説明

エンジンおよびそれを備えたエンジン作業機

【課題】始動時の操作をより容易にする携帯型のエンジン作業機に好適なエンジンを提供する。
【解決手段】エンジン1は、シリンダボア5またはシリンダヘッド内壁面65に開口する減圧開口40と、減圧開口40に接続する減圧通路41とが形成されるシリンダブロック3と、シリンダブロック5に取付けられ、大気と連通する第1大気開口50および第2大気開口51と、第1、第2大気開口50、51に接続する空気室49と、空気室49と減圧通路41とを連通させるとともにシリンダボア5内の所定値以上の圧力を受けて連通を閉じる減圧弁44とを有するデコンプ装置24と、減圧通路41から減圧開口40を経由してシリンダボア5内に燃料を供給するデコンプ装置24と一体に構成された始動用燃料供給装置を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン、特に刈払機やチェンソー等の携帯型のエンジン作業機に好適なエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの始動を容易にするために、例えば特許文献1に示すように、適量の始動補助用燃料を気化器に供給して混合気の燃料濃度を高める始動燃料供給器を備えたエンジンが知られている。また、始動操作時にピストンの圧縮力を低減して始動操作を容易にするデコンプ装置を備えたエンジンも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平6−49895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のエンジンでは、エンジンの始動時に始動用燃料を供給する装置とデコンプ装置とを別々に設け、別の場所に設けられた装置をそれぞれ操作する必要があり、操作が煩雑になるという課題があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、始動時の操作をより容易にするエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点にかかるエンジンは、
ピストンが摺動するシリンダボアと、前記ピストンの頂面に対向するシリンダヘッド内壁面が形成されるシリンダヘッド部と、前記シリンダボアまたは前記シリンダヘッド内壁面に開口する減圧開口と、該減圧開口に接続する減圧通路と、が形成されるシリンダブロックと、
大気と連通する大気開口と、該大気開口に接続する空気通路と、該空気通路と前記減圧通路とを連通させるとともに前記シリンダボア内の所定値以上の圧力を受けて連通を閉じる減圧弁とを有し、前記シリンダブロックに取付けられるデコンプ装置と、
前記減圧通路から前記減圧開口を経由して前記シリンダボア内に燃料を供給する、前記デコンプ装置と一体に構成された始動用燃料供給装置と、を備える、
ことを特徴とする。
【0007】
また、前記始動用燃料供給装置は、所定量の燃料を貯留する始動用燃料貯留室と、前記減圧通路と前記始動用燃料貯留室との連通を開閉する始動用燃料供給弁と、を備えてもよい。
【0008】
さらに、前記デコンプ装置は前記減圧弁の開操作を行う操作部材を備え、
前記始動用燃料供給弁は前記操作部材に接続され、前記操作部材による前記減圧弁の開操作時に前記始動用燃料供給弁が開き、前記操作部材の非操作時に前記始動用燃料供給弁が閉じる、ことが好ましい。
【0009】
また、前記デコンプ装置は、
略円筒形状を有し、前記シリンダブロックに取付けられる外筒部と、
該外筒部と略同軸に前記外筒部の内側に前記外筒部の軸方向に移動可能に支持され、開放された一方の端部が前記減圧通路に接続されて前記空気通路を形成する略中空円筒形状を有する内筒部と、
該内筒部と略同軸に前記内筒部の内側に前記内筒部の軸方向に移動可能に支持され、前記内筒部の前記一方の端部を開閉する前記減圧弁とを備え、
前記始動用燃料供給装置は、
前記外筒部の内側と前記内筒部の外側との間に形成された前記始動用燃料貯留室と、
前記内筒部の前記一方の端部近傍に、前記外筒部の前記減圧通路側の端部に当接し、前記内筒部が前記減圧通路側に移動すると前記始動用燃料貯留室と前記減圧通路とを連通する前記始動用燃料供給弁とを備えてもよい。
【0010】
さらに、前記外筒部には、前記始動用燃料貯留室に燃料を供給する燃料供給通路と、前記始動用燃料貯留室から流出する流れを許容する一方向弁を介して前記始動用燃料貯留室から燃料を排出する燃料排出通路とが接続されてもよい。
【0011】
また、前記燃料排出通路が、プライマリポンプに接続されることが好ましい。
