説明

エンコーダ付転がり軸受ユニット

【課題】回転速度等の測定性能の向上を図れると共に、エンコーダ本体17b及び各転動体3を設置した空間の密封性を十分に確保でき、しかも低コストで造れる構造を実現する。
【解決手段】外輪1bの軸方向内端面を、内輪11bの軸方向内端面よりも軸方向外側に位置させると共に、この内輪11bの軸方向内端部に支持した前記エンコーダ本体17bの外周面(被検出面)の直径寸法を、前記外輪1bの軸方向内端部の内径寸法と外径寸法との間の大きさにする。又、この外輪1bの軸方向内端部に外嵌固定した非磁性の密封用芯金18bにより、前記エンコーダ本体17bの周囲を覆う。更に、前記密封用芯金18bの内径側部分に固定したシール材19aを構成する複数のシールリップ20d、20e、20fの先端縁を、エンコーダ用芯金16aの表面又は等速ジョイント用外輪22aの外周面に全周に亙り摺接させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持すると共に、この車輪の回転速度や、この車輪に加わる荷重を測定する為に利用する、エンコーダ付転がり軸受ユニットの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するのに、転がり軸受ユニットを使用する。又、アンチロックブレーキシステム(ABS)やトラクションコントロールシステム(TCS)を制御する為には、車輪の回転速度を検出する必要がある。この為、前記転がり軸受ユニットに回転速度検出装置を組み込んだ回転速度検出装置付転がり軸受ユニットにより、前記車輪を懸架装置に対して回転自在に支持すると共に、この車輪の回転速度を検出する事が、近年広く行われる様になっている。
【0003】
図6〜7は、この様な目的で使用される回転速度検出装置付転がり軸受ユニットの従来構造の第1例として、特許文献1に記載されたものを示している。この従来構造の第1例は、駆動輪用のもので、懸架装置に支持固定された状態で使用時にも回転しない外輪1と、車輪(駆動輪)を支持固定した状態で使用時にこの車輪と共に回転するハブ2と、複数個の転動体3、3と、1対の密封部材4a、4bと、エンコーダ5と、センサ6と、駆動軸部材7とを備える。
【0004】
このうちの外輪1は、内周面に複列の外輪軌道8a、8bを、外周面の内端寄り部分に静止側フランジ9を、それぞれ備える。尚、軸方向に関して「外」とは、自動車への組み付け状態で車両の幅方向外側を言い、図2を除く各図の左側となる。これに対して、自動車への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、図2を除く各図の右側を、軸方向に関して「内」と言う。この点に関しては、本明細書及び特許請求の範囲の全体で同じである。
【0005】
又、前記ハブ2は、ハブ本体10と、このハブ本体10の軸方向内端部に外嵌した内輪11とを、このハブ本体10の軸方向内端部に形成したかしめ部12により互いに結合して成る。この様なハブ2は、前記外輪1の内径側に配置されており、外周面のうちで、この外輪1の内径側から軸方向外側に突出した部分に回転側フランジ13を、前記両外輪軌道8a、8bと対向する部分に複列の内輪軌道14a、14bを、それぞれ有する。尚、これら両内輪軌道14a、14bのうちの軸方向内側の内輪軌道14bは、前記内輪11の外周面に形成されている。又、前記ハブ2の径方向中心部にはスプライン孔15が、軸方向に形成されている。
【0006】
又、前記各転動体3、3は、前記両外輪軌道8a、8bと前記両内輪軌道14a、14bとの間に、両列毎に複数個ずつ、転動自在に設けられている。尚、図示の例では、これら各転動体3、3として玉を使用しているが、重量の嵩む車両用の転がり軸受ユニットの場合には、円すいころを使用する場合もある。
【0007】
又、前記エンコーダ5は、前記内輪11の外周面のうち、軸方向内側の内輪軌道14bの軸方向内側に隣接する部分に外嵌固定されている。このエンコーダ5は、図7に詳示する様に、前記内輪11に外嵌固定された、磁性金属板製で円環状のエンコーダ用芯金16と、このエンコーダ用芯金16の外径側円筒部の外周面に添着固定された、永久磁石製で円筒状のエンコーダ本体17とから成る。前記ハブ2と同心の被検出面である、このエンコーダ本体17の外周面には、N極とS極とが、円周方向に関して交互に且つ等間隔に配置されている。
【0008】
又、前記両密封部材4a、4bは、前記外輪1の内周面と前記ハブ2の外周面との間に存在する、前記各転動体3、3及び前記エンコーダ本体17を設置した内部空間の軸方向両端開口を塞ぐもので、これら両端開口部分に1つずつ組み付けられている。これにより、前記内部空間内に封入した潤滑用グリースの外部空間への漏洩防止と、この外部空間から前記内部空間への塵芥、雨水、泥水等の異物の侵入防止とが図られている。又、前記両密封部材4a、4bのうちの軸方向内側の密封部材4bは、図7に詳示する様に、前記外輪1の軸方向内端部に内嵌固定された、金属板製で円環状の密封用芯金18と、この密封用芯金18の内周縁部に固定された、弾性材製で円環状のシール材19とから成る。そして、このシール材19を構成する3本のシールリップ20a、20b、20cを、それぞれ前記エンコーダ用芯金16の内径側円筒部の外周面と円輪部の軸方向内側面とに、全周に亙り摺接させている。
【0009】
又、前記センサ6は、図7に詳示する様に、前記密封用芯金18の一部に形成した取付孔21の内側に挿通支持された状態で、検出部である先端部を、被検出面である前記エンコーダ本体17の外周面に近接対向させている。前記センサ6の検出部には、ホール素子、磁気抵抗素子等の磁気検出素子が組み込まれている。
【0010】
又、前記駆動軸部材7は、等速ジョイント用外輪22と、この等速ジョイント用外輪22の外端面の中心部に固設された、駆動軸であるスプライン軸23とから成る。そして、このスプライン軸23を前記スプライン孔15にスプライン係合させると共に、前記等速ジョイント用外輪22の外端面を前記ハブ2の内端面に当接させた状態で、前記スプライン軸23の先端部にナット24を螺合し、更に締め付けている。これにより、前記駆動軸部材7を前記ハブ2に対し、回転駆動力の伝達を可能に結合固定している。
