説明

エンジン点火装置

【課題】エンジンの逆転、急激な回転数の低下を容易且つ確実に精度よく検出できるようにする。
【解決手段】ンジンに同期して駆動される磁石式発電機10と、磁石式発電機10のソースコイル20からの出力に基づいてエンジンの回転数に応じたタイミングで点火時期を制御する点火時期制御手段35と、エンジンの逆転又は急激な回転数の低下を検出する検出手段36と、検出手段36がエンジンの逆転又は急激な回転数の低下を検出したときに失火制御する失火制御手段37とを備え、検出手段36はソースコイル20から別々の入力端子に入力する正の半波出力、負の半波出力の順序の変化により逆転又は急激な回転数の低下を検出するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2サイクルエンジン等の小型汎用エンジンに搭載するエンジン点火装置に関し、エンジンの回転異常を容易に検出できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
2サイクルエンジン等に搭載するエンジン点火装置には、コンデンサ充放電式のものが使用されている。このエンジン点火装置は、エンジンにより駆動される磁石式発電機と、この磁石式発電機のソースコイルに発生する正の半波出力により充電される充放電用コンデンサと、充放電用コンデンサの電荷を点火コイルの一次側に放電させる放電用スイッチング素子と、ソースコイルに発生する負の半波出力によりエンジンの回転数に応じたタイミングで放電用スイッチング素子をオンさせる点火時期制御手段とを備え、充放電用コンデンサの電荷を点火コイルの一次側に放電したときに二次側に発生する高電圧によりエンジンを点火させるようになっている。
【0003】
この種の点火装置を搭載したエンジンでは、始動時において上死点手前の圧縮行程でクランク軸の回転力が不足すれば、跳ね返り等によって逆転したままで爆発行程に移行する所謂ケッチンが発生する問題がある。そこで、エンジンの始動時にクランク軸の回転方向を監視しておき、エンジンが逆転したときには直ちに失火制御を行うようにした点火装置がある(特許文献1)。
【0004】
この従来の点火装置は、図13に示すように、エンジンのクランク軸1と同期して回転するフライホイール2の外周に設けられた突起3と、フライホイール2の外側でクランクケース等の固定側に装着され且つ突起3の先端部4、後端部5を相対的に通過するときにパルスを出力するパルサコイル6と、パルサコイル6からのパルス出力が所定レベル以下に低下したときにエンジンの逆転を検出するレベル方式の検出手段7とを備え、検出手段7がエンジンの逆転を検出したときに失火制御するようになっている。
【0005】
即ち、エンジンの逆転には、パルサコイル6が突起3の途中にあるときに逆転する突起内逆転と、パルサコイル6が突起3を通過した後に逆転する突起外逆転とがあり、図14(A)は突起内逆転のパルス波形を示し、図14(B)は突起外逆転のパルス波形を示す。
【0006】
エンジンの正転中は図14(A)(B)の左部分に示すように、クランク軸1の1回転毎に、パルサコイル6が突起3の先端部4を検出すれば第1パルス(正の半波出力)を発生し、続いて突起3の後端部4を検出すれば第2パルス(負の半波出力)を発生する。
【0007】
しかし、突起3の先端部4がパルサコイル6を通過した後に、後端部5がパルサコイル6に達しないでエンジンが逆転する突起内逆転が発生すると、図14(A)の右部分に示すように、逆転後再び突起3の先端部4がパルサコイル6を通過して第2パルス(負の半波出力)を発生する。
【0008】
また突起3の先端部4、後端部5がパルサコイル6を順次通過した後、クランク軸1が逆転する突起外逆転が発生すると、図14(B)の右部分に示すように、一旦パルサコイル6を通過した突起3の後端部5が逆方向に戻ってパルサコイル6を通過するときに小さい正の半波出力が発生し、続いて突起3の先端部4がパルサコイル6を通過するときに小さい負の半波出力が発生する。
【0009】
そして、突起内逆転、突起外逆転の何れの場合にも、エンジンの逆転時にはクランク軸1の回転速度の一時的な低下によりパルスの出力レベルが低下するため、検出手段7がその出力レベルの低下により逆転を検出して失火制御を行う。
【0010】
