説明

エレベータ

【課題】演算装置における故障診断を低コストかつ高信頼性で実施することにより、より安全なエレベータを提供する。
【解決手段】演算装置32,37の比較部46では、エンコーダ21からのエンコーダ信号28を用いて演算したかご速度V1と、エンコーダ21とは異なり乗りかご1に設けた加速度センサ24からの加速度センサ信号31を用いて演算したかご速度V2とを比較し、両かご速度V1,V2の差が所定の範囲内であるかどうかによってエンコーダ21の故障を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、危険事象からの保護機能を電子的に実現する安全装置を備えたエレベータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベータにおける基本的な安全装置として、例えば、昇降路の上下端部に備えられたファイナルリミットスイッチにより乗りかごが通常の運行範囲を超過したことを検出し、乗りかごの主ロープを駆動するモータ等に備え付けられたブレーキの作動や、巻上機等の駆動モータヘの通電を遮断するなどして乗りかごを停止させる構成が知られている。また別の安全装置の一つとして、乗りかご側に取り付けられた非常止め装置があり、この非常止め装置は、乗りかごの速度超過を検出したとき作動してレールを把持して乗りかごを急停止させるように構成されている。
【0003】
乗りかごの停止手段を作動させる仕組みとしては、対象がブレーキ作動や通電遮断であればスイッチ、リレー、コンタクタなど、また非常止め装置であればガバナとガバナロープといった機械部品の組み合わせが当初から用いられていたが、近年では、このような仕組みは電子化される傾向にある。電子化された安全装置では、スイッチやエンコーダ等のセンサの入力情報を用いて演算装置で演算を行い、危険事象を検出した際には乗りかごの停止手段を作動させる信号を出力するようにしている。このような安全装置の電子化に伴って、終端階強制減速機能などの高度な安全機能の実現が可能となった。
【0004】
この終端階強制減速機能は、乗りかごの昇降路内の位置に応じて、停止手段を作動させる乗りかごの速度上限を可変に設定できる機能であり、第1速度上限と、第1速度上限より大きい第2速度上限とを設定し、乗りかごが第1速度上限を超過した場合にはブレーキと通電遮断を、また第2速度上限を超過した場合には非常止め装置を作動させることが示されている(例えば、特許文献1参照)。また、安全装置の信頼性を向上するために、停止手段の作動判断を行う演算装置であるCPU(Central Processing Unit)を二重化しており、二つのCPU間で演算結果を比較照合し、不一致を検出した場合には乗りかごを停止させたり、乗りかご位置や速度を検出するためにガバナに設けられたエンコーダも二重化し、演算装置で二つのエンコーダ値を比較照合し、不一致を検出した場合には乗りかごを停止させたりした構成が示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開番号WO2004/076326号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2005/049467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のエレベータにおいては、乗りかご位置や速度を検出するためにガバナに設けられたエンコーダを二重化しているため、高コストになると共に、同種センサの二重化によって共通原因故障により両方のセンサが同時に故障する可能性がある。例えば、二重化した同種センサが同時にゼロ出力となるような故障が発生した場合、演算装置はこれらセンサの故障を検出することはできない。また、この故障が潜在している状態で別の故障が発生した場合、かごを安全に停止させることができなくなる可能性がある。
【0007】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は演算装置における故障診断を低コストかつ高信頼性で実施することにより、より安全なエレベータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、乗りかごの動作状態を検出する複数のセンサからの信号を入力して異常を判定する演算装置を有し、前記演算装置からの異常判定信号によって乗りかごを制御するエレベータにおいて、前記乗りかごに加速度センサを設け、前記演算装置に、前記加速度センサおよび前記加速度センサとは異種の他の速度検出手段とからの信号を用いてそれぞれかご速度を演算する演算部と、この演算部で演算した二つのかご速度を比較した結果に基づいて前記異常判定信号を出力する比較部とを設けたことを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、比較部では、乗りかごに設けた加速度センサ信号から演算した乗りかご速度V2と、他の速度検出手段から演算した乗りかご速度V1とを比較することができ、従来のように同種センサからの検出信号をそれぞれ演算装置に入力した場合に懸念される共通原因故障の可能性を排除して、加速度センサまたは他の速度検出手段が正常に機能しているか、いずれかが故障したかを判断することができる。