説明

エレベータのデータ収集システム

【課題】データ伝送に必要な電力を確保でき、故障診断に必要なセンサのデータを分割するとこなく外部に確実に伝送する。
【解決手段】エレベータ設備内の故障診断対象機器の1つである乗りかご101に故障診断に必要なデータを計測するためのセンサ6aが設置される。この乗りかご101にエレベータ運転中の振動を利用して発電する振動発電素子5aと、この発電素子101によって得られた電力をセンサ6aの駆動電力として蓄えると共に、センサ6aによって計測されたデータを収集して外部の監視装置1に無線ネットワークを介して伝送するデータ収集装置4aが設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレベータの故障診断に必要なセンサのデータを収集するエレベータのデータ収集システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータでは、点検対象とする機器(例えば乗りかごなど)にセンサを設置しておき、そのセンサのデータを収集して外部の監視装置に伝送するデータ収集システムがある。この種のデータ収集システムでは、通常、センサの駆動電源として電池が使用される。これは、電池を使用せずに既設の物件に電源敷設の工事を行うと、多大な費用が発生してしまうためである。
【0003】
しかし、センサの駆動電源として電池を使用すると、定期的な電池残量の確認、消耗時の電池交換作業などが必要となる。そこで、無線機能付きのセンサにおいて、自家発電により電力を発生し、センサ内部に蓄えるようしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−150824号公報
【特許文献2】特開2009−159619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、データ収集システムにおいて、センサの駆動電源として電池を使用した場合には、定期的な電池残量の確認や電池交換作業などが必要となり、エレベータの保守員に負担がかかる。
【0006】
また、電力貯蔵の機能を備えたセンサでは、貯蔵可能な電力量が少なく、一回の無線伝送時間を制限する必要がある。このため、データ量が多いと、データを分割して伝送しなければならない。したがって、データの伝送に時間がかかり、特に加速度や音などのデータ量の多い計測を行うエレベータには不向きである。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、データ伝送に必要な電力を確保でき、故障診断に必要なセンサのデータを分割することなく外部に確実に伝送することのできるエレベータのデータ収集システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態に係るエレベータのデータ収集システムは、エレベータ設備内の故障診断対象機器に設置され、上記故障診断対象機器の故障診断に必要なデータを計測するセンサと、上記故障診断対象機器に設けられ、エレベータ運転中の振動を利用して発電する発電素子と、この発電素子によって得られた電力を上記センサの駆動電力として蓄えると共に、上記センサによって計測されたデータを収集して外部の監視装置に無線ネットワークを介して伝送するデータ収集装置とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は一実施形態に係るエレベータのデータ収集システムの全体構成を模式的に示した図である。
【図2】図2は同実施形態におけるデータ収集システムの中継装置の内部構成を示すブロック図である。
【図3】図3は同実施形態におけるデータ収集システムのデータ収集装置の内部構成を示すブロック図である。
【図4】図4は同実施形態におけるデータ収集システムの発電機構の構成を示す図である。
【図5】図5は同実施形態における乗りかごの側面の下端部に発電素子を設置した例を示す図である。
【図6】図6は同実施形態における乗りかごが乗場付近を走行しているときの気流の流れを説明するための図である。
【図7】図7は同実施形態におけるデータ収集システムの2段階充電動作を示す図である。
【図8】図8は同実施形態におけるデータ収集システムの定時刻データ収集動作を示す図である。
【図9】図9は同実施形態におけるデータ収集システムの指定データ収集動作を示す図である。
【図10】図10は同実施形態におけるデータ収集システムの収集指令テーブルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0011】
(システム構成)
図1は一実施形態に係るエレベータのデータ収集システムの全体構成を模式的に示した図である。
【0012】
