説明

エンジンの燃料供給を制御するためのシステム

【課題】車両の重量が大幅に変化する場合であっても、当該車両を常に円滑に発進させることができるシステムを提供するを提供する。
【解決手段】エンジンのスロットルセンサに選択的に通信するコントロールユニットを含み、コントロールユニットは、車両の推定重量が得られるように構成され、スロットルセンサからの信号を受信し、車両を発進させる際に、エンジンに対してスロットル位置が予め定められた位置を越えた場合に決定される高スロットル要求が、高目標エンジン速度に到達したことを検出し、コントロールユニットは、高スロットル要求を検出した場合に、車両の推定重量に基づくエンジン速度に関連して、予め設定された高スロットル傾斜率を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の原動機を制御するためのシステムに関する。特に、本発明は、車両の発進時に原動機のスロットル傾斜率を制御するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両を発進させる際、エンジンの走行速度を増大させるために、運転者は車両のスロットル調整を行うが、通常、加速用ペダルを踏み込むことでこの調整を行っている。これは、エンジン速度を増大することで、車輪を回転させるエンジンのトルク量を増大することができるためである。このエンジン速度を増大させる比率は、スロットル傾斜率(スロットル ランプ レート)として知られている。車両によっては、このスロットル傾斜率は1つまたは2つだけ用意されており、例えば、所望のエンジン速度が比較的低い場合には低いスロットル傾斜率が、また所望のエンジン速度が比較的高い場合には高いスロットル傾斜率が用意されている。さらに、これらスロットル傾斜率は一定の値に保たれている場合がある。例えば、図1は経時的にエンジン速度を変化させたときを示すグラフであって、従来技術では、一定値のスロットル傾斜率が用いられていることを示している。
【0003】
重量が一定に保たれている車両の場合には、(車両のスロットルの調整を行う上で)一定の高いスロットル傾斜率は十分である。しかしながら、例えば商用トラックの場合には、積荷される荷物の種類や量によって、有効車両重量(effective vehicle weight)が大幅に変化することが考えられる。この場合、(車両のスロットルの調整を行う上で)単一で、一定の高いスロットル傾斜率は不十分となり、例えば、重量が軽い場合には、エンジンの加速度が過度に高めるために発進が雑になり、また重量が重い場合には、エンジンの加速度が不十分になるために発進が遅くなり、また車両の発進が困難になることがあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、上述の問題を生じさせないように車両を発進させるに際してエンジンの燃料供給を制御するシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係るシステムは、エンジンに対する高スロットル要求が存在するか否かの決定をするとともに、ターゲットエンジン速度(予め設定された目標のエンジン速度)を決定するようにする。さらに、推定車両重量に基づいて計算されたオフセット量に従って、デフォルトの高スロットル傾斜率を調整できるようにする。
【0006】
即ち、請求項1に記載した発明においては、車両を発進させる際に変速システムに連結されたエンジンの燃料供給を制御するためのシステムであって、前記エンジンのスロットルセンサに選択的に通信するコントロールユニットを含み、前記コントロールユニットは、前記車両の推定重量が得られるように構成され、前記スロットルセンサからの信号を受信し、前記車両を発進させる際に、前記エンジンに対してスロットル位置が予め定められた位置を越えた場合に決定される高スロットル要求が、高目標エンジン速度に到達したことを検出し、前記コントロールユニットは、前記高スロットル要求を検出した場合に、前記車両の前記推定重量に基づくエンジン速度に関連して、予め設定された高スロットル傾斜率を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
車両の重量が大幅に変化する場合であっても、当該車両を常に円滑に発進させることができるシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】従来技術に係る車両の典型的なスロットル傾斜率をグラフ状に示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るスロットル傾斜率の制御システムを備えた、車両の駆動系システムを示す略図である。
