説明

エレベータ装置

【課題】巻上機を昇降路底部に設置する場合でも、巻上機の防振帯体の形態や、取付の態様の様々なものに対応でき、また建物に浸水事故があっても巻上機に支障を来さないエレベータ装置の提供。
【解決手段】巻上機1の位置を水平投影面において昇降路壁面とかご壁面との間であって、最下階停止時のかご床面4よりも上方に巻上機の駆動綱車15が位置するように配置し、かつ、防振体8を、昇降路の床面2と架台との間に備えるようにする。これによって、防振体を備える位置のスペースに余裕ができるので、防振体の大きさ等の自由度が大きく、防振効果の様々な要求に応えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベータ装置に関する。特に、エレベータ装置の巻上機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレベータの巻上機として、図7に示すとおりのものがあった。エレベータの基本構造に関しては、本願発明も従来どおりであるので、まず、図7により、エレベータの基本構造を説明する。巻上機の駆動綱車が矢印Mの方向に回転すると、ロープは上昇し、返し車44に至る。返し車44でロープの向きは反転して下方に向かい、カウンターウェイトのカウンター車35に至る。カウンター車でロープの向きは反転して上方に向かい、ロープの一端45は上方のバーに固着される。ロープの他端46は、上方のバーに固着されており、かご32の底部の返し車40、41に至り、方向転換して上方に向かう。ロープは返し車42で方向転換して下方に向かい巻上機に至る。かごの上昇と下降は、かごレールが案内し、カウンターウェイトの上昇と下降はカウンターレールが案内する。そして、かご32が上昇するときには、これに対応するよう重量調節されたカウンターウェイト36がカウンターレール34を下降するので、かごを上昇させるためのエネルギーは、ごく小さいもので足りる。すなわち、駆動綱車の回転によってロープが上方あるいは下方に移動することにより、かごは上昇あるいは下降する。
【0003】
そして、従来の巻上機の取り付けは、図7に示すとおりであった。すなわち、最下階停止時のかご床面4よりも下方に、巻上機用の機械室39を設け、機械室の床面に、巻上機1を採置する、という手段によるものであった。そして、巻上機から生じる騒音や振動の伝搬を防ぐ必要から、巻上機は床面に直接置くのではなく、防振ゴムからなる防振体(56,57)を設け、巻上機は防振体を介して採置されていた(図9)。
【0004】
図7に示す手段による場合には、防振体の自由度がない。すなわち、建物における機械室の位置の如何によって騒音や振動の伝搬の度合いは様々であり、また、例えば機械室の近くに居室がある場合にはより高度な防振効果が求められる等、要求される防振効果は様々であるところ、図7に示す手段による場合には、防振体を備える位置のスペースに余裕がないので、防振体の形態や、取付の態様として様々なものに対応できなかった、また建物に浸水事故があった際に、巻上機及びモーターに支障を来し、問題があった。
【0005】
図7に示す手段による問題点を解消するものとして、特許第3509727号に示すものがある(図8)。図8に示す手段による場合、巻上機の綱車50は、水平投影面において、昇降路壁面とかご壁面との間であって最下階停止時のかご床面よりも上方に位置するようにされている。このようにすることにより、建物に浸水事故があった場合にも、巻上機やモータに支障が生じる可能性は低くなる。図8に示す手段による場合、巻上機の綱車50は、昇降路床面2のレール取付台(緩衝器台)3に取り付けた固定体53を、さらに枠体54で連結し、固定体53の上部にロの字型の枠体52を取り付け、枠体52に綱車50を取り付ける。ここで、枠体52と綱車50との間に、防振体51が介装される。また、取付金具54が昇降路壁に直接ネジ止めされている。図8に示す手段による場合、防振体が巻上機と枠体との間に介装されるので、防振体の形態に制限があり、防振効果の様々な要求に応えることが充分にできなかった。
【0006】
