説明

エレベータ用ロープ

【課題】滑り速度に依存せず安定した摩擦係数を有するエレベータ用ロープを得ること。
【解決手段】本発明のエレベータ用ロープは、ロープ本体、及び該ロープ本体の外周を被覆し、15℃以下の融点を有するポリテトラメチレングリコール変性体を原料ポリオール成分として用いた熱可塑性ポリウレタンエラストマーの成形体からなる樹脂被覆層を備えている。本発明で使用するポリテトラメチレングリコール変性体は、テトラヒドロフランとネオペンチルグリコールとの共重合体又はテトラヒドロフランと3−メチルテトラヒドロフランとの共重合体であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータに用いられ、かごを吊り下げるエレベータ用ロープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エレベータ装置においては、ロープの早期の摩耗や断線を防止するため、ロープ径の40倍以上の直径を持つシーブが使用されている。そのため、シーブの径を小さくするためには、ロープの径も小さくする必要がある。しかし、ロープ本数を変えずにロープ径を小さくすると、ロープの強度が低下し、エレベータの積載可能重量が低下する恐れがある。また、ロープ本数の増加は、エレベータ装置の構成を複雑にしてしまう。さらに、駆動シーブの径を小さくすると、ロープの曲げ疲労寿命が短くなり、ロープを頻繁に交換する必要がある。
これらの問題を解決する手段として、鋼製素線を複数本撚り合せてストランドを構成し、このストランドを複数本撚り合せてワイヤーロープを構成し、このワイヤーロープの最外周を樹脂材料で被覆したロープを用いることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。このようなロープを用いたエレベータは、シーブとロープの最外周を構成する樹脂材料との摩擦力により駆動される。そのため、樹脂材料の摩擦特性を安定させたり、向上させたりすることが望まれる。そこで、エレベータ用ロープの摩擦特性を向上させるために、ワックスを含有しないポリウレタン被覆材で被覆したロープを用いることが提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0003】
一般に、樹脂材料の摩擦係数は滑り速度や温度に大きく依存することが知られている。更に、樹脂材料の動的粘弾性等の粘弾性特性は、その速度及び温度依存性の間に換算性(Williams-Landel-Ferryの式(WLF式))があることも知られている。更に、ゴムの摩擦の場合にもその滑り速度及び温度に対して同様の換算性が成り立つことから、ゴムの粘弾性特性がそのゴムの摩擦特性に関与していることが示されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−262482号公報
【特許文献2】特表2004−538382号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Grosch, K. A. : Proc. Roy. Soc., A274, 21 (1963)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のことから分かるように、特許文献2に記載されるワックスを含有しないポリウレタン被覆材であっても、材料そのものの摩擦係数が滑り速度により変化するため、エレベータを安定して制動できないという問題があった。更に、非特許文献1に記載されている通り、ゴムの摩擦係数は滑り速度に対して極大値を有する。エレベータが長時間停止するためには、ロープとシーブとの摩擦力によりかごの静止状態を維持する必要があるが、従来のような摩擦係数の変動が大きな被覆材では微小な滑り速度での摩擦係数が一定以上確保できず、かごの停止位置が経時的にずれるという問題があった。
【0007】
従って、本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、滑り速度に依存せず安定した摩擦係数を有するエレベータ用ロープを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、様々な樹脂材料の摩擦特性について検討した。図1は、摩擦係数の滑り速度依存性が異なる材料における損失弾性率の周波数依存性を示す結果の一例である。発明者らは、図1から分かるように、摩擦係数の滑り速度依存性が小さい材料は、粘弾性のマスターカーブにおいて、損失弾性率の周波数依存性が小さいということを見出した。この知見に基づいて、本発明者らは、樹脂材料の組成について検討した結果、損失弾性率の周波数依存性を小さくし、摩擦係数の滑り速度依存性も小さくするためには、特定の原料ポリオール成分を用いて得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマーをロープ本体の被覆層として用いることが有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、ロープ本体、及び該ロープ本体の外周を被覆し、15℃以下の融点を有するポリテトラメチレングリコール変性体を原料ポリオール成分として用いた熱可塑性ポリウレタンエラストマーの成形体からなる樹脂被覆層を備えることを特徴とするエレベータ用ロープである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、15℃以下の融点を有するポリテトラメチレングリコール変性体を原料ポリオール成分として用いて得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマーをロープ本体の被覆層として用いることで、滑り速度に依存せず安定した摩擦係数を有するエレベータ用ロープを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】摩擦係数の滑り速度依存性が異なる材料における損失弾性率の周波数依存性を示す結果(粘弾性マスターカーブ)の一例である。
【図2】実施例で用いた摩擦係数を測定するための装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
実施の形態1.
