説明

エンジンの空燃比制御装置およびエンジンの空燃比制御方法

【課題】アイドリング状態における酸素濃度センサの活性を得難いエンジンであっても、アイドリングを安定可能なエンジンの空燃比制御装置およびエンジンの空燃比制御方法を提案する。
【解決手段】エンジン18の空燃比制御装置31は、スロットルバルブ32が全閉状態か否かを検知するスロットルセンサ33と、エンジン回転数センサ35と、スロットルバルブ32の全閉状態およびエンジン18の回転数からエンジン18がアイドリング状態か否かを判断するアイドリング判断部36と、エンジン18の排気ガスの酸素濃度を測定する酸素濃度センサ37と、酸素濃度センサ37を加熱するヒータ38と、アイドリング状態のとき、時系列における補正係数の変化が予め定める所定の範囲に収束すると補正係数の代表値を維持して燃料供給量の制御を行うとともにヒータ38への給電を継続的または断続的に停止するECU43と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの空燃比制御装置およびエンジンの空燃比制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素濃度センサによって排気ガス中の酸素濃度を測定し、測定した酸素濃度から燃焼用混合気の空燃比が理論空燃比になるように燃料供給量の制御を行うエンジンの空燃比制御装置が知られている。なお、排気ガス中の酸素濃度から燃焼用混合気の空燃比が理論空燃比になるように燃料供給量の制御を行うことを「O2フィードバック制御」と呼ぶ。
【0003】
酸素濃度センサは、センサ自体の温度が活性化温度に達していなければ酸素濃度を正確に測定できない。そこで、空燃比制御装置は、酸素濃度センサの活性を得るために酸素濃度センサを加熱するヒータを備える。ヒータは、電気ヒータであり、エンジンの発電機(オルタネータ)から電力を得て発熱する(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−93140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
50ccクラスや125ccクラスの小排気量のエンジンは、発電による負荷(損失)が出力の低下に及ぼす影響が大きい。そこで、小排気量のエンジンは、発電機の発電量を極力抑えてエンジンの負荷を軽減する。
【0006】
しかし、発電機の発電量を抑えると、エンジンのアイドリング状態(すなわち、エンジン回転数が低い状態)における発電量は相当低下し、電力に余裕がなくなる。
【0007】
一方、ヒータを含むエンジン等の電力は、発電機が発電する電力およびバッテリが蓄電する電力によって賄われるものの、エンジンのアイドリング状態とバッテリの蓄電容量の低下とが重なれば電力余裕確保のためにヒータの電力供給を遮断する必要が生じる。
【0008】
ヒータの電力供給を遮断すれば酸素濃度センサの温度が下がって活性が保てなくなる虞があり、酸素濃度センサが不活性になればO2フィードバック制御を継続できなくなる。O2フィードバック制御が行えなければ燃焼用混合気の空燃比を理論空燃比に保てなくなり、場合によってはエンジン回転数が不安定に陥り、燃焼が不安定になって排気ガス中の大気汚染物質が増加し、さらにエンジン停止に至る。
【0009】
そこで、本発明は、電力不足などによってアイドリング状態における酸素濃度センサの活性を得難いエンジンであっても、アイドリングを安定可能なエンジンの空燃比制御装置およびエンジンの空燃比制御方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するため本発明に係るエンジンの空燃比制御装置は、エンジンの吸気量を変更するスロットルバルブが全閉状態か否かを検知するスロットルセンサと、前記エンジンの回転数を測定するエンジン回転数センサと、前記スロットルセンサが検知する前記スロットルバルブの全閉状態および前記エンジン回転数センサが測定する前記エンジンの回転数から前記エンジンがアイドリング状態か否かを判断するアイドリング判断部と、前記エンジンの排気ガスの酸素濃度を測定する酸素濃度センサと、前記酸素濃度センサを加熱するヒータと、前記アイドリング判断部の判断が非アイドリング状態のとき、前記酸素濃度センサが測定する酸素濃度から