エンジン始動制御装置
【課題】ドライバの飲酒状態の検出およびドライバの個人認証に基づいてエンジン始動の禁止・許可を制御するシステムにおいて、システム構成を簡易にすることを目的とする。
【解決手段】個人認証のために検出部位を撮影するカメラ41と、ドライバの飲酒状態の検出のために検出部位の脈波信号を検出する受光素子43とが、1つの筐体40の中に収められ、筐体40に検出部位50が近づけられたときに、カメラ41による個人認証および受光素子43による飲酒状態の検出が実行される。
【解決手段】個人認証のために検出部位を撮影するカメラ41と、ドライバの飲酒状態の検出のために検出部位の脈波信号を検出する受光素子43とが、1つの筐体40の中に収められ、筐体40に検出部位50が近づけられたときに、カメラ41による個人認証および受光素子43による飲酒状態の検出が実行される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン始動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、飲酒運転を防止するために、ドライバの飲酒状態を検出し、検出した飲酒状態が所定基準以上の場合には車両のエンジンの始動を禁止する技術が知られている(例えば、引用文献1、2参照)。また、車両の盗難を防止するために、ドライバの顔等をカメラで撮影し、撮影結果の画像とあらかじめ登録された画像とを比較することでドライバが正規なドライバか否かを判定し、正規でない場合には車両のエンジンの始動を禁止するドライバ個人認証の技術が知られている。
【特許文献1】特開平7−9924号公報
【特許文献2】特開2007−186124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような、ドライバの飲酒状態に基づくエンジン始動の禁止・許可のシステムと、ドライバ個人認証に基づくエンジン始動の禁止・許可のシステムとを組み合わせることが可能である。
【0004】
しかし、このような組み合わせのシステムにおいては、ドライバの飲酒状態を検出するセンサと、ドライバの顔を撮影するカメラとを別々の位置に取り付けることになるので、システム構成が複雑になる。
【0005】
本発明は上記点に鑑み、ドライバの飲酒状態の検出およびドライバの個人認証に基づいてエンジン始動の禁止・許可を制御するシステムにおいて、システム構成を簡易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、車両に搭載されるエンジン始動制御装置が、車両のドライバの体の一部位(以下、検出部位という)における脈波を光学的方法で検出すると共に、検出部位の撮影を行うセンサ(41、43)と、当該センサ(41、43)を収容する筐体(40)と、当該センサ(41、43)による検出部位の撮影結果に基づいて、車両のドライバが正規のドライバであるか否かを判定する個人認証手段(120、130、140、210、220)と、当該センサ(41、43)が検出した検出部位における脈波に基づいて、当該ドライバの血中アルコール濃度の指標を算出し、算出した当該指標が飲酒基準値を超えたか否かを判定するアルコール濃度判定手段(150、160)と、当該個人認証手段(120、130、140、210、220)が、正規のドライバである旨の判定を行ったこと、および、当該アルコール濃度判定手段(150、160)が、当該指標が飲酒基準値を越えなかった旨の判定を行ったことに基づいて、車両のエンジンの始動を許可する許可手段(170)と、を備えている。
【0007】
さらに当該センサ(41、43)は、ドライバが検出部位を筐体(40)に近づけることで、検出部位における脈波を検出することができると共に、検出部位の撮影を行うことができる
このように、アルコール濃度判定のためにドライバの検出部位における脈波を検出する機能と、個人認証のためにドライバの検出部位を撮影する機能とが、1つの筐体(40)の中に収容されて一体となっているので、エンジン始動制御装置のシステム構成を簡易にすることができる。
【0008】
そしてドライバは、この筐体(40)に体の検出部位を近づけるだけで、アルコール濃度判定と個人認証を両方とも実現することができるので、ドライバの利便性が向上する。
【0009】
なお、ここでいう「エンジン」とは、車両を走行させるための動力を発生する機関をいう。したがって、エンジンは、例えば内燃機関であってもよいし、電動モータであってもよい。
【0010】
さらに本発明のアルコール濃度判定は、検出された脈波に基づいて、ドライバの血中アルコール濃度の指標を算出し、算出した当該指標が飲酒基準値を超えたか否かを判定している。
【0011】
ここで、脈波とは、心臓の拍動に伴う末梢血管系内の血流量の変化をいう。血中アルコール濃度の指標とは、血中アルコール濃度そのものであってもよいし、血中アルコール濃度を特定するための他の指標(例えば、2つの波長の脈波の波高比の変化量)であってもよい。すなわち、血中アルコール濃度の指標は、血中アルコール濃度に応じて変化する値であればよい。
【0012】
以下に、脈波に基づいてアルコール濃度の指標を算出できることを示す。まず、上述のように、本発明においては、検出部位の脈波を光学的方法で検出する。より具体的には、検出部位に光を照射する。そして、検出部位を通って出たその光を受けられる位置にセンサ(41、43)をあらかじめ配置しておく。すると、センサ(41、43)は、検出部位を通って出た光を受け、その受光量に応じて変化する信号を出力する。
【0013】
検出部位に光が当てられると、その検出部位の内部を通る細動脈にあたって、当該細動脈を流れる血液成分に吸収され、残りの光が生体組織で反射して散乱し、その一部をセンサ(41、43)が受光することになる。このとき、細動脈の脈動により細動脈中の血流量が心拍に応じて変化するので、血液成分に吸収される光の量も同様に変化する。その結果、センサ(41、43)からの出力信号が細動脈の脈動に応じて変化する。
【0014】
また、発明者の実験によれば、細動脈で吸収される光の量は、血中アルコール濃度によっても変化し得る。これは、血中のアルコール(または、血中アルコール濃度に応じて濃度が変化する他の血中成分)が特定の波長の光を吸収するからであると考えられる。
【0015】
したがって、細動脈の脈動を反映するセンサ(41、43)の出力は、照射される光の波長によっては、人の血中アルコール濃度と関係する。以下、細動脈の脈動を反映するセンサ(41、43)の出力を、脈波信号という。図11は、脈波信号の出力値の時間変動についての実験結果を示すグラフである。この図中、縦軸がセンサ(41、43)の出力値であり、横軸が時間(秒単位)である。
【0016】
図中の実線71は、ある被験者の検出部位に870nmの波長の光を照射した場合の脈波信号を表し、点線72は、同じ時期に同じ被験者の同じ検出部位に1300nmの波長の光を照射した場合の脈波信号を表す。
【0017】
この図に示すように、同じ人の脈波信号であっても、検出に用いる光の波長によって大きく変化する。また、脈波の波高は、被験者の血圧、呼吸等の生理現象の変化に応じて時間的にも大きく変化する。ここで、脈波の波高とは、脈波信号中の一拍の波の極小値から極大値までの変化量をいう。例えば、図11の区間73においては両波長における波高は大きく、区間74においては両波長における波高は小さい。
【0018】
しかし、発明者の実験によれば、同じ被験者の同時期(より具体的には、同じ脈拍の時期)における2つの波長の波高の比は、被験者の血圧、呼吸等によらず一定となる場合がある。以下、同じ脈拍の時期における2つの波長の波高の比を、単に波高比という。図12に、ある被験者が、同じ血中アルコール濃度の状態で特定の2つの波長による波高比を複数回算出した結果を示す。特定の2つの波長としては、この実験においては870nmと1300nmを用いている。
【0019】
図12においては、横軸が1300nmの光による脈波の波高を示し、縦軸が870nmの光による脈波の波高を示している。図中の各点が、1回の実験結果に相当する。この図に示す通り、一定のアルコール濃度においては、相関係数Rの自乗が0.97となっており、2つの波長の波高間には極めて強い相関がある。また、870nmの波高に対する1300nmの波高の波高比は、1.40(実線部分に相当する)の近傍で安定している。
【0020】
このように、2つの波長の光による脈波信号の波高比は、被験者の血圧、呼吸等の変動に起因する個人内差を吸収する。
【0021】
そして、更に発明者の実験によれば、被験者の血中アルコール濃度に波高が敏感に変化する光の波長もあれば、被験者の血中アルコール濃度にあまり影響を受けない光の波長もある。すなわち、アルコール感度の高い波長と低い波長がある。
【0022】
したがって、2つの波長の光による脈波信号の波高比は、被験者の血中アルコール濃度に応じて変化し得る。図13に、870nmの波長の光による波高に対する1300nmの波長の光による波高の波高比の、複数回に渡る実験結果を示す。
【0023】
図13においては、横軸が1300nmの光による脈波の波高を示し、縦軸が870nmの光による脈波の波高を示している。図中の各三角形が、ある被験者の飲酒なしの状態における1回の実験結果に相当し、図中の各円が、同じ被験者の飲酒あり(具体的には、血中アルコール濃度が0.036%)の状態における1回の実験結果に相当する。
【0024】
この図に示す通り、それぞれのアルコール濃度においては、相関係数Rの自乗が0.77、0.89となっており、2つの波長の波高間には強い相関がある。また、870nmの波高に対する1300nmの波高の波高比は、飲酒なしの場合には1.24(実線75に相当する)の近傍で安定しており、血中アルコール濃度が0.036%の場合には1.40(実線76に相当する)の近傍で安定している。
【0025】
したがって、この2つの波長における波高比は、被験者の血中アルコール濃度が高くなるほど高くなる傾向にある。図14に、この2つの波長における波高比と血中アルコール濃度との関係についての実験結果を示す。図14においては、横軸が血中アルコール濃度を示し、縦軸が、870nmの光による脈波の波高の、1300nmの光による脈波の波高に対する波高比を、示している。図中の3つの点が、同じ被験者による実験結果に相当する。なお、図11〜図14の実験においては、被験者の検出部位としては、指先を用いている。
【0026】
以上説明した通り、複数の異なる周波数の光によって検出した複数の脈波の波高比に基づいて、被験者の血中アルコール濃度の指標を算出することができる。
【0027】
また、請求項2に記載のように、筐体(40)は、ドライバの指を検出部位として支持する形状の窪み部(40a、40b)を有し、
センサ(41、43)は、筐体(40)に収容される発光素子(42)から出て検出部位を通った光によって検出部位の静脈を撮影するカメラ(41)と、発光素子(42)から出て検出部位を通った光の強度を撮影する受光素子(43)と、を備え、受光素子(43)は、当該カメラ(41)よりも、窪み部(40a、40b)に指が収まった状態における当該指の先端側に、配置されていてもよい。
【0028】
脈波の検出は、脈動している細動脈を検出対象とする、そして、指においては、指先に近いほど静脈よりも細動脈が多くなり、根本に近いほど細動脈よりも静脈が多くなる。したがって、上記のように、脈波検出用の受光素子(43)は、静脈撮影用のカメラ(41)よりも、窪み部(40a、40b)に指が収まった状態における当該指の先端側に、配置されていることで、受光素子(43)はより確実に脈波を検出できると共に、カメラ(41)はより良く静脈を撮影できる。
【0029】
また、請求項3に記載のように、個人認証手段(120、130、140、210、220)は、センサ(41,43)が検出した検出部位における脈波に基づいて、検出部位が生命のある人の部位であるか否かを判定し、生命のある人の部位であると判定したことに基づいて、前記車両のドライバが正規のドライバであるか否かを判定するようになっていてもよい。
【0030】
個人認証を不正に回避してエンジンを始動するための方法として、正規ドライバの指を切り取って筐体(40)に近づけるという方法等が知られている。生命のある人の部位(より具体的には生命のある人と繋がっている部位)には、動脈の脈動があり、そうでない部位には、動脈の脈動がない。したがって、このような回避方法に対する対策として、筐体(40)に近づけられた検出部位の脈波に基づいて、検出部位が生命のある人の部位であるか否かを判定することで、個人認証の精度がより高まる。
【0031】
また、請求項4に記載のように、個人認証手段(120、130、140、210、220)は、センサ(41、43)による検出部位の撮影結果に基づいて、車両のドライバが正規のドライバでないと判定した場合、当該ドライバによって入力されたパスワードが正規のものであるか否かを判定するようになっていてもよい。
【0032】
この場合、許可手段(170)は、個人認証手段(120、130、140、210、220)が、当該パスワードが正規のものである旨の判定を行ったこと、および、アルコール濃度判定手段(150、160)が、上記指標が飲酒基準値を越えなかった旨の判定を行ったことに基づいて、車両のエンジンの始動を許可するようになっていてもよい。
【0033】
このようになっていることで、例えば、正規のドライバではないものの、正規のドライバによって車両の運転を許可され、正規のドライバからパスワードを教えてもらったドライバは、検出部位の撮影による個人認証に失敗したとしても、教わったパスワードを入力することで、(アルコール濃度の指標が飲酒基準値を超えない限り)エンジンの始動を行うことができる。
【0034】
また、請求項5に記載のように、エンジン始動制御装置は、センサ(41、43)が検出した検出部位における脈波に基づいて、ドライバの自律神経活動量を算出する自律神経活動量算出手段(370)と、自律神経活動量算出手段(370)が算出した自律神経活動量に基づく情報を前記ドライバに通知する自律神経活動量通知手段(380)と、を備えていてもよい。
【0035】
このようになっていることで、ドライバが筐体(40)に指を近づけるだけで、ドライバの個人認証および血中アルコール濃度の検出に基づくエンジン始動制御に加え、ドライバの自律神経活動量をも算出して通知することができる。
【0036】
なお、上記および特許請求の範囲における括弧内の符号は、特許請求の範囲に記載された用語と後述の実施形態に記載される当該用語を例示する具体物等との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について説明する。図1に、本実施形態に係るエンジン始動制御装置1の構成を示す。エンジン始動制御装置1は、車両に搭載され、イグニッションスイッチ2、エンジンスタートスイッチ3、光学検出部4、操作入力装置5、表示装置6、および制御部7を含んでいる。
【0038】
イグニッションスイッチ2は、制御部7からの制御に基づいて、車両のイグニッションをオンとする。イグニッションがオフからオンとなることで、車両に備えられた車室内空調装置、車両用ナビゲーション装置、オーディオ再生装置、ラジオ受信機等の機器への電力の供給が開始される。エンジンスタートスイッチ3は、制御部7からの制御に基づいて、車両のエンジンを始動させる。
【0039】
光学検出部4は、車両のドライバの体の一部位(以下、検出部位という)における脈波を光学的方法で検出すると共に、当該検出部位の撮影を行う部材である。
【0040】
操作入力装置5は、ユーザの操作を受け付け、受け付けた操作の内容に応じた信号を制御部7に出力する装置である。表示装置6は、制御部7からの制御の内容に応じて、ユーザに対して視覚的な情報(文字、画像等)を提示し、また音声を出力する装置である。例えば、表示装置6は、ナビゲーション装置の液晶ディスプレイ、インストゥルメントパネル内の表示装置、スピーカ等を含んでいてもよい。
【0041】
制御部7は、図示しないCPU、RAM、ROM、フラッシュメモリ(書き込み可能不揮発性記憶媒体の一例に相当する)等を有している。CPUは、ROMに記録された各種プログラムをRAMに読み出して実行する。そしてCPUは、プログラムの実行において、必要に応じて光学検出部4、操作入力装置5から信号を取得し、また必要に応じてイグニッションスイッチ2、エンジンスタートスイッチ3、表示装置6を制御する。以下、CPUの処理内容を、制御部7の処理内容であるとみなして説明する。制御部7の処理内容の詳細については後述する。