また加速度センサの使用によって低コストかつ高信頼性で故障診断を実施することができ、より安全なエレベータを提供することが可能となる。
【0010】
また本発明は、上述の構成に加えて、前記演算装置は、前記比較部における二つのかご速度の比較の結果、両かご速度の差が所定の値より大きくなったときに前記乗りかごを停止させることになる前記異常判定信号を出力することを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、速度演算時などの誤差によって誤動作することを防止しながら、両かご速度の差が所定の値より大きくなったときに乗りかごを停止させることができ、より安全なエレベータを得ることができる。
【0012】
さらに本発明は、上述の構成に加えて、前記演算装置に、前記乗りかごの停止毎に、前記加速度センサの値に基づいて演算したかご速度をゼロにリセットする補正部を設けたことを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、乗りかごが停止するときに、加速度センサから取り込んだ加速度センサ信号を用いてかご速度演算部で求めたかご速度V2をゼロにリセットすることになり、他の速度検出手段および加速度センサがともに正常であっても、速度算出時の長時間の積分演算による誤差が蓄積されるのを防止することができ、加速度センサから求めたかご速度V2が他の速度検出手段から求めたかご速度V1と乖離するのを防ぐことができる。
【0014】
さらに本発明は、上述の構成に加えて、前記乗りかごの停止毎に前記加速度センサのオフセットを計測するオフセット測定部を設け、前記演算部に、このオフセット測定部によるオフセットを用いて前記加速度センサによるかご速度を演算するかご速度演算部を設けたことを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、加速度センサを使用しても誤差分の発生を補正しながらかご速度V2を精度良く算出することができ、他の速度検出手段から求めたかご速度V1と比較するときに、より精度良く行うことができる。
【0016】
さらに本発明は、上述の構成に加えて、前記他の上記速度検出手段は、エンコーダであることを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、通常のエレベータに備えられているエンコーダを利用することができ、また、このエンコーダよりも構成が簡単な加速度センサとの組み合わせによって、全体構成を複雑にすることなく、信頼性の高い演算装置を得ることができる。
【0018】
さらに本発明は、上述の構成に加えて、前記二つのかご速度を演算したものとは異なる第三の速度検出手段を設け、前記演算部に、前記乗りかごの動作中に前記加速度センサによる信号に基づいて演算したかご速度を、前記第三の速度検出手段による信号に基づいて演算したかご速度を用いて補正するかご速度演算部を設けたことを特徴とする。
【0019】
上記構成によれば、乗りかごの運転時においても加速度センサから求めたかご速度V2が他の速度検出手段から求めたかご速度V1と乖離するのを防ぐことができるだけでなく、第三の速度検出手段、例えば主ロープ側のエンコーダですべりが発生したときには比較を無効にすることができるので、より精度の良い故障診断を実施しながらより安全なエレベータを提供することができる。
【0020】
さらに本発明は、上述の構成に加えて、前記乗りかごに設けた前記加速度センサの出力信号をデジタル値に変換し、変換後のデジタル信号を前記演算装置に送信する通信線を設けたことを特徴とする。
【0021】
