説明

エレベータかご内乗車確認装置

【課題】かご内の乗車有無を確認することができ、しかも、遠隔操作による保守点検を自動かつ安全に行なうことができる。
【解決手段】上位コントローラからの速度指令によりエレベータ運転方向(上昇下降)をエレベータ運転方向判定部35で判定する。この運転方向判定部35が判定した運転方向の出力は計測判定部34に与えられる。INV出力電流検出部36は三相/二相変換部24から出力されるd軸電流検出値id、q軸電流検出値iqが供給され、これら検出値からINV出力電流値iacが次式で算出されて、計測判定部34に供給される。INV出力電流=√(id2+iq2
計測判定部34ではエレベータかご運転方向による計測開始判定、エレベータかご中間位置でのINV出力電流値iacoの記録、計測保存されたINV出力電流値iacと基準値(iaco±検出誤差)の比較を行い、基準値内であれば、かご内は無人と判定し、その旨を上位コントローラに知らせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、荷重センサ無しのエレベータにおけるかご内乗車確認装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5(a)はエレベータ駆動装置の概略構成図で、この図5(a)においては、1はエレベータのかご、2はロープ、3はブレーキ付きのエレベータ駆動装置、4はバランスウエイトである。このように構成されたエレベータ駆動装置では、ブレーキ開放時に、かご1が荷重トルクTにより落下しないように、図6(a)の破線で示すよう、荷重センサの荷重情報により、かご荷重を保持するのに必要な保持トルクを、ブレーキ開放前から出力させるようにしている。このときに出力する保持トルクは、かご荷重を検出するロードセルのような荷重センサからの信号によって決定している。
【0003】
上記のように保持トルクをブレーキ開放前から出力させているのは、ブレーキ開放前に保持トルクを出力しないと、図6(b)に示す実線のように速度が逆転して、かご1が、図5(b)に示す矢印dの方向に、かご荷重により落下し始めてしまうからである。
【特許文献1】特開2007−106542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エレベータの保守点検を、遠隔操作でエレベータを走行させながら自動で行う場合、安全上のために人を乗車させない状態で行う必要が生じる。この場合、荷重センサ付きのエレベータであれば、乗車の有無の確認は容易に行なうことができるけれども、荷重センサ無しのエレベータの場合には、かごが一定時間停止し続けている状態を確認する等の手段もある。しかし、エレベータのかご内に人が、乗車していることの最終確認は、かご内に設置された監視カメラによる目視の必要性が生じる問題がある。
【0005】
この発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、エレベータかご内に監視カメラ無しでも、かご内の乗車有無を確認することができ、しかも、遠隔操作による保守点検を自動かつ安全に行なうことができるエレベータかご内乗車確認装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記の目的を達成するために、第1発明は、速度指令を速度制御部、トルク制御部を介して電流制御系に供給し、その電流制御系を有するインバータによりPMモータを駆動してエレベータかごを駆動するエレベータかご駆動装置において、
速度指令の符号によりエレベータかご運転方向を判定して、その運転方向を出力するエレベータかご運転方向判定部と、インバータの出力電流が入力され、出力にインバータ出力電流値を送出するインバータ出力電流検出部と、PMモータに設けられたエンコーダからのパルス信号をカウントし、そのカウント値からエレベータかご位置出力を送出するかご位置検出部と、前記運転方向判定部、インバータ出力電流検出部及びかご位置検出部の各出力が入力され、エレベータかご運転方向による計測開始判定、特定のエレベータかご位置でのインバータ出力電流値の記録、記録されたインバータ電流出力値と予め計測された基準値との比較判定を行い、電流出力値が基準値以内であれば、かご内は無人と判定する計測判定部とを備えたことを特徴とするものである。
【0007】
第2発明は、前記計測判定部における基準値の計測は、エレベータかごを最上階に移動させ、かごを空荷にした状態でそれを最下階まで駆動運転させ、かご位置が昇降路の中間位置を通過した時のインバータ電流出力値(iaco)を記録することにより得ることを特徴とするものである。
【0008】
第3発明は、前記計測判定部が基準値を記録した状態で、かご内の乗車状況を判定するには、エレベータかごを最上階に移動させ、その後、それを最下階まで運転させて、エンコーダからのパルス信号によるかご位置から、かごが中間位置を通過したと判定した時のインバータ電流出力値(iac)を保存し、エレベータかご停止後、保存された電流出力値(iac)と記録した基準値の比較判定を計測判定部が行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、荷重センサ無しのエレベータシステムにおいて、エレベータかご内に監視カメラなどによる目視をすることなく、かご内の乗車有無を確認することができるとともに、遠隔操作による保守点検を自動かつ安全に行なうことができる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