【0042】
次に、光学検出部4について、図1〜図6を用いて詳細に説明する。図2は、この光学検出部4の外観を示す斜視図である。図3は、この光学検出部4にドライバの指50が載せられた状態を示す図である。図4は、光学検出部4を上方(すなわち、指50を置くための部分がある側)から見た平面図である。図5は、光学検出部4に指50が置かれている状況における図4のA−A断面図である。図6は、光学検出部4の取付位置を示す図である。
【0043】
光学検出部4は、筐体40、カメラ41、発光素子群42、および受光素子43を含む。図2、図5に示すように、筐体40の上面には、ドライバの指50を置くための窪み部40a、40bが設けられている。この窪み部にドライバの指50が置かれると、図3に示すように、指50が窪み部の窪み形状によって支えられることで、指50の左右方向への移動が抑制される。
【0044】
この窪み部は、置かれた指50の根本側部分に対面する根本側窪み部40aと、置かれた指50の指先(検出部位の一例に相当する)の腹の部分に対面する検出窓部40bと、を備えている。検出窓部40bは、透光性を有するガラス、樹脂等の部材である。根本側窪み部40aを含む筐体40の他の部分は、透光性を有さない(あるいは、検出窓部40bよりも光の透過率が低い)樹脂等から成る。
【0045】
発光素子群42は、複数の発光素子(例えばLED)から成り、各発光素子は、制御部7からの制御に応じて、第1の波長(例えば870nm)の単色光および第2の波長(例えば1300nm)の単色光を指50の指先に向けて照射する。
【0046】
カメラ41は、検出窓部40bに置かれた指先のエリアを撮影するためのCCDカメラ等の撮像素子群である。またカメラ41は、撮影結果の画像(すなわち、指先の画像)を制御部7に出力する。より詳しくは、カメラ41は、発光素子群42から指先に対して光が照射された場合には、指先の内部を通って外に出てカメラ41に向かう当該光によって撮影を行う。したがって、発光素子群42が指先を照射しているときにカメラ41が撮影した画像には、指の静脈52のパターンが写っている。
【0047】
受光素子43は、フォトダイオード等から成る。受光素子43は、発光素子群42から指50の指先に光が照射され、その光が指先内部を通って受光素子43の方向に出て来たときに、その光の光量を検出する。そして、検出した光量が多いほど大きい電圧出力(すなわち出力信号)を、制御部7に印加する。
【0048】
検出部位としての指先に発光素子群42からの光が当てられると、光はその検出部位の内部を通る細動脈51にあたって、当該細動脈を流れる血液成分(例えば、ヘモグロビン、血中アルコール、血中アルコール濃度に起因して濃度が変化する他の血中成分等)に吸収され、残りの光が生体組織で反射して散乱し、その一部を受光素子43が受光することになる。このとき、細動脈の脈動により細動脈にある血液成分の量が波のように変化するので、血液成分に吸収される光の量も同様に心拍に応じて変化する。その結果、受光素子43からの出力信号の値(具体的には電圧値)が細動脈の脈動に応じて変化する。したがって、受光素子43は、指先における脈波を光学的方法で検出し、検出結果に応じて変化する信号を制御部7に出力する。
【0049】
図5に示すように、カメラ41、発光素子群42、受光素子43は、筐体40の内部に収容されている。具体的には、カメラ41、発光素子群42、受光素子43は、検出窓部40bの直下に配置される。したがって、指50が窪み部に置かれた状態において、指50の指先の腹と、部材40〜43は、検出窓部40bを挟んで対面する。
【0050】
より具体的には、カメラ41は、発光素子群42、受光素子43よりも根本側窪み部40aに近い側(すなわち、指の根本に近い側)に配置される。また、発光素子群42は、カメラ41よりも根本側窪み部40aから遠い側(すなわち、指の先端に近い側)に配置されると共に、受光素子43よりも根本側窪み部40aに近い側に配置される。また、受光素子43は、発光素子群42よりも根本側窪み部40aから遠い側に配置される。
【0051】
したがって、図5の矢印81に示すように、カメラ41は、指先のうちでも指の根本側の部分を通って出た光によって撮影を行う。また、受光素子43は、指先のうちでも指の先端側の部分を通って出た光を受ける。
【0052】
受光素子43による脈波の検出は、脈動している細動脈を検出対象とする、そして、指においては、指の先端に近いほど静脈52よりも細動脈51が多くなり、根本に近いほど細動脈51よりも静脈52が多くなる。したがって、上記のように、脈波検出用の受光素子43が、静脈撮影用のカメラ41よりも、窪み部40a、40bに収まった指50の先端側に配置されていることで、受光素子43はより確実に脈波を検出できると共に、カメラ41はより良く静脈52を撮影できる。
【0053】
また、窪み部40a、40bは、一般的な人の指の腹の部分の形状に似せて形成されているので、図3に示すように、指50が窪み部40a、40bに収まったとき、検出窓部40bを指先の腹が塞ぐので、太陽60等の系外光61(すなわち、光学検出部4の外部で発生した光)が検出窓部40bを通ってカメラ41、発光素子群42に届く可能性が低い。
【0054】
なお、光学検出部4の車内における配置は、ドライバがドライバ席に座った状態で自然に指を置くことができるような位置が好ましい。そのような位置に光学検出部4を配置することで、ドライバがドライバ席に座った後、指を光学検出部4に近づけて窪み部40a、40bに指を当てるとう単一の動作で、後述する通り個人認証およびアルコール濃度検出に基づくエンジン始動制御を実現することができる。
【0055】
例えば、図6に示すように、ステアリングハンドル55の握り部分のドライバ側の面に光学検出部4を配置してもよい。この場合、ドライバは、ステアリングハンドル55を握るだけで、親指が光学検出部4の窪み部40a、40bに当たるので、車両の運転のために必要な動作を行うだけで、個人認証およびアルコール濃度検出のために必要な動作をも実現することができる。
【0056】
次に、制御部7の作動について説明する。制御部7は、個人認証および血中アルコール濃度検出に基づくエンジン始動制御を行うための作動として、図7に示すプログラム100を実行するようになっている。
【0057】
制御部7がプログラム100の実行を開始する契機は、例えば、操作入力装置5に対してドライバがエンジン始動制御開始の旨の操作を行うことであってもよい。この場合、ドライバは、自身の指50を光学検出部4に近づけ、更に指50を筐体40に当てて窪み部40a、40bに収めた後、他の指(例えば、指50を含む手と反対の手の指)で、エンジン始動制御開始の旨の操作を行う。
【0058】
あるいは、エンジン始動制御装置1は、指が筐体40の窪み部40a、40bに近づいたことを検出する近接センサ(図示せず)を有し、制御部7は、この近接センサからの信号に基づいて、指が筐体40の窪み部40a、40bに近づいたことに基づいて、プログラム100の実行を開始するようになっていてもよい。
【0059】
プログラム100の実行において制御部7は、まずステップ110で、発光素子群42および受光素子43を用いて脈波の計測を行う。具体的には、制御部7は、図8に示すように、まず、あらかじめ定められた計測期間(例えば、10秒、40秒等)の間(ステップ115参照)、第1の波長による脈波測定(ステップ111参照)と、第2の波長による脈波測定(ステップ113参照)とを交互に繰り返す。各波長による1回の脈波測定の期間は、計測期間よりも充分短く(例えば、1/10以下)、かつ、通常の人間の1回の脈拍の期間よりも充分短い(例えば、1/10以下の)期間(例えば50ミリ秒)とする。このようにすることで、同じ脈拍のタイミングにおいて、ほぼ同時に2つの波長の光で脈波を検出することができる。
【0060】
第1の波長の光による脈波の検出の際には、制御部7は、発光素子群42を制御して、第1の波長の光で発光させる。これによって、第1の波長の光が検出窓部40bを介して指50の指先の先端側部分の内部に入り、細動脈51によって吸収されなかった当該光の一部が、受光素子43に到達する。このとき制御部7は、受光素子43から出力された信号(具体的には電圧値)を、第1の波長の光によるその時点の脈波信号として、現在時刻情報と共にRAMに記録する。
【0061】
同様に、第2の波長の光による脈波の検出の際には、制御部7は、発光素子群42を制御して、第2の波長の光で発光させる。これによって、第2の波長の光が検出窓部40bを介して指50の先端部の内部に入り、細動脈51によって吸収されなかった当該光の一部が、受光素子43に到達する。このとき制御部7は、受光素子43から出力された信号(具体的には電圧値)を、第2の波長の光によるその時点の脈波信号として、現在時刻情報と共にRAMに記録する。
【0062】
計測期間が終了すると(ステップ115→YES参照)、制御部7は、第1の波長の光について時系列的に記録した脈波信号に基づいて、その脈波信号中の個々の波(1回の脈拍に相当する)について波高および脈拍間隔を算出し、算出した複数の脈波間隔を時系列に沿った順で記録する(ステップ117参照)。
【0063】
続いて制御部7は、第2の波長の光について時系列的に記録した脈波信号に基づいて、その脈波信号中の個々の波について波高および脈拍間隔を算出し、算出した複数の脈波間隔を時系列に沿った順で記録する(ステップ119参照)。これによって図7のステップ110の処理が終わり、その後制御部7は、ステップ120を実行する。
【0064】
図9に、時系列的に記録した脈波信号の例として、1300nmの光を受けて受光素子43が出力する脈波信号のグラフを示す。この図中、横軸がミリ秒単位の時間を示し、縦軸が脈波信号の値(具体的には電圧値)を示す。このグラフに示すように、通常の人間の脈波信号は、1回の脈拍に相当する波が周期的に繰り返す形状となっている。ここで、1つの波における脈波信号の最大値と最小値との差62を、波高といい、隣り合う波のピーク間の時間間隔63を脈拍間隔という。
【0065】
測定期間における脈波信号から個々の波の波高および脈拍間隔を算出する方法は周知であり、例えば特開2003−290164号公報、特開2003−47601号公報、特開2003−339651号公報に記載されている。
【0066】
例えば、脈波信号の極大値(ピーク)の検出および極小値(ボトム)の検出を行い、検出した複数のピークおよび複数のボトムのうち、1つのボトムの値と、そのボトムの後に最初に訪れるピークの値との差を、1つの波の波高とする。そして、1つのピークから次のピークまでの時間間隔を、1つの脈拍間隔とする。なお、1つの波の中の最も大きい極大値および最も小さい極小値以外の微細な極大値および極小値については、ピークおよびボトムとしての検出対象からは除外するようになっている。
【0067】
図7のステップ120において、制御部7は、計測した脈波信号の波高および脈拍間隔のいずれか一方または両方に基づいて、その脈波信号が生命のある人間のものであるか否かを判定する。この判定は、検出窓部40bに置かれた指先が生命のある人間の指先であるか否かの判定でもある。
【0068】
例えば、第1の波長による脈波信号および第2の波長による脈波信号のうちいずれか一方または両方の脈拍間隔の平均値が所定の脈拍間隔範囲に入っていれば、生命のある人間の指先であると判定し、さもなければ、生命のある人間の指先でないと判定してもよい。ここで、所定の脈拍間隔範囲としては、人間の脈拍間隔として適切な範囲(例えば、0.3秒以上2秒以下の範囲)を採用する。
【0069】
また例えば、第1の波長による脈波信号および第2の波長による脈波信号のうちいずれか一方または両方の脈拍間隔の平均値が所定の脈拍間隔範囲に入っており、かつ、第1の波長による脈波信号および第2の波長による脈波信号のうちいずれか一方または両方の波高の平均値が所定の波高範囲に入っていれば、生命のある人間の指先であると判定し、さもなければ、生命のある人間の指先でないと判定してもよい。ここで、所定の波高範囲としては、人間の脈波の波高として適切な範囲を採用する。
【0070】
生命のある人間の指先であると判定した場合、続いてステップ130を実行し、生命のある人間の指先でないと判定した場合、続いてステップ180に進む。
【0071】
ステップ130では、個人認証のための制御処理を実行する。具体的には、制御部7は、発光素子群42に、第1の波長の光および第2の波長の光のうち、静脈の撮影に適した900nm以下の光(例えば870nm)の光を指50に照射させ、それと同時に、カメラ41に指50の指先の根本側を撮影させる。これによって、カメラ41は、指50の静脈52のある部分を通って出た光による撮影画像を制御部7に出力し、制御部7は、当該撮影画像を取得する。このようにして制御部7が取得した画像には、指50の指先の根本側の部分の静脈パターンが映し出されている。
【0072】
続いてステップ140では、制御部7は、取得した静脈パターンの撮影画像に基づいて、撮影対象の指50が正規の登録者の指であるか否かを判定する。具体的には、撮影画像を、制御部7のフラッシュメモリにあらかじめ記録されている正規の登録者の指先根本側の静脈パターンの登録画像(1人分の画像であってもよいし、複数人分の複数の画像であってもよい)のそれぞれと比較する。
【0073】
そして、撮影画像との一致度が所定値以上となる登録画像がある場合は、正規の登録者の指であると判定し、さもなければ、正規の登録者の指でないと判定する。なお、登録画像には、その登録画像に相当するドライバの識別情報(名称、識別コード等)が対応付けられてフラッシュメモリに記録されている。そして、制御部7は、正規の登録者の指であると判定した場合、一致度が所定値以上となる登録画像に対応する識別情報を特定し、その識別情報に対応するドライバを現在のドライバであると特定する。
【0074】
ここで、登録画像をフラッシュメモリへ記録する方法は、例えば以下の方法を用いてもよい。すなわち、車両の正規のドライバが自身の指50を筐体40の窪み部40a、40bに収め、操作入力装置5に対して登録の旨の操作、および、当該ドライバの識別情報を入力する操作を行う。制御部7は、その登録の旨の操作があったことに基づいて、光学検出部4およびカメラ41をステップ130と同様の方法で制御する。その制御によって制御部7は、カメラ41によって撮影され出力された正規のドライバの指先根本側の静脈パターンの画像を取得する。そして制御部7は、この取得した静脈パターンの画像を登録画像として、入力された識別情報と共にフラッシュメモリに記録する。
【0075】
ステップ140で正規の登録者の指であると判定した場合、続いてステップ145を実行し、正規の登録者の指でないと判定した場合、続いてステップ180に進む。
【0076】
ステップ145では、イグニッションスイッチ2を制御することで、車両のイグニッションをオンとする。
【0077】
続いてステップ150では、血中アルコール濃度を検出する。具体的には、ステップ110で算出した2つの波長の光による脈波信号の波高について、同拍の波高比を算出し、その算出結果に基づいて、ドライバが飲酒状態であるか否かを判定する。
【0078】
図10に、このステップ150における血中アルコール濃度検出処理の詳細を示す。このステップ150の実行において制御部7は、まずステップ151で、2つの波長の光による同拍の波高比を、ステップ110で記録された波高比のペアの数だけ算出する。
【0079】
2つの波長の光による同拍(すなわち、同じ脈拍タイミング)の波高比とは、具体的には、第1の波長の脈波信号中のある波について算出した波高をH1とし、第2の波長の脈波信号中の同じ脈拍のタイミングの波について算出した波高をH2とすると、波高H1/波高H2に該当する。
【0080】
なお、第1の波長の脈波信号について算出した波高と、第2の波長の脈波信号について算出した波高とが、同じ脈拍のタイミングの波であるか否かは、2つの波高がステップ110で記録された順番(すなわち、それぞれの波長における順番)が同じであるか否かで判定する。
【0081】
続いてステップ153では、ステップ151で算出した複数の波高比の代表値が、基準波高比(飲酒基準値の一例に相当する)よりも大きいか否かを判定し、大きければ続いてステップ157を実行し、大きくなければ続いてステップ155を実行する。なお、複数の波高比の代表値としては、複数の波高比の平均値であってもよい。基準波高比については後述する。ステップ155では、「飲酒なし」であると判定し、その後図7のステップ150の実行を終了する。
【0082】