このようなパルス出力のレベル変化によりエンジンの逆転を検出するレベル方式の他に、鉄心の一方の脚部にソースコイルを巻装する等、鉄心に対してソースコイルを非対称に配置した磁石式発電機を使用する場合に採用されるパルス幅方式がある。ソースコイルを鉄心に対して非対称に取り付けた場合には、エンジンの正転時と逆転時とでソースコイルに発生する一部のパルスではそのパルス幅に大きな差がある。パルス幅方式はそのパルス幅の長短に着目して、波形成形後のパルス幅を基準値と比較してエンジンの逆転の有無を検出する方式である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−220866号公報の図8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の検出手段はレベル方式、パルス幅方式の何れを問わず、パルスを同一の入力端子に入力して、エンジンの回転速度(回転数)に応じてソースコイルに発生するパルスのレベル値、パルス幅を基準値と比較して、そのレベル値、パルス幅が基準値以下のときにエンジンの逆転を検出するようになっている。
【0013】
マイコンを利用してエンジンの点火制御のデジタル化を図る場合には、エンジンの1回転毎に逆転の有無の判別を行うことになるが、エンジンの1回転毎にプログラム上で入力パルスのレベル値、パルス幅を基準値と比較して判別する必要がある上に、エンジンの回転数によってレベル値、パルス幅も変動するため、比較すべき基準値もある回転数毎に設定しておく必要がある。従って、従来の検出方式ではプログラムデータ量が非常に多くなるという問題があり、デジタル制御方式には適しないという問題があった。
【0014】
また各エンジンの個体差、角速度のバラツキ等によってもレベル値、パルス幅が変動するため、信頼性に欠ける等の問題がある。更に逆転時のパルス幅が長くなるパルス幅の違いはエンジンの全回転範囲では成立せず、ある回転数以上ではパルス幅の長短が逆転することがある。このような場合には、パルス幅の違いによりエンジンの逆転を検出して失火制御できる回転数範囲に制限がある。
【0015】
本発明は、このような従来の課題に鑑み、エンジンの逆転、急激な回転数の低下等の回転異常を容易且つ確実に精度よく検出できるエンジン点火装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、エンジンに同期して駆動される磁石式発電機と、該磁石式発電機のソースコイルからの正の半波出力、負の半波出力に基づいて前記エンジンの回転数に応じたタイミングで点火時期を制御する点火時期制御手段とを備えたエンジン点火装置において、前記ソースコイルに発生する正の半波出力と負の半波出力との順序の変化により前記エンジンの回転異常を検出するを検出手段を備えたものである。
【0017】
前記磁石式発電機は前記エンジンの1回転中に正の半波出力と負の半波出力とを交互に2個ずつ発生する前記ソースコイルを備え、前記検出手段は正の半波出力が印加する2個の正入力端子と、負の半波出力が入力する2個の負入力端子との各入力端子を、正入力端子、負入力端子の順序で交互に巡回しながら、何れかの入力端子に正規の半波出力が入力した後に、次の半波出力が該入力端子に続く正入力端子と負入力端子との何れに入力するか確認し、半波出力が正入力端子又は負入力端子に続けて入力したときに前記エンジンの逆転又は急激な回転数の低下を検出するようにしてもよい。
【0018】
また前記検出手段は何れかの入力端子に正規の半波出力が入力する毎に、順次該入力端子に続く正入力端子と負入力端子との2個の入力端子を入力待ち状態にし、次の半波出力が入力待ち状態の2個の入力端子の内、前記何れかの入力端子と同じ入力端子に入力したときに前記エンジンの逆転又は急激な回転数の低下を検出するようにしてもよい。
【0019】
更に1回転中にパルス幅の狭い正の半波出力とパルス幅の広い正の半波出力とを発生する前記ソースコイルを備え、前記検出手段は前記狭い正の半波出力よりも広く前記広い正の半波出力よりも狭いパルス幅を基準パルス幅とし、前記ソースコイルからの正の半波出力のパルス幅が基準パルス幅よりも狭いときに、該正の半波出力を基準に半波出力の順序の変化を検出するようにしてもよい。
【0020】
また正転時と逆転時とでパルス幅が異なる負の半波出力を発生する前記ソースコイルを備え、前記検出手段は正の半波出力、負の半波出力の順序の変化の他に、前記パルス幅の違いにより前記逆転又は急激な回転数の低下を検出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、エンジンの逆転、急激な回転数の低下等のエンジンの回転異常を容易且つ確実に精度よく検出できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す磁石式発電機の正面図である。
