説明

エレベータシステム診断方法およびエレベータシステム診断装置

【課題】 エレベータシステムの状態を正確に診断するエレベータシステム診断方法を提供する。
【解決手段】 本発明のエレベータシステム診断方法は、a)規定のかご動作中に複数の測定値を取得し、比較基準時系列データとし、b)エレベータシステムの診断時に、規定のかご動作が行われている規定のかご動作に必要な時間より長い時間の間に複数の測定値を取得して元時系列データとし、c)比較基準時系列データとの相関関数が最大となるような比較対象時系列データを元時系列データから抽出し、d)比較基準時系列データの測定値と、比較基準時系列データの測定値と対応する比較対象時系列データの測定値との差の絶対値を、それぞれの測定値について算出し、それぞれの測定値の絶対値を集計して合計値とし、e)合計値を、基準時系列データと比較対象時系列データとの関係を示す関係値とし、f)関係値に基づいて、エレベータシステムの状態を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータシステムの異常を発見するためのエレベータシステム診断方法およびその方法を用いるエレベータシステム診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータシステム診断装置が実施するエレベータシステム診断は、かごの動作によって変動するエレベータシステムの状態を示す複数の測定値(例えば、加速度や騒音の測定値)からなる時系列データを周波数解析し、エレベータシステム正常時の時系列データの周波数解析結果と比較して異常または正常の判定を行う。例えば、特許文献1のエレベータシステム診断装置は、かごの走行によって生じる振動を加速度センサによって測定し、複数の測定値からなる時系列データに対して周波数解析を行い、周波数解析によって解析されたエレベータシステムの周波数特性とエレベータシステム正常時におけるエレベータシステムの周波数特性とを比較することにより、エレベータシステムの異常の有無、異常箇所、異常の程度(レベル)を判断する。
【特許文献1】特開平09−2752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
当然ながら、エレベータシステム正常時に取得した時系列データ(正常時系列データ)と、エレベータシステム診断時に取得した時系列データとを比較するために、両時系列データを取得するために行うかごの動作(以下、「規定のかご動作」と称する。)は、例えば、動作完了時間、速度、加速度などが同一でなければならない。このとき、エレベータシステム診断装置は、規定のかご動作の開始時期、言い換えると、時系列データの取得開始の時期をエレベータシステム制御装置から告知され、告知された時期に正確に時系列データの取得を開始しなければならない。そのため、エレベータシステム診断装置とエレベータシステム制御装置との通信にタイムラグが生じないように、高精度で高速な通信手段が必要とされる。また、エレベータシステム診断装置とエレベータシステム制御装置のそれぞれが時計を有し、時刻を合わせて、時系列データの取得開始と規定のかご動作の開始を行うことが考えられるが、この場合、これらの開始時期が同一という保証がない。
【0004】
そこで、本発明は、エレベータシステム診断装置の時系列データ取得の開始時期と、エレベータシステム制御装置の規定のかご動作の開始時期とを正確に合致させなくとも、エレベータシステム正常時に取得した時系列データとエレベータシステム診断時に取得した時系列データとを高精度に比較し、高精度な比較結果からエレベータシステムの状態を正確に診断するエレベータシステム診断方法と、それを用いたエレベータシステム診断装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のエレベータシステム診断方法は、かごの動作によって変動するエレベータシステムの状態を示す複数の測定値からなる複数の時系列データを相互に比較することにより、上記エレベータシステムの状態を判定するエレベータシステム診断方法であって、
a)規定のかご動作中に複数の測定値を取得し、比較基準時系列データとする工程と、
b)上記エレベータシステムの診断時に、上記規定のかご動作が行われている上記規定のかご動作に必要な時間より長い時間の間に複数の測定値を取得し、元時系列データとする工程と、
c)上記比較基準時系列データとの相関関数が最大となるような比較対象時系列データを上記元時系列データから抽出する工程と、
d)上記比較基準時系列データの測定値と、上記比較基準時系列データの測定値と対応する上記比較対象時系列データの測定値との差の絶対値を、それぞれの測定値について算出し、それぞれの測定値の絶対値を集計して合計値とする工程と、