燃焼用混合気の空燃比が理論空燃比となる補正係数を算出して燃料供給量の制御を行い、前記アイドリング判断部の判断がアイドリング状態のとき、時系列における前記補正係数の変化が予め定める所定の範囲に収束すると前記補正係数の代表値を維持して燃料供給量の制御を行うとともに前記ヒータへの給電を継続的または断続的に停止する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るエンジンの空燃比制御方法は、エンジンの排気ガスの酸素濃度を測定し、スロットルバルブが全閉状態か否かを検知し、前記エンジンの回転数を測定し、前記スロットルバルブの全閉状態および前記エンジンの回転数から前記エンジンがアイドリング状態か否かを判断し、前記エンジンが非アイドリング状態のとき、前記酸素濃度から燃焼用混合気の空燃比が理論空燃比となる補正係数を算出して燃料供給量の制御を行い、前記エンジンがアイドリング状態のとき、時系列における前記補正係数の変化が予め定める所定の範囲に収束すると前記補正係数の代表値を維持して燃料供給量の制御を行うとともに前記酸素濃度を測定する酸素濃度センサを加熱するヒータへの給電を継続的または断続的に停止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電力不足などによってアイドリング状態における酸素濃度センサの活性を得難いエンジンであっても、燃焼用混合気の空燃比を理論空燃比もしくはこれに近い空燃比に保つことが可能なエンジンの空燃比制御装置およびエンジンの空燃比制御方法を提案できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジンの空燃比制御装置が適用された自動二輪車を示す左側面図。
【図2】本発明の実施形態に係るエンジンの空燃比制御装置を示すシステム構成図。
【図3】本発明の実施形態に係るエンジンの空燃比制御装置によるアイドリング時燃料供給制御を示したフローチャート。
【図4】本発明の実施形態に係るエンジンの空燃比制御装置によるアイドリング時燃料供給制御を示したタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るエンジンの空燃比制御装置およびエンジンの空燃比制御方法の実施の形態について、図1から図4を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係るエンジンの空燃比制御装置が適用された自動二輪車を示す左側面図である。
【0016】
本実施形態において、前後、左右、上下の表現は、車両乗車時の運転者を基準にする。
【0017】
図1に示すように自動二輪車1は、所謂スクータ型の車両である。自動二輪車1は、車体フレーム2と、車体フレーム2の前端部に左右方向へ回転自在に軸支されたステアリング機構3と、ステアリング機構3の下端部に軸支された前輪5と、ステアリング機構3に設けられた前輪懸架装置6と、車体フレーム2の後部に上下方向へ揺動自在に軸支されたパワーユニット7と、パワーユニット7の後端部に軸支された後輪8と、車体フレーム2とパワーユニット7との間に架設された後輪懸架装置9と、を備える。
【0018】
車体フレーム2は、アンダーボーン型であり、前頭部のステアリングパイプ11と、ステアリングパイプ11の後部から下方へ向かって延びるメインフレーム12と、メインフレーム12の下部から後斜め上方へ向かって延び留左右一対のリアフレーム13と、を備える。ステアリングパイプ11は、ハンドルバー15を含むステアリング機構3を回転自在に軸支する。メインフレーム12は、リンク部材16を介してパワーユニット7を支持する後端部を有する。
【0019】
パワーユニット7は、エンジン18および伝動装置19を一体に備えるユニットである。また、パワーユニット7は、エンジン18へ吸気を導く吸気管21と、エンジン18から排気を導く排気管22と、吸気管21の途中に設けられたスロットルボディ23と、を備える。伝動装置19は、後輪8を軸支する。
【0020】
後輪懸架装置9は、パワーユニット7および後輪8を緩衝懸架する。
【0021】
図2は、本発明の実施形態に係るエンジンの空燃比制御装置を示すシステム構成図である。
【0022】
