説明

エンジンの記憶制御装置およびエンジンの記憶制御方法

【課題】安定して運転情報を記憶できる船外機用エンジンの記憶制御装置を提供する。
【解決手段】運転状態記憶制御手段(ECU30)は、エンジン10の運転中にエンジン停止スイッチ16のオン/オフを判定する機能(S301)と、判定したエンジン停止スイッチのオン/オフ情報を一定時間後にエンジン10の運転制御へ反映させる機能(S302)と、エンジン停止スイッチのオン/オフ情報を用いてEEPROMへの書込みを開始する機能(S303)と、故障等の個別情報が発生した場合に発生した個別情報のみを発生したタイミングで記憶する機能(S304)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの記憶制御装置およびエンジンの記憶制御方法に係り、さらに詳しくは、バッテリを装備せず、クランク軸を人力で回動させてエンジンを始動する小型船外機用のエンジンの記憶制御装置およびエンジンの記憶制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小排気量の小型船外機においては、キャブレター式での燃料供給が主流である。
また、小型船外機は、軽量で低コストに構成するために、バッテリは装備せず、始動についてもスタータなどを装備せずにリコイル始動装置を配備して、操船者の手動操作にてエンジンの始動を行うのが一般的であった。
ここで、船外機とは、エンジン、その補機、ギア、シャフト、スクリューなどが一体となった船舶の推進機のことである。
また、エンジンの記憶制御装置とは、ディーラーでのメンテナンスやメーカーでの開発に役立たせるために、エンジンの使用状態、故障履歴、あるいは運転状態などの情報を、適切なタイミングでECUに記憶させる装置のことである。
【0003】
近年、小排気量の小型の船外機においても、操作性・メンテナス性の向上、排ガス低減あるいは出力性能の向上を目的として、キャブレター式の燃料供給から電子制御式の燃料供給に変わりつつある。
しかし、小型・軽量・低コストであるエンジンが要求されるため、スタータなどの始動装置やバッテリなどは装備されない場合が多い。
また、エンジンのメンテナンスやメーカーでの今後のエンジン開発に役立たせるために、ユーザーによる船舶の操船情報(例えば、エンジン始動からエンジン停止までの時間やエンジンを全開運転している時間等のエンジンの使用情報)やユーザーのエンジン運転情報(例えば、スロットルセンサの変化量を検出することにより得られる急加減速情報やシフトセンサから得られるシフトチェンジ回数等のエンジンの運転情報)などをECUに記憶する必要がある。
また、市場モニタのためには通常のエンジン制御では使用しない大量の運転情報を記憶する必要があり、ECUのEEPROMの空き容量を可能な限り使用することがある。
【0004】
なお、特開2008−303776号公報(特許文献1)には、「キースイッチを介してバッテリからマイクロプロセッサの電源が投入され、マイクロプロセッサの初期化が終了した後、3つのデータ記憶領域に記憶されているデータを比較することによって、前回のエンジンの運転時の運転時間の積算値の最終値が正しく記憶されていると見なすことができるデータ記憶領域を判定し、積算値の最終値が正しく記憶されていると見なすことができるデータ記憶領域に記憶されている積算値を今回のエンジンの運転時にバッファメモリに記憶させるデータの初期値とする」ことが記載されている。
すなわち、特開2008−303776号公報に記載の従来のバッテリ付きエンジンでは、運転情報をECUの電源が喪失する前に、3つのデータ記憶領域へ書込みを実施し、メンテナンス時期を的確に提供する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−303776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バッテリを装備しない従来の小型船外機用のエンジンの記憶制御装置においては、クランク軸を人力で回転させて発電し、発電した電力によりECUを起動してエンジンを始動させる。エンジンの運転中は、発電電力によってECUは起動しているが、エンジンが停止すると、発電電力はECUへ供給されないので、ECUは直ちに電源オフとなって機能しなくなる。
従って、エンジンが通常運転中に、ECUに設けられているEEPROMへ各種の情報を書込まなければならなかった。
そのため、エンジンが通常運転をしているときに、所定時間毎にEEPROMへ情報を書込んだり、特定の条件が成立した瞬間のイベント(例えば、エンジンの故障など)発生時に情報を書込むことになる。