e)上記合計値を、上記基準時系列データと上記比較対象時系列データとの関係を示す関係値とする工程と、
f)上記関係値に基づいて、上記エレベータシステムの状態を判定する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明よれば、エレベータシステム診断装置の時系列データ取得の開始時期と、エレベータシステム制御装置の規定のかご動作の開始時期とを正確に合致させなくとも、エレベータシステム正常時に取得した時系列データと異常診断時に取得した時系列データとを高精度に比較でき、高精度な比較結果からエレベータシステムの状態を正確に診断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係るエレベータシステム診断装置は、エレベータシステムの自動診断実施時に使用される。簡単に説明すると、自動診断は、エレベータシステムの利用率が低い時期、例えば、利用者が少ない深夜の時間帯に、かごに人が存在していないことを確認した後、規定のかご動作を行うとともに、センサを用いて規定のかご動作によって変動するエレベータシステムの状態を示す物理量(例えば、騒音、温度など)または状態量(例えば、速度、加速度など)を測定する。この測定結果からエレベータシステムの状態を診断する。また、診断は、エレベータシステム正常時に測定された測定結果と比較することにより、診断時におけるエレベータシステムの正常または異常を判定する。
【0008】
ここで、規定のかご動作とは、規定の時間で行われるかごの動作であり、具体的に言えば、特定階間の走行動作やかごの扉の開閉動作、加減速を繰り返す走行動作など、かごが実施可能な動作全般を規定の時間で行う動作をいう。
【0009】
本発明のエレベータシステム診断装置は、例えば、エレベータシステム制御装置から自動診断の規定のかご動作の開始時期を告知され、または、予め決められた規定のかご動作を開始する時刻に、規定のかご動作によって変動するエレベータシステムの状態を示す物理量または状態量を測定して時系列データの取得を開始する。しかしながら、後述に示すように、時系列データの取得開始の時期は、規定のかご動作の開始時期に正確に合致させる必要はなく、規定のかご動作の開始時期前、例えば、規定のかご動作の開始時期の1秒前などに決定される。
【0010】
また、代わりとして、エレベータシステム診断装置が、時系列データの取得を開始した後、エレベータシステム制御装置に規定のかご動作を行うように指令してもよい。
【0011】
以下、エレベータシステム診断装置について説明する。本発明の実施の形態に係るエレベータシステム診断装置は、移動中のかごの加速度を測定して得た複数の測定値からなる時系列データを用いてエレベータシステムを診断する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、エレベータシステム10に設けられた、本発明に係るエレベータシステム診断装置12を概略的に示している。エレベータシステム診断装置12は、エレベータシステム10のかご14上に載置されており、かご14に取り付けられた加速度センサ16によってエレベータシャフト18内を矢印20方向に進行しているかご14の加速度を測定している。また、エレベータシステム診断装置12は、エレベータシステム診断結果を、例えば、無線LANや電話回線などの通信手段22によってエレベータシステム10外部にいるエレベータシステム管理者に通知する。
【0013】
図2は、エレベータシステム診断装置12の構成を概略的に示している。エレベータシステム診断装置12は、加速度センサ16からかご14の加速度の変動を示す時系列データを取得する時系列データ取得部30と、時系列データ取得部30が取得した時系列データを保存している時系列データ保存部32と、比較基準時系列データAxと比較される比較対象時系列データAyを元時系列データAoから抽出する比較対象時系列データ抽出部34と、比較基準時系列データAxと比較対象時系列データAyとを比較して関係値を算出する関係値算出部36と、関係値に基づいて比較基準時系列データAxが取得された時のエレベータシステムの状態と比較対象時系列データAyが取得された時のエレベータシステムの状態との比較判定結果を、例えば、エレベータシステム管理者に出力する判定結果出力部38とを有する。
【0014】
以下、これらのエレベータシステム診断装置12の構成要素の詳細をエレベータシステム診断手順とともに説明する。
【0015】
