説明

エンジン制御パラメータ適合化装置及びプログラム

【課題】エンジン特性値と制御パラメータの関係モデルに基づき複数の評価項目を十分に満足する準最適解を高速かつ効率的に取得するエンジン制御パラメータ適合装置の提供。
【解決手段】粒子群最適化手法により関係モデル式の評価関数を最小化するように制御パラメータの組み合わせを最適化するにあたり、収束性能改善手段により粒子の状態更新による粒子速度Vの変化量ΔVを監視し、変化量ΔVの各成分Δvijが所定の閾値を下回ったときに、速度成分vijに対して乱数を加えて、粒子を拡散する。これにより、粒子群最適化手法における局所最適解で探索が留まり実用上十分な収束性能を得られないという問題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン等の制御パラメータを適合化するエンジン制御パラメータ適合技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のディーゼルエンジンは、コモンレール方式による多段噴射装置、EGR(排気再循環)装置、過給器などの多数の制御装置を装備している。従って、これらの多数の制御装置のパラメータを運転条件、燃費、多数の排出ガス成分を考慮して最適に設定し制御することが必要となる。
【0003】
このような制御パラメータの最適化手法としては、従来、遺伝的アルゴリズムの手法を用いてエンジン適合させる方法が提案されている(特許文献1,2参照)。
【0004】
遺伝的アルゴリズムの手法に対して、近年の計算機性能の飛躍的な向上に伴い、必ずしも厳密ではないが実用上十分な最適性を有する解を決定するためのヒューリスティックな近似アルゴリズムとして粒子群最適化手法(Particle Swarm Optimization:PSO)(非文献文献1,2参照)が注目されている。粒子群最適化手法は、「群れ」という集団での情報交換を用いて解の探索を行なう手法であり、非線形最適化問題に対して、最適あるいは準最適解を実用的な計算時間内に求められることが特徴である。また、粒子群最適化手法は、遺伝的アルゴリズムの手法と比較して、単峰性関数についての収束性能が高いことも特徴である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-116351号公報
【特許文献2】特開2004-178574号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】石亀篤司,“Particle Swarm Optimization−群れでの探索−”,計測と制御,日本国,社団法人計測自動制御学会,2008年,Vol.47,No.6,pp.459-465.
【非特許文献2】安田恵一郎,石亀篤司,“非線形計画アルゴリズム−実用的な観点から”,システム制御情報学会誌,日本国,社団法人計測自動制御学会,2006年,Vol.50,No.9,pp.14-19.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、エンジンの特性値と多数の制御パラメータの関係を表現するエンジンモデル(応答局面モデルあるいは物理モデルなど)を構築し、エンジンモデルを用いて粒子群最適化手法をエンジン制御パラメータの最適化に応用したとき、エンジンは多数の制御パラメータと複数の特性値による評価値を有するため、PSOを直接適用するだけでは局所最適解で探索が留まり、実用上十分な収束性能を得られないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、エンジンの特性値と多数の制御パラメータの関係を表現するモデルに基づいて複数の評価項目を十分に満足する最適解あるいは準最適解を高速かつ効率的に取得することが可能なエンジン制御パラメータ適合装置及びそのプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るエンジン制御パラメータ適合装置の第1の構成は、所定のエンジン特性を満たすように、複数のエンジン制御パラメータの適合化を行うエンジン制御パラメータ適合化装置であって、
適合化を行う対象であるn個(n>1)のエンジン制御パラメータの組(x,…,x)を、n次元空間における点である粒子Pとし、当該n次元空間の点座標(x,…,x)を粒子座標X、当該n次元空間の点座標(x,…,x)の移動方向とその大きさを表すn次元ベクトル(v,…,v)を粒子速度Vとするときに、複数個の粒子P(i=1,…,M;Mは粒子数)の粒子座標X及び粒子速度Vを粒子テーブルとして記憶する粒子テーブル記憶手段と、
前記粒子テーブルに格納された各粒子Pに対するエンジン制御パラメータの組(x,…,x)に対するエンジン特性値の組(y,…,yη)の推定値である出力推定値Yを出力推定値テーブルとして記憶する出力推定値記憶手段と、
出力推定値Yの適合度を評価するための所定の評価関数をf(Y)とするとき、前記粒子テーブルに格納された各粒子Pについて、各粒子Pに対する評価関数f(Y)の値である評価値f(Y)の最小値pBest及びそれに対する粒子座標XpBest,iを粒子別最良値テーブルとして記憶する粒子別最良値記憶手段と、
すべての粒子P(i=1,…,M)に対する評価値f(Y)の最小値gBest及びそれに対する粒子座標XgBestを粒子群最良値テーブルとして記憶する粒子群最良値記憶手段と、
乱数によってM個の粒子に粒子座標X(i=1,…,M)及び粒子速度Vを生成し、これらを初期値として前記粒子テーブルに格納する初期状態生成手段と、
前記粒子テーブルに格納された各粒子Pのそれぞれに対して、エンジン制御パラメータの組(x,…,x)とそれに対するエンジン特性の組(y,…,yη)とを関係づける式である所定のエンジンモデル式を用いて、各粒子の粒子位置Xに対応する出力推定値Yを算出し、前記出力推定値テーブルに格納する出力推定手段と、
前記出力推定値テーブルに格納された各粒子Pの出力推定値Yに基づき、評価値f(Y)を算出する評価値算出手段と、
前記粒子別最良値テーブルに粒子Pの評価値の最小値pBestが登録されていない場合は、前記評価値算出手段が算出した評価値f(Y)を前記粒子別最良値テーブルに新たに登録し、前記粒子別最良値テーブルに粒子Pの評価値の最小値pBestが登録されている場合は、前記評価値算出手段が算出した評価値f(Y)が当該最小値pBestよりも小さい場合には、前記粒子別最良値テーブルに登録された最小値pBestを当該評価値f(Y)に更新するとともに、前記粒子別最良値テーブルに登録された粒子座標XpBest,iを当該粒子Pの粒子座標Xに更新する粒子別最良値更新手段と、