また、図7に示す従来のエレベータ装置においては、図10に拡大して示すとおり、防振体はモーターの下部に取り付けられており、綱車はモーターの側方の片側に取り付けられている。エレベータが稼働昇降することにより生じる振動等は、かご車と係合するにかかるロープを介してまず綱車に伝わり、その綱車を取り付けたモーター本体から生じたものが架台を介して、昇降路の底面に伝わり、防振体56,57がモーターと昇降路床面の間に存して振動等を分散する。このとき、二つの防振体の重心が、矢印F1(ロープ吊り芯が存する方向)の同一線上に存しないために、テコの原理により、防振体47に加わる荷重がロープにかかる荷重より増大する。よって、防振体はその増大した荷重に耐えうる強度が必要になり、その支持部材も、その荷重に耐えうる強度が必要になる。図12のように綱車62の裏側に薄いモータ61が取り付けてあり、防振体60が綱車62の鉛直方向真下に存しない場合も同様である。
【0007】
また、矢印F1(ロープ吊り芯が存する方向)の同一線上に防振体の重心が存しない場合、エレベータに人や荷物が載って重くなりロープにかかる荷重が増えた場合に、構造上、巻上機の綱車部分が持ち上げられ、図11および図13に示すとおり、モータ(58,61)と一緒に綱車(59,62)も矢印F3の方向に傾く。そうすると、ロープが引かれる方向(図11および図13の矢印F2)と綱車(59、62)とに角度差が生じてしまう。そして、防振体(56,57,60)には偏った力が加わる。また、ロープ、綱車の摩耗を引き起こし、装置の寿命が短くなる。
【0008】
【特許文献1】特許第3509727号
【特許文献2】特許第3585906号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
巻上機の位置が、水平投影面において昇降路壁面とかご壁面との間であって最下階停止時のかご床面よりも上方に巻上機の駆動綱車が位置するように配置されるものであって、かつ、防振効果の様々な要求に応えることができるものを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1では、エレベータのロープが巻きかけられた綱車と前記綱車の駆動力を生むモータと取付体とを有する巻上機と、振動と騒音を抑制する防振体と、巻上機を嵩上げするための架台とからなるエレベータ装置であって、昇降路内の最下階停止時のかご床面よりも上に前記綱車が存し、前記防振体が昇降路の床面と前記架台との間に備えてあることを特徴とするエレベータ装置によって課題を解決する。防振体を、昇降路の床面と前記架台との間に備えることによって、防振体を備える位置のスペースに余裕ができるので、防振体の大きさ等の自由度が大きく、防振効果の様々な要求に応えることができる。また、防振体を複数重ねることもできる。そして、防振体の重心が、ロープの吊られる方向のほぼ同一線上に来るような位置に設けることもできる。
【0011】
請求項2では、昇降路内の最下階停止時のかご床面よりも上に巻上機が存することを特徴とする請求項1に記載のエレベータ装置によって課題を解決する。請求項1では昇降路内の最下階停止時のかご床面よりも上に存するのは綱車のみであるが、請求項2ではモータやブレーキを含んで巻上機全体が、上記かご床面よりも上に存する。これにより、浸水時に生じうる故障がより完全防止できる。
【0012】
請求項3では、昇降路の床面と防振体との間にさらに取付台が備えてあることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ装置によって課題を解決する。取付体を備えることによって、取付体の高さを調節する等、防振効果のさらなる自由度が得られる。
【0013】
請求項4では、綱車の回転平面と前記防振体の重心とが同一平面上に存することを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3に記載のエレベータ装置によって課題を解決する。防振体の位置の自由度があるために、防振体の重心と、綱車の回転平面を同一平面上に置くことができる。これは、巻上機の安定、防振効果、綱車やロープの摩耗防止の面から、非常に大きな意味がある。なお、綱車の回転平面と前記防振体の重心とが同一平面上に存することを特徴とするエレベーター装置は、昇降路内の最下階停止時のかご床面よりも上に前記綱車が存し、前記防振体が昇降路の床面と前記架台との間に備えてあることを特徴とするエレベーター装置(すなわち請求項1に記載のエレベーター装置)でなくても本発明の課題を解決できる。すなわち、巻上機等が、上記床面の下方にあるものにあっても、綱車の回転平面と防振体の重心とが同一平面上に存するようにすることができ、これによって、巻上機の安定、高度な防振効果、綱車やロープの摩耗防止、を得ることができる。
