説明

エンジンにおけるポンプ駆動装置

【課題】カム軸のジャーナル部の有効支持面を何ら減じることなく,カム軸からポンプ軸に大なる駆動トルクの伝達を可能にする,エンジンにおけるポンプ駆動装置を提供する。
【解決手段】エンジン本体11に取り付けられるポンプ21のポンプ軸32を,エンジン本体11に支持される動弁用カム軸20により駆動するようにした,エンジンにおけるポンプ駆動装置において,カム軸20の一端部に,角孔23c付きの頭部23aを持ったボルト23を螺着する一方,ポンプ軸32の一端部に,上記角孔23cに嵌合する角軸部32aを形成し,これら角孔23c及び角軸部32aを介してカム軸20からポンプ軸32を駆動するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,エンジン本体に取り付けられるポンプのポンプ軸を,エンジン本体に支持される動弁用カム軸により駆動するようにした,エンジンにおけるポンプ駆動装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝるエンジンにおけるポンプ駆動装置は,特許文献1に開示されているように既に知られている。
【特許文献1】実公昭56−27367号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで,従来のかゝるポンプ駆動装置では,カム軸の,エンジン本体の軸受孔に支承されるジャーナル部に,それを横断する駆動ピンを取り付け,この駆動ピンに係合する切欠き溝をポンプのポンプ軸に形成し,これら駆動ピン及び切欠き溝を介して,カム軸の回転をポンプ軸に伝達するようにしているが,カム軸の上記ジャーナル部には,その有効支持面積を極力広く確保するために,駆動ピンの装着孔を大きく形成することができず,したがって大径の駆動ピンの使用が困難であり,したがって負荷が大きい大型のポンプの駆動には不向きである。
【0004】
本発明は,かゝる点に鑑みてなされたもので,カム軸のジャーナル部の有効支持面を何ら減じることなく,カム軸からポンプ軸に大なる駆動トルクの伝達を可能にする,前記エンジンにおけるポンプ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために,本発明は,エンジン本体に取り付けられるポンプのポンプ軸を,エンジン本体に支持される動弁用カム軸により駆動するようにした,エンジンにおけるポンプ駆動装置において,前記カム軸の一端部に,角孔を有する駆動部材を固設する一方,前記ポンプ軸の一端部に,前記角孔に嵌合する角軸部を形成したことを第1の特徴とする。
【0006】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記駆動部材を,前記カム軸に螺着されるボルトで構成し,このボルトの頭部に形成されるレンチ嵌合孔により前記角孔を構成したことを第2の特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の第1の特徴によれば,カム軸の一端部に,角孔を有する駆動部材を固設する一方,前記ポンプ軸の一端部に,前記角孔に嵌合する角軸部を形成し,これら角孔及び角軸部を介してカム軸からポンプ軸に駆動トルクを伝達するようにしたので,カム軸のジャーナル部の有効支持面を何ら減じることなく,カム軸からポンプ軸を大なる駆動トルクをもって駆動することができ,しかも角孔及び各軸部の嵌合面積は広いので,これら嵌合部の耐久性の向上を図ることができる。
【0008】
本発明の第2の特徴によれば,ポンプ軸を駆動する駆動部材として,レンチ孔を頭部に持つボルトを用いると共に,そのレンチ孔を前記角孔に兼用することで,,ポンプ駆動装置の構造の簡素化を図り,該装置を安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施の形態を,図面に示す本発明の好適な実施例に基づき以下に説明する。
【0010】
図1は本発明のポンプ駆動装置を備える船外機の側面図,図2は図1の2部(ポンプ駆動装置部)の拡大断面図,図3は図2の3−3線断面図,図4は図2の要部の分解斜視図,図5は図2の5−5線断面図,図6は図2の6−6線断面図である。
【0011】
先ず,図1において,船外機Oのケーシング1の直前には,これにアッパアーム2及びロアアーム3を介して取り付けられる鉛直方向のスイベル軸4が配設され,このスイベル軸4を回転自在に支持するスイベルケース5は,船体のトランサムBtにクランプされるスターンブラケット6に水平方向のチルト軸7を介して連結される。したがって,ケーシング1は,スイベル軸4周りに左右操向が可能であり,またチルト軸7周りに上下チルトが可能である。このケーシング1の上部には,着脱可能のエンジンフード8で覆われる水冷4ストローク式のエンジンEが搭載される。
【0012】