【図3】車両のエンジンのスロットル傾斜率を調整するためのステップをフローチャート状に示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るスロットル傾斜率の調整例をグラフ状に示す図である。
【図5】本発明のさらなる実施の形態に係るスロットル傾斜率の調整例をグラフ状に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る好適な実施形態について、添付した図を参照して説明する。
図2は、本発明の実施の形態に係るスロットル傾斜率の制御システムを備えた、車両の駆動系システム20を示す略図である。このシステム20には変速システムとして多段歯車変速機22が用いられているが、該変速機22はメーン変速区間24を有し、さらにスプリッタータイプの補助変速区間26をメーン変速区間24に対して直列するように設けてもよく、また設けなくともよい。この多段歯車変速機22は、クラッチ30を介して原動機28から動力を伝達されるように原動機28と接続される。但し、原動機28の種類は任意であって、例えば、熱機関、電気モータ、またはこれらのハイブリッドタイプ等を含む様々な種類から選ばれることができ、また原動機28の種類は上述した例に限定される必要はない。以下、本明細書では、説明を容易にするために、この原動機28の種類は内燃機関(エンジン)28であると仮定する。
【0010】
エンジン28にはクランクシャフト32が設けられ、またクランクシャフト32はクラッチ30の入力側の部材34と取付けられる。クラッチ30の種類はクラッチシステムを構成できる任意のものでよいが、本発明に係る好適な実施の形態では、例えば、遠心クラッチやポジションコントロールクラッチを含む摩擦クラッチのような、車両の駆動系に通常用いられるタイプのものを使用する。以下、本明細書では、例示上、クラッチ30を遠心摩擦クラッチとして参照する。
【0011】
遠心摩擦クラッチ30の入力部材34は、変速機22の入力軸38に取付けられる出力部材36と、摩擦式に接続(または連結)と切断(または連結解除)を行う。遠心摩擦クラッチ30のクランプ力と、この伝達できるトルク量は、エンジン28とクラッチの入力部材34の回転速度(ES)の関数として示すことができる。
【0012】
このため、車両の駆動系システム20には少なくともエンジンの回転速度(ES)を感知するための回転速度センサ42と、入力軸の回転速度(IS)を感知するためのセンサ44と、出力軸の回転速度(OS)を感知するためのセンサ46とを備えて、これらセンサの示す信号を送信させる。クラッチ30の接続と切断の状態は、ポジションセンサを用いて感知することで決定でき、また、エンジン速度(ES)と入力軸速度(IS)を比較することでも決定できる。また、センサ47を備えて、例えばスロットル位置を示す、スロットルペダルの操作パラメータを感知して、このセンサの示す出力信号(THL)を送信させる。
【0013】
ここで、本明細書では、クラッチ30に関して用いる用語の「接続」と「切断」は、夫々、クラッチ30が実質的な量のトルクを伝達できる能力と、この能力の欠如を示すものとする。但し、少なくとも最小のクランプ力を伝達させることのない、摩擦クラッチの単なる偶発的な接触は、クラッチの接続として扱わないものとする。
【0014】
エンジン28は、例えば、SAE J−1922、SAE J−1939、ISO 11898や他の同等物のようなインダストリー スタンダード プロトコルに従って操作される電子データリンク(DL)を介して他の車両部品と通信可能な、電子制御器(コントローラ)48を用いて電子的に制御されることができる。このエンジンコントローラ48にはエンジン28に対して指令信号(コマンド信号)を選択的に送信できる出力部が備えられ、またエンジン28にはエンジンコントローラ48からの指令信号を選択的に受信できる入力部が備えられる。さらに、エンジンコントローラ48はエンジン28の燃料給油を制御するため、つまりエンジン28のエンジン速度(ES)を制御するために少なくとも1つの操作モードが備えられる。
【0015】
また、変速機のメーン変速部24と補助変速部26の双方またはいずれか一方のシフト操作を自動的または半自動的に制御するためにシフトアクチュエータ50を備えることができる。また、シフトセレクタ51を備えて、車両の運転手が操作モードを選択できるようにするとともに、これに該当する信号GRTを示せるようにしてもよい。このような変速システムの具体例の一つとして、イートンコーポレーションのオートシフトTMシリーズを挙げることができる。また、マニュアル操作用のシフトレバー52の上にシフトノブ54を備えて、従来公知のシフトパターンに従った手動操作により、様々な変速比の接続と切断を選択的に行えるようにしてもよい。
