、図1に示すように、カソード12上にパターン形成されたドット形状の部分(以下、ドットという)101と、カソード12上のドット101が配置された領域の全面に形成されたカーボン層102と、を備える。ドット101とカーボン層102とは、例えばCNTから構成される。エミッタ13はさらに、カーボン層102を構成するCNTの一部が起毛した起毛部106を備える。CNTは、単層CNT、二層CNT、多層CNT、又は単層CNTと二層CNTと多層CNTとの混合物から構成される。なお、ドット101とカーボン層102と起毛部106とは、CNH、CNT・CNH複合体材料、又はCNT・CNH混合材料等のナノカーボン材料から構成されてもよい。
【0020】
ドット101間のピッチは、好ましくは10μm〜0.1cmである。ドット101の幅又は径は、好ましくは50μm〜1000μmである。また、ドットの厚みは、0.5μm〜4μmであることが好ましい。カーボン層102は、好ましくは0.1μm〜10μmの均一な膜厚を備え、より好適には0.5μm〜3μmの均一な膜厚を備える。
【0021】
カーボン層102は、図2(a)に拡大して示すように、ドット101に沿って、その表面に凹凸を備える。またカーボン層102は、ドット101のエッジ104近傍に、ひび割れ103等を有する。起毛部106は、ひび割れ103の周辺から、基板11に対し約20度〜90度の角度で起毛したCNT105から構成される。起毛したCNT105はドット101のエッジ104近傍のカーボン層102上に主に存在するため、所定のピッチで配置されたドット101に応じて、ほぼ均一なピッチで配置されている。
【0022】
このような構成によれば、エミッタ電極10は、起毛したCNT105の先端部から効率よく電子を放出することができる。また、ドット101の幅、ピッチ等に応じて、CNTがほぼ均一に起毛しているので、エミッタ電極10は均一性に優れた電子放出特性を備える。
【0023】
次に、第1の実施の形態に係るエミッタ電極10の製造方法について、図2及び図3を用いて説明する。なお本実施の形態では、ドット101とカーボン層102の構成要素が後述する熱焼成工程の前後で異なるため、熱焼成工程後のドット101、カーボン層102に対し、熱焼成工程前のドット、カーボン層をドット101a、カーボン層102aと表す。
【0024】
先ず、基板11上に、カソード12を形成する。具体的には、Au、Ag、Al、Cu、Fe、Ni、Co、Pd、Pt、Mo又はWの金属の群から1種類又は2種類の金属の合金、或いは、ITO、ZnO、TiO等の透明電極の中から選択されるターゲットを配置して、これをスパッタリングすることで、基板11上に所定の膜厚に堆積させる。この膜をパターニングすることにより、図3(a−1、a−2)に示すように、カソード12を形成する。また、カソード12の形成においては、スパッタリング法に限定されず、選択された材料に応じて、蒸着法又はスクリーン印刷法を使用することが可能である。
【0025】
カソード12が形成された基板11上に、CNT、CNH、CNT・CNH複合体、CNT・CNH混合物のようなナノカーボン材料のペーストをスクリーン印刷により、所定のパターンでドット形状に塗布し、図3(b−1、b−2)に示すように、ドット101aを形成する。ドット101aの形成は、手塗り塗布又はスプレー法で行ってもよい。ドット101a間のピッチは、例えば10μm〜0.1cmであることが好ましく、ドット101a幅は、例えば50μm〜1000μmであることが好ましい。なお、エミッタ13のサイズやドット101aのピッチを制御することで、エッジ104の生成量、電子放出サイトの数等を調整することができる。
【0026】
次に、CNT、CNH、CNT・CNHの複合体、CNT・CNH混合物のようなナノカーボン材料のペーストを作成し、図3(c−1、c−2)に示すように、ドット101aの上の全面に塗布し、カーボン層102aを形成する。このとき、カーボン層102aは、前もって形成されたドット101aに沿って塗布されるので、図2(b)に拡大して示すように、ドット101aのパターンに応じて、表面が凹凸状に形成される。
【0027】
このペーストは、CNTとバインダと溶媒とを混合して作製される。さらに、このペーストに、CNTとカソード12との結合性等を向上させるガラスフリット、及びCNTの導電性を向上させる金属錯体又は導電性微粒子等を加えてもよい。ガラスフリットや導電性微粒子のサイズは、100nm〜100μmであることが好ましい。
【0028】
