説明

エレベータの情報表示システム

【課題】乗りかご内に表示可能な特定利用者向けの固有情報を、その乗客が乗りかごを使用している時間内に最後まで表示させることが容易なエレベータの情報表示システムを提供する。
【解決手段】情報表示制御装置5は、個人認証装置で認証された特定利用者向けの固有情報を含む情報データ群を記憶する表示情報記憶部5aと、建物の階間距離を記憶する階間距離記憶部5bと、乗りかご10内の表示装置9に表示させる情報を情報データ群の中から選択する提供情報選択部5cとを備えている。乗場の乗客が特定利用者であると認証され、且つ、乗りかご10が無人と判定された場合、提供情報選択部5cによって、表示装置9に表示させる固有情報が選択されると共に、乗りかご10が出発階から行き先階へ到着するまでに要する走行時間の調整処理が行えるようにしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の利用者に提供するための固有情報を乗りかご内の表示手段に表示可能なエレベータの情報表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のエレベータの情報表示システムは、乗りかご内の乗客に所望の情報を提供できるようにしてエレベータの付加価値を高めるというものである。その一例として、乗場でセンサ等により乗客の認証を行い、到着する乗りかごが無人の場合は、認証済み乗客(特定利用者)向けの固有情報が乗りかご内の表示手段に表示され、乗りかごに同乗者がいる場合は、こうした固有情報が表示手段に表示されないように制御するという技術が従来より知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、他の従来例として、乗客の携帯情報端末から発信されたID情報を受信機が受信すると、その乗客の属性に応じた広告等の固有情報が乗りかご内の表示手段に表示されるようにしたエレベータの情報表示システムが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−276961号公報
【特許文献2】特開2002−104747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている従来技術では、乗りかご内の表示手段に表示される特定利用者向けの固有情報として伝言メッセージなどが例示されているが、情報量の多い固有情報を表示する場合には総表示時間が長くなる。そのため、利用者にとって有益で情報量の多い固有情報を乗りかご内の表示手段に表示しようとすると、乗りかごが出発階から行き先階へ到着するまでの走行時間内に表示を完了させられないケースが増えてしまう。つまり、かかる従来技術では、情報量の多い固有情報については中途半端な提供のしかたを余儀なくされる可能性が高いため、利用者にとって満足度の高い情報提供を行うことは困難であった。
【0006】
一方、特許文献2に記載されている従来技術では、乗りかごが出発階から行き先階へ到着するまでに要する走行時間を予め算出しておき、総表示時間がこの走行時間よりも長くない固有情報(広告類)を選択的に乗りかご内の表示手段に表示するようにしているため、乗りかごの走行時間内に固有情報を最後まで表示することが容易である。しかしながら、かかる従来技術では、表示する固有情報の取捨選択が利用者の希望とは無関係に行われてしまうため、やはり利用者にとって満足度の高い情報提供を行うことは困難であった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、乗りかご内に表示可能な特定利用者向けの固有情報を、その乗客が乗りかごを使用している時間内に最後まで表示させることが容易なエレベータの情報表示システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、特定の利用者に提供するための固有情報を乗りかご内の表示手段に表示可能なエレベータの情報表示システムにおいて、乗場で待機中の乗客が特定の利用者であるか否かの認証を行う乗客認証手段と、前記乗りかご内が無人状態