図1はこの発明の実施の形態を示す荷重センサ無しのエレベータかご駆動装置の制御構成図で、図1において、図示しない上位コントローラからの運転指令、速度指令が速度制御部21に入力され、その出力にトルク指令T*を得る。このトルク指令T*は、トルク制御部22に与えられると、その出力にd,q2軸のトルク電流指令iq*と界磁電流指令id*が出力されて電流制御部23に供給される。
【0012】
電流制御部23には、前記トルク電流指令iq*及び界磁電流指令id*と、三相/二相変換部24からの電流検出値id,iqと、角速度検出部25から角速度ωとが供給され、それらの比較により出力に電圧指令Vd*,Vq*が送出される。
【0013】
電流制御部23から送出された電圧指令Vd*,Vq*は、二相/三相変換部26に入力され、ここで、三相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に変換される。変換された電圧指令Vu*,Vv*,Vw*は、PWM制御部27に供給され、この電圧指令を基にしてインバータ28がPWM制御される。PWM制御されたインバータ28によりPMモ−タ29の電機子電流が制御される。
【0014】
PMモータ29の電機子電流の各相検出電流iu,iv,iwは、三相/二相変換部24に供給され、出力に電流制御部23に供給される電流検出値id,iqを得る。
【0015】
30はロータリエンコーダで、このエンコーダ30は、PMモータ20のロータ(電機子)位置をパルス信号Pとして出力するとともに、そのパルス信号Pを位置検出部31、速度検出部32及びエレベータかご位置検出部33に供給する。
【0016】
位置検出部31ではパルス信号Pから位相信号θを得、その位相信号θを三相/二相変換部24と二相/三相変換部26に与えて、座標変換のための基準位相信号としている。
【0017】
パルス信号Pが与えられた速度検出部32は、出力に速度ωrを得、その速度ωrは速度制御部21と角速度検出部25に与えられる。また、パルス信号Pが与えられたかご位置検出部33では、そのパルス信号Pをカウントし、エレベータかご位置信号Lを送出し、その出力信号Lが計測判定部34に与えられる。
【0018】
35は図示しない上位コントローラからの速度指令の符号によりエレベータ運転方向(上昇/下降方向)を判定するエレベータ運転方向判定部で、この運転方向判定部35が、判定した運転方向の出力は計測判定部34に与えられる。
【0019】
36はインバータ(INV)出力電流検出部で、このINV出力電流検出部36は、三相/二相変換部24から出力されるd軸電流検出値id、q軸電流検出値iqが供給され、これら検出値からINV出力電流値iacが次式で算出されて、計測判定部34に供給される。
【0020】
INV出力電流=√(id2+iq2
計測判定部34では、エレベータかご運転方向による計測開始判定、エレベータかご中間位置でのINV出力電流値を記録、計測保存されたINV出力電流値iacと基準値(iaco±検出誤差)の比較を行い、基準値内であれば、かご内は無人と判定し、その旨を上位コントローラに知らせる。
【0021】
上記のように構成されたエレベータかご駆動装置の制御構成において、エレベータを走行させて保守点検を遠隔操作で自動にて行うにあたり、まず、その点検実施前確認運転を行う前に、次のような計測を計測判定部34で実施する。この実施の方法を、図2、図3により述べる。
【0022】
図2は保守点検実施前のエレベータの確認運転方法のフローチャートで、ステップS1で計測運転かを判定する。この計測運転においては、上位コントローラからの指令によりエレベータかごを最上階に移動させ、図3に示す[最上階Start]位置から、かご内を空荷にした状態で最下階の「最下階Stop」位置まで駆動運転させる。
【0023】
ステップS1で計測運転であると判定したなら(Yes)、ステップS2において、エレベータかご上昇運転であるかを判定し、(No)なら、エレベータのかご位置がエレベータのかご昇降路のロープ等の質量の影響を低減させる中間位置(図2に示すL0/2の位置)を通過した時のINV電流出力値(iaco)を記録する(ステップS3)処理を開始する。なお、ステップS2で(Yes)なら処理を終了する。
【0024】
前記昇降路の中間位置(L0/2)については、エレベータ施工時の位置学習運転(各階床に設置されたリミットスイッチ位置を確認するための運転)により記録される。
【0025】
前記ステップS3でINV出力電流記録あり(Yes)の場合を終了する。また、ステップS3で出力電流記録ない(No)と判定したなら、ステップS6の処理に進む。
【0026】
ステップS6は「かご位置カウンタ>=L0/2」であるかを判定し、(Yes)ならステップS7の処理に進み、ここでINV出力電流検出値を中間位置でのINV出力電流(iaco)として記録する。なお、ステップS6で(No)なら処理を終了する。
【0027】
上記処理において、かご中間位置通過判定は、かご位置検出部33からのエレベータかご位置信号を使用する。