ステップ157では、上述の代表値に基づいて血中アルコール濃度を算出し、続いてステップ159では、「飲酒あり」であると判定し、その後図7のステップ150の実行を終了する。
【0083】
このように、ステップ150では、2つの波長の光によって検出した同拍の波高比の代表値が基準波高比よりも高いときに「飲酒あり」と判定し、そうでないときに「飲酒なし」と判定している。そして、「飲酒あり」と判定した場合には、当該代表値から血中アルコール濃度を算出している。したがって、2つの波長の光によって検出した同拍の波高比の代表値は、血中アルコール濃度が大きくなれば大きくなり、小さくなれば小さくなる値、すなわち、血中アルコール濃度の指標として用いられている。このように、波高比を血中アルコール濃度の指標として用いることの妥当性については後述する。
【0084】
ステップ150に続いてステップ160では、ドライバの運転を許可するか否かを判定する。具体的には、ステップ150において「飲酒あり」と判定していた場合には、ドライバの運転を許可しないと判定してステップ180に進む。また、ステップ150において「飲酒なし」と判定していた場合には、ドライバの運転を許可すると判定してステップ170に進む。
【0085】
ステップ170では、エンジンスタートスイッチ3を制御することでエンジンを始動させ、その後プログラム100の実行を終了する。
【0086】
ステップ180では、運転禁止のための処理を行い、その後プログラム100の実行を終了する。このステップ180では、例えば、表示装置6を用いて車両を運転できない旨の通知を行うようになっていてもよい。その場合、ステップ150でアルコール濃度を算出していれば、その算出結果の値を表示装置6に表示させてもよい。なお、ステップ180では、単にプログラム100の終了処理のみを行うようになっていてもよい。その場合であっても、ステップ180を実行することでステップ170のエンジン始動の処理を回避することができるので、実質的に運転禁止のための処理を行っていることになる。
【0087】
以上のようなプログラム100を実行することで、制御部7は、光学検出部4の検出窓部40bに置かれたドライバの指先の脈波信号を、発光素子群42を用いて計測し(ステップ110)、その脈波信号に基づいて、その指が生命のある人間のものであるか否かを判定する(ステップ120参照)。そして、生命のあるものであれば続いてカメラ41を用いた個人認証制御を行い(ステップ130参照)、その個人認証制御の結果に基づいて、ドライバが正規の登録者であるか否かを判定する(ステップ140参照)。
【0088】
ドライバが正規の登録者であれば、車両のイグニッションをオフからオンに切り替え(ステップ145参照)、2つの波長の光で脈波信号を計測し、計測した2つの脈波に基づいて血中アルコール濃度の指標となる値を特定する(ステップ150参照)。そして、算出した血中アルコール濃度の指標に基づいて運転を許可するか否かを判定し(ステップ160参照)、運転を許可する場合はエンジンを始動する(ステップ170参照)。
【0089】
また、検出窓部40bに置かれた指が生命のものでないと判定した場合(ステップ120→NO参照)、または、ドライバが正規の登録者でない場合(ステップ140→NO参照)、エンジンを始動させないことで(ステップ180参照)、不正行為車による車両窃盗を防止することができる。
【0090】
また、ドライバが正規の登録者であった場合でも(ステップ140→YES)、ドライバの血中アルコール濃度の指標が運転許可できない値であった場合には(ステップ160→NO参照)には、エンジンを始動させないことで(ステップ180参照)、飲酒運転を未然に防止することができる。ただしこの場合には、ドライバが正規の登録者であるので、イグニッションはオンとなっている(ステップ145参照)。したがって、正規の登録者は飲酒していても、車両のバッテリ電力が枯渇しない限り、車室内空調装置、車両用ナビゲーション装置、オーディオ再生装置、ラジオ受信機等の車内機器を作動させて利用することができる。
【0091】
また、制御部7は、ステップ110において計測した脈波信号を、検出窓部40bに置かれた指が生命のものであるか否かの判定に用いると共に、血中アルコール濃度の検出にも用いる。このように、生命であるか否かの判定および血中アルコール濃度の検出という2つの機能のために共通の脈波信号(より具体的には、共通の周波数における共通のタイミングにおける脈波信号)を用いることで、それぞれの機能毎に脈波を検出する必要をなくし、脈波計測のためにドライバを待たせてしまう時間を短縮化することができる。
【0092】
このように、エンジン始動制御装置1が、車両のドライバの体の検出部位における脈波を光学的方法で検出すると共に、検出部位の静脈撮影を行うセンサ群41、43と、当該センサ群を収容する筐体40と、を備えている。
【0093】
そしてエンジン始動制御装置1は、カメラ41による検出部位の撮影結果に基づいて、車両のドライバが正規のドライバであるか否かを判定することで個人認証を行う。また、受光素子43が出力した検出部位における脈波信号に基づいて、当該ドライバの血中アルコール濃度の指標(すなわち波高比)を算出し、算出した当該指標が飲酒基準値(すなわち基準波高比)を超えたか否かを判定することで血中アルコール濃度検出を行う。
【0094】
そしてエンジン始動制御装置1は、個人認証において正規のドライバである旨の判定を行ったこと、および、血中アルコール濃度検出において当該指標が飲酒基準値を越えなかった旨の判定を行ったことに基づいて、車両のエンジンの始動を許可する。
【0095】
さらに当該センサ群41、43は、ドライバが検出部位である指先を筐体40の検出窓部40bに近づけて当てることによって、検出部位における脈波を検出することができると共に、検出部位の撮影を行うことができる。すなわち、当該センサ群41、43が撮影および脈波の検出を行うのは、ドライバが検出部位である指先を筐体40の検出窓部40bに近づけて当てたときとなっている。
【0096】
このように、アルコール濃度判定のためにドライバの検出部位における脈波を検出する機能と、個人認証のためにドライバの検出部位を撮影する機能とが、1つの筐体40の中に収容されて一体となっているので、エンジン始動制御装置1のシステム構成を簡易にすることができる。
【0097】
そしてドライバは、この筐体40に体の検出部位を近づけるだけで、アルコール濃度判定と個人認証を両方とも実現することができるので、ドライバの利便性が向上する。
【0098】
また、筐体40は、検出部位としてドライバの指を支持する形状の窪み部40a、40bを有し、センサ群41、43は、カメラ41と受光素子43とを含み、受光素子43は、当該カメラ41よりも、窪み部40a、40bに指が収まった状態における当該指の先端側に、配置されていり。
【0099】
脈波の検出は、脈動している細動脈を検出対象とする、そして、指50においては、指先に近いほど静脈よりも細動脈が多くなり、根本に近いほど細動脈よりも静脈が多くなる。したがって、上記のように、脈波検出用の受光素子43は、静脈撮影用のカメラ41よりも、当該指50の先端側に配置されていることで、受光素子43はより確実に脈波を検出できると共に、カメラ41はより良く静脈を撮影できる。
【0100】
また、エンジン始動制御装置1は、受光素子43が検出した検出部位における脈波信号に基づいて、検出部位が生命のある人の部位であるか否かを判定し、生命のある人の部位であると判定したことに基づいて、車両のドライバが正規のドライバであるか否かを判定するようになっている。
【0101】
個人認証を不正に回避してエンジンを始動する方法として、正規ドライバの指を切り取って筐体40に近づけるという方法等の成りすまし手法が知られている。生命のある人の部位(より具体的には生命のある人と繋がっている部位)には、動脈の脈動があり、そうでない部位には、動脈の脈動がない。したがって、このような回避方法に対する対策として、筐体40に近づけられた検出部位の脈波に基づいて、検出部位が生命のある人の部位であるか否かを判定することで、個人認証の精度がより高まる。
【0102】
ここで、脈波に基づいてアルコール濃度の指標を算出できることについて説明する。発明者の実験によれば、特定の波長の光については、その光が細動脈で吸収される量が、血中アルコール濃度によっても変化する。これは、血中のアルコール(または、血中アルコール濃度に応じて濃度が変化する他の血中成分)が、特定の波長の光を吸収するからであると考えられる。
【0103】
そして、細動脈の脈動を反映する受光素子43の出力は、発明者の実験によれば、人の血中アルコール濃度と関係する。図11は、脈波信号の出力値の時間変動についての実験結果を示すグラフである。この図中、縦軸が受光素子43が出力する脈波信号の値であり、横軸が時間(秒単位)である。
【0104】
図中の実線71は、ある被験者の検出部位に870nmの波長の光を照射した場合の脈波信号を表し、点線72は、同じ被験者の検出部位に1300nmの波長の光を照射した場合の脈波信号を表す。
【0105】
この図に示すように、同じ人の脈波信号であっても、検出に用いる光の波長によって大きく変化する。また、脈波の波高は、被験者の血圧、呼吸等の生理現象の変化に応じて時間的にも大きく変化する。ここで、脈波の波高とは、脈波信号中の各波の極小値から極大値までの変化量をいう。例えば、図11の区間73においては両波長における波高は大きく、区間74においては両波長における波高は小さい。
【0106】
しかし、発明者の実験によれば、同じ被験者の同時期(より具体的には、同じ脈拍の時期)における2つの波長の波高比は、被験者の血圧、呼吸等によらず一定となる場合がある。図12に、ある被験者が、同じ血中アルコール濃度の状態で特定の2つの波長による波高比を複数回算出した結果を示す。特定の2つの波長としては、この実験においては870nmと1300nmを用いている。
【0107】
図12においては、横軸が1300nmの光による脈波の波高を示し、縦軸が870nmの光による脈波の波高を示している。図中の各点が、1回の実験結果に相当する。この図に示す通り、一定のアルコール濃度においては、相関係数Rの自乗が0.97となっており、2つの波長の波高間には極めて強い相関がある。また、870nmの波高に対する1300nmの波高の波高比は、1.40(実線部分に相当する)の近傍で安定している。
【0108】
このように、2つの波長の光による脈波信号の波高比は、被験者の血圧、呼吸等の変動に起因する個人内差を吸収する。
【0109】
そして、更に発明者の実験によれば、被験者の血中アルコール濃度に波高が敏感に変化する光の波長もあれば、被験者の血中アルコール濃度にあまり影響を受けない光の波長もある。すなわち、アルコール感度の高い波長と低い波長がある。
【0110】
したがって、2つの波長の光による脈波信号の波高比は、被験者の血中アルコール濃度に応じて変化し得る。図13に、870nmの波長の光による波高に対する1300nmの波長の光による波高の波高比の、複数回に渡る実験結果を示す。
【0111】
図13においては、横軸が1300nmの光による脈波の波高を示し、縦軸が870nmの光による脈波の波高を示している。図中の各三角形が、ある被験者の飲酒なしの状態における1回の実験結果に相当し、図中の各円が、同じ被験者の飲酒あり(具体的には、血中アルコール濃度が0.036%)の状態における1回の実験結果に相当する。
【0112】
この図に示す通り、それぞれのアルコール濃度においては、相関係数Rの自乗が0.77、0.89となっており、2つの波長の波高間には強い相関がある。また、870nmの波高に対する1300nmの波高の波高比は、飲酒なしの場合には1.24(実線75に相当する)の近傍で安定しており、血中アルコール濃度が0.0036%の場合には1.40(実線76に相当する)の近傍で安定している。
【0113】
したがって、この2つの波長における波高比は、被験者の血中アルコール濃度が高くなるほど高くなる傾向にある。図14に、この2つの波長における波高比と血中アルコール濃度との関係についての実験結果を示す。図14においては、横軸が血中アルコール濃度を示し、縦軸が、870nmの光による脈波の波高の、1300nmの光による脈波の波高に対する波高比を、示している。図中の3つの点が、同じ被験者による実験結果に相当する。なお、図11〜図14の実験においては、被験者の検出部位としては、指先を用いている。
【0114】
以上説明した通り、複数の異なる周波数の光によって検出した複数の脈波の波高比に基づいて、被験者の血中アルコール濃度の指標を算出することができる。具体的には、波高比自体が、血中アルコール濃度の指標となる。また、この実験例においては、波高比が約1.36以上であるときに、血中アルコール濃度が0.03%を超える酒気帯び状態に該当する。
【0115】
本実施形態の制御部7は、図10のステップ153において、算出した波高比と基準比率とを比較している。制御部7は、第1の波長が870nmで、第2の波長が1300nmである場合は、基準比率として、定数(例えば上記の1.36)を用いてもよい。
【0116】
あるいは、制御部7は、基準比率のデータを、ドライバ毎にフラッシュメモリに記憶するようになっていてもよい。その場合、当該車両を運転する可能性のあるドライバのそれぞれについて、図14に示したような波高比と血中アルコール濃度との関係をあらかじめ実験により取得し、取得した関係の情報に基づいて、酒気帯び状態か否かの境目となる基準比率を決定する。そして、決定した基準比率を、当該ドライバの識別情報と共に、あらかじめ制御部7のフラッシュメモリに記録させる。
【0117】
また、本実施形態の制御部7は、図10のステップ157において、算出した波高比から血中アルコール濃度を特定している。制御部7は、第1の波長が870nmで、第2の波長が1300nmである場合は、波高比と血中アルコール濃度との対応関係の情報として、図14に示したグラフそのままの関係を常に用いるようになっていてもよい。
【0118】
あるいは、制御部7は、波高比と血中アルコール濃度との関係を、ドライバ毎にフラッシュメモリに記憶するようになっていてもよい。その場合、当該車両を運転する可能性のあるドライバのそれぞれについて、波高比と血中アルコール濃度との関係をあらかじめ実験により取得し、取得した関係の情報を、当該ドライバの識別情報と共に、あらかじめ制御部7のフラッシュメモリに記録させる。
【0119】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態が第1実施形態と異なるのは、制御部7が図7に示したプログラム100に変えて、図15に示すプログラム200を実行することである。なお、なお、図7と図15において同一の符号が付されたステップは、互いに同一の処理を行うものであり、ここではそれらの詳細についての説明は省略する。
【0120】
制御部7は、プログラム200の実行において、ステップ140で正規の登録者の指でないと判定すると、続いてステップ210で、パスワード入力を受け付けるための処理を行う。具体的には、表示装置6を制御して、パスワードの入力を促す表示を行い、操作入力装置5を用いたドライバのパスワード入力を待つ。
【0121】
ドライバによるパスワード入力があると、続いてステップ220で、入力されたパスワードが正規のパスワードであるか否かを判定する。具体的には、入力されたパスワードと、フラッシュメモリ中に記録された正規のパスワードとを比較し、それらが一致すれば入力されたパスワードが正規であると判定してステップ145に進み、そうでなければ正規でないと判定してステップ180に進む。
【0122】
なお、正規のパスワードをフラッシュメモリへ記録する方法は、例えば以下の方法を用いてもよい。すなわち、車両の正規のドライバが操作入力装置5に対してパスワード登録の旨の操作を行う。制御部7は、そのパスワード登録の旨の操作があったことに基づいて、パスワードの入力を待つ。そして、ドライバが操作入力装置5を用いてパスワードを入力すると、制御部7は、この入力されたパスワードを正規のパスワードとしてフラッシュメモリに記録する。
【0123】
このように、制御部7は、カメラ41による指50の撮影結果に基づいて、車両のドライバが正規のドライバでないと判定した場合、当該ドライバによって入力されたパスワードが正規のものであるか否かを判定する(ステップ210、220参照)。
【0124】