このエンジンEは,縦置きのクランク軸10をスイベル軸5に近接させると共にシリンダヘッド11を後方に向けて搭載される。ケーシング1内には,クランク軸10による駆動される縦置きの出力軸12,この出力軸12から前後進切換ギヤ装置13を介して駆動される水平配置のプロペラ軸14とが配設され,プロペラ軸14の,ケーシング1から突出した後端部にプロペラ15が装着する。さらにケーシング1内には,エンジンEの潤滑のためのオイルを貯留するオイルタンク9が配設される。
【0013】
エンジンEのシリンダヘッド11には,クランク軸10から調時伝動装置19を介して1/2の減速比で駆動される動弁用のカム軸20がクランク軸10と平行する姿勢で支承されており,このカム軸20により駆動されるオイルポンプ21がシリンダヘッド11の下部に取り付けられる。このオイルポンプ21は,上記オイルタンク9内のオイルを吸い上げてエンジンEの潤滑部に供給するものである。
【0014】
このオイルポンプ21及びその駆動装置について,図2〜図6を参照しながら説明する。
【0015】
図2〜図4において,前記カム軸20の下端には,外周面の所定位置に複数の突起22a,22a…を形成したパルサロータ22がボルト23により次のようにして固着される。パルサロータ22には,その中心部に取り付け孔22bが,またその上面に取り付け孔22bと同心の位置決め凹部22cが設けられ,位置決め凹部22cの内周面からキー22dが一体に突設される。一方,カム軸20の下端面には,それと同心のボス20aが一体に突設され,このボス20aには,その中心部にねじ孔20bが,またその外周面にキー溝20cが設けられる。ボルト23の頭部23aには,その下端面の中心部に開口する,レンチ嵌合用の角孔,望ましくは六角孔23cが設けられる。
【0016】
パルサロータ22のカム軸20への固着に当たっては,パルサロータ22の位置決め凹部22cをカム軸20のボス20a部に,またキー溝20cにキー22dをそれぞれ嵌合し,取り付け孔22bに挿通したボルト23のねじ軸部23bをねじ孔20bに螺合,緊締する。このボルト23の螺合作業は,その頭部23aの六角孔23cに嵌合されるレンチにより行われる。
【0017】
シリンダヘッド11には,上記パルサロータ22の外周面に対向するパルサコイル25(図3参照)がボルト26により固着される。このパルサコイル25は,その直前をパルサロータ22外周の各突起22aが通過する度に(即ち,所定のクランク位置もしくはピストン位置で)パルス信号を発生するもので,そのパルサ信号は,エンジンEの各種制御機器,例えば点火装置,燃料噴射装置等の作動に利用される。
【0018】
図2,図5及び図6において,シリンダヘッド11の下部には,カム軸20から上記ボルト23を介して駆動されるオイルポンプ21が取り付けられる。このオイルポンプ21は,シリンダヘッド11の下端面に複数のボルト27,27…により固着されるポンプハウジング28を有する。このポンプハウジング28には,位置決め円筒部28aと,この位置決め円筒部28aと同軸上に並ぶ軸受孔28bと,この軸受孔28bに対して一定距離偏心した円形のポンプ室28cとが設けられており,その位置決め円筒部28aは,シリンダヘッド11の下面に開口する,カム軸20と同軸の位置決め孔11aに嵌合される。したがって,その嵌合状態では,軸受孔28bもカム軸20と同軸上に並ぶことになる。また位置決め孔11aは,カム軸20の下端部外周に形成されるフランジ20dが当接する肩部11bを有しており,位置決め円筒部28aは,その肩部11bと協働してフランジ20d即ちカム軸20の軸方向移動を規制する役割をも果たす。
【0019】
ポンプ室28cには,アウタロータ30が回転自在に嵌合され,このアウタロータ30の内側に,それと一側部で噛合するインナロータ31が配置され,このインナロータ31の軸孔31aに嵌合してそれを駆動するポンプ軸32が軸受孔28bに回転自在に支承される。
【0020】
このポンプ軸32の一端部には,前記ボルト23の頭部23aの六角孔23cに嵌合する六角軸部32aが一体に形成され,またその他端部には,インナロータ31の軸孔31aに開口する切欠き状のキー溝31bに係合するピン状のキー33(図4参照)が設けられる。こうしてポンプ軸32は,ボルト23を介してカム軸20に連結されると共にキー33を介してインナロータ31に連結される。
【0021】
ポンプハウジング28の下面には,ポンプ室28cを閉鎖するポンプカバー34が複数のボルト35,35…で接合される。また前記ボルト23の,カム軸20に螺合するねじ軸部23bは,カム軸20の回転時,オイルポンプ21の負荷が該ボルト23に締めつけ方向のトルクとして作用するように形成される。こうしてオイルポンプ21はトロコイド型に構成される。
【0022】
図5及び図6に示すように,ポンプハウジング28には吸入ポート36及び吐出ポート37が設けられ,その吸入ポート36に前記オイルタンク9内の貯留オイル中に浸漬される吸込み管38(図1参照)が接続され,吐出ポート37には,エンジンEの潤滑部に連なる潤滑油路(図示せず)が接続される。したがって,オイルポンプ21は,インナロータ31及びアウタロータ30の協働により吸入ポート36を通してオイルタンク9内のオイルを吸い上げ,そのオイルを吐出ポート37を通してエンジンEの潤滑部に供給することができる。尚,図5中,符号39はリリーフ弁を示す。