バインダは、セルロース系樹脂(エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース等)、アクリル樹脂(アクリル酸、メタクリル酸、メチルアセテート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート等)等から構成される。ペースト化に用いる溶媒は、バインダ樹脂成分を溶解するものが望ましく、テルピネオール及びブチルキルビロール等のアルコール類、ブチルカルビトールアセテート等のエステル類、N,N−ジメチルホルムアミド及びN−メチルピロリドン等のケトン類、エーテル類等の既知の溶剤から構成される。ガラスフリットは、Bi、P、Zn、B、Sn、V、Si、Pb又はその化合物等から構成される。また、金属錯体及び導電性微粒子は、Si、Mo、Ti、Ta、W、Nb、Zr、V,Cr,Hf又はその酸化物等から構成される。
【0029】
またカーボン層102aは、0.1μm〜10μmの厚さで均一に塗布することが好ましく、0.5μm〜3μmの厚さで塗布することがより好ましい。さらにドット101aとカーボン層102aの各々の厚みは自由に変えることができ、厚みの比率を変化させることで凹凸の大きさを制御することができる。例えば、ドット101aの割合を大きくし、カーボン層102aの割合を小さくすることで、凹凸を大きくすることができる。この時、ドット101aの厚みは1μm〜8μm、カーボン層102aの厚みは0.1μm〜2μmが好ましい。
【0030】
上記ペーストが塗布されたエミッタ電極10を大気中で350℃〜500℃で15分〜30分又は窒素中の雰囲気で約400℃〜700℃で約15分〜30分間焼成を行うことにより、バインダを除去する。この過程において、ドット101のエッジ104近傍のカーボン層102には、引張り応力が作用しているため、バインダが除去される際、図2(a)に示すように、エッジ104近傍のカーボン層102に、ひび割れ103等が生じる。その際、ひび割れ103の周辺からCNTが飛び出すことで、図1及び図2(a)に示すようにCNTが起毛する。このため、CNTはカーボン層102のうちドット101のエッジ104近傍で主に起毛する。また、この工程でバインダが除去されるため、ドット101、カーボン層102の厚みが、焼成前に比べて減少する。以上の工程により、エミッタ電極10が完成する。
【0031】
また、エミッタ電極10の焼成後にテープを使ったピーリングによる起毛処理を行うことによって、CNTがより均一に起毛し、電子放出効率及び均一性が向上する。これにより、エミッタ電極10を備える電界放出発光素子の発光の輝度及び均一性をさらに向上させることができる。
【0032】
このようなエミッタ電極10の作製方法によれば、レーザ照射による起毛処理のように高価な装置を用いずに、所望のピッチでCNTを起毛させることができる。また、熱焼成の工程によってCNTが起毛するため、別途CNTを起毛させる工程を設ける必要がない。さらに、熱焼成工程の後に、従来のピーリングによる起毛処理を行うことにより、CNTがより均一に起毛した電子放出源を備えるエミッタ電極を作製することが可能となる。
【0033】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態に係る電界放出発光素子20について説明する。電界放出発光素子20は、第1の実施の形態に係るエミッタ電極10を備え、その構成は第1の実施の形態に係るエミッタ電極10の構成と同様である。
【0034】
電界放出発光素子20は、図4及び5に示すように、エミッタ電極10とアノード基板30とスペーサ40と、から構成される。
【0035】
アノード基板30は、基板31と、その表面に形成されたアノード32と、アノード32の上に形成された蛍光体層33と、から構成される。基板31は、ソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス等のガラス、又は水晶、石英等の絶縁性透明材料から構成される。ただし、その材質は、絶縁が取れる材質であればこれら以外のものでもよい。アノード32は、ITO、ZnO、TiO等から構成される透明電極である。蛍光体層33は、電子線が照射されると蛍光を発する電子線励起蛍光体から構成され、例えば0.1μm〜100μmの膜厚になるように形成されている。この電子線励起蛍光体は、例えば、硫化物蛍光体、酸化物蛍光体、窒化物蛍光体から構成される。
【0036】
アノード基板30とカソード基板10は、図4に示すように、蛍光体層33とエミッタ13とが対向するように配置されている。スペーサ40は、アノード基板30とカソード基板10との間に設けられ、両基板10と30との間隔を所定値に維持すると共に基板間を封止している。両基板10と30との間の距離は0.1mm〜200mmであることが好ましく、より好適には1mm〜10mmである。封止された両基板10と30との間は、好ましくは1.0×10−3Pa以下、より好適には1.0×10−4Pa以下の真空状態にある。またアノード32及びカソード12は、図4に示すように、リード線により、電源50又は図示せぬ電圧端子にそれぞれ接続されている。