本実施形態におけるエレベータのデータ収集システムは、監視装置1と、この監視装置1に通信ネットワーク2を介して接続された複数台の中継装置3a,3b,3c…と、これらの中継装置3a,3b,3c…に無線接続される複数台のデータ収集装置4a,4b,4c,4d…とを備える。
【0013】
監視装置1は、外部の監視センタ内に設置されている。この監視装置1は、各物件のエレベータの運転状態を通信ネットワーク2を介して遠隔監視している。この監視装置1から出力される指令情報は、通信ネットワーク2を介して中継装置3a,3b,3c…に送られる。
【0014】
中継装置3a,3b,3c…は、各物件毎にエレベータの昇降路内などに設けられており、それぞれに通信ネットワーク2に接続されている。これらの中継装置3a,3b,3c…は、監視装置1から送られてきた指令情報に従って、管理下にあるデータ収集装置4a,4b,4c,4d…に無線接続して指令情報を伝達する。
【0015】
データ収集装置4a,4b,4c,4d…は、それぞれにエレベータ設備内の故障診断対象機器に設置されたセンサ6a,6b,6c,6d…によって測定されたデータを収集する装置である。これらのデータ収集装置4a,4b,4c,4d…は、小型の無線端末としての機能を有し、センサ6a,6b,6c,6d…のデータを無線ネットワークにより中継装置3a,3b,3c…に伝送する。
【0016】
なお、図1では、データ収集装置4a,4b,4c,4d…とセンサ6a,6b,6c,6d…が分離されているが、実際には一体化されて、故障診断対象機器に設置されている。つまり、本実施形態において、センサ6a,6b,6c,6d…は、無線端末であるデータ収集装置4a,4b,4c,4d…と一体化されて、無線センサとして使用されるものである。
【0017】
エレベータ設備内の故障診断対象機器とは、具体的にはエレベータの乗りかご101、カウンタウェイト102、巻上機103、制御盤104などである。
【0018】
エレベータの乗りかご101は、巻上機103に架設されたロープ104の一端に連結されている。ロープ104の他端には「吊り合い錘」と呼ばれるカウンタウェイト102が連結されている。巻上機103が駆動されると、乗りかご101とカウンタウェイト102がロープ104を介して昇降路内を上下に昇降動作する。
【0019】
また、制御盤105は、巻上機103の駆動制御など、エレベータ全体の制御を行うメインコントローラとして存在する。
【0020】
本実施形態では、乗りかご101にセンサ6a、カウンタウェイト102にセンサ6bが設置されている。また、巻上機103にセンサ6c、制御盤105にセンサ6dが設置されている。センサ種類としては、例えば温度センサ、加速度センサ、音センサ、電圧センサ、電流センサ、温度センサなどがあり、機器の故障診断の内容に応じて適宜使い分けられる。
【0021】
なお、図1の例では、1つの故障診断対象機器に1つのセンサしか設置されていないが、1つの故障診断対象機器に複数種類のセンサが設置されていても良い。また、センサは無線端末であるデータ収集装置と一体型であり、無線センサとして使用される。
【0022】
ここで、本システムにおいて、エレベータの移動体である乗りかご101とカウンタウェイト102には、それぞれに振動発電素子5a,5bが設置されている。振動発電素子5a,5bは、振動によって発電する素子である。なお、この振動発電素子5a,5bの構成については後に図4を参照して詳しく説明する。
【0023】
乗りかご101に設置された振動発電素子5aによって得られた電力は、データ収集装置4aに与えられる。後述するように、データ収集装置4aでは、この振動発電素子5aの電力をセンサ6aの駆動電力として蓄える機能を備える。カウンタウェイト102に設置された振動発電素子5bについても同様であり、振動発電素子6bによって得られた電力はデータ収集装置4bに与えられる。データ収集装置4bでは、この振動発電素子5bの電力をセンサ6bの駆動電力として蓄える機能を備える。
【0024】
また、その他のデータ収集装置4c,4dには、図示せぬ商用電源が接続されており、その商用電源から供給される電力をセンサ6c,6dに与えている。
【0025】
このように、センサ6a,6b,6c,6d…によって測定されたデータは、それぞれに対応したデータ収集装置4a,4b,4c,4d…を介して無線ネットワークにより中継装置3a,3b,3c…に伝送される。中継装置3a,3b,3c…では、データ収集装置4a,4b,4c,4d…から送られてきたセンサデータを通信ネットワーク2を介して外部の監視装置1に伝送する。
【0026】
監視装置1は、中継装置3a,3b,3c…から送られてきたセンサデータを元に故障診断などを行う。また、動作音などのセンサデータは監視装置1に接続された2次記憶装置11に蓄えられ、後に運転環境の分析などに利用される。
【0027】
次に、本システムを構成する各装置の構成について詳しく説明する。
【0028】
(中継装置内部構成)