本発明の実施の形態1によるエレベータ用ロープは、原料ポリオール成分に融点が15℃以下のポリテトラメチレングリコール変性体を用いた熱可塑性ポリウレタンエラストマーにより被覆されていることに特徴がある。滑り速度に依存せずに摩擦係数が安定する理由は、一般的なポリエーテル系の熱可塑性ポリウレタンエラストマーの原料ポリオールに使用されるポリテトラメチレングリコールと比較して、本発明で使用する15℃以下の融点を有するポリテトラメチレングリコール変性体は結晶性が低く、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの損失弾性率の周波数依存性は原料ポリオールの結晶性に影響され、原料ポリオールの結晶性が低い程、得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマーの損失弾性率の周波数依存性が小さくなるためと考えられる。
【0012】
本実施の形態において使用する熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、15℃以下の融点を有するポリテトラメチレングリコール変性体にポリイソシアネート化合物及び鎖延長剤を反応させることにより得られる。より具体的には、15℃以下の融点を有するポリテトラメチレングリコール変性体とポリイソシアネート化合物とを反応させてイソシアネート基含有の前駆体(プレポリマー)を合成し、その後、鎖延長剤を反応させる二段法、15℃以下の融点を有するポリテトラメチレングリコール変性体、ポリイソシアネート及び鎖延長剤を同時に反応させるワンショット法等の公知のポリウレタン樹脂の製法が挙げられる。15℃を超える融点を有するポリテトラメチレングリコール変性体を用いると、得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマーの損失弾性率の周波数依存性が大きくなる。ポリテトラメチレングリコール変性体の融点は、好ましくは−40℃以上15℃以下である。
【0013】
原料ポリオール成分としての15℃以下の融点を有するポリテトラメチレングリコール変性体としては、特開昭61−120830号公報及び特開平1−284518号公報に記載されるようなヘテロポリ酸塩を触媒として用いたテトラヒドロフランと1分子中に水酸基を2個以上有するアルコール類(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコールのオリゴマー等)との共重合体、特開昭63−235320号公報に記載されるようなテトラヒドロフランと3−アルキルテトラヒドロフラン(3−メチルテトラヒドロフラン等)との共重合体等が挙げられる。これらの中でも、入手容易性の観点から、テトラヒドロフランとネオペンチルグリコールとの共重合体及びテトラヒドロフランと3−メチルテトラヒドロフランとの共重合体が好ましい。
15℃以下の融点を有するポリテトラメチレングリコール変性体を重合する際の、原料に占めるテトラヒドロフランの比率は特に規定されないが、一般にテトラヒドロフランの比率が高くなるほど融点が高くなるため、融点が15℃以下になる範囲でテトラヒドロフランの比率を決定することが好ましい。
15℃以下の融点を有するポリテトラメチレングリコール変性体の分子量についても特に規定はないが、一般に分子量が高くなるほど融点が高くなるため、融点が15℃以下になる範囲で分子量を決定することが好ましい。JIS A硬度(JIS K7215で規定されるタイプAデュロメータによる硬さ)が85以上95以下となる熱可塑性ポリウレタンエラストマーを得るためには、数平均分子量が1,000以上2,000以下のポリテトラメチレングリコール変性体が使用される。
【0014】
ポリイソシアネート化合物としては、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物であればよく、例えば、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、1,5−オクチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート等の脂環族イソシアネート、2,4−もしくは2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(4−フェニルイソシアネート)チオホスフェート、トリジンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、ジフェニルスルホンジイソシアネート等の芳香族イソシアネートが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマーの強度、耐久性及び原料の入手容易性の観点から、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが特に好ましい。
【0015】
鎖延長剤としては、この種のポリウレタン樹脂の製造に使用される、プレポリマーの末端イソシアネート基と反応する活性水素原子含有化合物が挙げられ、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、キシリレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の2個以上の水酸基を有するもの、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、メチレン・ビス(2−クロロアニリン)等の2個以上のアミノ基を有するものが挙げられる。また、これらの鎖延長剤を、ヒドラジン化合物及び水と併用してもよい。ジアミン、ヒドラジン化合物及び水を用いて得られるポリウレタン樹脂は、ポリウレタン−ウレアである。これらの中でも、得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマーの強度、耐久性及び原料の入手容易性の観点から、1,4−ブタンジオールが特に好ましい。