であるか否かを判定するかご内無人判定手段と、特定利用者向けの固有情報を含む情報データ群が格納されている表示情報記憶手段と、提供すべき前記固有情報を前記情報データ群の中から選択する提供情報選択手段と、前記乗りかごの走行距離の算定基準が格納されている距離データ記憶手段とを備え、前記乗客認証手段によって乗場の乗客が認証され、且つ、前記かご内無人判定手段によって前記乗りかご内が無人であると判定されたときに、前記提供情報選択手段によって、前記表示手段に表示させる前記固有情報が選択可能であると共に、前記乗りかごが出発階から行き先階へ到着するまでに要する走行時間の調整処理が可能であり、この調整処理では、選択した前記固有情報の総表示時間に比して前記走行時間が短くならないように前記乗りかごが所定の走行速度に低速化されるようにした。
【0009】
このようなエレベータの情報表示システムでは、乗客認証手段によって認証された特定利用者が無人の乗りかごに乗り込んで行き先階を登録したときに、この特定利用者向けの固有情報を乗りかご内の表示手段に表示できるだけでなく、固有情報の総表示時間を考慮して乗りかごの走行時間の調整処理(走行速度の低速化)を行うことによって、固有情報を最後まで表示させうる走行時間に設定できるようになっている。これにより、この特定利用者は、個室状態の乗りかごが行き先階へ到着するまでの間に、表示手段に表示される自分向けの固有情報を最後まで見届けられるようになる。
【0010】
上記のエレベータの情報表示システムにおいて、乗客認証手段によって認証された特定利用者が乗りかごの走行時間の調整処理を要望するか否かを示す信号に基づいて、該調整処理を選択的に許可する走行調整選択手段を備えていると、特定利用者は、乗りかご内で固有情報の提供が受けられる場合でも、走行時間の短縮を優先して固有情報の提供を受けないという選択が行えることになる。つまり、状況に応じて固有情報の表示と走行時間の短縮のいずれを優先するかという自主選択が可能になるため、特定利用者にとって使い勝手が良くなる。
【0011】
また、上記のエレベータの情報表示システムにおいて、乗りかごの使用頻度が高いと判断されたときには走行時間の調整処理が実行されないように制限する走行調整制限手段を備えていると、特定利用者に対する情報提供サービスよりも、エレベータを使用する乗客全体の利便性を優先させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエレベータの情報表示システムによれば、乗場で待機中の乗客が特定の利用者であり、且つ、乗りかご内が無人であると判定されたときに、この特定利用者向けの固有情報を乗りかご内の表示手段に表示できるだけでなく、固有情報の総表示時間を考慮して乗りかごの走行時間の調整処理を行うことによって、固有情報を最後まで表示させうる走行時間に設定できるようになっている。これにより、この特定利用者は、個室状態の乗りかごが行き先階へ到着するまでの間に、表示手段に表示される自分向けの固有情報を最後まで見届けられるようになるため、エレベータ使用時の情報提供サービスに対する特定利用者の満足度を高めることができる。また、乗りかごに同乗者がいる場合には、表示手段に固有情報が表示されないようにしてあるため、特定利用者のプライバシーを保護することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態例に係るエレベータの情報表示システムの構成図である。
【図2】第1実施形態例で行われる情報表示システムの処理手順を示すフローチャートである。
【図3】図2の処理S6および処理S7で行われる処理内容をグラフ化して示す説明図である。
【図4】本発明の第2実施形態例に係るエレベータの情報表示システムの構成図である。
【図5】第2実施形態例で行われる情報表示システムの処理手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第3実施形態例に係るエレベータの情報表示システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。まず、本発明の第1実施形態例に係るエレベータの情報表示システムについて、図1〜図3を参照しながら説明する。