【図2】同点火装置の回路図である。
【図3】同ブロック図である。
【図4】同波形図である。
【図5】同フローチャートである。
【図6】同波形図である。
【図7】同波形図である。
【図8】本発明の第2の実施形態を示すフローチャートである。
【図9】同波形図である。
【図10】本発明の第3の実施形態を示す波形図である。
【図11】同ブロック図である。
【図12】同フローチャートである。
【図13】従来の点火装置の説明図である。
【図14】同波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳述する。図1〜図7は本発明の第1の実施形態を例示する。図1は本発明のエンジン点火装置に採用される磁石式発電機10を、図2はマイコン11を利用したデジタル式のエンジン点火装置の回路構成を夫々示し、図3は本発明に係るエンジン点火装置のマイコン11の機能ブロック図を示す。図4は波形図を示す。
【0024】
磁石式発電機10は、図1に示すようにエンジンに同期して回転するフライホイール12と、このフライホイール12の外周に周方向に所定の間隔をおいて設けられたS極、N極の永久磁石13,14と、フライホイール12の外側でクランクケース等の固定側に装着されたコイルユニット15とを備え、エンジンに同期して駆動される。
【0025】
フライホイール12はエンジンのクランク軸16の一端に固定され、正転時に矢印方向に回転する。コイルユニット15はフライホイール12の回転方向に一対の脚部18,19を有する鉄心17と、この鉄心17の一方に取り付けられたソースコイル20及び点火コイル21を有し、フライホイール12の回転方向に非対称に構成されている。なお、ソースコイル20等は鉄心17の出側の脚部19に設けられているが、入側の脚部18に設けてもよい。
【0026】
エンジン点火装置は図2に示すようにソースコイル20、点火コイル21を含む磁石式発電機10の他に、ソースコイル20の正側ライン22に接続され且つソースコイル20からの正の半波出力Paによりダイオード23,24を介して充電される充放電用コンデンサ25と、オン時に充放電用コンデンサ25の電荷を点火コイル21の一次側を経て放電させる放電用スイッチング素子26と、点火コイル21の二次側に接続された点火プラグ27と、ソースコイル20の負側ライン28に接続され且つダイオード29を介してソースコイル20の負の半波出力Pbにより充電される電源回路30と、ソースコイル20の正の半波出力Paを波形成形する第1波形成形回路31と、ソースコイル20の負の半波出力Pbを波形成形する第2波形成形回路32と、各波形成形回路31,32からの正の半波出力Pa、負の半波出力Pbに基づいてエンジンの点火制御を行うマイコン11とを備えている。
【0027】
磁石式発電機10のソースコイル20は、エンジンの正転時には1回転中に図4に示すように正側ライン22に正の半波出力Paを、負側ライン28に負の半波出力Pbを夫々2個ずつ交互に発生する。電源回路30はソースコイル20の負の半波出力Pbにより充電され、波形成形回路31,32、マイコン11に電源を供給するようになっている。
【0028】
第1波形成形回路31は第1スイッチング素子33を有し、正側ライン22の正の半波出力Paを第1スイッチング素子33のオン・オフにより第1パルスP1、第3パルスP3に波形成形する。第2波形成形回路32は第2スイッチング素子34を有し、負側ライン28の負の半波出力Pbを第2スイッチング素子34のオン・オフにより第2パルスP2、第4パルスP4に波形成形する。従って、エンジンの正転時に1回転中に2個ずつ発生する正の半波出力Pa、負の半波出力Pbは、第1波形成形回路31、第2波形成形回路32により、図4に示すように第1パルスP1、第2パルスP2、第3パルスP3、第4パルスP4に順次波形成形される。
【0029】
マイコン11はCPU、ROM、RAMを有し、電源端子等の他に第1波形成形回路31からの正の半波出力Paの第1パルスP1、第3パルスP3に対応する2個の正入力端子40,41と、第2波形成形回路32からの負の半波出力Pbの第2パルスP2、第4パルスP4に対応する2個の負入力端子42,43とを備えている。なお、正入力端子40はマイコン11の19ピンに、正入力端子41は18ピンに、負入力端子42は9ピンに、負入力端子43は10ピンに夫々対応している。