【0028】
次に、上記のような処理後、事前にデータ計測が完了している状態なら保守実施前確認運転を実施する。その運転方法を図4のフローチャートに示すのに、図2のフローチャートと同一処理には、同一符号を付して述べる。
【0029】
図4において、まず、上位コントローラからの指令によりエレベータかごを最上階に移動させ、その後、エレベータかごを最下階まで運転させる際、ステップS11で保守実施確認運転かを判定し、(Yes)ならステップS2の判定処理に進み、ステップS2で(No)なら「速度指令が≠0」であるかをステップS12で判定する。この判定結果で(Yes)なら、エレベータかごが、最下階方向への運転を開始している。
【0030】
ステップS12で(Yes)なら図2のステップS3〜ステップS7と同様な処理を行い、かご中間位置監視を開始し、かご位置検出部からのかご位置から、かごが中間位置を通過した時に、INV電流出力値(iac)を保存する。
【0031】
前記ステップS12で(No)ならエレベータの運転が停止しているので、ステップS13の処理に進む。
【0032】
ステップS13の処理は、「計測保存されたINV出力電流iac≦基準値」の比較を行い、この比較判定の結果(Yes)ならステップS14の処理に進んで、「中間位置でのINV出力電流をクリア」する処理を行う。ここで、かご内の乗車状況を判定する。
【0033】
その後、ステップS15の処理に進んで、「保守運転開始」の処理を行って処理を終了する。なお、ステップS13で(No)なら処理を終了する。また、ステップS13において、基準値は、[かご空荷駆動運転での中間位置通過時INV出力電流値(iaco)]±[検出誤差]である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の実施の形態を示す荷重センサ無しのエレベータかご駆動装置の制御構成図。
【図2】保守点検実施前のエレベータの確認運転方法のフローチャート。
【図3】エレベータかごを最上階からかご内を空荷にした状態で最下階に移動させたときのINV出力電流と速度検出の様子を示す説明図。
【図4】データ計測が完了している状態での保守点検実施前のエレベータの確認運転方法のフローチャート。
【図5】エレベータ駆動装置の概略構成で、(a)はブレーキ動作時の説明図、(b)はブレーキ開放時の説明図。
【図6】(a)は保持トルク出力有無のときのトルク指令の特性図、(b)は保持トルク出力有無のときの速度検出特性図。
【符号の説明】
【0035】
21…速度制御部
22…トルク制御部
23…電流制御部
24…三相/二相変換部
25…角速度検出部
26…二相/三相変換部
27…PWM制御部
28…インバータ装置
29…PMモータ
30…エンコーダ
31…位置検出部
32…速度検出部
33…かご位置検出部
34…計測判定部
35…運転方向判定部
36…INV出力電流検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
速度指令を速度制御部、トルク制御部を介して電流制御系に供給し、その電流制御系を有するインバータによりPMモータを駆動してエレベータかごを駆動するエレベータかご駆動装置において、
速度指令の符号によりエレベータかご運転方向を判定して、その運転方向を出力するエレベータかご運転方向判定部と、
インバータの出力電流が入力され、出力にインバータ出力電流値を送出するインバータ出力電流検出部と、
PMモータに設けられたエンコーダからのパルス信号をカウントし、そのカウント値からエレベータかご位置出力を送出するかご位置検出部と、
前記運転方向判定部、インバータ出力電流検出部及びかご位置検出部の各出力が入力され、エレベータかご運転方向による計測開始判定、特定のエレベータかご位置でのインバータ出力電流値の記録、記録されたインバータ電流出力値と予め計測された基準値との比較判定を行い、電流出力値が基準値以内であれば、かご内は無人と判定する計測判定部とを備えたことを特徴とするエレベータかご内乗車確認装置。
【請求項2】
前記計測判定部における基準値の計測は、エレベータかごを最上階に移動させ、かごを空荷にした状態でそれを最下階まで駆動運転させ、かご位置が昇降路の中間位置を通過した時のインバータ電流出力値(iaco)を記録することにより得ることを特徴とする請求項1記載のエレベータかご内乗車確認装置。
【請求項3】
前記計測判定部が基準値を記録した状態で、かご内の乗車状況を判定するには、エレベータかごを最上階に移動させ、その後、それを最下階まで運転させて、エンコーダからのパルス信号によるかご位置から、かごが中間位置を通過したと判定した時のインバータ電流出力値(iac)を保存し、エレベータかご停止後、保存された電流出力値(iac)と記録した基準値の比較判定を計測判定部が行うことを特徴とする請求項1又は2記載のエレベータかご内乗車確認装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−120356(P2009−120356A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297392(P2007−297392)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】