説明

エンドミルおよびその製造方法

【課題】 直径2mm以下の小径でも安定した切削性能を有するエンドミルおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 軸線0回りに回転されるチップ部11の工具先端部12に、少なくとも一対の切刃13がチップ部先端において軸線0を挟んで互いに反対側に形成されてなるエンドミルであって、切刃13の外径が、直径2mm以下であり、工具先端部12全体がレーザ加工で形状形成されていると共に、工具先端部12の外周面に逃げ面17がレーザ加工で形状形成され、該逃げ面17の面粗さRzが2μm以下かつ面粗さRaが1μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直径2mm以下の小径でフライス加工を安定して行うことができるエンドミルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等の筐体の製造に使用される金型を加工する工具として、超硬合金や焼結ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素(以下、cBNと称す)焼結体を使用したエンドミルが提供されている。特にcBNは、ダイヤモンドに次ぐ硬度を有しており、Fe,Co,Niといった金属との化学反応性が低いため、金型加工には最も適している材料である。cBNを使用したエンドミルにおいては、従来では短寿命であった60HRC以上の非常に硬い焼入れ鋼の切削加工で長寿命の加工が可能であり、高精度、長寿命の金型を提供することができるために注目されており、特に直径2mm以下の小径のエンドミルにおいては、金型の形状の複雑化及び小型化に伴い、今後の需要の増加が見込まれている。
【0003】
従来、エンドミルの製造において、一般に砥石を使った切削加工によって形態形成(形状形成)されている。また、このエンドミルでは、切りくずを排出する役割をする逃げ面が、外周面に砥石による切削加工で形成されている。
また、エンドミルの加工方法としては、砥石による切削加工以外にレーザ加工が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、切刃部を有するダイヤモンドチップとエンドミル本体とを備えるエンドミルであって、すくい面切り取り部を紫外線レーザによるレーザ加工で切り取った単結晶ダイヤモンドを用いたエンドミルが記載されている。なお、このエンドミルでも、切刃を構成する部分(逃げ面やすくい面を含む)は砥石や遊離砥粒で研磨することで形成される。
また、特許文献2には、工具本体と単結晶ダイヤモンドから構成される刃部とを備えたエンドミルにおいて、刃部にレーザ加工を施して単結晶ダイヤモンドの(111)結晶面で構成されたすくい面を形成したエンドミルが提案されている。この刃部も単結晶ダイヤモンドから短冊状に形成され取付座にロウ付けされるものであり、逃げ面がレーザ加工で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4339573号公報
【特許文献2】特開2010−23192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
上記従来のエンドミルの加工方法では、砥石を使った切削加工または研磨加工で逃げ面を形成しているが、切刃の外径が直径2mm以下の小径のエンドミルを作製する場合、逃げ面を砥石によって加工すると、安定した面精度で逃げ面を形成することができないという不都合があった。すなわち、小径で細いエンドミルに砥石による力学的な負荷が掛かると共に砥石自体の形状経時変化が生じることにより、面粗さが大きくなると共に面精度もばらついてしまい、安定した逃げ面を形成することが困難であった。特に、cBN焼結体のように非常に硬度の高い材料の場合は困難であった。例えば、図13に示すように、小径のボールエンドミルを作製する際に砥石によって逃げ面を形成すると、砥石の回転による多数の溝状の切削跡Dが一定方向に並んで形成されて面粗さが大きくなってしまう。このように逃げ面の面粗さが大きくなると、切りくずの逃げが悪くなり、安定した切削性能を得ることができない。そのため、従来、直径2mm以下の小径エンドミルでは面精度の高い逃げ面を形成することができず、安定した切削加工を行うことが難しかった。また、板状のcBNチップやダイヤモンドチップ等をエンドミル本体に装着する手法では、直径2mm以下の小径のボールエンドミルを作製することが困難であった。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、直径2mm以下の小径でも安定した切削性能を有するエンドミルおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明のエンドミルは、軸線回りに回転される工具先端部に、少なくとも一対の切刃が先端において前記軸線を挟んで互いに反対側に形成されてなるエンドミルであって、前記切刃の外径が、直径2mm以下であり、前記工具先端部全体がレーザ加工で形状形成されていると共に、前記工具先端部の外周面に逃げ面がレーザ加工で形状形成され、該逃げ面の面粗さRzが2μm以下かつ面粗さRaが1μm以下であることを特徴とする。