【0014】
請求項5では、綱車の回転平面と同一平面上に返し車が存することを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3に記載のエレベータ装置によって課題を解決する。綱車の回転平面と同一平面上に返し車が存する状態は、綱車の回転平面と返し車の回転平面とが同一平面上に存しなくても生じうる。すなわち、返し車のいずれかが前記綱車の回転平面と同一平面と重なればよい。綱車の回転平面と同一平面上に返し車が存しない場合には、ロープにかかる力に常に不均一があるので、ロープの疲労を避けることができなかったが、これらが同一平面上に位置することにより、ロープにかかる力が均一になり、ロープの疲労を減じることができる。
【0015】
請求項6では、綱車の回転平面が鉛直方向軸に対し傾斜していることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のエレベータ装置によって課題を解決する。防振体の位置の自由度があるために、上記「同一平面」を、鉛直軸と傾斜する平面で得ることができる。このようにした場合、返し車の配置の自由度が飛躍的に高まる。なお、綱車の回転平面が鉛直方向軸に対し傾斜していることを特徴とするエレベーター装置は、巻上機等が、上記かごの床面の下方にあるものにあっても得ることができ、これによって、巻上機の安定、高度な防振効果、綱車やロープの摩耗防止、を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
巻上機の架台とレール取付台の間の部分はスペースに余裕があるので、装置に応じた防振体を用いることができる。すなわち、防振体の材質、堅さ、大きさ、形状を自由に設定でき、さまざまな防振体の要請に応えることができる。二重防振構造等、複数の防振体を用いるようにもできる。複数の防振構造にすると、防振効果が高いという利点がある。
【0017】
巻上機の架台とレール取付台の間の部分はスペースに余裕があるので、防振体取付芯の位置の自由度が増す。防振体取付芯の位置の自由度が増すことにより、ロープ吊り下げ芯と鉛直方向ほぼ同一線上に防振体取付芯を設けることができる。ロープ吊り下げ芯と防振体取付芯とが鉛直方向ほぼ同一線上に並ぶことにより、負荷の増減により装置が倒れることを防止できる。
【0018】
さらに、上部振れ止めの設置位置を変更することにより、装置全体をロープの吊り方向へ傾斜させることが可能となる。これにより、上部返し車とのレイアウトに自由度が増す。
【実施例1】
【0019】
図1に実施例1に係る装置を示す。巻上機1に綱車が取り付けてある。巻上機1は、上方で上部振れ止め18を介して上部取付体5に取り付けられている。上部取付体5は一端がかごレール33に取り付けてあり、他端が昇降路壁、又はカウンターレールに取り付けてある。振れ止めは駆体の上方の振れを止めるものとして機能するのであり、その構造は以下の通りである。上部取付体5は、下方に、上部振れ止め18を受け入れる孔が、振れ止めの位置に対応して二カ所設けてある。この孔は、振れ止めよりも一回り大きくなっており、巻上機1が振動により数ミリ振れても、その振れは、前記孔の内周が受け止め、それ以上に振れることがないようにされている。綱車取付体15の下方には架台下部取付体11が設けてあり、さらに下方には架台脚部10が設けてあり、下端に防振体受け7が設けてある。レール取台3には下部取付体6が設けてあり、この、下部取付体6から下方に向けて防振体8が設けてあり、防振体8の下方に防振体受け7が設けてある。下部取付体6から下方に向けて設けて在る防振体を下方から受け取るような位置に、防振体8が取り付けてある。
【実施例2】
【0020】
図2に実施例2に係る駆動装置を示す。実施例2では、防振構造が二重になっている。すなわち、実施例1と同様の防振体構造をさらに下方に向けて備えている(下部取付体20、防振体受け21、防振体22、架台基部23)。
【実施例3】
【0021】