【0012】
さらに、前記減圧開口は、前記シリンダボアの側壁に形成される排気開口より上死点側に開口することが好ましい。
【0013】
本発明の第2の観点にかかるエンジン作業機は、上述のエンジンを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明による作業機械によれば、デコンプ装置と始動用燃料供給装置とが一体に構成されるので、始動時のデコンプ操作と始動用燃料を供給する操作を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態にかかるエンジンを搭載した刈払機の後方側面図。
【図2】図1のエンジン部分を拡大した断面図。
【図3】図2のIII−III線断面図。
【図4】図3のデコンプ装置部分を拡大した断面図。
【図5】図3のデコンプ装置の操作ボタンを押込んだ状態を示すデコンプ装置部分の拡大断面図。
【図6】図5の状態からデコンプ装置の操作ボタンを離した状態を示すデコンプ装置部分の拡大断面図。
【図7】本発明の実施形態にかかるエンジンを搭載したチェンソーの斜視図。
【図8】図1の刈払機の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、添付の図1乃至図8に沿って説明する。図8に示すように、2サイクルエンジン1(以下エンジン)を搭載した刈払機1001は、エンジン1(図1、図2を参照)を収容したエンジンケース1002と、エンジンケース1002から突出する先端に回転刃1010が取付けられた操作桿1011と、エンジン1を始動するためのスタータハンドル1003を備える。エンジン1の出力は、操作桿内に挿通させたドライブシャフトを介して回転刃に供給される。操作者は操作桿1011に取り付けられたハンドル1012を把持して刈払機1001を操作する。また、図1に示すように、始動用の補助燃料を供給するための操作ボタン45と燃料タンク29から燃料を吸引して気化器(図示せず)に燃料を供給するプライマリポンプの操作部35がエンジンケース1002から突出して設けられている。
【0017】
図2に示すように、エンジン1のシリンダブロック3にはクランクケース4が取り付けられる。シリンダブロック3のシリンダボア5内では、ピストン6がシリンダボア5の軸線7方向に上下(図2中の上下)に摺動する。なお、図2では、ピストン6は下死点に位置している。シリンダボア5上方のピストン6の頂面63に対向するシリンダヘッド部分64のシリンダヘッド内壁面65には点火プラグ8が取り付けられる。また、シリンダボア5は、下方でクランクケース4内のクランク室9に接続される。ピストン6はピストンピン10、コンロッド11を介してクランクケース4に回転可能に支持されたクランク軸12に接続される。クランク軸12にはクランクウエイト13が取り付けられる。
【0018】
シリンダボア5の内周壁には排気ポート14に接続する排気開口15と、吸気ポート16に接続する吸気開口17と、掃気通路(図示せず)に接続する掃気開口(図示せず)が開口する。シリンダブロック3には排気ポート14と連通するようにマフラ18が接続される。また、シリンダブロック3には吸気ポート16と連通する吸気通路22が形成されたインシュレータ19が接続され、インシュレータ19にはエアクリーナ20に繋がる気化器21が接続される。また、シリンダブロック3には、所定量の始動用の燃料をシリンダボア5内に供給するとともにピストン6の上昇時にシリンダボア5内の圧力を逃がす図2中に点線で示したデコンプ装置(始動用燃料供給装置)24が取付けられる。デコンプ装置24の外周壁の上部(図2における上部)には、気化器21の燃料貯留部25からオーバーフローした燃料を排出する第1燃料通路(燃料供給通路)26が接続されるとともに、第2燃料通路(燃料排出通路)27が接続される。また、気化器21の燃料貯留部25には第3燃料通路28の一端が接続され、第3燃料通路28の他端は燃料タンク29内の燃料吸入口30に接続する。さらに、デコンプ装置24に接続された第2燃料通路27は、プライマリポンプ31の燃料吸引口32に接続される。プライマリポンプ31の燃料排出口33には燃料タンク29に接続された第4燃料通路(リターン通路)34が接続される。なお、プライマリポンプ31には、圧縮変形と弾性復元を繰り返すことで燃料吸引口32から燃料を内部に吸引する一方で内部に吸引した燃料を燃料排出口33から排出する弾性変形可能な透光性の操作部35が設けられる。
【0019】