前記粒子群最良値テーブルに粒子群の評価値の最小値gBestが登録されていない場合は、前記評価値算出手段が算出した評価値f(Y)を前記粒子群最良値テーブルに新たに登録し、前記粒子群最良値テーブルに粒子群の評価値の最小値gBestが登録されている場合は、前記評価値算出手段が算出した評価値f(Y)が当該最小値gBestよりも小さい場合には、前記粒子群最良値テーブルに登録された最小値gBestを当該評価値f(Y)に更新するとともに、前記粒子群最良値テーブルに登録された粒子座標XgBestを当該粒子Pの粒子座標Xに更新する粒子群最良値更新手段と、
前記各粒子P(i=1,…,M)の粒子座標Xを粒子速度Vに基づいて更新するとともに、当該粒子速度Vを所定の更新式に基づいて更新する状態更新手段と、
前記状態更新手段による更新による前記各粒子P(i=1,…,M)の粒子速度Vの変化量ΔVの各座標成分Δvijが、前記粒子座標Xの対応する成分xijの取りうる範囲Wに対して所定の比率まで減少した場合に、その速度成分vijに対して前記範囲Wよりも大きくならない範囲内で乱数を加えることにより粒子速度Vの更新を行う収束性能改善手段と、
前記粒子群最良値テーブルに粒子群の評価値の最小値gBestが収束したか否かを判定する収束判定手段と、
前記収束判定手段が収束したと判定するまで、前記出力推定手段、前記評価値算出手段、前記粒子別最良値更新手段、前記粒子群最良値更新手段、前記状態更新手段、及び前記収束性能改善手段による粒子群最適化処理を反復して実行する制御を行う適合化制御手段と、
を備え、
前記収束判定手段は、前記適合化制御手段による前記粒子群最適化処理の反復回数が所定の総反復回数kmaxに達した場合に収束したと判定することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、状態更新手段による粒子速度Vの変化量ΔVの各座標成分Δvijが、前記粒子座標Xの対応する成分xijの取りうる範囲Wに対して所定の比率まで減少した場合に、その速度成分vijに対して前記範囲Wよりも大きくならない範囲内で乱数を加えることで粒子速度Vの更新を行うことにより、局所最適解で探索が留まることが防止され、エンジンの特性値と多数の制御パラメータの関係を表現するモデルに基づいて複数の評価項目を十分に満足する最適解あるいは準最適解を高速かつ効率的に取得することが可能となる。
【0011】
本発明に係るエンジン制御パラメータ適合装置の第2の構成は、前記第1の構成において、前記状態更新手段は、前記各粒子P(i=1,…,M)の粒子速度Vの各ベクトル成分vijを更新する場合に、次式(1)により更新を行うものであり、
更新式(1)の重み係数wを前記適合化制御手段による粒子群最適化処理の反復回数に応じて減少させる重み係数減衰手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
【数1】

【0013】
本発明に係るエンジン制御パラメータ適合装置の第3の構成は、前記第2の構成において、前記状態更新手段は、前記各粒子P(i=1,…,M)の粒子速度Vの更新を行った後に、更新後の粒子速度Vの絶対値|V|が所定の最大粒子速度|Vmax|を超えた場合には更新後の粒子速度Vに係数|Vmax|/|V|を乗じるものであり、
前記最大粒子速度|Vmax|を前記適合化制御手段による粒子群最適化処理の反復回数に応じて減少させる粒子速度最大値演算手段を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明に係るエンジン制御パラメータ適合装置の第4の構成は、前記第1乃至3のいずれか一の構成において、前記収束性能改善手段は、
真偽値を乱数により生成する真偽値生成手段と、
前記真偽値生成手段が生成する真偽値が真の場合には、前記各粒子Pの粒子座標Xの各成分xijの取りうる範囲Wに対して所定の範囲内の乱数値を乗じた値を、当該粒子Pの粒子速度Vの成分vijに加算し、前記真偽値生成手段が生成する真偽値が偽の場合には、前記各粒子Pの粒子座標Xの各成分xijの取りうる範囲Wに対して所定の範囲内の乱数値を乗じた値を、当該粒子Pの粒子速度Vの成分vijから減算ずる速度操作手段と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明に係るエンジン制御パラメータ適合装置の第5の構成は、前記第1乃至4のいずれか一の構成において、前記収束判定手段は、前記粒子群最良値更新手段が最小値gBestを連続して更新されない回数を計測し、最小値gBestを連続して更新されない回数が所定の回数に達した場合にも、収束したと判定することを特徴とする。
【0016】
本発明に係るエンジン制御パラメータ適合装置の第6の構成は、前記第1乃至5のいずれか一の構成において、前記エンジン制御パラメータの組(x,…,x)には、少なくとも、Pilot1燃料噴射タイミング、Pilot2燃料噴射タイミング、Main燃料噴射タイミング、燃料噴射圧力、吸気酸素濃度、筒内吸気圧力のうちの少なくとも1つが含まれることを特徴とする。
【0017】
本発明に係るエンジン制御パラメータ適合装置の第7の構成は、前記第1乃至6のいずれか一の構成において、前記エンジン特性値の組(y,…,yη)には、少なくとも、燃費、NOx、soot, PM、CO、THCのうちの少なくとも1つが含まれることを特徴とする。
【0018】
本発明に係るエンジン制御パラメータ適合装置の第8の構成は、前記第1乃至7のいずれか一の構成において、前記粒子群最良値記憶手段は、過去に算出された粒子群の評価値の最小値gBest及びそれに対応する粒子座標XgBestを前記粒子群最良値テーブルに複数保持するものであり、
前記初期状態生成手段は、M個の粒子に粒子座標X(i=1,…,M)及び粒子速度Vを生成するにあたり、前記粒子群最良値記憶手段に過去に算出された粒子群の評価値の最小値gBest及びそれに対応する粒子座標XgBestが保持されている場合には、それらの粒子座標XgBestを生成する粒子座標Xの初期値の中に含めることを特徴とする。
【0019】
本発明に係るエンジン制御パラメータ適合装置の第10の構成は、前記第1乃至8のいずれか一の構成において、総反復回数kmax及び粒子数Mの組み合わせを変化させて、それぞれの総反復回数kmax及び粒子数Mの組み合わせ(kmax,k,M)に対して前記適合化制御手段により前記粒子群最適化処理をΓ回(Γ>1)行い、前記粒子群最良値テーブルに各組み合わせ(kmax,k,M)に対する粒子群の評価値の最小値gBestを、それぞれΓ個ずつ登録する試行制御手段と、
前記粒子群最良値テーブルに登録された各組み合わせ(kmax,k,M)に対して、次式(2a),(2b),(2c)で算出されるコスト評価関数Jを算出するコスト評価関数演算手段と、