【0016】
本実施の形態において使用する熱可塑性ポリウレタンエラストマーの硬度は、JIS A硬度(JIS K7215で規定されるタイプAデュロメータによる硬さ)が85以上98以下であることが好ましい。JIS A硬度を98以下と規定した理由は、98を超えるとロープの柔軟性が損なわれ、これをエレベータに適用して駆動させた際の消費電力が増加する傾向があることが発明者らの検討により分かったためである。またJIS A硬度を85以上と規定した理由は、85を下回るとエレベータ用ロープとして繰り返し屈曲したときの耐久性が悪くなることが分かったためである。
【0017】
温度や滑り速度に対して摩擦係数をより安定させるため、樹脂被覆層の成形時に、1分子中にイソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物を上記した熱可塑性ポリウレタンエラストマーに添加してもよい。このようなイソシアネート化合物としては、例えば、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、1,5−オクチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート等の脂環族イソシアネート、2,4−もしくは2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(4−フェニルイソシアネート)チオホスフェート、トリジンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、ジフェニルスルホンジイソシアネート等の芳香族イソシアネートが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記したイソシアネートにポリオール、ポリアミン等の活性水素化合物を反応させて得られる分子末端にイソシアネート基を有するイソシアネートプレポリマーを、1分子中にイソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物として使用することもできる。
これらのイソシアネート化合物の添加量は、得られる成形体のJIS A硬度が98以下及びガラス転移温度が−20℃以下となる範囲で適宜調整すればよい。
【0018】
また、温度や滑り速度に対して摩擦係数をより安定させるため、無機充填材を上記した熱可塑性ポリウレタンエラストマーに添加してもよい。このような無機充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン、カーボンブラック、アセチレンブラック、硫酸バリウム等の球状無機充填材、カーボン繊維、ガラス繊維等の繊維状無機充填材、マイカ、タルク、ベントナイト等の板状状無機充填材が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、摩擦係数の変動をより小さくするために、繊維状無機充填材及び板状無機充填材を用いることが好ましい。
これらの無機充填材の添加量は、得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマーの成形体のJIS A硬度が98以下及びガラス転移温度が−20℃以下となる範囲で適宜調整すればよい。
【0019】
ガラス転移温度を−20℃以下と規定した理由は、成形体のガラス転移温度が高いほど摩擦係数の滑り速度依存性が小さくなるが、一方で、成形体のガラス転移温度が高いほど成形体の弾性率が大きくなり、これを樹脂被覆層としてエレベータ用ロープに適用した場合、ロープの柔軟性が損なわれたり、成形体のガラス転移温度よりも高い環境下でロープが繰り返し曲げられると、樹脂被覆層が受ける応力により樹脂被覆層の割れ等の疲労破壊が生じ易くなる傾向があることが発明者らの検討により分かったためである。成形体のガラス転移温度は、より好ましくは−25℃以下である。
【0020】
なお、本実施の形態に係るエレベータ用ロープは、ロープ本体の外周を被覆する最外層の樹脂材料に特徴があるため、ロープ本体の構造は特に限定されるものではないが、ロープ本体は、一般には、複数の鋼製素線を撚り合わせて構成されるストランドもしくはコードを荷重支持部材として含む。本実施の形態におけるロープ本体は、上記したストランドもしくはコードを含むベルト状のものであってもよい。また、ロープ本体と樹脂被覆層との密着性を向上させるために、ケムロック(登録商標)218(ロードファーイースト社製)のような金属及びポリウレタン用接着剤を上記したストランドもしくはコードに予め塗布しておくことが好ましい。
【0021】
本実施の形態によれば、エレベータかごの静止状態の維持に必要となる微小滑り速度域から通常運転滑り速度域までの広範囲な滑り速度において、摩擦係数の変動が小さいエレベータ用ロープを得ることができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1>