上記構成によれば、加速度センサの信号をアナログ値のまま伝送すると電圧降下やノイズの影響を受けて十分な信号精度を得られないが、通信線を用いると乗りかごと演算装置間の距離が長くても、電圧降下やノイズの影響を少なくした精度良い制御を行うことができるため、乗りかごに加速度センサを配置しながらも所望の位置に演算装置を配置することができるようになる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によるエレベータによれば、乗りかごに設けた加速度センサと、この加速度センサとは異なる異種センサとから取り込んでそれぞれかご速度を演算し、両かご速度の差に基づいて乗りかごを制御するようにしたため、同種センサを二重化した場合に懸念される共通原因故障の可能性を排除でき、エンコーダ故障診断の信頼性を向上させ、より高安全なエレベータを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態によるエレベータの全体構成図である。
【図2】図1に示したエレベータの信号結線図である。
【図3】図2に示した演算装置の機能ブロック図である。
【図4】図3に示した演算装置での処理を説明するブロック図である。
【図5】本発明の他の実施の形態によるエレベータの信号結線図である。
【図6】図5に示した演算装置の機能ブロック図である。
【図7】図6に示した演算装置での処理を説明するブロック図である。
【図8】本発明のさらに他の実施の形態によるエレベータによる演算装置の処理を示すフローチャートである。
【図9】本発明のさらに他の実施の形態によるエレベータによるかご速度補正処理を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施の形態によるエレベータの全体構成図であり、主ロープ10の一端に乗りかご1を連結し、かつ他端近傍にカウンターウェイト11を垂下し、モータ2によって主ロープ10を駆動することにより乗りかご1を昇降路内で昇降移動するように構成している。モータ2は、通電遮断回路6を介して交流電源7に接続されたインバータ5により駆動され、通電遮断回路6が作動すると、インバータ5への電力供給が遮断される。またモータ2の駆動を抑制して乗りかご1に対する制動力を発生するブレーキ装置3が設けられており、このブレーキ装置3は、定常状態で制動状態に付勢され、通電されると制動状態が解除される構成である。
【0026】
乗りかご1の昇降移動に伴って牽引されるガバナロープ12は、ガバナ13を回転させ、このガバナ13は把持装置14とエンコーダ21を備えており、把持装置14が作動するとガバナロープ12を把持し、そのとき乗りかご1が移動中であれば非常止め装置15がレール16を挟むことにより乗りかご1を停止させる。エンコーダ21はガバナ13と共に回転してパルス信号を発生しており、そのパルス信号の変化量を積算すれば乗りかご1の位置を求めることができ、変化量の時間平均を計算すれば乗りかご1の速度を求めることができる。また乗りかご1には加速度センサ24が設けられており、この加速度センサ信号を積分することで乗りかご1の速度を求めることができる。加速度センサ24としては、半導体製造技術を適用して製造されるMEMS(Micro−Electro−Mechanical Systems)センサが安価かつ高精度であり好適である。
【0027】
昇降路の下端にはバッファ17が設置されており、乗りかご1をブレーキ3や非常止め装置15の制動力で完全に停止できない場合でも、乗りかご1を受け止めてその衝撃を吸収する。また昇降路の下端付近と上端付近には、ファイナルリミットスイッチ22,23が配置されており、これらファイナルリミットスイッチ22,23は、常時オン状態であるが、乗りかご1がこれらのファイナルリミットスイッチ22,23を通過してそれぞれ下方または上方に侵入するとオフ状態となり、乗りかご1の行き過ぎを検出する。昇降路付近の制御盤内には、制御コントローラ25と安全コントローラ26が備えられており、制御コントローラ25はインバータ5を制御して乗りかご1を運行しており、安全コントローラ26はエンコーダ21、ファイナルリミットスイッチ22,23、加速度センサ24を入力として危険事象を検出し、ブレーキ3、通電遮断回路6、把持装置14を介した非常止め装置15を作動することにより乗りかご1を制動して危険事象を回避するようにしている。尚、エレベータには、ファイナルリミットスイッチ22,23以外にも保守時に保守員保護のために使用するスイッチなど多数の図示していない安全スイッチが備えられている。
【0028】
図2は、図1に示したエレベータの信号結線図を示している。制御コントローラ25は、インバータ制御信号27を出力し、インバータ5を制御している。安全コントローラ26は、演算装置32と演算装置37を備えており、これらの演算装置32,37は、ハードウェアで構成しても、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、デジタル入出力やエンコーダ入力、アナログ入力などの周辺回路を備え、それぞれがCPU(Central Processing Unit)と内部バスで接続されたマイクロコンピュータで構成しても良い。