前記コスト評価関数Jが最小となる組み合わせ(kmax,k,M)を、総反復回数kmax及び粒子数Mの最適な組み合わせとして前記適合化制御手段に設定する最適計算条件設定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0020】
【数2】

【0021】
また、本発明に係るプログラムは、コンピュータに読み込んで実行させることにより、コンピュータを前記第1乃至9の何れかの構成のエンジン制御パラメータ適合装置として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、状態更新手段による粒子速度Vの変化量ΔVの各座標成分Δvijが、前記粒子座標Xの対応する成分xijの取りうる範囲Wに対して所定の比率まで減少した場合に、その速度成分vijに対して前記範囲Wよりも大きくならない範囲内で乱数を加えることで粒子速度Vの更新を行うことにより、局所最適解で探索が留まることが防止され、エンジンの特性値と多数の制御パラメータの関係を表現するモデルに基づいて複数の評価項目を十分に満足する最適解あるいは準最適解を高速かつ効率的に取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例1に係るエンジン制御パラメータ適合化装置1の構成を表すブロック図である。
【図2】実施例1のエンジン制御パラメータ適合化装置1の動作を表すフローチャートである。
【図3】本発明の実施例2に係るエンジン制御パラメータ適合化装置1の構成を表すブロック図である。
【図4】実施例2のエンジン制御パラメータ適合化装置1の動作を表すフローチャートである。
【図5】本発明の実施例3に係るエンジン制御パラメータ適合化装置1の構成を表すブロック図である。
【図6】実施例3のエンジン制御パラメータ適合化装置1の動作を表すフローチャートである。
【図7】本発明の実施例4に係るエンジン制御パラメータ適合化装置1の構成を表すブロック図である。
【図8】実施例4のエンジン制御パラメータ適合化装置1の収束性能改善処理を表すフローチャートである。
【図9】本発明の実施例5に係るエンジン制御パラメータ適合化装置1の構成を表すブロック図である。
【図10】本発明の実施例6に係るエンジン制御パラメータ適合化装置1の構成を表すブロック図である。
【図11】実施例6のエンジン制御パラメータ適合化装置1の動作を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の実施例1に係るエンジン制御パラメータ適合化装置1の構成を表すブロック図である。
【0026】
本実施例では、n個(n>1)のエンジン制御パラメータの組(x,…,x)とそれに対して、所定のエンジンモデル式を用いてエンジン特性の組(y,…,yη)が推定されるものとする。エンジンモデル式については、重回帰分析等による応答曲面モデルの解析や燃焼物理モデルなどによってより予め与えられているものとする。エンジンモデル式の情報は、モデル式記憶手段6に記憶されている。
【0027】
図1においては、エンジン101に対して制御パラメータ設定手段102が、各種のエンジン制御パラメータの組(x,…,x)を設定し、それぞれの設定に対して制御パラメータ測定手段103及び特性値測定手段104がエンジン制御パラメータ(x,…,x)及びエンジン特性(y,…,yη)を測定して、測定データ記憶手段105に記憶する。ここで、エンジン制御パラメータ(x,…,x)には、少なくとも、Pilot1燃料噴射タイミング、Pilot2燃料噴射タイミング、Main燃料噴射タイミング、燃料噴射圧力、吸気酸素濃度、筒内吸気圧力の何れかが含まれている。また、エンジン特性(y,…,yη)には、少なくとも、燃費、NOx、soot, PM、CO、THCの何れかが含まれている。
【0028】
回帰分析手段106は、測定データ記憶手段105に記憶された各データに基づいて、エンジン制御パラメータ(x,…,x)から各エンジン特性(y,…,yη)を推定する重回帰式(エンジンモデル式)を算出し、モデル式記憶手段6に格納される。尚、燃焼物理モデルなどの理論的に求めるエンジンモデル式は、入力手段107によりモデル式記憶手段6に直接入力することもできる。さらに、入力手段107から、後述する評価関数を評価関数記憶手段7に入力することもできる。
【0029】
また、以下では各エンジン制御パラメータの組(x,…,x)をn次元空間における点とみなして、この点を「粒子」と呼び、Pと記す。従って、粒子Pのn次元空間内の粒子座標XはX=(x,…,x)で与えられる。また、各粒子Pにはn次元空間内を移動する速度が与えられる。この粒子速度Vはn次元ベクトル(v,…,v)で表すこととする。
【0030】
エンジン制御パラメータ適合化装置1は、多数の粒子Pをn次元空間内でランダムに移動させ、収束性能を改良した粒子群最適化手法(Particle Swarm Optimization:PSO)によって、エンジン特性の組(y,…,yη)が所定の条件を満たすようにエンジン特性の組(y,…,yη)の準最適解を求めるものである。尚、本実施例のエンジン制御パラメータ適合化装置1は、LSIやFPGAを用いてハードウェア的に構成してもよいが、汎用コンピュータ用のプログラムとして提供してこのプログラムをコンピュータに読み込んで実行することによってエンジン制御パラメータ適合化装置1を機能的に実現するものであってもよい。
【0031】
図1において、エンジン制御パラメータ適合化装置1は、粒子テーブル記憶手段2、出力推定値記憶手段3、粒子別最良値記憶手段4、粒子群最良値記憶手段5、モデル式記憶手段6、初期状態生成手段10、出力推定手段11、評価値算出手段12、粒子別最良値更新手段13、粒子群最良値更新手段14、状態更新手段15、収束性能改善手段16、収束判定手段17、適合化制御手段18、及び出力手段19を備えている。
【0032】
粒子テーブル記憶手段2は、複数個の粒子P(i=1,…,M;Mは粒子数)の粒子座標X及び粒子速度Vを粒子テーブルとして記憶する。
【0033】
出力推定値記憶手段3は、粒子テーブルに格納された各粒子Pに対するエンジン制御パラメータの組(x,…,x)に対するエンジン特性値の組(y,…,yη)の推定値である出力推定値Yを出力推定値テーブルとして記憶する。
【0034】
粒子別最良値記憶手段4は、出力推定値Yの適合度を評価するための所定の評価関数をf(Y)とするとき、前記粒子テーブルに格納された各粒子Pについて、各粒子Pに対する評価関数f(Y)の値である評価値f(Y)の最小値pBest及びそれに対する粒子座標XpBest,iを粒子別最良値テーブルとして記憶する。