加速度センサ16は、移動中のかご14の加速度を連続的に測定し、その測定結果を電圧信号の時系列波形として時系列データ取得部30に出力する。図3は、エレベータシステム10が正常であるときに加速度センサ16が出力した電圧信号の時系列波形を示している。これは、かご14が、停止状態からある一定時間加速し続け、その後、ある一定時間定速で維持し、続いて、ある一定時間で減速して停止するという動作を規定の時間、9秒間におこなうという規定のかご動作を測定したものである。以後、エレベータシステム診断装置を説明するにあたり、これを規定のかご動作とする。
【0016】
図3において、電圧信号が正である場合、かごは加速しており、電圧信号が負である場合、かごは減速している。電圧信号が0である場合、かごが加速または減速していないことを示している。
【0017】
時系列データ取得部30は、加速度センサ16が出力した加速度の変動を示す電圧信号の時系列波形をアナログ−デジタル変換し、加速度の変動を示す時系列データAを作成取得する。例えば、時系列データAは、数1に示すように、l個の電圧値(複数の測定値)からなる集合で示される。時系列データAに含まれる複数の測定値の個数(l)は、規定のかご動作が完了するのに必要な時間(例えば、上述の9秒間)やアナログ−デジタル変換の分解能によって決定される。
【数1】

【0018】
時系列データ取得部30は、取得した時系列データを時系列データ保存部32に出力する。
【0019】
時系列データ保存部32には、複数の時系列データが保存されている。複数の時系列データとして、エレベータシステム正常時における規定のかご動作時に取得された、エレベータシステムの正常または異常の判定を行う際に比較基準となる比較基準時系列データAxが保存されている。また、比較基準時系列データAxと比較される時系列データ(比較対象時系列データ)が抽出される元である、エレベータシステム診断時における規定のかご動作時に取得された元時系列データAoが保存されている。比較基準時系列データAxと元時系列データAoの詳細については後述する。
【0020】
比較対象時系列データ抽出部34は、時系列データ保存部32に保存されている元時系列データAoから比較基準時系列データAxと比較される比較対象時系列データAyを抽出する。比較基準時系列データAxは、エレベータシステム正常時に行われた規定のかご動作の加速度の変動を示すものであり、数2で示すように、m個の測定値を構成要素とする集合である。
【数2】

【0021】
元時系列データAoは、エレベータシステム10診断時に、規定のかご動作が行われている、規定のかご動作の完了に必要な時間より長い時間の間に加速度センサ16が測定した加速度の変動を示すものであり、数3に示すように、m個より多いn個の測定値を構成要素とする集合である。
【数3】

【0022】
比較対象時系列データAyは、元時系列データAoに含まれる、比較基準時系列データAxが有する測定値の個数と同一のm個の連続した構成要素の集合で構成される。例えば、元時系列データAoが、m+2個の測定値から構成される場合(n=m+2である場合)、比較対象時系列データAyは、[Ao1,Ao2,Ao3,…,Aom]、[Ao2,Ao3,Ao4,…,Aom+1]、[Ao3,Ao4,Ao5,…,Aom+2]の3つの集合のいずれかである。この中、比較基準時系列データAxとの相関関数が最大となる集合が、比較対象時系列データ抽出部34によって比較対象時系列データAyとして抽出される。比較対象時系列データAyは、例えば、数4のように示される。このように、比較対象時系列データAyは、比較基準時系列データAxとの相関関数が最大となるように、元時系列データAoから抽出される。
【数4】

【0023】
比較対象時系列データ抽出部34は、抽出した比較対象時系列データAyを判定値算出部36に出力する。
【0024】
関係値算出部36は、比較基準時系列データAxの測定値(Ax1,Ax2,Ax3,…,Axm)と、これらと最大の相関関係で対応する比較対象時系列データAyの測定値((Ay1,Ay2,Ay3,…,Aym)との差の絶対値を、それぞれの測定値について算出し、それぞれの測定値の絶対値の合計値を、比較基準時系列データAxと比較対象時系列データAyとの関係を示す関係値とする。比較基準時系列データAxの複数の測定値をAxi(iは1以上m以下の整数)、比較対象時系列データAyの測定値をAyiとすると、関係値d1は、数5に示す式で表現される。
【数5】

【0025】