そして制御部7は、当該パスワードが正規のものである旨の判定を行ったこと、および、検出したアルコール濃度の指標が飲酒基準値を越えなかった旨の判定を行ったことに基づいて(ステップ150、160参照)、車両のエンジンの始動を許可するようになっている(ステップ170参照)。
【0125】
このような、パスワードの照合によって個人認証を回避する手段の作動により、例えば、正規のドライバではないものの、正規のドライバによって車両の運転を許可され、正規のドライバからパスワードを教えてもらったドライバは、指50の撮影による個人認証に失敗したとしても、教わったパスワードを入力することで、(アルコール濃度の指標が飲酒基準値を超えない限り)エンジンの始動を行うことができる。
【0126】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態が第1実施形態と異なるのは、本実施形態の制御部7が、更に図16に示すプログラム300を実行するようになっていることである。このプログラム300は、光学検出部4を用いてドライバの自律神経活動量を算出し、その算出結果に基づく情報をドライバに通知するためのプログラムである。
【0127】
制御部7がプログラム300の実行を開始するタイミングは、プログラム100を開始するタイミングと同じであってもよい。このようにすることで、ドライバが一度光学検出部4の窪み部40a、40bに指50を収めるだけで、ドライバの個人認証および血中アルコール濃度の検出に基づくエンジン始動制御に加え、ドライバの自律神経活動量をも算出することができる。
【0128】
プログラム300の実行において制御部7は、まずステップ310で、検出窓部40bに当てられた指50の指先の脈波信号を所定期間(例えば32秒以上)測定する。続いてステップ320で、測定した脈波信号のピークまたはボトムを特定する。さらに制御部7はステップ330で、特定したピークまたはボトム間の間隔に基づいて、一泊毎(すなわち、脈波信号中の1つの波毎の)脈拍間隔を算出する。
【0129】
これらステップ310〜330の処理は、図7のステップ110において説明したものと同じ方法で行う。なお、ステップ310〜330において脈波信号を検出するために発光素子群42に照射させる光の波長は、第1の波長であっても第2の波長であってもよい。あるいは、制御部7は、ステップ310〜330の処理を実行せず、図7のステップ110において記録された脈拍間隔を単に読み出すようになっていてもよい。
【0130】
制御部7は、続いてステップ340で、取得した一拍毎の脈拍間隔のデータに基づいて、単位時間毎(具体的には1秒毎)の脈拍間隔の変動を算出する。算出に際しては、例えばスプライン補間等の補間処理を用いる。すなわち、図17に示すように、取得した一拍毎の脈拍間隔のデータ91a〜91eを、その脈拍の間隔だけ時間軸方向に離してプロットし、そのプロットしたデータ91a〜91eをスプライン補完等の補間処理を用いて1つの線90で繋ぎ、その線90を用いて、単位時間毎の脈拍間隔のデータ92a〜92eを取得する。
【0131】
続いてステップ350では、上記のようにして得た単位時間毎の脈拍間隔のデータ92a〜92e(例えば、1秒単位の32個の脈拍間隔のデータ)に対してFFT変換による周波数解析を行う。それによって、脈拍間隔の変動の周波数成分の特性情報を得ることができる。
【0132】
続いてステップ360では、脈拍間隔の変動の周波数成分のうち、LF周波数帯(0.04Hz〜0.15Hz)におけるピーク値PLFと、HF周波数帯(0.15Hz〜0.4Hz)におけるピーク値PHFを算出する。
【0133】
続いてステップ370では、算出したピーク値PLF、PHFに基づいて、自律神経活動量を算出する。この値PLFは、交感神経および副交感神経活動量の変化を反映する量であり、値PHFは、自律神経活動のブレーキ役である副交感神経活動量を反映していることが知られている。
【0134】
したがって、例えば、PLF/(PLF+PHF)、PLF/PHF等の自律神経活動量を用いて、これら自律神経活動量が基準範囲よりも高ければ、ドライバが緊張状態または興奮状態にあると判定する。また、これら自律神経活動量が当該基準範囲よりも低ければ、ドライバが居眠りをしている可能性があると判断する。
【0135】
なお、基準範囲は、自律神経活動量の通常の範囲としてあらかじめ登録された範囲である。これら自律神経活動量の通常の範囲には、個人差があり、同じ人でも年齢が変化すれば変化する。したがって、基準範囲については、車両のドライバ毎にあらかじめフラッシュメモリへ登録しておく。
【0136】
すなわち、ドライバの識別情報(例えば、氏名、識別コード)と、そのドライバの基準範囲から成る組が、フラッシュメモリに複数記録されている。そして制御部7は、プログラム300の実行開始時に、ドライバが操作入力装置5を用いて入力した自身の識別情報と組になっている基準範囲をフラッシュメモリから読み出し、読み出した基準範囲を当該ドライバの基準範囲としてステップ370で用いる。
【0137】
なお、基準範囲をフラッシュメモリへ登録する方法は、例えば以下の方法を用いてもよい。すなわち、車両の正規のドライバが、指50を窪み部40a、40bに収め、操作入力装置5に対して基準範囲の登録の旨の操作を行い、かつ、自身の識別情報(例えば、氏名、識別コード等)を入力する操作を行う。
【0138】
制御部7は、その基準範囲の登録の旨の操作があったことに基づいて、図16のステップ310〜360までの処理を複数回繰り返し実行して、自律神経活動量を第1の時間間隔で複数回算出し、それら算出結果を、入力された識別情報に対応する自律神経活動量として、フラッシュメモリに記録する。このような、1回の登録の旨の操作があったときに実行される複数の自律神経活動量の記録を、イベントという。
【0139】
そして制御部7は、それまでに1回または複数回のイベントで記録された各ドライバの自律神経活動量の複数の値から、各ドライバの自律神経活動量の平均値Mおよび標準偏差σを算出し、M−f(σ)からM+f(σ)までの範囲を基準範囲とする。ここで、f(σ)は、σが増大すると増大する正の値である。例えばf(σ)として、3σを用いてもよい。
【0140】
なお、上述のイベントは、同じドライバについて、第1の時間間隔よりも非常に大きい(例えば100倍以上の)第2の時間間隔を空けて複数回(例えば、1日1回ずつ数日間連続して)実行されるようになっていてもよい。このようにすることで、より個人の基準範囲を正確に反映することができる。
【0141】
なお、制御部7は、あるドライバについてのイベントの実行回数が基準回数を超えたことに基づいて、当該ドライバについて記録された自律神経活動量から当該ドライバの基準範囲を決定するようになっていてもよい。
【0142】
そして、制御部7は、あるドライバについてのイベントの実行回数が基準回数を超えるまでは、そのドライバの年齢に基づいて基準範囲を決定するようになっていてもよい。この場合、制御部7のROMまたはフラッシュメモリには、あらかじめ、年齢と、その年齢を有する平均的な人についての自律神経活動量の通常の範囲(すなわち基準範囲)と、の対応関係のデータが記録されている。そしてドライバは、プログラム300の実行時において、入力された識別情報に対応する年齢を特定し、特定した年齢に対応する基準範囲を、当該対応関係のデータから特定し、特定した基準範囲を当該ドライバの基準範囲としてステップ370で用いる。
【0143】
なお、制御部7は、識別情報に対応する年齢を、以下のように特定してもよい。すなわち、制御部7は、識別情報と、その識別情報に該当するドライバの生年月日の情報とを対応付けてフラッシュメモリにあらかじめ記録する。そして、識別情報に対応する生年月日と現在時刻に基づいて、識別情報に該当するドライバの年齢を特定する。なお、制御部7は、識別情報に該当するドライバの生年月日の情報を、当該ドライバによる操作入力装置5に対する生年月日の入力操作に基づいて記録する。
【0144】
続くステップ380では、表示装置6を用いて、ステップ370における自律神経活動の評価結果に基づくドライバへの情報通知を行う。例えば、ステップ370でドライバが緊張状態または興奮状態にあると判定した場合には、リラックスするようアドバイスする音声を表示装置6に出力させる。また例えば、ステップ370でドライバが居眠りをしている可能性があると判断したときは、ドライバの目を覚ますための大きな音声を表示装置6に出力させる。
【0145】
またステップ380では、ステップ360で算出した自律神経活動量を、現在日時の情報と共にフラッシュメモリに記録するようになっていてもよい。この場合、制御部7は、操作入力装置5に対するドライバの表示要求操作に応じて、記録した自律神経活動量を表示装置6に表示させるようになっていてもよい。
【0146】
このように、脈波信号から脈拍を検出し、脈拍間隔から自律神経活動量を算出し、その自律神経活動量に基づいてドライバに注意を促すことができる。また、自律神経活動量を日々の体調の変化情報として記録して表示することで、ドライバが自律神経活動量を日々の健康チェックのために利用することができる。
【0147】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の各発明特定事項の機能を実現し得る種々の形態を包含するものである。
【0148】
例えば、上記実施形態においては、検出部位として指先が用いられていたが、検出部位は人の他の部位(例えば掌)であってもよい。
【0149】
また、上記実施形態においては、異なる波長の2種類の光のそれぞれで検出した2つの波高の比を、血中アルコール濃度の指標として用いているが、異なる波長の3種類以上の光のそれぞれで検出した3つ以上の波高に基づく量を、血中アルコール濃度の指標として用いてもよい。
【0150】
また、上記実施形態においては、第1の波長として870nmが採用され、第2の波長として1300nmが採用されているが、第1の波長、第2の波長は、これらのものに限らない。すなわち、第1の波長の光で検出した波高が、第2の波長の光で検出した波高よりも、血中アルコール濃度により敏感に変化するようになっていれば、第1の波長、第2の波長は、どのようなものであってもよい。
【0151】
また、運転禁止処理180においては、キーが車両のキーシリンダに挿入されてエンジンスタート位置にセットされたた場合には、エンジンスタートスイッチ3を制御してエンジンを始動するようになっていてもよい。
【0152】
また、上記実施形態においては、制御部7は、カメラ41を用いて指先の静脈を撮影し、撮影した静脈パターンと登録された静脈パターンとの比較によって、個人認証を実現している。しかし、制御部7は、カメラ41を用いて指先の指紋を撮影し、撮影した指紋パターンと登録された指紋パターンとの比較によって、個人認証を実現するようになっていてもよい。
【0153】
また、上記の実施形態において、制御部7がプログラムを実行することで実現している各機能は、それらの機能を有するハードウェア(例えば回路構成をプログラムすることが可能なFPGA)を用いて実現するようになっていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジン始動制御装置1の構成を示すブロック図である。
【図2】光学検出部4の外観を示す斜視図である。
【図3】光学検出部4にドライバの指51が載せられた状態を示す図である。
【図4】光学検出部4の平面図である。
【図5】図4のA−A−A断面図である。
【図6】光学検出部4の取付位置を示す図である。
【図7】制御部7が実行するプログラム100のフローチャートである。
【図8】図7のステップ110における脈波計測処理の詳細を示すフローチャートである。
【図9】1300nmの光を受けて受光素子43が出力する脈波信号のグラフである
【図10】図7のステップ150における血中アルコール濃度検出処理の詳細を示すフローチャートである。
【図11】脈波信号の出力値の時間変動についての実験結果を示すグラフである。
【図12】同じ血中アルコール濃度の状態で特定の2つの波長による波高比を複数回算出した結果を示すグラフである。
【図13】2つの波長の光による脈波信号の波高比を、異なるアルコール濃度の場合について計測した結果を示す図である。
【図14】2つの波長における波高比と血中アルコール濃度との関係についての実験結果を示すグラフである。
【図15】第2実施形態において制御部7が実行するプログラム200のフローチャートである。
【図16】第3実施形態において制御部7が実行するプログラム300のフローチャートである。
【図17】単位時間毎の脈拍間隔を算出するための補間処理を示すグラフである。
【符号の説明】
【0155】
1 エンジン始動制御装置
2 イグニッションスイッチ
3 エンジンスタートスイッチ
4 光学検出部
5 操作入力装置
6 表示装置
7 制御部
40 筐体
40a 根本側窪み部
40b 検出窓部
41 カメラ
42 発光素子群
43 受光素子
50 指
51 細動脈
52 静脈
55 ステアリングハンドル
61 系外光
62 波高
63 脈拍間隔
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン始動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、飲酒運転を防止するために、ドライバの飲酒状態を検出し、検出した飲酒状態が所定基準以上の場合には車両のエンジンの始動を禁止する技術が知られている(例えば、引用文献1、2参照)。また、車両の盗難を防止するために、ドライバの顔等をカメラで撮影し、撮影結果の画像とあらかじめ登録された画像とを比較することでドライバが正規なドライバか否かを判定し、正規でない場合には車両のエンジンの始動を禁止するドライバ個人認証の技術が知られている。
【特許文献1】特開平7−9924号公報
【特許文献2】特開2007−186124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような、ドライバの飲酒状態に基づくエンジン始動の禁止・許可のシステムと、ドライバ個人認証に基づくエンジン始動の禁止・許可のシステムとを組み合わせることが可能である。
【0004】
しかし、このような組み合わせのシステムにおいては、ドライバの飲酒状態を検出するセンサと、ドライバの顔を撮影するカメラとを別々の位置に取り付けることになるので、システム構成が複雑になる。
【0005】
本発明は上記点に鑑み、ドライバの飲酒状態の検出およびドライバの個人認証に基づいてエンジン始動の禁止・許可を制御するシステムにおいて、システム構成を簡易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、車両に搭載されるエンジン始動制御装置が、車両のドライバの体の一部位(以下、検出部位という)における脈波を光学的方法で検出すると共に、検出部位の撮影を行うセンサ(41、43)と、当該センサ(41、43)を収容する筐体(40)と、当該センサ(41、43)による検出部位の撮影結果に基づいて、車両のドライバが正規のドライバであるか否かを判定する個人認証手段(120、130、140、210、220)と、当該センサ(41、43)が検出した検出部位における脈波に基づいて、当該ドライバの血中アルコール濃度の指標を算出し、算出した当該指標が飲酒基準値を超えたか否かを判定するアルコール濃度判定手段(150、160)と、当該個人認証手段(120、130、140、210、220)が、正規のドライバである旨の判定を行ったこと、および、当該アルコール濃度判定手段(150、160)が、当該指標が飲酒基準値を越えなかった旨の判定を行ったことに基づいて、車両のエンジンの始動を許可する許可手段(170)と、を備えている。
【0007】
さらに当該センサ(41、43)は、ドライバが検出部位を筐体(40)に近づけることで、検出部位における脈波を検出することができると共に、検出部位の撮影を行うことができる
このように、アルコール濃度判定のためにドライバの検出部位における脈波を検出する機能と、個人認証のためにドライバの検出部位を撮影する機能とが、1つの筐体(40)の中に収容されて一体となっているので、エンジン始動制御装置のシステム構成を簡易にすることができる。
【0008】
そしてドライバは、この筐体(40)に体の検出部位を近づけるだけで、アルコール濃度判定と個人認証を両方とも実現することができるので、ドライバの利便性が向上する。
【0009】
なお、ここでいう「エンジン」とは、車両を走行させるための動力を発生する機関をいう。したがって、エンジンは、例えば内燃機関であってもよいし、電動モータであってもよい。
