説明

エンジンの大気圧検出装置

【課題】 大気圧センサや絞り弁位置センサ、クランク角センサを用いることなく圧力検出手段で測定した吸気管圧力を基に電子式制御装置で運転制御を行う複数気筒のエンジンにおいて、電子式制御装置に大きな処理負担をかけずに大気圧を連続的に検出できるようにしてエンジンの運転性を良好に維持できるようにする。
【解決手段】 圧力検出手段としての圧力センサ11を吸気マニホルド2bの一つの枝管21に配設し、これを用いてエンジン1運転中に所定間隔で吸気管圧力をサンプリングするサンプリング手段と、サンプリングされた吸気管圧力値の変動幅が所定回数以上連続して所定許容値以内であるか否かを調べる変動幅計測手段と、変動幅が所定回数以上連続して所定許容値以内のときその平均値を算出する平均値算出手段と、この平均値を大気圧として記憶する記憶手段を電子式制御装置10に具えさせて大気圧を検出するものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御のための大気圧を検出する装置に関し、殊に、大気圧の変動に応じて燃料噴射量を補正するためエンジン運転中において継続して大気圧を検出するエンジンの大気圧検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃料噴射システムにおいては、大気圧(空気密度)が変動すると吸入空気量も変動することから、適正な空燃比に制御するために変動した大気圧に対応して燃料噴射量の補正を行うことが必要となる。この場合、大気圧検出のために大気圧センサを用いるのが通常であるが、比較的高価な大気圧センサを追加設置することはシステムの高価格化を招く。
【0003】
そこで、特開平5−1615公報に記載されているように、エンジン制御用のコンピュータ(電子式制御装置)がエンジン回転速度および吸気管圧力を基に吸入空気量を算出するスピード・デンティシティ方式を採用しているものにおいて、吸気管圧力センサを利用してキイスイッチをONとしてから所定時間内の吸気管圧力を近似大気圧とし、これを基に燃料噴射量の補正を行う方式が知られている。しかし、この方式によると、エンジン運転中の標高の変化等による大気圧の変動を検出できないことから、燃料噴射量について大気圧補正を行うことができないため、エンジン運転性を損なったり大気圧変化が大きい場合はエンジンが停止する心配がある。
【0004】
この問題に対し、特開平6−28666号公報や特開2003―176749号公報には、エンジン始動後において吸気管圧力センサにより検知した吸気管圧力値の変動量が所定期間に亘って所定の許容値以内である場合に、電子式制御装置の記憶手段にその平均値を大気圧として記憶する方式が提示されている。
【0005】
この方式は、エンジン運転中においても吸気管圧力を継続的に測定し、吸気管圧力の変動が少ない部分を検出してその平均値を算出することで大気圧として記憶し、燃料噴射量の大気圧補正に利用するものである。
【0006】
しかしながら、前者の方式は吸気管圧力センサが吸気マニホルドの集合部に配設されているものであり、吸気管圧力データを表わした図4の波形図に示すように、複数気筒のそれぞれにおいて発生する吸気負圧による立ち下がりが互いに異なるタイミングで連続的に表れることから大気圧に一致する部分が存在しない。従って、大気圧を算出するために絞り弁全開時以外は様々な演算手段を加える必要が生じ、検出した大気圧の精度が低いものとなりやすいともに処理負担が大きくなることで電子式制御装置に所定レベル以上の処理能力が要求される。一方、後者の方式は単気筒のエンジンを想定していることに加え、クランク角センサを用いて吸気管圧力の検出タイミングとしていることからクランク角センサの設置が必須となるため、適用機種が限られたり高価格化を招いたりする。
【特許文献1】特開平5−1615公報
【特許文献2】特開平6−28666号公報
【特許文献3】特開2003―176749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、スピード・デンティシティ方式で運転される複数気筒のエンジンにおいて、電子式制御装置に大きな処理負担をかけずに大気圧を連続的に検出できるようにして、高価格化を招くことなくその運転性を良好に維持できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明は、圧力検出手段で測定した吸気管圧力に基いて電子式制御装置が運転制御を行うエンジンに用いられる大気圧検出装置について、圧力検出手段が吸気マニホルドの一つの枝管に設置され、電子式制御装置が測定された吸気管圧力をエンジン運転中に所定の間隔でサンプリングするサンプリング手段と、サンプリングされた吸気管圧力値の変動幅が所定回数以上連続して所定の許容値以内であるか否かを調べる変動幅計測手段と、その変動幅が所定回数以上連続して所定許容値以内であるときその平均値を算出する平均値算出手段と、算出された平均値を大気圧データとして記憶する記憶手段とを具えているものとした。