また、別の方法で算出される関係値を用いることもできる。図4は、上述と異なる方法で関係値d2を求めるのに使用される概念の理解を容易にする図である。横軸は比較基準時系列データAxの測定値Axi(iは1以上m以下の整数)を示し、縦軸は比較対象時系列データAyの測定値Ayiを示している。図4(a)は、エレベータシステムが状態1であるときに取得された比較対象時系列データAyとエレベータシステムが正常であるときに取得された比較基準時系列データAxとの関係を示す図であり、一方、図4(b)は、エレベータシステムが状態2であるときに取得された比較対象時系列データAyとエレベータシステムが正常であるときに取得された比較基準時系列データAxとの関係を示す図である。これらの図において、測定値AxiとAyiは、点(Axi、Ayi)としてプロットされる。
【0026】
エレベータシステム診断時、エレベータシステムが正常である場合、比較対象時系列データAyの測定値Ayiは、エレベータシステム正常時に測定された、対応する比較基準時系列データAxの測定値Axiと等しくなる。すなわち、点(Axi、Ayi)は、図に示すAyi=Axiの直線上にプロットされる。一方、エレベータシステム診断時、エレベータシステムが正常でない(異常である)場合、点(Axi、Ayi)は、Ayi=Axiの直線から離れてプロットされる。点(Axi、Ayi)からAyi=Axiの直線までの距離を集計して関係値d2とする。任意の点(Axj、Ayj)(jは1以上m以下の整数)から直線Ayi=Axi間での距離Ljは、数6の式で求められ、それらの距離Ljを集計した関係値d2は、数7の式で求められる。
【数6】

【数7】

【0027】
関係値算出部36は、算出した関係値を判定結果出力部38に出力する。
【0028】
判定結果出力部38は、判定値算出部36が算出した関係値に基づいて、エレベータシステム診断時のエレベータシステムの状態の正常または異常を判定して出力する。判定結果出力部38は、関係値が規定の閾値を超えるか否かで、エレベータシステムの正常または異常を判定する。規定の閾値は、エレベータシステムの状態の変化を最低限検出できる値に決定される。すなわち、閾値設定が過度に厳しい場合、具体的言えば、エレベータシステム診断時とエレベータシステム正常時に測定された測定値(時系列データ)が略合致する(判定値が略0である)場合のみエレベータシステムの状態を正常とすると、例えば、センサの許容される測定誤差や測定時の温度などの周囲の環境などのエレベータシステムの状態と関係しない要素によってエレベータシステムが異常と判定されるため、規定の閾値は、これを考慮した値に設定される。
【0029】
判定結果出力部38は、エレベータシステムの正常か異常かの判定結果を、通信手段22によってエレベータシステム管理者に通知する。
【0030】
このような構成によれば、エレベータシステム診断装置の時系列データ取得の開始時期と、エレベータシステム制御装置の規定のかご動作の開始時期とを正確に合致させなくとも、エレベータシステム正常時に取得した時系列データと異常診断時に取得した時系列データとを高精度に比較でき、高精度な比較結果からエレベータシステムの状態を正確に診断することができる。
【0031】
実施の形態2.
本実施の形態のエレベータシステム診断装置は、エレベータシステムに異常がある場合、その異常の種類を特定する。
【0032】
図5は、本実施の形態のエレベータシステム診断装置112の構成を概略的に示している。エレベータシステム診断装置112は、実施の形態1と略同一の機能を有する加速度センサ116、時系列データ取得部130、時系列データ保存部132、比較対象時系列データ抽出部134、関係値算出部136を有する。これらについての説明は簡略する。
【0033】
また、これら以外に、エレベータシステム診断装置112は、加速度センサ116から出力される時系列波形を複数の周波数帯域毎に分解する時系列波形分解部140、時系列データを複数の時系列区間に分割する時系列データ分割部142、複数の関係値からなるマトリクスデータを作成するマトリクスデータ作成部144、マトリクスデータを保存するマトリクスデータ保存部146、判定結果出力部148とを有する。
【0034】
以下、これらのエレベータシステム診断装置112の構成要素の詳細をエレベータシステム診断手順とともに説明する。
【0035】
加速度センサ116は、実施の形態1の加速度センサ16と同一であるため、説明を省略する。
【0036】
時系列波形分解部140は、加速度センサ116が出力した電圧信号の時系列波形を複数の周波数帯毎に分解する。例えば、図3に示される加速度センサ116が出力した電圧信号の時系列波形は、図6に示すように、複数の周波数帯域1〜7毎の時系列波形に分解される。周波数帯域1が最も低い周波数であり、順に周波数は大きくなり、周波数帯域7が最も大きい周波数である。周波数帯域の周波数値および周波数帯域の数は、任意に設定される。
【0037】