【0029】
演算装置32,37の入力としては、エンコーダ21からのエンコーダ信号28、ファイナルリミットスイッチ22,23からのスイッチ信号29,30、加速度センサ24からの加速度センサ信号31である。
【0030】
加速度センサ24からの加速度センサ信号31を安全コントローラ26へ取り込む場合、乗りかご1の天井に設けた加速度センサ24側の通信インタフェース67と、適当な位置に設置した安全コントローラ26側の通信インタフェース68との間を、通信線69で接続して、デジタル値に変換した加速度センサ信号31を通信線69により安全コントローラ26の演算装置32,37に送信している。その他の方法で加速度センサ信号31を安全コントローラ26へ取り込むことができるが、このように通信線69を用いてデジタル信号値として演算装置32,37に送信しているため、乗りかご1に加速度センサ24を搭載し、所望の位置に安全コントローラ26を配置し、これら両者間の距離が長くなっても、加速度センサ24の信号を電圧降下やノイズの影響を受けることなく送信することができる。
【0031】
一方、演算装置37の出力としては、AND回路42への停止要求信号33と、通電遮断回路6のコンタクタへの切替信号34と、ブレーキ3へ通電するブレーキ駆動回路4への切替信号35と、把持装置14への非常止め作動信号36である。また演算装置37からの出力としては同様に、AND回路42への停止要求信号38と、通電遮断回路6のコンタクタへの切替信号39と、ブレーキ駆動回路4への切替信号40と、が把持装置14への非常止め作動信号41である。これら演算装置32,37からの8つの出力信号は、乗りかご1の停止手段を作動させるための停止出力である。
【0032】
停止要求信号33,38は、乗りかご1を制御コントローラ25により制御停止させるための信号であり、信号レベルHighが要求なし、信号レベルLowが要求ありを意味する。これらの信号はAND回路42を介して制御コントローラ25に出力されており、停止要求信号33,38どちらか一方の信号がLowになれば、制御コントローラ25はインバータ制御信号27によってインバータ5を制御して乗りかご1を停止させる。
【0033】
切替信号34,39は、通電遮断回路6内にて直列接続された2つのコンタクタにそれぞれ与えられ、切替信号34,39がオンのときにはコンタクタが接続状態に、オフのときには切断状態へと切り替えられる。2つのコンタクタは直列接続されているため、切替信号34,39のどちらかがオフになれば通電遮断回路6は交流電源7とインバータ5の間の通電を遮断することになる。
【0034】
ブレーキ駆動回路4への切替信号35,40は、ブレーキ駆動回路4内において直列接続された2つのコンタクタにそれぞれ与えられ、切替信号35,40がオンのときにはコンタクタが接続状態に、オフのときにはコンタクタは切断状態へと切り替えられる。2つのコンタクタは直列接続されているため、どちらかの信号がオフになればブレーキ駆動回路4はブレーキ3への通電を遮断し、ブレーキ3を制動状態とする。
【0035】
非常止め作動信号36,41は、把持装置14を作動させることになるソレノイドに与えられ、両方の非常止め作動信号36,41がオンのときには把持装置14を非作動状態にし、どちらか一方がオフのときには把持装置14を作動させて、非常止め装置15がレール16を挟むことにより移動中の乗りかご1を停止させる。
【0036】
演算装置32,37は同一構成であり、ここでは演算装置32について図3に示すブロック図を用いて説明する。演算装置32は、演算部43、入力部44、出力部45、比較部46とを備えている。これらの機能は、ハードウェアで構成しても良いし、マイクロコンピュータ内部または外部のROMに格納され、マイクロコンピュータのCPUで実行されるプログラムにより実現しても良い。
【0037】
入力部44は各センサからの信号を取り込む機能であり、エンコーダ信号28、ファイナルリミットスイッチ信号29,30、加速度センサ信号31、および図示していない他の安全スイッチ信号を取得し処理する。エンコーダ信号28は乗りかご1の速度と位置を示す値に換算され、ファイナルリミットスイッチ信号29,30はオンがHigh、オフがLowに置き換えられる。出力部45は演算部43の演算結果としてLowで停止となるかご停止信号を出力する。比較部46は、演算部43がエンコーダ信号28から演算した乗りかご速度V1と、加速度センサ信号31から演算した乗りかご速度V2とを比較し、両者の差が所定の範囲内であるかどうかを判定する。
【0038】