【0010】
さらに本発明のアルコール濃度判定は、検出された脈波に基づいて、ドライバの血中アルコール濃度の指標を算出し、算出した当該指標が飲酒基準値を超えたか否かを判定している。
【0011】
ここで、脈波とは、心臓の拍動に伴う末梢血管系内の血流量の変化をいう。血中アルコール濃度の指標とは、血中アルコール濃度そのものであってもよいし、血中アルコール濃度を特定するための他の指標(例えば、2つの波長の脈波の波高比の変化量)であってもよい。すなわち、血中アルコール濃度の指標は、血中アルコール濃度に応じて変化する値であればよい。
【0012】
以下に、脈波に基づいてアルコール濃度の指標を算出できることを示す。まず、上述のように、本発明においては、検出部位の脈波を光学的方法で検出する。より具体的には、検出部位に光を照射する。そして、検出部位を通って出たその光を受けられる位置にセンサ(41、43)をあらかじめ配置しておく。すると、センサ(41、43)は、検出部位を通って出た光を受け、その受光量に応じて変化する信号を出力する。
【0013】
検出部位に光が当てられると、その検出部位の内部を通る細動脈にあたって、当該細動脈を流れる血液成分に吸収され、残りの光が生体組織で反射して散乱し、その一部をセンサ(41、43)が受光することになる。このとき、細動脈の脈動により細動脈中の血流量が心拍に応じて変化するので、血液成分に吸収される光の量も同様に変化する。その結果、センサ(41、43)からの出力信号が細動脈の脈動に応じて変化する。
【0014】
また、発明者の実験によれば、細動脈で吸収される光の量は、血中アルコール濃度によっても変化し得る。これは、血中のアルコール(または、血中アルコール濃度に応じて濃度が変化する他の血中成分)が特定の波長の光を吸収するからであると考えられる。
【0015】
したがって、細動脈の脈動を反映するセンサ(41、43)の出力は、照射される光の波長によっては、人の血中アルコール濃度と関係する。以下、細動脈の脈動を反映するセンサ(41、43)の出力を、脈波信号という。図11は、脈波信号の出力値の時間変動についての実験結果を示すグラフである。この図中、縦軸がセンサ(41、43)の出力値であり、横軸が時間(秒単位)である。
【0016】
図中の実線71は、ある被験者の検出部位に870nmの波長の光を照射した場合の脈波信号を表し、点線72は、同じ時期に同じ被験者の同じ検出部位に1300nmの波長の光を照射した場合の脈波信号を表す。
【0017】
この図に示すように、同じ人の脈波信号であっても、検出に用いる光の波長によって大きく変化する。また、脈波の波高は、被験者の血圧、呼吸等の生理現象の変化に応じて時間的にも大きく変化する。ここで、脈波の波高とは、脈波信号中の一拍の波の極小値から極大値までの変化量をいう。例えば、図11の区間73においては両波長における波高は大きく、区間74においては両波長における波高は小さい。
【0018】
しかし、発明者の実験によれば、同じ被験者の同時期(より具体的には、同じ脈拍の時期)における2つの波長の波高の比は、被験者の血圧、呼吸等によらず一定となる場合がある。以下、同じ脈拍の時期における2つの波長の波高の比を、単に波高比という。図12に、ある被験者が、同じ血中アルコール濃度の状態で特定の2つの波長による波高比を複数回算出した結果を示す。特定の2つの波長としては、この実験においては870nmと1300nmを用いている。
【0019】
図12においては、横軸が1300nmの光による脈波の波高を示し、縦軸が870nmの光による脈波の波高を示している。図中の各点が、1回の実験結果に相当する。この図に示す通り、一定のアルコール濃度においては、相関係数Rの自乗が0.97となっており、2つの波長の波高間には極めて強い相関がある。また、870nmの波高に対する1300nmの波高の波高比は、1.40(実線部分に相当する)の近傍で安定している。
【0020】
このように、2つの波長の光による脈波信号の波高比は、被験者の血圧、呼吸等の変動に起因する個人内差を吸収する。
【0021】
そして、更に発明者の実験によれば、被験者の血中アルコール濃度に波高が敏感に変化する光の波長もあれば、被験者の血中アルコール濃度にあまり影響を受けない光の波長もある。すなわち、アルコール感度の高い波長と低い波長がある。
【0022】
したがって、2つの波長の光による脈波信号の波高比は、被験者の血中アルコール濃度に応じて変化し得る。図13に、870nmの波長の光による波高に対する1300nmの波長の光による波高の波高比の、複数回に渡る実験結果を示す。
【0023】
図13においては、横軸が1300nmの光による脈波の波高を示し、縦軸が870nmの光による脈波の波高を示している。図中の各三角形が、ある被験者の飲酒なしの状態における1回の実験結果に相当し、図中の各円が、同じ被験者の飲酒あり(具体的には、血中アルコール濃度が0.036%)の状態における1回の実験結果に相当する。
【0024】
この図に示す通り、それぞれのアルコール濃度においては、相関係数Rの自乗が0.77、0.89となっており、2つの波長の波高間には強い相関がある。また、870nmの波高に対する1300nmの波高の波高比は、飲酒なしの場合には1.24(実線75に相当する)の近傍で安定しており、血中アルコール濃度が0.036%の場合には1.40(実線76に相当する)の近傍で安定している。
【0025】
したがって、この2つの波長における波高比は、被験者の血中アルコール濃度が高くなるほど高くなる傾向にある。図14に、この2つの波長における波高比と血中アルコール濃度との関係についての実験結果を示す。図14においては、横軸が血中アルコール濃度を示し、縦軸が、870nmの光による脈波の波高の、1300nmの光による脈波の波高に対する波高比を、示している。図中の3つの点が、同じ被験者による実験結果に相当する。なお、図11〜図14の実験においては、被験者の検出部位としては、指先を用いている。
【0026】
以上説明した通り、複数の異なる周波数の光によって検出した複数の脈波の波高比に基づいて、被験者の血中アルコール濃度の指標を算出することができる。
【0027】
また、請求項2に記載のように、筐体(40)は、ドライバの指を検出部位として支持する形状の窪み部(40a、40b)を有し、
センサ(41、43)は、筐体(40)に収容される発光素子(42)から出て検出部位を通った光によって検出部位の静脈を撮影するカメラ(41)と、発光素子(42)から出て検出部位を通った光の強度を撮影する受光素子(43)と、を備え、受光素子(43)は、当該カメラ(41)よりも、窪み部(40a、40b)に指が収まった状態における当該指の先端側に、配置されていてもよい。
【0028】
脈波の検出は、脈動している細動脈を検出対象とする、そして、指においては、指先に近いほど静脈よりも細動脈が多くなり、根本に近いほど細動脈よりも静脈が多くなる。したがって、上記のように、脈波検出用の受光素子(43)は、静脈撮影用のカメラ(41)よりも、窪み部(40a、40b)に指が収まった状態における当該指の先端側に、配置されていることで、受光素子(43)はより確実に脈波を検出できると共に、カメラ(41)はより良く静脈を撮影できる。
【0029】
また、請求項3に記載のように、個人認証手段(120、130、140、210、220)は、センサ(41,43)が検出した検出部位における脈波に基づいて、検出部位が生命のある人の部位であるか否かを判定し、生命のある人の部位であると判定したことに基づいて、前記車両のドライバが正規のドライバであるか否かを判定するようになっていてもよい。
【0030】
個人認証を不正に回避してエンジンを始動するための方法として、正規ドライバの指を切り取って筐体(40)に近づけるという方法等が知られている。生命のある人の部位(より具体的には生命のある人と繋がっている部位)には、動脈の脈動があり、そうでない部位には、動脈の脈動がない。したがって、このような回避方法に対する対策として、筐体(40)に近づけられた検出部位の脈波に基づいて、検出部位が生命のある人の部位であるか否かを判定することで、個人認証の精度がより高まる。
【0031】
また、請求項4に記載のように、個人認証手段(120、130、140、210、220)は、センサ(41、43)による検出部位の撮影結果に基づいて、車両のドライバが正規のドライバでないと判定した場合、当該ドライバによって入力されたパスワードが正規のものであるか否かを判定するようになっていてもよい。
【0032】
この場合、許可手段(170)は、個人認証手段(120、130、140、210、220)が、当該パスワードが正規のものである旨の判定を行ったこと、および、アルコール濃度判定手段(150、160)が、上記指標が飲酒基準値を越えなかった旨の判定を行ったことに基づいて、車両のエンジンの始動を許可するようになっていてもよい。
【0033】
このようになっていることで、例えば、正規のドライバではないものの、正規のドライバによって車両の運転を許可され、正規のドライバからパスワードを教えてもらったドライバは、検出部位の撮影による個人認証に失敗したとしても、教わったパスワードを入力することで、(アルコール濃度の指標が飲酒基準値を超えない限り)エンジンの始動を行うことができる。
【0034】
また、請求項5に記載のように、エンジン始動制御装置は、センサ(41、43)が検出した検出部位における脈波に基づいて、ドライバの自律神経活動量を算出する自律神経活動量算出手段(370)と、自律神経活動量算出手段(370)が算出した自律神経活動量に基づく情報を前記ドライバに通知する自律神経活動量通知手段(380)と、を備えていてもよい。
【0035】
このようになっていることで、ドライバが筐体(40)に指を近づけるだけで、ドライバの個人認証および血中アルコール濃度の検出に基づくエンジン始動制御に加え、ドライバの自律神経活動量をも算出して通知することができる。
【0036】
なお、上記および特許請求の範囲における括弧内の符号は、特許請求の範囲に記載された用語と後述の実施形態に記載される当該用語を例示する具体物等との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について説明する。図1に、本実施形態に係るエンジン始動制御装置1の構成を示す。エンジン始動制御装置1は、車両に搭載され、イグニッションスイッチ2、エンジンスタートスイッチ3、光学検出部4、操作入力装置5、表示装置6、および制御部7を含んでいる。
【0038】
イグニッションスイッチ2は、制御部7からの制御に基づいて、車両のイグニッションをオンとする。イグニッションがオフからオンとなることで、車両に備えられた車室内空調装置、車両用ナビゲーション装置、オーディオ再生装置、ラジオ受信機等の機器への電力の供給が開始される。エンジンスタートスイッチ3は、制御部7からの制御に基づいて、車両のエンジンを始動させる。
【0039】
光学検出部4は、車両のドライバの体の一部位(以下、検出部位という)における脈波を光学的方法で検出すると共に、当該検出部位の撮影を行う部材である。
【0040】
操作入力装置5は、ユーザの操作を受け付け、受け付けた操作の内容に応じた信号を制御部7に出力する装置である。表示装置6は、制御部7からの制御の内容に応じて、ユーザに対して視覚的な情報(文字、画像等)を提示し、また音声を出力する装置である。例えば、表示装置6は、ナビゲーション装置の液晶ディスプレイ、インストゥルメントパネル内の表示装置、スピーカ等を含んでいてもよい。
【0041】
制御部7は、図示しないCPU、RAM、ROM、フラッシュメモリ(書き込み可能不揮発性記憶媒体の一例に相当する)等を有している。CPUは、ROMに記録された各種プログラムをRAMに読み出して実行する。そしてCPUは、プログラムの実行において、必要に応じて光学検出部4、操作入力装置5から信号を取得し、また必要に応じてイグニッションスイッチ2、エンジンスタートスイッチ3、表示装置6を制御する。以下、CPUの処理内容を、制御部7の処理内容であるとみなして説明する。制御部7の処理内容の詳細については後述する。
【0042】
次に、光学検出部4について、図1〜図6を用いて詳細に説明する。図2は、この光学検出部4の外観を示す斜視図である。図3は、この光学検出部4にドライバの指50が載せられた状態を示す図である。図4は、光学検出部4を上方(すなわち、指50を置くための部分がある側)から見た平面図である。図5は、光学検出部4に指50が置かれている状況における図4のA−A断面図である。図6は、光学検出部4の取付位置を示す図である。
【0043】
光学検出部4は、筐体40、カメラ41、発光素子群42、および受光素子43を含む。図2、図5に示すように、筐体40の上面には、ドライバの指50を置くための窪み部40a、40bが設けられている。この窪み部にドライバの指50が置かれると、図3に示すように、指50が窪み部の窪み形状によって支えられることで、指50の左右方向への移動が抑制される。
【0044】
この窪み部は、置かれた指50の根本側部分に対面する根本側窪み部40aと、置かれた指50の指先(検出部位の一例に相当する)の腹の部分に対面する検出窓部40bと、を備えている。検出窓部40bは、透光性を有するガラス、樹脂等の部材である。根本側窪み部40aを含む筐体40の他の部分は、透光性を有さない(あるいは、検出窓部40bよりも光の透過率が低い)樹脂等から成る。
【0045】
発光素子群42は、複数の発光素子(例えばLED)から成り、各発光素子は、制御部7からの制御に応じて、第1の波長(例えば870nm)の単色光および第2の波長(例えば1300nm)の単色光を指50の指先に向けて照射する。
【0046】
カメラ41は、検出窓部40bに置かれた指先のエリアを撮影するためのCCDカメラ等の撮像素子群である。またカメラ41は、撮影結果の画像(すなわち、指先の画像)を制御部7に出力する。より詳しくは、カメラ41は、発光素子群42から指先に対して光が照射された場合には、指先の内部を通って外に出てカメラ41に向かう当該光によって撮影を行う。したがって、発光素子群42が指先を照射しているときにカメラ41が撮影した画像には、指の静脈52のパターンが写っている。
【0047】
受光素子43は、フォトダイオード等から成る。受光素子43は、発光素子群42から指50の指先に光が照射され、その光が指先内部を通って受光素子43の方向に出て来たときに、その光の光量を検出する。そして、検出した光量が多いほど大きい電圧出力(すなわち出力信号)を、制御部7に印加する。
【0048】
検出部位としての指先に発光素子群42からの光が当てられると、光はその検出部位の内部を通る細動脈51にあたって、当該細動脈を流れる血液成分(例えば、ヘモグロビン、血中アルコール、血中アルコール濃度に起因して濃度が変化する他の血中成分等)に吸収され、残りの光が生体組織で反射して散乱し、その一部を受光素子43が受光することになる。このとき、細動脈の脈動により細動脈にある血液成分の量が波のように変化するので、血液成分に吸収される光の量も同様に心拍に応じて変化する。その結果、受光素子43からの出力信号の値(具体的には電圧値)が細動脈の脈動に応じて変化する。したがって、受光素子43は、指先における脈波を光学的方法で検出し、検出結果に応じて変化する信号を制御部7に出力する。
【0049】
図5に示すように、カメラ41、発光素子群42、受光素子43は、筐体40の内部に収容されている。具体的には、カメラ41、発光素子群42、受光素子43は、検出窓部40bの直下に配置される。したがって、指50が窪み部に置かれた状態において、指50の指先の腹と、部材40〜43は、検出窓部40bを挟んで対面する。
【0050】
より具体的には、カメラ41は、発光素子群42、受光素子43よりも根本側窪み部40aに近い側(すなわち、指の根本に近い側)に配置される。また、発光素子群42は、カメラ41よりも根本側窪み部40aから遠い側(すなわち、指の先端に近い側)に配置されると共に、受光素子43よりも根本側窪み部40aに近い側に配置される。また、受光素子43は、発光素子群42よりも根本側窪み部40aから遠い側に配置される。
【0051】
したがって、図5の矢印81に示すように、カメラ41は、指先のうちでも指の根本側の部分を通って出た光によって撮影を行う。また、受光素子43は、指先のうちでも指の先端側の部分を通って出た光を受ける。
【0052】
