説明

エレクタ装置

【課題】セグメント把持部のトンネル径方向の動作量を変更せずに、押出セグメントを把持できるエレクタ装置を提供する。
【解決手段】トンネル長手方向に沿って移動可能でトンネル周方向に沿って旋回可能な旋回部材(旋回リング)22と、この旋回部材22に対しトンネル径方向に沿って移動可能に組み付けられる腕部材27と、この腕部材27に対しトンネル径方向とトンネル長手方向とに向けて90度回動可能に組み付けられるセグメント把持部材29と、を備えるエレクタ装置20。腕部材27は、旋回部材22に対しトンネル長手方向に沿って移動可能でトンネル径方向動作部材(伸縮ジャッキ)24を介して組み付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドトンネルの拡幅部施工用に用いられる押出セグメントの把持に対応したエレクタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シールドトンネルの分合流部や非常駐車帯や地下鉄駅等の拡幅部の施工において、一部のセグメントに押出セグメントを用い、その押出セグメントをトンネル外方に押し出して拡幅部を構築する拡幅工法がある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、シールド機に備えられるエレクタ装置において、セグメント把持部を、前後方向軸及び上下方向軸の各軸回りに回転動作させ、さらに、左右方向軸の軸回りに動作させるようにしたものがある(例えば特許文献2、3参照)。その左右方向軸回りの回転はピッチングジャッキによる揺動動作である。
【特許文献1】特開2004−27711号公報
【特許文献2】特開2003−336499号公報
【特許文献3】特開2004−339802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
押出セグメントを用いる場合、一般セグメントよりトンネル径方向の寸法が大きいことから、エレクタ装置は、押出セグメントを把持する際に、一般セグメントの把持に比べてセグメント把持部のトンネル径方向の動作量を大きくする必要がある。
このように、押出セグメントに対応してセグメント把持部のトンネル径方向の動作量を大きくすると、セグメント組立効率が下がってしまう。
【0005】
本発明の課題は、セグメント把持部のトンネル径方向の動作量を変更せずに、押出セグメントを把持できるエレクタ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、例えば図1、図2、図5及び図6に示すように、トンネル長手方向に沿って移動可能でトンネル周方向に沿って旋回可能な旋回部材(旋回リング)22と、この旋回部材22に対しトンネル径方向に沿って移動可能に組み付けられる腕部材27と、この腕部材27に対しトンネル径方向とトンネル長手方向とに向けて90度回動可能に組み付けられるセグメント把持部材29と、を備えるエレクタ装置20を特徴とする。
【0007】
このように、トンネル長手方向に沿って移動可能でトンネル周方向に沿って旋回可能な旋回部材22に対しトンネル径方向に沿って移動可能に腕部材27を組み付け、この腕部材27に対しトンネル径方向とトンネル長手方向とに向けて90度回動可能にセグメント把持部材29を組み付けたので、一般セグメントSよりトンネル径方向の寸法が大きい押出セグメントS1の場合には、腕部材27に対しセグメント把持部材29をトンネル径方向からトンネル長手方向に向けて90度回動させることにより、押出セグメントS1をトンネル長手方向に向いた前面で把持できる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のエレクタ装置20であって、例えば図1、図2、図4から図7に示すように、前記腕部材27は、前記旋回部材22に対しトンネル長手方向に沿って移動可能であることを特徴とする。
【0009】