図2に示すように、エンジン18の空燃比制御装置31は、エンジン18の吸気量を変更するスロットルバルブ32が全閉状態か否かを検知するスロットルセンサ33と、エンジン18の回転数を測定するエンジン回転数センサ35と、スロットルセンサ33が検知するスロットルバルブ32の全閉状態およびエンジン回転数センサ35が測定するエンジン18の回転数からエンジン18がアイドリング状態か否かを判断するアイドリング判断部36と、エンジン18の排気ガスの酸素濃度を測定する酸素濃度センサ37と、酸素濃度センサ37を加熱するヒータ38と、アイドリング判断部36の判断が非アイドリング状態のとき、酸素濃度センサ37が測定する酸素濃度から燃焼用混合気の空燃比が理論空燃比となる補正係数を算出して燃料供給量の制御を行い、アイドリング判断部36の判断がアイドリング状態のとき、時系列における補正係数の変化が予め定める所定の範囲に収束すると補正係数の代表値を維持して燃料供給量の制御を行うとともにヒータ38への給電を継続的または断続的に停止するエレクトリックコントロールユニット43(制御部)と、を備える。
【0023】
エンジン18は、クランクシャフト(図示省略)から動力を得て発電する発電機41を備える。インジェクタ42は、吸気管21のうちエンジン18とスロットルボディ23との間の部分にあり、燃料を吸気流路に噴射する。
【0024】
スロットルバルブ32は、スロットルボディ23に収容された絞り弁であり、アクセルグリップ(図示省略)の操作量に応じて吸気管21内の吸気流路の断面積を変化させて吸気量の制御を行う。具体的には、スロットルバルブ32は、バタフライバルブである。なお、スロットルバルブ32が全閉状態であっても、エンジン18のアイドリングを維持可能な吸気量は確保される。
【0025】
スロットルセンサ33は、スロットルバルブ32の弁開度を検知するものであり、具体的には、スロットルバルブ32の回転角を検知する。スロットルセンサ33は、スロットルバルブ32の弁開度からスロットルバルブ32が全閉状態か否かを検知する。
【0026】
酸素濃度センサ37は、排気管22中に設けられる。
【0027】
エレクトリックコントロールユニット43(Electric Control Unit 以下、単に「ECU」という。)は、エンジン18の運転制御を行う制御部である。ECU43は、スロットルセンサ33の検知信号、エンジン回転数センサ35の検知信号および酸素濃度センサ37の測定信号を入力信号として取得する入力回路(図示省略)と、中央演算処理ユニット(図示省略、以下、「CPU」という。)と、CPUが実行する各種演算プログラムおよび演算結果などを記憶する記憶回路(図示省略)と、インジェクタ42に制御信号を出力する出力回路(図示省略)と、を備える。
【0028】
また、ECU43は、アイドリング判断部36と、燃料供給量制御部39と、ヒータ制御部40と、を有する。アイドリング判断部36、燃料供給量制御部39およびヒータ制御部40は、演算プログラムである。
【0029】
アイドリング判断部36は、スロットルバルブ32が全閉状態であり、かつエンジン18の回転数が予め設定するアイドリング範囲(例えば、1000rpm±100rpm)であるとき、エンジン18がアイドリング状態にあると判断し、その他のときは、非アイドリング状態にあると判断する。アイドリング判断部36は、判断結果を記憶部に書き込みもしくは更新する。アイドリング判断部36による判断結果は、燃料供給量制御部39などの演算プログラムから参照できる。
【0030】
燃料供給量制御部39は、入力信号からインジェクタ42の制御信号を算出し、ECU43は、この制御信号に基づいてインジェクタ42の燃料噴射量の制御を行う。また、燃料供給量制御部39は、エンジン18がアイドリング状態にあるか否かによって制御信号の算出方法を異ならせる。
【0031】
先ず、燃料供給量制御部39は、エンジン18が非アイドリング状態のとき、すなわち、参照するアイドリング判断部36の判断結果が非アイドリング状態のとき、酸素濃度センサ37が測定する酸素濃度から燃焼用混合気の空燃比が理論空燃比となる補正係数を時々刻々(具体的には、所定の時間間隔毎に)算出してインジェクタ42の燃料供給量の制御を行う(所謂、O2フィードバック制御を行う。)。また、燃料供給量制御部39は、O2フィードバック制御とともにヒータ38へ給電、加熱して酸素濃度センサ37の活性を保つ。