図3に示すように、シリンダボア5の排気開口15(図2参照)より上死点側には減圧開口40が形成され、シリンダブロック3には減圧開口40からシリンダボア5の軸線7と垂直に延びる減圧通路41が形成される。デコンプ装置24は、シリンダブロック3の減圧通路41に挿入して取付けられる略円筒形状を有する外筒部42と、外筒部42と略同軸に外筒部42の内側に外筒部42の軸方向に移動可能に支持される略円筒形状を有する内筒部43と、内筒部43と略同軸に内筒部43の内側に内筒部43の軸方向に移動可能に支持される減圧弁44と、減圧弁44に取付けられた操作ボタン(操作部材)45とを備える。外筒部42の円筒状の側壁の内側と内筒部43の円筒状の側壁の外側との間には所定量の始動用の燃料を貯留する始動用燃料貯留室46が形成される。なお、始動用燃料貯留室46に貯留される燃料の量は、エンジン1の排気量や使用環境等に応じて、始動用燃料貯留室46の内部形状を外筒部42の軸方向の寸法や径および内筒部43の寸法や径を変更することにより適宜変更することができる。外筒部42の円筒状の側壁には側壁を貫通して始動用燃料貯留室46と内側で連通する燃料流入孔47と燃料流出孔48とが形成され、燃料流入孔47の外側の端部には第1燃料通路26が接続し、燃料流出孔48の外側の端部には第2燃料通路27が接続する。なお、燃料流出孔48と第2燃料通路27との間には、燃料流出孔48から第2燃料通路27への燃料の流れを許容する一方向弁62が設けられる。また、内筒部43の円筒状の側壁の内側と減圧弁44の外周壁との間には空気室(空気通路)49が形成される。内筒部43の側壁と外筒部42の側壁とが重なる部分であって、始動用燃料貯留室46より操作ボタン45側の内筒部43の円筒状の側壁には、側壁を貫通して空気室49と連通する第1大気開口50が形成される。また、外筒部42には、内筒部43が最もシリンダボア5から離れた状態(図3の状態)において、内筒部43の第1大気開口50と重なる位置に、外筒部42の側壁を貫通して外部(大気)と連通する第2大気開口51が形成される。第1大気開口50と第2大気開口51とが重なった状態において、空気室49は第1大気開口50と第2大気開口51とを介して大気と連通して減圧通路を構成し、第1大気開口50と第2大気開口51は大気開口を構成する。
【0020】
図4に示すように、外筒部42のシリンダボア5から離れた側の端部と内筒部43の円筒状の側壁から外側に突出するストッパ52との間には、内筒部43の円筒状の側壁に沿って巻き回されて、内筒部43をシリンダボア5から離れる方向に付勢する第1コイルバネ53が設けられる。また、内筒部43のシリンダボア5から離れた側の端部には両端に比べて中央部分が拡径した鼓状の突出部54が形成され、突出部54の端部55と減圧弁44に取付けられた操作ボタン45との間には、減圧弁44の円柱状の側壁に沿って巻き回されて、減圧弁44をシリンダボア5から離れる方向に付勢する第2コイルバネ56が設けられる。内筒部43の減圧開口40に対向する側の端部(減圧通路41側の端部)には、円筒状の側壁の外径が外筒部42の内径を越えるように拡がる拡径部(始動用燃料供給弁)57が形成される。図3、図4に示すように、第1コイルバネ53の付勢力により内筒部43が最もシリンダボア5から離れた状態では、拡径部57は外筒部42の減圧通路41側の端部58と当接して始動用燃料貯留室46と減圧通路41とが遮断された状態にする。また、減圧弁44の減圧開口40に対向する側の端部(減圧通路41側の端部)には、減圧開口40に向かうにつれて径が拡大し、最端部において拡径部57の内径より大きい外径となる円錐状の開閉部59が形成される。第2コイルバネ56の付勢力により減圧弁44が最もシリンダボア5から離れた状態では、開閉部59は内筒部43の拡径部57(拡径部57の内側の端部)と当接して空気室49と減圧通路41とが遮断された状態にする。また、操作ボタン45からシリンダボア5側に延びる延長部60の内側には内筒部43の突出部54に向かって延びるワッシャ61が設けられる。ワッシャ61は突出部54の外側面に当接し、減圧弁44の軸方向に所定以上の力が生じるとワッシャ61は突出部54の鼓状の外側面の最大拡径部分を乗り越えて軸方向への移動を許容する。しかし、軸方向の力が所定より小さい場合には、ワッシャ61が突出部54の最大拡径部分を乗り越えることが無く、ワッシャ61は減圧弁44の軸方向の移動を規制する。なお、ワッシャ61が突出部54の最大拡径部分を乗り越えるには、第2コイルバネ56の付勢力より大きい力が必要となる。
【0021】