この判定の結果、所定の範囲に入っていない場合、比較部46はエンコーダ21あるいは加速度センサ24のいずれかが故障したと判断し、異常判定信号、例えば乗りかご1を停止させることになるインバータ5への停止要求信号33,38と、通電遮断回路6への切替信号34,39と、ブレーキ駆動回路4への切替信号35,40とをかご停止側になるように出力部45に与える。また比較部46は、図示していないが、上述したように受信した演算装置37の演算結果を演算装置32のそれと比較し、両系が正常に動作しているかを判定する。両者の不一致を検出した際には同様に異常判定信号、例えば乗りかご1を停止させることになるように出力部45を制御する。
【0039】
図4は、演算部43で実施する異常判定処理を説明するブロック図であり、簡素化のために入力部の図示は省略している。ここでは安全チェーン異常判定処理部47と終端階過速異常判定処理部48が実装されており、安全チェーン異常判定処理部47は、ファイナルリミットスイッチ22,23をはじめ安全スイッチのいずれか一つがオフ、すなわちスイッチ信号29,30のいずれか一つがLowの場合、Lowを出力し、出力部45からの切替信号34,35をLowにし、ブレーキ3と通電遮断回路6の作動を要求する。
【0040】
終端階過速異常判定処理部48は、乗りかご1の昇降路内における位置を横軸、速度を縦軸として描いた第1速度上限カーブ49と第2速度上限カーブ50をテーブルデータとして保持している。この終端階過速異常判定処理部48は、乗りかご1の位置に応じた第1速度上限を第1速度上限カーブ49から求め、乗りかご1の速度が第1速度上限を超過している場合、Lowを出力し、出力部45からの切替信号34,35をLowにし、ブレーキ3と通電遮断回路6の作動を要求する。一方、乗りかご1の位置に応じた第2速度上限を第2速度上限カーブ50から求め、乗りかご1の速度が第2速度上限を超過している場合、Lowを出力し、出力部45から非常止め作動信号36をLowにして把持装置14を介して非常止め装置15の作動を要求する。
【0041】
さらに演算部43は、かご位置速度演算処理部51でエンコーダ21のエンコーダ信号28から求めたかご位置と速度を用いて演算したかご速度V1と、かご速度演算部52で加速度センサ24の加速度センサ信号31から求めたかご速度V2とを比較部46に入力し、両者を比較する。かご速度V1とかご速度V2とを用いた比較部46における処理は、前述したように両者の差が所定の範囲内であるかどうかを判定し、この判定の結果、所定の範囲に入っていない場合、比較部46はエンコーダ21あるいは加速度センサ24のいずれかが故障したと判断し、異常判定信号、例えば乗りかご1を停止させることになるインバータ5への停止要求信号33,38と、通電遮断回路6への切替信号34,39と、ブレーキ駆動回路4への切替信号35,40とをかご停止側になるように出力部45を制御したり、演算装置32,37の異常発生を通知したりする。一方、両者の差が所定の範囲内であれば両者の演算装置32,37が正常と判定する。
【0042】
上述した実施の形態によるエレベータによれば、演算装置32,37の比較部46では、エンコーダ21からのエンコーダ信号28を用いて演算したかご速度V1と、エンコーダ21とは異なり乗りかご1に設けた加速度センサ24からの加速度センサ信号31を用いて演算したかご速度V2とを比較し、両かご速度V1,V2の差が所定の範囲内であるかどうかによって演算装置32,37が正常に動作しているかを判定している。このため、従来のように同種センサからの検出信号をそれぞれ演算装置に入力した場合に懸念される共通原因故障の可能性を排除することができ、また加速度センサの使用によって低コストかつ高信頼性で故障診断を実施することができ、より安全なエレベータを提供することが可能となる。
【0043】
また、一方のかご速度V1を算出するために通常のエレベータに備えられているエンコーダを利用することができ、また、他方のかご速度V2を算出するためにエンコーダよりも構成が簡単な加速度センサを使用することによって、全体構成を複雑にすることなく、信頼性の高い演算装置を得ることができる。しかも、比較部46で比較するためのかご速度V2は、乗りかご1に追加して設けた加速度センサ24を用いているため、この加速度センサ24としては、エンコーダ21に比べて安価な半導体型MEMSセンサを使用することができ、エンコーダ21を二重化した場合に比べて安価なシステムを実現することができる。
【0044】