【0015】
図1に示すように、建物の各階のエレベータ乗場には、個人認証装置(1a〜1dのいずれか)と、かご呼び釦(2a〜2dのいずれか)と、表示器(3a〜3dのいずれか)とが備えられている。例えば、1階のエレベータ乗場には、個人認証装置1aとかご呼び釦2aと表示器3aとが備えられている。個人認証装置1a〜1dは、ICカードなどによって個人の認証を行い、その乗場の乗客が特定利用者であるか否かを判定する。かご呼び釦2a〜2dは、押圧操作されると呼び登録を行い、その乗場へ乗りかご10を呼ぶための信号を生成する。表示器3a〜3dは、乗りかご10の位置情報などを表示する。一方、乗りかご10内には、押圧操作されると行き先階を登録する行き先階釦8と、乗りかご10の位置情報や各種の固有情報を表示可能な表示装置9とが備えられている。また、この乗りかご10には、乗りかご10内の荷重を検出する荷重検出器21と、乗りかご10内の映像を撮影するかご内カメラ22とが備えられている。
【0016】
乗りかご10は主ロープ11を介して釣合い錘12と連結されており、この主ロープ11が巻上機13の綱車に巻き掛けられている。巻上機13はエレベータ制御装置4によって制御される。すなわち、乗場のかご呼び釦2a〜2dや乗りかご10内の行き先階釦8から出力された信号に応じて、エレベータ制御装置4の速度制御部4aが巻上機13の回転動作を制御することにより、乗りかご10の昇降動作が行われると共に、乗りかご10の位置情報が表示器3a〜3dや表示装置9に表示されるようになっている。
【0017】
そして、本実施形態例においては、図1に示すように、エレベータ制御装置4や個人認証装置1a〜1d、かご呼び釦2a〜2d、行き先階釦8、表示装置9などと電気的に接続された情報表示制御装置5を備えており、この情報表示制御装置5によって表示装置9に表示する情報の選択や乗りかご10の走行時間の調整が行えるようになっている。この情報表示制御装置5は、表示装置9に表示可能な各種の情報データ群が格納されている表示情報記憶部5aと、建物の階間距離が格納されている階間距離記憶部5bと、表示装置9に表示させる情報を前記情報データ群の中から選択する提供情報選択部5cとを具備しており、前記情報データ群には個人認証装置1a〜1dで認証される特定利用者向けの固有情報(映像情報や音声情報)が含まれている。
【0018】
また、本実施形態例においては、個人認証装置1a〜1dによって乗場の乗客が特定の利用者であると認証され、且つ、乗りかご10内が無人であると判定されたときに、情報表示制御装置5の提供情報選択部5cが、表示装置9に表示させる特定利用者向けの固有情報を選択するだけでなく、乗りかご10が出発階から行き先階へ到着するまでに要する走行時間の調整処理を行うようにしてある。かかる調整処理の詳細については後述するが、調整処理を実行する場合は、選択した固有情報の総表示時間に比して乗りかご10の走行時間が短くならないように、乗りかご10を所定の走行速度に低速化する。なお、乗りかご10内が無人であるか否かの判定は、荷重検出器21の検出データやかご内カメラ22の撮像データに基づいて行われる。
【0019】
次に、本実施形態例で行われる情報表示システムの処理手順を、図2のフローチャートに基づいて説明する。
【0020】
このフローチャートでは、まず処理S1において、乗場(例えば1階)にいる乗客が自身の認証を個人認証装置(例えば1a)にて行い、認証されたものとする。次なる処理S2では、その乗場のかご呼び釦(例えば2a)の登録によって、認証済みの乗客(特定利用者)の所在階(出発階)を判定する。そして、次なる処理S3において、乗りかご10内が無人であるか否かが判定され、乗りかご10内が無人と判定された場合は処理S4へ進み、無人ではないと判定された場合は処理S8へ進む。
【0021】
なお、図2では省略しているが、処理S1において乗場の乗客が個人認証装置によって認証されなかった場合は、処理S2から処理S8へ進む。
【0022】
