説明

エンジンの潤滑装置

【課題】エンジン運転中にリリーフ弁が騒音を発する不具合を防止することができるエンジンの潤滑装置を提供する。
【解決手段】オイル圧送通路4からリリーフ通路6を分岐させ、リリーフ通路6の分岐端にリリーフ弁室7を設け、リリーフ弁室7の入口8の開口周縁部に弁座8aを設け、リリーフ弁室7の周壁9に弁室出口10を設け、リリーフ弁室7内に弁体11を摺動自在に設け、弁体11を弁バネ12の付勢力13で弁座8aに着座させる方向に付勢し、オイル圧送通路4の油圧により、弁座8aから弁体11が所定寸法だけ離間した後に弁室出口10に対する弁体11の開弁が開始されるようにした、エンジンの潤滑装置において、弁バネ12による弁体11の弁座8aへの着座圧が、アイドリング運転時にオイル圧送通路4に発生する油圧よりも低くなるように弁バネ12のバネ圧を設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの潤滑装置に関し、詳しくは、エンジン運転中にリリーフ弁が騒音を発する不具合を防止することができるエンジンの潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの潤滑装置として、オイル溜めのエンジンオイルを、クランク軸で駆動するオイルポンプでオイル圧送通路を介してエンジン内の滑動部に供給し、オイル圧送通路からリリーフ通路を分岐させ、リリーフ通路の分岐端にリリーフ弁室を設け、リリーフ弁室のリリーフ通路側端部にあるリリーフ弁室入口の開口周縁部に弁座を設け、リリーフ弁室の周壁に弁室出口を設け、リリーフ弁室内に弁体を摺動自在に設け、弁体を弁バネの付勢力で弁座に着座させる方向に付勢し、オイル圧送通路の油圧により、弁座から弁体が所定寸法だけ離間した後に弁体による弁室出口の開弁が開始されるようにしたものがある(例えば特許文献1参照)。
この種のエンジンの潤滑装置によれば、簡単な構造でオイル圧送通路の油圧を調節することができる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−139323号公報(図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
《問題》 エンジン運転中にリリーフ弁が騒音を発する。
上記従来技術では、エンジン運転中にリリーフ弁が騒音を発する。
その原因は、次の通りである。
すなわち、アイドリング運転状態からエンジン回転数が上昇し、オイル圧送通路に発生する油圧が高まってくると、弁座から弁体が離間を開始し、その開始直後、弁体の受圧面積が増加することにより、弁体にかかる力が急増し、弁体が弁座から離間する方向に過剰に摺動した後、過剰に増加した弁バネの付勢力で弁体が押し返される。このような弁体の挙動によって、オイル圧送通路の油圧が不安定化し、弁体が弁座に衝突することを繰り返し、これがリリーフ弁の騒音となる。
【0005】
本発明の課題は、エンジン運転中にリリーフ弁が騒音を発する不具合を防止することができるエンジンの潤滑装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者らは、エンジン運転中にリリーフ弁が騒音を発する不具合の原因が上記のようなものであることを突き止め、弁バネによる弁体の弁座への着座圧がアイドリング運転時にオイル圧送通路に発生する油圧よりも低くなるように弁バネのバネ圧を設定することにより、上記不具合が解決できることを見い出し、本発明に至った。
【0007】
請求項1に係る発明の発明特定事項は、次の通りである。
図1に示すように、オイル溜め(1)のエンジンオイル(2)を、クランク軸で駆動するオイルポンプ(3)でオイル圧送通路(4)を介してエンジン内の滑動部(5)に供給し、オイル圧送通路(4)からリリーフ通路(6)を分岐させ、リリーフ通路(6)の分岐端にリリーフ弁室(7)を設け、リリーフ弁室(7)のリリーフ通路(6)側端部にあるリリーフ弁室入口(8)の開口周縁部に弁座(8a)を設け、リリーフ弁室(7)の周壁(9)に弁室出口(10)を設け、リリーフ弁室(7)内に弁体(11)を摺動自在に設け、弁体(11)を弁バネ(12)の付勢力(13)で弁座(8a)に着座させる方向に付勢し、オイル圧送通路(4)の油圧により、弁座(8a)から弁体(11)が所定寸法だけ離間した後に弁室出口(10)に対する弁体(11)の開弁が開始されるようにした、エンジンの潤滑装置において、