【0032】
他方、燃料供給量制御部39は、エンジン18がアイドリング状態のとき、すなわち、参照するアイドリング判断部36の判断結果がアイドリング状態のとき、初期においてはO2フィードバック制御を継続しつつ、補正係数の時間的変化を監視する。そして、燃料供給量制御部39は、補正係数の時間的変化が予め定める所定の範囲に収束すると、補正係数の代表値を算定する。補正係数の代表値を算定した後、燃料供給量制御部39は、補正係数の代表値を維持してインジェクタ42の燃料供給量の制御を維持、継続して行う。
【0033】
ヒータ制御部40は、エンジン18がアイドリング状態にあるか否かによってヒータ38の加熱条件を切り換える。
【0034】
先ず、ヒータ制御部40は、エンジン18が非アイドリング状態のとき、酸素濃度センサ37の温度が活性化温度に達していなければ正確な酸素濃度を取得できずに燃料供給量制御部39におけるO2フィードバック制御に支障をきたしてしまうので、ヒータ38へ給電、加熱して酸素濃度センサ37の活性を得る。
【0035】
他方、ヒータ制御部40は、エンジン18がアイドリング状態のとき、すなわち、参照するアイドリング判断部36の判断結果がアイドリング状態のとき、燃料供給量制御部39において補正係数の代表値が算定された後、ヒータ38への給電を継続的または断続的に停止する。
【0036】
ここで、エンジン18がアイドリング状態のときに燃料供給量制御部39が行うインジェクタ42の燃料供給量制御およびヒータ制御部40が行うヒータ38の加熱条件制御をアイドリング時燃料供給制御と呼ぶ。
【0037】
また、エンジン18の空燃比制御装置31は、ECU43に接続されたバッテリ45を備える。
【0038】
バッテリ45は、発電機41によって充電される二次電池であり、発電機41とともに自動二輪車1で消費される電力を賄う。
【0039】
アイドリング時燃料供給制御について、詳述する。
【0040】
図3は、本発明の実施形態に係るエンジンの空燃比制御装置によるアイドリング時燃料供給制御を示したフローチャートである。
【0041】
図4は、本発明の実施形態に係るエンジンの空燃比制御装置によるアイドリング時燃料供給制御を示したタイミングチャートである。
【0042】
図3および図4に示すように、エンジン18の空燃比制御方法であるアイドリング時燃料供給制御は、エンジン18の排気ガスの酸素濃度を測定し、スロットルバルブ32が全閉状態か否かを検知し、エンジン18の回転数を測定し、スロットルバルブ32の全閉状態およびエンジン18の回転数からエンジン18がアイドリング状態か否かを判断し、エンジン18が非アイドリング状態のとき、酸素濃度から燃焼用混合気の空燃比が理論空燃比となる補正係数を算出して燃料供給量の制御を行い、エンジン18がアイドリング状態のとき、時系列における補正係数の変化が予め定める所定の範囲に収束すると補正係数の代表値を維持して燃料供給量の制御を行うとともに酸素濃度を測定する酸素濃度センサ37を加熱するヒータ38への給電を継続的または断続的に停止する。
【0043】
より具体的には、エンジン18の空燃比制御装置31の燃料供給量制御部39は、ステップS1でアイドリング判断部36を参照し、エンジン18がアイドリング状態か否かを判断する。燃料供給量制御部39は、参照するアイドリング判断部36の判断結果がアイドリング状態か否かを判断する。燃料供給量制御部39は、エンジン18がアイドリング状態のとき(つまり、参照するアイドリング判断部36の判断結果がアイドリング状態のときであり、図4中のアイドリング範囲α)、ステップS2へ進む。その他の場合、燃料供給量制御部39は終了する。なお、燃料供給量制御部39は、終了するとステップS1から再開する。
【0044】
次に、燃料供給量制御部39は、ステップS2で酸素濃度センサ37が正常か否かを判断する。酸素濃度センサ37が正常(故障していない)であればステップS3へ進む。その他の場合、燃料供給量制御部39は終了する。
【0045】
酸素濃度センサ37が正常か否かの判断は、スロットルバルブ32が全閉状態になるのと略同時(若干の時間遅れをともなう)に酸素濃度センサ37が測定する酸素濃度から空燃比を算出し、もしくは酸素濃度センサ37が測定する酸素濃度を直接監視して行う。例えば、算出した空燃比が理論空燃比に比べて極めて大きい(所謂、リーン)状態であれば、酸素濃度センサ37は正常であり、その他の場合は異常である。なお、酸素濃度センサ37が正常か否かの判断(換言すれば、酸素濃度センサ37の故障判定)を行うステップS2は、アイドリング判断部36のような個別の演算プログラムでも良い。
