説明

エンジンの制御装置

【課題】倍周クロック出力手段でカム角信号・クランク角信号の精度を高め、パルス発生パターンの汎用性を高める。
【解決手段】クランク角検出手段から、パルス間の時間間隔を所定値で等分割してクランク倍周クロックを算出し、クロック周期毎にカウントアップするクランク角度カウンタを生成し、クランク角検出手段から歯欠け部を示すパルスが到来したとき、前記クランク角度カウンタを初期化し、カム角検出手段からパルス到来毎に、パルス間の時間間隔を所定値で等分割してカム倍周クロックを算出し、周期毎にカウントアップするカム角度カウンタを生成し、カム角検出手段から歯欠け部を示すパルスが到来したとき、前記カム角度カウンタを初期化し、前記クランク角信号が異常であると判定された場合は、前記クランク角度カウンタを用いたエンジン制御を禁止又は停止して、前記カム角度カウンタを用いてエンジン制御を行う手段、とを具備して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク角信号が異常であると判定された場合に、クランク角信号に基づくエンジン制御を禁止又は停止して、カム角信号に基づいてエンジン制御を行うエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載されるエンジン(内燃機関)においては、燃料噴射制御や点火時期制御等を行うため、通常、マイクロコンピュータを内蔵するECU(エンジンコントロールユニット)が備えられており、このECUによりエンジン運転状態に応じた適正な燃料噴射開始終了時期や点火時期(タイミング)を高精度に得ることでき、それによって燃焼性や燃費の向上、排気エミッション特性の改善等が図られ、信頼性の高い車両システムが実現されている。
【0003】
燃料噴射開始時期や点火時期を高精度に得るためには、エンジン(クランク軸)の回転位置を高精度に検出しなければならない。現在、その回転位置を検出するため、クランク軸とカム軸のそれぞれにクランク角センサ、カム角センサを配備している。クランク角センサは、通常、クランク軸と一体に回転せしめられるクランク信号板及び該クランク信号板の外周に近接配置されたクランク角信号発生器を有し、クランク信号板の外周に、所定角度間隔をあけて多数の歯、突起、孔等の被検知部が設けられるとともに、該被検知部の少なくとも一つが除去ないし無効化されてなる歯欠け部が設けられ、前記クランク角信号発生器は、前記被検知部が通過する度にクランク角信号としてパルスを出力するようにされている。カム角センサも同様な構成である。
【0004】
ところが、これらのセンサからの信号が異常であると、エンジンの回転位置が正確に把握できないため、燃費や排気エミッション特性が悪化するのみでなく、エンジンが停止するおそれがある。
【0005】
そのため、これらの信号の異常時には、エンジンの停止を防ぐフェールセーフ制御が一般に採用されている。このフェールセーフ制御について、特にクランク軸の回転位置を検出するクランク角センサからのクランク角信号の異常時対策について、下記特許文献1、2に所載の技術がある。
【0006】
特許文献1に所載の技術は、カム角センサからのカム角信号を用いて、模擬クランク角信号を生成し、その模擬クランク角信号により前記回転位置を把握してエンジンを制御し、エンジンの停止を防ぐものである。
【0007】
特許文献2に所載の技術は、クランク・カム角信号出力部を共用し、クランク角信号の正常・異常で出力が切り換えられるように構成することで、より少ないソフトウェア及びハードウェアの追加で模擬クランク角信号を生成するものである。
【0008】
この特許文献2に所載の技術では、クランク角信号出力に使用されている逓倍クロック出力手段をカム角信号にも適用し、カム角信号においても信号精度を高めつつも、ROM使用量やソフトウェアの開発工数も低減可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7-310582号公報
【特許文献2】特開2009-293628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に所載の技術は、カム角信号から生成される角度カウンタ(以下カム角度カウンタと呼ぶ)とクランク角信号から生成される角度カウンタ(以下クランク角度カウンタと呼ぶ)を全く同一にして、ハードウェア・ソフトウェアの追加を最小限にしている。
【0011】
しかしながら、前記カム角度カウンタと前記クランク角度カウンタを全く同一に生成するには、前記カム角度カウンタと前記クランク角度カウンタの初期化タイミングを揃える必要がある。
【0012】