【0035】
粒子群最良値記憶手段5は、すべての粒子P(i=1,…,M)に対する評価値f(Y)の最小値gBest及びそれに対する粒子座標XgBestを粒子群最良値テーブルとして記憶する。
【0036】
初期状態生成手段10は、乱数によってM個の粒子に粒子座標X(i=1,…,M)及び粒子速度Vを生成し、これらを初期値として前記粒子テーブルに格納する。ここで、Mは粒子Pの個数であり、大きな数(30〜100程度)の値に設定される。
【0037】
出力推定手段11は、モデル式記憶手段6に記憶されたエンジンモデル式により、粒子テーブルに格納された各粒子Pのそれぞれに対して、粒子位置Xに対応する出力推定値Yを算出し、前記出力推定値テーブルに格納する。
【0038】
評価値算出手段12は、出力推定値テーブルに格納された各粒子Pの出力推定値Yに基づき、評価値f(Y)を算出する。この評価値f(Y)を算出する評価式f(Y)の情報については、評価関数記憶手段7に格納されている。
【0039】
粒子別最良値更新手段13は、粒子別最良値テーブルに粒子Pの評価値の最小値pBestが登録されていない場合は、評価値算出手段12が算出した評価値f(Y)を粒子別最良値テーブルに新たに登録する。粒子別最良値テーブルに粒子Pの評価値の最小値pBestが既に登録されている場合は、評価値算出手段12が算出した評価値f(Y)が当該最小値pBestよりも小さい場合には、粒子別最良値テーブルに登録された最小値pBestを当該評価値f(Y)に更新するとともに、粒子別最良値テーブルに登録された粒子座標XpBest,iを当該粒子Pの粒子座標Xに更新する。
【0040】
粒子群最良値更新手段14は、粒子群最良値テーブルに粒子群の評価値の最小値gBestが登録されていない場合は、評価値算出手段12が算出した評価値f(Y)を粒子群最良値テーブルに新たに登録する。粒子群最良値テーブルに粒子群の評価値の最小値gBestが既に登録されている場合は、評価値算出手段12が算出した評価値f(Y)が当該最小値gBestよりも小さい場合には、粒子群最良値テーブルに登録された最小値gBestを当該評価値f(Y)に更新するとともに、粒子群最良値テーブルに登録された粒子座標XgBestを当該粒子Pの粒子座標Xに更新する。
【0041】
状態更新手段15は、各粒子P(i=1,…,M)の粒子座標Xを粒子速度Vに基づいて更新するとともに、当該粒子速度Vを所定の更新式に基づいて更新する。この更新式については後で説明する。
【0042】
収束性能改善手段16は、状態更新手段15の更新による各粒子P(i=1,…,M)の粒子速度Vの変化量ΔVの各座標成分Δvijが、粒子座標Xの対応する成分xijの取りうる範囲Wに対して所定の比率まで減少した場合に、その速度成分vijに対して前記範囲Wよりも大きくならない範囲内で乱数を加えることによって粒子速度Vの更新を行う。
【0043】
収束判定手段17は、適合化制御手段18による粒子群最適化処理の反復回数が所定の総反復回数kmaxに達した場合に収束したと判定する収束判定を行う。
【0044】
適合化制御手段18は、収束判定手段17が収束したと判定するまで、出力推定手段11、評価値算出手段12、粒子別最良値更新手段13、粒子群最良値更新手段14、状態更新手段15、及び収束性能改善手段17による処理を反復して実行する制御を行う。
【0045】
出力手段19は、収束判定手段17により収束したと判定された場合に、その時点で粒子群最良値テーブルに記憶されている最小値gBest及びそれに対する粒子座標XgBestを最適解として出力する。
【0046】
以上のように構成された本実施例のエンジン制御パラメータ適合化装置1について、以下その動作を説明する。
【0047】
図2は、本実施例のエンジン制御パラメータ適合化装置1の動作を表すフローチャートである。
【0048】
図2において、まず、ステップS1において、ユーザは入力手段107から適合化制御手段18に対して、粒子数Mと反復処理の最大反復回数kmaxを入力する。適合化制御手段18は、初期状態生成手段10に対して粒子数Mを設定し、収束判定手段17に対して最大反復回数kmaxを設定する。
【0049】
次に、ステップS2において、初期状態生成手段10は、乱数によってM個の粒子に粒子座標X(i=1,…,M)及び粒子速度Vを生成し、これらを初期値として粒子テーブルに格納する。以下では、i番目の粒子Pの粒子座標XをX=(xi1,…,xin)、粒子速度VをV=(vi1,…,vin)と記す。
【0050】
次に、適合化制御手段18は、以下のステップS3〜S10の粒子群最適化処理を反復実行する。
【0051】
(粒子群最適化処理)
まず、ステップS3において、出力推定手段11は、モデル式記憶手段6に記憶されたエンジンモデル式を参照し、粒子テーブルに格納された各粒子Pのそれぞれに対して、エンジンモデル式を用いて、各粒子の粒子座標Xに対応する出力推定値Yを算出し、前記出力推定値テーブルに格納する。ここで、エンジン特性y(j=1,…,ξ)に対するエンジンモデル式をgとすると、gは次式のような関数として表されている。
【0052】
【数3】

【0053】
従って、この関数gに各粒子の粒子座標Xを代入していけば、各粒子Pについて出力推定値Y=(yi1,…,yiξ)(yij=g(X))が算出される。
【0054】
次に、ステップS4において、評価値算出手段12は、評価関数記憶手段7に記憶された評価関数f(Y)を参照し、出力推定値テーブルに格納された各粒子Pの出力推定値Yに基づき、評価値f(Y)を算出する。ここで、評価関数f(Y)は、出力推定値Yの適合度を評価するための関数であり、場合に応じて適宜な関数を設定することができる。ここでは、一例として次式のような評価関数f(Y)を用いる。ここで、sはエンジン特性yに対する重み係数であり、エンジン特性yの影響度を表す。
【0055】
【数4】

【0056】
次に、ステップS5において、粒子別最良値更新手段13は、粒子別最良値テーブルに粒子P(i=1,…,M)の評価値の最小値pBestがまだ登録されていない場合は、評価値算出手段12が算出した評価値f(Y)を粒子別最良値テーブルに新たに登録するとともに、それに対する粒子座標Xを粒子座標XpBestiとして登録する。一方、粒子別最良値テーブルに粒子Pの評価値の最小値pBestが既に登録されている場合は、評価値算出手段12が算出した評価値f(Y)が当該最小値pBestよりも小さいかどうか判定し、小さい場合には、最小値pBestを評価値f(Y)に更新するとともに、粒子別最良値テーブルの粒子座標XpBest,iを粒子座標Xに更新する。
【0057】