【0011】
上述の様に構成する回転速度検出装置付転がり軸受ユニットを自動車の車体に組み付ける場合には、前記外輪1の静止側フランジ9を、懸架装置を構成するナックル等の支持部材25に結合固定すると共に、前記ハブの回転側フランジに車輪を支持固定する。尚、前記静止側フランジ9を前記支持部材25に結合固定する場合には、前記外輪1の軸方向内端部で、前記静止側フランジ9よりも軸方向内側に突出した部分を、前記支持部材25に設けた取付孔26に内嵌すると共に、前記静止側フランジ9の軸方向内側面を、この支持部材25の側面に当接させる。そして、この状態で、これら静止側フランジ9と支持部材25とを、ボルト等により結合固定する。この状態で、車輪と共に前記ハブ2が回転すると、前記センサ6の検出部の近傍を、前記エンコーダ5の被検出面に存在するN極とS極とが交互に通過する。この結果、前記センサ6の検出部内を流れる磁束の向きが交互に変化し、このセンサ6の出力が変化する。この様にしてセンサ6の出力が変化する周波数は、前記車輪の回転速度に比例する。従って、このセンサ6の出力を図示しない制御器に送れば、ABSやTCSを適切に制御できる。
【0012】
上述した様な従来構造の第1例の場合、前記密封用芯金18の一部に前記取付孔21を形成する必要があり、その分の加工コストが嵩む。又、この取付孔21の内周面と前記センサ6の外周面との間に存在する微小隙間の存在が、密封性を低下させる原因となる可能性がある。又、前記エンコーダ本体17と前記センサ6とを、前記内輪11の外周面と前記外輪1の内周面との間で径方向に重畳配置している為、前記エンコーダ5の被検出面(前記エンコーダ本体17の外周面)の直径を余り大きくする事ができない。この事は、回転速度の検出性能の向上を図る上で不利となる。即ち、前記エンコーダ5の被検出面に配置する磁極の数が一定である場合には、この被検出面の直径が大きくなる程、これら各磁極の周方向幅(着磁面積)が大きくなり、これに伴う磁気強化によって、前記センサ6の検出性能が向上する。又、前記各磁極の周方向幅が一定である場合には、前記被検出面の直径が大きくなる程、この被検出面に配置する磁極の数が多くなり、これによって、回転速度検出に関する精度が向上する。これに対して、上述した従来構造の第1例の場合には、前記エンコーダ5の被検出面の直径を余り大きくできない為、回転速度の検出性能の向上を図る上で不利となる。
【0013】
次に、図8は、回転速度検出装置付転がり軸受ユニットの従来構造の第2例として、特許文献2に記載されたものを示している。この従来構造の第2例の場合、外輪1aの軸方向内端部に支持固定した、密封部材4cを構成する密封用芯金18aを、非磁性金属板製としている。又、この密封用芯金18aの外面に、センサ6aを包埋した樹脂部材27を、インサート成形により結合固定している。そして、この状態で、ハブ2aを構成する内輪11aの内端部に外嵌固定したエンコーダ5aの被検出面(円筒状のエンコーダ本体17aの外周面)に、前記センサ6aの検出部を、前記密封用芯金18aの一部を介して近接対向させている。
【0014】
上述の様な構成を有する従来構造の第2例の場合には、前記従来構造の第1例の場合と異なり、前記密封用芯金18aの一部に前記センサ6aの取付孔が存在しない。この為、この取付孔の存在に基づく、加工コストの上昇や密封性の低下と言った問題が生じる事はない。但し、上述した従来構造の第2例の場合も、前記従来構造の第1例の場合と同様、前記内輪11aの外周面と前記外輪1aの内周面との間で、前記エンコーダ本体17aと前記センサ6aとを径方向に重畳配置している為、前記エンコーダ5aの被検出面の直径を余り大きくできない。従って、回転速度検出に関する性能向上を図る上で不利となる。
【0015】
尚、エンコーダとセンサとの組み合わせは、上述した回転速度検出装置に限らず、近年登場し、その開発が進められている、荷重測定装置(例えば、特許文献3、4参照)でも、車輪に加わる荷重(外輪とハブとの間に作用する荷重)を測定する為に使用する。この様な荷重測定装置を備えた転がり軸受ユニットを実施する際に、上述の図6〜8に示した各従来構造と同様の構造を採用すると、やはり上述した場合と同様の問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2005−42866号公報
【特許文献2】特開2008−202733号公報
【特許文献3】特開2006−317420号公報
【特許文献4】特開2008−64731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明のエンコーダ付転がり軸受ユニットは、上述の様な事情に鑑み、回転速度や荷重の測定性能を向上させる事ができると共に、エンコーダ本体と各転動体とを設置した内部空間の軸方向内端開口の密封性を十分に確保でき、しかも低コストで造れる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のエンコーダ付転がり軸受ユニットは、外輪と、回転体と、複数個の転動体と、エンコーダと、密封部材とを備える。
このうちの外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有し、使用時に懸架装置に支持された状態で回転しない。
又、前記回転体は、前記外輪の内径側に配置されている。そして、外周面のうちで、この外輪の内径側から軸方向外側に突出した部分に車輪を支持する為のフランジを、同じく前記両外輪軌道と対向する部分に複列の内輪軌道を、それぞれ有し、使用時に前記車輪と共に回転する。
又、前記各転動体は、前記両外輪軌道と前記両内輪軌道との間に、両列毎に複数個ずつ、転動自在に設けられている。
又、前記エンコーダは、磁性金属材製で円環状のエンコーダ用芯金と、このエンコーダ用芯金の外周面に固定された、永久磁石製で円筒状のエンコーダ本体とを備えると共に、被検出面であるこのエンコーダ本体の外周面に、S極とN極とを円周方向に関して交互に配置している。そして、前記エンコーダ用芯金を、前記回転体の一部で軸方向内側の内輪軌道の軸方向内側に隣接する部分に外嵌固定している。