【0009】
このエンドミルでは、切刃の外径が直径2mm以下の小径エンドミルであり、工具先端部全体がレーザ加工で形状形成されていると共に、工具先端部の外周面に逃げ面がレーザ加工で形状形成され、該逃げ面の面粗さRzが2μm以下かつ面粗さRaが1μm以下であるので、力学的な負荷が掛らないレーザ加工により、小さい面粗さで高い面精度の逃げ面が工具先端部に一体形成されている。すなわち、従来の砥石による加工で多数の溝状の切削跡が生じた逃げ面に比べて、本発明のエンドミルは、レーザ加工による小さい面粗さおよび高い面精度の逃げ面を有しているので、小径のエンドミルにおいて、高い切りくず排出性能を得ることができる。
また、平板状チップを工具本体にロウ付けするのではなく、切刃を含む工具先端部全体をレーザ加工で形状形成するので、直径2mm以下の小径の工具先端部が容易にかつ高精度に得られる。
【0010】
また、本発明のエンドミルは、前記逃げ面に、互いに略平行に並んで延在した多数の微細長溝と、隣接する前記微細長溝間に該隣接する方向に延在する多数の微細短溝と、からなる網目状の微細凹凸が形成されていることを特徴とする。
すなわち、このエンドミルでは、逃げ面に、互いに略平行に並んで延在した多数の微細長溝と、隣接する微細長溝間に該隣接する方向に延在する多数の微細短溝と、からなる網目状の微細凹凸が形成されているので、従来の一定方向に多数延在する溝状の切削跡に比べて凹凸が小さくなり微細化されるため、面粗さがさらに小さくなり、より安定した切りくず排出性能を得ることができる。
【0011】
また、本発明のエンドミルは、前記切刃として前記軸線回りの回転軌跡が略半球状をなすボール刃部を有したボールエンドミルであり、前記工具先端部のうち少なくとも前記ボール刃部がcBN焼結体、焼結ダイヤモンド、超硬合金のいずれかまたはその組み合わせで形成されていることを特徴とする。
すなわち、このエンドミルでは、工具先端部のうち少なくともボール刃部がcBN焼結体、焼結ダイヤモンド、超硬合金のいずれかまたはその組み合わせで形成されているので、耐摩耗性に優れて高寿命であり、優れた切削性能を有する小径ボールエンドミルとして、金型等の仕上げ加工等に好適であり、特にcBN焼結体は、高硬度鋼の仕上げ加工等に好適である。
【0012】
本発明のエンドミルの製造方法は、上記本発明のエンドミルを製造する方法であって、ビーム断面の光強度分布がガウシアン分布であるレーザビームを照射して前記工具先端部全体を形状形成する三次元レーザ加工工程を有し、該三次元レーザ加工工程で、少なくとも前記逃げ面を形成する際に、加工前形状と設計上の加工後形状との両方において加工面に対する前記レーザビームの角度を50°未満に設定して前記レーザビームを照射することを特徴とする。
【0013】
このエンドミルの製造方法では、三次元レーザ加工工程で、少なくとも逃げ面を形成する際に、加工前形状と設計上の加工後形状との両方において加工面に対するレーザビームの角度を50°未満に設定してレーザビームを照射するので、小さい面粗さかつ高寸法精度で逃げ面を形成することができる。すなわち、レーザ加工を行う場合、単にレーザビームの集光点が被加工物の表面に一致していたとしても、照射するレーザビームと加工面とのなす角度によって、加工後のモホロジーが変わり、寸法精度が悪くなる場合がある。レーザビームは、通常、ビーム断面の光強度分布がガウシアン分布を有しており、図14に示すように、レーザビームLの中心ほど強度が高いため、レーザビームLの中心ほど深く加工されると共に周辺ほど浅く加工され、加工対象物5のレーザ照射した加工部分5aの側面に一定の傾斜が生じて加工形状がだれてしまう。