しかし、操船者がエンジンを停止した場合、「エンジンが止まるタイミング」と「EEPROMへ情報を書込むタイミング」が重なってしまうと、ECUの内部でEEPROMへ書込み処理を実施している間に電源供給がなくなり、結果としてEEPROMバケが発生してしまう可能性がある。
【0007】
ここで、「EEPROMバケ」について説明しておく。
EEPROMにデータを書込む際の実際の動作は、書込み対象領域のデータを一旦全て“1”とし、実際に記憶したい情報の部分以外を“0”としていき、記憶情報を生成している。
従って、EEPROMにデータを書込む際の「書込み対象領域のデータが全て“1”となっている状態」で供給電力がなくなると、その段階で処理が終了してしまい、記憶値として書込み対象領域の全てのデータが“1”となり、記憶されたデータが「信用できない状態」になる。この状態を「EEPROMバケ」と称している。
EEPROMバケした情報(すなわち、書込み記憶された異常値の情報)を見ると、極端に大きな値が入っている記憶値が発生しており、情報の信用性に欠けることになる。
【0008】
また、書込む情報が多いほど、「エンジンが止まるタイミング」と「情報を書込むタイミング」が重なる確率は高くなる。EEPROMは、8バイトや16バイトずつしか書込めず、また、1書込みについて役10msの時間が必要となるため、書込む情報量が多いほど「電源供給がなくなるタイミング(すなわち、エンジンが止まるタイミング)」と「情報を書込むタイミング」が重なる確率が増えることになる。
また、情報を書込むための時間である「所定時間毎の時間」を短く設定して情報を書込む頻度が高くなったり、あるいはエンジンを使用する年数が嵩むと、書込み回数が保証されているEEPROMの最大書込み回数を、オーバーする可能性がある。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、バッテリを装備していない船外機のエンジンであっても、ECUの書込み記憶情報の異常(EEPROMバケ)発生を防止して信用性の高いエンジン情報を記憶することができるとともに、書込む情報量を多く設定しても、エンジン停止による電源供給がなくなるタイミングとEEPROMへの書込みタイミングとは重ならず、安定してEPROMへの書込みを行えるエンジンの記憶制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るエンジンの記憶制御装置は、エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段と、エンジンの運転を停止させるエンジン停止手段と、前記エンジンのクランク軸が回転駆動することによって発電を行う発電手段と、人力にて前記エンジンを始動させるエンジン始動手段と、前記発電手段が発生する発電電圧によって起動開始し、前記エンジンの運転状態を記憶および制御する運転状態記憶・制御手段を備えたバッテリを装備しないエンジンの記憶制御装置であって、
前記運転状態記憶・制御手段は、前記エンジンの運転中に前記エンジン停止手段であるエンジン停止スイッチのオン/オフを判定する機能と、判定した前記エンジン停止スイッチのオン/オフ情報を一定時間後に前記エンジンの運転制御へ反映させる機能と、前記エンジン停止スイッチのオン/オフ情報を用いてEEPROMへの書込みを開始する機能と、故障やワーニングなどの個別の重要情報が発生した場合に発生した前記個別の重要情報のみを発生したタイミングで記憶する機能を有するものである。
【0011】
また、本発明に係るエンジンの記憶制御方法は、バッテリは装備せず、エンジンの運転状態を記憶および制御するエンジンの記憶制御方法であって、
前記エンジンの運転中にエンジン停止スイッチのオン/オフを判定するステップと、判定した前記エンジン停止スイッチのオン/オフ情報を一定時間後に前記エンジンの運転制御へ反映させるステップと、前記エンジン停止スイッチのオン/オフ情報を用いてEEPROMへの書込みを開始するステップと、故障やワーニングなどの個別の重要情報が発生した場合に発生した前記個別の重要情報のみを発生したタイミングで記憶するステップを有するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エンジンの運転中にエンジン停止手段であるエンジン停止スイッチのオン/オフを判定する機能と、判定した前記エンジン停止スイッチのオン/オフ情報を一定時間後にエンジンの運転制御へ反映させる機能と、エンジン停止スイッチのオン/オフ情報を用いてEEPROMへの書込みを開始する機能と、故障やワーニングなどの個別の重要情報が発生した場合に発生した個別の重要情報のみを発生したタイミングで記憶する機能を有している。