次に、ステップS6において、粒子群最良値更新手段14は、粒子群最良値テーブルに粒子群の評価値の最小値gBestがまだ登録されていない場合は、評価値算出手段12が算出した評価値f(Y)をgBestとして粒子群最良値テーブルに新たに登録するとともに、それに対する粒子座標Xを粒子座標XgBestとして登録する。一方、粒子群最良値テーブルに粒子群の評価値の最小値gBestが既に登録されている場合は、評価値算出手段12が算出した評価値f(Y)が当該最小値gBestよりも小さい場合には、粒子群最良値テーブルに登録された最小値gBestを評価値f(Y)に更新するとともに、粒子群最良値テーブルに登録された粒子座標XgBestを粒子座標Xに更新する。
【0058】
次に、ステップS7において、状態更新手段15は、各粒子P(i=1,…,M)の粒子座標Xを粒子速度Vに基づいて次式(5a)により更新するとともに、当該粒子速度Vを所定の更新式(5b)に基づいて更新する。
【0059】
【数5】

【0060】
ここで、wは重み係数、r,rは0又は1をとる乱数、c,cは1に近い実数値をとる乱数、xij,xpBest,ij,xgBest,jはそれぞれ粒子座標X,XpBest,i,XgBestのj番目の成分である。尚、本実施例においては、c,cは、0〜1までの間の実数値をとる乱数rを用いて、次式により与えられる。
【0061】
【数6】

【0062】
次に、ステップS8において、収束性能改善手段16は、状態更新手段15の更新による各粒子P(i=1,…,M)の粒子速度Vの変化量ΔVの各座標成分Δvijが、粒子座標Xの対応する成分xijの取りうる範囲Wに対して所定の比率まで減少した場合に、その速度成分vijに対して範囲Wよりも大きくならない範囲内で乱数を加えることにより粒子速度Vの更新を行う。すなわち、状態更新手段15が更新する前の粒子速度VをV(k−1)(kは反復回数)、更新後の粒子速度VをV(k)とすると、収束性能改善手段16は粒子速度Vのn個の各成分について、変化量Δvij=|vij(k)−vij(k−1)|がα(xj,max−xj,min)より小さいか否かを判定する。ここで、xj,max,xj,minは、それぞれ粒子座標Xのj成分が取りうる最大値,最小値であり、W=xj,max−xj,minである。また、αは1より小さい所定の定数である。|vij(k)−vij(k−1)|<α(xj,max−xj,min)の場合、収束性能改善手段16はvijに対し、Wよりも大きくならない範囲内で乱数を加える。これにより、vijが再び大きな値に復帰し、局所最適解で探索が留まることが防止される。
【0063】
次に、ステップS9において、収束判定手段17は、適合化制御手段による粒子群最適化処理の反復回数kが所定の総反復回数kmaxに達したか否かを判定する。k<kmaxの場合、ステップS3に戻り、ステップS3〜S9の粒子群最適化処理を反復して実行する。一方、k=kmaxの場合、粒子群最適化処理を終了し、ステップS11において出力手段19が粒子群最良値記憶手段5の粒子群最良値テーブルに登録された粒子群の評価値の最小値gBest及びそれに対応する粒子座標XgBestを最適解として出力し終了する。
【0064】
尚、本実施例において、ステップS9において、収束判定手段17は、適合化制御手段による粒子群最適化処理の反復回数kが所定の総反復回数kmaxに達したか否かによって粒子群最適化処理の終了判定を行うこととしたが、本発明においては、収束判定手段17が粒子群最良値更新手段14により最小値gBestが連続して更新されなかった回数を計測し、この回数が所定の回数に達した場合に粒子群最適化処理の終了判定を行うようにすることもできる。さらに、総反復回数kmaxによる判定と合わせて終了判定を行うこともできる。
【実施例2】
【0065】
図3は、本発明の実施例2に係るエンジン制御パラメータ適合化装置1の構成を表すブロック図である。図3において、図1と同様の構成については同符号を付して説明は省略する。本実施例のエンジン制御パラメータ適合化装置1は、新たに重み係数減衰手段20が加わった点で実施例1とは異なる。
【0066】
実施例1で説明した通り、状態更新手段15は、各粒子P(i=1,…,M)の粒子速度Vの各ベクトル成分vijを更新する場合には、式(5b)により更新を行う。
【0067】
重み係数減衰手段20は、状態更新手段15による更新時の更新式(5b)の重み係数wを適合化制御手段18による処理の反復回数kに応じて減少させる。
【0068】
図4は、実施例2のエンジン制御パラメータ適合化装置1の動作を表すフローチャートである。図4において、ステップS1〜S6及びS7〜S10は実施例1と同様であるため説明は省略する。本実施例においては、ステップS6の後に、重み係数減衰手段20による更新式(5b)の重み係数wの減衰処理が加わった点が相違している。この減衰処理では、重み係数wは反復回数kの単調減少関数として決定される。単調減少関数としてはどのような関数をとってもよいが、本実施例では一例として、次式(7)の線形減少関数により重み係数wを決定する。ここで、kは粒子群最適化処理の反復回数、kmaxは総反復回数、wmaxは重み係数wの最大値、wminは重み係数wの最小値である。
【0069】
【数7】

【0070】
このように、重み係数wを反復回数kに従って減少させることで、粒子群の運動状態を発散傾向から収束傾向に移行させ、収束性能を改善することができる。
【実施例3】
【0071】
図5は、本発明の実施例3に係るエンジン制御パラメータ適合化装置1の構成を表すブロック図である。図5において、図3と同様の構成については同符号を付して説明は省略する。本実施例のエンジン制御パラメータ適合化装置1は、新たに粒子速度最大値演算手段21が加わった点で実施例2とは異なる。
【0072】
本実施例においても、状態更新手段15は、各粒子P(i=1,…,M)の粒子速度Vの各ベクトル成分vijを更新する場合には、式(5b)により更新を行うが、この更新後に、粒子速度Vの絶対値|V|が所定の最大粒子速度|Vmax|を超えた場合には更新後の粒子速度Vに係数|Vmax|/|V|を乗じて粒子速度Vの絶対値|V|が最大粒子速度|Vmax|となるように変更する。
【0073】
粒子速度最大値演算手段21は、最大粒子速度|Vmax|を適合化制御手段18による粒子群最適化処理の反復回数kに応じて減少させる。
【0074】
図6は、実施例3のエンジン制御パラメータ適合化装置1の動作を表すフローチャートである。図6において、ステップS1〜S8及びS9〜S10は実施例2と同様であるため説明は省略する。本実施例においては、ステップS8の後に、粒子速度最大値演算手段21による最大粒子速度|Vmax|の減衰処理(ステップS8a)が加わった点が相違している。
【0075】