操作ボタン45をシリンダボア5の方向に、第1コイルバネ53の付勢力と第2コイルバネ56の付勢力にそれぞれ抗するとともに、ワッシャ61が突出部54の最大拡径部分を乗り越えるように押し込むと、減圧弁44がシリンダボア5側に移動してワッシャ61が突出部54の最大拡径部分を乗り越える。そして、操作ボタン45の延長部60のシリンダボア5側の端部が内筒部43に当接し、減圧弁44が内筒部43とともに、シリンダボア5側に、第2コイルバネ56が最も縮んだ状態になるまで移動する。この状態、つまり図5に示すように、減圧弁44と内筒部43が最もシリンダボア5側に移動した状態においては、外筒部42の第2大気開口51、燃料流入孔47、および燃料流出孔48はそれぞれ内筒部43の円筒状の側壁により閉鎖される。また、内筒部43の第1大気開口50は外筒部42の内側の側壁により閉鎖される。そして、内筒部43の拡径部57が外筒部42の減圧通路41側の端部58より減圧開口40側に移動して始動用燃料貯留室46が減圧通路41と連通するとともに、減圧弁44の開閉部59が内筒部43の拡径部57の減圧通路41側の端部58より減圧開口40側に移動して空気室49が減圧通路41と連通する。そして、図5中に矢印で示すように、始動用燃料貯留室46内の燃料が減圧通路41から減圧開口40を通ってシリンダボア5内に流入する。
【0022】
図5で示した状態から操作ボタン45を離すと、図6に示すように、操作ボタン45の延長部60のシリンダボア5側の端部が内筒部43に当接し、減圧弁44がシリンダボア5側に移動した状態で、内筒部43は第1コイルバネ53の付勢力によりシリンダボア5から離れる方向に移動する。この状態では、外筒部42の第2大気開口51と内筒部43の第1大気開口50とが重なり合うとともに、燃料流入孔47および燃料流出孔48はそれぞれ始動用燃料貯留室46と連通する。また、内筒部43の拡径部57が外筒部42の減圧通路41側の端部58と当接して、始動用燃料貯留室46と減圧通路41の連通を遮断する。しかし、減圧弁44の開閉部59は内筒部43の拡径部57の減圧通路41側の端部58より減圧開口40側に移動して空気室49が減圧通路41と連通した状態に保たれる。そして、シリンダボア5は減圧開口40、減圧通路41、空気室49、第1大気開口50、および第2大気開口51を通じて外部(大気)と連通する。なお、シリンダボア5内の圧力が上昇すると、図6中に矢印で示すように、シリンダボア5内の気体が第2大気開口51から外部に排出され、シリンダボア5内の圧力の上昇を逃がす。また、シリンダボア5内の圧力が上昇して所定圧力を超えると、減圧弁44の開閉部59が減圧開口40から離れる方向(図の左方)に力を受けてワッシャ61が突出部54の最大拡径部分を乗り越えるように減圧弁44を左側に移動させる。この減圧弁44の移動により、空気室49と減圧通路41との連通は自動的に遮断される。
【0023】
このように構成されたエンジン1によれば、作業者がエンジン1を始動する際には、まずプライマリポンプ31の操作部35を押し込む操作を行い、燃料タンク29から燃料を吸引する。燃料タンク29の燃料吸入口30から吸引された燃料は、第3燃料通路28を通って気化器21の燃料貯留部25に流入する。そして、燃料貯留部25からオーバーフローした燃料は第1燃料通路26を通ってデコンプ装置24の燃料流入孔47から始動用燃料貯留室46に流入する。そして、始動用燃料貯留室46からオーバーフローした燃料は、燃料流出孔48から一方向弁62、第2燃料通路27を通り、プライマリポンプ31の燃料吸引口32から操作部35内に流入する。そして、操作部35からオーバーフローした燃料は燃料排出口33から第4燃料通路34を通って燃料タンク29に戻ることになる。なお、作業者は透光性の操作部35内に燃料が流入したことを確認できるまでプライマリポンプ31を操作する。そして、プライマリポンプ31の操作部35まで燃料が達したことを確認後、デコンプ装置24の操作ボタン45を操作ボタン45が移動しなくなるまで押し込む。この操作によってデコンプ装置24の始動用燃料貯留室46と減圧通路41とが連通し、始動用燃料貯留室46内にある所定量の燃料が減圧通路41を通ってシリンダボア5内に流入する。そして、作業者が操作ボタン45を離すと、第1コイルバネ53の付勢力により内筒部43は自動的にシリンダボア5から離れる方向に移動する。一方、減圧弁44は内筒部43に対してシリンダボア5側に移動した状態、つまり、減圧弁44の開閉部59は拡径部57の減圧通路41側の端部58より減圧開口40側に移動した状態に保たれて、空気室49と減圧通路41とが連通した状態が保たれる。そして、シリンダボア5は減圧開口40、減圧通路41、空気室49、第1大気開口50、および第2大気開口51を通じて外部(大気)と連通する。そして、作業者がスタータハンドル1003(図17参照)を引いてエンジン1を始動する際には、シリンダボア5内に減圧開口40から流入した燃料が存在する。このため、シリンダボア5内に燃料濃度の高い混合気を供給することが可能となり、エンジン1が始動し易くなる。一方、シリンダボア5は外部(大気)と連通しているので、スタータハンドル1003を引く力は軽減される。したがって、エンジン1の始動を容易に行うことができる。