又、前記密封部材は、前記各転動体及び前記エンコーダ本体を設置した内部空間の軸方向内端開口を塞ぐものである。
【0019】
特に、本発明のエンコーダ付転がり軸受ユニットに於いては、前記外輪の軸方向内端面は、前記エンコーダ本体よりも軸方向外側に配置されている。そして、前記エンコーダの被検出面(このエンコーダ本体の外周面)の直径寸法は、前記外輪の軸方向内端部の内径寸法よりも大きく、且つ、この外輪の軸方向内端部の外径寸法よりも小さくなっている。
又、前記密封部材は、密封用芯金と、シール材とを備える。そして、このうちの密封用芯金は、非磁性金属材により円環状に造られており、前記エンコーダの被検出面の周囲を取り囲むと共に、一部をこの被検出面に近接対向させた状態で、前記外輪の軸方向内端部に支持固定されている。又、前記シール材は、弾性材により円環状に造られると共に、前記密封用芯金の内径側部分に固定されており、且つ、その先端縁を前記エンコーダ用芯金の表面に全周に亙り摺接させたシールリップを備えている。
【0020】
又、本発明を実施する場合で、前記車輪が駆動輪であり、且つ、前記回転体が、ハブと駆動軸部材とを互いに結合して成るものであり、このうちのハブは、外周面に前記フランジ及び前記1対の内輪軌道を、径方向中心部に軸方向に亙るスプライン孔を、それぞれ有するものであり、前記駆動軸部材は、前記ハブの軸方向内側に隣接配置される等速ジョイント用外輪と、この等速ジョイント用外輪の軸方向外端面に固設されて前記スプライン孔とスプライン係合するスプライン軸とを備えたものであり、且つ、前記エンコーダが、前記ハブの軸方向内端部に外嵌固定されている構造を対象とする場合に、好ましくは、請求項2〜3に記載した発明の構成を採用する。
このうちの請求項2に記載した発明の構成を採用する場合には、前記シール材に、その先端縁を前記等速ジョイント用外輪の外周面に全周に亙り摺接させたシールリップを備えさせる。
これに対し、請求項3に記載した発明の構成を採用する場合には、前記等速ジョイント用外輪の軸方向外端寄り部分に、円環状のスリンガを外嵌固定する。これと共に、前記シール材に、その先端縁をこのスリンガの表面に全周に亙り摺接させたシールリップを備えさせる。
又、この様な請求項3に記載した発明を実施する場合に、好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記シール材に、その先端縁を前記等速ジョイント用外輪の外周面のうちで前記スリンガを外嵌固定した部分よりも軸方向外側部分に全周に亙り摺接させたシールリップを備えさせる。
又、これら請求項3〜4に記載した発明を実施する場合に、好ましくは、請求項5に記載した発明の様に、前記スリンガを、このスリンガの表面に摺接させた前記シールリップの周囲を覆う状態で配置し、且つ、このスリンガの基端部を前記等速ジョイント用外輪に外嵌すると共に、このスリンガの先端部を前記密封用芯金の表面に近接対向させる。
【0021】
又、本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項6に記載した発明の様に、前記エンコーダ本体の軸方向外端面の径方向一部分に、軸方向外方に突出し且つ着磁されていない凸部を、全周に亙り形成する。これと共に、この凸部の先端縁を、前記外輪の軸方向内端面に全周に亙り近接対向させる。
【0022】
又、本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項7に記載した発明の様に、前記エンコーダ用芯金の一部で、前記エンコーダ本体と前記各転動体とを配置した内部空間内に存在する部分に、円環状の第二シール材を固定する。これと共に、この第二シール材に、その先端縁を前記外輪の軸方向内端面に摺接させたシールリップを備えさせる。
【0023】
又、本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項8に記載した発明の様に、前記密封用芯金の一部で前記エンコーダの被検出面に近接対向させた部分の外周面のうち、使用時にセンサの先端面を当接させる部分に、ゴム層を設ける。
【発明の効果】
【0024】
上述の様に構成する本発明のエンコーダ付転がり軸受ユニットによれば、回転速度や荷重の測定性能を向上させる事ができると共に、エンコーダの被検出面と各転動体とを設置した内部空間の軸方向内端開口の密封性を十分に確保でき、しかも低コストで造れる。
即ち、前記エンコーダの被検出面に配置する磁極の数を一定とする場合には、この被検出面の直径が大きくなる程、これら各磁極の周方向幅(着磁面積)が大きくなり、これに伴う磁気強化によって、センサの検出性能が向上する。例えば、信号電圧を高くする事による信頼性向上を図れる。又、前記各磁極の周方向幅を一定とする場合には、前記被検出面の直径が大きくなる程、この被検出面に配置する磁極の数が増え、これによって、回転速度検出に関する精度が向上する。これに対して、本発明の場合には、前記エンコーダの被検出面の直径寸法が、外輪の軸方向内端部の内径寸法よりも大きくなっている。この為、本発明の場合には、前述の図6〜8に示した各従来構造の様に、エンコーダの被検出面の直径寸法が、外輪の軸方向内端部の内径寸法よりも小さくなっている構造に比べて、回転速度や荷重の測定性能を向上させる事ができる。
又、本発明の場合、前記密封用芯金には、センサを挿通支持する為の取付孔を形成する必要がない。この為、この取付孔の存在に基づいて前記内部空間の軸方向内端開口の密封性が低下すると言った不具合が生じる事はない。従って、前記内部空間の軸方向内端開口の密封性を十分に確保できる。
更に、本発明の場合には、前記センサの取付孔の加工コストが不要になる分、低コストで造れる。
【0025】
又、請求項2〜4に記載した発明の構成を採用すれば、前記等速ジョイント用外輪の外周面又は前記スリンガの表面に摺接させた、前記シール材を構成するシールリップの存在に基づいて、前記内部空間の密封性を向上させる事ができる。これと共に、前記スプライン孔と前記スプライン軸とのスプライン係合部に、このスプライン係合部の軸方向内側から、雨水、泥水等の異物が入り込む事を防止できる。この為、このスプライン係合部に塗布されたグリースによる、このスプライン係合部の防錆効果を、長期間維持する事ができる。この結果、点検、修理等の際に、前記スプライン孔から前記スプライン軸を抜き取る事が困難になると言った不具合が生じる事を防止できる。