図2は本システムの中継装置3の内部構成を示すブロック図である。なお、図2では、複数台の中継装置3a,3b,3c…の1つを代表して中継装置3として示す。
【0029】
中継装置3は、CPU31、通信インタフェース32、プログラムROM33、データ保管ROM34、ワークRAM35、リアルタイマ36、無線インタフェース37を備える。
【0030】
CPU31は、プログラムROM33に予め記憶されたプログラムに従って動作する。CPU31は、通信インタフェース32を通じて受信した監視装置1の指令に従って各処理を実行する。例えば時刻設定指令であれば、CPU31は、監視装置1から送られてきた時刻データの値を内部のリアルタイマ36にセットする。
【0031】
また、CPU31は、内部に設けられた無線インタフェース37を通じて管理下にあるデータ収集装置4に対して監視装置1の指令を伝達する。なお、無線インタフェース37は複数設けられており、それぞれにデータ収集装置4を接続することが可能である。
【0032】
データ収集装置4から時刻設定終了などの通知が送られてくると、CPU31は、その通知を通信インタフェース32を通じて監視装置1に転送する。なお、無線インタフェース37からCPU31に対しては、無線接続開始などを即座に通知するための割り込み信号線が接続している。
【0033】
また、データ収集装置4から動作音などのセンサデータが送られてきた場合は、そのセンサデータをワークRAM35に一旦保管する。そして、同時に送られてくるデータ区切り用の符号を用い、ワークRAM35に保管されたセンサデータをデータ保管ROM34に分割して保管する。保管処理終了後に通信インタフェース32を通じて監視装置1に収集終了を通知する。その後、監視装置1はデータ送付指令を出力し、必要なセンサデータを中継装置3のデータ保管ROM34から取り出す。
【0034】
(データ収集装置内部構成)
図3は本システムのデータ収集装置4の内部構成を示すブロック図である。なお、図3では、複数台のデータ収集装置4a,4b,4c,4d…の1つを代表してデータ収集装置4として示す。
【0035】
データ収集装置4は、制御CPU41、電源回路42、二次蓄電素子(二次電池)43、無線インタフェース44、リアルタイマ45、ROM46、RAM47、センサIF(センサインタフェース)48、センサIF(センサインタフェース)49、充電制御回路50、一次蓄電素子51を備える。
【0036】
制御CPU41は、ROM46に予め記憶された制御プログラムに従って動作する。無線インタフェース44から制御CPU41に対して割り込み信号線が接続されており、無線接続開始時などに即座に状況の通知を可能としている。
【0037】
制御CPU41は、無線インタフェース44からの動作指令を受けて各処理を実行する。例えば、時刻設定指令であれば、時刻設定指令と共に送られて来た時刻データをリアルタイマ45に設定する。そして、制御CPU41は、無線インタフェース44を介して中継装置3に時刻設定の完了通知を送る。
【0038】
その後、制御CPU41は、電源回路42に対して電源低消費モード指令を出力すると共に、自己も電源低消費モードに入る。電源回路42は、二次蓄電素子(電池)43に蓄えられた電力を装置内の各部に供給すると共にセンサ6などに供給する。電源回路42は、電源低消費モード指令を受けると、無線インタフェース44、センサIF48、センサIF49、センサ6などに対する電源供給を休止する。リアルタイマ45に設定された時刻になると、制御CPU41が起動されて電源低消費モードから通常動作モードに復帰する。
【0039】
通常動作モードにおいて、制御CPU41は無線インタフェース44を介して中継装置3にデータ収集の開始を通知して、データ収集動作を行う。データ収集動作においては、センサIF48、センサIF49を介して受信したセンサデータを一旦RAM47に記憶した後、無線インタフェース44を介して中継装置3に送る。
【0040】
なお、図3の例では、データ収集装置4が「動作音測定装置」として用いられ、センサIF48にセンサ6として集音センサ(マイク)、センサIF49に加速度センサ7が接続された構成が示されている。
【0041】
二次蓄電素子43は、一次蓄電素子51から充電制御回路50を経由して定期的に充電される。一次蓄電素子51は、振動発電素子5に接続されており、振動発電素子5で発生した電力を蓄える。つまり、本システムにおいて、充電動作は2段階になっており、まず、振動発電素子5の電力を一次蓄電素子51に充電し、その一次蓄電素子51に蓄えられた電力を二次蓄電素子43に定期的に充電する。
【0042】
なお、一次蓄電素子51はスーパーキャパシタなどであり、連続充電に対する耐久はあるが、容量(蓄電量)が少ない。これに対し、二次電池である二次蓄電素子43は連続充電に対する耐久が低いが、容量が大きい。
【0043】
(発電機構の構成)