【0030】
マイコン11は図3に示すように、エンジンの正転時にソースコイル20からの正の半波出力Pa、負の半波出力Pbに基づいて回転数に応じたタイミングで点火時期を制御する点火時期制御手段35と、エンジンの回転異常(エンジンの逆転又は急激な回転数の低下)の有無を検出する検出手段36と、検出手段36がエンジンの回転異常を検出したときに失火制御する失火制御手段37とを含む点火制御手段を構成している。
【0031】
点火時期制御手段35はソースコイル20からの正の半波出力Pa(又は負の半波出力Pb)に基づいてエンジンの1回転の回転周期Tを求めて、そのときの回転周期Tに応じたタイミングで放電用スイッチング素子26をオンさせるようになっている。この点火時期制御手段35は図4に示すようにエンジンの1回転毎に先の第1パルスP1から次の第1パルスP1までの時間を計時して、そのときのエンジンの回転周期Tを求めている。
【0032】
検出手段36はソースコイル20から正入力端子40,41と負入力端子42,43とに入力される正の半波出力Paと負の半波出力Pbの入力順序が正転時に比べて変化したときにエンジンの逆転又は回転数の急激な低下を検出するものであって、例えば正転時には交互に入力する正の半波出力Pa又は負の半波出力Pbの何れかが正入力端子40,41又は負入力端子42,43に続けて入力したときに、エンジンの逆転又は急激な回転数の低下を検出するように構成されている。
【0033】
即ち、検出手段36はソースコイル20で2回発生する正の半波出力Pa(第1パルスP1、第3パルスP3)が印加する2個の正入力端子40,41と、ソースコイル20で2回発生する負の半波出力Pb(第2パルスP2,第4パルスP4)が印加する2個の負入力端子42,43との各入力端子40〜43を、各半波出力Pa,Pbが入力する毎に正入力端子、負入力端子の順序で交互に一つずつ巡回しながら、何れかの入力端子40〜43に正規の半波出力Pa,Pbが入力した後に、次の半波出力Pa,Pbがこの正規の半波出力Pa,Pbが入力した入力端子40〜43に続く次の2個の正入力端子40,41と負入力端子42,43との何れに入力するかを確認して、半波出力Pa,Pbが2個の正入力端子40,41又は2個の負入力端子42,43に続けて入力したときにエンジンの逆転又は急激な回転数の低下と判定するようになっている。
【0034】
その判定に当たっては、正入力端子40、負入力端子42、正入力端子41、負入力端子43の順序で順次巡回する間に、例えば正入力端子40に正規の半波出力(例えば正の半波出力Pa)が入力したときに、その正入力端子40に続く2個の負入力端子42、正入力端子41を割込み待ち(入力待ち)状態にして、次の半波出力が割込み状態の2個の負入力端子42、正入力端子41の内、その前に正の半波出力Paが入力した正入力端子40と同じ正入力端子41に入力したときにエンジンの逆転又は急激な回転数の低下と判定する。検出手段36は以下同様に負入力端子42、正入力端子41、負入力端子43と巡回する毎に同様の処理を行い、エンジンの逆転又は急激な回転数の低下の有無を判定する。
【0035】
失火制御手段37は検出手段36がエンジンの逆転又は急激な回転数の低下を検出したときに、点火時期制御手段35が放電用スイッチング素子26をオンさせないように失火制御する。なお、この失火制御はエンジンが停止するか、電源回路30の出力電圧がマイコン11の作動電圧以下に低下するまで継続する。エンジンの回転数が再起動不能な回転数に低下するまで継続してもよい。
【0036】
次に図5に示すフローチャートを参照しながら動作を説明する。エンジンの始動に際しては、リコイルスタータを操作してフライホイール12を矢印方向に正転させると、電磁誘導により、ソースコイル20には図4に示す順番、大小関係で正の半波出力Pa、負の半波出力Pbが順次2回ずつ発生し、その正の半波出力Paにより充放電用コンデンサ25が充電され、負の半波出力Pbにより電源回路30が所定の電源電圧まで充電する。そして、電源回路30の電源電圧が所定電圧まで達すると、マイコン11が起動する(ステップS1)。
【0037】
またエンジンが正転方向に1回転する毎にソースコイル20には、図4に示すように正の半波出力Pa、負の半波出力Pbが交互に発生し、その正の半波出力Paは正側ライン22を経て第1スイッチング素子33に、負の半波出力Pbは負側ライン28を経て第2スイッチング素子34に夫々印加し、その第1スイッチング素子33、第2スイッチング素子34のオン・オフにより順次第1パルスP1、第2パルスP2、第3パルスP3、第4パルスP4に波形成形される。