ステップS8aにおいては、粒子速度最大値演算手段21は、最大粒子速度|Vmax|を反復回数kの単調減少関数によって更新する。単調減少関数としてはどのような関数をとってもよいが、本実施例では一例として、次式(8)の線形減少関数により最大粒子速度Vmaxを決定する。ここで、vmax,jは最大粒子速度Vmaxのj番目の成分、xj,max,xj,minは粒子座標Xのj番目の成分xの最大値及び最小値、kは反復回数、kmaxは総反復回数である。
【0076】
【数8】

【0077】
このように、最大粒子速度Vmaxを反復回数kに応じて減少させることで、設定した総探索回数kmaxにおける準最適解を探索することができる。
【実施例4】
【0078】
図7は、本発明の実施例4に係るエンジン制御パラメータ適合化装置1の構成を表すブロック図である。本発明の実施例4のエンジン制御パラメータ適合化装置1の構成は、基本的には図5と同様である。本実施例においては、収束性能改善手段16は、真偽値生成手段16a及び速度操作手段16bを備えている。
【0079】
真偽値生成手段16aは、真偽値を乱数により生成する。速度操作手段16bは、真偽値生成手段16aが生成する真偽値が真の場合には、各粒子Pの粒子座標Xの各成分xijの取りうる範囲Wに対して所定の範囲内の乱数値を乗じた値を、粒子速度Vの成分vijに加算する処理を行う。一方、真偽値生成手段16aが生成する真偽値が偽の場合には、範囲Wに対して所定の範囲内の乱数値を乗じた値を、粒子速度Vの成分vijから減算ずる処理を行う。
【0080】
尚、本実施例のエンジン制御パラメータ適合化装置1の全体の動作は図6と同様であるため説明は省略するが、本実施例は図6におけるステップS8の収束性能改善手段16による収束性能改善処理に特徴があるため、以下、ステップS8の収束性能改善処理について説明する。
【0081】
図8は、実施例4のエンジン制御パラメータ適合化装置1の収束性能改善処理を表すフローチャートである。
【0082】
まず、ステップS81において、収束性能改善手段16は、各粒子P(i=1,…,M)の粒子速度Vの変化量ΔVの各座標成分Δvij=|vij(k)−vij(k−1)|を算出する。ここで、vij(k)は反復回数kにおける粒子速度Vのj番目の成分vijを表す。
【0083】
次に、ステップS82において、収束性能改善手段16は、各変化量Δvijが粒子座標Xのj番目の成分xijの取りうる範囲W=xj,max−xj,minに対して所定の比率α(<1)を乗じた値αWよりも小さいか否かを判定する。Δvij≧αWの場合には収束性能改善処理を終了する。Δvij<αWの場合には、次のステップS83に進む。ここで、αは調整パラメータであり、通常、0.01〜0.05程度の値に設定される。
【0084】
ステップS83において、真偽値生成手段16aは、真偽値を乱数により生成する。
【0085】
次に、ステップS84において、速度操作手段16bは、真偽値生成手段16aが生成する真偽値が「真」か否かを判定する。「真」の場合には、粒子速度成分vijに対し、範囲Wに所定の範囲内の乱数値を乗じた値βW・rand(k)を加算して、粒子速度成分vijを更新する(S85)。一方、真偽値が「偽」の場合には、粒子速度成分vijに対し、範囲Wに所定の範囲内の乱数値を乗じた値βW・rand(k)を減算して、粒子速度成分vijを更新する(S86)。そして、収束性能改善処理を終了する。ここで、βは調整パラメータであり、通常、0.01〜0.2程度の値に設定される。
【0086】
このように、各粒子速度を監視し、粒子速度の変化量が小さくなったときに粒子速度に乱数を加えることによって、一部の解が局所解に陥るという問題を解消することができ、収束性能を改善することができる。
【実施例5】
【0087】
図9は、本発明の実施例5に係るエンジン制御パラメータ適合化装置1の構成を表すブロック図である。基本的には図1と同様の構成であるが、初期状態生成手段10は、粒子テーブルの初期化の際に粒子群最良値更新手段14の粒子群最良値テーブルに格納された過去の評価値の最小値gBestに対する粒子座標XgBestを参照している点が異なっている。
【0088】
本実施例においては、粒子群最良値更新手段14は、過去に算出された粒子群の評価値の最小値gBest及びそれに対応する粒子座標XgBestを粒子群最良値テーブルに複数保持している。すなわち、過去に適合化制御手段18による粒子群最適化処理を収束するまで実行して得られた最小値gBest及び粒子座標XgBestを、履歴として粒子群最良値テーブルに時系列的に保存しておくことができる。
【0089】
また、初期状態生成手段10は、図2のステップS2の初期化処理の際に、粒子群最良値テーブルを参照し、粒子群最良値テーブルに過去に算出された粒子群の評価値の最小値gBest及びそれに対応する粒子座標XgBestが保持されている場合には、それらの粒子座標XgBestを生成する粒子座標Xの初期値の中に含める。これにより、初期の粒子群には、最適解に近い可能性の高い粒子が含まれることとなるため、収束性能が向上し、最適解を求めるまでの反復回数も少なくすることが可能となる。
【実施例6】
【0090】
図10は、本発明の実施例6に係るエンジン制御パラメータ適合化装置1の構成を表すブロック図である。基本的には図1と同様の構成であるが、本実施例では新たに試行制御手段31、コスト評価関数演算手段32、及び最適計算条件設定手段33が追加された点が相違する。
【0091】
試行制御手段31は、総反復回数kmax及び粒子数Mの組み合わせを変化させ、それぞれの総反復回数kmax及び粒子数Mの組み合わせ(kmax,k,M)に対して適合化制御手段18により粒子群最適化処理をΓ回(Γ>1)行う。そして、粒子群最良値テーブルに各組み合わせ(kmax,k,M)に対する粒子群の評価値の最小値gBest及びそれに対する粒子座標XgBest,kを、それぞれΓ個ずつ登録する。
【0092】
コスト評価関数演算手段32は、粒子群最良値テーブルに登録された各組み合わせ(kmax,k,M)に対して、次式(9a),(9b),(9c)で算出されるコスト評価関数Jを算出する。
【0093】
【数9】

【0094】
ここで、XgBet,k(j)は、組み合わせ(kmax,k,M)に対するj回目の試行における粒子群の評価値の最小値gBestに対する粒子座標Xの値、w,w,w及びs(q=1,…,η)は所定の重み係数、yはq番目のエンジン特性の推定値、g(X)はq番目のエンジン特性に対するエンジンモデル式である。
最適計算条件設定手段33は、式(9a)コスト評価関数Jが最小となる組み合わせ(kmax,k,M)を、総反復回数kmax及び粒子数Mの最適な組み合わせとして適合化制御手段18に設定する。