【0037】
電界発光放出素子20はさらに、発光管等の発光用容器、通常の照明装置に必要なその他部品等を備えることにより、照明装置を構成する。
【0038】
このような構成によれば、電界発光放出素子20は効率よく且つほぼ均一に電子を放出することができるエミッタ電極を備えるため、発光輝度が良好で、発光輝点がほぼ均一となる。また、電界発光放出素子20を備える照明装置は、良好な発光特性を有する。
【0039】
次に、第2の実施の形態に係る電界放出発光素子20の製造方法を説明する。電界放出発光素子20は、エミッタ電極10を備え、エミッタ電極10の製造方法は第1の実施の形態に係るエミッタ電極10の製造方法と同様である。
【0040】
まず、アノード基板30の製造方法について説明する。基板31に、アノード32を形成するため、ITO、ZnO,TiO等の透明電極のターゲットを配置して、これをスパッタリングすることで、基板31上に所定の膜厚に堆積させる。この膜をパターニングすることにより、アノード32を構成する。アノード32は、CNT、CNH等から構成される透明導電膜であってもよい。また、選択された材料に応じて、蒸着法又はスクリーン印刷法を使用することが可能である。
【0041】
次に、アノード32が形成された基板31上に蛍光体層33を形成する。蛍光体とバインダと溶媒とを混合し、ペースト化する。このペーストをスクリーン印刷により、例えば0.1μm〜100μmの膜厚で基板31上に塗布する。塗布された蛍光体層33のバインダを除去するために大気中で350℃〜500℃で15分〜30分もしくは窒素中の雰囲気で400℃〜700℃で15〜30分焼成を行う。以上の工程により、アノード基板30が完成する。
【0042】
上記実施の形態において、蛍光体層33の形成は、スクリーン印刷に限られず、手塗り塗布、スプレー印刷、真空蒸着、又はスパッタ法を使用することができる。また、使用する蛍光体は、例えば、電子線が照射されると蛍光を発する電子線励起蛍光体である硫化物蛍光体、酸化物蛍光体、又は窒化物蛍光体から構成される。またバインダは、ニトロセルロース、エチルセルロース、アクリル樹脂等から構成される。溶媒は、テルピネオール、酢酸アミル、酢酸ブチル、IPA、トルエン、キシレン等から構成される。
【0043】
次に、大気中の雰囲気で、アノード基板30、カソード基板10、スペーサ40、排気用ガラス管を封着用フリットガラスで貼り合わせ、400℃〜500℃で15分〜30分焼成して組立てる。組立てたデバイスの排気用ガラス管から真空引きを行い、電界放出発光素子20内部を真空に封止し、電界放出発光素子20を作製する。電界放出発光素子20の内部は、好ましくは高真空度1.0×10−3Pa以下、より好適には1.0×10−4Pa以下になるように真空引きを行う。さらにアノード32及びカソード12を、図4に示すように、リード線により、電源50又は図示せぬ電圧端子にそれぞれ接続する。以上の工程により、電界放出発光素子20が完成する。
【0044】
このような電界放出発光素子20の作製方法によれば、レーザ照射等による起毛処理のように高価な装置を用いることなく、電子放出源であるCNTを起毛させることができるため、良好な発光特性を備える電界放出発光素子の実生産化が可能となる。
【0045】
また、電界発光放出素子20を発光管等の発光用容器に設置し、通常の照明装置に必要な部品等を設けることにより、照明装置又は電界ライトとして用いることが可能である。
【0046】
以上、本発明の第1および第2の実施の形態を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限られず、様々な変形及び応用が可能である。
【0047】
上記実施の形態において、ドット101aをスクリーン印刷する時に、ナノカーボン材料を含めず、バインダと溶媒とから構成されるペーストを塗布することも可能である。溶媒及びバインダは、塗布後、熱焼成工程を経ることで除去されるため、バインダと溶媒とから構成されるドット101aは、熱焼成工程で除去される。従って、ナノカーボン材料を含まないペーストを塗布してドット101aを形成した場合、エミッタ13は、ドット101を備えず、カーボン層102と、カーボン層102から起毛したCNT105から構成される。
【0048】