【0016】
さらに、システム20にコントロールユニット60を備えるが、より好ましくは、例えば一つまたはこれ以上の数のデータリンクを介して交信できるように、マイクロプロセッサによって操作される電子制御ユニット(ECU:Electric Control Unit)を備える。ECU60はセンサ42、44及び46から入力信号64を受信して、予め定められたロジックルールに従ってこれら信号を処理して、例えばエンジンコントローラ(エンジンコントロールユニット)48、シフトアクチュエータ50や他の同等物のようなシステムアクチュエータに対して、指令用の出力信号66を送信できるようにしてもよい。あるいは、センサ42、44及び46からの一つまたは複数の信号を直接エンジンコントローラ48に送信して、エンジンコントローラ48が必要なデータをECU60に渡すようにしてもよい。そして、データリンクを介して交信して、ECU60がエンジンコントローラ48と協働して、エンジン28操作を指令できるようにしてもよい。
【0017】
ECU60とエンジンコントローラ48はスロットルセンサ47と電子的に接続されて一つまたはこれ以上の数の出力信号THLを受信できるようにしてもよい。この出力信号THLは一つまたはこれ以上の数の操作パラメータに該当するが、例えば、この操作パラメータはスロットル位置、スロットル作動(スロットルアプリケーション)率、スロットル作動の加速度に相当する。但し、これらは例示上示されたものに過ぎず、操作パラメータはこれら具体例によって限定される必要はない。以下、説明を容易にするために、後述する実施の形態に従うスロットル傾斜率の制御システムは、スロットル位置を示す出力信号THLの受信に対応して作用するものとする。しかしながら、本発明では、ECU60はスロットルセンサ47から信号を受信する形態に限定される必要はなく、ECU60はエンジン28の所望の燃料供給やスロットル率を検出可能な任意の部品、例えばエンジンコントローラ48から信号を受信するように構成されてもよい。
【0018】
ここで、図3のフローチャートを参照して、本発明の実施の形態に係るスロットル傾斜率の制御システムの使用例について説明する。即ち、第1ステップ100では、一つまたはこれ以上の数のパラメータに基づいて、エンジン28を操作するためのターゲットエンジン速度(EST)を決定するが、このパラメータには現時点での燃料供給状態やスロットル率が含まれる。上述したように、ECU60はスロットルセンサ47から信号THLを受信するが、本発明に係る好適な実施の形態ではこの信号はスロットル位置を示す。そして、好適なエンジンの燃料給油用ルーチンの特性マップ(キャラクタリスティックマップ)に基づいて、この示されたスロットル位置に相当する予め定められたターゲットエンジン速度(EST)を決定するが、この特性マップはECU60とエンジンコントローラ48の双方またはいずれかにプログラムされているものとする。
【0019】
次のステップでは、オプションボックス110に示すように、車両を発進させる際に、スロットル位置が予め定められた位置を越えた場合に決定される高スロットル要求が存在するか否かを決定する。本明細書では、説明を容易にするために、クラッチ30が切断状態から接続状態まで移動して、車両の発進が行われた結果、最初に停車またはゼロに近い速度で走行していた車両の移動が加速されるものとする。この際、本発明に係る実施の形態では、ECU60を用いて高スロットル要求が存在するか否かの評価を行う。特に、ECU60は信号THLをモニタするが、この信号はスロットルセンサ47によって生じて、スロットル位置を示す。この際、スロットル位置が予め定められた位置を超える場合、ECU60は高スロットル要求が存在するものと判断する。ここで、例えば、車両の加速用ペダルによってスロットル制御が行われる場合を想定されたい。この場合、一度でも運転手が全ペダル移動量のうち所定のパーセンテージに相当する位置を越えて加速用ペダルを踏み込んだ場合、ECU60は高スロットル要求が存在すると判断するが、例えば、この所定のパーセンテージは(全ペダル移動量の)約90%である。
【0020】
ここで、高スロットル要求が存在しない場合、高速のエンジン速度(ES)に早く到達することがエンジン28に要求されていないことになる。従って、エンジン速度の傾斜率つまりエンジン速度(ES)がターゲット速度(EST)に到達する割合は、高くなくともよい。この場合、本発明の実施の形態に係るスロットル傾斜率の制御システムは、ボックス120に示すように、デフォルトの低いスロットル傾斜率(予め定められた低いスロットル傾斜率)をエンジン28に対して適用する。
【0021】