弁バネ(12)による弁体(11)の弁座(8a)への着座圧が、アイドリング運転時にオイル圧送通路(4)に発生する油圧よりも低くなるように弁バネ(12)のバネ圧を設定した、ことを特徴とするエンジンの潤滑装置。
【発明の効果】
【0008】
(請求項1に係る発明)
請求項1に係る発明は、次の効果を奏する。
《効果》 エンジン運転中にリリーフ弁が騒音を発する不具合を防止することができる。
エンジン運転中にリリーフ弁が騒音を発する不具合を防止することができる。
その理由は、次の通りである。
すなわち、図1に例示するように、弁バネ(12)による弁体(11)の弁座(8a)への着座圧が、アイドリング運転時にオイル圧送通路(4)に発生する油圧よりも低くなるように弁バネ(12)のバネ圧を設定したので、エンジン運転中、常に弁座(8a)から弁体(11)が離間しており、エンジン運転中に弁座(8a)から弁体(11)が離間を開始することによって生じる弁体(11)の受圧面積の増加、弁体(11)にかかる力の急増、弁座(8a)から離間する方向への弁体(11)の過剰な摺動、弁バネ(12)の付勢力(13)の過剰な増加、オイル圧送通路(4)の油圧の不安定化、弁体(11)の弁座(8a)への衝突がいずれも起こらず、エンジン運転中にリリーフ弁が騒音を発することがない。
【0009】
(請求項2に係る発明)
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 弁体の弁座への着座圧の設定が容易になる。
図1に示すように、弁バネ(12)を同心状の内外二重のバネ(12a)(12b)で構成し、弁体(11)を一方のバネ(12a)の付勢力だけで弁座(8a)に着座させ、弁体(11)が弁座(8a)から所定寸法だけ離間すると、弁体(11)が他方のバネ(12b)にも受け止められることにより、弁体(11)に内外二重のバネ(12a)(12b)の両付勢力がかかるようにしたので、弁体(11)を弁座(8a)に着座させる一方のバネ(12a)を調節するだけで、弁体(11)の弁座(8a)への着座圧の設定を行うことができ、弁バネ(12)による弁体(11)の弁座(8a)への着座圧の設定が容易になる。
【0010】
《効果》 リリーフ弁を小型に維持することができる。
図1に示すように、弁バネ(12)を同心状の内外二重のバネ(12a)(12b)で構成しているので、弁バネを直列バネで構成する場合に比べ、弁バネ(12)の全長を短くすることができ、リリーフ弁を小型に維持することができる。
【0011】
(請求項3に係る発明)
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 弁バネの拘束によるリリーフ弁の故障が起こりにくい。
図1に示すように、内外二重のバネ(12a)(12b)の螺旋の旋回方向が相互に逆廻りとなるため、内外二重のバネ(12a)(12b)同士が相互に挟まりにくく、弁バネ(12)の拘束によるリリーフ弁の故障が起こりにくい。
【0012】
(請求項4に係る発明)
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 リリーフ弁の調圧機能が高い。
図1に示すように、弁体(11)にキャップ形のプレス加工品を用いるので、切削加工品を用いる場合に比べ、弁体(11)の表面が滑らかである。
弁体(11)の周壁(16)にはオイル逃がし孔(14)を設け、弁体(11)が弁座(8a)から離間することによって弁体(11)に押された弁バネ収容室(15)内のエンジンオイル(2)が、オイル逃がし孔(14)を経て弁室出口(10)から流出するように構成したので、弁体(11)の摺動が弁バネ収容室(15)内に溜まったエンジンオイル(2)によって邪魔されることがない。
これらの理由により、弁体(11)がスムーズに摺動し、リリーフ弁の調圧機能が高い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジンの潤滑装置の要部縦断正面図である。
【図2】図1の潤滑装置で用いるリリーフ弁の弁体を説明する図で、図2(A)は平面図、図2(B)は縦断正面図、図2(C)は図2(B)のC−C線断面図である。
【図3】図1の潤滑装置で用いるリリーフ弁の弁体の変位とオイル圧送通路の油圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1〜図3は本発明の実施形態に係るエンジンの潤滑装置を説明する図であり、この実施形態では、ディーゼルエンジンの潤滑装置について説明する。