さらに、乗りかご1に設けた加速度センサ24の出力信号をデジタル値に変換し、変換後のデジタル信号を通信線69により演算装置32,37に送信しているため、加速度センサ24の信号をアナログ値のまま伝送すると電圧降下やノイズの影響を受けて十分な信号精度を得られないが、通信線69を用いると、乗りかご1に加速度センサ24を配置しながらも所望の位置に演算装置32,37を配置することによって乗りかご1と演算装置32,37間の距離が長くても、電圧降下やノイズの影響を少なくした精度良い制御を行うことができるようになる。
【0045】
ところで、加速度センサ24の加速度センサ信号31からかご速度V1,V2を求めるには積分演算を行うが、長時間の積分演算は誤差が蓄積され、たとえエンコーダ21および加速度センサ24がともに正常であっても、加速度センサ信号31から求めたかご速度V2がエンコーダ信号28から求めたかご速度V1と乖離してしまい、エレベータを停止させてしまう可能性がある。
【0046】
図5は、この課題を解決するための本発明の他の実施の形態に基づくエレベータの信号結線図を示している。図2に示した構成との同等物には同一符号を付けて詳細な説明を省略し、同図との相違部分について説明する。通電遮断回路6の現在の状態を示す状態信号53,55と、ブレーキ駆動回路4の現在の状態を示す状態信号54,56とをそれぞれ演算装置32,37に入力している。また、通電遮断回路6のコンタクタは、切替信号34,39だけでなく、制御コントローラ25からの切替信号57によって制御できるようにし、同様にブレーキ駆動回路4のコンタクタも、切替信号35,40だけでなく、制御コントローラ25からの切替信号58によっても制御できるようにしている。
【0047】
従って、ブレーキ駆動回路4および通電遮断回路6は、安全コントローラ26からだけでなく、制御コントローラ25からの切替信号57,58によってコンタクタを制御してインバータ5への通電、およびブレーキ3への通電を遮断することができる。そこで正常時には、指定された階床に到着するたびに制御コントローラ25から切替信号57,58によってブレーキ駆動回路4および通電遮断回路6を制御し、インバータ5およびブレーキ3への通電を遮断し、乗りかご1を停止させるようにしている。また、安全コントローラ26の演算装置32,37は、通電遮断回路6およびブレーキ駆動回路4の状態を示す状態信号53〜56を取り込んで、これにより乗りかご1の停止を検知するようにしている。
【0048】
先の実施の形態の場合と同様に演算装置32,37は同一構成であり、ここでは演算装置32について説明する。演算装置32は、図3で説明したように演算部43、入力部44、出力部45、比較部46を有した構成に加えて、図6に示すように補正部60を備えている。この補正部60には、通電遮断回路6およびブレーキ駆動回路4の状態を示す状態信号53および状態信号54が入力され、また加速度センサ24からの加速度センサ信号31が入力され、処理後の補正信号61が演算部43に与えられている。この補正部60での具体的な処理については、図7を用いて説明する。
【0049】
図7では上述した図4との相違部分について説明すると、補正部60はかご停止判定部62と、オフセット測定部63とを有している。前者のかご停止判定部62は、通電遮断回路6およびブレーキ駆動回路4の現在の状態を示す状態信号53,54を取り込んで乗りかご1が停止しているかどうかを判定する。かご停止判定部62によって乗りかご1が停止していると判定された場合、かご速度演算部52に図6に示した補正信号61としてのリセット信号64を与え、かご速度演算部52で求めていたかご速度V2をゼロにリセットする。
【0050】
また、後者のオフセット測定部63は、かご停止判定部62によって乗りかご1が停止していると判定された場合、加速度センサ24の加速度センサ信号31を用いてオフセット値α0、すなわち1G(重力加速度)からの差分を測定し、図6に示した補正信号61としてのオフセット信号65をかご速度演算部52に与える。ここで、かご停止判定部62は、通電遮断回路6およびブレーキ駆動回路4の状態を示す状態信号53,54から乗りかご1が停止しているかを判定しているが、制御コントローラ25から直接乗りかご1が停止していることを示す信号を受信するように構成しても同様である。
【0051】
かご速度演算部52では、リセット信号64を受けたとき、このリセット信号64を優先してかご速度演算部52で求めていたかご速度V2をゼロにリセットすると共に、加速度センサ信号31からオフセット値α0を引いて補正したかご速度V2を演算して求める。その後、先の実施の形態の場合と同様に比較部46において、かご位置速度演算部51で求めたかご速度V1と、かご速度演算部52で求めたかご速度V2とを比較し、両者の差が所定の範囲内であるかどうかを判定する。この判定の結果、両者の差が所定の範囲内であればエンコーダ21および加速度センサ24が正常に機能していると判断するが、両者の差が所定の範囲に入っていない場合は、エンコーダ21あるいは加速度センサ24のいずれかが故障したと判断して異常判定信号、例えば乗りかご1を停止させる信号、または異常発生を通知する信号を出力する。