処理S8では、所在階に到着した乗りかご10に乗客が乗り込み、行き先階釦8が押圧操作されるため、その行き先階が登録される。次なる処理S9では、表示装置9に表示させる情報として、不特定多数向けの一般情報(例えば乗りかご10の位置情報)が選択される。そして、次なる処理S10で乗りかご10の走行速度を定格速度V0に設定した後、処理S11へ進んでエレベータの走行(上昇または下降)を開始させる。つまり、処理S10から処理S11へ進んだ場合は、エレベータ制御装置4の速度制御部4aによって乗りかご10は定格速度V0で走行するように制御される。
【0023】
一方、処理S3での判定が「Yes」の場合は、処理S4で行き先階釦8の押圧操作により行き先階(例えば3階)が登録された後、処理S5〜S7の各処理を順次行ってから処理S11へ進んでエレベータの走行(上昇または下降)を開始させる。つまり、処理S2から処理S3を経て処理S4へ進んだ場合とは、認証済みの乗客(特定利用者)が無人の乗りかご10に乗り込んで行き先階の登録を行った場合である。この場合、処理S4の後、まず処理S5において、階間距離記憶部5bに格納されているデータを参照して、かご呼び釦で登録された所在階から行き先階までの階間距離を、乗りかご10の出発階から行き先階までの走行距離Lとして取得する。例えば、出発階が1階で行き先階が3階であれば、1階と3階の階間距離が走行距離Lとなる。次に、処理S6へ進んで、提供情報選択部5cが、認証した特定利用者向けの固有情報を、表示情報記憶部5aに格納されている情報データ群の中から選択して表示装置9に表示させると共に、その固有情報の総表示時間Tを取得する。そして、次なる処理S7で提供情報選択部5cは、走行距離Lの移動に要する時間が総表示時間Tとなる平均走行速度Vaを算出式(Va=L/T)から求めることによって、乗りかご10が行き先階に到着するまでに要する走行時間を総表示時間Tと同等にするための調整処理を行う。なお、図2中には処理S7として乗りかご10の定速移動時の速度Vが示されており、この速度Vは後述するように平均走行速度Vaよりも若干大きな値になる。
【0024】
かかる走行時間の調整処理について詳しく説明すると、処理S6で選択される固有情報の総表示時間Tは予め表示情報記憶部5aに格納されており、例えば図3に示すように、固有情報Aの総表示時間T1に比して固有情報Bの総表示時間T2は2倍程度長い。そして、処理S6で固有情報Aが選択された場合、乗りかご10を加速時と減速時を除く定速移動時に速度V1で走行させれば、乗りかご10が出発階を出発して行き先階に到着するまでに要する走行時間が固有情報Aの総表示時間T1と同等になるため、乗客(特定利用者)は自分向けの固有情報Aを乗りかご10内で最後まで見届けた直後に行き先階に降り立つことができる。ただし、加減速時も乗りかご10の走行時間に含まれるため、速度V1は平均走行速度(L/T1)よりも若干大きな値に設定しておく。また、処理S6で固有情報Bが選択された場合は、乗りかご10を定速移動時に速度V1よりも低速な速度V2で走行させれば、その走行時間が固有情報Bの総表示時間T2と同等になるため、乗客(特定利用者)は自分向けの固有情報Bを乗りかご10内で最後まで見届けた直後に行き先階に降り立つことができる。この場合も、速度V2は平均走行速度(L/T2)よりも若干大きな値に設定しておく。
【0025】
なお、乗りかご10の走行時間を、表示装置9に表示される固有情報の総表示時間T以内に設定しておけば、その固有情報を乗りかご10内で最後まで見届けることはできるが、走行時間を不必要に長く設定すると他の利用者に迷惑が及ぶため、上記のように走行時間は総表示時間Tと略同等に設定しておくことが好ましい。
【0026】