【0046】
次に、燃料供給量制御部39は、ステップS3で酸素濃度センサ37の活性化が必要か否かを判断する。酸素濃度センサ37の活性化が必要であればステップS4へ進む。その他の場合、燃料供給量制御部39は終了する。
【0047】
酸素濃度センサ37の活性化が必要か否かの判断は、スロットルバルブ32が全閉状態になるのと略同時(若干の時間遅れをともなう)に酸素濃度センサ37が測定する酸素濃度から空燃比を算出し、もしくは酸素濃度センサ37が測定する酸素濃度を直接監視して行う。例えば、算出した空燃比が理論空燃比に比べて大きい(所謂、弱リーン)状態であれば、酸素濃度センサ37は活性化を要し、その他の場合は活性化を要しない。なお、酸素濃度センサ37の活性化が必要か否かの判断を行うステップS3は、アイドリング判断部36のような個別の演算プログラムでも良い。
【0048】
次に、ヒータ制御部40は、ステップS4でバッテリ45がヒータ38の加熱に必要な蓄電力を有するか否かを判断する。バッテリ45の蓄電力がヒータ38の加熱に十分であればステップS6に進む。その他の場合、ヒータ制御部40はステップS5に進む。
【0049】
バッテリ45がヒータ38の加熱に必要な蓄電力を有するか否かの判断は、バッテリ45の出力電圧を監視して行う。なお、バッテリ45がヒータ38の加熱に必要な蓄電力を有するか否かの判断を行うステップS4は、アイドリング判断部36のような個別の演算プログラムでも良い。
【0050】
次に、ヒータ制御部40は、ステップS5でヒータ38の給電を遮断して終了する。
【0051】
他方、ヒータ制御部40は、ステップS6でアイドリング判断部36を参照し、エンジン18がアイドリング状態か否かを判断する。ヒータ制御部40は、エンジン18がアイドリング状態のとき(具体的には、参照するアイドリング判断部36の判断結果がアイドリング状態のとき)、ステップS7へ進む。その他の場合、ヒータ制御部40は終了する。ヒータ制御部40は、ステップS6でエンジン18がアイドリング状態を継続しているか否かを監視する。
【0052】
次に、ヒータ制御部40は、ステップS7でヒータ38の給電を継続する。なお、ヒータ制御部40は、エンジン18が非アイドル状態であればヒータ38の加熱を常時継続し、かつエンジン18が非アイドル状態からアイドル状態に移行してもステップS7まではヒータ38の加熱を継続する。
【0053】
ステップS1からステップS7は、図4中の区間Aで進行する。
【0054】
次に、燃料供給量制御部39は、ステップS8でO2フィードバック制御の補正係数が安定しているか否かを判断する。燃料供給量制御部39は、O2フィードバック制御の補正係数が安定すれば、ステップS9へ進む。その他の場合、燃料供給量制御部39はステップS4へ戻る。燃料供給量制御部39は、O2フィードバック制御の補正係数が安定するまではステップS4からステップS8を繰り返し、繰り返し期間においてバッテリ45の蓄電力がヒータ38の加熱に不十分になったり、エンジン18が非アイドリング状態になったりすると、アイドリング時燃料供給制御を終了する。
【0055】
O2フィードバック制御の補正係数が安定しているか否かの判断は、予め定める所定の期間における補正係数の時間的変化を監視して行う。補正係数の時間的変化の監視は、統計的な手法によって行い、例えば、予め定める所定の期間毎に補正係数の偏差σを算出して、偏差σが予め定める所定の範囲(例えば、偏差σが補正係数の中央値の1%以下)に収束すれば、補正係数は安定であり、その他の場合は不安定である。予め定める所定の範囲は、時系列における補正係数から算出する偏差の範囲である。
【0056】
次に、燃料供給量制御部39は、ステップS9で補正係数の代表値mを決定する。補正係数の代表値mは、統計的な手法によって算出する値であり、略理論空燃比を維持しつつエンジン18のアイドリング状態を継続可能な補正係数である。例えば、補正係数の代表値mは、時系列における補正係数から算出する平均値である。また、補正係数の代表値mは、時系列における前記補正係数から算出する中央値でもよい。