【0026】
又、請求項5に記載した発明の構成を採用すれば、前記スリンガの存在に基づいて、前記内部空間及び前記スプライン係合部の密封性の向上を図れる。これと共に、前記スリンガの表面に摺接させたシールリップ、及び、前記等速ジョイント用外輪の外周面に摺接させたシールリップに、飛石等の異物がぶつかる事を防止できる。この結果、これら各シールリップが損傷する事を防止できる。
【0027】
又、請求項6に記載した発明の構成を採用すれば、その先端縁を前記外輪の軸方向内端面に近接対向させた、前記エンコーダ本体を構成する凸部の存在に基づいて、前記各転動体を設置した空間内に封入した潤滑用グリースが、前記エンコーダ本体を設置した空間内に漏洩する事を抑制できる。
即ち、本発明を実施する場合には、前記エンコーダの被検出面から出入りする磁束が、前記外輪の軸方向内端面に多く引き込まれた状態になる(磁束がこの外輪に漏洩する)事を防止する為に、この外輪の軸方向内端面と前記エンコーダ本体の軸方向外端面との間には、互いの接触を避ける為に必要な最小限の隙間よりも或る程度大きな隙間を介在させる(前記外輪の軸方向内端面に対して前記被検出面を軸方向に遠ざける)のが好ましい。但し、この隙間を大きくする程、この隙間を通じて、前記各転動体を設置した空間内の潤滑用グリースが、前記エンコーダ本体を設置した空間内に漏れ出し易くなる。これに対して、上述の様な凸部を設ければ、前記外輪の軸方向内端面に対して前記被検出面を軸方向に遠ざけると共に、前記隙間を通じて前記潤滑用グリースが漏れ出す事を抑制できる。
尚、前記凸部は、着磁されていない為、この凸部の存在に基づいて、前記被検出面から出入りする磁束の形状が歪むと言った不具合が生じる事はない。
【0028】
又、請求項7に記載した発明の構成を採用すれば、前記外輪の軸方向内端面に摺接させた、第二シール材を構成するシールリップの存在に基づいて、前記各転動体を設置した空間内に封入した潤滑用グリースが、前記エンコーダ本体を設置した空間内に漏洩する事を防止できる。
【0029】
又、請求項8に記載した発明の構成を採用すれば、前記ゴム層の存在に基づいて、密封用芯金の外周面とセンサの先端面との間に磁性粉等の異物が入り込む事を防止できる。この為、回転速度や荷重の測定に関する信頼性を向上させる事ができる。更には、前記ゴム層の存在に基づいて、前記密封用芯金の外周面と前記センサの先端面との間でフレッチング摩耗が生じる事を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、図6のA部に相当する拡大断面図。
【図2】密封用芯金の外周寄り部分の円周方向一部分を、軸方向内側から見た図。
【図3】本発明の実施の形態の第2例を示す、図1と同様の図。
【図4】同第3例を示す、図1と同様の図。
【図5】同第4例を示す、図1と同様の図。
【図6】回転速度検出装置付転がり軸受ユニットの従来構造の第1例を示す断面図。
【図7】図6のA部拡大図。
【図8】回転速度検出装置付転がり軸受ユニットの従来構造の第2例を示す、図7と同様の図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[実施の形態の第1例]
図1〜2は、請求項1、2、6に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の特徴は、エンコーダ5b及び密封部材4dの構造と、これらエンコーダ5b及び密封部材4dを組み付ける箇所の構造とにある。その他の部分の構造及び作用は、一部を除き、基本的には、前述の図6〜7に示した従来構造の第1例の場合と同様である。この為、同等部分に関する図示並びに説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分、並びに、前記従来構造の第1例と異なる部分を中心に説明する。
【0032】
本例の場合、ハブ2bを構成するハブ本体10aの軸方向内端部には、かしめ部を形成せず、このハブ2bを構成する内輪11bの軸方向内端面に、駆動軸部材7aを構成する等速ジョイント用外輪22aの軸方向外端面を、直接当接させている。尚、本例の場合には、前記ハブ2bと前記駆動軸部材7aとが、回転体に相当する。又、本例の場合には、外輪1bの軸方向内端面を、前記内輪11bの外周面に形成した内輪軌道14bの軸方向内端縁よりも、軸方向外側に少しだけずれた位置に配置している。そして、前記内輪11bの外周面のうちで前記内輪軌道14bの軸方向内側に隣接する部分、即ち、この内輪11bの外周面の軸方向内端部で、前記外輪1bの軸方向内端面よりも軸方向内側に突出した部分に、前記エンコーダ5bを外嵌固定している。
【0033】
このエンコーダ5bは、エンコーダ用芯金16aと、エンコーダ本体17bとから成る。このうちのエンコーダ用芯金16aは、軟鋼板、磁性ステンレス鋼板等の磁性金属板により全体を円環状に造られており、互いに同心の外径側円筒部28及び内径側円筒部29と、これら外径側、内径側両円筒部28、29の軸方向外端縁同士を連結する円輪部30とを備える。そして、このうちの内径側円筒部29を、前記内輪11bの軸方向内端部に締り嵌めで外嵌している。又、前記エンコーダ本体17bは、ゴム磁石若しくはプラスチック磁石製で、全体を円筒状に造られており、前記外径側円筒部28の外周面に固定されている。前記ハブ2bと同心の被検出面である、前記エンコーダ本体17bの外周面には、N極とS極とが、円周方向に関して交互に且つ等間隔に配置されている。特に、本例の場合には、前記エンコーダ5bの被検出面の直径寸法を、前記外輪1bの軸方向内端部の内径寸法よりも大きく、且つ、この外輪1bの軸方向内端部の外径寸法よりも小さくしている。より具体的には、前記エンコーダ5bの被検出面の直径寸法を、前記外輪1bの軸方向内端部の内径寸法と外径寸法とのほぼ平均の値{直径寸法≒(内径寸法+外径寸法)/2}としている。この為に、前記外径側円筒部28の外径寸法、及び、前記エンコーダ本体17bの径方向厚さ寸法を規制している。