1,000の数平均分子量及び3℃の融点を有するテトラヒドロフランとネオペンチルグリコールとの共重合体(ポリテトラメチレングリコール変性体)を、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び1,4−ブタンジオールと反応させ、JIS A硬度95の熱可塑性ポリウレタンエラストマーを得た。この熱可塑性ポリウレタンエラストマーを押出成形機に供給し、ロープ本体の外周を被覆する樹脂被覆層として成形した。ロープ本体を樹脂被覆層で被覆した後、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの物性を安定させるために100℃で2時間加熱し、直径12mmのエレベータ用ロープを得た。なお、得られたエレベータ用ロープは、国際公開第2003/050348号の図1に記載される断面構造を有するものである。ここで、ロープ本体は、複数の鋼製素線が撚り合わされている複数の芯子縄と複数の鋼製素線が撚り合わされている複数の内層子縄とを有する内層ロープと、内層ロープの外周を被覆する樹脂製の内層被覆体と、内層被覆体の外周部に設けられ、複数の鋼製素線が撚り合わされている複数の外層子縄を有する外層ロープとからなるものに相当し、樹脂被覆層は外層被覆体に相当する。ロープ本体を樹脂被覆層で被覆する前に、ロープ本体の外周子縄にケムロック(登録商標)218(ロードファーイースト社製)を塗布し乾燥させておいた。
【0023】
<実施例2>
熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、1,800の数平均分子量及び8℃の融点を有するテトラヒドロフランとネオペンチルグリコールとの共重合体(ポリテトラメチレングリコール変性体)を、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び1,4−ブタンジオールと反応させて得られるJIS A硬度95の熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いた以外は実施例1と同様にしてエレベータ用ロープを得た。
【0024】
<実施例3>
熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、1,800の数平均分子量及び8℃の融点を有するテトラヒドロフランとネオペンチルグリコールとの共重合体(ポリテトラメチレングリコール変性体)を、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び1,4−ブタンジオールと反応させて得られるJIS A硬度85の熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いた以外は実施例1と同様にしてエレベータ用ロープを得た。なお、熱可塑性ポリウレタンエラストマーのJIS A硬度は、反応原料の配合比率を変えることで調整した。
【0025】
<実施例4>
熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、1,000の数平均分子量及び6℃の融点を有するテトラヒドロフランと3−メチルテトラヒドロフランとの共重合体(ポリテトラメチレングリコール変性体)を、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び1,4−ブタンジオールと反応させて得られるJIS A硬度95の熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いた以外は実施例1と同様にしてエレベータ用ロープを得た。
【0026】
<実施例5>
熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、2,000の数平均分子量及び9℃の融点を有するテトラヒドロフランと3−メチルテトラヒドロフランとの共重合体(ポリテトラメチレングリコール変性体)を、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び1,4−ブタンジオールと反応させて得られるJIS A硬度95の熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いた以外は実施例1と同様にしてエレベータ用ロープを得た。
【0027】
<実施例6>
熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、4,000の数平均分子量及び11℃の融点を有するテトラヒドロフランと3−メチルテトラヒドロフランとの共重合体(ポリテトラメチレングリコール変性体)を、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び1,4−ブタンジオールと反応させて得られるJIS A硬度95の熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いた以外は実施例1と同様にしてエレベータ用ロープを得た。
【0028】
<比較例1>
熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、1,000の数平均分子量及び24℃の融点を有するポリテトラメチレングリコール(テトラヒドロフランの単独重合体)を、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び1,4−ブタンジオールと反応させて得られるJIS A硬度95の熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いた以外は実施例1と同様にしてエレベータ用ロープを得た。
【0029】
<比較例2>
熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、2,000の数平均分子量及び27℃の融点を有するポリテトラメチレングリコール(テトラヒドロフランの単独重合体)を、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び1,4−ブタンジオールと反応させて得られるJIS A硬度95の熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いた以外は実施例1と同様にしてエレベータ用ロープを得た。