時系列データ取得部130は、実施の形態1の時系列データ取得部30と同様の手順に従って、複数の周波数帯域毎の時系列データを作成取得する。
【0038】
時系列データ保存部132は、複数の周波数帯域毎の時系列データが保存されている。複数の周波数帯域別元時系列データAo1〜Ao7と複数の周波数帯域別比較基準時系列データAx1〜Ax7が保存されている。
【0039】
比較対象時系列データ抽出部134は、実施の形態1の比較対象時系列データ抽出部34と同様の手順に従って、複数の周波数帯域別元時系列データAo1〜Ao7それぞれから複数の周波数帯域別比較対象時系列データAy1〜Ay7を抽出する。
【0040】
時系列データ分割部142は、周波数帯域別比較基準時系列データAx1〜7と周波数帯域別比較対象時系列データAy1〜Ay7とを複数の時系列区間に分割する。例えば、図6に示すように、規定のかご動作(かごが、停止状態からある一定時間加速し続け、その後、ある一定時間定速で維持し、続いて、ある一定時間で減速して停止するという動作を規定の時間、9秒間に行うというかご動作)を、5つの時系列区間に分割する。区間1においては、かごが停止から加速する動作が、区間2においては、かごが一定の加速から定速に移行する動作が、区間3においては、かごが定速で移動する動作が、区間4においては、かごが定速から減速する動作が、区間5においては、かごが停止する動作が行われる。
【0041】
したがって、時系列データ分割部142から出力される時系列データは、例えば、比較基準時系列データAxは、周波数帯域数×時系列区間数の、ここでは35個の時系列データで示される。以下、周波数帯域kの時系列区間lにおける、比較基準時系列データをAxkl、比較対象時系列データをAyklと表現する。ここでは、kは1〜7の整数であって、lは1〜5の整数である。
【0042】
関係値算出部136は、実施の形態1の関係値算出部36と同様の手順に従って、同一周波数帯域および同一時系列区間の比較基準時系列データAxklと比較対象時系列データAyklとの関係を示す関係値を算出する。以下、周波数帯域kにおける時系列区間lの関係値をdklと表現する。関係値算出部136は、全ての周波数帯域における全ての時系列区間における関係値を算出する。
【0043】
マトリクスデータ作成部144は、関係値算出部136が算出した全ての周波数帯域における全ての時系列区間における関係値から関係値マトリクスデータを作成する。関係値マトリクスデータMは、例えば、数8に示すような形態である。
【数8】

【0044】
数8に示すマトリクスデータMにおいて、d11は、周波数帯域1の時系列区間1における比較基準時系列データAx11と比較対象時系列データAy11との関係を示す関係値である。また、dklは、周波数帯域kの時系列区間lにおける比較基準時系列データAxklと比較対象時系列データAyklとの関係を示す関係値である。
【0045】
マトリクスデータ作成部144は、作成したマトリクスデータMをマトリクスデータ保存部146に保存するとともに、判定結果出力部148に出力する。
【0046】
マトリクスデータ保存部146は、複数のマトリクスデータを有しており、マトリクスデータ作成部144が作成したマトリクスデータを蓄積している。蓄積されているマトリクスデータとして、マトリクスデータを構成する関係値に関連する比較対象時系列データAyが取得されたときのエレベータシステムの異常内容の情報が付与されている異常マトリクスデータMa1、Ma2が存在する。異常マトリクスデータMaについては、後述する。
【0047】
判定結果出力部148は、マトリクスデータ作成部144から出力されたマトリクスデータMを判定することにより、マトリクスデータを構成する関係値に関連する比較対象時系列データが取得されたときのエレベータシステムの状態の正常または異常を判断する。判定結果出力部148は、マトリクスデータ保存部146に保存されている異常マトリクスデータMaとマトリクスデータ作成部144から出力されたマトリクスデータMとを比較し、両者の一致または類似性を判定する。
【0048】
一致または類似する場合、マトリクスデータ作成部144から出力されたマトリクスデータMが作成されたときのエレベータシステムの状態は、異常マトリクスデータMaが作成されたときのエレベータシステムの異常と判定する。
【0049】
また、一致または類似しない場合、マトリクスデータMが作成されたときのエレベータシステムには、新たな異常が生じたと判定される。また、マトリクスデータ作成部144から出力されたマトリクスデータMを構成する複数の関係値が0または規定の閾値内にある場合、このマトリクスデータMが作成されたときのエレベータシステムは正常と判定される。規定の閾値は、実施の形態1と同様に、エレベータシステムの状態に関係しない要素によって異常と判定されないような値に決定される。