このように、旋回部材22に対しトンネル長手方向に沿って腕部材27が移動可能なので、押出セグメントS1を把持する際は、旋回部材22に対し腕部材27をトンネル長手方向に移動させることにより、セグメント把持部材29を押出セグメントS1に対しトンネル長手方向に向いた前面の位置に配置できる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のエレクタ装置20であって、例えば図1、図2、図4から図7に示すように、前記腕部材27は、前記旋回部材22に対しトンネル径方向動作部材24を介して組み付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、トンネル径方向に沿って移動可能に旋回部材に組み付けた腕部材に対しセグメント把持部材をトンネル径方向からトンネル長手方向に向けて90度回動させることにより、一般セグメントよりトンネル径方向の寸法が大きい押出セグメントをトンネル長手方向に向いた前面で把持できる。このため、押出セグメントを把持する際に、一般セグメントの把持に比べてセグメント把持部のトンネル径方向の動作量を大きくする必要がなく、従って、セグメント組立工率の低下を解消できるといった利点が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
本発明を適用したシールド機は、図1に示すように、スキンプレート1、隔壁2、前面カッタ3、駆動モータ4、コピーカッタ5、チャンバ6、排泥スクリューコンベア7、シールドジャッキ8、テールシール9、部分拡幅カッタ11、駆動モータ12、突出格納動作ジャッキ13、格納ケース14、フレーム15、後方作業台16、エレクタ装置20、セグメント形状保持装置30等を備える。
【0013】
エレクタ装置20は、シールド機内のシールドジャッキ8後部のフレーム15に対し、図2にも示すように、周方向に多数の支持ローラー21を介してシールド軸心回りに旋回可能な旋回リング22に組み付けられている。
なお、旋回リング22の後方に離間して円筒コラム23が配置されており、この円筒コラム23は、後方作業台16の支持、排泥スクリューコンベア7、図示しない排泥管及び送泥管等の配管・配線スペース、通路となっている。
【0014】
そして、旋回リング22の後面には、その周方向の一箇所にトンネル径方向動作部材である伸縮ジャッキ24を組み付けている。この伸縮ジャッキ24において、旋回リング22の接線方向と平行する方向に沿って伸縮動作するベース部材25には、トンネル軸方向と平行する2本のガイド軸26が備えられており、これら2本のスライド軸26に腕部材27をガイド動作可能に組み付けている。
この腕部材27には、トンネル周方向(トンネル接線方向と平行する方向)に沿った1本の支軸28が備えられており、この支軸28にセグメント把持部材29を回動可能に組み付けている。
【0015】
このセグメント把持部材29は、そのセグメント把持具29aを備える面が、図2に示したように、一般セグメントSの把持に対応してトンネル径方向に向けた位置を基準に、図1に示したように、押出セグメントS1の把持に対応してトンネル長手方向の後方(坑口側)に向けた90度の位置との間を回動する。
なお、図示では省略したが、旋回リング22を旋回動作させる駆動源、ベース部材25のガイド軸26に沿って腕部材27をスライド動作させる駆動源と、腕部材27の支軸28回りにセグメント把持部材29を90度回動動作させる駆動源が備えられている。
【0016】
エレクタ装置20の後方のセグメント形状保持装置30は、後方作業台16に備えられたフレーム枠31に対し、図3にも示すように、トンネル長手方向から見てX型をなす斜め上下及び左右方向に向いた4組の伸縮ジャッキ32及びセグメント押圧部材33を備えた構成である。従って、上下に押出セグメントS1が出っ張り部となるセグメントリングに対して、上下の押出セグメントS1を避けた効果的な形状保持が行える。
そして、セグメント形状保持装置30のX型配置による斜め上下の伸縮ジャッキ32及びセグメント押圧部材33間のトンネル一側方空間が、図示のように、セグメント搬入経路とされる。従って、上下に押出セグメントS1が出っ張り部となるセグメントリングにおいて、上下の押出セグメントS1を避け、その側方空間を利用したセグメント搬入が行える。
さらに、後方作業台16の後方には、図示しないが、上下の押出セグメントS1を外側にそれぞれ押し込む上下のセグメント押込装置が備えられている。
【0017】
次に、以上のシールド機によるトンネルの合流部・分流部構築手順を説明する。
まず、通常は前面カッタ3によりトンネルを掘進していくとともに、後側のエレクタ装置20により旋回リング22の旋回動作させつつ一般セグメントSを組み立ててセグメントリングを覆工していく。
【0018】