またドット101aの形状は、スクリーン印刷やマスクによるスプレー塗布という製造工程上、四角が容易であり好ましいが、楕円等でも構わない。
【0049】
またカーボン層102aは、手塗り塗布又はスプレー法を使用して形成されてもよい。
【0050】
またカーボン層102には、ドット101のエッジ104近傍以外の領域にひび割れ103等が形成されてもよい。例えば、ドット101とカソード12とが接する領域のカーボン層102には、圧縮応力が作用しているため、焼成工程において、ひび割れ103や歪みが形成されてよい。この場合、カーボン層102に作用する応力の向き及びカーボン層102の凹凸形状等によって、CNTはエッジ104近傍では起毛するが、ドット101と導電層12とが接する領域等の他の領域ではほとんど起毛しない。そのため、エッジ104以外の領域にひび割れ103等が形成された場合においても、CNTは主にエッジ104近傍で起毛する。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を示し、さらに詳しく本発明について例示する。以下の例は、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
【0052】
(実施例1)
本発明の実施の形態に係る製造方法でエミッタ電極を作製し、その電極の電子放出特性を評価した。
【0053】
多層CNT(200mg)は、αテルピネオール(15ml)中で30分間超音波にて分散させた。その分散液に200mgのセルロース系有機バインダと400mgのガラスフリットを混ぜ、30分間超音波分散を行い、ペーストを調整した。この多層CNTペーストを、ドット径が0.1mm、ドット間隔が0.05mm、厚みが1μm程度になるように、ITOをスパッタしたガラス基板上にスクリーン印刷した。
【0054】
ドット状に塗布した後、多層CNTペーストをスクリーン印刷により、厚みが約1μmになるように全面に塗布した。その後、有機バインダを除去するために窒素雰囲気下550℃で熱処理を行った。
【0055】
上記手法で作製したエミッタ電極を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、図6に示すように、ドット状に線が観察された。なお図6では、観察されたドット状の線を明確にするため、それをなぞった線(円状の線)を示す。また、図6に示すSEM像中のB−B’点線部について、3次元測定機を使って断面観察を行った結果、図7に示すように、エミッタ電極の表面にドットパターンを反映した凹凸が生成しているのが確認された。さらに、図6のSEM像中の矢印C’で示す領域(四角で囲まれた領域)を、3次元測定機を使って3D像にて観察したところ、図8に示すように、エミッタ電極表面上にドット状に凹凸ができていることが確認された。
【0056】
上記で得られたエミッタ電極を使用して電界放出測定を行った。ここでアノード電極は、透明なガラス基板の表面に、ITOを塗布し、その上に蛍光体を塗布することで作製した。電極サイズは2cm×2cm、電極間距離は3mmに設定した。ランプ内部の真空度は、4×10−5Paであった。比較のために、ドットを形成せずにカソード電極の全面に多層CNTペーストをスクリーン印刷することで、ドットによる凹凸形状を有さないカーボン層のみを備えるエミッタ電極と、多層CNTペーストをドット状にスクリーン印刷しただけでカソード電極の全面には塗布しないことにより、ドットは備えるがカーボン層を有しないエミッタ電極と、を作製した。これら電極の電界放出による電流電圧特性において、図9に示すように、ドット状と全面とに二段塗布し、ドットとそのドット上にカーボン層とを備えるエミッタ電極は、0.75kV/mmから発光が開始したが、それ以外は1.2kV/mmまでほとんど発光しなかった。また、図10に1.2kV/mmの時の蛍光体のデジカメ写真の図を示す。ドット状と全面とに二段塗布したエミッタ電極は、図10(b)に示すように、輝点が多く、均一に発光することが確認された。それに対して、全面にのみCNTペーストを塗布したエミッタ電極(図示せず)及びドットのみ塗布したエミッタ電極では、図10(a)に示すように、ほとんど輝点がなかった。このことから、本発明によるエミッタ電極は、ピーリングなしでもCNT電界放出素子として使用できることが確認された。
【0057】
(実施例2)
ドット幅を0.05mm、ドット間隔を0.05mmで多層CNTペーストを塗布し、それ以外は実施例1と同様の条件でエミッタ電極を作製した。図11に示す発光時のデジカメ写真の図から、ドットを小さくすることで、同じ電界では輝点の数が増加することが確認された。
【0058】
(実施例3)