【0057】
次に、燃料供給量制御部39は、ステップS10で補正係数の代表値mを維持する。補正係数は、O2フィードバック制御の過程で刻々と算出される値であるが、ステップS10は、補正係数の安定(ステップS8)および代表値mの算出(ステップS9)を経て得られた補正係数の代表値mを維持しつつ、補正係数の更新を抑制する。
【0058】
ステップS8からステップS10は、図4中の区間Bで進行する。
【0059】
次に、燃料供給量制御部39はステップS11で補正係数の算出を一旦停止し、ヒータ制御部40はステップS12でヒータ38への給電を一旦停止する。
【0060】
ヒータ制御部40はステップS12の処理を終えると、酸素濃度センサ37を加熱するヒータ38の給電を遮断し、一方、燃料供給量制御部39は補正係数を更新することなく、補正係数の代表値mを使用してO2フィードバック制御を継続する。ヒータ38の給電遮断によって仮に酸素濃度センサ37が不活性になっても、燃料供給量制御部39は、補正係数の代表値mを使用してO2フィードバック制御を継続できる。
【0061】
次に、燃料供給量制御部39およびヒータ制御部40は、ステップS13でアイドリング判断部36を参照し、エンジン18がアイドリング状態か否かを判断する。燃料供給量制御部39は、エンジン18がアイドリング状態のとき(具体的には、参照するアイドリング判断部36の判断結果がアイドリング状態のとき)、ステップS13を継続する。その他の場合、ステップS14に進む。燃料供給量制御部39は、エンジン18がアイドリング状態であれば、補正係数の代表値mを使用するO2フィードバック制御の継続を行い、ヒータ制御部40は、エンジン18がアイドリング状態であれば、ヒータ38の給電遮断の継続を行う。
【0062】
ステップS11からステップS13は、図4中の区間Cで進行する。
【0063】
なお、ヒータ制御部40は、ステップS11からステップS13が継続する期間中(図4中の区間C)、ヒータ38への給電を継続的に遮断するのみならず、断続的に遮断しても良い(図4中の区間Cの破線条件)。
【0064】
他方、燃料供給量制御部39は、ステップS14で補正係数の代表値mを破棄し、ステップS15で補正係数の算出を再開する。ヒータ制御部40は、ステップS16でヒータ38への給電を再開して終了する。燃料供給量制御部39は、エンジン18が非アイドリング状態になると、酸素濃度から燃焼用混合気の空燃比が理論空燃比となる補正係数を時々刻々算出して燃料供給量の制御を行う。
【0065】
ステップS14からステップS16は、図4中の区間Dで進行する。
【0066】
このように、ECU43は、エンジン18がアイドリング状態になり、かつO2フィードバック制御の補正係数が安定すると、ヒータ38の給電を遮断して酸素濃度センサ37の出力に頼らず、補正係数の代表値を使用してO2フィードバック制御を継続する。このとき、ECU43は、酸素濃度センサ37が活性化されているか否かによらず、ほぼ理論空燃比を保ちつつ(所謂、ストイキ)エンジン18のアイドリングを維持できる。しかも、エンジン18がアイドリング中、発電機41の発電量が低下するものの、ECU43は、ヒータ38の給電を遮断して他系統の電力を確保する。
【0067】
したがって、本実施形態に係るエンジン18の空燃比制御装置31および空燃比制御方法は、酸素濃度センサ37が活性化されているか否かによらず、ほぼ理論空燃比を保ちつつ(所謂、ストイキ)エンジン18のアイドリングを維持できる。
【0068】
また、本実施形態に係るエンジン18の空燃比制御装置31および空燃比制御方法は、エンジン18がアイドリング状態で安定すれば、ヒータ38の給電を継続的または断続的に遮断して消費電力を低減できる。この消費電力の低減は、より小型、小発電量の発電機41の適用を許容し、ひいてはエンジン18の負荷(損失)の低減にも寄与し、エンジン18の燃費や出力の向上にも寄与する。
【0069】
さらに、本実施形態に係るエンジン18の空燃比制御装置31および空燃比制御方法は、燃料としてアルコール含有燃料の採用、ブリーザエアの影響などエンジン18のアイドリングの安定化にとって外乱要素となる事象に対しても安定したアイドリングを維持できるロバスト性の高いものである。
【0070】