そこで、加工前形状と設計上の加工後形状との両方において加工面に対するレーザビームの角度(レーザビームの伝播方向とレーザビームが照射される面の法線方向とがなす角度)を、ビーム断面の光強度分布を考慮した角度である50°未満に設定することで、加工形状がだれずに、小さい面粗さかつ高寸法精度な逃げ面を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るエンドミルおよびその製造方法によれば、切刃の外径が直径2mm以下の小径エンドミルにおいても、工具先端部全体がレーザ加工で形状形成されていると共に、工具先端部の外周面に逃げ面がレーザ加工で形状形成され、該逃げ面の面粗さRzが2μm以下かつ面粗さRaが1μm以下であるので、小さい面粗さで高面精度な逃げ面を有し、高い切りくず排出性により安定した切削性能を得ることができる。したがって、本発明のエンドミルは、例えば、切りくず排出性に優れて高切削性能を有する小径ボールエンドミルとして、難加工材料の仕上げ加工等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るエンドミルおよびその製造方法の一実施形態において、エンドミルを示す工具先端部の側面図および上面図である。
【図2】本発明に係るエンドミルおよびその製造方法の一実施形態において、エンドミルを示す全体の側面図である。
【図3】本発明に係るエンドミルおよびその製造方法の一実施形態において、逃げ面の微細凹凸を示す模式図である。
【図4】本実施形態に係るエンドミルの製造方法に使用するレーザ加工装置を示す概略的な全体構成図である。
【図5】本実施形態に係るエンドミルの製造方法において、レーザビームの走査方向とレーザビームの断面形状との関係を示す説明図である。
【図6】本実施形態に係るエンドミルの製造方法において、レーザビームと加工面との関係を示す従来方法(a)と本実施形態の方法(b)との説明図である。
【図7】本実施形態に係るエンドミルの製造方法において、レーザビームの照射角度に対する設計上の加工面と実際の加工面との傾斜角ズレを示す説明図である。
【図8】本実施形態に係るエンドミルの製造方法において、レーザビームの照射角度に対する傾斜角ズレを示すグラフである。
【図9】本実施形態に係るエンドミルの製造方法において、加工前の加工面と設計上の加工後の加工面とに対するレーザビームの照射角度を示す説明図である。
【図10】本実施形態に係るエンドミルの製造方法において、加工領域を周方向に4分割して加工する工程を示す説明図である。
【図11】本実施形態に係るエンドミルの製造方法において、加工レイヤー毎の加工を示す説明図である。
【図12】本発明に係るエンドミルおよびその製造方法の実施例において、逃げ面を示す拡大画像である。
【図13】本発明に係るエンドミルおよびその製造方法の従来例において、逃げ面の切削跡を示す模式図である。
【図14】レーザビームが照射されて加工された部分の断面形状を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るcBN焼結体を用いた場合のエンドミルおよびその製造方法の一実施形態を、図1から図11を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している部分がある。
【0017】
本実施形態のエンドミル10は、図1および図2に示すように、軸線0回りに回転される工具先端部12に、一対の切刃13が先端において軸線0を挟んで互いに反対側に形成され、切刃13として上記軸線0回りの回転軌跡が略半球状をなす一対のボール刃部13aを有した2枚刃のボールエンドミルである。このエンドミル10は、超硬合金等の硬質材料により形成され先端側に小径の首部14aを有した円柱状のシャンク部14と、首部14a先端に拡散接合により接合された略円柱状のチップ部11と、で構成されている。
【0018】
上記チップ部11は、首部14aに接合される超硬合金部15と、該超硬合金部15に接合されたcBN焼結体の刃部となる工具先端部12と、で構成されている。すなわち、上記チップ部11の工具先端部12は、cBN焼結体で形成されている。
そして、このエンドミル10は、切刃13の外径が、直径2mm以下であり、工具先端部12全体がレーザ加工で形状形成されていると共に、切刃13のすくい面16側にチャンファ19(図1のハッチング部分)がレーザ加工で帯状に形成されている。
【0019】
上記切刃13は、先端側に設けられ円弧状に形成された一対のボール刃部13aと、ボール刃部13aから連続して軸線0に沿って直線状に延在する一対の外周刃部13bと、を有している。すなわち、工具先端部12は、ボール刃部13aおよび外周刃部13bからなる切刃13が形成された先端部分である。なお、ボール刃部13aの外径は、例えばR=0.5mmに設定されている。
【0020】