従って、ユーザーがエンジンを停止するタイミングを検出し、そのタイミングを用いてEEPROMへの書込み処理を行うことが可能であるので、電源供給がなくなるタイミングとEEPROMに情報を記憶するタイミングが重なることを防止して、バッテリを装備しない船外機のエンジンでもメンテナンスに有効なエンジン運転情報を安定してEEPROMへ記憶することができる。
また、エンジンの今後の開発に役立つ情報量が多い個別の情報の記憶を、バッテリを装備しない船外機のエンジンでもEEPROMへ記憶することができる。
すなわち、本発明によれば、記憶された「メンテナンスに有効なエンジン運転情報」や「エンジンの今後の開発に役立つ情報」をECU30のEEPROMに記憶し、記憶した情報をユーザーに適切に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるエンジンの記憶制御装置を備えた船外機を小型船舶に装着したしたときの全体構成を示す図である。
【図2】図1に示すエンジンの燃料噴射制御システムの概略構成を示す図である。
【図3】EEPROM記憶制御処理の全体を示すフローチャートである。
【図4】エンジン停止スイッチを判定するフローチャートである。
【図5】エンジン停止処理を行うフローチャートである。
【図6】EEPROM書込み処理〈1〉のフローチャートである
【図7】EEPROM書込み処理〈2〉のフローチャートである
【図8】ブザー停止処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の一実施の形態例について説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明によるエンジン(内燃機関)の記憶制御装置を備えた船外機を小型船舶に装着したしたときの全体構成を示す図であり、エンジン10、シャフト(図示せず)、プロペラ3などが一体化された船外機は、制御手段としてのECU(Electronic Control Unit)30を備え、船舶(小型船)11の船尾に装着される。
操船席(操船室)4にはスロットルレバー12が配置されており、このスロットルレバー12は、スロットルケーブル13を介して船外機内のシフトリンク機構(図示せず)を経てスロットルバルブ21の開度量(吸入空気量)を調節する。
また、スロットルレバー12は、シフトケーブル14を介して船外機内のシフトリンク機構およびギア機構(いずれも図示せず)を経てシフト位置(前進(F)/中立(N)/後進(R))を設定する。
【0015】
操船席4にはエンジン停止スイッチ16が配置され、エンジン停止スイッチ16のオン/オフ情報は信号線(図示せず)を介してECU30に送られる。
船外機には、人力にてエンジンを始動させるリコイル式始動装置15が取り付けられており、リコイル式始動装置15のプーリーに巻き付けられたロープを手動にて引っ張ることによりクランク軸を回転させることで、バッテリやスタータを装備しないエンジンの始動を可能とする。
【0016】
図2は、図1に示したエンジン10の「燃料噴射制御システム」の概略構成を示す図であり、図中、エンジン10は、吸気管20を介して空気が吸入され、吸入された空気は、スロットルバルブ21を介して流量を調整されつつインテークマニホールド22に流れ込む。
インテークマニホールド22の燃焼室直前にはインジェクタ23が配置され、ガソリン燃料を噴射する。
吸入空気は、噴射されたガソリン燃料と混合して混合気を形成し、複数からなる各気筒燃焼室に流入し、スパークプラグ24で点火されて燃焼する。燃焼後の排気ガスは、エキゾーストマニホールド25を流れ、エンジン外に放出される。
【0017】
スロットルバルブ21には、エンジン10のアイドル運転状態を検出するアイドル運転状態検出手段としてのスロットル開度センサ31が接続され、信号線aを経てスロットル開度に比例したスロットル開度信号をECU30に出力する。
このスロットル開度信号によってスロットルバルブ21が全閉かどうかを判定し、エンジン10がアイドル状態であることの検出を行う。
スロットルバルブ21の下流には絶対圧センサ32が配置され、信号線bを経て吸気管絶対圧PB(エンジン負荷)に応じた信号をECU30に出力する。
また、スロットルバルブ21の上流には吸気温センサ33が配置され、信号線cを経て吸入空気温度に比例した信号をECU30に出力する。
【0018】
エキゾーストマニホールド25にはオーバーヒートセンサ34が配置され、信号線dを経てエンジン排気温度に比例した信号をECU30に出力すると共に、その付近のシリンダブロックの適当な位置にはエンジンの暖気運転を検出するエンジン温度検出手段としての壁温センサ35が配置され、信号線eを経てエンジン冷却壁温に比例した信号をECU30に出力する。
ISC(Idle Speed Control)バルブ26では、アイドル運転時、アイドル状態を保持するための空気量をコントロールする。