受光素子43による脈波の検出は、脈動している細動脈を検出対象とする、そして、指においては、指の先端に近いほど静脈52よりも細動脈51が多くなり、根本に近いほど細動脈51よりも静脈52が多くなる。したがって、上記のように、脈波検出用の受光素子43が、静脈撮影用のカメラ41よりも、窪み部40a、40bに収まった指50の先端側に配置されていることで、受光素子43はより確実に脈波を検出できると共に、カメラ41はより良く静脈52を撮影できる。
【0053】
また、窪み部40a、40bは、一般的な人の指の腹の部分の形状に似せて形成されているので、図3に示すように、指50が窪み部40a、40bに収まったとき、検出窓部40bを指先の腹が塞ぐので、太陽60等の系外光61(すなわち、光学検出部4の外部で発生した光)が検出窓部40bを通ってカメラ41、発光素子群42に届く可能性が低い。
【0054】
なお、光学検出部4の車内における配置は、ドライバがドライバ席に座った状態で自然に指を置くことができるような位置が好ましい。そのような位置に光学検出部4を配置することで、ドライバがドライバ席に座った後、指を光学検出部4に近づけて窪み部40a、40bに指を当てるとう単一の動作で、後述する通り個人認証およびアルコール濃度検出に基づくエンジン始動制御を実現することができる。
【0055】
例えば、図6に示すように、ステアリングハンドル55の握り部分のドライバ側の面に光学検出部4を配置してもよい。この場合、ドライバは、ステアリングハンドル55を握るだけで、親指が光学検出部4の窪み部40a、40bに当たるので、車両の運転のために必要な動作を行うだけで、個人認証およびアルコール濃度検出のために必要な動作をも実現することができる。
【0056】
次に、制御部7の作動について説明する。制御部7は、個人認証および血中アルコール濃度検出に基づくエンジン始動制御を行うための作動として、図7に示すプログラム100を実行するようになっている。
【0057】
制御部7がプログラム100の実行を開始する契機は、例えば、操作入力装置5に対してドライバがエンジン始動制御開始の旨の操作を行うことであってもよい。この場合、ドライバは、自身の指50を光学検出部4に近づけ、更に指50を筐体40に当てて窪み部40a、40bに収めた後、他の指(例えば、指50を含む手と反対の手の指)で、エンジン始動制御開始の旨の操作を行う。
【0058】
あるいは、エンジン始動制御装置1は、指が筐体40の窪み部40a、40bに近づいたことを検出する近接センサ(図示せず)を有し、制御部7は、この近接センサからの信号に基づいて、指が筐体40の窪み部40a、40bに近づいたことに基づいて、プログラム100の実行を開始するようになっていてもよい。
【0059】
プログラム100の実行において制御部7は、まずステップ110で、発光素子群42および受光素子43を用いて脈波の計測を行う。具体的には、制御部7は、図8に示すように、まず、あらかじめ定められた計測期間(例えば、10秒、40秒等)の間(ステップ115参照)、第1の波長による脈波測定(ステップ111参照)と、第2の波長による脈波測定(ステップ113参照)とを交互に繰り返す。各波長による1回の脈波測定の期間は、計測期間よりも充分短く(例えば、1/10以下)、かつ、通常の人間の1回の脈拍の期間よりも充分短い(例えば、1/10以下の)期間(例えば50ミリ秒)とする。このようにすることで、同じ脈拍のタイミングにおいて、ほぼ同時に2つの波長の光で脈波を検出することができる。
【0060】
第1の波長の光による脈波の検出の際には、制御部7は、発光素子群42を制御して、第1の波長の光で発光させる。これによって、第1の波長の光が検出窓部40bを介して指50の指先の先端側部分の内部に入り、細動脈51によって吸収されなかった当該光の一部が、受光素子43に到達する。このとき制御部7は、受光素子43から出力された信号(具体的には電圧値)を、第1の波長の光によるその時点の脈波信号として、現在時刻情報と共にRAMに記録する。
【0061】
同様に、第2の波長の光による脈波の検出の際には、制御部7は、発光素子群42を制御して、第2の波長の光で発光させる。これによって、第2の波長の光が検出窓部40bを介して指50の先端部の内部に入り、細動脈51によって吸収されなかった当該光の一部が、受光素子43に到達する。このとき制御部7は、受光素子43から出力された信号(具体的には電圧値)を、第2の波長の光によるその時点の脈波信号として、現在時刻情報と共にRAMに記録する。
【0062】
計測期間が終了すると(ステップ115→YES参照)、制御部7は、第1の波長の光について時系列的に記録した脈波信号に基づいて、その脈波信号中の個々の波(1回の脈拍に相当する)について波高および脈拍間隔を算出し、算出した複数の脈波間隔を時系列に沿った順で記録する(ステップ117参照)。
【0063】
続いて制御部7は、第2の波長の光について時系列的に記録した脈波信号に基づいて、その脈波信号中の個々の波について波高および脈拍間隔を算出し、算出した複数の脈波間隔を時系列に沿った順で記録する(ステップ119参照)。これによって図7のステップ110の処理が終わり、その後制御部7は、ステップ120を実行する。
【0064】
図9に、時系列的に記録した脈波信号の例として、1300nmの光を受けて受光素子43が出力する脈波信号のグラフを示す。この図中、横軸がミリ秒単位の時間を示し、縦軸が脈波信号の値(具体的には電圧値)を示す。このグラフに示すように、通常の人間の脈波信号は、1回の脈拍に相当する波が周期的に繰り返す形状となっている。ここで、1つの波における脈波信号の最大値と最小値との差62を、波高といい、隣り合う波のピーク間の時間間隔63を脈拍間隔という。
【0065】
測定期間における脈波信号から個々の波の波高および脈拍間隔を算出する方法は周知であり、例えば特開2003−290164号公報、特開2003−47601号公報、特開2003−339651号公報に記載されている。
【0066】
例えば、脈波信号の極大値(ピーク)の検出および極小値(ボトム)の検出を行い、検出した複数のピークおよび複数のボトムのうち、1つのボトムの値と、そのボトムの後に最初に訪れるピークの値との差を、1つの波の波高とする。そして、1つのピークから次のピークまでの時間間隔を、1つの脈拍間隔とする。なお、1つの波の中の最も大きい極大値および最も小さい極小値以外の微細な極大値および極小値については、ピークおよびボトムとしての検出対象からは除外するようになっている。
【0067】
図7のステップ120において、制御部7は、計測した脈波信号の波高および脈拍間隔のいずれか一方または両方に基づいて、その脈波信号が生命のある人間のものであるか否かを判定する。この判定は、検出窓部40bに置かれた指先が生命のある人間の指先であるか否かの判定でもある。
【0068】
例えば、第1の波長による脈波信号および第2の波長による脈波信号のうちいずれか一方または両方の脈拍間隔の平均値が所定の脈拍間隔範囲に入っていれば、生命のある人間の指先であると判定し、さもなければ、生命のある人間の指先でないと判定してもよい。ここで、所定の脈拍間隔範囲としては、人間の脈拍間隔として適切な範囲(例えば、0.3秒以上2秒以下の範囲)を採用する。
【0069】
また例えば、第1の波長による脈波信号および第2の波長による脈波信号のうちいずれか一方または両方の脈拍間隔の平均値が所定の脈拍間隔範囲に入っており、かつ、第1の波長による脈波信号および第2の波長による脈波信号のうちいずれか一方または両方の波高の平均値が所定の波高範囲に入っていれば、生命のある人間の指先であると判定し、さもなければ、生命のある人間の指先でないと判定してもよい。ここで、所定の波高範囲としては、人間の脈波の波高として適切な範囲を採用する。
【0070】
生命のある人間の指先であると判定した場合、続いてステップ130を実行し、生命のある人間の指先でないと判定した場合、続いてステップ180に進む。
【0071】
ステップ130では、個人認証のための制御処理を実行する。具体的には、制御部7は、発光素子群42に、第1の波長の光および第2の波長の光のうち、静脈の撮影に適した900nm以下の光(例えば870nm)の光を指50に照射させ、それと同時に、カメラ41に指50の指先の根本側を撮影させる。これによって、カメラ41は、指50の静脈52のある部分を通って出た光による撮影画像を制御部7に出力し、制御部7は、当該撮影画像を取得する。このようにして制御部7が取得した画像には、指50の指先の根本側の部分の静脈パターンが映し出されている。
【0072】
続いてステップ140では、制御部7は、取得した静脈パターンの撮影画像に基づいて、撮影対象の指50が正規の登録者の指であるか否かを判定する。具体的には、撮影画像を、制御部7のフラッシュメモリにあらかじめ記録されている正規の登録者の指先根本側の静脈パターンの登録画像(1人分の画像であってもよいし、複数人分の複数の画像であってもよい)のそれぞれと比較する。
【0073】
そして、撮影画像との一致度が所定値以上となる登録画像がある場合は、正規の登録者の指であると判定し、さもなければ、正規の登録者の指でないと判定する。なお、登録画像には、その登録画像に相当するドライバの識別情報(名称、識別コード等)が対応付けられてフラッシュメモリに記録されている。そして、制御部7は、正規の登録者の指であると判定した場合、一致度が所定値以上となる登録画像に対応する識別情報を特定し、その識別情報に対応するドライバを現在のドライバであると特定する。
【0074】
ここで、登録画像をフラッシュメモリへ記録する方法は、例えば以下の方法を用いてもよい。すなわち、車両の正規のドライバが自身の指50を筐体40の窪み部40a、40bに収め、操作入力装置5に対して登録の旨の操作、および、当該ドライバの識別情報を入力する操作を行う。制御部7は、その登録の旨の操作があったことに基づいて、光学検出部4およびカメラ41をステップ130と同様の方法で制御する。その制御によって制御部7は、カメラ41によって撮影され出力された正規のドライバの指先根本側の静脈パターンの画像を取得する。そして制御部7は、この取得した静脈パターンの画像を登録画像として、入力された識別情報と共にフラッシュメモリに記録する。
【0075】
ステップ140で正規の登録者の指であると判定した場合、続いてステップ145を実行し、正規の登録者の指でないと判定した場合、続いてステップ180に進む。
【0076】
ステップ145では、イグニッションスイッチ2を制御することで、車両のイグニッションをオンとする。
【0077】
続いてステップ150では、血中アルコール濃度を検出する。具体的には、ステップ110で算出した2つの波長の光による脈波信号の波高について、同拍の波高比を算出し、その算出結果に基づいて、ドライバが飲酒状態であるか否かを判定する。
【0078】
図10に、このステップ150における血中アルコール濃度検出処理の詳細を示す。このステップ150の実行において制御部7は、まずステップ151で、2つの波長の光による同拍の波高比を、ステップ110で記録された波高比のペアの数だけ算出する。
【0079】
2つの波長の光による同拍(すなわち、同じ脈拍タイミング)の波高比とは、具体的には、第1の波長の脈波信号中のある波について算出した波高をH1とし、第2の波長の脈波信号中の同じ脈拍のタイミングの波について算出した波高をH2とすると、波高H1/波高H2に該当する。
【0080】
なお、第1の波長の脈波信号について算出した波高と、第2の波長の脈波信号について算出した波高とが、同じ脈拍のタイミングの波であるか否かは、2つの波高がステップ110で記録された順番(すなわち、それぞれの波長における順番)が同じであるか否かで判定する。
【0081】
続いてステップ153では、ステップ151で算出した複数の波高比の代表値が、基準波高比(飲酒基準値の一例に相当する)よりも大きいか否かを判定し、大きければ続いてステップ157を実行し、大きくなければ続いてステップ155を実行する。なお、複数の波高比の代表値としては、複数の波高比の平均値であってもよい。基準波高比については後述する。ステップ155では、「飲酒なし」であると判定し、その後図7のステップ150の実行を終了する。
【0082】
ステップ157では、上述の代表値に基づいて血中アルコール濃度を算出し、続いてステップ159では、「飲酒あり」であると判定し、その後図7のステップ150の実行を終了する。
【0083】
このように、ステップ150では、2つの波長の光によって検出した同拍の波高比の代表値が基準波高比よりも高いときに「飲酒あり」と判定し、そうでないときに「飲酒なし」と判定している。そして、「飲酒あり」と判定した場合には、当該代表値から血中アルコール濃度を算出している。したがって、2つの波長の光によって検出した同拍の波高比の代表値は、血中アルコール濃度が大きくなれば大きくなり、小さくなれば小さくなる値、すなわち、血中アルコール濃度の指標として用いられている。このように、波高比を血中アルコール濃度の指標として用いることの妥当性については後述する。
【0084】
ステップ150に続いてステップ160では、ドライバの運転を許可するか否かを判定する。具体的には、ステップ150において「飲酒あり」と判定していた場合には、ドライバの運転を許可しないと判定してステップ180に進む。また、ステップ150において「飲酒なし」と判定していた場合には、ドライバの運転を許可すると判定してステップ170に進む。
【0085】
ステップ170では、エンジンスタートスイッチ3を制御することでエンジンを始動させ、その後プログラム100の実行を終了する。
【0086】
ステップ180では、運転禁止のための処理を行い、その後プログラム100の実行を終了する。このステップ180では、例えば、表示装置6を用いて車両を運転できない旨の通知を行うようになっていてもよい。その場合、ステップ150でアルコール濃度を算出していれば、その算出結果の値を表示装置6に表示させてもよい。なお、ステップ180では、単にプログラム100の終了処理のみを行うようになっていてもよい。その場合であっても、ステップ180を実行することでステップ170のエンジン始動の処理を回避することができるので、実質的に運転禁止のための処理を行っていることになる。
【0087】
以上のようなプログラム100を実行することで、制御部7は、光学検出部4の検出窓部40bに置かれたドライバの指先の脈波信号を、発光素子群42を用いて計測し(ステップ110)、その脈波信号に基づいて、その指が生命のある人間のものであるか否かを判定する(ステップ120参照)。そして、生命のあるものであれば続いてカメラ41を用いた個人認証制御を行い(ステップ130参照)、その個人認証制御の結果に基づいて、ドライバが正規の登録者であるか否かを判定する(ステップ140参照)。
【0088】
ドライバが正規の登録者であれば、車両のイグニッションをオフからオンに切り替え(ステップ145参照)、2つの波長の光で脈波信号を計測し、計測した2つの脈波に基づいて血中アルコール濃度の指標となる値を特定する(ステップ150参照)。そして、算出した血中アルコール濃度の指標に基づいて運転を許可するか否かを判定し(ステップ160参照)、運転を許可する場合はエンジンを始動する(ステップ170参照)。
【0089】
また、検出窓部40bに置かれた指が生命のものでないと判定した場合(ステップ120→NO参照)、または、ドライバが正規の登録者でない場合(ステップ140→NO参照)、エンジンを始動させないことで(ステップ180参照)、不正行為車による車両窃盗を防止することができる。
【0090】
また、ドライバが正規の登録者であった場合でも(ステップ140→YES)、ドライバの血中アルコール濃度の指標が運転許可できない値であった場合には(ステップ160→NO参照)には、エンジンを始動させないことで(ステップ180参照)、飲酒運転を未然に防止することができる。ただしこの場合には、ドライバが正規の登録者であるので、イグニッションはオンとなっている(ステップ145参照)。したがって、正規の登録者は飲酒していても、車両のバッテリ電力が枯渇しない限り、車室内空調装置、車両用ナビゲーション装置、オーディオ再生装置、ラジオ受信機等の車内機器を作動させて利用することができる。
【0091】
また、制御部7は、ステップ110において計測した脈波信号を、検出窓部40bに置かれた指が生命のものであるか否かの判定に用いると共に、血中アルコール濃度の検出にも用いる。このように、生命であるか否かの判定および血中アルコール濃度の検出という2つの機能のために共通の脈波信号(より具体的には、共通の周波数における共通のタイミングにおける脈波信号)を用いることで、それぞれの機能毎に脈波を検出する必要をなくし、脈波計測のためにドライバを待たせてしまう時間を短縮化することができる。