【0038】
そして、マイコン11が動作可能な状態になれば、検出手段36は正の半波出力Paである第1パルスP1、第3パルスP3の正入力端子40,41への入力順序、負の半波出力Pbである第2パルスP2,P4の負入力端子42,43への入力順序からエンジンの回転異常(逆転、急激な回転数の低下等)の有無を判別する。
【0039】
この検出手段36による回転異常の検出に際しては、エンジンが1回転する毎に発生する第1〜第4パルスP1〜P4の内、最初に発生するパルス幅の最も狭い第1パルスP1を基準に処理を行う。第1〜第4パルスP1〜P4のパルス幅の広狭は磁石式発電機10の構造に起因するもので、鉄心17に対するソースコイル20の取り付け位置と、鉄心17に対するフライホイール12の回転方向によって決まる。この実施形態の場合には、ソースコイル20が鉄心17の脚部19側にあり、フライホイール12が矢印方向に回転するので、図4に示すように第1パルスP1のパルス幅が最も狭くなることから、この第1パルスP1を基準とする。
【0040】
起動後のマイコン11の検出手段36は正入力端子40が割り込み待ちの状態であり(ステップS2)、この正入力端子40に正の半波出力Paが印加すると、その正の半波出力Paの立ち下がり時に割り込み処理を開始し(ステップS3)、その正入力端子40の正の半波出力Paが第1パルスP1か否かの判別を行い(ステップS4、S5)、第1パルスP1であれば、これを基準とする。
【0041】
この第1パルスP1の判別に当たっては、第1パルスP1のローレベルのパルス幅T1を検出し(ステップS4)、基準パルス幅(基準値)Txと比較する。基準パルス幅Txは第1パルスP1のローレベルのパルス幅T1よりも広く、第3パルスP3のローレベルのパルス幅T3よりも狭くなるT1<Tx<T3に設定されており、正の半波出力Paの入力パルスがT1<Txの条件を満足したときに、それを第1パルスP1とする(ステップS5)。因みに、エンジンの始動時の第1パルスP1のパルス幅T1は1〜4ms、第3パルスP3のパルス幅T3は6〜10ms、基準パルス幅Txは5ms程度が適当である。
【0042】
なお、第1パルスP1と判別した後は、負の半波出力Pb、正の半波出力Paが交互に発生するか否かで正転、逆転を検出するので、その後に第1パルスP1のパルス幅T1を検出する必要はない。
【0043】
エンジンが正転を継続する場合には、第1パルスP1を検出した後に負の半波出力Pb、正の半波出力Pa、負の半波出力Pb・・・と半波出力Pa,Pbが発生し、第2パルスP2、第3パルスP3、第4パルスP4、第1パルスP1・・・と続く。そして、パルスP2〜P4が負入力端子42、正入力端子41、負入力端子43に順次入力するので、半波出力Pa,Pbが発生する都度、その順番に従って割り込み待ちにすべき2個一組の入力端子の組み合わせを順次シフトさせながら(ステップS6、S8、S10、S12)、そのときに入力したパルスが各入力端子40〜43に対応するものか否かの判別を行う(ステップS7、S9、S11、S13)。
【0044】
即ち、ステップS6では第1パルスP1が正規に入力した正入力端子40に続く負入力端子42と正入力端子41との2個の入力端子42,41を割り込み待ちにする。そして、負入力端子42に負の半波出力Pbの割り込みがあれば、第2パルスP2であるため正転として処理し、逆に正入力端子41に正の半波出力Paの割り込みがあれば逆転として処理する(ステップS7)。
【0045】
なお、実際には第1パルスP1の発生後、マイコン11の負入力端子42と正入力端子41とに対する割り込みを許可し、その他の入力端子40,43への割り込みは禁止し、負入力端子42への第2パルスP2の割り込みが発生した場合を正転とし、正入力端子41への割り込みが発生した場合を逆転とする。
【0046】
またステップS7で負入力端子42に正規の第2パルスP2が入力ときには、この負入力端子42に続く正入力端子41と負入力端子43との2個の入力端子41,43を割り込み待ちにする(ステップS8)。そして、正入力端子41に正の半波出力Paの割り込みがあれば、第3パルスP3であるため正転とし、逆に負入力端子43に負の半波出力Pbの割り込みがあれば逆転として処理する(ステップS9)。
【0047】