【0095】
図11は、実施例6のエンジン制御パラメータ適合化装置1の動作を表すフローチャートである。図11において、ステップS1〜S9までの処理は、図2の同符号のステップにおける処理と同様であるため説明は省略する。
【0096】
本実施例では、ステップS1において、試行制御手段31が総反復回数kmax及び粒子数Mを組み合わせ(kmax,k,M)に設定した後に、ステップS1〜S9までの処理が実行され、最適解として(gBest(j),XgBest,k(j))が出力される。出力された最適解(gBest(j),XgBest,k(j))は、ステップS21において、粒子群最良値テーブルに逐次登録される。ここで、インデックス「(j)」は組み合わせ(kmax,k,M)におけるj回目の試行であることを表すインデックスである。
【0097】
次に、ステップS22において、試行制御手段31は、組み合わせ(kmax,k,M)においてΓ回の試行を行ったか否かを判定し、試行回数jがΓ回に達していなければ、ステップS2に戻って、再びステップS2〜S20までの処理を行う。試行回数jがΓ回に達すると、次のステップS22に移行する。
【0098】
ステップS22においては、試行制御手段31は、予定したすべての組み合わせ(kmax,k,M)についての試行が完了したか否かを判定する。まだ、試行が完了していない組み合わせ(kmax,k,M)が残っている場合には、ステップS23において総反復回数kmax及び粒子数Mを組み合わせを変更した後、ステップS1に戻り、ステップS1〜S22までの処理を再度実行する。一方、予定したすべての組み合わせ(kmax,k,M)についての試行が完了した場合には、次のステップS24に移行する。
【0099】
ステップS24において、最適計算条件設定手段33は、粒子群最良値テーブルを参照して、各組み合わせ(kmax,k,M)のそれぞれについて、式(9b)により評価関数f(Y)(式(4)参照)の平均値hを算出する。そして、最適計算条件設定手段33は、最適計算条件設定手段33により算出された評価関数の平均値hが最小となる組み合わせ(kmax,k,M)を総反復回数kmax及び粒子数Mの最適な組み合わせとして適合化制御手段18に設定し、終了する。
【0100】
以上のようにして、本実施例のエンジン制御パラメータ適合化装置1では、総反復回数kmax及び粒子数Mの最適な組み合わせの設定を自動的に行うことができるため、
総反復回数kmax及び粒子数Mを無駄に大きくすることなく、良好な最適解を可能な限り短時間で得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0101】
エンジン制御パラメータ適合化装置1
粒子テーブル記憶手段2
出力推定値記憶手段3
粒子別最良値記憶手段4
粒子群最良値記憶手段5
モデル式記憶手段6
評価関数記憶手段7
初期状態生成手段10
出力推定手段11
評価値算出手段12
粒子別最良値更新手段13
粒子群最良値更新手段14
状態更新手段15
収束性能改善手段16
真偽値生成手段16a
速度操作手段16b
収束判定手段17
適合化制御手段18
出力手段19
重み係数減衰手段20
粒子速度最大値演算手段21
試行制御手段31
コスト評価関数演算手段32
最適計算条件設定手段33
エンジン101
制御パラメータ設定手段102
制御パラメータ測定手段103
特性値測定手段104
測定データ記憶手段105
回帰分析手段106
入力手段107

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のエンジン特性を満たすように、複数のエンジン制御パラメータの適合化を行うエンジン制御パラメータ適合化装置であって、
適合化を行う対象であるn個(n>1)のエンジン制御パラメータの組(x,…,x)を、n次元空間における点である粒子Pとし、当該n次元空間の点座標(x,…,x)を粒子座標X、当該n次元空間の点座標(x,…,x)の移動方向とその大きさを表すn次元ベクトル(v,…,v)を粒子速度Vとするときに、複数個の粒子P(i=1,…,M;Mは粒子数)の粒子座標X及び粒子速度Vを粒子テーブルとして記憶する粒子テーブル記憶手段と、
前記粒子テーブルに格納された各粒子Pに対するエンジン制御パラメータの組(x,…,x)に対するエンジン特性値の組(y,…,yη)の推定値である出力推定値Yを出力推定値テーブルとして記憶する出力推定値記憶手段と、
出力推定値Yの適合度を評価するための所定の評価関数をf(Y)とするとき、前記粒子テーブルに格納された各粒子Pについて、各粒子Pに対する評価関数f(Y)の値である評価値f(Y)の最小値pBest及びそれに対する粒子座標XpBest,iを粒子別最良値テーブルとして記憶する粒子別最良値記憶手段と、
すべての粒子P(i=1,…,M)に対する評価値f(Y)の最小値gBest及びそれに対する粒子座標XgBestを粒子群最良値テーブルとして記憶する粒子群最良値記憶手段と、
乱数によってM個の粒子に粒子座標X(i=1,…,M)及び粒子速度Vを生成し、これらを初期値として前記粒子テーブルに格納する初期状態生成手段と、
前記粒子テーブルに格納された各粒子Pのそれぞれに対して、エンジン制御パラメータの組(x,…,x)とそれに対するエンジン特性の組(y,…,yη)とを関係づける式である所定のエンジンモデル式を用いて、各粒子の粒子位置Xに対応する出力推定値Yを算出し、前記出力推定値テーブルに格納する出力推定手段と、
前記出力推定値テーブルに格納された各粒子Pの出力推定値Yに基づき、評価値f(Y)を算出する評価値算出手段と、
前記粒子別最良値テーブルに粒子Pの評価値の最小値pBestが登録されていない場合は、前記評価値算出手段が算出した評価値f(Y)を前記粒子別最良値テーブルに新たに登録し、前記粒子別最良値テーブルに粒子Pの評価値の最小値pBestが登録されている場合は、前記評価値算出手段が算出した評価値f(Y)が当該最小値pBestよりも小さい場合には、前記粒子別最良値テーブルに登録された最小値pBestを当該評価値f(Y)に更新するとともに、前記粒子別最良値テーブルに登録された粒子座標XpBest,iを当該粒子Pの粒子座標Xに更新する粒子別最良値更新手段と、
前記粒子群最良値テーブルに粒子群の評価値の最小値gBestが登録されていない場合は、前記評価値算出手段が算出した評価値f(Y)を前記粒子群最良値テーブルに新たに登録し、前記粒子群最良値テーブルに粒子群の評価値の最小値gBestが登録されている場合は、前記評価値算出手段が算出した評価値f(Y)が当該最小値gBestよりも小さい場合には、前記粒子群最良値テーブルに登録された最小値gBestを当該評価値f(Y)に更新するとともに、前記粒子群最良値テーブルに登録された粒子座標XgBestを当該粒子Pの粒子座標Xに更新する粒子群最良値更新手段と、