初期化タイミングは、信号板の歯(被検出部)の間隔により検出している。例えば、歯が10°CA毎に規則的に並んでいる中に、30°CA分の歯欠け部を設けることにより、センサから歯欠け部を示すパルスが到来したときと他のパルスが到来したときとを識別することができ、これによって、センサから歯欠け部を示すパルスが到来したときを初期化タイミングと設定することができる。
【0013】
よって、前記初期化タイミングを揃えるには、カム角信号・クランク角信号の歯欠け部を揃える必要があり、パルス発生パターンに制約が付く。
【0014】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、逓倍クロック出力手段を用いてカム角信号・クランク角信号の精度を高めつつも、パルス発生パターンの汎用性を高めることのできるエンジンの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成すべく、本発明に係るエンジンの制御装置は、クランク軸と一体に回転せしめられるクランク信号板及び該クランク信号板の外周に近接配置されたクランク角信号発生器を有し、前記クランク信号板の外周に、所定角度間隔をあけて多数の歯、突起、孔等の被検知部が設けられるとともに、該被検知部の少なくとも一つが除去ないし無効化されてなる歯欠け部が設けられ、前記クランク角信号発生器は、前記被検知部が通過する度にクランク角信号としてパルスを出力するようにされてなるクランク角検出手段と、前記クランク角検出手段から前記パルス到来毎に、パルス間の時間間隔を所定値で等分割してクランク倍周クロックを算出し、該クランク倍周クロック周期毎にカウントアップするクランク角度カウンタを生成するとともに、前記クランク角検出手段から前記歯欠け部を示すパルスが到来したとき、前記クランク角度カウンタを初期化する手段と、カム軸と一体に回転せしめられるカム信号板及び該カム信号板の外周に近接配置されたカム角信号発生器を有し、前記カム信号板の外周に、所定角度間隔をあけて多数の歯、突起、孔等の被検知部が設けられるとともに、該被検知部の少なくとも一つが除去ないし無効化されてなる歯欠け部が設けられ、前記カム角信号発生器は、前記被検知部が通過する度にカム角信号としてパルスを出力するようにされてなるカム角検出手段と、前記カム角検出手段から前記パルス到来毎に、パルス間の時間間隔を所定値で等分割してカム倍周クロックを算出し、該カム倍周クロック周期毎にカウントアップするカム角度カウンタを生成するとともに、前記カム角検出手段から前記歯欠け部を示すパルスが到来したとき、前記カム角度カウンタを初期化する手段と、前記クランク角検出手段からのクランク角信号が異常であるか否かを判定する手段と、前記クランク角信号が正常であるときは、前記クランク角度カウンタを用いてエンジン制御を行い、前記クランク角信号が異常であると判定された場合は、前記クランク角度カウンタを用いたエンジン制御を禁止又は停止して、前記カム角度カウンタを用いてエンジン制御を行う手段、とを具備して構成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る制御装置によれば、カム角信号から生成されるカム角度カウンタとクランク角信号から生成されるクランク角度カウンタは、異なる信号源・異なる算出方法よりそれぞれ生成される。そのため、カム角信号・クランク角信号のパルス発生パターンの汎用性を従来よりも高めることができる。
【0017】
したがって、カム角信号・クランク角信号の精度を高めつつも、パルス発生パターンの汎用性を高められるため、カム角信号パターンとクランク角信号パターンに制約が生じず、そのため、例えば従来のカム角信号板とクランク信号板の流用が可能となる。その場合、信号板のパターンを変更する必要が無く、信号板のハードウェア変更のみならず、関連するソフトウェアの変更も不要となり、開発工数の低減が可能である。
【0018】
上記した以外の、課題、構成、及び効果は、以下の実施形態により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】発明に係る制御装置の一実施例を、それが適用されたガソリンエンジンと共に示す概略構成図。
【図2】クランク角信号異常時におけるフェールセーフ制御の説明に供されるフローチャート。
【図3】クランク角信号異常時におけるフェールセーフ制御の説明に供される機能ブロック図。
【図4】クランク角度カウンタ生成の説明に供されるタイムチャート。
【図5】カム角度カウンタ生成の説明に供されるタイムチャート。
【図6】クランク角信号正常時の説明に供されるタイムチャート。
【図7】クランク角信号正常時から異常時へ遷移した際の説明に供されるタイムチャート。