【0024】
このように、デコンプ装置24はデコンプを行う機能と始動用の燃料供給を行う機能を一体に備えているので、シリンダブロック3に設けられたデコンプ用の孔を始動用の燃料供給とシリンダ内の圧縮力の低減の両方に共通に利用することができ、シリンダブロック3側の加工を最小限に抑えてコストを抑制することができる。また、デコンプを行う機能と始動用の燃料供給を行う2つの機能は、始動時のデコンプ操作だけで実現できるので、エンジン1の始動時に行う操作量が大幅に減り、エンジン1の始動時の操作が容易になり、操作性を大幅に向上することができる。また、デコンプ装置24により始動用の燃料を直接シリンダボア5内に供給するため、気化器21の吸気通路内に始動用燃料を供給する構成に比べて、供給する燃料の量を少なくすることができるので、デコンプ装置24の寸法の増大を抑制することができる。また、デコンプ装置24が透光性の操作部35を有するプライマリポンプ31の下流に設けられるので、透光性の操作部35に燃料が達していることを視認することでデコンプ装置24の始動用燃料貯留室46内に所定量の燃料が存在することを容易に把握することが可能となる。したがって、操作部35に燃料が達していることを視認した上で、操作ボタン45を操作することにより、始動用燃料貯留室46から所定量の燃料をシリンダボア5内に確実に送ることが可能となる。これにより、デコンプ装置24を用いたエンジン1の始動操作をより容易に行うことが可能となる。さらに、操作ボタン45を押した状態では、燃料流入孔47および燃料流出孔48が内筒部43により閉鎖される。したがって、シリンダボア5内に必要以上に燃料が供給されることがなく、適切な燃料濃度の高い混合気をシリンダボア5内に供給することが可能となり、点火プラグ8がかぶること等の問題の発生を抑制してエンジン1の始動を容易に行うことができる。また、始動用燃料貯留室46と減圧通路41とが連通した状態では第1大気開口50および第2大気開口51が閉鎖され、第1大気開口50および第2大気開口51が大気と連通する状態では始動用燃料貯留室46と減圧通路41は閉鎖されるので、始動用燃料が第2大気開口51から外部に流出することを防ぐこともできる。
【0025】
なお、減圧開口40が形成される位置は、排気開口15より上死点側のピストン上昇時にシリンダボア5内で圧力が上昇する位置であれば、上述の位置に限られるものではない。また、デコンプ装置24の取付け位置もシリンダブロック3の側部に限られるものではない。例えば、減圧開口40を、シリンダブロック3のピストン6の頂面63に対向するシリンダヘッド部分64のシリンダヘッド内壁面65に形成し、デコンプ装置24をシリンダヘッド部分64に取り付けてもよい。この場合には、刈払機1001を地面に置いた状態において、デコンプ装置24がシリンダボア5の上方に位置することになるので、上述の効果に加えて、重力を利用して所定量の燃料のシリンダボア5内への供給がより確実に可能となり、エンジン1の始動性をより向上させることができる。
【0026】
また、上述のエンジン1は2サイクルエンジンに限られるものでは無く、4サイクルエンジンであってもよい。また、上述の実施形態では、エンジン1は刈払機1001に搭載されているが、このエンジン1は刈払機1001への搭載に限られるものでは無く、刈払機、ブロワ、ヘッジトリマ、発電機等のエンジン作業機に搭載されていてもよい。例えば図7に示すように、エンジン1がチェンソー1101に搭載される場合、チェンソー1101は、エンジン1を収容したエンジンケース1102と、エンジンケース1102から突出してソーチェン1103を案内するガイドバー1104と、作業者が把持するフロントハンドル1105とリヤハンドル1106と、エンジン1を始動するためのスタータハンドル1003とを備える。エンジン1の出力は、リヤハンドル1106に設けられたスロットルレバー(図示せず)で制御され、周知の駆動機構を介してソーチェン1103に伝達される。また、エンジン1に設けられたデコンプ装置24を作動させるとともに始動用の補助燃料を供給するための操作ボタン45と燃料タンク29から燃料を吸引して気化器21に燃料を供給するプライマリポンプ31の操作部35がエンジンケース1102から突出して設けられる。