【0050】
マトリクスデータ作成部144から出力されたマトリクスデータMが新たなエレベータシステムの異常を示すものである場合、その異常原因が究明された後、その異常原因の内容の情報が、マトリクスデータ保存部146に蓄積されているマトリクスデータMに付与される。これにより、このマトリクスデータは、新たな異常を示す異常マトリクスデータとなり、以後の新たなマトリクスデータとの比較に使用される。
【0051】
本実施の形態において、時系列データを周波数帯域毎に分解し、また、時系列区間毎に分割したが、どちらか一方でも良い。
【0052】
本実施の形態によれば、周波数帯域毎にまた時系列毎に分割した時系列データを用いることにより、エレベータシステムの異常の種類の特定が可能になる。また、エレベータシステムの状態の異常を示す異常マトリクスデータを蓄積することにより、異常マトリクスデータと一致する又は類似するマトリクスデータが作成されたときのエレベータシステムの異常が過去の異常と一致する又は類似すると簡単に特定され、その結果、エレベータシステムの異常原因の究明が省略され、異常からの復旧が短時間で行うことができる。
【0053】
以上、2つの実施の形態のエレベータシステム診断装置を説明したが、当業者がこれらエレベータシステム診断装置の変形例を容易に作製できるのは明らかである。例えば、エレベータシステムの状態を示す状態量として速度を測定しても良いし、また、物理量を示す騒音を測定しても良い。速度や騒音でも加速度と同様に、エレベータシステムを診断できる。
【0054】
また、比較基準時系列データAxは、エレベータシステム正常時に取得されたものでなくても良い。過去に取得された比較対照時系列データAyであっても良く、例えば、直前に取得された時系列データを比較基準時系列データAxとし、現在取得された時系列データを比較対象時系列データAyとすると、直前のエレベータシステムの状態と現在のエレベータシステムの状態とを比較判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】エレベータシステム診断装置が設置されたエレベータシステムの概略図である。
【図2】実施の形態1のエレベータシステムの概略的構成図である。
【図3】加速度センサが出力する電圧信号の時系列波形を示す図である。
【図4】関係値の算出方法の概念を示す図である。
【図5】実施の形態2のエレベータシステムの概略的構成図である。
【図6】図3に示す時系列波形を周波数帯域毎に分解するとともに時系列区間毎に分割した時系列波形を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
10 エレベータシステム、 12 エレベータシステム診断装置、 14 かご、 16 加速度センサ、 18 シャフト、 20 方向、 22 通信手段、
30 時系列データ取得部、 32 時系列データ保存部、 34 比較対象時系列データ抽出部、 36 関係値算出部、 38 判定結果出力部、
Ao 元時系列データ、 Ax 比較基準時系列データ、 Ay 比較対照時系列データ、
112 エレベータシステム診断装置、 116 加速度センサ、 130 時系列データ取得部、 132 時系列データ保存部、 134 比較対象時系列データ抽出部、 136 関係値算出部、 140 時系列波形分解部、 142 時系列分解部、 144 マトリクスデータ作成部、 146 マトリクスデータ保存部、 148 判定結果出力部、
Aok 周波数帯域別元時系列データ、 Axk 周波数帯域別比較基準時系列データ
M1 異常マトリクスデータ、 M2 異常マトリクスデータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
かごの動作によって変動するエレベータシステムの状態を示す複数の測定値からなる複数の時系列データを相互に比較することにより、上記エレベータシステムの状態を判定するエレベータシステム診断方法であって、
a)規定のかご動作中に複数の測定値を取得し、比較基準時系列データとする工程と、
b)上記エレベータシステムの診断時に、上記1つの規定のかご動作が行われている上記規定のかご動作に必要な時間より長い時間の間に複数の測定値を取得し、元時系列データとする工程と、
c)上記比較基準時系列データとの相関関数が最大となるような比較対象時系列データを上記元時系列データから抽出する工程と、
d)上記比較基準時系列データの測定値と、上記比較基準時系列データの測定値と対応する上記比較対象時系列データの測定値との差の絶対値を、それぞれの測定値について算出し、それぞれの測定値の絶対値を集計して合計値とする工程と、