図3に実施例3に係る装置を示す。綱車15の回転面は防振体取付芯と一致し、かつロープ吊芯と一致する。そして、実施例1および実施例2では、綱車15はaに示す位置にある。これに対し、実施例3では、綱車はbまたはcに示す位置にある。綱車をこのように傾斜させることができるのは、駆動綱車回転面が防振体取付芯と一致しているからである。綱車を傾斜させることにより、返し車の配置にさまざまなパターンが可能となる。それらを図4から図6に示す。
【0022】
図4では昇降路の、かごの背面に巻上機とカウンターウェイトが設けてある。図5では昇降路の、かごの側面に巻上機が設けてあり、カウンターウェイトはかごの背面に設けてある。図6では、昇降路の、かごの側面に巻上機とカウンターウェイトが設けてある。図4から図6のいずれにおいても、返し車42はかごに至るロープの返し車であり、返し車43は駆動綱車に至るロープの返し車であり、返し車44はカウンターウェイトに至るロープの返し車である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
エレベータに利用できる。特に、エレベータの巻上機に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本願の実施例1に係る巻上機を示す
【図2】本願の実施例2に係る巻上機を示す
【図3】本願の実施例3に係る巻上機を示す
【図4】本願に係る巻上機、返し車の配置を示す
【図5】本願に係る巻上機、返し車の配置を示す
【図6】本願に係る巻上機、返し車の配置を示す
【図7】従来例に係る巻上機を示す
【図8】従来例に係る巻上機を示す
【図9】従来例に係る巻上機を示す
【図10】従来例に係る巻上機を示す
【図11】従来例に係る巻上機を示す
【図12】従来例に係る巻上機を示す
【図13】従来例に係る巻上機を示す
【符号の説明】
【0025】
1 巻上機
2 昇降路床面
3 レール取付台
4 最下階停止時のかご床面
5 上部取付体
6 下部取付体
7 防振体受け
8 防振体
9 架台基部
10 架台脚部
11 架台上部
15 綱車
16 ロープ
18 上部振れ止め
20 下部取付体
21 防振体受け
22 防振体
23 架台基部
29 昇降路
30 昇降路壁
31 出入口
32 かご
33 かごレール
34 カウンターレール
35 カウンター車
36 カウンターウェイト
40 返し車
41 返し車
42 返し車
43 返し車
44 返し車
45 ロープの一端
46 ロープの他端
50 綱車
51 防振体
52 枠体
53 固定体
54 取付金具
56 防振体
57 防振体
58 モーター
59 綱車
60 防振体
61 モーター
62 綱車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータのロープが巻きかけられた綱車と前記綱車の駆動力を生むモータと取付体とを有する巻上機と、
振動と騒音の伝搬を抑制する防振体と、
前記巻上機を嵩上げするための架台とからなるエレベータ装置であって、
昇降路内の最下階停止時のかご床面よりも上に前記綱車が存し、
前記防振体が昇降路の床面と前記架台との間に備えてあることを特徴とするエレベータ装置。
【請求項2】
前記昇降路内の最下階停止時のかご床面よりも上に前記巻上機が存することを特徴とする請求項1に記載のエレベータ装置。
【請求項3】
前記昇降路の床面と前記防振体との間にさらに取付台が備えてあることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ装置。
【請求項4】
前記綱車の回転平面と前記防振体の重心とが同一平面上に存することを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3に記載のエレベータ装置。
【請求項5】
前記綱車の回転平面と同一平面上に返し車が存することを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3に記載のエレベータ装置。
【請求項6】
前記綱車の回転平面が鉛直方向軸に対し傾斜していることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のエレベータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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