上記工具先端部12には、エンドミル回転方向を向く壁面に先端から基端側に向かって軸線0に沿って延びる平面状のすくい面16が形成されている。また、工具先端部12の外周面には、逃げ面17が形成されている。すなわち、レーザ加工で形状形成されたすくい面16と逃げ面17との交差稜線に、ボール刃部13aと外周刃部13bとが形成されている。
【0021】
上記逃げ面17の面粗さは、Rz(最大面粗さ)が2μm以下かつ面粗さRa(算術平均粗さ)が1μm以下である。
この逃げ面17には、図3に示すように、互いに略平行に並んで延在した多数の微細長溝M1と、隣接する微細長溝M1間に該隣接する方向に延在する多数の微細短溝M2と、からなる網目状の微細凹凸が形成されている。すなわち、逃げ面17のテクスチャーが、多数の微細長溝M1と多数の微細短溝M2とによる微細凹凸となることから、面粗さRz:2μm以下かつ面粗さRa:1μm以下が実現される。なお、微細長溝M1のピッチは、0.7〜15μmであり、微細短溝M2のピッチは、0.5〜10μmである。
【0022】
上記チャンファ19は、ボール刃部13aから外周刃部13bまで延在して一定幅で形成されている。例えば、チャンファ幅は、30〜40μmの範囲で一定に設定される。また、チャンファ19の面粗さは、少なくともRz:2μm以下、Ra:1μm以下である。
【0023】
次に、本実施形態のエンドミル10の製造方法について、図4から図11を参照して説明する。
本実施形態の製造方法に用いるレーザ加工装置21は、図4に示すように、加工対象物の工具先端部12にレーザビーム(レーザ光)Lを照射して3次元加工する装置であって、レーザビームLをパルス発振して工具先端部12に一定の繰り返し周波数で照射すると共に走査するレーザ光照射機構22と、チップ部11を接合したシャンク部14を保持して回転可能なモータ等の回転機構23と、該回転機構23が設置されて移動可能な移動機構24と、これらを制御する制御部25と、を備えている。
【0024】
上記移動機構24は、水平面に平行なX方向に移動可能なX軸ステージ部24xと、該X軸ステージ部24x上に設けられX方向に対して垂直なかつ水平面に平行なY方向に移動方向なY軸ステージ部24yと、該Y軸ステージ部24y上に設けられ回転機構23が固定されてシャンク部14を保持可能であると共に水平面に対して垂直方向に移動可能なZ軸ステージ部24zと、で構成されている。
【0025】
上記レーザ光照射機構22は、Qスイッチのトリガー信号によりレーザビームLとなるレーザ光を発振すると共にスポット状に集光させる光学系も有するレーザ光源26と、照射するレーザビームLを走査させるガルバノスキャナ27と、保持されたチップ部11の加工位置を確認するために撮像するCCDカメラ28と、を備えている。
【0026】
このレーザ光照射機構22により出射されるレーザビームLは、シングルモードでありビーム断面の光強度分布がガウシアン分布となっていると共に、図5に示すように、集光点においてビーム断面の光強度分布が楕円形状となっている。
また、レーザ光照射機構22は、レーザビームLの走査方向を、楕円形状である上記光強度分布の長軸方向または短軸方向に一致させている。これは、レーザビームLの走査方向が、上記光強度分布の長軸方向または短軸方向に一致せずに長軸または短軸に対して傾いた方向であると、走査終端部分の加工形状が傾いてズレが生じてしまうためである。なお、本実施形態では、レーザビームLの走査方向を、上記光強度分布の短軸方向に一致させている。
【0027】
上記レーザ光源26は、190〜550nmのいずれかの波長のレーザ光を照射できるものが使用可能であり、例えば本実施形態では、波長355nmのレーザ光を発振して出射できるものを用いている。
上記ガルバノスキャナ27は、移動機構24の直上に配置されている。また、上記CCDカメラ28は、ガルバノスキャナ27に隣接して設置されている。
【0028】
このレーザ加工装置21を用いてエンドミル10を作製するには、レーザビームLを照射して工具先端部12全体を形状形成する(三次元レーザ加工工程)。この際、図6から図10に示すように、加工前形状と設計上の加工後形状との両方において加工面に対するレーザビームLの角度を50°未満に設定してレーザビームLを照射する。特に、逃げ面17を形成する際に、レーザビームLの角度を50°未満に設定する。
【0029】
すなわち、図6の(a)に示すように、工具先端部12を周方向に2分割してレーザ加工する場合、周方向の端部では、加工面29に対するレーザビームLの角度θが50°以上になってしまう。この場合、レーザビームLのビーム断面の光強度分布がガウシアン分布を有しているため、図14に示すように、レーザビームLの中心ほど強度が高く、レーザビームLの中心ほど深く加工されると共に周辺ほど浅く加工され、レーザ照射した加工部分5の側面に一定の傾斜が生じて加工形状がだれてしまう。