潤滑装置の概要は、次の通りである。
図1に示すように、オイル溜め(1)のエンジンオイル(2)を、クランク軸で駆動するオイルポンプ(3)でオイル圧送通路(4)を介してエンジン内の滑動部(5)に供給し、オイル圧送通路(4)からリリーフ通路(6)を分岐させ、リリーフ通路(6)の分岐端にリリーフ弁室(7)を設け、リリーフ弁室(7)のリリーフ通路(6)側端部にあるリリーフ弁室入口(8)の開口周縁部に弁座(8a)を設け、リリーフ弁室(7)の周壁(9)に弁室出口(10)を設け、リリーフ弁室(7)内に弁体(11)を摺動自在に設け、弁体(11)を弁バネ(12)の付勢力(13)で弁座(8a)に着座させる方向に付勢し、オイル圧送通路(4)の油圧により、弁座(8a)から弁体(11)が所定寸法だけ離間した後に弁室出口(10)に対する弁体(11)の開弁が開始されるようにしている。
【0015】
オイル溜め(1)は、オイルパンである。オイルポンプ(2)はクランク軸で駆動されるトロコイドポンプである。オイル圧送通路(4)は、ギヤケースからクランクケースにわたって設けられたオイルギャラリである。エンジン内の滑動部(5)とは、クランク軸やクランク軸で駆動される動弁カム軸や燃料噴射カム軸等の回転軸のジャーナル部とその軸受部等をいう。リリーフ弁はギヤケースに設けられている。
【0016】
弁バネ(12)による弁体(11)の弁座(8a)への着座圧がアイドリング運転時にオイル圧送通路(4)に発生する油圧よりも低くなるように弁バネ(12)のバネ圧を設定している。
図3に示すように、弁バネ(12)による弁体(11)の弁座(8a)への着座圧は0.05MPa(メガパスカル)、アイドリング運転時にオイル圧送通路(4)に発生する油圧は0.08MPa、弁室出口(10)に対する弁体(11)の開弁が開始される油圧は0.35MPa、弁体(11)による弁室出口(10)の全開の油圧は0.5MPaに設定されている。
【0017】
図1に示すように、弁バネ(12)を同心状の内外二重のバネ(12a)(12b)で構成し、弁体(11)を一方のバネ(12a)の付勢力だけで弁座(8a)に着座させ、弁体(11)が弁座(8a)から所定寸法だけ離間すると、弁体(11)が他方のバネ(12b)にも受け止められることにより、弁体(11)に内外二重のバネ(12a)(12b)の両付勢力がかかるようにしている。
一方のバネ(12a)は内側のバネ、他方のバネ(12b)は外側のバネである。内外二重のバネ(12a)(12b)は、リリーフ弁室(7)の弁座(8a)とは反対側の端部に設けられたバネ受け(16)で受け止められている。
【0018】
図3のグラフに示すように、エンジン始動後のエンジン運転中、オイル圧送通路(4)に発生する油圧は、常に弁バネ(12)による弁体(11)の弁座(8a)への着座圧を越えているため、エンジン運転中、常に弁体(11)は弁座(8a)から所定寸法だけ離間している。そして、エンジン回転数が高まり、オイルポンプ(3)のオイル吐出圧が高まってくると、弁体(11)は内側のバネ(12a)を押しながら更に弁座(8a)から離れ、外側のバネ(12b)に受け止められる。その後、エンジン回転数が高まり、オイルポンプ(3)のオイル吐出圧が高まってくると、弁体(11)は内外二重のバネ(12a)(12b)を押しながら更に弁座(8a)から離れる。弁体(11)にかかるバネ力が内側のバネ(12a)のみのバネ力から内外二重のバネ(12a)(12b)のバネ力に変わると、バネ定数は大きくなり、グラフの傾きは大きくなる。
【0019】
弁室出口(10)に対する弁体(11)の開弁が開始されると、弁室出口(10)からエンジンオイル(2)が漏れるため、オイル圧送通路(4)の油圧上昇率は低下し、グラフの傾きは小さくなる。弁室出口(10)に対する弁体(11)の開弁が全開になった後は、エンジン回転数が上昇しても、オイルポンプ(3)のオイル吐出量の増加量と弁室出口(10)やエンジン内の滑動部(5)からのエンジンオイル(2)の漏れ量とが平衡し、オイル圧送通路(4)の油圧はほぼ一定値に維持される。
【0020】
図1に示すように、内外二重のバネ(12a)(12b)の螺旋の旋回方向が相互に逆廻りとなる。すなわち、内側のバネ(12a)は弁体(11)からバネ受け(16)に向けて反時計廻りに下り傾斜する螺旋で、外側のバネ(12b)は弁体(11)からバネ受け(16)に向けて下り傾斜する時計廻りの螺旋となる。
【0021】
図1に示すように、弁体(11)にキャップ形のプレス加工品を用いている。