図4はエレクタ装置20による一般セグメントSの組立を説明するもので、図示例では、側方空間を利用して搬入されたトンネル径方向に4個一組の一般セグメントSの内周面に形成される図示しない係合溝に、セグメント把持部材29のセグメント把持具29aを係合してから、伸縮ジャッキ24を伸張させて一般セグメントSを組み立てる。
その後、セグメント把持組立に対応してエレクタ装置20を図示反時計回りの一定方向に旋回動作させる。
【0019】
そして、合流部・分流部を施工する開始時点に達すると、前面カッタ4による掘進を継続するとともに、ジャッキ13を伸張動作させて、スキンプレート1前部の部分拡幅カッタ11を上下に同期して斜め前方に突出動作させて地山に張出すとともに、駆動モータ12の駆動で回転駆動される部分拡幅カッタ11により上下の部分拡幅部掘削を開始する。この部分拡幅カッタ11による上下の部分拡幅部掘削施工に対応する区間において、エレクタ装置20により一般セグメントS及び上下の押出セグメントS1を組み立ててセグメントリングを覆工していく。
【0020】
図5はエレクタ装置20による下部の押出セグメントS1の組立を説明するもので、これに先立ち、腕部材27を、図1に示すように、ベース部材25の2本のガイド軸26に沿ってトンネル長手方向の前方(切羽側)に移動させる。
そして、セグメント把持部材29を支軸28回りにトンネル長手方向の後方(坑口側)に向けて図1で反時計回りに90度回動動作させて、セグメント把持具29aを後方(坑口側)に向けておく。
次いで、図5の例では、3個の一般セグメントSとともに一組をなす押出セグメントS1の前面をセグメント把持部材29で把持する。すなわち、押出セグメントS1の前面の外周寄り部分に形成される図示しない係合溝にセグメント把持具29aを係合してから、伸縮ジャッキ24を伸張させて一般セグメントSとともに押出セグメントS1を組み立てる。
【0021】
図6はエレクタ装置20による次の一般セグメントSの組立等を説明するもので、これに先立ち、腕部材27を、図1に仮想線で示すように、ベース部材25の2本のガイド軸26に沿ってトンネル長手方向の後方(坑口側)に移動させる。
そして、セグメント把持部材29を支軸28回りに図示反時計回りに90度回動動作させて、セグメント把持具29aをトンネル径方向の外方に向けておく。
次いで、図6に示すように、4個一組の一般セグメントSの内周面に形成される係合溝に、セグメント把持部材29のセグメント把持具29aを係合してから、伸縮ジャッキ24を伸張させて一般セグメントSを組み立てる。
その後、下部の押出セグメントS1と同様にして、セグメント把持部材29により上部の押出セグメントS1を把持して組み立てる。
【0022】
図7はエレクタ装置20によるキーセグメントS2の組立を説明するもので、上部の押出セグメントS1の組立後、一般セグメントSと同様にして、セグメント把持部材29により上部のキーセグメントS2を組み立てる。これにより、一つのセグメントリングが組み立てられる。
【0023】
続いて、後方作業台16において、シールド機が進行するに伴いシールドテール(シール)9から放出された(地山に残置された)時点で、セグメント形状保持装置30のX型配置による斜め上下の伸縮ジャッキ32を伸張動作させてセグメント押圧部材33により一般セグメントSを押圧する。また、図示しないセグメント押込装置により上下の押出セグメントS1を掘削部分拡幅部に押し込んでいく。
以上の部分拡幅部掘削を伴う掘進及び覆工は所定区間、すなわち、合流部・分流部の設計長に到達するまで継続して行われる。
【0024】
そして、合流部・分流部の設計長に到達した時点で、部分拡幅カッタ11をジャッキ13の収縮動作によりスキンプレート1内に格納して、通常の掘進を行うとともに、一般セグメントS1だけを組立ててセグメントリングを覆工していく。
以上の部分拡幅部掘削を伴う掘進及び覆工は、同様構成で例えばサイズが大小異なるシールド機を用いて、本線トンネルの隣にランプトンネルを並べて施工する。
その後、覆工が完了した拡幅区間において、上下の地山に対する薬液注入工、上下の押出セグメント間の長尺鋼管フォアパイリングによるアーチ状の支保工、その上下の支保工間の地山掘削、押出セグメント間にわたる鋼殻設置、その鋼殻内へのコンクリート打設工の後、セグメントリング間の互いに隣接するセグメントを撤去して、本線トンネルとランプトンネルを横方向に連続させる。
こうしてシールドトンネルの合流部・分流部の施工を終える。
【0025】