図4は本システムの発電機構の構成を示す図である。なお、図4では、乗りかご101に設置された振動発電素子5aを例にして説明するが、カウンタウェイト102に設置された振動発電素子5bについても同様の構成である。
【0044】
発電機構60は、振動発電素子5aと、この振動発電素子5aを支持する振動板61と、一対の集風器62,63とを備える。振動発電素子5aは、振動によって電力を発生する素子である。なお、「振動発電素子」については公知であるため、ここではその詳しい説明を省略する。
【0045】
振動発電素子5aは、振動板61の先端部に取り付けられている。振動板61は、乗りかご101の側面に水平に取り付けられ、乗りかご101の走行時の気流を受けて小刻みに振動する。この振動板61の上下に一対の集風器62,63が設置されている。
【0046】
集風器62は、乗りかご101の上昇時に発生する気流を振動板61にて効率的に集めるものであり、内部を広げた気流通路を有する。集風器63は、乗りかご101の下降時に発生する気流を振動板61にて効率的に集めるものであり、中央部を広げた気流通路を有する。
【0047】
乗りかご101が走行を開始すると、集風器62,63の気流通路内で強弱を伴って気流が振動板61に吹き出す。これにより、振動板61が振動し、振動発電素子5がその振動を受けて発電する。集風器62,63の気流通路の広げておくことで、一定の強さの気流ではなく、強弱を付けた気流が不規則に吹き出すので、振動板61が振動しやすくなる。
【0048】
また、この振動板61には加速度センサ7が取り付けられており、この加速度センサ7から上昇運転/下降運転などのエレベータの運転動作に関連した振動情報を取得する構成になっている。
【0049】
ここで、乗りかご101に振動発電素子5aを設置する場合には、乗りかご101の走行中に気流を受けやすい場所として、乗りかご101の側面、特に上端部あるいは下端部が好ましい。これは、乗りかご101が走行しているとき、乗りかご101の端部から流れ込む気流が強いためである。
【0050】
図5に乗りかご101の側面の下端部に振動発電素子5aを設置した例を示す。なお、図4に示した発電機構60の構成部品(振動板61、集風器62,63)は省略してある。図中の106は乗りかご101の正面に開閉自在に設けられたかごドアである。
【0051】
乗りかご101の側面の下端部に振動発電素子5aを設置した場合には、乗りかご101が下降方向に走行しているときに、下端部から流れ込む気流を強く受ける。さらに、乗りかご101の正面近くに振動発電素子5aを配置しておけば、気流をより強く受けることができる。
【0052】
このときの様子を図6に示す。図中の107は昇降路、108は乗場、109は乗場ドアである。乗りかご101は、かごドア106が設けられた正面を昇降路107に向けて昇降動作する。
【0053】
ここで、各階の乗場108では、利用者を乗りかご101に乗降させるために昇降路107と乗りかご101の間隔が狭くなっている。このため、乗りかご101がこの乗場108の狭域部分に差し掛かったときに気流がかご正面に入り込み、増速流が発生する。したがって、乗りかご101の下端部のかご正面に近くに振動発電素子5aを設置しておけば、振動発電素子5aが増速流により大きく振動して効率的に発電できる。
【0054】
なお、乗りかご101の上端部に振動発電素子5aを設けた場合も同様であり、かご正面近くに設置しておくことで、大きく振動して効率的な発電が可能である。また、乗りかご101の上端部と下端部の両方に振動発電素子5aを設けることでも良い。
【0055】
振動発電素子5aで発生した電力はデータ収集装置4aに与えられ、一次蓄電素子51を介して二次蓄電素子43に蓄えられる。データ収集装置4a内の二次蓄電素子43に蓄えられた電力は、センサ6aを含むデータ収集装置4aの動作中の駆動電力として使用される。
【0056】
また、カウンタウェイト102についても同様であり、カウンタウェイト102の上端部および下端部の少なくとも一方に振動発電素子5bを設置しておくことが好ましい。振動発電素子5bで発生した電力はデータ収集装置4bに与えられ、一次蓄電素子51を介して二次蓄電素子43に蓄えられる。データ収集装置4b内の二次蓄電素子43に蓄えられた電力は、センサ6bを含むデータ収集装置4bの動作中の駆動電力として使用される。
【0057】
次に、本システムの動作について、(a)発電機構の動作、(b)2段階充電動作、(c)定時刻データ収集動作、(d)指定データ収集動作に分けて詳しく説明する。
【0058】
なお、以下の説明では特に断らない限り、本システムを構成する複数の中継装置3a,3b,3c…、データ収集装置4a,4b,4c,4d…、センサ6a,6b,6c,6d…を、それぞれ代表して中継装置3、データ収集装置4、センサ6と記載して説明する。
【0059】
(a)発電機構動作
図4を用いて発電機構の動作を説明する。