弁体(11)の周壁(16)にはオイル逃がし孔(14)を設け、弁体(11)が弁座(8a)から離間することによって弁体(11)に押された弁バネ収容室(15)内のエンジンオイル(2)が、オイル逃がし孔(14)を経て弁室出口(10)から流出するように構成している。
【0022】
弁体(11)は、板金にピアス加工を施してオイル逃がし孔(14)を設け、これにプレスによる絞り加工を施してキャップ形にし、センタレス研磨加工を施したものである。図2に示すように、弁体(11)は、平坦な頂部(17)と、この頂部(17)の外周縁部に設けられた円錐台形の着座部(18)と周壁(16)とで構成されている。弁体(11)はプレス加工品であるため、各部の表面はもとより、頂部(17)と着座部(18)との境界の稜部、着座部(18)と周壁(16)との境界の稜部も滑らかに形成される。オイル逃がし孔(14)は弁体(11)の周壁(16)の周方向に所定間隔を保持して複数(6個)形成され、リリーフ弁室(7)内で弁体(11)が回転しても、いずれかのオイル逃がし孔(14)が弁室出口(10)と連通するようになっている。
【符号の説明】
【0023】
(1) オイル溜め
(2) エンジンオイル
(3) オイルポンプ
(4) オイル圧送通路
(5) 滑動部
(6) リリーフ通路
(7) リリーフ弁室
(8) 分岐端開口
(8a) 弁座
(9) 周壁
(10) 弁室出口
(11) 弁体
(12) 弁バネ
(12a) バネ
(12b) バネ
(13) 付勢力
(14) オイル逃がし孔
(15) 弁バネ収容室
(16) 周壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイル溜め(1)のエンジンオイル(2)を、クランク軸で駆動するオイルポンプ(3)でオイル圧送通路(4)を介してエンジン内の滑動部(5)に供給し、オイル圧送通路(4)からリリーフ通路(6)を分岐させ、リリーフ通路(6)の分岐端にリリーフ弁室(7)を設け、リリーフ弁室(7)のリリーフ通路(6)側端部にあるリリーフ弁室入口(8)の開口周縁部に弁座(8a)を設け、リリーフ弁室(7)の周壁(9)に弁室出口(10)を設け、リリーフ弁室(7)内に弁体(11)を摺動自在に設け、弁体(11)を弁バネ(12)の付勢力(13)で弁座(8a)に着座させる方向に付勢し、オイル圧送通路(4)の油圧により、弁座(8a)から弁体(11)が所定寸法だけ離間した後に弁室出口(10)に対する弁体(11)の開弁が開始されるようにした、エンジンの潤滑装置において、
弁バネ(12)による弁体(11)の弁座(8a)への着座圧がアイドリング運転時にオイル圧送通路(4)に発生する油圧よりも低くなるように弁バネ(12)のバネ圧を設定した、ことを特徴とするエンジンの潤滑装置。
【請求項2】
請求項1に記載したエンジンの潤滑装置において、
弁バネ(12)を同心状の内外二重のバネ(12a)(12b)で構成し、弁体(11)を一方のバネ(12a)の付勢力だけで弁座(8a)に着座させ、弁体(11)が弁座(8a)から所定寸法だけ離間すると、弁体(11)が他方のバネ(12b)にも受け止められることにより、弁体(11)に内外二重のバネ(12a)(12b)の両付勢力がかかるようにした、ことを特徴とするエンジンの潤滑装置。
【請求項3】
請求項2に記載したエンジンの潤滑装置において、
内外二重のバネ(12a)(12b)の螺旋の旋回方向が相互に逆廻りとなっている、ことを特徴とするエンジンの潤滑装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載したエンジンの潤滑装置において、
弁体(11)にキャップ形のプレス加工品を用い、
弁体(11)の周壁(16)にはオイル逃がし孔(14)を設け、弁体(11)が弁座(8a)から離間することによって弁体(11)に押された弁バネ収容室(15)内のエンジンオイル(2)が、オイル逃がし孔(14)を経て弁室出口(10)から流出するように構成した、ことを特徴とするエンジンの潤滑装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−216442(P2010−216442A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67258(P2009−67258)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】