これに対して、高スロットル要求が存在する場合、高速のターゲットエンジン速度(EST)に早く到達することがエンジン28に要求されていることになる。この場合、本発明の実施の形態に係るスロットル傾斜率の制御システムは、車両の推定重量に基づいて、デフォルトの高いスロットル傾斜率(予め定められた高いスロットル傾斜率)を修正しようと試みる。ここで、車両重量だけが問題となるのであれば、車両総重量(GVW:gross vehicle weight)の推定値を用いることが妥当となる。しかしながら、車両が、トレーラを含む場合のある、ヘビーデューティートラックまたはこの同等物の場合には、GVWに対してトレーラ重量を組み合わせた結合(コンバイン)総重量(GCW:gross combined weight)を用いることが適当な重量を示す上で妥当となる。以下、本明細書では、車両の推定重量はこのGCWによって適切に示されるものと仮定する。
【0022】
上記GCWは様々な直接的または間接的な手法によって推定することができる。例えば、GCWを直接的に推定する手法の一つは、車両に組み込まれるセンサを用いて行われる。あるいは、GCWは数学的な算出によって、間接的に推定されることができる。ここで、GCWを制御用パラメータとして利用し、及び/またはGCWを決定するためにロジックを備えた、自動車両システムの例として、米国特許第5,490,063号と第5,491,630号の公報の開示例を挙げることができるが、これらの全開示内容は参照上、本発明に抱合されるものとする。これら米国特許に開示されているように、車両の加速度のようなデータをモニタした後、数学的な関数を多段階的に反復して適用して、GCWに相当する重量の値を導き出すことができる。また、システムは、ECU60または電子計算能力を有する他の車両部品を用いて、上記数学的な計算プロセスを行うように構成できる。例えば、イートンコーポレーションのオートシフトTM変速システムでは、車両重量を推定する能力を備えている。従って、オートシフトTM変速システムを用いる車両に本発明の実施の形態を組み込んだ場合、スロットル傾斜率制御システムはオートシフトTM変速システムからGCWのデータを得ることができる。以下、本明細書では、説明を容易にするために、GCWは数学的な計算によって推定されるものと仮定する。
【0023】
数学的な計算によってGCWを推定する場合には、データが理にかなって正確であることを保証するために、データを検証または確認することを必要としてもよい。このため、多段階的にデータを集めるとともに、数学的な計算を複数回反復して行うことを必要としてもよい。例えば、理にかなって正確なGCWの推定が得られる前提として、50回にわたって計算することを要求してもよく、かつ各計算を行う度に、この計算前に新規な車両の操作データを用いるようにしてもよい。さらに、一定の時間間隔または一定の操作が行われる間、例えば、変速機22をローギアからハイギアまでシフトしたときのような場合に限って、車両の操作データが得られるようにしてもよい。この場合、一定の時間が経過するまで、または変速機22の一定の数のギアがシフトされるまで、理にかなって正確なGCWの推定を得られないようにすることができる。
【0024】
理にかなって正確なGCWの推定が得られたことを保証するために、本発明の実施の形態に係るスロットル傾斜率制御システムでは、ステップ130にて、この推定されたGCWの検証または確認を行うが、この作業は、要求された数の計算を行うために十分な時間が費やされたのか、または十分な回数適切な作業が行われたのかを確認するように行われる。また、車両が発進状態のときに、高スロットル要求が存在するが、しかし、ステップ130で推定されたGCWが上記理由によって検証できない場合には、システムはデフォルトの高スロットル傾斜率をエンジン28に対して適用するようにする(ステップ140参照)。
【0025】
推定GCWを得ることができて、またステップ130でこの検証をすることができた場合には、システムはステップ150に進んで、予めプログラムされたロジックルールに基づいて、車両重量(GCW)を考慮しながら、使用できる適切なスロットル傾斜率を決定する。車両重量(GCW)を考慮して調整される新規なスロットル傾斜率は、デフォルトの高スロットル傾斜率に対して、オフセット量を加えるか、または引くことで得られる。ここで、説明を容易にするために、次の例を参照されたい。即ち、デフォルトの高スロットル傾斜率が100rpm/secであると仮定する。また、本発明の実施の形態に係るスロットル傾斜率制御システムを組み込んだトラックは、通常、18,000lbsの重量を有するが、しかし積荷されると70,000lbsの重量を有するとする。そして、トラックの推定重量を検証することで、システムが130rpm/secの高スロットル傾斜率が適切であると決定すると、システムは100rpm/secのデフォルトの傾斜率に対して30rpm/secのオフセットを加える必要があると判断する。