以上のとおり、エレクタ装置20によれば、押出セグメントS1の場合には、腕部材27に対しセグメント把持部材29を支軸28回りにトンネル長手方向の後方(坑口側)に向けて図1で反時計回りに90度回動動作させて、その後方(坑口側)に向けたセグメント把持具29aにより、押出セグメントS1をトンネル長手方向に向いた前面で把持できる。
従って、押出セグメントS1を把持する際に、一般セグメントSの把持に比べてセグメント把持部のトンネル径方向の動作量を大きくする必要がなく、これにより、セグメント組立工率の低下を解消できるものとなる。
【0026】
また、旋回リング22後面の周方向一箇所に組み付けられた伸縮ジャッキ24に腕部材27を片持ち式に備えたことにより、押出セグメントS1に近接する一般セグメントSの組立時に出っ張り部である押出セグメントS1の影響を受けないといった利点がある。
そして、エレクタ装置20に供給されたセグメントピースの組立所定位置までの旋回は、伸縮ジャッキ24側が腕部材27側より先行する一定方向(坑口側から見た縦断正面で反時計廻り)と定めたことにより、特に下部にある出っ張り部となる押出セグメントS1の影響を避けることができる利点もある。
また、セグメント把持部材29を備える腕部材27について、トンネルの手前(坑口側)と奥側(切羽側)に移動させるためのガイド軸26を、伸縮ジャッキ24のベース部材25に配置したことにより、把持装置を包む装置のコンパクト化が図られている。
【0027】
なお、以上の実施形態においては、分合流部施工用の上下に配置する押出セグメントとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、非常駐車帯や地下鉄駅等、他の拡幅部施工用の側方に配置する押出セグメントであっても良い。
また、エレクタ装置の構成部材及びその形状等も任意であり、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を適用したエレクタ装置の一実施形態の構成を示すもので、シールド機の縦断側面図である。
【図2】図1のエレクタ装置部分を示すもので、手前側(坑口側)から奥側(切羽側)を見た縦断正面図である。
【図3】図1の形状保持装置部分を示すもので、手前側(坑口側)から奥側(切羽側)を見た縦断正面図である。
【図4】図2のエレクタ装置による一般セグメント組立を説明する縦断正面図である。
【図5】図2のエレクタ装置による下部の押出セグメント組立を説明する縦断正面図である。
【図6】図2のエレクタ装置による次の一般セグメント組立等を説明する縦断正面図である。
【図7】図2のエレクタ装置による上部の押出セグメント組立後のキーセグメント組立を説明する縦断正面図である。
【符号の説明】
【0029】
S 一般セグメント
S1 押出セグメント
3 前面カッタ
11 部分拡幅カッタ
20 エレクタ装置
21 支持ローラー
22 旋回部材(旋回リング)
23 円筒コラム
24 トンネル径方向動作部材(伸縮ジャッキ)
25 ベース部材
26 ガイド軸
27 腕部材
28 支軸
29 セグメント把持部材
30 セグメント形状保持装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル長手方向に沿って移動可能でトンネル周方向に沿って旋回可能な旋回部材と、
この旋回部材に対しトンネル径方向に沿って移動可能に組み付けられる腕部材と、
この腕部材に対しトンネル径方向とトンネル長手方向とに向けて90度回動可能に組み付けられるセグメント把持部材と、を備えることを特徴とするエレクタ装置。
【請求項2】
前記腕部材は、前記旋回部材に対しトンネル長手方向に沿って移動可能であることを特徴とする請求項1に記載のエレクタ装置。
【請求項3】
前記腕部材は、前記旋回部材に対しトンネル径方向動作部材を介して組み付けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のエレクタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−32002(P2007−32002A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−214189(P2005−214189)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】