空気量が必要な場合は、ISCバルブ26を縮める方向に動かしてスペース27を広げ、入り込む空気量を増加させる。
空気量を絞り込む場合には、ISCバルブ26を伸ばす方向に動かしてスペース27をISCバルブにて埋め、入り込む空気量を減少させてアイドル状態の保持を実現する。
【0019】
また、前述したシフトリンク機構付近には、ギアボックス37内のエンジン10のシフト位置状態が、前進、中立または後進であるかを検出する手段としてのシフト位置センサ(図示せず)が配置され、信号線fを経て操作されたシフト位置(すなわち、前進、中立、後進の位置)に応じた信号をECU30に出力し、これにより、エンジン負荷を検出する。
また、クランク軸5を介して取り付けているフライホイール28の付近には、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段として機能するクランク角センサ36が配置され、信号線gを経てクランク角度信号をECU30に送出する。
ECU30は、クランク角センサ36の出力からエンジン回転速度(エンジン回転数NE)を算出する。
また、前述した操船席4にあるエンジン停止スイッチ16は、操船者がエンジン停止要求する時にスイッチオンとなり、スイッチオンの情報は信号線hを経てECU30に出力する。
【0020】
図1および図2を参照して、エンジン10の燃料噴射制御システムの動作について説明する。
リコイル式始動装置15を手動で引くことでクランク軸5が回転し、クランク軸5が回転することで駆動される発電機44で発電が行われ、発電した電力がECU30を介してインジェクタ23、スパークプラグ24、ISCバルブ26に供給される。
ECU30は、事前に演算した燃料供給量・点火時期・要求空気量にもとづきインジェクタ23・スパークプラグ24・ISCバルブ26を駆動し、エンジンを安定して始動させる。
エンジン停止時には、エンジン停止スイッチ16をオンし、所定の遅れ時間(例えば、500ms)経過後にインジェクタ23・スパークプラグ24を停止させることにより、クランク軸5の回転が停止し、発電機44の発電も停止し、ECU30が停止する。
【0021】
次に、図3〜7に示すフローチャートに基づいて、ECU30により実行されるEEPROMへの記憶を制御する処理の詳細を説明する。
図3は、EEPROM記憶制御処理(すなわち、EEPROMへの情報記憶を制御する処理)の全体を示すフローチャートである。
図3において、ステップS301は、エンジン停止スイッチ16のオン/オフを判定するエンジン停止スイッチ判定処理である。
ステップS302は、エンジン停止スイッチ16のオン/オフ状態に応じてインジェクタ23・スパークプラグ24の動作を停止させるエンジン停止処理である。
すなわち、ステップS302においては、ステップS301にて判定したエンジン停止スイッチ16のオン情報を一定時間後にエンジンの運転制御へ反映して、エンジンを停止する。
ステップS303は、エンジン停止スイッチ16の状態に応じて運転時間やシフト回数(すなわち、シフト位置を変更する回数)等のエンジン運転情報の書込みを行うEEPROM書込み処理〈1〉である。
ステップS304は、故障発生等のイベント発生に応じて、故障情報等の書込みを行うEEPROM書込み処理〈2〉である。
【0022】
図4は、エンジン停止スイッチの動作状態(オン/オフ)を判定するフローチャートである。
ステップS401では、エンジン停止スイッチのオン/オフ判定を行い、オンであればステップS402を実行する。オフであればステップS404を実行する。
ステップS402では、エンジン停止スイッチ16のオン状態が、例えば500msを経過すれば、ステップS403を実行する。
500msを未経過であればステップS404を実行する。
ステップS403では、エンジン停止スイッチオンが500msを経過したので、エンジン停止フラグをセット(すなわち、エンジン停止フラグを“1”にする)し、エンジンを停止させる。
ステップS404では、エンジン停止スイッチ16がオフ状態もしくはオンから500ms未満のため、エンジン10を停止させないようにエンジン停止フラグをクリアする。(すなわち、エンジン停止フラグを“0”にする)、
なお、500msはEEPROMへの書込みにかかる時間を見込んだ値であって、かつユーザーに違和感のない遅れ時間分として設定している。この設定時間は、ECU30によって任意に設定可能である。
【0023】
図5は、エンジンの停止処理を示すフローチャートである。
ステップS501では、エンジン停止フラグのセット判定を行い、セット(すなわち、エンジン停止フラグが“1”)であればステップS502およびステップS503を実行する。クリア(すなわち、エンジン停止フラグが“0”)であれば終了する。