【0034】
又、本例の場合、前記外輪1bの軸方向内端面と、前記エンコーダ本体17bの軸方向外端面の径方向外端部乃至中間部との間に、互いの接触を避ける為に必要な最小限の隙間よりも少し大きな隙間を介在させている。これにより、前記外輪1bの軸方向内端面に対し、前記エンコーダ5bの被検出面を軸方向に遠ざけて、この被検出面から出入りする磁束が、前記外輪1bの軸方向内端面に多く引き込まれた状態になる(被検出面から出入する磁束が外輪1bに漏洩する)事を防止している。又、本例の場合には、前記エンコーダ本体17bの軸方向外端面の内周縁部分で、前記外径側円筒部28の外周面よりも内径側部分に、軸方向外方に突出し且つ着磁されていない凸部31を、全周に亙り設けている。そして、この凸部31の先端縁を、前記外輪1bの軸方向内端面の内周縁部分に全周に亙り近接対向させる事で、この近接対向させた部分にラビリンス隙間を形成している。
【0035】
又、本例の場合、前記外輪1bの軸方向内端部に、前記密封部材4dを支持固定している。この密封部材4dは、密封用芯金18bと、シール材19aとから成る。このうちの密封用芯金18bは、非磁性ステンレス鋼板、アルミニウム合金板等の非磁性金属板により、全体を円環状に造られており、円筒状の周壁部32と、この周壁部32の軸方向内端縁から径方向内方に折れ曲がった側壁部33とを備える。このうちの周壁部32の軸方向内半部の円周方向一部分には、この周壁部32の他の部分よりも径方向内方に凹んだ平坦部34を設けている。又、前記側壁部33の内周寄り部分に傾斜部35を設ける事により、この側壁部33の内径側を、外径側に比べて、軸方向外側に位置させている。この様な密封用芯金18bは、前記周壁部32の軸方向外端部を、前記外輪1bの軸方向内端部に締り嵌めで外嵌する事により、この外輪1bの軸方向内端部に支持固定されている。又、この状態で、前記密封用芯金18bは、前記エンコーダ本体17bの周囲を取り囲むと共に、前記平坦部34が、このエンコーダ5bの被検出面に近接対向した状態になる。
【0036】
又、前記シール材19aは、ゴムの如きエラストマー等の弾性材製で、全体を円環状に造られており、前記密封用芯金18bを構成する側壁部33の径方向内端部乃至中間部に固定されている。本例の場合、このシール材19aは、3本のシールリップ20d、20e、20fを有する。そして、このうちの2本のシールリップ20d、20eの先端縁を、前記エンコーダ用芯金16aを構成する内径側円筒部29の外周面に、残り1本のシールリップ20fの先端縁を、前記等速ジョイント用外輪22aの外周面のうちで軸方向外端寄り部分に存在する傾斜面部に、それぞれ全周に亙り摺接させている。尚、前記等速ジョイント用外輪22aの外周面のうち、少なくとも前記1本のシールリップ20fの先端縁を摺接させる部分は、平滑面としている。又、本例の場合、前記1本のシールリップ20fの先端縁の自由状態での外径寸法は、前記密封用芯金18bを構成する周壁部32の外径寸法よりも小さく(具体的には、この周壁部32の中心軸を中心とし、前記平坦部34の外径側面に接する円の直径寸法よりも小さく)している。これにより、前記外輪1bの軸方向内端部に前記周壁部32の軸方向外端部を圧入する際に、前記1本のシールリップ20fに邪魔される事なく、前記周壁部32の軸方向内端縁を押圧治具により押圧できる様にしている。
【0037】
又、本例の場合には、前記平坦部34の外径側面に、センサ6bの先端面(平坦面であり、図1に於ける下端面)を当接させている。これにより、このセンサ6bの先端部に設けた検出部を、前記平坦部34を介して、前記エンコーダ5bの被検出面に近接対向させている。尚、この状態で、前記センサ6bは、懸架装置を構成する支持部材25の一部等、使用時にも回転しない車体の一部に支持されている。
【0038】
上述の様に構成する本例のエンコーダ付転がり軸受ユニットによれば、回転速度検出の性能を向上させる事ができると共に、前記エンコーダ本体17bと前記各転動体3、3とを設置した内部空間の軸方向内端開口の密封性を十分に確保でき、しかも低コストで造れる。
即ち、本例の場合には、前記エンコーダ5bの被検出面の直径寸法が、前記外輪1bの軸方向内端部の内径寸法よりも大きくなっている。この為、前述の図6〜8に示した各従来構造の様に、エンコーダ5、5aの被検出面の直径寸法が、外輪1、1aの軸方向内端部の内径寸法よりも小さくなっている構造に比べて、前記被検出面に存在する各磁極の周方向幅(着磁面積)を大きくしたり、この被検出面に存在する磁極の数を増やしたりする事ができる。この結果、本例の場合には、前記エンコーダ5bと前記センサ6bとの組み合わせによる回転速度検出の性能を向上させる事ができる。
又、本例の場合、前記エンコーダ5bは、外周面を寸法精度の良い研削面とした、前記内輪11bの内端部に外嵌される。この為、この研削面との嵌め合い面である、前記エンコーダ用芯金16aを構成する内径側円筒部29の内周面と、被検出面である、前記エンコーダ本体17bの外周面とが同心となる様に、このエンコーダ本体17bの加硫又は射出成形を行えば、使用時に於ける、前記被検出面の径方向の振れを十分に抑える事ができる。従って、本例の場合、前記密封用芯金18bを構成する平坦部34の寸法管理さえ厳密に行えば、前記エンコーダ5bの被検出面と前記センサ6bの検出部とのエアギャップ(対向間隔)を十分に小さく設定する事ができる。この結果、上述の様に被検出面の直径寸法が大きい事と相まって、回転速度検出の性能を十分に確保できる。
【0039】
又、本例の場合、前記密封用芯金18bには、前記センサ6bを挿通支持する為の取付孔を形成する必要がない。この為、この取付孔の存在に基づいて前記内部空間の軸方向内端開口の密封性が低下すると言った不具合が生じる事はない。従って、前記内部空間の軸方向内端開口の密封性を十分に確保できる。
更に、本例の場合には、前記センサ6bの取付孔の加工コストが不要になる分、製造コストの低減を図れる。
【0040】