【0030】
すなわち、図7に示すように、形状形成しようとする加工面29aの傾斜角度θ2と実際にレーザビームLで加工して形状形成した加工面29bの傾斜角度θ3とは、レーザビームLが大きく傾いて照射されると傾斜角度にズレが発生してしまう。この現象は、図8に示すグラフからわかるように、形状形成しようとする加工面29aに対するレーザビームLの照射角度が50°以上になると顕著に生じて、傾斜角度が大きくずれる。
【0031】
このため、本実施形態では、図9に示すように、加工前形状の加工面29cと設計上の加工後形状の加工面29dとの両方に対するレーザビームLの角度θ4および角度θ5を、50°未満に設定してレーザビームLを照射する。また、レーザビームLの角度θ4および角度θ5を、50°未満に設定するため、図6の(b)および図10に示すように、工具先端部12を周方向に4分割(領域A〜Dに分割)してレーザ加工を行う。
【0032】
すなわち、工具先端部12を周方向に4分割したうちの1つの領域だけでレーザビームLを走査することで、この加工領域内ではどの加工面に対してもレーザビームLの角度θが50°未満となる。したがって、図10に示すように、レーザビームLの照射方向と照射される加工面とのなす角度が、常に適切な角度範囲(θ<50°)になるように、回転機構23を用いて工具先端部12を、軸線0を中心に90°毎4回分割回転させて加工を行う。なお、本実施形態では、レーザビームLがチップ部11の軸線0方向に沿って走査される。
【0033】
また、本実施形態では、レーザビームLの走査を行う際に、図11に示すように、走査プログラム上、複数の加工レイヤー30を積み重ねて設定することで、各加工レイヤー30に対してレーザビームLを垂直に照射し、加工レイヤー30毎に所定部分を除去して、三次元形状の加工面29(逃げ面17やチャンファ19など)を形成していく。すなわち、レーザビームLの走査制御において、まず加工対象物のチップ部11をレーザビームLの照射方向に積層された複数の加工レイヤー30に分けて設定する。
【0034】
そして、加工前の形状と設計上の加工後形状とから加工除去する部分を、加工レイヤー30毎に設定し、加工レイヤー30毎にレーザビームLを走査して所定部分を除去することで、逃げ面17等の所定の加工面29を形成していく。この加工方法では、加工レイヤー30の分解能(厚さ)と加工レイヤー30自体の平滑さとが加工後の面精度(RzやRa等)を律することになる。なお、本実施形態では、面粗さが、少なくともRz(最大面粗さ):2μm以下、Ra(算術平均粗さ):1μm以下となるように加工レイヤー30の分解能等が設定される。
【0035】
この製造方法によりレーザ加工した面は、図3に示すように、互いに略平行に並んで延在した多数の微細長溝M1と、隣接する微細長溝M1間に該隣接する方向に延在する多数の微細短溝M2と、からなる網目状の微細凹凸が形成された面粗さが小さく高い面精度の加工面となる。
【0036】
このように本実施形態のエンドミル10では、切刃13の外径が直径2mm以下の小径エンドミルであり、工具先端部12全体がレーザ加工で形状形成されていると共に、工具先端部12の外周面に逃げ面17がレーザ加工で形状形成され、該逃げ面17の面粗さRzが2μm以下かつ面粗さRaが1μm以下であるので、力学的な負荷が掛らないレーザ加工により、小さい面粗さで高い面精度の逃げ面17が工具先端部12に一体形成されている。
【0037】
すなわち、従来の砥石による加工で多数の溝状の切削跡が生じた逃げ面に比べて、本実施形態のエンドミル10は、レーザ加工による小さい面粗さおよび高い面精度の逃げ面17を有しているので、小径のエンドミルにおいて、高い切りくず排出性能を得ることができる。
また、平板状チップを工具本体にロウ付けするのではなく、切刃13を含む工具先端部12全体をレーザ加工で形状形成するので、直径2mm以下の小径の工具先端部12が容易にかつ高精度に得られる。
【0038】
また、逃げ面17に、互いに略平行に並んで延在した多数の微細長溝M1と、隣接する微細長溝M1間に該隣接する方向に延在する多数の微細短溝M2と、からなる網目状の微細凹凸が形成されているので、従来の一定方向に多数延在する溝状の切削跡に比べて凹凸が小さくなり微細化されるため、面粗さがさらに小さくなり、より安定した切りくず排出性能を得ることができる。
さらに、工具先端部12のうち少なくともボール刃部13aがcBN焼結体で形成されているので、耐摩耗性に優れて高寿命であり、優れた切削性能を有する小径ボールエンドミルとして、高硬度鋼の仕上げ加工等に好適である。