【0026】
このデフォルトの傾斜率に対する調整を終了する前に、システムはエラーのチェックを行うプロセスを実行する。特に、ステップ160において、オフセットの計算量が予め定められた範囲内に収まっているか否かの決定を行う。この予め定められた範囲は経験的に求められた第1と第2の最大オフセット値によって定められるが、これら値は夫々、デフォルトの傾斜率を最大に増加できる量、例えば、+50rpm/secと、最大に減少できる量、例えば、−50rpm/secに相当する。
【0027】
ここで、計算されたオフセット量が予め定められた範囲内に収まっている場合には、(オフセットは)理にかなっていると判断される。そして、この高スロットル傾斜率は、ステップ180で、デフォルトの傾斜率に対してオフセットを加えるように調整される。さらに、システムは、さらなる処理と実行を行うために、ステップ190で、他の車両のシステムに対して調整された高スロットル傾斜率を適用させる。
【0028】
一方、計算されたオフセット量が許容範囲内から外れている場合には、2つの経験的に定められた最大オフセットのうちの近似する方と等しくなるようにオフセットを定める。ここで、説明を容易にするために、次の例を参照されたい。即ち、傾斜率のオフセットが+60rpm/secであると計算されたが、しかしオフセットの許容範囲は+50rpm/secと−50rpm/secの間に定められていたとする。この場合、計算されたオフセット値は、ステップ170にて、2つの最大オフセット値のうちの近似する方と等しくなるように設定される。この場合、前段階で計算された+60rpm/secのオフセット値は+50rpm/secに減少されることになる。このように、本発明に係る実施の形態では、上述のように、高スロットル傾斜率を調整することができる。この場合、本発明の実施の形態に係るシステムは、高スロットル傾斜率の値が小さ過ぎることも、また大き過ぎることもないように設定することで、システムにダメージが発生することを防ぐことができる。
【0029】
従って、単一のデフォルトの高スロットル傾斜率のみに依存する通常の車両と異なり、本発明の実施の形態に係るシステムでは、上述したように、推定車両重量(GCW)に基づいて高スロットル傾斜率を調整できる。この調整によって、システムは複数の高スロットル傾斜率のうちから任意の一つを利用することができる。このことは、図4に示した経時的にエンジンン速度を変化させたときのグラフからさらに明らかになる。即ち、例えば、図4のラインBが通常のシステムの傾斜率、つまり、本発明の実施の形態に係るデフォルトの傾斜率を示していると仮定する。このデフォルトの傾斜率に対して、オフセット値を決定し、適用することで、例えば低い値(ラインA)または高い値(ラインC)として示されている調整された傾斜率を得ることができる。
【0030】
本発明に係るさらなる実施の形態では、クラッチの接続状態が予め定められた位置(ポイント)に到った、または近づいたときの車両状態に限って、推定車両重量(GCW)に基づいた調整をデフォルトの高スロットル傾斜率に対して行えるようにしてもよい。この実施の形態では、上記予め定められた位置は、従来公知の「タッチポイント(接触位置)」の位置または近似する位置として設定するが、この位置は、クラッチ30が接続を開始して、トルクを伝達しはじめる瞬間に該当する。図5のグラフにさらに強調して示すように、車両状態が符号Aに示す「タッチポイント」に到達するか、または十分に接近するまで、デフォルトの高スロットル傾斜率に対して調節が行われないようにする。そして、車両状態が位置Aに達すると(または十分に近づくと)、エンジン28の加速はこのままの比率で継続するか(C)、またはデフォルトの傾斜率に対して計算されたオフセットを加えて、最も低い比率(B)か、または最も大きな比率(D)になる。故に、本発明に係る実施の形態では、所定の時間の間、高い傾斜率を適用することで車両の加速が素早く開始できるようにするとともに、一度クラッチの接続が開始されると、調整された傾斜率を適用することで(車両の加速が)緩やかになるようにすることができる。従って、本発明に係る実施の形態では、ダメージの発生を伴う、エンジン28の急激な加速のような、面倒な車両の発進が生じる割合を減らすことができる。
【0031】
以上、添付した図面を参照して、本発明に係る好適な実施の形態について説明したが、しかしながら、本発明の範囲は、上述した説明と図面によって限定されることはなく、これら説明と図面は本発明に係る好適な実施の形態を説明するためのものに過ぎない。即ち、当該分野に係る通常の知識を有する者であれば、本発明の範囲内で、上述した実施の形態に対して様々な変形及び修正を行うことは可能であると思料するが、これら変形及び修正は添付した特許請求の範囲内に収まる限り、本発明の範囲内にあることを理解されたい。