【0023】
次に,この実施例の作用について説明する。
【0024】
エンジンEの運転中,動弁用のカム軸20の回転は,このカム軸20の下端部にボルト23で固着されているパルサロータ22に伝達されると共に,ボルト23の頭部23aの六角孔23cに六角軸部32aを嵌合したポンプ軸32にも伝達され,それらを回転駆動する。而して,パルサロータ22の回転によれば,パルサコイル25が,前述のように所定のクランク位置もしくはピストン位置で各種制御装置の作動のためのパルス信号を発生し,またポンプ軸32の回転によれば,前述のようにインナロータ31及びアウタロータ30の協働によりオイルタンク9のオイルを吸い上げ,それをエンジンEの潤滑部に供給する。
【0025】
このように,カム軸20の端部に螺着されるボルト23の六角孔23cと,それに嵌合するポンプ軸32の六角軸部32aとを介してカム軸20からポンプ軸32に駆動トルクが伝達されるので,カム軸20のジャーナル部の有効支持面を何ら減じることなく,カム軸20からポンプ軸32を大なる駆動トルクをもって駆動することができ,しかも六角孔23c及び六角軸部の嵌合面積は広いので,これら嵌合部の面圧を低く抑えて,嵌合部の耐久性の向上を図ることができる。
【0026】
しかも,上記ボルト23は,カム軸20の端部にパルサロータ22を固着する固着部材を兼ねるので,パルサロータ22を備えるエンジンEでは,全体としては部品点数が削減され,構造の簡素化,延いてはコストの低減を図ることができる。
【0027】
またボルト23の頭部23aの六角孔23cは,このボルト23のカム軸20への螺着作業に使用するレンチの嵌合孔で構成されるので,ボルト23に,ポンプ軸32の六角軸部32aを専ら嵌合するための六角孔23cをボルト23に形成する必要がなく,ポンプ駆動装置の構造の簡素化を一層図ることができる。
【0028】
またボルト23の,カム軸20に螺合するねじ軸部23bは,カム軸20の回転時,オイルポンプ21の負荷が該ボルト23に締めつけ方向のトルクとして作用するように形成されているから,オイルポンプ21の駆動中,上記ボルト23には常に締めつけ方向のトルクが働くことになり,このボルト23の緩みを防ぐことができる。
【0029】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,本発明のポンプ駆動装置は,ウォータポンプの駆動に適用することもできる。また本発明は,パルサロータ22を具備しないエンジンにも適用が可能であり,その場合,ボルト23は,専らポンプ軸32の駆動部材としてカム軸20の端面に螺着される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のポンプ駆動装置を備える船外機の側面図。
【図2】図1の2部(ポンプ駆動装置部)の拡大断面図。
【図3】図2の3−3線断面図。
【図4】図2の要部の分解斜視図。
【図5】図2の5−5線断面図。
【図6】図2の6−6線断面図。
【符号の説明】
【0031】
E・・・・・・エンジン
11・・・・・エンジン本体(シリンダヘッド)
20・・・・・カム軸
21・・・・・ポンプ(オイルポンプ)
23・・・・・ボルト
23a・・・・頭部
23c・・・・角孔(六角孔)
32・・・・・ポンプ軸
32a・・・・角軸部(六角軸部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン本体(11)に取り付けられるポンプ(21)のポンプ軸(32)を,エンジン本体(11)に支持される動弁用カム軸(20)により駆動するようにした,エンジンにおけるポンプ駆動装置において,
前記カム軸(20)の一端部に,角孔(23c)を有する駆動部材(23)を固設する一方,前記ポンプ軸(32)の一端部に,前記角孔(23c)に嵌合する角軸部(32a)を形成したことを特徴とする,エンジンにおけるポンプ駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載のエンジンにおけるポンプ駆動装置において,
前記駆動部材を,前記カム軸(20)に螺着されるボルト(23)で構成し,このボルト(23)の頭部(23a)に形成されるレンチ嵌合孔(23c)により前記角孔を構成したことを特徴とする,エンジンにおけるポンプ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−321574(P2007−321574A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−149614(P2006−149614)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】