【0060】
発電機構60の振動発電素子5は、エレベータの移動体(乗りかご101,カウンタウェイト102)の側面に振動板61を介して設置される。振動発電素子5の上下には集風器62,63が取り付けられており、乗りかご101の昇降動作に伴って発生する気流を振動板61に吹き付ける。
【0061】
このような構成により、乗りかご101の上昇時には上側にある集風器62を通して送られる気流により振動板61が振動する。下降時には下側にある通路を集風器63を通して送られる気流により振動板61が振動する。この場合、集風器62,63の気流通路の内部を広げてあるので、一定の強さの気流でなく、強弱を持った気流が発生する。この気流を受けて振動板61が上下に小刻みに振動し、振動発電素子5がその振動を受けて発電することになる。
【0062】
本システムでは、この振動発電素子5で発電した電力を用いて、スーパーキャパシタなどの一次蓄電素子51を充電し、その蓄電した電力を定期的に二次蓄電素子43に充電する構成をとっている。したがって、発電した電力をすぐに消費してしまうことはないので、二次蓄電素子43の蓄電量を大きくとることができ、長時間のデータ伝送が可能となる。
【0063】
なお、二次蓄電素子43に直接充電してく方式でも、同様の効果が期待できる。しかし、二次蓄電素子43を連続充電すると、劣化が早まるので好ましくない。
【0064】
ここで、実存する10μW(20Hz加速度1G)の発電性能の素子を1日8時間発電動作させると、発電量Pwは以下のようになる。
発電量Pw=10μW×8H×3600Sec/H
=288mW・Sec
無線センサ(センサ6)の使用電力量Puは、約160mW(動作電圧3.3V50mA)程度と考えられ、動作可能時間Txは約1.8秒となる。今後、発電性能は100μS以上となる予定であり、その場合は動作可能時間Txは18秒となる。
【0065】
1日1回当たりの平均走行時間が90秒のエレベータシステムでは、5個の振動発電素子を設ければ、二次電池の初期充電量から電力を低下させずに構成可能である。
【0066】
また、二次電池の容量を2400mAHとすると、1日1回当たりの平均走行時間が90秒の走行を考えると、振動発電なしの場合には、1920日(約5.1年)で容量を消費して交換が必要となる。これに対し、1個の発電振動素子を搭載すると、2400日(約6.7年)に寿命を伸ばすことが可能となる。このため、2個の発電振動素子を搭載すれば、3200日(約8.8年)で交換すればよくなる。
【0067】
このように、エレベータの故障診断に必要なセンサのデータを無線により収集するシステムにおいて、移動体である乗りかご101とカウンタウェイト102の昇降動作を利用して発電を行うことで、センサ6a,6bの駆動電源を電池とした場合でも、蓄電量を大きくとることができる。したがって、伝送量が大きい走行音や加速度のデータであっても分割伝送することなく、1回で効率的に送ることができる。
【0068】
なお、図1に示す巻上機103や制御盤105に設置されたセンサ6c,6dについては、商用電源に接続されたデータ収集装置4c,4dから電力を受けるので、データ伝送の問題はない。
【0069】
(b)2段階充電動作
図7は本システムの2段階充電動作を示す図である。
【0070】
上述したように、エレベータの運転時に移動体である乗りかご101やカウンタウェイト102の昇降動作に伴い、その移動体に設置された振動発電素子5が振動により発電する。この振動発電素子5によって得られた電力は、まず、センサ6と一体化されたデータ収集装置4内の一次蓄電素子51に蓄えられる。
【0071】
図7に示すように、一次蓄電素子51に蓄えられた電力は所定時間Tbut毎に二次蓄電素子43に与えられる。この二次蓄電素子43に蓄えられた電力は、データ収集装置4の動作中に消費されて低下していくが、定期的に一次蓄電素子51から充電されることで、最大値まで復帰することができる。二次蓄電素子43の充電後は一次蓄電素子51の電力が低下するが、移動体の昇降動作によって直ぐに電力が補充される。
【0072】
このように、一次蓄電素子51と二次蓄電素子43を用いて二段階で充電する構成により、データ収集装置4の駆動源として使用する二次蓄電素子43の充電回数を減らすことができる。これにより、二次蓄電素子43の劣化を防いで、交換時期を延ばすことができる。
【0073】
(c)定時刻データ収集動作
図8は本システムの定時刻データ収集動作を示す図であり、故障診断対象機器に設置されたセンサ6のデータをデータ収集装置4で収集した後、中継装置3を介して監視装置1に伝送する場合の処理の流れが示されている。
【0074】
なお、ここではデータ収集装置4が「動作音測定装置」として用いられ、図3に示すようにデータ収集装置4にセンサ6として集音センサが接続されていると共に加速度センサ7が接続されている場合を例にして説明する。
【0075】