ステップS502では、エンジン停止させるため、インジェクタ23の停止を行う。
ステップS503では、エンジン停止させるため、スパークプラグ24の停止を行う。
【0024】
図6は、EEPROM書込み処理〈1〉(一括)のフローチャートである。
ステップS601は、同じ情報を何度もEEPROM書込まない様にするために、前回の書込みから、例えば10s経過したかを判定するものであり、10s経過していれば、ステップS602を実行する。10s未経過の場合は終了する。
ステップS602では、バッテリ電圧の判定を行い、バッテリ電圧が低電圧時(9V未満)時はECU電源が不安定であると判定し、終了する。
バッテリ電圧が通常電圧時(9V以上)であれば、ステップS603を実行する。
【0025】
ステップS603では、エンジン停止スイッチ16が操作(オフ→オン)されたか否かを判定し、操作されていればステップS604を実行する。エンジン停止スイッチの操作状態に変化なければ終了する。
ステップS604では、エンジン運転情報のEEPROM書込みを行う。
エンジン運転情報は、市場でのエンジンの運転(使用)状況を把握するため、下記の様な運転情報を記憶している。
* エンジン運転情報の一例
・運転時間 ・急加速回数 ・燃料カット回数
・シフト回数 ・最低/最高大気圧 ・最低/最高吸気温
・壁温毎の始動回数
【0026】
図7は、EEPROM書込み処理〈2〉(個別)のフローチャートである。
ステップS701では、センサ故障等の故障発生を検出し、故障検出時にはステップS702を実行する。故障未検出時はステップS703を実行する。
ステップS702では、故障関連情報のEEPROM書込みを行う。
ステップS703では、オーバーヒート等のワーニング(warning:警告)発生を検出
し、ワーニング検出時にはステップS704を実行する。
ワーニング未検出であれば終了する。
ステップS704では、ワーニング関連情報のEEPROM書込みを行う。
【0027】
次に、エンジンを停止させない状態でのエンジン停止スイッチのオン/オフ動作を利用したブザー停止処理を、図8に示すフローチャートに基づいて説明する。
ステップS801では、エンジン停止スイッチ16のオフ→オン判定を行い、オフ→オンであればステップS802を実行する。
オフであればステップS805以降を実行する。
ステップS802では、エンジン停止スイッチ16の操作回数をカウントする操作カウンタ(図示せず)のカウント値が0回(初回時)の場合、ステップS803を実行し、続いてステップS804を実行する。操作カウンタのカウント値が0回以外(2回目以降)であればステップS804を実行する。
なお、操作カウンタは、ECU30に設けられている。
【0028】
ステップS803では、操作カウンタが初回操作時のため、操作カウンタ初期化タイマを、例えば、500msにセットする。
ステップS804では、操作カウンタの更新(+1)を行う。
ステップS805では、操作カウンタ初期化タイマが、設定したタイマ時間(例えば、500ms)を経過すれば、ステップS806を実行する。
ステップS806では、操作カウンタ初期化タイマが設定時間(例えば、500ms)を経過しているため、操作カウンタをクリア(0回)する。
ステップS807では、操作カウンタのカウント値が、例えば、3を超える時にステップS808を実行する。カウント値が3以下の場合は終了する。
ステップS808では、設定時間(例えば、500ms)の間にエンジン停止スイッチ16のオフ→オンが3回を越えたため、ブザー停止処理を行う。
【0029】
ブザーは、故障やワーニングの発生、オイル交換時期など知らせるためのものであり、操船席4の付近に設けられている。
図8のフローチャートは、既にブザーが吹鳴している状態を止めたい場合の例を示している。
図8では、エンジン停止スイッチの操作回数が3回を検出した時点で、ブザーの吹鳴を停止することを示している。
なお、図8ではブザー停止について述べたが、LED点滅の停止やメンテナンス情報の初期化(すなわち、ECUの記憶内容を出荷時と同じ内容にする)等を行ってもよい。
また、操作カウンタの設定回数についても、ユーザーにて違和感のない程度に設定してもよい。
【0030】
以上説明したように、本実施の形態によるエンジンの記憶制御装置は、エンジン10の運転状態を検出する運転状態検出手段(クランク角センサ36)と、エンジン10の運転を停止させるエンジン停止手段(エンジン停止スイッチ16)と、エンジン10のクランク軸5が回転駆動することによって発電を行う発電手段(発電機44)と、人力にて前記エンジンを始動させるエンジン始動手段(リコイル式始動装置15)と、発電手段(発電機44)が発生する発電電圧によって起動開始し、エンジン10の運転状態を記憶および制御する運転状態記憶・制御手段(ECU30)を備えたバッテリを装備しないエンジンの記憶制御装置であって、