【図8】クランク角信号分割数算出の説明に供される図表。
【図9】カム角信号分割数算出の説明に供される図表。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る制御装置の一実施例を、それが適用された直列4気筒の筒内噴射式ガソリンエンジン1と共に示す概略構成図である。本実施例の制御装置は、その主要部としてマイクロコンピュータを内蔵するエンジンコントロールユニット(以下ECUと称す)6を備え、このECU6によりエンジン1の燃料噴射制御(燃料噴射量や噴射開始終了時期の制御)や点火時期制御等を行うようになっている。
【0022】
図示エンジン1において、吸入空気は、その運転状態検出手段の一つである空気流量計(エアフロセンサ)9を通り、吸入空気流量を調節するスロットル弁10を通ってコレクタ11に入る。前記空気流量計9からは、前記吸入空気流量を表す信号がECU6に出力される。前記コレクタ11に吸入された空気は、エンジン1の各燃焼室13(本実施例では4気筒なので、4つの燃焼室がある)に分配されて導かれる。
【0023】
一方、燃料は、燃料ポンプにより加圧され、各燃焼室13に配置されている燃料噴射弁8に圧送され、燃料噴射弁8から燃焼室13内に向けて噴射される。噴射された燃料は吸入空気と混合され、各燃焼室13に配置されている火花点火装置7で点火される。点火後、混合気は燃焼し、その燃焼エネルギにより、ピストン15は押し下げられ、クランク軸14は回転する。
【0024】
また、エンジン1は、吸気弁12及び排気弁17を備える。この吸排気弁12、17の開閉動作は、カム軸16の回転により行なわれる。カム軸16はクランク軸14とタイミングベルトを介して繋がっており、クランク軸14の2回転につき、カム軸16が1回転する。
【0025】
前記クランク軸14の回転位置を検出すべく、該クランク軸14と一体に回転せしめられる歯付き円板からなるクランク信号板3Aと該クランク信号板3Aの外周に近接配置されたクランク角信号発生器3Bからなるクランク角センサ3が配備されている。前記クランク信号板3Aの外周には、所定角度間隔をあけて多数の歯5(被検知部)が設けられるとともに、該歯5の少なくとも一つが除去ないし無効化されてなる歯欠け部が設けられ、前記クランク角信号発生器3Bは、前記歯が通過する度にクランク角信号としてパルスをECU6に出力する。
【0026】
また、カム軸16の回転位置を検出すべく、該カム軸16と一体に回転せしめられる歯付き円板からなるカム信号板2Aと該カム信号板2Aの外周に近接配置されたカム角信号発生器2Bからなるカム角センサ2が配備されている。前記カム信号板2Aの外周には、所定角度間隔をあけて多数の歯4(被検知部)が設けられるとともに、該歯4の少なくとも一つが除去ないし無効化されてなる歯欠け部が設けられ、前記カム角信号発生器2Bは、前記歯が通過する度にクランク角信号としてパルスをECU6に出力する。
【0027】
次に、クランク角信号異常時におけるフェールセーフ制御について図2のフローチャートを参照しながら説明する。ここでは、制御の詳細については後述することとし、制御のおおまかな流れを説明する。
【0028】
まず、S100にて、クランク角信号が異常判定されたか否かを判断する。クランク角信号が異常判定されていない場合、S111にてクランク角信号からクランク倍周(逓倍)クロックを算出し、続くS112にて基準クランク角度カウンタを生成する。次にS113にてクランク角度カウンタを生成し、S114にてクランク角度カウンタに基づいてエンジン制御を行う。即ち、クランク角信号から生成されたクランク角度カウンタが所定値となったタイミングで、燃料噴射の開始や終了、火花点火装置による混合気への点火を行なう。
【0029】
次に、S100にてクランク角信号が異常判定されたと判断された場合、S101にてカム角信号からカム倍周(逓倍)クロックを算出し、S102にて基準カム角度カウンタを生成する。S103にてカム角度カウンタを生成し、S104にてカム角度カウンタに基づいてエンジン制御を行う。即ち、カム角信号から生成されたカム角度カウンタが所定値となったタイミングで、燃料噴射の開始や終了、火花点火装置による混合気への点火を行なう。
【0030】
以上の制御は、エンジン回転中は継続的に行われる。
【0031】
次に、クランク角信号が異常判定されていない場合(以下、クランク角信号正常時と記載)とクランク角信号が異常判定された場合(以下、クランク角信号異常時と記載)について、図3の制御ブロック図を用いて詳細に説明する。
【0032】
最初に、クランク角信号正常時の制御について説明する