監視装置1から時刻設定指令などの指令情報が通信ネットワーク2を介して中継装置3に送られる(ステップS101)。中継装置3は、送られてきた指令情報に基づきデータ収集装置4に無線接続して、その指令情報を伝達する。
【0076】
ここで、図2に示したように、中継装置3のCPU31は通信インタフェース32を介して受信した指令情報に従って動作する。この指令情報が時刻設定指令の場合には、CPU31は時刻設定指令と共に送られてきた時刻データを内部のリアルタイマ36にセットする。さらに、CPU31は内部に複数個設けられた無線インタフェース37を通じて管理下にあるデータ収集装置4に対して時刻設定指令を同時に伝達する(ステップS102)。
【0077】
また、図3に示したように、データ収集装置4の制御CPU41は無線インタフェース44を介して指令情報を受信する。指令情報が時刻設定指令の場合、制御CPU41はリアルタイマ45に時刻設定指令と共に送られてきた時刻データを設定する。その後、制御CPU41は無線インタフェース44を通じて中継装置3に時刻設定が完了した旨を通知する(ステップS103)。
【0078】
中継装置3のCPU31は、無線インタフェース37を通じてデータ収集装置4から時刻設定の完了通知を受け取ると、その完了通知を通信インタフェース32を通じて監視装置1に送る(ステップS104)。
【0079】
データ収集装置4では、リアルタイマ45に時刻データを設定した後、電源低消費モードに入る。電源低消費モードでは、無線インタフェース44、センサIF48、49などの各部に対する電源供給が休止される。リアルタイマ45に設定された時刻になると、制御CPU41が起動され、電源低消費モードから通常動作モードに復帰する(ステップS105)。
【0080】
通常動作モードに復帰すると、データ収集装置4は、センサ6にて測定された動作音のデータ収集動作を開始する。その際、データ収集装置4は、中継装置3を介してデータ収集動作の開始を通知する(ステップS106,S107)。
【0081】
データ収集動作の開始を通知後、データ収集装置4は、センサIF48,49を介してセンサ6と加速度センサ7のデータを収集して一旦RAM47に保管した後、中継装置3に送る(ステップS108)。中継装置3では、データ収集装置4から送られてきたデータをワークRAM35に一旦保管した後、データ保管ROM34に保管する。
【0082】
ここで、故障診断対象機器に加速度センサ7が設置されている場合、その加速度センサ7から得られる振動情報を用いて、例えば上昇運転の開始〜終了までの動作音データ、下降運転の開始〜終了までの動作音データといったように、エレベータの運転動作毎に動作音データをデータ保管ROM34に分割して保管することができる。
【0083】
保管処理終了後、中継装置3は通信インタフェース32を通じて監視装置1に対してデータ収集の終了を通知する(ステップS109)。
【0084】
監視装置1は、中継装置3からデータ収集の終了通知を受信すると、データ伝送開始指令を中継装置3に送り、故障診断に必要な動作音データを中継装置3のデータ保管ROM34から取り出して受け取る(ステップS110,S111)。
【0085】
監視装置1では、受け取った動作音データに基づいて故障診断を行う。その際、加速度センサ7の振動情報によってデータ保管ROM34に動作音データが分割保管されている場合には、その保管単位での故障診断が可能である。故障診断の結果、何らかの異常音が検出された場合には、例えば保守員を現場に派遣して対処する。
【0086】
このように、故障診断対象機器に設置されたセンサのデータをデータ収集装置4にて収集して中継装置3を介して監視装置1に伝送する際に、データ収集装置4でデータを一旦保管しておき、予め設定された時刻になったら、保管したデータを一括して伝送する。これにより、データを連続的に送るよりも、二次蓄電素子43の電力消費を抑えることができる。
【0087】
また、図7で説明したように、二次蓄電素子43は一次蓄電素子51を通じて定期的に充電されているため、データ伝送に必要な電力が常に確保されている。したがって、データ量が多くなっても分割して送る必要はなく、短時間で一度に大量に送ることが可能である。
【0088】
また、故障診断対象機器に加速度センサ7を取り付けることにより、加速度センサ7の振動情報からエレベータの運転状況を検知することができ、その運転状況に応じたデータ分析、異常確認が可能となる。
【0089】
(d)指定データ収集動作
図9は本システムの指定データ収集動作を示す図であり、故障診断対象機器に設置された各種センサ6のデータをデータ収集装置4で個別に収集した後、中継装置3を介して監視装置1に伝送する場合の処理の流れが示されている。
【0090】
監視装置1から動作音収集要求などのデータ収集の開始指令が通信ネットワーク2を介して中継装置3に送られる(ステップS201)。中継装置3は、送られてきた指令情報に基づきデータ収集装置4に無線接続して、その指令情報を伝達する。