以上説明したように、本発明の第1実施形態例では、個人認証装置1a〜1dによって認証された乗客(特定利用者)が無人の乗りかご10に乗り込んで行き先階を登録したときに、この特定利用者向けの固有情報を乗りかご10内の表示装置9に表示できるだけでなく、該固有情報の総表示時間Tを考慮して乗りかご10の走行時間の調整処理を行うことによって、その固有情報を最後まで表示させうる走行時間に設定できるようになっている。これにより、この特定利用者は個室状態の乗りかご10が行き先階へ到着するまでの間に、表示装置9に表示される自分向けの固有情報を最後まで見届けられるようになるため、エレベータ使用時の情報提供サービスに対する特定利用者の満足度を高めることができる。また、乗りかご10に同乗者がいる場合には、表示装置9に固有情報が表示されないようにしてあるため、特定利用者のプライバシーを保護することもできる。
【0027】
次に、図4と図5を参照しながら、本発明の第2実施形態例に係るエレベータの情報表示システムについて説明する。ただし、図4の構成図において図1と対応する部分には同一符号が付してあるため、重複する説明は省略する。
【0028】
図4に示すように、この第2実施形態例では、情報表示制御装置5とエレベータ制御装置4との間に、提供情報選択部5cから速度制御部4aへ向けて出力される速度設定指令が選択的に遮断できる選択回路部6を介在させている。この選択回路部6は、乗場で認証された乗客(特定利用者)が固有情報の提供を要望する場合だけ乗りかご10の走行時間の調整処理を許可し、それ以外の場合は提供情報選択部5cからの速度設定指令を遮断して該調整処理が実行されないようにするためのものである。
【0029】
すなわち、本実施形態例においては、乗場で個人認証装置1a〜1dなどに対する第1の入力操作が行われると、乗場から選択回路部6へ第1の速度調整許可信号が通知されるようになっている。また、乗りかご10内の行き先階釦8などに対する第2の入力操作が行われると、乗りかご10から選択回路部6へ第2の速度調整許可信号が通知されるようになっている。この選択回路部6は、第1および第2の速度調整許可信号が通知された場合だけ、提供情報選択部5cと速度制御部4a間の接続スイッチ6aをオンに設定し、それ以外の場合は接続スイッチ6aをオフに設定するようになっている。
【0030】
したがって、乗客が特定利用者で固有情報の提供を要望する際には、第1および第2の入力操作を行って、第1および第2の速度調整許可信号を選択回路部6に通知すればよく、これにより選択回路部6は接続スイッチ6aをオンに設定する切替動作を行う。その結果、提供情報選択部5cから出力される速度設定指令が遮断されずに速度制御部4aに入力されるようになるため、特定利用者向けの固有情報の総表示時間Tに応じて乗りかご10の走行時間を調整するという処理が可能となる。しかるに、第1および第2の入力操作が行われなければ、選択回路部6に対して第1および第2の速度調整許可信号は通知されないため、接続スイッチ6aはオフに設定されたままである。この場合、提供情報選択部5cからの速度設定指令は遮断されて速度制御部4aに入力されないため、乗りかご10の走行時間を調整するという処理が行われることはない。
【0031】
次に、第2実施形態例で行われる情報表示システムの処理手順を、図5のフローチャートに基づいて説明する。ただし、図5のフローチャートにおいても図2と重複する部分の説明は適宜省略する。
【0032】
このフローチャートでは、乗場にいる乗客を個人認証装置で認証するという処理S1と、その乗場のかご呼び釦の登録によって認証済みの乗客(特定利用者)の所在階(出発階)を判定するという処理S2を行った後、ステップS21へ進んで、第1の速度調整許可信号を生成するという第1の入力操作が行われたか否かが判定される。処理S21での判定結果が「No」の場合、つまり特定利用者のいる乗場から選択回路部6へ第1の速度調整許可信号が通知されない場合は、処理S8へ進んで行き先階の登録が行われた後、処理S9において、乗りかご10内の表示装置9に表示させる情報として不特定多数向けの一般情報を選択し、さらに処理S10において、乗りかご10の走行速度を定格速度V0に設定する。なお、処理S1において乗場の乗客が個人認証装置によって認証されなかった場合は、処理S2から処理S8へ進む。
【0033】
一方、ステップS21での判定結果が「Yes」の場合、つまり特定利用者のいる乗場から選択回路部6へ第1の速度調整許可信号が通知された場合は、処理S3へ進んで、乗りかご10内が無人であるか否かが判定される。そして、乗りかご10内が無人と判定された場合は処理S4へ進み、無人ではないと判定された場合は処理S8へ進む。