e)上記合計値を、上記基準時系列データと上記比較対象時系列データとの関係を示す関係値とする工程と、
f)上記関係値に基づいて、上記エレベータシステムの状態を判定する工程とを有することを特徴とするエレベータシステム診断方法。
【請求項2】
上記複数の測定値が、複数の周波数帯域毎に測定された複数の測定値であり、
上記f)工程が、上記複数の周波数帯域毎の関係値に基づいて、上記エレベータシステムの状態を判定することを特徴とする請求項1に記載のエレベータ診断方法。
【請求項3】
上記複数の測定値が、上記規定のかご動作に必要な時間を構成する複数の時系列区間毎に測定された複数の測定値であり、
上記f)工程が、上記複数の時系列区間毎の関係値に基づいて、上記エレベータシステムの状態を判定することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のエレベータ診断方法。
【請求項4】
上記比較基準時系列データが、上記エレベータシステム正常時に取得されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載のエレベータ診断方法。
【請求項5】
かごの動作によって変動するエレベータシステムの状態を示す複数の測定値からなる複数の時系列データを相互に比較することによって上記エレベータシステムの状態を判定するエレベータシステム診断装置であって、
上記エレベータシステムの状態を測定するセンサと、
上記センサが出力する測定結果を複数の測定値からなる時系列データとして取得する時系列データ取得部と、
上記時系列データを保存し、規定のかご動作中に取得された比較基準時系列データを保存している時系列データ保存部と、
上記エレベータシステムの診断時に、上記規定のかご動作が行われている上記規定のかご動作に必要な時間より長い時間の間に取得された元時系列データから、上記比較基準時系列データとの相関関数が最大となるような比較対象時系列データを抽出する比較対象時系列データ抽出部と、
上記比較基準時系列データの測定値と、上記比較基準時系列データの測定値と対応する上記比較対象時系列データの測定値との差の絶対値を、それぞれの測定値について算出し、それぞれの測定値の絶対値の合計値を、上記基準時系列データと上記比較対象時系列データとの関係を示す関係値とする関係値算出部と、
上記関係値に基づいて、上記エレベータシステムの状態を判定する判定結果出力部とを含むことを特徴とするエレベータシステム診断装置。
【請求項6】
上記センサが出力する測定結果の時系列波形を複数の周波数帯域毎の時系列波形に分解する時系列波形分解部を有し、
上記時系列データ取得部が、上記複数の周波数帯域毎の時系列波形から上記複数の周波数帯域毎の時系列データを取得し、
上記判定結果出力部が、上記複数の周波数帯域毎の関係値に基づいて上記エレベータシステムの状態を判定することを特徴とする請求項5に記載のエレベータシステム診断装置。
【請求項7】
上記比較基準時系列データと上記比較対象時系列データとを上記規定のかご動作に必要な時間を構成する複数の時系列区間毎に分割する時系列データ分割部を有し、
上記判定結果出力部が、上記時系列区間毎の関係値に基づいて上記エレベータシステムの状態を判定することを特徴とする請求項5または6のいずれか一に記載のエレベータシステム診断装置。
【請求項8】
上記複数の周波数帯域毎のまたは上記複数の時系列区間毎の少なくとも一方の関係値からなるマトリクスデータを作成するマトリクスデータ作成部と、
上記マトリクスデータを保存するマトリクスデータ保存部とを有し、
上記判定結果出力部が、上記マトリクスデータ作成部が作成した新たなマトリクスデータと、上記マトリクスデータ保存部に保存されている、上記マトリクスデータ作成部が作成した過去のマトリクスデータとを比較し、上記エレベータシステムの状態を判定することを特徴とする請求項6または7のいずれか一に記載のエレベータシステム診断装置。
【請求項9】
上記マトリクスデータ保存部に保存されているマトリクスデータに、上記エレベータシステムの異常内容の情報が付与されていることを特徴とする請求項8に記載のエレベータシステム診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−69699(P2006−69699A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252503(P2004−252503)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】