又、本例の場合、前記シール材19aは、前記エンコーダ用芯金16aを構成する内径側円筒部29の外周面に摺接させる2本のシールリップ20d、20eに加えて、等速ジョイント用外輪22aの外周面の軸方向外端寄り部分に摺接させる1本のシールリップ20fを備えている。この為、単に、前記2本のシールリップ20d、20eのみを備えている構造に比べて、前記内部空間の密封性を高める事ができる。又、前記1本のシールリップ20fの存在に基づいて、前記ハブ2bのスプライン孔15と前記駆動軸部材7aのスプライン軸23(図6参照)とのスプライン係合部に、このスプライン係合部の軸方向内側から、雨水、泥水等の異物が入り込む事を防止できる。この為、このスプライン係合部に塗布されたグリースによる、このスプライン係合部の防錆効果を、長期間維持する事ができる。この結果、点検、修理等の際に、前記スプライン孔15から前記スプライン軸23を抜き取る事が困難になると言った不具合が生じる事を防止できる。
【0041】
又、本例の場合には、前記エンコーダ本体17bの軸方向外端面の内周縁部分に設けた凸部31の先端縁を、前記外輪1bの軸方向内端面の内周縁部分に全周に亙り近接対向させる事で、この近接対向させた部分にラビリンス隙間を形成している。この為、前記外輪1bの軸方向内端面に対して前記被検出面を軸方向に遠ざけると共に、前記各転動体3、3を設置した空間内に封入した潤滑用グリースが、前記エンコーダ本体17bを設置した空間内に漏洩する事を抑制できる。尚、本例の場合、前記凸部31は、着磁されていない為、この凸部31の存在に基づいて、前記被検出面から出入りする磁束の形状(分布)が歪むと言った不具合が生じる事はない。
【0042】
又、本例の場合、前記密封用芯金18bを構成する周壁部32に関しては、前記センサ6bと前記エンコーダ5bとの間に挟まれた前記平坦部34のみが、このエンコーダ5bの被検出面に近接対向した状態となり、それ以外の部分は、この被検出面から少し遠ざかった状態になっている。この為、前記周壁部32のうち、前記平坦部34から外れた部分では、外部に達する磁束が弱まり、当該部分の外周面に、鉄粉、鉄片等の磁性体が付着しにくくなる。従って、この様に付着した磁性体が酸化する事によって形成される、所謂もらい錆びの発生を十分に抑制できる。
【0043】
[実施の形態の第2例]
図3は、請求項1〜5、8に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合、外輪1cの軸方向内端部外周面に、小径段部36を形成している。そして、この小径段部36に、密封部材4eを構成する密封用芯金18bのうち、周壁部32の軸方向外端部を締り嵌めで外嵌している。又、この状態で、前記小径段部36の基端部に存在する段差面に、前記周壁部32の軸方向外端縁を突き当てる事により、前記密封部材4eの軸方向の位置決めを図っている。更に、本例の場合、前記小径段部36の軸方向中間部に係止溝37を、全周に亙り形成すると共に、この係止溝37内にOリング38を装着している。そして、このOリング38を、この係止溝37の底面と前記周壁部32の軸方向外端部内周面との間で圧縮する事により、この周壁部32の軸方向外端部と前記小径段部36との嵌合部をシールしている。
【0044】
又、本例の場合、エンコーダ5cを構成するエンコーダ用芯金16bは、内径側円筒部29の軸方向内端部から径方向内方に直角に折れ曲がった、円輪状の間座部39を備える。そして、この間座部39を、内輪11bの軸方向内端面に当接させる事により、前記エンコーダ5cの軸方向の位置決めを図っている。更に、本例の場合には、前記間座部39を、前記内輪11bの軸方向内端面と等速ジョイント用外輪22aの軸方向外端面との間で挟持している。
そして、本例の場合には、前記間座部39を備えたエンコーダ用芯金16bの材質、熱処理、表面処理等の選定を適切に行う事により、前記内輪11bの軸方向内端面と前記等速ジョイント用外輪22aの軸方向外端面との間でフレッチング摩耗が発生する事を防止している。
【0045】
又、本例の場合、前記密封用芯金18bを構成する平坦部34の外径側面のうち、センサ6bの先端面を当接させる部分に、薄いゴム層40を加硫接着している。そして、使用時に、このゴム層40の外径側面に前記センサ6bの先端面を当接させる事により、このセンサ6bの先端面と前記平坦部34の外径側面との間に磁性粉等の異物が入り込む事を防止している。これにより、回転速度検出に関する信頼性を向上させている。更には、前記ゴム層40の存在に基づいて、前記センサ6bの先端面と前記平坦部34の外径側面との間でフレッチング摩耗が発生する事を防止している。
【0046】
又、本例の場合、前記等速ジョイント用外輪22aの軸方向外端寄り部分で、外周面を円筒面とした部分に、スリンガ41を外嵌固定している。このスリンガ41は、ステンレス鋼板等の優れた耐食性を有する金属板により、断面クランク形で全体を円環状に造られており、互いに同心の外径側円筒部42及び内径側円筒部43と、これら外径側円筒部42の軸方向内端縁と内径側円筒部43の軸方向外端縁とを連結する円輪部44とを備える。そして、このうちの内径側円筒部43を、前記等速ジョイント用外輪22aの軸方向外端寄り部分で外周面を円筒面とした部分に、締り嵌めで外嵌している。又、この状態で、前記外径側円筒部42の軸方向外端縁を、前記密封用芯金18bを構成する周壁部32のうち、円周方向に関して前記平坦部34から外れた部分の軸方向内端縁に近接対向させている。これにより、この近接対向させた部分にラビリンス隙間を形成している。
【0047】
又、本例の場合には、前記密封部材4eを構成するシール材19bの構成要素として、2本のシールリップ20g、20hを追加している。そして、このうちの一方のシールリップ20gの先端縁を、前記エンコーダ用芯金16bを構成する円輪部30の軸方向内側面に、他方のシールリップ20hの先端縁を、前記スリンガ41を構成する円輪部44の軸方向外側面に、それぞれ全周に亙り摺接させている。これにより、各転動体3とエンコーダ本体17cとを設置した内部空間、及び、スプライン孔15とスプライン軸23とのスプライン係合部(図6参照)の密封性能を向上させている。
【0048】