【0091】
ここで、中継装置3のデータ保管ROM34には、図10に示すような収集指令テーブル38が設けられている。この収集指令テーブル38は、故障診断対象機器のデータ収集に必要なセンサ6の組み合わせを指定するためのテーブルである。
【0092】
図10の例では、登録番号1に乗りかご101を故障診断する場合のセンサ6の組み合わせが指定されている。また、登録番号2に乗りかご101と巻上機103を故障診断する場合のセンサ6の組み合わせが指定され、登録番号3にドア106と制御盤104を故障診断する場合のセンサ6の組み合わせが指定されている。
【0093】
さらに、収集指令テーブル38には、センサ6の種類に応じた測定の開始条件などが登録されている。例えば、乗りかご101に温度センサを設置した場合、即時測定を開始する。その場合、10mSの周期で1024個のデータを収集する。
【0094】
乗りかご101に加速度センサを設置した場合も同様であり、即時測定を開始して10mSの周期で1024個のデータを収集する。乗りかご101に集音センサを設置した場合には、即時測定を開始して0.1mSの周期で20秒間のデータを収集する。
【0095】
その他、例えば巻上機103であれば、電圧センサが用いられる。この場合、駆動時に50V以上で測定を開始して1mSの周期で20秒間のデータを収集する。ドア106であれば、電流センサが用いられ、戸開閉時に2A以上で測定を開始して1mSの周期で10秒間のデータを収集する。制御盤105であれば、温度センサが用いられ、即時測定を開始して1Sの周期で10秒間のデータを収集する。
【0096】
監視装置1からデータ収集の開始指令が送られてくるとき、この収集指令テーブル38の中のセンサ組み合わせ(登録番号)が指定される。中継装置3のCPU31は、監視装置1からの指令に従い動作する。データ収集要求の場合は、指定されたデータ収集装置4と接続している無線インタフェース37を通じて、そのときの指令情報をデータ収集装置4に伝達する(ステップS202)。
【0097】
無線接続開始時において、データ収集装置4内部の時刻カウント値を初期化(0)にすると同時に、中継装置3内部にデータ収集装置4との接続時刻のデータをセットする。このときの接続時刻のデータをTsとする。複数のセンサデータを収集する場合には、それぞれの接続時刻Tsを記憶する。この接続時刻Tsは、mSecの単位で記憶されるものとする。無線接続開始時刻の時間差は中継装置3とデータ収集装置4の間ではほとんど発生しないと考えられ、互いに時刻データを無線にて伝え合う場合に比べると時間の誤差は少ない。
【0098】
データ収集装置4の制御CPU41は、無線インタフェース44を通じてデータ収集の開始指令を受け取るとデータ収集動作を開始する(ステップS203)。制御CPU41は、無線インタフェース44を通じて中継装置3にデータ収集動作の開始を通知する(ステップS204)。また、中継装置3では、監視装置1に対してデータ収集装置4がデータ収集動作を開始した旨を返答する(ステップS205)。
【0099】
データ収集装置4の制御CPU41は、データ収集動作開始後にセンサIF48,49を介して受信したセンサデータを一旦RAM47に保管する。そして、制御CPU41は、その保管したセンサデータを運転開始終了情報(開始条件に到達したことや、測定に必要な個数/時間に到達したことなど)および測定時刻(x番目ではTnx)と共に中継装置3に送る(ステップS206)。この場合、中継装置3の時刻を基準とすると、データ収集装置4から送られてきた測定時刻はTs+Tnxとなる。
【0100】
中継装置3では、データ収集装置4から送られたセンサデータを一旦ワークRAM35に時刻データと共に保管する。そして、中継装置3は、同時に送られてくる収集開始終了情報を用いて、ワークRAM35内部のデータをデータ保管ROM34に分割して保管した後、データ収集装置4との無線接続を終了する(ステップS207)。保管処理終了後、中継装置3は、通信インタフェース32を通じて監視装置1に収集終了を通知する(ステップS208)。
【0101】
監視装置1は、中継装置3からデータ収集の終了通知を受信すると、データ伝送開始指令を中継装置3に送り、故障診断に必要な動作音データを中継装置3のデータ保管ROM34から取り出して受け取る(ステップS209,S210)。
【0102】
別の組み食わせのセンサデータを収集する場合には、収集指令テーブル38の中の別の登録番号を指定する。収集指令テーブル38内には、センサ6の種類に応じた測定周期や測定時間数、測定点数、開始条件などの情報が含まれており、様々な組み合わせのデータ収集要求に対応できる。
【0103】