【0052】
この実施の形態によるエレベータによれば、エンコーダ21から求めたかご速度V1と、加速度センサ24から求めたかご速度V2とを用いることによって、同種センサを単に二重化した場合に懸念される共通原因故障の可能性を排除することができ、エンコーダ故障診断の信頼性を一層向上させることができる。しかも、乗りかご1が停止するときに、加速度センサ24から取り込んだ加速度センサ信号31を用いてかご速度演算部52で求めたかご速度V2をゼロにリセットするため、エンコーダ21および加速度センサ24がともに正常であっても長時間の積分演算による誤差が蓄積されるのを防止することができ、加速度センサ信号31から求めたかご速度V2がエンコーダ信号28から求めたかご速度V1と乖離するのを防ぐことができる。
【0053】
また、かご停止判定部62によって乗りかご1が停止していると判定した場合、加速度センサ24の加速度センサ信号31を用いてオフセット値α0を測定し、かご速度演算部52では、加速度センサ信号31からオフセット値α0を引いて補正したかご速度V2を演算して求めているため、加速度センサ24を使用しても誤差差分発生を補正しながらエンコーダ21から求めたかご速度V1と、加速度センサ24から求めたかご速度V2とをより精度良く比較することができる。
【0054】
図8は、制御装置32,37に実装したプログラムで二重系のエンコーダ21が故障しているどうかを診断する故障診断処理を実施する場合のフローチャートを示している。本プログラムは制御装置32,37のタイマを利用して周期的に実行するものである。
【0055】
まず、ステップS1で乗りかご1が停止しているか否かを判定する。停止している場合は、ステップS2においてかご速度V2をゼロにリセットし、ステップS3で加速度センサ24のオフセット値α0を測定する。ステップS4ではエンコーダ信号28からかご速度V1を演算し、ステップS5で加速度センサ信号31からオフセット値α0を減算し、積分演算によりかご速度V2を求める。ステップS6でかご速度V1,V2の差が所定値以上か否かを判定し、所定値以上の場合はエンコーダ21が故障したと判断し、ステップS7でかご停止信号を出力する。しかし、ステップS1の判定で、乗りかご1が停止していないと判定した場合、補正処理は行わずオフセット値α0=0としてステップS4に進む。
【0056】
また本発明の他の実施の形態では、図9に示すように上述した乗りかご1の停止時t1における補正処理に加えて、乗りかご1の動作時にも補正処理を行うことができる。このような乗りかご1の動作時の補正処理は、加速度センサ24、エンコーダ21などの他の速度検出手段に加えて、主ロープ10側、例えばモータ2側に設けた第三の速度検出手段である他のエンコーダを設け、時刻t2,t4にも第三の速度検出手段からの信号を取り込み、補正部60で第三の速度検出手段から求めたかご速度V3を用いて、加速度センサ24から求めたかご速度V2をかご速度V3に近似するように補正することもできる。
【0057】
ただし、第三の速度検出手段として主ロープ10側に他のエンコーダを設けると、一般に主ロープ10にはすべり66が発生することがあり、これを補正すべき差発生として検出してしまう危険がある。そこで、第三の速度検出手段としての主ロープ側エンコーダ値から求めたかご速度V3の急激な速度変化を監視し、時点t3でこの急激な速度変化を検出した場合、これをすべり発生66と判定し、このすべり発生期間中は補正を行わないなどの対策をとることができる。
【0058】
このようなエレベータによれば、二重系の一方を構成するエンコーダ21の故障診断を二重系の他方を構成する別種の加速度センサ24を用いて実施することで、同種センサによって二重化した場合に懸念される共通原因故障の可能性を排除でき、エンコーダ故障診断の信頼性を向上させ、より高安全なエレベータを提供することが可能となる。また、加速度センサ24を使用する場合、かご速度演算時に積分誤差が蓄積し、エンコーダ21からの検出値から求めたかご速度V1との乖離が大きくなる可能性があるが、エレベータは長時間動作し続けることはないという特徴を活かし、エレベータ停止ごとに演算したかご速度V2をゼロにリセットすることや、動作中にも主ロープ10側に設けた他のエンコーダの値を用いて補正を行うことにより、積分誤差の蓄積を防止して、エンコーダ故障診断を正しく実施することができるようになる。