又、本例の場合には、前記スリンガ41が、前記他方のシールリップ20hの周囲を覆う状態で配置されており、且つ、このスリンガ41と前記密封用芯金18bとの間に前記ラビリンス隙間が形成されている。この為、前記内部空間及び前記スプライン係合部の密封性の向上を図れる。これと共に、前記スリンガ41の表面に摺接させたシールリップ20h、及び、前記等速ジョイント用外輪22aの外周面に摺接させたシールリップ20fに、飛石等の異物がぶつかる事を防止できる。この結果、これら各シールリップ20f、20hが損傷する事を防止できる。
【0049】
尚、本例の場合、前記スリンガ41を構成する外径側円筒部42の軸方向外端縁と、前記密封用芯金18bを構成する平坦部34の軸方向内端縁との間には、前記ラビリンス隙間よりも大きな隙間が、軸方向外側に開口する状態で存在している。但し、この大きな隙間の開口部に対向する部分には、前記センサ6bの先端部が配置されている。この為、本例の場合には、このセンサ6bの先端部が、前記大きな隙間を通じて前記スリンガ41の内側に異物が侵入する事を抑える為の阻止部材として機能する。
【0050】
尚、本例の場合、前記エンコーダ本体17cの外端面には、凸部31(図1参照)を設けていないが、この凸部31を設ける様にしても良い。その他の構成及び作用は、前述の図1〜2に示した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0051】
[実施の形態の第3例]
図4は、請求項1〜5、8に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、スリンガ41aを構成する外径側円筒部42aの直径を、上述した実施の形態の第2例の場合よりも小さくする事により、この外径側円筒部42aの軸方向外端縁を、密封用芯金18bを構成する側壁部33の軸方向内側面の外周寄り部分に、全周に亙り近接対向させている。これにより、前記スリンガ41aと前記密封用芯金18bとの間に全周に亙るラビリンス隙間を形成する事で、このスリンガ41aの存在に基づく異物侵入防止効果を、上述した実施の形態の第2例の場合よりも高めている。その他の構成及び作用は、上述の図3に示した実施の形態の第2例の場合と同様である。
【0052】
[実施の形態の第4例]
図5は、請求項1、3、7に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の場合、密封用芯金18cを構成する周壁部32aの一部に、平坦部34(図1〜2参照)を設けず、この周壁部32aの全体を単なる円筒状としている。これにより、本例の場合には、エンコーダ5dの被検出面の直径寸法を、前記周壁部32aの内径寸法(外輪1bの軸方向内端部の外径寸法)に近づけて大きくする事により、前記被検出面を前記周壁部32aの内周面に対して、全周に亙り近接対向させている。本例の場合には、この様にして前記被検出面の直径寸法を更に大きくする事により、回転速度検出に関する性能を更に向上させている。これと共に、前記被検出面から出入りする磁束が存在する空間と、前記外輪1bの内端面とが軸方向に対向する面積を狭くする事で、この被検出面から出入りする磁束が前記外輪1bに漏洩しにくくしている。更に、エンコーダ用芯金16cを構成する円輪部30aの外径寸法を大きくすると共に、この円輪部30aの軸方向外側面の径方向中間部に固定した第二シール材45を構成するシールリップ20kの先端縁を、前記外輪1bの内端面に全周に亙り摺接させている。これにより、各転動体3を設置した空間とエンコーダ本体17dを設置した空間との間を遮断している。尚、図示の例の場合、前記第二シール材45を構成するシールリップ20kの傾斜方向は、前記各転動体3、3を設置した空間内への水の浸入防止を図り易い方向としているが、本発明を実施する場合には、逆方向、即ち、前記エンコーダ本体17dを設置した空間に潤滑用グリースが漏洩するのを防止し易い方向とする事もできる。
【0053】
又、本例の場合、センサ6cの先端面は、前記周壁部32aの外周面に合致する部分円筒状凹面として、この周壁部32aの外周面に密接させている。尚、本例の場合も、この周壁部32aの外周面のうちで、前記センサ6cの先端面を当接させる部分に、ゴム層を設ける事ができる。この場合に、このゴム層の厚さを周方向に関し変化させ、このゴム層の外径側面(前記センサ6cの先端面を当接させる面)を平坦面にすれば、このセンサ6cの先端面も平坦面にできる。
【0054】
又、本例の場合、等速ジョイント用外輪22aの軸方向外端寄り部分に外嵌固定したスリンガ41bは、内径側円筒部43及び円輪部44のみを備えている。
又、本例の場合、密封部材4fを構成するシール材19cは、外径側部分に、先端部が二股に分かれたシールリップ20mを備え、このシールリップ20mの二股の先端縁を、前記スリンガ41bを構成する円輪部44の外側面に、全周に亙り摺接させている。
その他の構成及び作用は、上述した各実施の形態の場合と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、回転速度を検出する為に利用するエンコーダ付転がり軸受ユニットに限らず、前述した荷重を測定する為に利用するエンコーダ付転がり軸受ユニットに適用して実施する事も可能である。
又、本発明は、駆動輪用のエンコーダ付転がり軸受ユニットに限らず、従動輪用のエンコーダ付転がり軸受ユニットに適用して実施する事もできる。従動輪用のエンコーダ付転がり軸受ユニットの場合には、車輪と共に回転するハブに結合固定する駆動軸部材が存在しない為、このハブのみが回転体に相当する。
【符号の説明】
【0056】
1、1a〜1c 外輪
2、2a〜2b ハブ
3 転動体
4a〜4f 密封部材
5、5a〜5d エンコーダ
6、6a〜6b センサ
7、7a 駆動軸部材
8a、8b 外輪軌道
9 静止側フランジ
10、10a ハブ本体
11、11a、11b 内輪
12 かしめ部
13 回転側フランジ
14a、14b 内輪軌道
15 スプライン孔
16、16a〜16c エンコーダ用芯金
17、17a〜17d エンコーダ本体
18、18a〜18c 密封用芯金
19、19a〜19c シール材
20a〜20m シールリップ
21 取付孔
22、22a 等速ジョイント用外輪
23 スプライン軸
24 ナット