【符号の説明】
【0032】
20 駆動系システム、22 変速システム(変速機)、28 原動機(エンジン)、30 クラッチ、47 スロットルセンサ、48 電子制御器(エンジンコントローラ)、50 シフトアクチュエータ、60 コントロールユニット(ECU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を発進させる際に変速システムに連結されたエンジンの燃料供給を制御するためのシステムであって、
前記エンジンのスロットルセンサに選択的に通信するコントロールユニットを含み、
前記コントロールユニットは、前記車両の推定重量が得られるように構成されるとともに前記スロットルセンサおよび前記エンジンからの信号を受信し、前記車両を発進させる際に高目標エンジン速度に到達するように、スロットル位置が予め定められた位置を越えた場合に決定される高スロットル要求を検出し、
前記コントロールユニットは、前記高スロットル要求を検出した場合に、前記車両の前記推定重量に基づくエンジン速度に関連して、予め設定された高スロットル傾斜率を調整することを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記車両の前記推定重量は、前記車両の結合総重量であることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記推定車両重量は、前記コントロールユニットと通信するセンサの読み取りを利用した数学的な計算によって得られることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記車両の前記推定重量は、前記車両の結合総重量であることを特徴とする請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記センサの読み取りは、前記車両の加速度を測定することでなされることを特徴とする請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記高スロットル要求の前記検出は、加速用ペダルの位置状態に基づき行われることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記コントロールユニットは、前記車両の前記推定重量に基づくオフセット量の追加を行うことで、前記予め設定された高スロットル傾斜率の調整を行うことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記コントロールユニットは、前記オフセット量を少なくとも1つの予め設定されたオフセット値と比較して、前記オフセット量が妥当なものであることを検証することを特徴とする請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記コントロールユニットは、前記オフセット量が予め設定された範囲外にあると判断した場合、前記オフセット量を減少させることを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
さらに、少なくとも1つのデータリンクを介して前記コントロールユニットと交信可能なエンジンコントロールユニットを備え、前記エンジンコントロールユニットは、前記コントロールユニットによりもたらされる指示に基づき、前記エンジンの操作を直接的に制御することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
さらに、前記車両のエンジンを前記変速システムに連結するクラッチを含み、
前記クラッチは、非摩擦クラッチあるいは摩擦クラッチの1つを含むことを特徴とする請求項1に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−43649(P2010−43649A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244571(P2009−244571)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【分割の表示】特願2003−370547(P2003−370547)の分割
【原出願日】平成15年10月30日(2003.10.30)
【出願人】(390033020)イートン コーポレーション (290)
【氏名又は名称原語表記】EATON CORPORATION
【Fターム(参考)】