クランク角信号異常判定手段64では、クランク角信号51の異常を判定する。
異常判定方法としては、一定時間内にパルスを伴うカム角信号出力があるにも関わらず、パルスを伴うクランク角信号出力が無い場合や、クランク角信号51の電圧変化が一定時間内に無い場合に異常と判定する。
【0033】
クランク角信号異常判定手段64にて異常と判定されないと、スイッチ52はONされスイッチ57はOFFされ、スイッチ70、スイッチ71は上側選択となる。
【0034】
気筒判別算出手段65では、カム角信号56におけるパルス発生パターンにより、180°CA毎(4気筒の場合)に気筒判別信号を出力する(図6参照)。
【0035】
クランク倍周クロック算出手段53では、クランク角信号51とタイマー63と歯欠け判定手段78(後述)から、クランク角信号のパルス間の時間間隔をn等分し、クランク角信号パルスをn倍としたクランク倍周クロックを算出する。図4に、一例として10°CAあたりn=4とした場合のクランク倍周クロック波形の一部を示す。クランク信号板3Aの歯の配列パターンから、時点t1〜時点t2、時点t2〜時点t3、時点t4〜時点t5間のパルス間角度はそれぞれ10°CAとなり、時点t3〜時点t4のパルス間角度は30°CAとなっている。ここでパルス間角度が10°CAでない部分を歯欠け部と定義し、後述する歯欠け判定手段78にて歯欠け判定値を1とする。
【0036】
クランク角信号入力時は、前記歯欠け判定値から図8に従って、クランク角信号分割数を算出する。図8の表は予め記憶装置に記憶されている。
【0037】
例えば、時点t2にパルスが到来したときは、歯欠け判定値は0であり、図8に従って、クランク角信号分割数が4と算出される。よって、時点t1〜t2間を4等分した時間間隔で、時点t2〜t3間にクランク倍周クロックを出力する。
【0038】
また、時点t4にクランク角信号パルスが到来したとき、歯欠け判定値=1であり、図8に従って、クランク角信号分割数が12と算出される。よって、時点t3〜t4間を12等分した時間間隔で、時点t4〜t5間にクランク倍周クロックを出力する。
【0039】
図3の基準クランク角度カウンタ生成手段54では、クランク倍周クロック毎にカウントアップし、クランク角信号のパルス入力で初期化するカウンタを、基準クランク角度カウンタとして生成する。
【0040】
歯欠け判定手段78では、歯欠け判定値を算出する。基準クランク角度カウンタが、歯欠け判定しきい値以上となったら、歯欠け判定値を1とし、次回カム角信号パルス入力で値を初期化する。図4に基準クランク角度カウンタと歯欠け判定値の波形を示す。
【0041】
図3のクランク角度カウンタ生成手段55では、クランク倍周クロック毎にカウントアップし、歯欠け判定値=1かつクランク角信号パルス入力にて、初期化するカウンタをクランク角度カウンタとして生成する。図4にクランク角度カウンタの波形を示す。
【0042】
一方、図3の点火時期算出手段74、噴射開始時期算出手段75、及び噴射終了時期算出手段76は、それぞれ吸入空気量、エンジン回転数、冷却水温、燃料圧力等に基づいて、点火時期、燃料噴射開始終了時期を算出し、かつ気筒判別算出手段65からの信号により、点火や燃料噴射を行う気筒を決める。
【0043】
また、前記点火時期、噴射開始終了時期は、クランク角度カウンタ生成手段55にて算出されたクランク角度カウンタの初期化位置とクランク角度の差分(オフセット量)であるクランク角度カウンタオフセット値により補正され、比較器77にてクランク角度カウンタと比較され、値が等しくなった瞬間に点火・噴射信号が出力される。
【0044】
図6に、クランク角信号正常時の燃料噴射信号波形を示す。
【0045】
カム角信号から気筒判別信号が生成され、かつクランク角信号によりクランク角度カウンタが生成される。気筒判別信号とクランク角度カウンタにより、燃料噴射気筒と燃料噴射時期が決定され、燃料噴射信号が出力される。また、点火信号については図6に示されていないが、燃料噴射信号と同様に気筒判別信号とクランク角度カウンタにより、点火気筒と点火時期が決定され、点火信号が出力される。
【0046】
次に、クランク角信号異常時の制御について説明する
クランク角信号異常判定手段64では、クランク角信号が異常であるか否かを判定する。クランク角信号異常判定手段64にて異常と判定されると、スイッチ52はOFFされ、スイッチ57はONされ、スイッチ70、スイッチ71は下側選択となる。
【0047】