【0034】
処理S4では、乗りかご10に乗り込んだ特定利用者が行き先階釦8で行き先階を登録し、次なる処理S41において、第2の速度調整許可信号を生成するという第2の入力操作が行われたか否かが判定される。処理S41での判定結果が「No」の場合、つまり第2の速度調整許可信号が選択回路部6へ通知されていない場合は、乗りかご10内の特定利用者が何らかの理由で固有情報の提供を求めない選択をしたものと判断して処理S9へ移行する。この場合、乗りかご10内の表示装置9には不特定多数向けの一般情報が表示されることになる。
【0035】
一方、処理S41での判定結果が「Yes」の場合、つまり特定利用者のいる乗りかご10から選択回路部6へ第2の速度調整許可信号が通知された場合は、処理S5〜S7の各処理を順次行う。前述したように、処理S5では乗りかご10の出発階から行き先階までの走行距離Lを求め、次なる処理S6では、特定利用者向けの固有情報を選択して表示装置9に表示させると共に、その固有情報の総表示時間Tを取得する。また、次なる処理S7では、走行距離Lの移動に要する時間が総表示時間Tとなる平均走行速度Vaを求めることによって、乗りかご10が行き先階に到着するまでに要する走行時間を総表示時間Tと同等にするための調整処理を行う。これにより、この特定利用者は、個室状態の乗りかご10が行き先階へ到着するまでの間に、表示装置9に表示される自分向けの固有情報を最後まで見届けられるようになる。なお、図5中にも処理S7として乗りかご10の定速移動時の速度Vが示されており、この速度Vは平均走行速度Vaよりも若干大きな値になる。
【0036】
以上説明したように、本発明の第2実施形態例では、個人認証装置1a〜1dによって認証された乗客(特定利用者)が乗りかご10の走行時間の調整処理を要望するか否かを示す第1および第2の速度調整許可信号に基づいて、該調整処理を選択的に許可する選択回路部6を備えている。それゆえ、特定利用者は、乗りかご10内で固有情報の提供が受けられる場合でも、走行時間の短縮を優先して固有情報の提供を受けないという選択が行えることになる。つまり、状況に応じて固有情報の表示と走行時間の短縮のいずれを優先するかという自主選択が可能になるため、特定利用者にとって使い勝手が良くなる。
【0037】
なお、上記の第2実施形態例では、乗場からの第1の速度調整許可信号と乗りかご10からの第2の速度調整許可信号が共に選択回路部6へ通知された場合に、乗りかご10の走行時間の調整処理が許可されるようになっているが、いずれか一方の速度調整許可信号が選択回路部6へ通知されれば該調整処理が許可されるように簡略化してもよい。その場合の処理手順は、図5のフローチャートにおける処理S21と処理S41のいずれか一方を省略したものとなる。
【0038】
次に、図6を参照しながら、本発明の第3実施形態例に係るエレベータの情報表示システムについて説明する。ただし、図6の構成図において図4と対応する部分には同一符号が付してあるため、重複する説明は省略する。
【0039】
図6に示すように、この第3実施形態例では、選択回路部6に接続されて接続スイッチ6aが強制的にオフに設定できる走行調整制限手段7を備えている。この走行調整制限手段7は、乗りかご10の使用頻度が高いと判断されたときに走行時間の調整処理が実行されないように制限するためのものであり、例えばエレベータの運行情報を集約している運行管理装置に設けられている。具体的には、運行情報のデータによって、乗りかご10の使用頻度が所定の繁忙レベルに達したと判断されると、走行調整制限手段7が選択回路部6に対して遮断指令信号を出力する。この遮断指令信号を受け取った選択回路部6は、接続スイッチ6aを強制的オフ状態に設定する。この強制的オフ状態とは、前記第1および第2の速度調整許可信号が通知されても接続スイッチ6aがオンに切り替わらない状態のことであり、乗りかご10の使用頻度が所定の閑散レベルに達したと判断された時点で強制的オフ状態は解除される。つまり、乗りかご10が頻繁に使用されているときは、走行調整制限手段7の遮断指令信号によって接続スイッチ6aが強制的オフ状態に設定されているため、特定利用者が固有情報の提供を要望した場合にも、提供情報選択部5cからの速度設定指令は遮断されて速度制御部4aには入力されず、よって乗りかご10の走行時間を調整するという処理が行われることはない。