【符号の説明】
【0027】
1 エンジン
3 シリンダブロック
5 シリンダボア
7 シリンダボアの軸線
14 排気通路
15 排気開口
21 気化器
24 デコンプ装置
26 第1燃料通路
27 第2燃料通路
29 燃料タンク
31 プライマリポンプ
40 減圧開口
41 減圧通路
42 外筒部
43 内筒部
44 減圧弁
45 操作ボタン
46 始動用燃料貯留室
47 燃料流入孔
48 燃料流出孔
49 空気室
50 第1大気開口
51 第2大気開口
52 ストッパ
53 第1コイルバネ
54 突出部
56 第2コイルバネ
57 拡径部
59 開閉部
65 シリンダヘッド内壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンが摺動するシリンダボアと、前記ピストンの頂面に対向するシリンダヘッド内壁面が形成されるシリンダヘッド部と、前記シリンダボアまたは前記シリンダヘッド内壁面に開口する減圧開口と、該減圧開口に接続する減圧通路と、が形成されるシリンダブロックと、
大気と連通する大気開口と、該大気開口に接続する空気通路と、該空気通路と前記減圧通路とを連通させるとともに前記シリンダボア内の所定値以上の圧力を受けて連通を閉じる減圧弁とを有し、前記シリンダブロックに取付けられるデコンプ装置と、
前記減圧通路から前記減圧開口を経由して前記シリンダボア内に燃料を供給する、前記デコンプ装置と一体に構成された始動用燃料供給装置と、を備える、
ことを特徴とするエンジン。
【請求項2】
前記始動用燃料供給装置は、所定量の燃料を貯留する始動用燃料貯留室と、前記減圧通路と前記始動用燃料貯留室との連通を開閉する始動用燃料供給弁と、を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記デコンプ装置は前記減圧弁の開操作を行う操作部材を備え、
前記始動用燃料供給弁は前記操作部材に接続され、前記操作部材による前記減圧弁の開操作時に前記始動用燃料供給弁が開き、前記操作部材の非操作時に前記始動用燃料供給弁が閉じる、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記デコンプ装置は、
略円筒形状を有し、前記シリンダブロックに取付けられる外筒部と、
該外筒部と略同軸に前記外筒部の内側に前記外筒部の軸方向に移動可能に支持され、開放された一方の端部が前記減圧通路に接続されて前記空気通路を形成する略中空円筒形状を有する内筒部と、
該内筒部と略同軸に前記内筒部の内側に前記内筒部の軸方向に移動可能に支持され、前記内筒部の前記一方の端部を開閉する前記減圧弁とを備え、
前記始動用燃料供給装置は、
前記外筒部の内側と前記内筒部の外側との間に形成された前記始動用燃料貯留室と、
前記内筒部の前記一方の端部近傍に、前記外筒部の前記減圧通路側の端部に当接し、前記内筒部が前記減圧通路側に移動すると前記始動用燃料貯留室と前記減圧通路とを連通する前記始動用燃料供給弁とを備える、
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載のエンジン。
【請求項5】
前記外筒部には、前記始動用燃料貯留室に燃料を供給する燃料供給通路と、前記始動用燃料貯留室から流出する流れを許容する一方向弁を介して前記始動用燃料貯留室から燃料を排出する燃料排出通路とが接続される、
ことを特徴とする請求項4に記載のエンジン。
【請求項6】
前記燃料排出通路が、プライマリポンプに接続される、
ことを特徴とする請求項5に記載のエンジン。
【請求項7】
前記減圧開口は、前記シリンダボアの側壁に形成される排気開口より上死点側に開口する、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のエンジン。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のエンジンを備えるエンジン作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−236742(P2011−236742A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105913(P2010−105913)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】