カム倍周クロック算出手段58では、カム角信号56とタイマー63と気筒判別算出手段65と歯欠け判定手段79(後述)から、カム角信号56のパルス間の時間間隔をn等分し、カム角信号パルスをn倍としたカム倍周クロックを算出する。図5に、一例として10°CAあたりn=4とした場合のカム倍周クロック波形の一部を示す。カム角信号板2Aの歯の配列パターンから、時点t11〜t12間のパルス間角度は30°CA、時点t12〜t13間は150°CA、時点t13〜t14間は180°CAとなっている。ここでパルス間角度が30°CAでない部分を歯欠けと定義し、後述する歯欠け判定手段79にて歯欠け判定値=1とする。
【0048】
カム角信号パルス入力時は、歯欠け判定手段79から算出された歯欠け判定値と気筒判別算出手段65から算出された気筒判別信号から図9に従って、カム角信号分割数を算出する。図9の表は予め記憶装置に記憶されている。
【0049】
例えば、時点t12にカム角信号パルスが到来したとき、歯欠け判定値=0であり、図9に従って、カム角信号分割数が12と算出される。よって、時点t11〜t12間を12等分した時間間隔で、時点t12〜t13間にカム倍周クロックを出力する。
【0050】
また、時点t13でカム角信号パルスが到来したとき、歯欠け判定値=1かつ気筒判別信号=2cyl.であり、図9に従って、カム角信号分割数が60と算出される。よって、時点t12〜t13間を60等分した時間間隔で、時点13〜t14間にカム倍周クロックを出力する。
【0051】
図3の基準カム角度カウンタ生成手段59では、カム倍周クロック毎にカウントアップし、カム角信号入力で初期化するカウンタを、基準カム角度カウンタとして生成する。
【0052】
歯欠け判定手段79では、歯欠け判定値を算出する。基準カム角度カウンタが、歯欠け判定しきい値以上となったら、歯欠け判定値を1とし、次回カム角信号入力で値を初期化する。図5に基準カム角度カウンタと歯欠け判定値の波形を示す。
【0053】
図3のカム角度カウンタ生成手段60では、カム倍周クロック毎にカウントアップし、歯欠け判定値=1かつカム角信号パルス入力にて初期化するカウンタをカム角度カウンタとして生成する。図5にカム角度カウンタの波形を示す。
【0054】
一方、クランク角信号異常時においても、正常時と同様に、図3の点火時期算出手段74、噴射開始時期算出手段75、及び噴射終了時期算出手段76は、それぞれ吸入空気量、エンジン回転数、冷却水温、燃料圧力等に基づいて、点火時期、燃料噴射開始終了時期を算出し、かつ気筒判別手段65からの信号により、点火や燃料噴射を行う気筒を決める。
【0055】
また、前記点火時期、噴射開始終了時期は、カム角度カウンタ生成手段60にて生成されたカム角度カウンタの初期化位置とクランク角度の差分(オフセット量)であるカム角度カウンタオフセット値により補正され、比較器77にてカム角度カウンタと比較され、値が等しくなった瞬間に点火・噴射信号が出力される。
【0056】
図7に、クランク角信号正常時から異常時への遷移図を示す。
【0057】
クランク角信号異常発生前では、カム角信号から気筒判別信号が生成され、かつクランク角信号によりクランク角度カウンタが生成される。気筒判別信号とクランク角度カウンタにより、燃料噴射気筒と燃料噴射時期が決定され、燃料噴射信号が出力される。途中でクランク角信号に異常が発生し、その後、クランク角信号が異常であると判定されるとカム角度カウンタが生成され、気筒判別信号とカム角度カウンタにより、燃料噴射気筒と燃料噴射時期が決定され、燃料噴射信号が出力される。また、点火信号については図7に示されていないが、燃料噴射信号と同様に、点火信号が出力される。
【0058】
上記のように本実施例においては、カム角信号から生成されるカム角度カウンタとクランク角信号から生成されるクランク角度カウンタは、異なる信号源・異なる算出方法よりそれぞれ生成される。
【0059】
そのため、カム角信号・クランク角信号のパルス発生パターンの汎用性を従来よりも高めることができる。
【0060】
また、クランク角度とカム角度カウンタ初期化位置とのオフセット値を予め記憶装置に記憶させておき、カム角度カウンタにオフセット値による補正を加えて、燃料噴射や点火等のタイミングを制御することにより、前記オフセット値を自由に設定でき、そのため、カム角信号板の設置角度の汎用性が広がる。
【0061】
また、クランク倍周クロックとカム倍周クロックは、得られる最新(今回)のパルスと前回のパルス間の時間間隔を使用して算出することにより、精度良くエンジンを制御できる。
【0062】
また、カム角信号のパルス間の時間間隔が所定値より大きい場合、カム角度カウンタを初期化することで、カム角信号板のパターン配置により、初期化位置を複数個生成可能であり、精度良くエンジンを制御できる。