前記各粒子P(i=1,…,M)の粒子座標Xを粒子速度Vに基づいて更新するとともに、当該粒子速度Vを所定の更新式に基づいて更新する状態更新手段と、
前記状態更新手段による更新による前記各粒子P(i=1,…,M)の粒子速度Vの変化量ΔVの各座標成分Δvijが、前記粒子座標Xの対応する成分xijの取りうる範囲Wに対して所定の比率まで減少した場合に、その速度成分vijに対して前記範囲Wよりも大きくならない範囲内で乱数を加えることにより粒子速度Vの更新を行う収束性能改善手段と、
前記粒子群最良値テーブルに粒子群の評価値の最小値gBestが収束したか否かを判定する収束判定手段と、
前記収束判定手段が収束したと判定するまで、前記出力推定手段、前記評価値算出手段、前記粒子別最良値更新手段、前記粒子群最良値更新手段、前記状態更新手段、及び前記収束性能改善手段による粒子群最適化処理を反復して実行する制御を行う適合化制御手段と、
を備え、
前記収束判定手段は、前記適合化制御手段による前記粒子群最適化処理の反復回数が所定の総反復回数kmaxに達した場合に収束したと判定することを特徴とするエンジン制御パラメータ適合化装置。
【請求項2】
前記状態更新手段は、前記各粒子P(i=1,…,M)の粒子速度Vの各ベクトル成分vijを更新する場合に、次式(1)により更新を行うものであり、
更新式(1)の重み係数wを前記適合化制御手段による粒子群最適化処理の反復回数に応じて減少させる重み係数減衰手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御パラメータ適合化装置。
【数1】

【請求項3】
前記状態更新手段は、前記各粒子P(i=1,…,M)の粒子速度Vの更新を行った後に、更新後の粒子速度Vの絶対値|V|が所定の最大粒子速度|Vmax|を超えた場合には更新後の粒子速度Vに係数|Vmax|/|V|を乗じるものであり、
前記最大粒子速度|Vmax|を前記適合化制御手段による粒子群最適化処理の反復回数に応じて減少させる粒子速度最大値演算手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載のエンジン制御パラメータ適合化装置。
【請求項4】
前記収束性能改善手段は、
真偽値を乱数により生成する真偽値生成手段と、
前記真偽値生成手段が生成する真偽値が真の場合には、前記各粒子Pの粒子座標Xの各成分xijの取りうる範囲Wに対して所定の範囲内の乱数値を乗じた値を、当該粒子Pの粒子速度Vの成分vijに加算し、前記真偽値生成手段が生成する真偽値が偽の場合には、前記各粒子Pの粒子座標Xの各成分xijの取りうる範囲Wに対して所定の範囲内の乱数値を乗じた値を、当該粒子Pの粒子速度Vの成分vijから減算ずる速度操作手段と、を備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載のエンジン制御パラメータ適合化装置。
【請求項5】
前記収束判定手段は、前記粒子群最良値更新手段が最小値gBestを連続して更新されない回数を計測し、最小値gBestを連続して更新されない回数が所定の回数に達した場合にも、収束したと判定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一に記載のエンジン制御パラメータ適合化装置。
【請求項6】
前記エンジン制御パラメータの組(x,…,x)には、少なくとも、Pilot1燃料噴射タイミング、Pilot2燃料噴射タイミング、Main燃料噴射タイミング、燃料噴射圧力、吸気酸素濃度、筒内吸気圧力のうちの少なくとも1つが含まれることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一に記載のエンジン制御パラメータ適合化装置。
【請求項7】
前記エンジン特性値の組(y,…,yη)には、少なくとも、燃費、NOx、soot, PM、CO、THCのうちの少なくとも1つが含まれることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一に記載のエンジン制御パラメータ適合化装置。
【請求項8】
前記粒子群最良値記憶手段は、過去に算出された粒子群の評価値の最小値gBest及びそれに対応する粒子座標XgBestを前記粒子群最良値テーブルに複数保持するものであり、
前記初期状態生成手段は、M個の粒子に粒子座標X(i=1,…,M)及び粒子速度Vを生成するにあたり、前記粒子群最良値記憶手段に過去に算出された粒子群の評価値の最小値gBest及びそれに対応する粒子座標XgBestが保持されている場合には、それらの粒子座標XgBestを生成する粒子座標Xの初期値の中に含めることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一に記載のエンジン制御パラメータ適合化装置。
【請求項9】
総反復回数kmax及び粒子数Mの組み合わせを変化させて、それぞれの総反復回数kmax及び粒子数Mの組み合わせ(kmax,k,M)に対して前記適合化制御手段により前記粒子群最適化処理をΓ回(Γ>1)行い、前記粒子群最良値テーブルに各組み合わせ(kmax,k,M)に対する粒子群の評価値の最小値gBest及びそれに対する粒子座標XgBest,kを、それぞれΓ個ずつ登録する試行制御手段と、
前記粒子群最良値テーブルに登録された各組み合わせ(kmax,k,M)に対して、次式(2a),(2b),(2c)で算出されるコスト評価関数Jを算出するコスト評価関数演算手段と、
前記コスト評価関数Jが最小となる組み合わせ(kmax,k,M)を、総反復回数kmax及び粒子数Mの最適な組み合わせとして前記適合化制御手段に設定する最適計算条件設定手段と、を備えたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一に記載のエンジン制御パラメータ適合化装置。
【数2】

【請求項10】
コンピュータに読み込んで実行させることにより、コンピュータを請求項1乃至9の何れか一に記載のエンジン制御パラメータ適合装置として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−92761(P2012−92761A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241574(P2010−241574)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】