【0030】
<比較例3>
熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、1,000の数平均分子量及び18℃の融点を有するテトラヒドロフランと3−メチルテトラヒドロフランとの共重合体を、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び1,4−ブタンジオールと反応させて得られるJIS A硬度95の熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いた以外は実施例1と同様にしてエレベータ用ロープを得た。
【0031】
〔樹脂被覆層のガラス転移温度(Tg)の測定〕
樹脂被覆層のガラス転移温度(Tg)は以下のように測定した。実施例及び比較例それぞれに用いた樹脂被覆層と同一組成の成形用組成物を射出成形機に供給し、100mm×100mm×厚さ2mmの平板に成形し、100℃で2時間加熱した後、その中心部から50mm×10mm×厚さ2mmの試験片を切り出した。セイコーインスツルメンツ株式会社製の粘弾性スペクトロメータDMS120を用い、変形モード曲げモード、測定周波数10Hz、昇温速度2℃/分、加振振幅10μmの条件で、試験片の損失弾性率を測定し、損失弾性率のピーク温度をTgとした。
【0032】
〔樹脂被覆層のJIS A硬度〕
JIS K7215に従い、タイプAデュロメータを用いてデュロメータA硬さを測定した。
【0033】
〔微小滑り速度及び通常運転滑り速度でロープ摩擦係数の測定〕
図2は、微小滑り速度域での摩擦係数を測定するための装置の概念図である。図2に示されるように、実施例及び比較例で得られたエレベータ用ロープ1をシーブ2に対し180度巻き付け、その一端を測定装置3に固定し、他端をおもり4に繋ぎ、エレベータ用ロープ1に張力を掛けた。ここでシーブ2を所定速度で時計回りに回転させると、エレベータ用ロープ1とシーブ2との間に生じる摩擦力だけ、固定側のロープ張力(T2)が緩められ、おもり側のロープ張力(T1)との間で張力差が発生する。これらのおもり側のロープ張力(T1)及び固定側のロープ張力(T2)を、ロープとおもりの連結部に備え付けられたロードセルによって測定した。微小滑り速度を1×10-5mm/sec、通常運転滑り速度を0.01mm/sec及び1mm/secと定義し、T1及びT2(ただしT1>T2)、ロープ巻き付け角θ(=180度)、シーブ溝の形状で決まる係数K2(=1.19)を下記式1に代入して、エレベータ用ロープ1とシーブ2との間の摩擦係数μ1を求めた。なお、測定はいずれも25℃の雰囲気温度下で実施した。
【0034】
【数1】

【0035】
ここでK2は微小滑り速度域での測定法で用いた値と同じであり、gは重力(=9.80665m/s2)、θはロープ巻付け角(=180度)である。
【0036】
滑り速度0.01mm/sec及び1×10-5mm/secにおける摩擦係数を、滑り速度1mm/secの時の摩擦係数を100としたときの指数で表1に示した。
【0037】
【表1】

【0038】
表1の結果から分かるように、実施例及び比較例で得られたエレベータ用ロープの摩擦係数は、滑り速度が小さくなるとともに低下する傾向を示した。実施例1〜4で得られたエレベータ用ロープは、滑り速度1×10-5mm/secにおける摩擦係数が、1mm/sec時の摩擦係数の60%以上を示した。特に、融点が低いポリテトラメチレングリコール変性体を原料ポリオール成分として用いた実施例1及び4は、摩擦係数の変動が小さいことが分かった。実施例2と実施例3との比較から、同じポリテトラメチレングリコール変性体を原料ポリオール成分とした場合でも、得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマーの硬度が高い方がより摩擦係数の変動が小さいことが分かった。この原因はより硬度の高い熱可塑性ポリウレタンエラストマーほど、それを合成する際に使用する原料に占めるポリオール成分の配合比率が少ないため、摩擦係数に対するポリオール成分の結晶性の影響が小さいためと考えられる。
一方、比較例1〜3で得られたエレベータ用ロープは、摩擦係数の変動が大きくなるという問題が生じた。
【符号の説明】
【0039】
1 エレベータ用ロープ、2 シーブ、3 測定装置、4 おもり。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロープ本体、及び該ロープ本体の外周を被覆し、15℃以下の融点を有するポリテトラメチレングリコール変性体を原料ポリオール成分として用いた熱可塑性ポリウレタンエラストマーの成形体からなる樹脂被覆層を備えることを特徴とするエレベータ用ロープ。
【請求項2】
前記ポリテトラメチレングリコール変性体がテトラヒドロフランとネオペンチルグリコールとの共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ用ロープ。
【請求項3】
前記ポリテトラメチレングリコール変性体がテトラヒドロフランと3−メチルテトラヒドロフランとの共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ用ロープ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−126653(P2011−126653A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286450(P2009−286450)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】