【0092】
このように、エンジン始動制御装置1が、車両のドライバの体の検出部位における脈波を光学的方法で検出すると共に、検出部位の静脈撮影を行うセンサ群41、43と、当該センサ群を収容する筐体40と、を備えている。
【0093】
そしてエンジン始動制御装置1は、カメラ41による検出部位の撮影結果に基づいて、車両のドライバが正規のドライバであるか否かを判定することで個人認証を行う。また、受光素子43が出力した検出部位における脈波信号に基づいて、当該ドライバの血中アルコール濃度の指標(すなわち波高比)を算出し、算出した当該指標が飲酒基準値(すなわち基準波高比)を超えたか否かを判定することで血中アルコール濃度検出を行う。
【0094】
そしてエンジン始動制御装置1は、個人認証において正規のドライバである旨の判定を行ったこと、および、血中アルコール濃度検出において当該指標が飲酒基準値を越えなかった旨の判定を行ったことに基づいて、車両のエンジンの始動を許可する。
【0095】
さらに当該センサ群41、43は、ドライバが検出部位である指先を筐体40の検出窓部40bに近づけて当てることによって、検出部位における脈波を検出することができると共に、検出部位の撮影を行うことができる。すなわち、当該センサ群41、43が撮影および脈波の検出を行うのは、ドライバが検出部位である指先を筐体40の検出窓部40bに近づけて当てたときとなっている。
【0096】
このように、アルコール濃度判定のためにドライバの検出部位における脈波を検出する機能と、個人認証のためにドライバの検出部位を撮影する機能とが、1つの筐体40の中に収容されて一体となっているので、エンジン始動制御装置1のシステム構成を簡易にすることができる。
【0097】
そしてドライバは、この筐体40に体の検出部位を近づけるだけで、アルコール濃度判定と個人認証を両方とも実現することができるので、ドライバの利便性が向上する。
【0098】
また、筐体40は、検出部位としてドライバの指を支持する形状の窪み部40a、40bを有し、センサ群41、43は、カメラ41と受光素子43とを含み、受光素子43は、当該カメラ41よりも、窪み部40a、40bに指が収まった状態における当該指の先端側に、配置されていり。
【0099】
脈波の検出は、脈動している細動脈を検出対象とする、そして、指50においては、指先に近いほど静脈よりも細動脈が多くなり、根本に近いほど細動脈よりも静脈が多くなる。したがって、上記のように、脈波検出用の受光素子43は、静脈撮影用のカメラ41よりも、当該指50の先端側に配置されていることで、受光素子43はより確実に脈波を検出できると共に、カメラ41はより良く静脈を撮影できる。
【0100】
また、エンジン始動制御装置1は、受光素子43が検出した検出部位における脈波信号に基づいて、検出部位が生命のある人の部位であるか否かを判定し、生命のある人の部位であると判定したことに基づいて、車両のドライバが正規のドライバであるか否かを判定するようになっている。
【0101】
個人認証を不正に回避してエンジンを始動する方法として、正規ドライバの指を切り取って筐体40に近づけるという方法等の成りすまし手法が知られている。生命のある人の部位(より具体的には生命のある人と繋がっている部位)には、動脈の脈動があり、そうでない部位には、動脈の脈動がない。したがって、このような回避方法に対する対策として、筐体40に近づけられた検出部位の脈波に基づいて、検出部位が生命のある人の部位であるか否かを判定することで、個人認証の精度がより高まる。
【0102】
ここで、脈波に基づいてアルコール濃度の指標を算出できることについて説明する。発明者の実験によれば、特定の波長の光については、その光が細動脈で吸収される量が、血中アルコール濃度によっても変化する。これは、血中のアルコール(または、血中アルコール濃度に応じて濃度が変化する他の血中成分)が、特定の波長の光を吸収するからであると考えられる。
【0103】
そして、細動脈の脈動を反映する受光素子43の出力は、発明者の実験によれば、人の血中アルコール濃度と関係する。図11は、脈波信号の出力値の時間変動についての実験結果を示すグラフである。この図中、縦軸が受光素子43が出力する脈波信号の値であり、横軸が時間(秒単位)である。
【0104】
図中の実線71は、ある被験者の検出部位に870nmの波長の光を照射した場合の脈波信号を表し、点線72は、同じ被験者の検出部位に1300nmの波長の光を照射した場合の脈波信号を表す。
【0105】
この図に示すように、同じ人の脈波信号であっても、検出に用いる光の波長によって大きく変化する。また、脈波の波高は、被験者の血圧、呼吸等の生理現象の変化に応じて時間的にも大きく変化する。ここで、脈波の波高とは、脈波信号中の各波の極小値から極大値までの変化量をいう。例えば、図11の区間73においては両波長における波高は大きく、区間74においては両波長における波高は小さい。
【0106】
しかし、発明者の実験によれば、同じ被験者の同時期(より具体的には、同じ脈拍の時期)における2つの波長の波高比は、被験者の血圧、呼吸等によらず一定となる場合がある。図12に、ある被験者が、同じ血中アルコール濃度の状態で特定の2つの波長による波高比を複数回算出した結果を示す。特定の2つの波長としては、この実験においては870nmと1300nmを用いている。
【0107】
図12においては、横軸が1300nmの光による脈波の波高を示し、縦軸が870nmの光による脈波の波高を示している。図中の各点が、1回の実験結果に相当する。この図に示す通り、一定のアルコール濃度においては、相関係数Rの自乗が0.97となっており、2つの波長の波高間には極めて強い相関がある。また、870nmの波高に対する1300nmの波高の波高比は、1.40(実線部分に相当する)の近傍で安定している。
【0108】
このように、2つの波長の光による脈波信号の波高比は、被験者の血圧、呼吸等の変動に起因する個人内差を吸収する。
【0109】
そして、更に発明者の実験によれば、被験者の血中アルコール濃度に波高が敏感に変化する光の波長もあれば、被験者の血中アルコール濃度にあまり影響を受けない光の波長もある。すなわち、アルコール感度の高い波長と低い波長がある。
【0110】
したがって、2つの波長の光による脈波信号の波高比は、被験者の血中アルコール濃度に応じて変化し得る。図13に、870nmの波長の光による波高に対する1300nmの波長の光による波高の波高比の、複数回に渡る実験結果を示す。
【0111】
図13においては、横軸が1300nmの光による脈波の波高を示し、縦軸が870nmの光による脈波の波高を示している。図中の各三角形が、ある被験者の飲酒なしの状態における1回の実験結果に相当し、図中の各円が、同じ被験者の飲酒あり(具体的には、血中アルコール濃度が0.036%)の状態における1回の実験結果に相当する。
【0112】
この図に示す通り、それぞれのアルコール濃度においては、相関係数Rの自乗が0.77、0.89となっており、2つの波長の波高間には強い相関がある。また、870nmの波高に対する1300nmの波高の波高比は、飲酒なしの場合には1.24(実線75に相当する)の近傍で安定しており、血中アルコール濃度が0.0036%の場合には1.40(実線76に相当する)の近傍で安定している。
【0113】
したがって、この2つの波長における波高比は、被験者の血中アルコール濃度が高くなるほど高くなる傾向にある。図14に、この2つの波長における波高比と血中アルコール濃度との関係についての実験結果を示す。図14においては、横軸が血中アルコール濃度を示し、縦軸が、870nmの光による脈波の波高の、1300nmの光による脈波の波高に対する波高比を、示している。図中の3つの点が、同じ被験者による実験結果に相当する。なお、図11〜図14の実験においては、被験者の検出部位としては、指先を用いている。
【0114】
以上説明した通り、複数の異なる周波数の光によって検出した複数の脈波の波高比に基づいて、被験者の血中アルコール濃度の指標を算出することができる。具体的には、波高比自体が、血中アルコール濃度の指標となる。また、この実験例においては、波高比が約1.36以上であるときに、血中アルコール濃度が0.03%を超える酒気帯び状態に該当する。
【0115】
本実施形態の制御部7は、図10のステップ153において、算出した波高比と基準比率とを比較している。制御部7は、第1の波長が870nmで、第2の波長が1300nmである場合は、基準比率として、定数(例えば上記の1.36)を用いてもよい。
【0116】
あるいは、制御部7は、基準比率のデータを、ドライバ毎にフラッシュメモリに記憶するようになっていてもよい。その場合、当該車両を運転する可能性のあるドライバのそれぞれについて、図14に示したような波高比と血中アルコール濃度との関係をあらかじめ実験により取得し、取得した関係の情報に基づいて、酒気帯び状態か否かの境目となる基準比率を決定する。そして、決定した基準比率を、当該ドライバの識別情報と共に、あらかじめ制御部7のフラッシュメモリに記録させる。
【0117】
また、本実施形態の制御部7は、図10のステップ157において、算出した波高比から血中アルコール濃度を特定している。制御部7は、第1の波長が870nmで、第2の波長が1300nmである場合は、波高比と血中アルコール濃度との対応関係の情報として、図14に示したグラフそのままの関係を常に用いるようになっていてもよい。
【0118】
あるいは、制御部7は、波高比と血中アルコール濃度との関係を、ドライバ毎にフラッシュメモリに記憶するようになっていてもよい。その場合、当該車両を運転する可能性のあるドライバのそれぞれについて、波高比と血中アルコール濃度との関係をあらかじめ実験により取得し、取得した関係の情報を、当該ドライバの識別情報と共に、あらかじめ制御部7のフラッシュメモリに記録させる。
【0119】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態が第1実施形態と異なるのは、制御部7が図7に示したプログラム100に変えて、図15に示すプログラム200を実行することである。なお、なお、図7と図15において同一の符号が付されたステップは、互いに同一の処理を行うものであり、ここではそれらの詳細についての説明は省略する。
【0120】
制御部7は、プログラム200の実行において、ステップ140で正規の登録者の指でないと判定すると、続いてステップ210で、パスワード入力を受け付けるための処理を行う。具体的には、表示装置6を制御して、パスワードの入力を促す表示を行い、操作入力装置5を用いたドライバのパスワード入力を待つ。
【0121】
ドライバによるパスワード入力があると、続いてステップ220で、入力されたパスワードが正規のパスワードであるか否かを判定する。具体的には、入力されたパスワードと、フラッシュメモリ中に記録された正規のパスワードとを比較し、それらが一致すれば入力されたパスワードが正規であると判定してステップ145に進み、そうでなければ正規でないと判定してステップ180に進む。
【0122】
なお、正規のパスワードをフラッシュメモリへ記録する方法は、例えば以下の方法を用いてもよい。すなわち、車両の正規のドライバが操作入力装置5に対してパスワード登録の旨の操作を行う。制御部7は、そのパスワード登録の旨の操作があったことに基づいて、パスワードの入力を待つ。そして、ドライバが操作入力装置5を用いてパスワードを入力すると、制御部7は、この入力されたパスワードを正規のパスワードとしてフラッシュメモリに記録する。
【0123】
このように、制御部7は、カメラ41による指50の撮影結果に基づいて、車両のドライバが正規のドライバでないと判定した場合、当該ドライバによって入力されたパスワードが正規のものであるか否かを判定する(ステップ210、220参照)。
【0124】
そして制御部7は、当該パスワードが正規のものである旨の判定を行ったこと、および、検出したアルコール濃度の指標が飲酒基準値を越えなかった旨の判定を行ったことに基づいて(ステップ150、160参照)、車両のエンジンの始動を許可するようになっている(ステップ170参照)。
【0125】
このような、パスワードの照合によって個人認証を回避する手段の作動により、例えば、正規のドライバではないものの、正規のドライバによって車両の運転を許可され、正規のドライバからパスワードを教えてもらったドライバは、指50の撮影による個人認証に失敗したとしても、教わったパスワードを入力することで、(アルコール濃度の指標が飲酒基準値を超えない限り)エンジンの始動を行うことができる。
【0126】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態が第1実施形態と異なるのは、本実施形態の制御部7が、更に図16に示すプログラム300を実行するようになっていることである。このプログラム300は、光学検出部4を用いてドライバの自律神経活動量を算出し、その算出結果に基づく情報をドライバに通知するためのプログラムである。
【0127】
制御部7がプログラム300の実行を開始するタイミングは、プログラム100を開始するタイミングと同じであってもよい。このようにすることで、ドライバが一度光学検出部4の窪み部40a、40bに指50を収めるだけで、ドライバの個人認証および血中アルコール濃度の検出に基づくエンジン始動制御に加え、ドライバの自律神経活動量をも算出することができる。
【0128】
プログラム300の実行において制御部7は、まずステップ310で、検出窓部40bに当てられた指50の指先の脈波信号を所定期間(例えば32秒以上)測定する。続いてステップ320で、測定した脈波信号のピークまたはボトムを特定する。さらに制御部7はステップ330で、特定したピークまたはボトム間の間隔に基づいて、一泊毎(すなわち、脈波信号中の1つの波毎の)脈拍間隔を算出する。
【0129】
これらステップ310〜330の処理は、図7のステップ110において説明したものと同じ方法で行う。なお、ステップ310〜330において脈波信号を検出するために発光素子群42に照射させる光の波長は、第1の波長であっても第2の波長であってもよい。あるいは、制御部7は、ステップ310〜330の処理を実行せず、図7のステップ110において記録された脈拍間隔を単に読み出すようになっていてもよい。
【0130】
制御部7は、続いてステップ340で、取得した一拍毎の脈拍間隔のデータに基づいて、単位時間毎(具体的には1秒毎)の脈拍間隔の変動を算出する。算出に際しては、例えばスプライン補間等の補間処理を用いる。すなわち、図17に示すように、取得した一拍毎の脈拍間隔のデータ91a〜91eを、その脈拍の間隔だけ時間軸方向に離してプロットし、そのプロットしたデータ91a〜91eをスプライン補完等の補間処理を用いて1つの線90で繋ぎ、その線90を用いて、単位時間毎の脈拍間隔のデータ92a〜92eを取得する。
【0131】
続いてステップ350では、上記のようにして得た単位時間毎の脈拍間隔のデータ92a〜92e(例えば、1秒単位の32個の脈拍間隔のデータ)に対してFFT変換による周波数解析を行う。それによって、脈拍間隔の変動の周波数成分の特性情報を得ることができる。
【0132】
続いてステップ360では、脈拍間隔の変動の周波数成分のうち、LF周波数帯(0.04Hz〜0.15Hz)におけるピーク値PLFと、HF周波数帯(0.15Hz〜0.4Hz)におけるピーク値PHFを算出する。
【0133】
続いてステップ370では、算出したピーク値PLF、PHFに基づいて、自律神経活動量を算出する。この値PLFは、交感神経および副交感神経活動量の変化を反映する量であり、値PHFは、自律神経活動のブレーキ役である副交感神経活動量を反映していることが知られている。
【0134】
したがって、例えば、PLF/(PLF+PHF)、PLF/PHF等の自律神経活動量を用いて、これら自律神経活動量が基準範囲よりも高ければ、ドライバが緊張状態または興奮状態にあると判定する。また、これら自律神経活動量が当該基準範囲よりも低ければ、ドライバが居眠りをしている可能性があると判断する。
【0135】
なお、基準範囲は、自律神経活動量の通常の範囲としてあらかじめ登録された範囲である。これら自律神経活動量の通常の範囲には、個人差があり、同じ人でも年齢が変化すれば変化する。したがって、基準範囲については、車両のドライバ毎にあらかじめフラッシュメモリへ登録しておく。