【0059】
尚、上述した各実施の形態では、ガバナ13に設けたエンコーダ21の故障診断処理、またはエンコーダ21と加速度センサ24とを用いて演算したかご速度V1,V2の比較によるいずれか一方の故障診断処理について述べたが、ガバナ13に設けたエンコーダ21に代えてそれ以外のかご速度検出手段、例えば、乗りかご1に設けたローラ式かご速度センサなどを用いることができる。また、上述した各実施の形態では、二重化した演算装置32,37を有するエレベータについて説明したが、一つの演算装置で制御する構成や、二重化した演算装置32,37のいずれか一方に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 乗りかご
2 モータ
3 ブレーキ
4 ブレーキ駆動回路
5 インバータ
6 通電遮断回路
7 交流電源
10 主ロープ
11 カウンターウェイト
12 ガバナロープ
13 ガバナ
14 把持装置
15 非常止め装置
16 レール
17 バッファ
21 エンコーダ
22 ファイナルリミットスイッチ
23 ファイナルリミットスイッチ
24 加速度センサ
25 制御コントローラ
26 安全コントローラ
27 インバータ制御信号
28 エンコーダ信号
29 スイッチ信号
30 スイッチ信号
31 加速度センサ信号
32 演算装置
33 停止要求信号
34 切替信号
35 切替信号
36 非常止め作動信号
37 演算装置
38 停止要求信号
39 切替信号
40 切替信号
41 非常止め作動信号
42 AND回路
43 演算部
44 入力部
45 出力部
46 比較部
47 安全チェーン異常判定部
48 終端階過速異常判定部
49 第1速度制限
50 第2速度制限
51 かご位置速度演算部
52 かご速度演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかごの動作状態を検出する複数のセンサからの信号を入力して異常を判定する演算装置を有し、前記演算装置からの異常判定信号によって乗りかごを制御するエレベータにおいて、
前記乗りかごに加速度センサを設け、前記演算装置に、前記加速度センサおよび前記加速度センサとは異種の他の速度検出手段からの信号を入力してそれぞれかご速度を演算する演算部と、この演算部で演算した二つのかご速度を比較した結果に基づいて前記異常判定信号を出力する比較部とを設けたことを特徴とするエレベータ。
【請求項2】
前記演算装置は、前記比較部における二つのかご速度の比較の結果、両者の差が所定の値より大きくなったときに前記乗りかごを停止させることになる前記異常判定信号を出力することを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。
【請求項3】
前記演算装置に、前記乗りかごの停止毎に、前記加速度センサの値に基づいて演算したかご速度をゼロにリセットする補正部を設けたことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。
【請求項4】
前記乗りかごの停止毎に前記加速度センサのオフセット値を計測するオフセット測定部を設け、前記演算部に、このオフセット測定部によるオフセット値を用いて前記加速度センサによるかご速度を演算するかご速度演算部を設けたことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。
【請求項5】
前記他の上記速度検出手段は、エンコーダであることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。
【請求項6】
前記二つのかご速度を演算したものとは異なる第三の速度検出手段を設け、前記演算部に、前記乗りかごの動作中に前記加速度センサによる信号に基づいて演算したかご速度を、前記第三の速度検出手段による信号に基づいて演算したかご速度を用いて補正するかご速度演算部を設けたことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。
【請求項7】
前記乗りかごに設けた前記加速度センサの出力信号をデジタル値に変換し、変換後のデジタル信号を前記演算装置に送信する通信線を設けたことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−246073(P2012−246073A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117093(P2011−117093)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】