ドット幅を0.1mm、ドット間隔を0.05mm、ドットの厚みを実施例1のドット厚の約2倍、約2μmにし、その後に全面に塗布するペーストの厚みを実施例1の厚みの半分、約0.5μmにした。それ以外は、実施例1と同様の条件でエミッタ電極を作製した。走査型電子顕微鏡で観察した結果、ドット状の線が電極上で実施例1に比べはっきりと観察することができた。また、レーザ顕微鏡観察においても凹凸が大きくなっていることが確認された。
【0059】
(実施例4)
実施例1と同様の条件で作製したエミッタ電極を焼成後、テープによりピーリングを施した。得られた電極を使って電界放出測定を行った。その結果、ピーリング処理を行ったエミッタ電極では、ピーリングを施さなかったエミッタ電極と比べて、同じ電圧で2倍の電流を得ることができ、発光特性が向上した。さらにデジカメ写真の図から輝点が増加していることが確認された。
【符号の説明】
【0060】
10 エミッタ電極(カソード基板)
20 電界放出発光素子
30 アノード基板
11、31 基板
12 カソード(導電層)
13 エミッタ
32 アノード
33 蛍光体層
40 スペーサ
50 電源
101、101a ドット
102、102a カーボン層
103 ひび割れ
104 エッジ
105 CNT
106 起毛部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノカーボンから構成されるエミッタから電子を放出するエミッタ電極であって、
基板と、
前記基板上に形成された導電層と、
前記導電層上に表面が所定のピッチで凹凸状に形成され且つ該凹凸状の部分にひび割れを有するカーボン層と、該ひび割れの周辺から起毛した起毛部と、を有するエミッタと、
を備え、
前記カーボン層と前記起毛部とがナノカーボンから構成される、
ことを特徴とするエミッタ電極。
【請求項2】
前記エミッタが、
前記導電層上に所定のピッチで配置されたドットと、
前記導電層上に、前記ドットに沿って表面が凹凸状に形成され、該ドットのエッジ近傍に前記ひび割れを有する前記カーボン層と、
前記ドットの前記エッジ近傍に形成された前記ひび割れの周辺から起毛した前記起毛部と、
を備え、
前記ドットと前記カーボン層と前記起毛部とがナノカーボンから構成される、ことを特徴とする請求項1に記載のエミッタ電極。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエミッタ電極と、
前記エミッタ電極に対向して設置された蛍光体層と、
前記蛍光体層を挟んで前記エミッタ電極に対向するアノードと、
前記エミッタ電極と前記蛍光体層と前記アノードとが設置された発光管と、を備える、ことを特徴とする照明装置。
【請求項4】
基板を用意する工程と、
前記基板上に導電層を形成する工程と、
前記導電層上に、所定のピッチでドットを形成する工程と、
前記ドットが形成された前記導電層上に、ナノカーボンとバインダとから構成されるカーボン層を、前記ドットのパターンに沿って凹凸状に形成する工程と、
前記基板を熱焼成して、前記バインダを分解するとともに、前記カーボン層の表面の前記ドットのエッジ近傍にひび割れを形成し、該ひび割れの周辺から、前記ナノカーボンの一部を起毛させることにより、エミッタを形成する熱焼成工程と、
を備える、ことを特徴とするエミッタ電極の製造方法。
【請求項5】
前記熱焼成工程は、前記基板を熱焼成して、前記ドットの前記エッジ近傍に形成された前記カーボン層に応力を生じさせることで、前記ひび割れを形成する、ことを特徴とする請求項4に記載のエミッタ電極の製造方法。
【請求項6】
前記ドットが、ナノカーボンから構成される、ことを特徴とする請求項4又は5に記載のエミッタ電極の製造方法。
【請求項7】
前記ドットが、高分子化合物から構成される、ことを特徴とする請求項4又は5に記載のエミッタ電極の製造方法。
【請求項8】
前記エミッタを形成する工程の後に、起毛処理を行うことにより、前記カーボン層を構成する前記ナノカーボンをさらに起毛させる工程を備える、ことを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項に記載のエミッタ電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−18512(P2011−18512A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161575(P2009−161575)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(300022353)NECライティング株式会社 (483)
【Fターム(参考)】