【0063】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記実施例では、4気筒の筒内噴射型エンジンを例に挙げて説明したが、吸気ポート噴射型エンジンでも同様であり、気筒数も4に限られないことは勿論である。
【0064】
また、上記実施例では、エンジン制御の例として、燃料噴射時期制御を挙げたが、点火時期制御や吸排気弁のバルブタイミング制御等にも適用できることは勿論である。
【符号の説明】
【0065】
1・・・エンジン、2・・・カム角センサ、2A・・・カム信号板、3・・・クランク角センサ、3A・・・クランク信号板、6・・・ECU(エンジンコントロールユニット)、7・・・火花点火装置、8・・・燃料噴射弁、9・・・空気流量計(エアフロセンサ)、10・・・スロットル弁、11・・・コレクタ、12・・・吸気弁、13・・・燃焼室、14・・・クランク軸、15・・・ピストン、16・・・カム軸、17・・・排気弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸と一体に回転せしめられるクランク信号板及び該クランク信号板の外周に近接配置されたクランク角信号発生器を有し、前記クランク信号板の外周に、所定角度間隔をあけて多数の歯、突起、孔等の被検知部が設けられるとともに、該被検知部の少なくとも一つが除去ないし無効化されてなる歯欠け部が設けられ、前記クランク角信号発生器は、前記被検知部が通過する度にクランク角信号としてパルスを出力するようにされてなるクランク角検出手段と、
前記クランク角検出手段から前記パルス到来毎に、パルス間の時間間隔を所定値で等分割してクランク倍周クロックを算出し、該クランク倍周クロック周期毎にカウントアップするクランク角度カウンタを生成するとともに、前記クランク角検出手段から前記歯欠け部を示すパルスが到来したとき、前記クランク角度カウンタを初期化する手段と、
カム軸と一体に回転せしめられるカム信号板及び該カム信号板の外周に近接配置されたカム角信号発生器を有し、前記カム信号板の外周に、所定角度間隔をあけて多数の歯、突起、孔等の被検知部が設けられるとともに、該被検知部の少なくとも一つが除去ないし無効化されてなる歯欠け部が設けられ、前記カム角信号発生器は、前記被検知部が通過する度にカム角信号としてパルスを出力するようにされてなるカム角検出手段と、
前記カム角検出手段から前記パルス到来毎に、パルス間の時間間隔を所定値で等分割してカム倍周クロックを算出し、該カム倍周クロック周期毎にカウントアップするカム角度カウンタを生成するとともに、前記カム角検出手段から前記歯欠け部を示すパルスが到来したとき、前記カム角度カウンタを初期化する手段と、
前記クランク角検出手段からのクランク角信号が異常であるか否かを判定する手段と、
前記クランク角信号が正常であるときは、前記クランク角度カウンタを用いてエンジン制御を行い、前記クランク角信号が異常であると判定された場合は、前記クランク角度カウンタを用いたエンジン制御を禁止又は停止して、前記カム角度カウンタを用いてエンジン制御を行う手段、とを具備して構成されたエンジンの制御装置。
【請求項2】
前記クランク角信号に基づいて検出されるクランク角度と前記カム角度カウンタ初期化位置とのオフセット値を予め記憶装置に記憶しておき、前記クランク角信号が異常であると判定された場合は、前記オフセット値と前記カム角度カウンタを用いてエンジン制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記クランク倍周クロックを、前記クランク角検出手段から前記パルスが到来する毎に、前回のパルス到来時点から今回のパルス到来時点までに要した時間を所定値で等分割することにより算出することを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記カム倍周クロックを、前記カム角検出手段から前記パルスが到来する毎に、前回のパルス到来時点から今回のパルス到来時点までに要した時間を所定値で等分割することにより算出することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記カム角検出手段からのカム角信号におけるパルス間の時間間隔が所定値より大きい場合、前記カム角度カウンタを初期化することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−117452(P2012−117452A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267968(P2010−267968)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】