ステップS9で正入力端子41に正規の第3パルスP3の割り込みがあれば、次の負入力端子43と正入力端子40を割り込み待ちとし(ステップS10)、その負入力端子43に負の半波出力Pbの割り込みがあれば、第4パルスP4であるので正転として処理し、正入力端子41に正の半波出力Paの割り込みがあれば逆転として処理する(ステップS11)。
【0048】
ステップS11で負入力端子43に正規の負の半波出力Pbの割込みがあれば、次の正入力端子40と負入力端子42とを割込み待ちとし(ステップS12)、その正入力端子40に正の半波出力Paの割り込みがあれば、第1パルスP1であるとして正転として処理し、負入力端子42に負の半波出力Pbの割り込みがあれば逆転として処理する(ステップS13)。
【0049】
エンジンが1回転すれば、点火時期制御手段35が別途タイマで第1パルスP1間の回転周期Tを検出して(ステップS14)、そのときの回転周期Tに応じたタイミングで放電用スイッチング素子26をオンさせてエンジンを点火する(ステップS15)。なお、放電用スイッチング素子26がオンすれば、充放電用コンデンサ25の電荷が放電用スイッチング素子26を経て点火コイル21の一次側に放電されるので、点火コイル21の二次側に高電圧が発生してエンジンを点火する。
【0050】
エンジンの正転中に回転力の不足等により停止して逆転すると、正の半波出力Pa、負の半波出力Pbが交互に発生せずに、正の半波出力Pa又は負の半波出力Pbが続くことになる。例えば、図6に示すように第1パルスP1の発生後に第2パルスP2が発生する前に、上死点への圧縮を乗り越えられずにエンジンが逆転する跳ね返りが発生した場合には、第1パルスP1に続いて第1パルスP1の撥ね返りパルスP1´が発生するため、正の半波出力Paが続くことになる。
【0051】
この場合にはステップS6で負入力端子42と正入力端子41とが割り込み待ち状態にあるときに、正入力端子41に撥ね返りパルスP1´の割り込みが入るので、ステップS7でエンジンの逆転を検出する。そして、失火制御手段37が撥ね返りパルスP1´の次に発生する第2パルスP2により出力を低レベルにラッチする即失火制御を行い(ステップS16)、点火時期制御手段35による放電用スイッチング素子26のオンを即時阻止する(ステップS17)。このため点火コイル21の二次側に高電圧が発生することはなく、エンジンは始動しない。この失火制御はエンジンが停止するまで、又は電源回路30の電圧がマイコン11の作動電圧以下に低下するまで継続する。
【0052】
以下同様に第2パルスP2の発生後にエンジンが逆転に突入した場合にはステップS8,S9で、また第3パルスP3の発生後にエンジンが逆転に突入した場合にはステップS10,S11で、更に第4パルスP4の発生後にエンジンが逆転に突入した場合にはステップS12,S13で夫々逆転突入を検出し、ステップS16,S17でエンジンの即失火制御を行う。
【0053】
このような磁石式発電機10を採用するエンジンでは、ソースコイル20が鉄心17に対して非対称に取り付けられているため、フライホイール12の回転方向との関係により、正転時と逆転時とでソースコイル20に発生する半波出力の波形が異なるものとなる。またある回転数によっては図7に示すように第4パルスP4が発生しないことがある。エンジンの回転数が急激に低下した場合も同様である。
【0054】
このような場合には図7に示すように第3パルスP3の発生後に次の1回転目の第1パルスP1が発生するため、ステップS10の割り込み待ちで正入力端子40に割り込みが入り、正の半波出力Paが続く。このためステップS11でエンジンの逆転又は回転数の急激な低下と判別し、ステップS16,S17でエンジンの失火制御を行う。
【0055】
従って、第4パルスP4が発生しないような回転数でのエンジンの逆転を想定しても、次周期で出力を低レベルにラッチして失火制御を行うことができる。他の第1パルスP1、第2パルスP2、第4パルスP4の発生後についても同様である。
【0056】
図8、図9は本発明の第2の実施形態を例示する。図1に示すような構成の磁石式発電機10の場合には、逆転時にも第4パルスP4を発生することがある。しかし、図9(a)に示す正転の場合と図9(b)に示す逆転の場合とを比較すれば判るように、その逆転時の第4パルスP4は正転時の第4パルスP4に比べて狭小になる。
【0057】
従って、検出手段36は図8に示すように正の半波出力Pa、負の半波出力Pbの順序の変化の他に、第4パルスP4のパルス幅Tbの広狭の違いを捉えるようにすれば、エンジンの逆転をより確実に検出することができる。即ち、この実施形態ではステップS11の次のステップS18で、第4パルスP4のパルス幅Tbを基準パルス幅Tyと比較してエンジンの正転、逆転を判別しており、このようにすればエンジンの逆転を確実に検出して失火制御を行うことができる。