【0039】
本実施形態のエンドミルの製造方法では、三次元レーザ加工工程で、少なくとも逃げ面17を形成する際に、加工前形状と設計上の加工後形状との両方において加工面29に対するレーザビームLの角度を50°未満に設定してレーザビームLを照射するので、小さい面粗さかつ高寸法精度で逃げ面17を形成することができる。
したがって、本実施形態の製造方法では、逃げ面17の寸法精度を±2μm以内、面粗さをRz:2μm以下、Ra:1μm以下とすることが可能である。
【実施例】
【0040】
次に、上記本実施形態のエンドミルの製造方法により実際に作製したエンドミルの実施例について、逃げ面を拡大した写真画像(350倍の拡大画像)を、図12に示す。
この画像からわかるように、本実施例のエンドミルの逃げ面は、互いに略平行に並んで延在した多数の微細長溝と、隣接する微細長溝間に該隣接する方向に延在する多数の微細短溝と、からなる網目状の微細凹凸が形成されていると共に、面粗さRzが2μm以下、Raが1μm以下であった。
【0041】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0042】
例えば、上記実施形態では、本発明をボールエンドミルに適用したが、ラジアスエンドミル等の他のエンドミルに適用しても構わない。
また、ボール刃部および外周刃部が形成された工具先端部全体をcBN焼結体で形成し、ボール刃部および外周刃部の両方をcBN焼結体で形成しているが、軸線方向において先端からボール刃部の基端までの部分をcBN焼結体で形成し、ボール刃部の基端から外周刃部の基端までの部分を超硬合金で形成した工具先端部とするなど、cBN焼結体、焼結ダイヤモンド、超硬合金とのこのような組み合わせをしても構わない。また、工具先端部全体を、焼結ダイヤモンドまたは超硬合金で形成しても構わない。
【符号の説明】
【0043】
1,10…エンドミル、11…チップ部、12…工具先端部、13…切刃、13a…ボール刃部、13b…外周刃部、16…すくい面、17…逃げ面、29,29a,29b,29c,29d…加工面、L…レーザビーム、0…チップ部の軸線、M1…微細長溝、M2…微細短溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転される工具先端部に、少なくとも一対の切刃が先端において前記軸線を挟んで互いに反対側に形成されてなるエンドミルであって、
前記切刃の外径が、直径2mm以下であり、
前記工具先端部全体がレーザ加工で形状形成されていると共に、前記工具先端部の外周面に逃げ面がレーザ加工で形状形成され、該逃げ面の面粗さRzが2μm以下かつ面粗さRaが1μm以下であることを特徴とするエンドミル。
【請求項2】
請求項1に記載のエンドミルにおいて、
前記逃げ面に、互いに略平行に並んで延在した多数の微細長溝と、隣接する前記微細長溝間に該隣接する方向に延在する多数の微細短溝と、からなる網目状の微細凹凸が形成されていることを特徴とするエンドミル。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエンドミルにおいて、
前記切刃として前記軸線回りの回転軌跡が略半球状をなすボール刃部を有したボールエンドミルであり、
前記工具先端部のうち少なくとも前記ボール刃部がcBN焼結体、焼結ダイヤモンド、超硬合金のいずれかまたはその組み合わせで形成されていることを特徴とするエンドミル。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のエンドミルを製造する方法であって、
ビーム断面の光強度分布がガウシアン分布であるレーザビームを照射して前記工具先端部全体を形状形成する三次元レーザ加工工程を有し、
該三次元レーザ加工工程で、少なくとも前記逃げ面を形成する際に、加工前形状と設計上の加工後形状との両方において加工面に対する前記レーザビームの角度を50°未満に設定して前記レーザビームを照射することを特徴とするエンドミルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図8】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−6135(P2012−6135A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146990(P2010−146990)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】