このような構成によれば、監視装置1では、データ収集を要求する際に収集指令テーブル38に予め登録されたセンサの組み合わせ(登録番号)だけを指定すれば良いので、細かい設定情報をその都度送り込む必要がなくなり、データ収集の効率が上がる。この収集指令テーブル38は固定ではなく、監視装置1からシステム内容に応じて適宜変更可能である。
【0104】
また、監視装置1では、複数のデータ収集装置4から無線接続時刻を起点とする測定時刻をセンサデータと共に受け取ることができ、その測定時刻は中継装置3の内部時刻を基準にすることができる。このため、複数のデータ収集装置4のセンサデータを比較する場合に測定時刻の差を小さくすることができ、時系列に従った異常診断や故障検知を行う場合の精度を向上させることができる。
【0105】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、データ伝送に必要な電力を確保でき、故障診断に必要なセンサのデータを分割することなく外部に確実に伝送することのできるエレベータのデータ収集システムを提供することができる。
【0106】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0107】
1…監視装置、2…通信ネットワーク、3a,3b,3c…中継装置、4a,4b,4c,4d…データ収集装置、5a,5b…振動発電素子、6a,6b,6c,6d…センサ、7…加速度センサ、31…CPU、32…通信インタフェース、33…プログラムROM、34…データ保管ROM、35…ワークRAM、36…リアルタイマ、37…無線インタフェース、38…収集指令テーブル、41…制御CPU、42…電源回路、43…二次蓄電素子(電池)、44…無線インタフェース、45…リアルタイマ、46…ROM、47…RAM、48,49…センサIF、50…充電制御回路、51…一次蓄電素子、60…発電機構、61…振動板、62,63…集風器、101…乗りかご、102…カウンタウェイト、103…巻上機、104…ロープ、105…制御盤、106…かごドア、107…昇降路、108…乗場、109…乗場ドア。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータ設備内の故障診断対象機器に設置され、上記故障診断対象機器の故障診断に必要なデータを計測するセンサと、
上記故障診断対象機器に設けられ、エレベータ運転中の振動を利用して発電する発電素子と、
この発電素子によって得られた電力を上記センサの駆動電力として蓄えると共に、上記センサによって計測されたデータを収集して外部の監視装置に無線ネットワークを介して伝送するデータ収集装置と
を具備したことを特徴とするエレベータのデータ収集システム。
【請求項2】
上記故障診断対象機器として、昇降路内を昇降動作する移動体を含み、
上記発電素子は、
上記移動体の側面の上端部と下端部のうちの少なくとも一方の端部に振動板を介して取り付けられていることを特徴とする請求項1記載のエレベータのデータ収集システム。
【請求項3】
上記振動板の近傍に設置され、上記移動体の昇降動作中に上記端部から流れ込む気流を上記振動板に集めて振動させる集風器を備えたことを特徴とする請求項2記載のエレベータのデータ収集システム。
【請求項4】
上記発電素子は、
上記移動体として上記昇降路内を昇降動作する乗りかごに設置されていることを特徴とする請求項2記載のエレベータのデータ収集システム。
【請求項5】
上記発電素子は、
上記移動体として上記昇降路内を昇降動作するカウントウェイトに設置されていることを特徴とする請求項2記載のエレベータのデータ収集システム。
【請求項6】
上記データ収集装置は、
一次蓄電素子と、
この一次蓄電素子よりも容量の大きい二次蓄電素子とを有し、
上記発電素子によって得られた電力を上記一次蓄電素子に蓄えた後、上記一次蓄電素子に蓄えられた電力を定期的に上記二次蓄電素子へ送ることを特徴とする請求項1記載のエレベータのデータ収集システム。
【請求項7】
上記データ収集装置は、
予め設定された時刻データに従って上記センサから収集したデータを定期的に上記監視装置に伝送することを特徴とする請求項1記載のエレベータのデータ収集システム。
【請求項8】
予め上記故障診断対象機器のデータ収集に必要な複数のセンサの組み合わせが登録されたテーブルを備え、
上記データ収集装置は、
上記テーブルの中で指定されたセンサの組み合わせに基づいてデータ収集動作を行うことを特徴とする請求項1記載のエレベータのデータ収集システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−112516(P2013−112516A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262895(P2011−262895)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】