【0009】
このように運転制御にスピード・デンティシティ方式を採用したエンジンにおいて、吸気管圧力センサを吸気マニホルドの好ましくは他の気筒による吸気干渉を受けない部位で枝管の一つに設置したことで、吸気行程時の吸気管圧力の立ち下がりと非吸気行程時の大気圧とほぼ等しい吸気管圧力値とが交互に連続する波形が形成されることから、大気圧とほぼ等しい吸気管圧力値の領域を利用して間接的に大気圧を検出することができ、容易に大気圧補正を実行できるようになる。また、吸気管圧力の処理およびそれより大気圧を算出する手順は比較的単純なものであって処理負担が極めて軽いことから、電子式制御装置として高性能なものは必ずしも必要とせず既設のものを利用すれば充分であるため、大気圧センサ、絞り弁位置センサ、クランク角センサが不要であることと相俟って製造コストを低く抑えることができる。
【0010】
また、上述したエンジンの大気圧検出装置において、平均値算出手段が吸気管圧力の平均値を算出する度にその記憶手段に記憶された大気圧データを更新するものとすれば、大気圧データが更新される度にこれを基に空燃比制御における係数を補正することができるため、環境大気圧が変動しても適時これに対応して燃料噴射量を調整することで空燃比を最適に制御することができるため、エンジン運転性を良好に維持することが容易となる。
【0011】
さらに、そのサンプリング手段による吸気管圧力の検知の間隔を、少なくとも1/1000秒以下とすれば、吸気管圧力の波形においてほぼ大気圧に一致する平坦部の検出精度が充分なものとなって燃料噴射の大気圧補正を適正なものとしやすくなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、エンジン制御のための大気圧について電子式制御装置に大きな処理負担をかけずに連続的に検出できるようになり、これを基に燃料噴射量の大気圧補正が的確に行われてエンジンの運転性を良好に維持することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図面を参照して本発明の実施の形態を説明すると、図1は本発明を実施するための大気圧検出装置が配置されたエンジンの配置図を示している。エンジン1は2気筒2サイクルエンジンであり、その吸気管2は入口にエアクリーナ5を有し、絞り弁3が配置されたスロットルボディ2aと吸気マニホルド2bとを具えていて、吸気マニホルド2bの二本の枝管21, 21がエンジン1の各気筒に接続されている。4は排気管である。
【0014】
本実施の形態においては、枝管21の一つに圧力検出手段としての圧力センサ11が設置されているとともにエンジン1にエンジン回転数センサ12が設置されており、電子式制御装置10が吸気管圧力およびエンジン回転数を基に吸入空気量を算出するスピード・デンティシティ方式を採用している。尚、電子式制御装置10はCPU、ROM、RAM、入出力回路等を具え、エンジンの基本的な運転制御を主として行う簡易で低価格のもので充分であり、そのROMに以下に述べるエンジンの大気圧検出装置として作動させるためのプログラムを入力記憶させたものである。
【0015】
吸気管圧力を検出する圧力センサ11は、他の枝管が接続された気筒からの吸気負圧の影響を受けにくいようにするため、枝管21のエンジン1に接近した位置に配置されている。従って、圧力センサ11が測定する吸気管圧力値は図2に示すようにエンジン1の1サイクル当たり、吸気行程時に発生する一回の立ち下がりと非吸気行程時の圧力値変動が少ない比較的平坦な領域とからなる波形で表わされる。
【0016】
次に、図2の吸気管圧力データを表わした波形図を用いて本発明の原理を説明する。圧力センサ11を用いて測定した吸気管圧力の波形図における立ち下がりdは気筒の吸気行程時、即ち1サイクル当たり1回発生し、立ち下がりdと次の1サイクルにおける立ち下がりdとの間である気筒の非吸気行程時に平坦部fが形成されるが、この平坦部fにおける吸気管圧力値がほぼ大気圧に匹敵することから、予め設定した条件に合致したときこれを大気圧として検出するものである。