25 支持部材
26 取付孔
27 樹脂部材
28 外径側円筒部
29 内径側円筒部
30、30a 円輪部
31 凸部
32、32a 周壁部
33 側壁部
34 平坦部
35 傾斜部
36 小径段部
37 係止溝
38 Oリング
39 間座部
40 ゴム層
41、41a スリンガ
42、42a 外径側円筒部
43 内径側円筒部
44 円輪部
45 第二シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、回転体と、複数個の転動体と、エンコーダと、密封部材とを備え、
このうちの外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有し、使用時に懸架装置に支持された状態で回転しないものであり、
前記回転体は、前記外輪の内径側に配置されていて、外周面のうちで、この外輪の内径側から軸方向外側に突出した部分に車輪を支持する為のフランジを、同じく前記両外輪軌道と対向する部分に複列の内輪軌道を、それぞれ有し、使用時に前記車輪と共に回転するものであり、
前記各転動体は、前記両外輪軌道と前記両内輪軌道との間に、両列毎に複数個ずつ、転動自在に設けられており、
前記エンコーダは、磁性金属材製で円環状のエンコーダ用芯金と、このエンコーダ用芯金の外周面に固定された、永久磁石製で円筒状のエンコーダ本体とを備えると共に、被検出面であるこのエンコーダ本体の外周面に、S極とN極とを円周方向に関して交互に配置したものであって、前記エンコーダ用芯金を、前記回転体の一部で軸方向内側の内輪軌道の軸方向内側に隣接する部分に外嵌固定しており、
前記密封部材は、前記各転動体及び前記エンコーダ本体を設置した内部空間の軸方向内端開口を塞ぐものである、
エンコーダ付転がり軸受ユニットに於いて、
前記外輪の軸方向内端面は、前記エンコーダ本体よりも軸方向外側に配置されており、前記エンコーダの被検出面の直径寸法は、前記外輪の軸方向内端部の内径寸法よりも大きく、且つ、この外輪の軸方向内端部の外径寸法よりも小さくなっており、
前記密封部材は、密封用芯金と、シール材とを備え、このうちの密封用芯金は、非磁性金属材により円環状に造られており、前記エンコーダの被検出面の周囲を取り囲むと共に、一部をこの被検出面に近接対向させた状態で、前記外輪の軸方向内端部に支持固定されており、前記シール材は、弾性材により円環状に造られると共に、前記密封用芯金の内径側部分に固定されており、且つ、その先端縁を前記エンコーダ用芯金の表面に全周に亙り摺接させたシールリップを備えている事を特徴とする、
エンコーダ付転がり軸受ユニット。
【請求項2】
前記車輪は駆動輪であり、
前記回転体は、ハブと駆動軸部材とを互いに結合して成るものであり、このうちのハブは、外周面に前記フランジ及び前記1対の内輪軌道を、径方向中心部に軸方向に亙るスプライン孔を、それぞれ有するものであり、前記駆動軸部材は、前記ハブの軸方向内側に隣接配置される等速ジョイント用外輪と、この等速ジョイント用外輪の軸方向外端面に固設されて前記スプライン孔とスプライン係合するスプライン軸とを備えたものであり、
前記エンコーダは、前記ハブの軸方向内端部に外嵌固定されており、
前記シール材は、その先端縁を前記等速ジョイント用外輪の外周面に全周に亙り摺接させたシールリップを備えている、
請求項1に記載したエンコーダ付転がり軸受ユニット。
【請求項3】
前記車輪は駆動輪であり、
前記回転体は、ハブと駆動軸部材とを互いに結合して成るものであり、このうちのハブは、外周面に前記フランジ及び前記1対の内輪軌道を、径方向中心部に軸方向に亙るスプライン孔を、それぞれ有するものであり、前記駆動軸部材は、前記ハブの軸方向内側に隣接配置される等速ジョイント用外輪と、この等速ジョイント用外輪の軸方向外端面に固設されて前記スプライン孔とスプライン係合するスプライン軸とを備えたものであり、
前記エンコーダは、前記ハブの軸方向内端部に外嵌固定されており、
前記等速ジョイント用外輪の軸方向外端寄り部分には、円環状のスリンガが外嵌固定されており、
前記シール材は、その先端縁を前記スリンガの表面に全周に亙り摺接させたシールリップを備えている、
請求項1に記載したエンコーダ付転がり軸受ユニット。
【請求項4】
前記シール材は、その先端縁を前記等速ジョイント用外輪の外周面のうちで前記スリンガを外嵌固定した部分よりも軸方向外側部分に全周に亙り摺接させたシールリップを備えている、請求項3に記載したエンコーダ付転がり軸受ユニット。
【請求項5】
前記スリンガは、このスリンガの表面に摺接させた前記シールリップの周囲を覆う状態で配置されていて、基端部を前記等速ジョイント用外輪に外嵌すると共に、先端部を前記密封用芯金の表面に近接対向させている、請求項3〜4のうちの何れか1項に記載したエンコーダ付転がり軸受ユニット。
【請求項6】
前記エンコーダ本体の軸方向外端面の径方向一部分に、軸方向外方に突出し且つ着磁されていない凸部を、全周に亙り形成すると共に、この凸部の先端縁を前記外輪の軸方向内端面に全周に亙り近接対向させている、請求項1〜5のうちの何れか1項に記載したエンコーダ付軸受ユニット。
【請求項7】
前記エンコーダ用芯金の一部で、前記エンコーダ本体と前記各転動体とを配置した内部空間内に存在する部分に、円環状の第二シール材を固定しており、この第二シール材は、その先端縁を前記外輪の軸方向内端面に摺接させたシールリップを備えている、請求項1〜6のうちの何れか1項に記載したエンコーダ付軸受ユニット。
【請求項8】
前記密封用芯金の一部で前記エンコーダの被検出面に近接対向させた部分の外周面のうち、使用時にセンサの先端面を当接させる部分に、ゴム層を設けている、請求項1〜7のうちの何れか1項に記載したエンコーダ付転がり軸受ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−36997(P2012−36997A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178861(P2010−178861)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】