【0040】
なお、エレベータの運行を遠隔的に監視する監視センタが運行管理業務を行っている場合には、この監視センタに備えられた走行調整制限手段7から通信回線を介して遮断指令信号が選択回路部6に送信されるようにしておけばよい。
【0041】
以上説明したように、本発明の第3実施形態例では、乗りかご10の使用頻度が高いと判断されたときに走行時間の調整処理が実行されないように制限する走行調整制限手段7を備えている。そのため、特定利用者に対する情報提供サービスよりも、エレベータを使用する乗客全体の利便性を優先させることができる。そして、本実施形態例で説明した乗りかご10の使用頻度が高いと判断されたときに走行時間の調整処理が実行されないように制限する走行調整制限手段7を備えた構成は、第1実施形態例や第2実施形態例の構成に適用するなど、多様な形態に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0042】
1a〜1d 個人認証装置(乗客認証手段)
2a〜2d かご呼び釦
3a〜3d 表示器
4 エレベータ制御装置
4a 速度制御部
5 情報表示制御装置
5a 表示情報記憶部(表示情報記憶手段)
5b 階間距離記憶部(距離データ記憶手段)
5c 提供情報選択部(提供情報選択手段)
6 選択回路部(走行調整選択手段)
6a 接続スイッチ
7 走行調整制限手段
8 行き先階釦
9 表示装置(表示手段)
10 乗りかご
11 主ロープ
12 釣合い錘
13 巻上機
21 荷重検出器(かご内無人判定手段)
22 かご内カメラ(かご内無人判定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の利用者に提供するための固有情報を乗りかご内の表示手段に表示可能なエレベータの情報表示システムにおいて、
乗場で待機中の乗客が特定の利用者であるか否かの認証を行う乗客認証手段と、前記乗りかご内が無人状態であるか否かを判定するかご内無人判定手段と、特定利用者向けの固有情報を含む情報データ群が格納されている表示情報記憶手段と、提供すべき前記固有情報を前記情報データ群の中から選択する提供情報選択手段と、前記乗りかごの走行距離の算定基準が格納されている距離データ記憶手段とを備え、
前記乗客認証手段によって乗場の乗客が認証され、且つ、前記かご内無人判定手段によって前記乗りかご内が無人であると判定されたときに、前記提供情報選択手段によって、前記表示手段に表示させる前記固有情報が選択可能であると共に、前記乗りかごが出発階から行き先階へ到着するまでに要する走行時間の調整処理が可能であり、この調整処理では、選択した前記固有情報の総表示時間に比して前記走行時間が短くならないように前記乗りかごが所定の走行速度に低速化されるようにしたことを特徴とするエレベータの情報表示システム。
【請求項2】
請求項1の記載において、特定利用者が前記乗りかごの走行時間の調整処理を要望するか否かを示す信号に基づいて、該調整処理を選択的に許可する走行調整選択手段を備えていることを特徴とするエレベータの情報表示システム。
【請求項3】
請求項1または2の記載において、前記乗りかごの使用頻度が高いと判断されたときには走行時間の調整処理が実行されないように制限する走行調整制限手段を備えていることを特徴とするエレベータの情報表示システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−39995(P2013−39995A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176953(P2011−176953)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】