【0136】
すなわち、ドライバの識別情報(例えば、氏名、識別コード)と、そのドライバの基準範囲から成る組が、フラッシュメモリに複数記録されている。そして制御部7は、プログラム300の実行開始時に、ドライバが操作入力装置5を用いて入力した自身の識別情報と組になっている基準範囲をフラッシュメモリから読み出し、読み出した基準範囲を当該ドライバの基準範囲としてステップ370で用いる。
【0137】
なお、基準範囲をフラッシュメモリへ登録する方法は、例えば以下の方法を用いてもよい。すなわち、車両の正規のドライバが、指50を窪み部40a、40bに収め、操作入力装置5に対して基準範囲の登録の旨の操作を行い、かつ、自身の識別情報(例えば、氏名、識別コード等)を入力する操作を行う。
【0138】
制御部7は、その基準範囲の登録の旨の操作があったことに基づいて、図16のステップ310〜360までの処理を複数回繰り返し実行して、自律神経活動量を第1の時間間隔で複数回算出し、それら算出結果を、入力された識別情報に対応する自律神経活動量として、フラッシュメモリに記録する。このような、1回の登録の旨の操作があったときに実行される複数の自律神経活動量の記録を、イベントという。
【0139】
そして制御部7は、それまでに1回または複数回のイベントで記録された各ドライバの自律神経活動量の複数の値から、各ドライバの自律神経活動量の平均値Mおよび標準偏差σを算出し、M−f(σ)からM+f(σ)までの範囲を基準範囲とする。ここで、f(σ)は、σが増大すると増大する正の値である。例えばf(σ)として、3σを用いてもよい。
【0140】
なお、上述のイベントは、同じドライバについて、第1の時間間隔よりも非常に大きい(例えば100倍以上の)第2の時間間隔を空けて複数回(例えば、1日1回ずつ数日間連続して)実行されるようになっていてもよい。このようにすることで、より個人の基準範囲を正確に反映することができる。
【0141】
なお、制御部7は、あるドライバについてのイベントの実行回数が基準回数を超えたことに基づいて、当該ドライバについて記録された自律神経活動量から当該ドライバの基準範囲を決定するようになっていてもよい。
【0142】
そして、制御部7は、あるドライバについてのイベントの実行回数が基準回数を超えるまでは、そのドライバの年齢に基づいて基準範囲を決定するようになっていてもよい。この場合、制御部7のROMまたはフラッシュメモリには、あらかじめ、年齢と、その年齢を有する平均的な人についての自律神経活動量の通常の範囲(すなわち基準範囲)と、の対応関係のデータが記録されている。そしてドライバは、プログラム300の実行時において、入力された識別情報に対応する年齢を特定し、特定した年齢に対応する基準範囲を、当該対応関係のデータから特定し、特定した基準範囲を当該ドライバの基準範囲としてステップ370で用いる。
【0143】
なお、制御部7は、識別情報に対応する年齢を、以下のように特定してもよい。すなわち、制御部7は、識別情報と、その識別情報に該当するドライバの生年月日の情報とを対応付けてフラッシュメモリにあらかじめ記録する。そして、識別情報に対応する生年月日と現在時刻に基づいて、識別情報に該当するドライバの年齢を特定する。なお、制御部7は、識別情報に該当するドライバの生年月日の情報を、当該ドライバによる操作入力装置5に対する生年月日の入力操作に基づいて記録する。
【0144】
続くステップ380では、表示装置6を用いて、ステップ370における自律神経活動の評価結果に基づくドライバへの情報通知を行う。例えば、ステップ370でドライバが緊張状態または興奮状態にあると判定した場合には、リラックスするようアドバイスする音声を表示装置6に出力させる。また例えば、ステップ370でドライバが居眠りをしている可能性があると判断したときは、ドライバの目を覚ますための大きな音声を表示装置6に出力させる。
【0145】
またステップ380では、ステップ360で算出した自律神経活動量を、現在日時の情報と共にフラッシュメモリに記録するようになっていてもよい。この場合、制御部7は、操作入力装置5に対するドライバの表示要求操作に応じて、記録した自律神経活動量を表示装置6に表示させるようになっていてもよい。
【0146】
このように、脈波信号から脈拍を検出し、脈拍間隔から自律神経活動量を算出し、その自律神経活動量に基づいてドライバに注意を促すことができる。また、自律神経活動量を日々の体調の変化情報として記録して表示することで、ドライバが自律神経活動量を日々の健康チェックのために利用することができる。
【0147】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の各発明特定事項の機能を実現し得る種々の形態を包含するものである。
【0148】
例えば、上記実施形態においては、検出部位として指先が用いられていたが、検出部位は人の他の部位(例えば掌)であってもよい。
【0149】
また、上記実施形態においては、異なる波長の2種類の光のそれぞれで検出した2つの波高の比を、血中アルコール濃度の指標として用いているが、異なる波長の3種類以上の光のそれぞれで検出した3つ以上の波高に基づく量を、血中アルコール濃度の指標として用いてもよい。
【0150】
また、上記実施形態においては、第1の波長として870nmが採用され、第2の波長として1300nmが採用されているが、第1の波長、第2の波長は、これらのものに限らない。すなわち、第1の波長の光で検出した波高が、第2の波長の光で検出した波高よりも、血中アルコール濃度により敏感に変化するようになっていれば、第1の波長、第2の波長は、どのようなものであってもよい。
【0151】
また、運転禁止処理180においては、キーが車両のキーシリンダに挿入されてエンジンスタート位置にセットされたた場合には、エンジンスタートスイッチ3を制御してエンジンを始動するようになっていてもよい。
【0152】
また、上記実施形態においては、制御部7は、カメラ41を用いて指先の静脈を撮影し、撮影した静脈パターンと登録された静脈パターンとの比較によって、個人認証を実現している。しかし、制御部7は、カメラ41を用いて指先の指紋を撮影し、撮影した指紋パターンと登録された指紋パターンとの比較によって、個人認証を実現するようになっていてもよい。
【0153】
また、上記の実施形態において、制御部7がプログラムを実行することで実現している各機能は、それらの機能を有するハードウェア(例えば回路構成をプログラムすることが可能なFPGA)を用いて実現するようになっていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジン始動制御装置1の構成を示すブロック図である。
【図2】光学検出部4の外観を示す斜視図である。
【図3】光学検出部4にドライバの指51が載せられた状態を示す図である。
【図4】光学検出部4の平面図である。
【図5】図4のA−A−A断面図である。
【図6】光学検出部4の取付位置を示す図である。
【図7】制御部7が実行するプログラム100のフローチャートである。
【図8】図7のステップ110における脈波計測処理の詳細を示すフローチャートである。
【図9】1300nmの光を受けて受光素子43が出力する脈波信号のグラフである
【図10】図7のステップ150における血中アルコール濃度検出処理の詳細を示すフローチャートである。
【図11】脈波信号の出力値の時間変動についての実験結果を示すグラフである。
【図12】同じ血中アルコール濃度の状態で特定の2つの波長による波高比を複数回算出した結果を示すグラフである。
【図13】2つの波長の光による脈波信号の波高比を、異なるアルコール濃度の場合について計測した結果を示す図である。
【図14】2つの波長における波高比と血中アルコール濃度との関係についての実験結果を示すグラフである。
【図15】第2実施形態において制御部7が実行するプログラム200のフローチャートである。
【図16】第3実施形態において制御部7が実行するプログラム300のフローチャートである。
【図17】単位時間毎の脈拍間隔を算出するための補間処理を示すグラフである。
【符号の説明】
【0155】
1 エンジン始動制御装置
2 イグニッションスイッチ
3 エンジンスタートスイッチ
4 光学検出部
5 操作入力装置
6 表示装置
7 制御部
40 筐体
40a 根本側窪み部
40b 検出窓部
41 カメラ
42 発光素子群
43 受光素子
50 指
51 細動脈
52 静脈
55 ステアリングハンドル
61 系外光
62 波高
63 脈拍間隔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるエンジン始動制御装置であって、
前記車両のドライバの体の一部位における脈波を光学的方法で検出すると共に、前記一部位の撮影を行うセンサ(41、43)と、
前記センサ(41、43)を収容する筐体(40)と、
前記センサ(41、43)による前記一部位の撮影結果に基づいて、前記車両のドライバが正規のドライバであるか否かを判定する個人認証手段(120、130、140、210、220)と、
前記センサ(41、43)が検出した前記一部位における脈波に基づいて、前記ドライバの血中アルコール濃度の指標を算出し、算出した前記指標が飲酒基準値を超えたか否かを判定するアルコール濃度判定手段(150、160)と、
前記個人認証手段(120、130、140、210、220)が、正規のドライバである旨の判定を行ったこと、および、前記アルコール濃度判定手段(150、160)が、前記指標が前記飲酒基準値を越えなかった旨の判定を行ったことに基づいて、前記車両のエンジンの始動を許可する許可手段(170)と、を備え、
前記センサ(41、43)は、前記ドライバが前記一部位を前記筐体(40)に近づけることで、前記一部位における脈波を検出することができると共に、前記一部位の撮影を行うことができること特徴とするエンジン始動制御装置。
【請求項2】
前記筐体(40)は、前記ドライバの指を前記一部位として支持する形状の窪み部(40a、40b)を有し、
前記センサ(41、43)は、前記筐体(40)に収容される発光素子(42)から出て前記一部位を通った光によって前記一部位の静脈を撮影するカメラ(41)と、前記発光素子(42)から出て前記一部位を通った光の強度を撮影する受光素子(43)と、を備え、
前記受光素子(43)は、前記カメラ(41)よりも、前記窪み部(40a、40b)に前記指が収まった状態における前記指の先端側に、配置されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジン始動制御装置。
【請求項3】
前記個人認証手段(120、130、140、210、220)は、前記センサ(41、43)が検出した前記一部位における脈波に基づいて、前記一部位が生命のある人の部位であるか否かを判定し、生命のある人の部位であると判定したことに基づいて、前記車両のドライバが正規のドライバであるか否かを判定することを特徴とする請求項1または2に記載のエンジン始動制御装置。
【請求項4】
前記個人認証手段(120、130、140、210、220)は、前記センサ(41、43)による前記一部位の撮影結果に基づいて、前記車両のドライバが正規のドライバでないと判定した場合、前記ドライバによって入力されたパスワードが正規のものであるか否かを判定し、
前記許可手段(170)は、前記個人認証手段(120、130、140、210、220)が、前記パスワードが正規のものである旨の判定を行ったこと、および、前記アルコール濃度判定手段(150、160)が、前記指標が前記飲酒基準値を越えなかった旨の判定を行ったことに基づいて、前記車両のエンジンの始動を許可することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のエンジン始動制御装置。
【請求項5】
前記センサ(41、43)が検出した前記一部位における脈波に基づいて、前記ドライバの自律神経活動量を算出する自律神経活動量算出手段(370)と、
前記自律神経活動量算出手段(370)が算出した前記自律神経活動量に基づく情報を前記ドライバに通知する自律神経活動量通知手段(380)と、を備えたことを特徴とする請求項請求項1ないし4のいずれか1つに記載のエンジン始動制御装置。
【請求項1】
車両に搭載されるエンジン始動制御装置であって、
前記車両のドライバの体の一部位における脈波を光学的方法で検出すると共に、前記一部位の撮影を行うセンサ(41、43)と、
前記センサ(41、43)を収容する筐体(40)と、
前記センサ(41、43)による前記一部位の撮影結果に基づいて、前記車両のドライバが正規のドライバであるか否かを判定する個人認証手段(120、130、140、210、220)と、
前記センサ(41、43)が検出した前記一部位における脈波に基づいて、前記ドライバの血中アルコール濃度の指標を算出し、算出した前記指標が飲酒基準値を超えたか否かを判定するアルコール濃度判定手段(150、160)と、
前記個人認証手段(120、130、140、210、220)が、正規のドライバである旨の判定を行ったこと、および、前記アルコール濃度判定手段(150、160)が、前記指標が前記飲酒基準値を越えなかった旨の判定を行ったことに基づいて、前記車両のエンジンの始動を許可する許可手段(170)と、を備え、
前記センサ(41、43)は、前記ドライバが前記一部位を前記筐体(40)に近づけることで、前記一部位における脈波を検出することができると共に、前記一部位の撮影を行うことができること特徴とするエンジン始動制御装置。
【請求項2】
前記筐体(40)は、前記ドライバの指を前記一部位として支持する形状の窪み部(40a、40b)を有し、
前記センサ(41、43)は、前記筐体(40)に収容される発光素子(42)から出て前記一部位を通った光によって前記一部位の静脈を撮影するカメラ(41)と、前記発光素子(42)から出て前記一部位を通った光の強度を撮影する受光素子(43)と、を備え、
前記受光素子(43)は、前記カメラ(41)よりも、前記窪み部(40a、40b)に前記指が収まった状態における前記指の先端側に、配置されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジン始動制御装置。
【請求項3】
前記個人認証手段(120、130、140、210、220)は、前記センサ(41、43)が検出した前記一部位における脈波に基づいて、前記一部位が生命のある人の部位であるか否かを判定し、生命のある人の部位であると判定したことに基づいて、前記車両のドライバが正規のドライバであるか否かを判定することを特徴とする請求項1または2に記載のエンジン始動制御装置。
【請求項4】
前記個人認証手段(120、130、140、210、220)は、前記センサ(41、43)による前記一部位の撮影結果に基づいて、前記車両のドライバが正規のドライバでないと判定した場合、前記ドライバによって入力されたパスワードが正規のものであるか否かを判定し、
前記許可手段(170)は、前記個人認証手段(120、130、140、210、220)が、前記パスワードが正規のものである旨の判定を行ったこと、および、前記アルコール濃度判定手段(150、160)が、前記指標が前記飲酒基準値を越えなかった旨の判定を行ったことに基づいて、前記車両のエンジンの始動を許可することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のエンジン始動制御装置。
【請求項5】
前記センサ(41、43)が検出した前記一部位における脈波に基づいて、前記ドライバの自律神経活動量を算出する自律神経活動量算出手段(370)と、
前記自律神経活動量算出手段(370)が算出した前記自律神経活動量に基づく情報を前記ドライバに通知する自律神経活動量通知手段(380)と、を備えたことを特徴とする請求項請求項1ないし4のいずれか1つに記載のエンジン始動制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−36799(P2010−36799A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204187(P2008−204187)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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