【0058】
基準パルス幅Tyは正転時の第4パルスP4のパルス幅Tfと、逆転時の第4パルスP4のパルス幅Tbとを考慮してTf>Ty>Tbに設定されており、第4パルスP4のパルス幅Tfが基準パルス幅Tyよりも広ければ正転とし、第4パルスP4のパルス幅Tbが基準パルス幅Tyよりも狭ければ逆転とする(ステップS18)。因みにTfは1〜2ms、Tbは0〜0.5ms、Tyは0.6〜0.8ms程度が適当である。
【0059】
この場合にはエンジンの回転中にステップS11で第4パルスP4の割り込みと判定した後、ステップS18で第4パルスP4のパルス幅Tbを基準パルス幅Tyと比較して、そのパルス幅Tbが基準パルス幅Tyよりも広ければ正転としてステップ12に進み、またパルス幅Tbが基準パルス幅Tyよりも狭ければ逆転として、ステップ16の失火制御に移行する。
【0060】
この実施形態では、正転、逆転時の第4パルスP4のパルス幅Tf,Tbを基準パルス幅Tyと比較して正転、逆転を判別するようにしているが、エンジンの回転数が急激に低下したときにも同様に実施することができる。
【0061】
図10〜図12は本発明の第3の実施形態を例示する。磁石式発電機10には、エンジンの1回転中に図10(A)に示すようにソースコイル20に負の半波出力Pb、正の半波出力Pa、負の半波出力Pbが発生するようにしたものがある。このような場合には、1個の正の半波出力Paに対応する1個の正入力端子41と、2個の負の半波出力Pbに対応する2個の負入力端子42,43とを備えた検出手段36を用いて、図12にフローチャートに示す処理によりエンジンの逆転等を検出するようにしてもよい。なお、図10の(B)(C)は半波出力Pa,Pbを波形成形回路31,32で波形成形したパルスを示す。
【0062】
例えばマイコンの起動後(ステップS1)、先ず負入力端子42を割込み待ちとし(ステップS2)、この負入力端子42に正規の負の半波出力Pbの割込みがあれば(ステップS3)、次に正入力端子41と負入力端子43とを割込み待ちとする(ステップS4)。そして、正入力端子41に正の半波出力Paの割込みがあれば正転とし、負入力端子42に負の半波出力Pbの割込みがあれば逆転とする(ステップS5)。
【0063】
ステップS5で正入力端子41に正規の正の半波出力Paの割込みがあれば、再度正入力端子41と負入力端子43とを割込み待ちとし(ステップS6)、負入力端子43に負の半波出力Pbの割込みがあれば正転とし、正入力端子41に正の半波出力Paの割込みがあれば逆転とする(ステップS7)。
【0064】
ステップS7で負入力端子43に正規の負の半波出力Pbの割込みがあれば、負入力端子42と正入力端子41とを割込み待ちとし(ステップS8)、負入力端子42に負の半波出力Pbの割込みがあれば正転とし、正入力端子41に正の半波出力Paの割込みがあれば逆転とする(ステップS9)。以下同様の処理を繰り返す。
【0065】
従って、エンジンの1回転中に正の半波出力Pa、負の半波出力Pbの何れか一方が1回発生し他方が2回発生する場合にも、何れかの入力端子41〜43に正規の半波出力が入力する毎に、次に入力待ちにする2個の入力端子の組み合わせを適宜変更しながら順次シフトすることにより、エンジンの正逆転等を容易に検出することが可能である。
【0066】
以上、本発明の各実施形態について詳述したが、本発明は各実施形態に限定されるものではない。例えば、実施形態では、マイコン11によるデジタル制御での点火制御を前提として説明しているが、点火制御はアナログ制御でもよいし、回転数別にアナログ制御とデジタル制御とを併用したものでもよい。また正転時に正の半波出力Paと負の半波出力Pbとがソースコイル20に交互に2回ずつ発生する磁石式発電機10の場合には、検出手段36は同じ半波出力が続けて入力したときに逆転を検出するようにすればよいが、磁石式発電機10は実施形態に例示のもの以外でもよい。
【0067】
更に第1実施形態では、マイコン11の入力端子への割り込みは、第1パルスP1が正入力端子40、第2パルスP2が負入力端子42、第3パルスP3が正入力端子41、第4パルスP4が負入力端子43と、夫々マイコン11の異なる入力端子40〜43への入力を許可するようにしているが、これはマイコン11が固有に持つ既存機能である入力端子と対応したタイマの種別、入力端子と対応したマイコン11内部の制御処理に従うためである。従って、所定の時間間隔で同一の正入力端子、負入力端子に正の半波出力、負の半波出力が入力するようにしてもよい。