運転状態記憶・制御手段は、エンジン10の運転中にエンジン停止手段であるエンジン停止スイッチ16のオン/オフを判定する機能(ステップS301)と、判定したエンジン停止スイッチ16のオン/オフ情報を一定時間後にエンジン10の運転制御へ反映させる機能(ステップS302)と、エンジン停止スイッチ16のオン/オフ情報を用いてEEPROMへの書込みを開始する機能(ステップS303)と、故障やワーニングなどの個別の重要情報が発生した場合に発生した個別の重要情報のみを発生したタイミングで記憶する機能(テップS304)を有している。
【0031】
本実施の形態に係るエンジンの記憶制御装置では、人力にてエンジンを始動させ、自己の発電電力によりECUが起動するため、EEPRPMへ情報を記憶するための安定した電源状態のタイミングは、エンジンの運転中にしかない。
エンジンの運転中に所定時間毎(例えば、2分毎)にEEPROMへの書込みを実施した場合、情報量が多いと、エンジンを止めるタイミングと重なる確率も高くなり、EEPROM書込み中に電源供給がなくなり、EEPROMバケが発生し、データの信用性がなくなる可能性がある。
しかし、本実施の形態では、ユーザーがエンジンを止めるタイミング(すなわち、エンジン停止スイッチをオンにするタイミング)を検出し、そのタイミングを用いてEEPROMの書込み処理を行うので、電源供給がなくなるタイミングとEEPROMに情報を記憶するタイミングが重なることを防止でき、安定したEEPROMへの書込みタイミングを得ることが可能となる。従って、バッテリを装備しないエンジンには効果的な記憶タイミングを提供できる。
【0032】
また、本実施の形態によるエンジンの記憶制御装置の運転状態記憶・制御手段は、起動後でエンジン10の運転状態が安定した後に、エンジン停止スイッチ16がオンされたタイミングでエンジン10の始動開始から停止までに得た運転情報を記憶する機能と、エンジン10の運転状態が安定した状態でEEPROMへの書込み時間を確保した後にエンジン10を停止し、次回起動後から記憶されたエンジン10の運転情報を正常に使用可能とする機能を有している。
EEPROMへの情報記憶が終了後、エンジン停止すると同時に電力供給が止まるが、本実施の形態によれば、エンジンが停止する前に情報を記憶しているため、次回起動後は記憶された正常な情報を使用可能となる。運転情報といった容量の多い情報の記憶に有効である。
【0033】
また、本実施の形態によるエンジンの記憶制御装置の運転状態記憶・制御手段は、エンジン10の運転中は、予め設定されているEEPROMへの書込み時間(例えば、500ms)以内での連続したエンジン停止スイッチ16のオン/オフではエンジン10を停止させない機能を有している。
本実施の形態によれば、エンジン停止スイッチを押すのみではエンジンは停止せず、例えば500ms間以上エンジン停止スイッチを押し続けなければエンジンは止まらない。
一度エンジンが止まると電力供給がなくなり何もできなくなるので、本実施の形態では、エンジン運転中にエンジン停止スイッチを短く押してもエンジンが止まらない状態があること利用して、エンジン制御に使用することが可能となる。
【0034】
また、本実施の形態によるエンジンの記憶制御装置の運転状態記憶・制御手段は、エンジン10を停止させない連続したエンジン停止スイッチ16のオン/オフの状態のときに、エンジン10の運転情報を記憶している間にエンジン停止スイッチ16のオン/オフ情報を入力としてエンジン制御に使用する機能を有している。
通常、船外機のエンジンは小型であるため、ECUは入力数が少ないのが一般的であるが、本実施の形態によれば、この機能(すなわち、エンジンを停止させない連続したエンジン停止スイッチのオン/オフの状態のときに、エンジンの運転情報を記憶している間にエンジン停止スイッチのオン/オフ情報を入力としてエンジン制御に使用する機能)を利用することで、1入力分増えたことと同等な効果を得る。例えば、ECUの入力端子数を増やすことなく、ブザー吹鳴の停止やLED駆動などの停止が行える。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、エンジンのメンテナンスに有効な情報や開発に役立つ情報などを、バッテリを装備しない船外機のエンジンでも正常に記憶でき、ユーザーに適切な記憶情報を提供することができるエンジンの記憶制御装置の時差源に有用である。
【符号の説明】
【0036】
5 クランク軸 10 エンジン
12 スロットルレバー 15 リコイル式始動装置(エンジン始動手段)
16 エンジン停止スイッチ 30 ECU