さらにまた、本実施形態に係るエンジン18の空燃比制御装置31および空燃比制御方法は、エンジン18のアイドリングの都度、補正係数の代表値を算定するので、補正係数の代表値に相当する設定値を予め記憶部に記憶する必要が無い。
【0071】
したがって、本実施形態に係るエンジン18の空燃比制御装置31および空燃比制御方法によれば、電力不足などによってアイドリング状態における酸素濃度センサの活性を得難いエンジン18であっても、アイドリングを安定できる。
【符号の説明】
【0072】
1 自動二輪車
2 車体フレーム
3 ステアリング機構
5 前輪
6 前輪懸架装置
7 パワーユニット
8 後輪
9 後輪懸架装置
11 ステアリングパイプ
12 メインフレーム
13 リアフレーム
15 ハンドルバー
16 リンク部材
18 エンジン
19 伝動装置
21 吸気管
22 排気管
23 スロットルボディ
31 空燃比制御装置
32 スロットルバルブ
33 スロットルセンサ
35 エンジン回転数センサ
36 アイドリング判断部
37 酸素濃度センサ
38 ヒータ
39 燃料供給量制御部
40 ヒータ制御部
41 発電機
42 インジェクタ
43 エレクトリックコントロールユニット(ECU)
45 バッテリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの吸気量を変更するスロットルバルブが全閉状態か否かを検知するスロットルセンサと、
前記エンジンの回転数を測定するエンジン回転数センサと、
前記スロットルセンサが検知する前記スロットルバルブの全閉状態および前記エンジン回転数センサが測定する前記エンジンの回転数から前記エンジンがアイドリング状態か否かを判断するアイドリング判断部と、
前記エンジンの排気ガスの酸素濃度を測定する酸素濃度センサと、
前記酸素濃度センサを加熱するヒータと、
前記アイドリング判断部の判断が非アイドリング状態のとき、前記酸素濃度センサが測定する酸素濃度から燃焼用混合気の空燃比が理論空燃比となる補正係数を算出して燃料供給量の制御を行い、前記アイドリング判断部の判断がアイドリング状態のとき、時系列における前記補正係数の変化が予め定める所定の範囲に収束すると前記補正係数の代表値を維持して燃料供給量の制御を行うとともに前記ヒータへの給電を継続的または断続的に停止する制御部と、を備えたことを特徴とするエンジンの空燃比制御装置。
【請求項2】
前記所定の範囲は、時系列における前記補正係数から算出する偏差の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの空燃比制御装置。
【請求項3】
前記代表値は、時系列における前記補正係数から算出する平均値であることを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンの空燃比制御装置。
【請求項4】
前記代表値は、時系列における前記補正係数から算出する中央値であることを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンの空燃比制御装置。
【請求項5】
エンジンの排気ガスの酸素濃度を測定し、
スロットルバルブが全閉状態か否かを検知し、
前記エンジンの回転数を測定し、
前記スロットルバルブの全閉状態および前記エンジンの回転数から前記エンジンがアイドリング状態か否かを判断し、
前記エンジンが非アイドリング状態のとき、前記酸素濃度から燃焼用混合気の空燃比が理論空燃比となる補正係数を算出して燃料供給量の制御を行い、
前記エンジンがアイドリング状態のとき、時系列における前記補正係数の変化が予め定める所定の範囲に収束すると前記補正係数の代表値を維持して燃料供給量の制御を行うとともに前記酸素濃度を測定する酸素濃度センサを加熱するヒータへの給電を継続的または断続的に停止することを特徴とするエンジンの空燃比制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−107520(P2012−107520A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254741(P2010−254741)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】