【0017】
即ち、電子式制御装置10は、サンプリング手段により吸気管圧力を所定のサンプリング間隔yでサンプリングし、サンプリングされた吸気管圧力データについて変動幅計測手段でその変動幅がn回に亘って所定の許容値x以内であるか否かを調べ、これが許容値x以内であるときに平均値算出手段でその区間の変動幅の平均値を算出してこれを大気圧として記憶手段(RAM)に記憶させるものである。
【0018】
次に、本実施の形態の大気圧検出装置における電子式制御装置10の作用を、図3のフローチャートを用いて説明する。
【0019】
エンジンが始動すると、圧力センサ11が検出した吸気管圧力をサンプリング手段で所定の間隔yでサンプリングする(A1)。尚、サンプリングの間隔yは数100μs〜数msの間で設定することで平坦部fにおける吸気管圧力の変動幅を確実に検出できるが、エンジン1が2〜4気筒のガソリンエンジンであって電子式制御装置10が一般的な処理速度・処理能力のものである場合、y=1ms(1/1000秒)以下であればこの平坦部fを精度よく検出することができる。
【0020】
そして、変動幅測定手段はサンプリングした最近n回の吸気管圧力値においてその変動幅が全て許容値x以内であるか否かを調べる(A2)。これが許容値x以内であれば平均値算出手段でこのn回の吸気管圧力の平均値を算出し(A3)、記憶手段であるRAMに記憶された大気圧データを更新し(A4)、許容値x以上の変動幅があれば、(A3)、(A4)の手順は実施せず、(A1)からの手順を繰り返す。
【0021】
尚、電子式制御装置10はエンジン1の燃料噴射制御機能を具えていることから、この更新された大気圧に基いて最適な空燃比となるように燃料噴射量の算定式における係数を補正する。
【0022】
以上述べたように、吸気管圧力センサを他の気筒の吸気負圧の影響を受けにくい吸気マニホルドの枝管の一つに配置し吸気管圧力データにおいて大気圧とほぼ一致する平坦部を利用して容易に検出できるようにした本実施の形態によると、電子式制御装置に過大な処理負担をかけずにエンジン始動後において大気圧を連続的に検出できるようになり、低コストでエンジン運転性を良好に維持できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態を示す配置図。
【図2】図1の圧力センサで検知した吸気管圧力の波形図。
【図3】図1の電子式制御装置の作用を説明するフローチャート。
【図4】従来例において圧力センサで検知した吸気管圧力の波形図。
【符号の説明】
【0024】
1 エンジン、 2b 吸気マニホルド、 10 電子式制御装置、 11 圧力センサ、 12 エンジン回転数センサ、 21 枝管


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力検出手段で測定した吸気管圧力に基いて電子式制御装置が運転制御を行うエンジンに用いられる大気圧検出装置であって、
前記圧力検出手段は吸気マニホルドの一つの枝管に設置されており、
前記電子式制御装置は測定された吸気管圧力をエンジン運転中に所定の間隔でサンプリングするサンプリング手段と、サンプリングされた吸気管圧力値の変動幅が所定回数以上連続して所定の許容値以内であるか否かを調べる変動幅計測手段と、前記変動幅が前記所定回数以上連続して所定許容値以内であるときその平均値を算出する平均値算出手段と、前記算出された平均値を大気圧データとして記憶する記憶手段とを具えている、
ことを特徴とするエンジンの大気圧検出装置。
【請求項2】
前記平均値算出手段は平均値を算出する度に前記記憶手段に記憶された大気圧データを更新するものとされている、ことを特徴とする請求項1に記載したエンジンの大気圧検出装置。
【請求項3】
前記サンプリング手段による吸気管圧力の検知の間隔は、少なくとも1/1000秒以下とされていることを特徴とする請求項1または2に記載したエンジンの大気圧検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−2647(P2006−2647A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179222(P2004−179222)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000153122)株式会社ニッキ (296)
【Fターム(参考)】