36 クランク角センサ(運転状態検出手段) 44 発電機(発電手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段と、エンジンの運転を停止させるエンジン停止手段と、前記エンジンのクランク軸が回転駆動することによって発電を行う発電手段と、人力にて前記エンジンを始動させるエンジン始動手段と、前記発電手段が発生する発電電圧によって起動開始し、前記エンジンの運転状態を記憶および制御する運転状態記憶・制御手段を備えたバッテリを装備しないエンジンの記憶制御装置であって、
前記運転状態記憶・制御手段は、
前記エンジンの運転中に前記エンジン停止手段であるエンジン停止スイッチのオン/オフを判定する機能と、
判定した前記エンジン停止スイッチのオン/オフ情報を一定時間後に前記エンジンの運転制御へ反映させる機能と、
前記エンジン停止スイッチのオン/オフ情報を用いてEEPROMへの書込みを開始する機能と、
故障やワーニングなどの個別の重要情報が発生した場合に発生した前記個別の重要情報のみを発生したタイミングで記憶する機能を有することを特徴とするエンジンの記憶制御装置。
【請求項2】
前記運転状態記憶・制御手段は、
起動後前記エンジンの運転状態が安定した後に、前記エンジン停止スイッチがオンされたタイミングで前記エンジンの始動開始から停止までに得た運転情報を記憶する機能と、
前記エンジンの運転状態が安定した状態で前記EEPROMへの書込み時間を確保した後に前記エンジンを停止し、次回起動後から記憶された前記エンジンの運転情報を正常に使用可能とする機能を有したことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの記憶制御装置。
【請求項3】
前記運転状態記憶・制御手段は、
前記エンジンの運転中は、予め設定されている前記EEPROMへの書込み時間以内での連続した前記エンジン停止スイッチ16のオン/オフでは前記エンジンを停止させない機能を有したことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンの記憶制御装置。
【請求項4】
前記運転状態記憶・制御手段は、
前記エンジンを停止させない連続したエンジン停止スイッチのオン/オフの状態のときに、前記エンジンの運転情報を記憶している間に前記エンジン停止スイッチのオン/オフ情報を入力としてエンジン制御に使用する機能を有したことを特徴とする請求項3に記載のエンジンの記憶制御装置。
【請求項5】
バッテリは装備せず、エンジンの運転状態を記憶および制御する船外機用のエンジンの記憶制御方法であって、
前記エンジンの運転中にエンジン停止スイッチのオン/オフを判定するステップと、
判定した前記エンジン停止スイッチのオン/オフ情報を一定時間後に前記エンジンの運転制御へ反映させるステップと、
前記エンジン停止スイッチのオン/オフ情報を用いてEEPROMへの書込みを開始するステップと、
故障やワーニングなどの個別の重要情報が発生した場合に発生した前記個別の重要情報のみを発生したタイミングで記憶するステップを有することを特徴とするエンジンの記憶制御方法。
【請求項6】
起動後前記エンジンの運転状態が安定した後に、予め設定されたタイミングで前記エンジンの始動開始から停止までに得た運転情報を記憶し、
前記エンジンの運転状態が安定した状態で前記EEPROMへの書込み時間を確保した後に前記エンジンを停止し、次回起動後から記憶された前記エンジンの運転情報を正常に使用可能とすることを特徴とする請求項5に記載のエンジンの記憶制御方法。
【請求項7】
前記エンジンの運転中は、予め設定されている前記EEPROMへの書込み時間以内での連続した前記エンジン停止スイッチのオン/オフでは前記エンジンを停止させないことを特徴とする請求項5または6に記載のエンジンの記憶制御方法。
【請求項8】
前記エンジンを停止させない連続したエンジン停止スイッチのオン/オフの状態のときに、前記エンジンの運転情報を記憶している間に前記エンジン停止スイッチのオンオフ情報を入力としてエンジン制御に使用することを特徴とする請求項7に記載のエンジンの記憶制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−87668(P2013−87668A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227647(P2011−227647)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【特許番号】特許第5116871号(P5116871)
【特許公報発行日】平成25年1月9日(2013.1.9)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】