【0068】
また実施に当たっては、第1〜第4パルスP1〜P4の波形、特にエンジンの回転数に対するパルス幅(時間)の変動は事前確認し把握しておく必要がある。第1パルスP1と第3パルスP3は正の半波出力Pa、第2パルスP2と第4パルスP4は負の半波出力Pbであり、前述のように第1パルスP1を検出した時点より、第2〜第4パルスP2〜P4の順序を把握できるので、第1パルスP1と第3パルスP3、第2パルスP2と第4パルスP4で別々の割り込み処理を行うことができる。
【0069】
実施形態では、検出手段36によりエンジンの逆転又は急激な回転数の低下を検出して失火制御を行うようにしているが、検出結果を失火制御以外の制御に利用してもよい。また実施形態ではコンデンサ充放電式のエンジン点火装置を例示しているが、ソースコイル20に正の半波出力と負の半波出力とが発生する磁石的発電機10を採用したものであれば、他の方式の点火装置に応用することも可能である。
【符号の説明】
【0070】
10 磁石式発電機
11 マイコン
20 ソースコイル
21 点火コイル
22 正側ライン
25 充放電用コンデンサ
26 放電用スイッチング素子
28 負側ライン
35 点火時期制御手段
36 検出手段
37 失火制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに同期して駆動される磁石式発電機と、該磁石式発電機のソースコイルからの正の半波出力、負の半波出力に基づいて前記エンジンの回転数に応じたタイミングで点火時期を制御する点火時期制御手段とを備えたエンジン点火装置において、前記ソースコイルに発生する正の半波出力と負の半波出力との順序の変化により前記エンジンの回転異常を検出するを検出手段を備えたことを特徴とするエンジン点火装置。
【請求項2】
前記磁石式発電機は前記エンジンの1回転中に正の半波出力と負の半波出力とを交互に2個ずつ発生する前記ソースコイルを備え、前記検出手段は正の半波出力が印加する2個の正入力端子と、負の半波出力が入力する2個の負入力端子との各入力端子を、正入力端子、負入力端子の順序で交互に巡回しながら、何れかの入力端子に正規の半波出力が入力した後に、次の半波出力が該入力端子に続く正入力端子と負入力端子との何れに入力するか確認し、半波出力が正入力端子又は負入力端子に続けて入力したときに前記エンジンの逆転又は急激な回転数の低下を検出することを特徴とする請求項1に記載のエンジン点火装置。
【請求項3】
前記検出手段は何れかの入力端子に正規の半波出力が入力する毎に、順次該入力端子に続く正入力端子と負入力端子との2個の入力端子を入力待ち状態にし、次の半波出力が入力待ち状態の2個の入力端子の内、前記何れかの入力端子と同じ入力端子に入力したときに前記エンジンの逆転又は急激な回転数の低下を検出することを特徴とする請求項2に記載のエンジン点火装置。
【請求項4】
1回転中にパルス幅の狭い正の半波出力とパルス幅の広い正の半波出力とを発生する前記ソースコイルを備え、前記検出手段は前記狭い正の半波出力よりも広く前記広い正の半波出力よりも狭いパルス幅を基準パルス幅とし、前記ソースコイルからの正の半波出力のパルス幅が基準パルス幅よりも狭いときに、該正の半波出力を基準に半波出力の順序の変化を検出することを特徴とする請求項2又は3に記載のエンジン点火装置。
【請求項5】
正転時と逆転時とでパルス幅が異なる負の半波出力を発生する前記ソースコイルを備え、前記検出手段は正の半波出力、負の半波出力の順序の変化の他に、前記パルス幅の違いにより前記逆転又は急激な回転数の低下を検出することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のエンジン点火装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−7574(P2012−7574A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145831(P2010−145831)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(392014704)池田デンソー株式会社 (6)
【Fターム(参考)】